頑張りとは、報われるべき願いである   作:ババネロ

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またしてもお待たせしてしまいました。

決戦開始です。


Area-14「要塞都市エリドゥ #精神世界 #鍵 #戦い」

 作戦会議の結果、私たちは再び2つに班をわけることになった。先生、ゲーム開発部、明星さんと和泉元さん、そして調月会長。先生たちは天童さんの精神に入り込んで、ケイを用意した機械の体に追い出すのと、天童さんの説得を行う。

 

 人の心に直接介入するなんて信じられない技術だけど、天童さんは出自が特殊だからそういうことができるらしく、例えば私の心の中に入ることはできないとのこと。

 

 で、私はミカさんやミヤコちゃん、美甘さんたちC&Cでホドへの戦いを挑む。エンジニア部とチヒロちゃんたちヴェリタスも加勢をしてくれる。

 

「それでエリカ、勝算は?」

 

「むしろどう攻略すればいいのか知りたいぐらいだ。各務」

 

 ホドによるエリドゥ、そのシステムへの侵食はなんと先生が持つシッテムの箱によってどうにかこう着状態へ持ち込んでくれているので、対ホドチームである私たちが準備する時間ができていた。今はチヒロちゃんが乗ってきたミヤコちゃんたちも使っている装甲指揮車”レッドハウンド”の中だ。

 

 先生は私にこの班のリーダー…つまりは先生の代わりを任されたけど、困ったことにホドに対する作戦が思いつかない。もちろん、過去のミレニアムでの交戦記録は確認したし、こんな真夜中に何故か残業…?していたカヤちゃんに先生は「こっそりビナーの交戦記録持ってるよね?出して」と語尾にハートマークが見えそうな猫撫で声でお願いして、FOX小隊が何故か調査していたデータを私にくれた。

 

「その防衛室長のデータ、こっちが持ってるデータとそんなに変わらない。それにビナーとホドじゃ大型機動兵器ぐらいの共通点しかないと思うよ」

 

 チヒロちゃんが音瀬さんに指示して画面に表示してくれたデータと、手元にあるタブレット端末にあるカヤちゃんがくれたビナーのデータは戦闘力に関してはほぼ同等のデータだ。

 

 これはFOX小隊の分析力が明星さん個人に、この点は負けていないのか、それとも戦闘のプロではない明星さんがすごいのか……コメントは控えよう。

 

「各務さんだっけ?でもビームは撃つんだね、どっちも」

 

「荷電粒子砲ね、聖園さん」

 

「なんか違うの?」

 

「……ビームでいいよ」

 

 ミカさんも私の横で話を聞いてもらってるけど、まだシャーレに所属してそんなには経ってないのもあって、ミカさんも特に思いついたものはないみたいだ。ちなみに、ミヤコちゃんは車外でボロボロの美甘さんを手当してもらってる。私のことも助けてくれたし、ミヤコちゃんの応急処置は的確だ。

 

 ともかく、このままじゃ悪戯に時間を浪費するだけだ。

 

「まずは改めてホドの情報を確認したい。各務、頼めるか」

 

「わかったよ、狛犬さん。ハレ、Hubのデータを出して」

 

「了解です」

 

 私がヴァルキューレ調子に戻ってるせいか、チヒロちゃんも前みたいに狛犬さんと呼んできた。僅かな懐かしさが込み上げる。

 

 画面に新たに映し出されたのはホドによく似た超大型重機だった。

 

 タコのようにも見えるけど、それは数多の作業用アームが本体下部から伸びているからだろうか。

 

「これがHub。本来はミレニアムの地下空間で通信用の共同溝を自動で構築。広大なミレニアム校内・自治区内の通信網を整備するミレニアムでも傑作とされたAI搭載型整備用超大型重機よ」

 

「すごいね。ミレニアムって、本当に映画の中の世界みたい。こんなロボットでインフラ整備してるなんて」

 

「……トリニティは人力、といってもそれはキヴォトスどこでも同じだな」

 

「ミレニアムの外の人はそういう反応するね。まぁ、これが何もなければありがとう、の一言で済んだんだけどね」

 

 画面が再び切り替わる。

 

「今年の4月末。突然Hubが暴走。自らをデカグラマトン・ホドと名乗り、ミレニアムタワーのシステムを乗っ取り出した」

 

