頑張りとは、報われるべき願いである   作:ババネロ

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今回もよろしくお願いします。




Area-13「セントラルタワー35階 #天才 #理想と現実 #鍵」

「本当に申し訳なかった」

 

 エリドゥ、セントラルタワーの正面ロビー内を占拠した先生はC&Cの手によって助け出されたエンジニア部の三人から頭を下げられていた。

 

「ウタハが気にすることじゃないよ。三人とも無事でよかった」

 

 だが、デカグラマトンに操られ、先生たちを襲撃してしまったウタハたちに罪などなく、先生は気にしてはいなかった。

 

「で、ですがっ!先生、お顔に…!」

 

「あぁ、これ?額をちょっと切っただけだから」

 

 生徒を救う代償として、先生は額を破片で切ってしまい、頭に包帯を巻いていた。コトリは操られていたがおぼろげに残る記憶で、自身が放った攻撃による余波で先生が傷ついたことに深く心を痛めていたが、先生は本当に大したことはないと全く気にする素振りをしていなかった。

 

「コトリ、別にこんなのね、唾つけとば治るって」

 

「………先生……」

 

「(そこで説明しましょう、って言わないあたり本気で参ってるね)」

 

 銃を撃って血を流すということはキヴォトス内では高頻度で出くわす場面ではなく、コトリがショックを強く受けていることに先生は逆に申し訳なさを感じつつ、彼女にできるのはいつも通り、なんともないと振る舞うだけだ。

 

 先生は座っていた装甲トラックのタラップから立ち上がり、コトリに近づくと頭を優しく撫でる。

 

「コトリのせいじゃないよ。これはね、あのタコ野郎のせいなんだ」

 

「あはっ、ご主人さま、リーダーと同じこと言ってる!」

 

「ネルも?だろうね」

 

 アスナに言われて、先生は図らずもネルと同じく、ホドをタコと形容したことに笑った。

 

「タコ野郎ですか…」

 

「そう。コトリ。さっきまでみんなに意志はないんだから。過ちですらないんだよ」

 

 過ち、罪ですらない。先生は言い切って、コトリに笑顔を見せる。コトリは先生の温かな手と笑顔に、目尻からじわりと涙が出る。

 

 普段から、長い説明を嫌な顔をせず聞き、それどころか気になったところは更に質問して、議論までしてくれる先生の優しさをコトリは強く感じていた。コトリの頬が熱くなり、僅かに顔を俯けた。

 

「ヒビキとウタハは平気かな?」

 

 先生はウタハとヒビキにも気に止む必要はないと、顔を向ける。ウタハは既に気持ちを切り替えているのか頷き、ヒビキはコトリほどではないにしろ消沈していたが、彼女は状況がそれを許していないとわかっているのか、遅れて頷く。

 

「よーし。それじゃあ状況をまた整理だね。手早く」

 

 先生は短時間であるが行動を修正するためにその場にいる生徒たちへ向けて話しを始めた。

 

「デカグラマトンが出た以上、先にアレをどうにかしなくちゃいけない。アリスには悪いけど、少し待ってもらおう」

 

 キヴォトスそのものの脅威であるデカグラマトンが出現した以上、先生は生徒たちを守るべく、シャーレとして立ち向かわなくてはならない。

 

 いつもの制服姿に着替え、サムス・イルナから降りたモモイと、その隣で待機していたユズとミドリに、優先順位の変更を先生が告げると、代表してモモイが「そりゃそうだよね」と同意する。

 

「だが先生、デカグラマトン・ホドは並の相手じゃない」

 

「カリン、前回はどうやって倒したの?」

 

「前はHUBのいた地下空間での戦闘だった。そこからジオフロントに移ったけど、狭いからホドも全力は出せてなかった。こっちから逃げることを優先してたようだから……倒したってわけじゃないんだ」

 

 カリンの話に、先生は報告を受けた内容と同じであるとわかった。そもそもデカグラマトンは今の所、遭遇した全てで破壊に至っていないことを先生は知っている。

 

 デカグラマトン・ビナーはアビドス砂漠における特異現象捜査部とアビドス廃校対策委員会、さらにこっそりカヤの命令で調査に来ていたFOX小隊の三者の攻撃を受けても撤退だけに留まっている。

 

「倒す…または撤退させることは不可能ではないだろう。エリカや聖園くんといった他校の生徒会長レベルの生徒に加えて、リオとヒマリ、C&Cまでいて、更に先生が指揮をとれる」

 

「ウタハ部長の仰る通りかと」

 

 戦力としては過剰すぎるぐらいだとウタハが言い、アカネも同意する。これはその場にいる先生を除く全員が同じ結論だった。インベイドピラーさえ気にしなければ少なくとも撤退までは確実にいけるであろうと。

 

「問題は、ホドが何故ここに来たかだ」

 

『エリドゥそのものを狙っているのでは?』

 

 ウタハの疑問に、装甲トラック内でサムス・イルナの通信装置を整備しながらコタマが答える。

 