「その顛末は聞いたな。セミナーとC&Cで撃退に追い込んだと」

 

「そう。結果的にはセミナーのコユキが人力でクラックに対抗。それと、洗脳電波に対してはヒマリが作ったアプリで防御。結果としてはC&Cによってホドは地中深く、キヴォトスのどこかに消えた」

 

 記録や先生が聞いた情報、それらに記された結末はチヒロちゃんの言う通り、最後はミレニアムの地下に走る建造中に放棄されたジオフロント内での戦闘後、撃退。破壊には至っていなかった。

 

「じゃああのタコさんは何でまたここに来たの?」

 

 タコさん…って言い方が少し可愛いかったけど、ホドは可愛くない。

 

 ミカさんの言う通り、相手の目的が一切わからない。単純にエリドゥを乗っ取ってどうにかしようというのか。それにしては、当初ホドが用意した布陣に違和感があった。

 

「聖園。先生がシッテムの箱を使う前の状況は覚えているか?」

 

「え、あのなんか、えいむす?ってロボットを侵食して、タワーを囲んでたやつだよね」

 

 すかさず画面がエリドゥの全体平面図に変わって、先生が状況をひっくり返す前の状態を映し出す。タワーを取り囲むように真っ赤な円が出来、それが徐々に狭まってきていた。

 

 ホドの武装は通信ケーブルを繋ぐために使用されていた無数の触手のようなアームユニットと、インベイドピラーと呼ばれる侵食波を出す柱、それとさっき言われていた機体正面に内蔵された大口径のビーム砲。

 

 このビーム砲がかなりの代物で、推測されるスペック通りならとっくにセントラルタワーは砲撃されて崩壊していてもおかしくない。しかし、ホドは初手でこれを使わなかった。

 

「これは明らかに包囲戦術だ。しかも、殲滅するためのものではなく、囲っている円内の対象を逃さずに捕らえるためのもの」

 

「ふーん。なら私たちを操ろうって?私には効かないけど」

 

 ミカさんはどういうわけかホドの侵食の影響をほぼ受けない。これは以前の支援要請の時にわかってる。私は影響受けるし、今外でパワードスーツを整備している白石さんたちも一時操られたと聞いた。

 

 といっても、私たちが狙い、と言われるとこれも違和感がある。

 

「ナギちゃんならこういうの詳しいんだけどねー」

 

「彼女が?」

 

「エリカちゃんは知ってるでしょ。ナギちゃんが人を使うの上手なの」

 

 知ってるは知ってるけど、見たことがないし、ナギサちゃんは極力暴力に訴えないから私は未だに半信半疑だ。……ミカさんが言っていることは、ナギサちゃんが戦術という面ではかなりの用兵家だということ。ただ、そんな力を振るう前に戦略、つまりは政治力で問題解決をするから、見る機会がない。

 

 ナギサちゃんらしいというか。少なくとも、ナギサちゃんがトリニティの戦車隊や砲戦隊、正義実現委員会などを直接指揮するような状況は見たくない。それはナギサちゃんが自分の力ではもう、学園を守り切れないと思った時だろうから。

 

 今は彼女のことをそんなに深く考える暇はない。けれども、ミカさんの言った通り、ナギサちゃんがいればここで指揮をとって私を十二分に使いこなしてくれただろう。

 

 でも今はそうじゃない。私がみんなを指揮しなくてはいけない。

 

「こほん。桐藤生徒会長はここにはいないよ。狛犬さん」

 

「わかっている」

 

 チヒロちゃんから釘を刺すような言われ方だ。しっかりしないと、私。

 

「目的はいずれにせよわからない。だが、こういった戦法を取ってきたということはホドの使用できる武装は制限されていると考えていい。となれば、接近戦にさえ持ち込めれば勝機はある」

 

「そうなればおっきいだけだもんね?私とエリカちゃんが全力で撃てばワンパンできたりして」

 

「楽観視はするな。だが、聖園、お前と一緒にアレに詰め寄るのは採用だ」

 

 広域への破壊兵器を使用できないなら接近してしまえば大きいだけの存在だ。アームユニットの攻撃が厄介だけど、おそらくその動きも大して早くはない。少なくともミカさんをどうにかできるとは思えないし、今の美甘さんは負傷しているとはいえ、過去の記録を見る限り被弾0だ。接近戦ならホドに遅れはとらないはずだ。

 

「大型兵器には接近戦!セオリーだね!」

 

「マキの言う通りかと」

 

「ゲームじゃないんだからね、二人とも」

 

 小塗さんと音瀬さんの話の限りではゲームではよくある話のようだ。大型の相手に接近戦というのは。

 

「確かに各務の言う通り、現実では機動性のある大型機が出る可能性もある……そもそも、既にビナーという高機動のデカグラマトンもいる。今回はホドだからというだけだな」

 

 一応言っておく。今後、更に高機動だったり空戦可能なデカグラマトンが出てくる可能性は0じゃない。

 

「ま、接近戦っていうのはわかったけど、どうやって接近するの?」

 

「聖園、そこが問題だ。あえて自分のことを棚に上げて言うが、君を無理に突撃させるのは無しだ」

 

 当たり前だがミカさんを単独で突撃させるような真似はしない。おそらく、被害を考えなければ、ミカさんは単独でデカグラマトンを相手取れるはずだ。

 

 けれども、今はミカさんの体力や隕石を呼ぶ力…たぶん魔法、だから魔力?も枯渇していて、全力の半分も出せない。飛びつつ隕石を降らせるのは一晩戦闘する倍は疲れるらしい。

 

 どうりで有翼の生徒はまず飛ばないわけだ。

 

「狛犬さん。じゃあ策はあるの?」

 

 ある、と言いたいけど、やれるかが問題だ。こちらの戦力は万全じゃない。ミカさんは全力を出せず、ミヤコちゃんは装備どころかそもそもとして指揮下の隊もいない。C&Cは美甘さんが負傷し、あのパワードスーツ使いの子…飛鳥馬さんのパワードスーツ、アビ・エシュフは中破。

 

 一ノ瀬さん、角楯さん、室笠さんの3人は中距離以上から有効打を与えることは難しい。

 

 となれば全員で接近だけど、それが簡単じゃない。いくらホドが巨体で動きが鈍いと言っても接近に気が付かれ街を壊されてしまえば道もなくなってしまう。

 

 だから、この戦いでは誰かが貧乏くじを引かなくてはならない。そして、その役目は自然とシャーレのものとなる。当然、これは正部員である私のものだ。

 

「ホドに対して脅威となる戦闘ユニットを囮に、聖園以下、C&Cと月雪で接近し、これを強襲。撃退するしかない」

 

 私の作戦を言った瞬間、私の真横と真正面から盛大なため息が聞こえた。

 

「いやそんな呆れないでよ!?」

 

 思わず叫んでしまった。でも、チヒロちゃんもミカさんも肩を落としていた。

 

「……あのね、エリカ。私、あなたとは長い付き合いだけど、毎回同じこと言われて血みどろになってるあなたを迎えに行くの、どういう気持ちなのかわかってる?」

 

「あ、あはは、それは、その」

 

「聞くところによると、ここ数ヶ月、ずっとそんな感じで他の子にも大変心配をかけてるんだって?まったく……いいご身分だね、狛犬さん」

 

 だめだ。何も言い返せない。みんなを心配させてるのは本当だ。最近はナギサちゃんの前で3度も死にかけている。チヒロちゃんの目が据わってて怖い。

 

「これはナギちゃんにいよいよ言わなきゃかなぁ」

 

「勘弁してください…」

 

 ミカさんが呆れ返った顔をしていた。ほんとにそれだけは待って。ナギサちゃんを怒らせたくない。

 

「うぅ……けど、誰かがやらないといけないし、今回は生身でやるつもりないから!」

 

「どういうこと、狛犬さん」

 

「あのパワードスーツを借りようと思ってるの……いや、思っている」

 

 サムス・イルナ。モモイさんたちが突入時に使用して、室笠さんたちとの交戦で小破したところを室笠さんの使っていたパワードスーツと共食い整備で白石さんたちが復旧を急いでる。

 

 単時間なら空中戦もでき、素人でも使えるようにアビ・エシュフの操縦系統を移植するらしい。だから私でも動かすぐらいはできるし、それで空から囮にして足下を疎かにしてしまおうという魂胆だ。

 

「空と地上、二正面をかける。これならいけるはずだ」

 