『コタマの言う通りだとしても、なんのために、ってなるね』

 

「チーちゃんの言う通りだよ。エリドゥを乗っ取って、インベイドピラーをマスドライバーで飛ばすのか?とかは思いつくけど」

 

 サラリとウタハが言う恐ろしいプランに、先生はSFじみた話が本当にSFの類になってきたと内心思った。

 

「どういうこと?」

 

「モモ、つまり洗脳電波を飛ばす柱を成層圏から投入するってことだよ!」

 

「それやばくないマキ?」

 

『ヤバいどころじゃなくて比喩抜きでキヴォトスが滅ぶんじゃ?』

 

 モモイとマキの話にハレがおぞましい結末を言う。

 

「まさにこのエリドゥの存在理由の一つ。終末に近づいているわけだ」

 

 笑えない事実にウタハは僅かな喜色を浮かべていることに、先生はやっぱり技術者として開発物の真価が問われるとわかっているからかと、ある意味ポジティブなウタハに敵いそうになかった。

 

『笑えない話はやめて、ウタハ。先生、ホドの動機を考えるのはそこまでにして、迎撃策を考えないと』

 

「ごめんチヒロ。どちらにせよ、リオの執務室にいかないと。シッテムの箱を回収しなくちゃだからね」

 

「であれば、先生の案内は私が」

 

「ありがとう、アカネ」

 

 対策をするためにもまずはリオとの合流と、シッテムの箱──アロナとの再会をしなくてはならない。アカネが先導役を買って出たことで、先生は自然とC&Cとセントラルタワー最上階のリオがいる部屋へと向かうことになった。

 

「なら、エンジニア部とヴェリタスはここで待機して、サムス・イルナと…このプロトタイプ・アビ・エシュフだったか。共食い整備をしておく」

 

「頼むよ、ウタハ」

 

「任せてくれ」

 

 方針が決まったが、その中でゲーム開発部だけがこれから先のことを問われなかった。先生が聞かなかったのは、聞く必要がないからだ。

 

「二人とも行こう。ユズ、大丈夫?」

 

「…なんとか」

 

 ユズは背中にアリスの武器であるレールガン、スーパーノヴァを背負っていた。ただし、そのままでは持ち運ぶことなどできないため、ユズの四肢にはパワーアシストのために着用型のパワードスーツを付けていた。

 

「ユズ。アシストのバッテリー残量はそれなりにあるが、スーパーノヴァを仮に撃つとしても2発が限度だ。それ以上は駆動部が耐えられない上に、支えるのに消費されて電力が保たない。いいね?」

 

「は、はい……ウタハ先輩」

 

「いい子だ」

 

 その場にいる全員がウタハの悪い癖が出ていることに気がつきつつも、スルーする。彼女が自然体で、キザなセリフを吐く姿はミレニアム学内では日常茶飯事であり、ファンクラブが肥大化していく原因だった。

 

「それじゃあ行こうか。ホドが本格的に暴れ出す前に」

 

 先生が歩き始め、すぐに彼女の前方左右にアカネ、カリン、アスナが展開。後ろをゲーム開発部が固め、7人はロビーから駆けて行った。その姿を見届けつつ、ウタハはその場に残された2機のパワードスーツへ目を向ける。

 

「部長、実際これどうするの?」

 

「ヒビキ。軽く見た限り、サムス・イルナとアビ・エシュフは部品の共有率60%といった感じだから、共食い整備ができるね。どうにもオーバーテクノロジーが使われつつも、サムス・イルナの量産機としてコストを抑えられている」

 

「えぇっ!?サムス・イルナよりも高性能なのにですか!?」

 

「コトリ、驚くのも無理はないが、リオにこういうことをやらせたら右に出るものはいない。おそらく、アビ・エシュフは将来的に大量に量産。エリドゥとかリアルタイムにカメラを使っての演算で、誰でもトキやアカネ並の先読み回避を可能にしてるんじゃないかな」

 

 アビ・エシュフが量産機という衝撃的な事実に、エンジニア部の後輩二人は驚いていた。その話をトラックの中で聞いていたチヒロは改めて感じたことを口にした。

 

『会長はどこまで見えてるんだろうね』

 

「わからないな。だが、彼女が見えているものがなんであれ、それはもう私たちの見えるところまで来ている。世界の終末だよ。技術者なら挑戦したくなる題材だ」

 

 一歩間違えれば狂気そのものである発言に、ウタハの後輩二人は冗談ではない気持ちと、同意する気持ちがせめぎ合う。わかりやすいことに世界の終末は目に見えないウィルスなどのパンデミックではなく、明確な敵がいる。

 

「……それを倒せる武器がある」

 

「そして私たちが手を加えることができる…!」

 

 エンジニア部はホドへの復讐心を明るく燃える探究心へと変化させていた。

 

「始めようか。ホド……HUBに教えてあげよう。造物主であるミレニアムの力をね」

 

 ウタハたちの手にそれぞれの工具が握られ、沈黙している2機のパワードスーツに影が迫る。先に進んだ先生たちと同じく、残されたウタハたちも再び自身のいるべき戦場へと飛び込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 私を先頭に階段でタワー内部をそれなりに登ってきたけど、途中で階段が壊れていたので仕方なく、一度フロアに出た。今、35階で残り5階。最上階まであと少しだ。中でこんな激しい戦闘痕があるなんて。まさか、天童さんが暴れて…?