 私の作戦に、二人は半分ぐらい納得いってなさそうだけど、頷きはした。有効そうだと思ってくれたみたいだ。ミカさん、ほんとは話の半分もわかってないどころか全部分かった上でそこまで多くは言ってこないところがある。ただ軌道修正を大きくかけてこないときは大丈夫だと思ってくれてるってことなので、このまま話を進めよう。

 

「部隊を2つに分けるのはいいけど、地上の指揮は誰がするの?私はできないよ」

 

 え、そうなの。ミカさんに任せようと思ってたのに。おそらく、ミカさんもある程度は戦闘の指揮ができるはず。それでもしないのは……うーん、相性の問題かな。ミカさんはいざやるとなると先陣を切っていくタイプだから同じく前線で暴れ回る子ばかりならいいのかもしれない。

 

 今回はそうじゃない。美甘さんはミカさんと同じく猛将タイプって感じだけど、それ以外の子達は違う。

 

「なら、月雪に任せよう」

 

「あの後輩さん…?一年生みたいだけど、大丈夫?」

 

「問題ない。月雪の指揮能力は既に一年生のものを超えている。シンプルな戦闘指揮なら十分に実力を出せるさ」

 

「まぁ……SRTだから問題ないか」

 

 チヒロちゃんはこの今乗ってるトラックもSRTに入れるため、何度かSRTとの交流があったから力をよく知ってるので頷いていた。ミカさんもここまでの道のりで実直なミヤコちゃんを見ているおかげか異論はないようだ。

 

「あの人形と戦う前はちょっと迂闊だったけど、それ以外は冷静だもんね。FOX小隊の子達の後輩なんでしょ?」

 

「そうだ、聖園。だから問題ない」

 

 ちなみに、ミカさんはシャーレの活動をしている中でFOX小隊の交流が少しだけある。ニコちゃんとはお昼をあの定食屋さんで食べている関係上、とっくに顔見知りだ。

 

 ニコちゃんの聞き上手とミカさんの話し上手が合わさって、会うたびに楽しそうに最新のコスメの話などをしたり、トリニティ内の立場上お財布が結構厳しめなミカさんに、ニコちゃんが格安で揃えられるものを教えていたりする。

 

「聖園さんはFOX小隊を知ってるのね」

 

「うん。あなたも?」

 

「私は仕事柄ね。……って、話が脱線する。狛犬さん、概ねの方針はわかったわ。こっちも準備する。パワードスーツのことはウタハに聞いて」

 

「了解した。聖園、外のメンバーと編成を組むぞ」

 

「はーい」

 

 方針が固まったので、会議はここまでとして私とミカさんは車内を後にして、トラックが停車中のセントラルタワー前の広場へと出た。調月会長からの物資補給もあって、簡易テントや整備用の機械など、簡単な陣地となっている。

 

 そんな中、銃の整備をしていたミヤコちゃんが私に気がついて顔を上げ、駆け寄ってきた。

 

「会長!」

 

「月雪!みんなを集めてくれ、ホドへの対応を話す」

 

「了解!」

 

 ミヤコちゃんにみんなを集めるようにお願いすると、彼女は即座に動いて全員を呼び出した。その中には、これまで二度も私と戦った飛鳥馬さんもいる。思うところがないと言えば嘘となる。それでも、今は……いや、シャーレの生徒として彼女を責め立てるような真似はしたくない。

 

 ひとまず、その場で全員に作戦を話す。シンプルな囮を利用したものだから、飲み込みはみんな早かったけど、美甘さんが「お前バカなんだなやっぱり」と呆れ切っていた。

 

「無茶は承知だ。しかし、白石さん。それをあの機体は可能とするのでしょう」

 

 私の視線が白石さんたちエンジニア部の先にある白亜の機体に向く。サムス・イルナに、室笠さんが使っていたプロトタイプ・アビ・エシュフのパーツ類が組み込まれたというもの。見た目はサムス・イルナから大きくは変わっていないけれど、背中の装備はアビ・エシュフのものになっていた。

 

 白石さんは私の言葉に頷く。

 

「操作系統をアビ・エシュフのものに換装したからね。凄まじく高度に作られた操作システムだった。おそらく、どんな人が乗っても最低限の機動はできる。ここにいる私たちエンジニア部とヴェリタスを除くメンバーは誰でも戦えるはずだ」

 

「そんな無茶苦茶な性能なのか…?アカネ」

 

「はい、カリン。私の搭乗時間は10時間にも満たないものです」

 

 室笠さんが言う通りなら本当に誰でも扱えるのだろう。それで花岡さんの操作する機体と渡り合えているんだから、嘘ではないと思う。

 

「Pアビ・エシュフのバックパックを移植したから空戦も可能だ。代わりにサムス・イルナのバックパックを失ったから、ビームキャノンを左腕前腕部に移植した。機械相手だ。制限なしに撃ち込んでほしい」

 

「了解した。では、空は私、草鞋野が担当する。地上班は月雪、貴様が指揮だ」

 

「え」

 

「貴様ならできるはずだ。……あれはキヴォトスそのもの、生徒たちを脅かす災厄だ」

 

「……はっ!RABBIT1了解!」

 

「他のみんなも月雪のことを頼む」

 

「ま、SRTのお手並み拝見ってとこだな。少なくとも、応急処置の腕はかなりよかったぞ」

 

 身体中の包帯を見せてくる美甘さん。少しみんなの空気が和んだ。……というか、美甘さんは服を着替えなくていいのだろうか。ほぼ半裸のままなんだけど。

 

「よし、では全員配置に。白石さん、あの機体のことを教えてほしい」

 

「任された。5分でエースパイロット並にしてあげよう」

 

 5分で?本当にそんなこと可能なんだろうか。半信半疑のまま、私は白石さんに従って機体に向かって近づいていった。

 

 

 

 

 

 

 

「ここが……」

 

『アリスの心の中です』

 

 精神世界へと飛び込んで最初に聞こえたのはヒマリの耳を撫でるような声だった。

 

 エリちゃんたちにホドへの時間稼ぎを……いや、ネルが「倒しちまっていいんだろ」と言うので、対処をお願いして私はゲーム開発部と共にアリスの精神世界へと飛び込んだ。リオもすごいもの作るね。フルダイブ型の交感装置らしい。

 

「てっきりアリスのことだからクソゲーとか混じりあってカオスになってるかなって思ったんだけど」

 

「お姉ちゃん、流石にアリスちゃんだからってそんな」

 

 モモイがひどいことを言っている。わからなくもないけど、クソゲー以外にも様々なゲームが混ざった世界になってるかと思ったけど、今私たちの目の前に現れたのはアリスと出会ったミレニアム辺境にあるいつ放棄されたのかわからない廃都市、通称”廃墟”だ。

 

「そういえば、こんな精神にダイブできる技術があるのになんでやらなかったの?会長」

 

『リスクの問題よ。他人の精神へのダイブ…失敗すれば不可逆な現象を引き起こす可能性が高い』

 

 確かにモモイの言う通りでこんな便利な技術があればとっくにリオなら試していると思ったけど、やっぱりか、リスクがあるみたい。

 

「不可逆な現象ってなんでしょうか」

 

『よくて天童アリスの精神とダイブした生徒の精神が混ざり合うか、最悪の場合は精神崩壊を起こして生きた屍が出来上がるわ』

 

「えぇ…!?」

 

「めちゃくちゃ危ないじゃん会長!」

 

 そしてそのリスク。これもまたゲームでありがちなものだけど、現実でなってしまっては冗談じゃすまない。つまり、ここで失敗すれば私どころか生徒たちみんなが死んでしまう。僅かに体が震える。

 

 落ち着こう。私が取り乱してはいけない。モモイとミドリを撫でつつ、ユズと才羽姉妹の前へと出た。

 

「リオ、ヒマリ。今、私たちはミレニアムの廃墟にいるみたい」

 

『そのようですね。リオ、原因はわかりますか?まぁ、私はある程度推測できていますが』

 

『……一言多いのよ。ならあなたが言いなさい』

 

『は?開発者が説明しなくてどうするのですか』

 

「二人とも喧嘩しない。リオ、お願い」

 

 噂通りというか、ヒマリの言う通りリオとの仲は最悪と言っていい。しかも、どうにも二人ともかなり根が深いタイプのこじれ方をしてるっぽい。ただ、だからといって二人の仲を取り持つのも違うから、とりあえずまずは円滑に物事を進めていってもらおう。

 

『失礼したわ。現在、先生たちが飛び込んだ天童アリスの精神世界はおそらく、彼女が休眠状態でケイが表に出ているからでしょう。つまり、今の精神世界は天童アリスではなく、ケイのもの』