 

 いや、でも残された弾痕があのレールガンによるものじゃない。サブマシンガンと、そこそこの口径……あぁ、もしかしてこれって、あのパワードスーツと美甘さん?

 

「もしかしたら先生たちは先に行ってるかも」

 

「どういうことですか?草鞋野さん」

 

「この戦闘の跡、たぶん美甘さんとあのパワードスーツだよ」

 

「なるほど。そういうことであれば、可能性は高そうですね」

 

 明星さんも納得してくれたようだ。ミカさんとミヤコちゃんも頷いている。それなら早く上に行かないとね。

 

「非常階段はもう一つあります。そちらから行きましょう」

 

「了解です。あと少し、気を抜かないでいこう、みんな」

 

 何よりこっちは弾切れ。少しでもどうにかするために、私はミヤコちゃんのサブマシンガンを貸してもらい、ミカさんも明星さんの拳銃を借りている。ミカさんは拳銃の扱いも問題ないようだった。なんでか聞いたら、ナギサちゃんと小さい頃に武器の交換をしたりして、互いの武器を使うことができるらしい。

 

 だからハンドガンとか拳銃も使いこなせるようだ。

 

 荒れている廊下を私たちは進み、もう一つの階段がある方へと向かう。途中、天井の穴を見上げると、かなり厚いはずの上階の床材などをまるで熱線で撃ち抜いたような状態で、こんな威力を出せる武器を生身に使われたら大変なことになる。美甘さんは大丈夫なのだろうか。

 

「ミレニアムがこれほどまでの兵器を作っているとは」

 

「ミヤコちゃん?」

 

「あ、いえ。………ふと、思ったのです。SRTに向けられた視線もこうだったのかと」

 

 唐突にミヤコちゃんが言う。どういうこと?足を止めずに私が首を傾げていると、意外にもミカさんがミヤコちゃんの言わんとしてることを話してくれた。

 

「エリカちゃん。たぶんミヤコちゃんはこう言いたいんじゃないかな?誰と戦うのかわからないのに、なんでそこまでの力を持ってるのか、ってね」

 

 そういうことか。SRT解体の要因の一つであるヴァルキューレを超える潤沢な装備や練度。特にFOX小隊は大人相手に少数精鋭で任務を達成してみせた。連邦生徒会長がいなくなれば、その力は誰に向くのか。

 

 力に対する根源的な恐怖。私たち人がどうしたって切り離せないもの。

 

「聖園さんは恐ろしいですか?ミレニアムのこの力を見て」

 

「全然。だって人の作ったものでしょう?ミレニアムはキヴォトスを滅ぼそうとしてないじゃん」

 

 だけど、ミカさんのような圧倒的強者からすれば、ただの力でしかない。その力が悪意を持って使わなければ恐れることはないのだ。ミヤコちゃんはミカさんの答えに、僅かに驚いていた。

 

「ミヤコちゃん。恐れないで。私たち警察組織は、恐れてしまったら、ただの暴力になってしまうから」

 

「先輩、それは」

 

「私たちは風邪薬と同じなんだよ。予防はできない。予防をすれば、私たち自身が病魔に変わるから」

 

 ──先輩がいつか、語ってくれた言葉。私の”勘”は犯罪者でない相手に働いても、彼らが罪を犯さなければ手を出すことはしてはいけない。唯一、私が先輩に叱られたこと。正当な権限を以って、正義を下す権利。恐れて、相手が犯罪者でもないのに捕らえてもそれはただの暴力だ。

 

「なるほど。セント・シリウスの生徒会長らしい言葉ですね」

 

「え──」

 

 思わず、私は足を止めた。

 

「草鞋野先輩?」

 

 ミヤコちゃんが声をかけてくるけど、聞こえるだけで、意識はそれ以上割けない。

 

 明星さんを見る。彼女は、何故その名前を。

 

「………失言でした」

 

 つい出てしまった言葉だったのか、明星さんがバツの悪い顔をしていた。

 

 どうして彼女は知っているのか。先輩の、連邦生徒会防衛室……に入る前、科捜研を抱え、ヴァルキューレに吸収される以前の、先輩が生徒会長だった学校の名前を。

 

 何故知っている。

 

「エリカちゃん、顔がめちゃくちゃ怖いけど?」

 

「……茶化すなっ」

 

「わーお…マジギレじゃん」

 

「あっ…ごめん」

 

 落ち着け。今は先輩のことを気にしてる場合じゃない。それに、明星さんほどの人だ。私のことを警戒して、何かを調べていてもおかしくない。

 

 あと、チヒロちゃんと同級生で同じ部活。参っていた頃の私を助けようと奔走してくれていたチヒロちゃんのことを彼女は知っているはずだ。

 

「…ごめんなさい。取り乱しました。今のことは、聞かなかったことにします」

 

「こちらも失礼しました」

 

 今は忘れるんだ。私は何も聞かなかった。でないと、私は……。

 

 ミヤコちゃんの背負う人形を見る。こんなものに、縋るような真似はしたくない。死者は蘇らない。過去は変えられない。だって彼女は、私がこの手で殺したのだから。

 

「先を急ごう」

 

「あ、先輩!」

 

 切り替えるために小走りで先に向かう。ミヤコちゃんには見せたくないものだった。だから、そこだけは今、明星さんにほんの少し、怒っている。ミカさんにも、乱暴なことを言ってしまった。

 

 目的の階段へと近づく。

 

「あの扉の先がもう一つの非常階段です」

 

「わかりました。…ミカさん、一応警戒はして」

 

「りょうかーい」

 

 今更ここで待ち伏せがあるとは思えないけど、念の為用心する。

 

 扉に近づき、私はドアノブに手を伸ばそうとした。でも、嫌な予感と扉の向こうから物音が聞こえ、咄嗟に私は扉の前から飛び退いた。

 

 直後、扉が吹き飛ぶ。

 

「エイミ!!」

 

 しまった…!?なんで避けた!?避けたら明星さんたちが…!

 

 が、扉は和泉元さんと明星さんへ当たる前に、和泉元さんがショットガンを片手で抜いて速射。ドアの勢いを削いだ上で、前蹴りをして防いでいた。私は何をしている…!過去を少しほじくられただけで、護衛対象を危険に晒すとはッ。

 

 ふざけるな、草鞋野エリカ。これで何がヴァルキューレ安全局の副局長だったのか。

 

「こんなところで遭遇するとは」

 

「アリスちゃん?」

 

 ミカさんが現れた存在を呼ぶ。扉の向こうにいたのは天童さん…の姿をした恐らくはエンジニア部の部室で暴れた、天童さんの中に潜む存在がそこにはいた。

 

 赤い瞳はこちらを無機質に見ていて、でも、機械というにはずいぶんと人間臭い、表情はないはずなのに、露骨にこちらを面倒くさがっている顔をしている。

 

「……そのような名で王女を呼ばないで頂きたい」

 

「なるほど?名とはその存在を示すものです。であれば、あなたはなんですか?」

 

 明星さんがナニカに問いかける。彼女は答えてくれた。

 

「私の個体名は<Key>。王女を助ける無名の司祭たちが残した修行者であり、彼女が戴冠する玉座を継ぐ鍵──<Key>です。彼女は<王女>であり、私は<鍵>。それが私たちの存在であり、目的です」

 

「そういうことですか。ようやく全て理解できました。であれば、あなたはケイと呼ぶことにしましょう」

 

「明星ヒマリ。<王女>のデータベースに記録されている通り、こちらを理解している存在。ターゲットを変更。正面、個体名:明星ヒマリを排除します」

 

「ふふっ。思ったより人間味があるではないですか。怒っているのですか?ラベリングされてしまえば、あなたは生徒に堕ちてしまう。自白してくれてありがとうございます」

 

 何を言っているのか全くよくわからないけど、呼び名が重要みたい。とにかく、あのケイという子が天童さんのもう一つの人格みたいだ。表情はほぼないけど、確かに怒っている。うん、というか、明星さんの煽り方がすっごいね。だから余計に、さっきのは私の過剰反応だったなぁ。

 

 ケイが持っているのはどうみても生塩さんのハンドガンだけど、彼女はここにいない。ということはミヤコちゃんが背負っているロボットのもう一体と接触したってことだろうか。

 

「おや、話に聞く配下のロボットたちは呼ばないのですか」

 

 配下。おそらくはあの球体型のタイプFと呼ばれていた機体だろうか。この質問に対しての返答はケイの銃口から放たれた弾丸だけだった。

 

「部長。煽りすぎ」

 

 流石に正面からの攻撃は和泉元さんに当たらない。今度はこちらの番。ここでケイを捕らえて、調月会長の元へ連れて行き、ミヤコちゃんの背負っている体へ移せれば、ホドを倒す前に天童さんを助けられるかもしれない。

 

「アリスちゃんには悪いけど、ちょっと乱暴に行くよ!」

 

「聖園ミカ。<王女>を更にヒトへ近づけた。万死に値する」

 

「難しい言葉使わないでよ?私馬鹿だからよくわかんないし」

 

 ミカさんがケイを捉えようと掴みかかるけど、体躯の差を活かしてミカさんの手を彼女はすり抜ける。すり抜け様にケイの手にあるハンドガンがミカさんの脇腹に向けられているけど、そこで私が撃たせるわけにはいかない。

 

「させない!」

 

「させない?」

 

 ぐりん、っとケイの顔がこちらに向き、銃口もこっちに向いていた。一瞬で左手に持ち替えて…!?