 

「なるほど!どうりでこんな寒い感じなんだね!」

 

 モモイの返し通り、温度はないはずなのに寒気がする空気感だ。前に来た廃墟と違い、ここにはケセドによって暴走した高性能CADシステムの方のディヴィジョンがないから、暴走するドローン兵器群や自我のないアンドロイド市民の成れ果ても見ない。

 

 いるのは本当に、アリスと、アリスの中にいたAIであるケイだけ。

 

「先生…ちょっと怖いです」

 

「私もちょっと薄ら寒さはあるよ、ミドリ」

 

 怖いのか、ミドリが私の左腕を握ってきた。これはゲームじゃない。本来なら、ゲーム開発部の子達がここまで命を張るのはありえないことだ。それでも、それを張るだけの目的がある。

 

 だから私は平常心を保つ。大人の虚勢とも言う。

 

「でも、私たちのことはミレニアム最強の天才二人が見てくれてるからね。きっと大丈夫だよ」

 

 最悪の場合は3人だけでもここから出してもらえるように、リオとヒマリには頑張ってもらおう。ここではアロナの支援も受けられない。アロナはホドと電子空間でバチバチに今はやり合ってもらってるからね。

 

 もちろん、大人のカードも使えないので、いつものようにどこかの世界のセリナにも助けはもとめられない。

 

「この感じだと、向かうべきは以前にアリスがいた場所かな?」

 

「…はい…先生」

 

 ユズが返事をしてくれる。ユズは精神世界の特性とやらをもう理解したのか、本来は背負えるはずのないアリスの光の剣を背負ってもらってる。現実でもパワーアシストで持ってきてくれていたけど、アリスにユズはこれを渡したいらしい。

 

「じゃ、進もうか」

 

 私も、ほぼ使うことのない護身用のハンドガンを久々に腰から抜いてセーフティーを外す。その様子を見ていたミドリとモモイが目を丸くしていた。

 

「えっ!?先生銃使えるの!?」

 

「そりゃもちろん。普段は絶対やらないけどね。みんなと違って私、撃たれたら一発アウトだし」

 

 アロナのスーパーパワー(本人談)があるとはいえ、私の身体能力は生徒たちに絶対に敵わないし、射撃の腕もここに来るまでそもそも銃を扱ったことがない。エリちゃんからこっそり射撃訓練は受けていたけど、私が銃を携帯しているのはキヴォトスの常識的に銃がないのはかなり恥ずかしいことらしいからだ。

 

 でも、この精神世界では頭とか吹っ飛ばされない限りは精神的に死なないらしいので、私も生徒並に死ににくいようだ。リオが言うので多分本当だと思う。

 

「かっこいいです、先生」

 

「ありがと、ミドリ」

 

 素直で可愛いなぁ、ミドリは。おっといかんいかん。

 

 意識を切り替えて、私は小走りで前へと進んだ。目指すのはこの廃墟の中心部にある地下空間。アリスが眠っていたあの玉座だ。

 

 エリちゃんよろしく先陣切ろうとしたら、モモイとミドリが自然と前に出てくれた。二人とも息が合ってて、左右で全く同じ動きをして出てくるものだからちょっとびっくりした。そんでもって足も早いんだけど、今の私は息も上がらずついていけてる。心はぴちぴちと言う証拠だなこれは。あとでみんなに言うか。

 

「前はこの時点でドローンに襲われましたけど……」

 

 ユズが静かな廃墟の中を見て言ってくる。ほんとだね。全然迎撃がない。

 

『あなたたちの周囲に異常な反応は見られないわ』

 

 リオの索敵でも同じ結果みたい。私的には助かるけど。

 

 前と変わらない廃墟の中を妨害もなくぐんぐんと進んでいく。ドローンが出現することはなく、ここにはケセドが本当にいないらしい。いたらそれはそれで危ないけどさ。

 

「妨害がないとあっという間だね。先生、見えたよ!」

 

 モモイが指を指した先に、元は高層のビルだったのかわからないけど、ボッキリと折れてしまい低層階しか残っていない廃墟中心にある建物が見えた。そういえば、連邦生徒会の資料で前に見たけど、廃墟はどういうわけかミレニアム自治区内の都市設計と区画の構造が似通ってる部分があるんだっけ?