 

「くっ!?」

 

 発砲される。三発連射。頭を動かしてギリギリ避ける。

 

「私は<王女>の知るようなゲームの悪役とは違います」

 

「きゃっ!?」

 

「ミカさん!」

 

 ミカさんが足払いを受け、ケイによって転ばされる。よくも!

 

 私は本気で足を動かして、追撃にミカさんの後頭部めがけて踵落としをしようとしているケイの前へと回り込み、振り上げられた右足を掴んだ。

 

「認識が追いつかない。跳躍?」

 

「このっ!」

 

 相手を押し返す。でも、ケイは飛ばされても天童さんがしないようなアクロバティックな動き。バック転をしながら、私に向けてハンドガンを連射。回避できない。なんとか腕を前にして急所は避ける。

 

「いたたたっ……結構やるじゃん」

 

「大丈夫?ミカさん」

 

「ありがとエリカちゃん。追撃されたら流石にやばかったかも」

 

「どういたしまして」

 

 ミカさんが立ち上がり、私の横に並ぶ。

 

「銃を捨て投降しなさい。さもなければ、実力を以って拘束します」

 

 サブマシンガンを向け、私がケイに向かって告げる。当然、相手は銃を下げることはない。

 

「草鞋野エリカ。脅威度を修正。……エンジニア部で戦った時とはまるで別個体のようです」

 

「元気になったからね」

 

「理解不能」

 

 どうやって捕縛しようか。今の攻防でも、かなり手こずりそうなのがわかった。天童さんの戦闘力は実際のところ、一般の生徒たち──ゲーム開発部の子たちと大きくは変わらない。それは力の強さじゃなくて戦闘経験的な意味で。

 

 だけど、目の前のケイという存在はかなり戦い慣れてる感じがする。室内戦でハンドガンなのもかなり厄介だ。

 

「あなた強いね。倒されたのなんて久しぶりかも」

 

 ミカさんが感心するかのように言う。相手は動じない。

 

「でもさ、ここから出ようとしてるんだよね?」

 

「え、どういうこと?」

 

「階段降りてきたんでしょ。君」

 

 沈黙は肯定か否定か。ケイは動じてない。

 

 けどさ、私はあの扉が吹っ飛ぶ前に音が聞こえてる。足音は、上からだった。

 

「ケイ。あなたの目的はわからない。でも、足音は上からだった。調月会長のいるであろう部屋を襲わずに降りてきたのはどうして?」

 

 カマをかける。人……とはまた違うかもしれないけど、どうしても彼女には心がありそうだ。機械というにはよく喋るし。

 

 私の問いかけに彼女は黙る。図星のようだ。

 

「まるで生まれたての子鹿のようではありませんか。取り調べで百戦錬磨の草鞋野さん相手では喋るわけにはいかないのでしょう」

 

「煽るねぇ、ヒマリちゃん」

 

「トリニティの方には及びませんよ」

 

「そんな年がら年中、私たちも皮肉言わないよ」

 

 緊張感のない会話。ミヤコちゃんは困惑してる。私もなんだかミカさんと明星さんが通じ合ってる感じがして変な感覚になる。うーん、なんだか美人な二人がこういう感じだとまるで悪役だ。ケイの姿がアリスちゃんなだけに。

 

「ところで、逃げようとしているのにここに留まるあたり、私たちを舐めているようですね。ケイ」

 

「……………」

 

 明星さんがまるで態度の悪い後輩へ嗜めるような声音で話す。ケイはたじろぐこともない。でも、どこかから抜けようと体は僅かに動いている。

 

「さきほど、あなたは自分をアリスが知っているような悪役とは違う、と言っていましたね」

 

「…………?」

 

「同じ言葉を返しましょう。逃がさない?違います。あなたはもう逃げられないのです。私に見つかった時点で。──そうでしょう、リオ」

 

「…!?」

 

 明星さんが調月会長の名前を呼ぶと、突如、扉がなくなった階段や廊下の隅から白いドローン兵器が飛び出し、ケイを四方からネット弾によって捕縛した。

 

「馬鹿な…通信はホドによってできないはずです」

 

「えぇ、通信はできないですよ。でも、強烈な指向性を持つ電波はどうでしょう」

 

「58秒前の反応はまさか」

 

「……ヒマリには一年生の時に生命の危機に瀕した場合、アラートを発信できる腕時計を渡していた。その信号を受信した」

 

 カツカツと、硬質なヒールの音を立てながら、階段からまるで先生より先生らしい姿の生徒が現れる。その背後にはボロボロの美甘さんと、少しボロボロな金髪のメイドさんを連れて。なるほど、確かにメイドさんを従えてそうな雰囲気を今は感じる。

 

 明星さんは現れた調月会長にため息をついていた。

 

「そのアラートはあなたの生命活動に危機が生じた場合に出せるはず。改造したのね」

 

「えぇ。そもそも、あなたに助けられるなんて願い下げですから」

 

「……………はぁ」

 

 ものすごく仲悪いのがこのわずかな間でわかった。私もそうだけど、ミカさんも微妙な顔をしている。

 

「まぁ、役には立ちましたよ。一年生の頃の、まだ可愛げのあったあなたには感謝しておきます」

 

「過去に言葉を届ける術はないわ」

 

「そんなだからウタハ以外に友達ができないんですよ」

 

「おう天才ども。乳くりあいなら他所でやれや。今はこのチビの身体で好き勝手やってるアホの始末が先だろうが」

 

 額にわかりやすく青筋を浮かべてブチ切れてる美甘さんはとてもカタギには見えなかった。流石に本当に怒ってる彼女を逆撫でするつもりはないのか、明星さんと調月会長はそれ以上、ふざけることはなかった。

 

 ケイを見れば、なんとか絡まったネットを千切ろうとしているけど、まったく効果がなさそう。……ん?待った。

 

「調月会長」

 

「なにかしら」

 

「このネット。まさかとは思うけど、ヴァルキューレで不採用だった強粘着ネットじゃないよね」

 

「そうよ。そもそも、この製品は私が企画して入札に参加したものよ」

 

 驚愕の事実だよ!あのなんとも使い勝手に困る装備、調月会長が作ったやつだったの!?てっきりヴァルキューレ内の発明品かと思ってた。いやでも、これは人体に使っちゃまずいやつ!夏に使った時、戦車の履帯と転輪巻き込んでもネットは切れなかったし。

 

「ならダメだよ使っちゃ!剥がすのに天童さんの体を釜茹でにする気!?」

 

「問題ないわ。改良しているもの。カカオの成分を配合した液体にひたせば溶かすことができるわ」

 

「ガムみたいだね」

 

 和泉元さんが言う通りそんなガムみたいな……まぁ、なんとかできるならいいか。

 

「で、ヒマリ。どうすんだ?このままチビをリオに返すのか?」

 

「まさか。リオ、今はこちらの月雪さんに背負ってもらっているラハムを使ってケイをどうにかできませんか?」

 

「ケイ…?」

 

「アリスの中にいる恐らくは制御AI のようなもののようです」

 

「可能か不可能か、でいえば可でしょう。ただ……」

 

「無理やりやればアリスもただでは済まない、でしょう?」

 

「えぇ。ケイ、というのね。どうかしら」

 

 調月会長がケイに声をかければ忌々しい、といった目をしていた。

 

「<王女>は今、データベースの最奥で眠っています。あなた方がそのような不出来な人形を使って私だけを抜き出そうとすれば、不可逆な結果を引き起こすでしょう」

 

「やはりね。ヒマリ、おそらくはアリスというデータの破損を引き起こす可能性が高いわ」

 

「だからあなたはこの手を取らなかったのですね」

 

「……当然よ」

 

「ふぅ。全く。少しは人を頼ればいいものを」

 

「これは私が背負うべきものよ」

 

 背負うべきもの。でも、それは本当にそうなのだろうか。

 

 調月会長は全ての責を一人で背負うつもりで、事を起こした。でも、モモイさんは言っていた。そんなのはよくないって。ミレニアム生らしくないって。

 

「ったく、この期に及んでよぉ。いい加減しろや馬鹿野郎が」

 

「ネル」

 

「止めんなヒマリ。チビのダチ、モモイが言ってたがよ。なんでお前は最初から諦めてんだよ」

 

「諦めてなどいないわ。私はただミレニアムを」

 

「それはいいんだよ。知ってる。あたしが言いたいのはお前が最初から全部後ろ向きなのがムカつくって話だ」

 

 美甘さんはただイラついて怒っているのではなく、まるで話を聞かない子供に言い聞かせるかのような雰囲気だった。

 

「後ろ向き?最悪の事態を想定するのは当たり前の話よ」

 

「それもわかってる。お前の無茶振りに死ぬほど付き合わされてんだよこっちは。リーダーまでやらされてよ。人の上に立つ以上はあたしでさえもそうだ。そこにいるバカワンコなんか警察の局の上にいたやつだ。同じように最悪は想定するだろうよ」

 

 バカワンコっていうのちょっとやめてほしい。いや、バカなのは否定しないけど。

 

「だがな、同じぐらい最高のことも考えろ。それをお前ら天才は理想だとか、夢想だとか言うけどよ。お前はなんなんだ?ミレニアムの生徒会長だろ。夢を追ってるあたしらのリーダーなんだろ?バカみてぇに古臭いロマンを見せてみろよ」

 

「理想は実現できないものよ。現実は辿り着けない理想に極力合わせるように修正していくもの。あなたはアリスのヘイローを自らの手で壊すことに耐えられるの?」

 

「壊れねぇよ。チビはそんなヤワなタマじゃねぇ」

 

 断言する美甘さんに、調月会長がわずかにたじろぐ。

 

 あ──廊下の、さっきまで私たちが進んできた別の階段の方、足音が複数聞こえる。この足音は聞き覚えがある。先生たちだ!

 

「いい加減前向け。あのタコ野郎も攻めてきて、明らかにお前のどうにかできる範疇を今は超えてる。ここには、ヒマリや先生、あたし以外のC&C、ウタハやチビの仲間たちもいる。なぁ!?」

 

 タイミングは完璧だった。先生を先頭に、ゲーム開発部の子達や室笠さんを始めとした残りのC&Cのメンバー。チヒロちゃんたちがいないけど、たぶん下で警戒をしているのかもしれない。

 

「アリス!」

 

 モモイさんがネットで雁字搦めにされている天童さん……の体を見て叫ぶ。あ、まずい。なんか勘違いしなきゃいいけど。

 

「才羽モモイ…<王女>を狂わせた張本人」

 

「じゃない!?誰、あなた」

 

 が、流石にケイが発言すれば別人だとわかったらしい。

 

「そいつはアリスの中にいたやつだとよ」

 

「名前は?」

 

「ケイですよ、モモイ」

 

「ありがとうネル先輩、ヒマリ先輩!じゃああんたがアリスを暴れさせたんだね!ケイ!」

 

 もはやケイはそれ以上喋らなかった。観念したのかもしれない。

 

「リオ、手を貸して欲しい」

 

「え?」

 

 先生はタイミングを図っていたのか、モモイさんが口を閉じたところで代わりに調月会長へ声をかけた。調月会長はまさか先生からそんな言葉が出るとは思ってなかったのか驚いていた。

 

 私も開口一番に、まさか先生が手を貸して欲しいとまで言うとは思わなかった。

 

「ホドを退けないと。このままだとエリドゥだけじゃない。ミレニアムも危ない」

 

「わかっているわ。だから、先生。あなたたちはここから出ていって」

 

「出ていって、って。……そういう自己犠牲は私、許せないかな」

 

「合理的な判断よ」

 

「リオ。周りを見てごらん」

 

 調月会長に、みんなの視線が向けられていた。私やミカさん、ミヤコちゃんとは違い、ミレニアムの子たちはみんな怒っているようにも見えた。けれど、その奥にあるのはきっとみんな同じ、まっすぐな気持ちだろうとも思った。

 

「君がこの都市を生み出した手段は確かに、褒められたものじゃない。でも、その目的は邪なものじゃないでしょう?自分たちの生徒会長が、自分たちを守ろうとしてくれている。そんな姿を見て、じゃあお願いって全てを丸投げするような子たちは、ミレニアムにいるのかな、リオ」

 

 モモイさんが一歩踏み出す。調月会長を見上げる彼女は決して、調月会長の迫力には怯まず対等にさえ見える。

 

「……ねぇ、会長。私たちはミレニアムの生徒。アリスもそう。私たちは諦めない。作りたいものがあったら自分で作るし、わからないことがあったら自分で調べる。会長はそんな私たちの会長なんでしょ?なのに、なんで諦めるの?」

 

「あなたも諦めるなどと。私は」

 

「ほんっとうにわかってないね!会長は!」

 

「お、お姉ちゃん、その人は会長さん……」

 

「関係ないよミドリ!だいたいさ、会長ってセミナーの会長なんでしょ?なんでユウカとか、ノア先輩とか頼らないの?なんで一人で、全部どうにかしようとするの?私は絶対一人でなんかゲーム制作やらないよ。シナリオ書いたらミドリにイメージとかイラスト描いてもらって、アリスにプログラム書いてもらって、ユズにディレクションもらって、生徒会もそうじゃないの?」

 

 調月会長はモモイさんに何も言い返せていなかった。

 

 話を次に引き継いだのは明星さんだった。

 

「リオ。一握りの天才が世界を動かすことなどありえません。それは私たちが一年生の頃に──この都市を夢想し、理想と思い、否定された時から変わりません。人は1人では、何もなしえない」

 

 その言葉はどうしたって私にも、きっとミカさんにも効いてしまう。

 

 

 

──1人で頑張りすぎちゃう子なのかな、あれを作った人は。

 

 

 

 晄輪大祭でアバンギャルドくんと戦った後のホシノちゃんの言葉が過った。

 

「あなたもわかっているのでしょう。でなければ、晄輪大祭のとき、ウタハを頼らなかったはずですし……そうやって趣味全開のメイドさんを侍らせていないでしょう」

 

「言い方が最悪だ」

 

 美甘さんががっくりとしながら言い放った。

 

 調月会長は……バツが悪そうにしていた。

 

「どうしたのですか?黙って」

 

「………私のしてきたことを否定、しないのね」

 

「あなたのように言うのであれば、事実を否定するのは非合理的でしょう。先ほど先生も言いましたが、あなたの目的自体は正しいのですから。ミレニアムを守る。立派なことではありませんか。……あなたをこうも褒めるのは反吐が出ますがね」

 

「そう」

 

「あなたの頑張りは、このままひとりよがりでは報われることもありません。ここはミレニアムです。これまでの偉大な先輩方の中で、一人で成果を上げたものがいましたか?」

 

「いないわ」

 

「始まりは一人でも、終われば数多の生徒が一人の夢想を現実へと変えてきたでしょう。かつての私たちは否定されて、それで終わりました。えぇ、言い方はよくありませんが、私たちは天才でしたから、凡人どもがと、思ってしまったのは事実です」

 

「……そうね」

 

「ですが、私はそのあと考えを改めましたよ。私の先を行くと言って憚らないあなたが、そんなこともわからないのに生徒会長とは呆れたものです。……天才は孤高ですが、孤独ではないのです。私にはエイミがいます。チーちゃんもいます。リオ、あなたにもいるでしょう。セミナーとC&Cが。いつからあなたは神様になったのですか?」

 

「…………」

 

「たとえ、こんな都市を作れてもあなたは一人の人間でしかありません。あなたの壊滅的なデザインセンスが一人ではどうにもできないように」

 

「怒るわよ」

 

「それはウタハに怒ってください。まだ一年生の時のことを根に持っているのでしょう?まぁ、それはどうでもいいのです。……はぁ、長々とあなたに説教をしてしまいましたがそんな義理もありませんでしたね。言いたいことは言えましたので満足です。あとは先生、お任せします」

 

「すごいぶん投げたね……」

 

 明星さんの説教だった話は終わった。本当に言い切ってすっきりしたのか、心なし明星さんは晴れやかだった。後を託された先生は苦笑いしながらも口を開いた。

 

「まぁ、纏めるとさ。頼ろうよ、リオ。君の周りにいる生徒を、みんなを」

 

「頼る……」

 

「うん。今、ここにいる生徒たちはみんな、銃を君に向けてる?」

 

 先生の言うとおり、誰も銃口を調月会長に向けていない。最初はそのつもりで乗り込んだのに。

 

「お前に言いたいことは全員死ぬほどある。ここにはいないがセミナーの連中もな。だけどよ、あたしたちは世界が滅ぶまで喧嘩するほどバカでもない」

 

「逆に力を貸してよ!ミレニアムのことを私たちだって守りたいんだから!」

 

 美甘さんとモモイさん。二人の言葉を前後からかけられて、調月会長はわずかに目を逸らす。……あぁ、本当によくわかる。この子は優しいんだ。見た目や言動は冷たくて厳しいけど、着地点はどこまでも優しくあろうとしている。そこに自分が入っていない。

 

 きっとそれが、他の人から見たら、神様みたいと思われたりしてしまう原因なんだろう。

 

「調月会長」

 

「草鞋野エリカ…」

 

 だから声をかける。ナギサちゃんが、晄輪大祭の時に私に示してくれた生徒会長としての心得を。

 

「今あなたがすべきことは戸惑い、迷うことではありません。見たとおり、ここにいるミレニアム生徒全員は今、あなたに力を貸し、貸されようとしている」

 

 たとえ神の如き技を見せたとして、調月会長はミレニアムの生徒会長だ。このキヴォトスにおいて、生徒会長はいなくてはならない存在だ。そして、このミレニアムという爆発しそうなまでに生徒一人一人が夢を持って邁進する頂点に立つということは、みんなの夢を一手に受けてもなお、その先の夢を示していく存在。

 

「胸を張り、その背中を見せ、前を征くべきです。あなたの頑張りは誰しもが否定をしていません。皆が報われるべきものだと、思っているのですから」

 

 堂々とそこに在るべし。あのとき、ナギサちゃんが伝えたかったこと。恐れずにみんなを受けとめ、進む。

 

「──……………」

 

 暫しの沈黙が流れ、調月会長は僅かに震えて俯いていた。溢れるものはなく、それでも今、調月会長が何を漏らしているのかはみんながわかったと思う。理解されない。そう思っていたのは自分だけで、本当はみんなわかっていた。

 

 それが知れた時、どんな感情になるかなんて、言わなくてもわかるよね。

 

「……全員、最上階のオペレーションルームに。ホドの対策と、ケイとアリスについて、作戦をすぐに立てるわ」

 

「よっしゃ。お前らいくぞ!」

 

 調月会長の一声で、全員が一気に動き出す。C&Cの5人は揃って、来た道を戻り出した調月会長についていき、室笠さんがケイを担いでいく。そのあとをゲーム開発部の子たちも走ってついていく。

 

 私とミカさん、そして先生はその様子を少しだけ眺めていた。

 

「ねぇ、エリカちゃん」

 

「なに、ミカさん」

 

「本当にミレニアムって、いい学校だね」

 

 シンプルな賞賛。けれども、ミカさんの短い賛辞にはどれほどの想いが込められていたのだろう。

 

「そうだね」

 

 だから私も、同じぐらいの気持ちを込めながら、短く返す。

 

 この学校はきっと、誰かの夢は自分の夢として、永久にそれが続いていく。そんな素敵な浪漫に溢れた学校なんだろう。

 

「二人とも、私たちも行こう」

 

「「はーい!」」

 

 その素敵な学校をここで終わらせはしない。私たちシャーレも、ミレニアムの生徒たちに続いた。

 

 




次回は未定です。

チェリノのぴちぴちチャイナになんかに負けっ…てもいいかなぁ
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