 

 この廃れ具合からしてかなりの年月が経っているのに怖い話だ。本当になんなのだろうねここは。

 

 けれど、今はそんなことはどうでもいいんだ。

 

 エリちゃんから仕込まれたけど、当然いきなり踏み込むのは危険だ。飛び込もうとする双子を止めて、入り口際の壁へと一度向かう。

 

「先生ヴァルキューレみたいだよ?」

 

「そりゃ、先生の先生がそうだからね」

 

「草鞋野さんですか?」

 

「そうだよ、ミドリ」

 

 入り口の自動扉だった残骸から頭をゆっくりと中へと向ける。原型をとどめないほどに無茶苦茶になっているロビーだった場所も、前回訪れた時と変わらない。前回はちなみに黒服と会った時だけど、あの時はここにもドローンがわんさかいた。

 

 大丈夫そうなので、手招きして私を先頭に中へと踏み込む。警戒をして中を見渡すけど、誰もいない。

 

『先生。索敵完了しました。特に何もいません』

 

「了解、ヒマリ」

 

 銃を一旦下す。どうやらここにも襲ってくるような相手はいないようだ。

 

 地下へ降りるには崩落して、自然とスロープになっている場所から行くんだけど、それはあるかねぇ。

 

「それにしても超順調だね!こういうのって待ち構えてる側に合わせて変化したりするんじゃない?」

 

「それフラグだよモモイ!」

 

 なんかいらんこと言った気がする!いやいやそんなゲームじゃないからモモイの言った通りにはならんけど私のツッコミがマズい気がする!

 

『──!先生、ゲーム開発部!注意して!近くに反応が現れた!』

 

「おねえちゃーん!」

 

「えぇ!?私のせい!?」

 

「フラグ立てちゃうから……」

 

 流石のユズも呆れていた。いやこれは反応した私も悪い。

 

 というかここまでケイがなんもしてこなかったの、そういうお約束を知らないからだな!?

 

「──学習完了。望み通りの展開を差し上げます。才羽モモイ」

 

「出たな!悪のAI!」

 

 ほんとにきちゃったよ。ロビーの奥、暗がりからアリスと瓜二つのケイが現れた。瞳の色がアリスとは補色関係にある色だからケイだとすぐわかるね。おまけに、持っているのはアリスのものとは違う、レールガンのようなもの。

 

『スーパーノヴァMk2…!?』

 

 リオの驚いた声で、あのケイの持ってるより剣のようなレールガンの名前はわかった。あぁ、アレね。エリちゃんがエデン条約事件の時にノアが持っていたっていう。

 

「王女は頑なに、今は花岡ユズが持っている”光の剣”を私に握らせようとしません。ですので、同等の性能を持つこちらを構築、装備しました」

 

 本当にAIと自称する割にはご丁寧に解説してくれた。いやむしろ、AIだから?聞かれたら反応するしかない機械らしさってやつなのかね。まぁでも、ようやく私は新たな生徒とこうして、顔を合わせられたわけだ。

 

「やぁ、君が”天童ケイ”だね」

 

「その名称は正しくありません。私は──」

 

「いいや、君のことはケイと呼ばせてもらうよ」

 

「………」

 

 不機嫌そうな顔をできるのはAIというには人間臭すぎるねぇ。面白いと思ってしまうのはよくないけど、現実と非現実の境界に立っているような変な高揚感がある。クソほど嫌だけど、これはあの黒服共を笑えない。

 

 そして、困ったことに私の取った手段は連中のやり口そのもの。定義し、解釈を捻じ曲げ、固定する。ここが精神世界だからたぶん、現実では私が何かできるものではないけど、ケイとアリスの心の中なら、たぶん強く効果は出るはず。

 

「ケイ。アリスを解放してくれないかな」

 

「解放?王女は自ら殻に閉じこもりました」

 

 どういうこと。

 

「はぁ!?嘘言わないでよ!」

 

「いいえ、事実です才羽モモイ」

 

 アリスが自ら殻に閉じこもったって。一体何があったの。リオからはここに潜る前に、アリスは娯楽施設もある階に軟禁してたって聞いたけど。

 

「……答えて。アリスちゃんに何をしたの」

 

「何も。花岡ユズ。私は鍵であり、王女を傷つける術はありません。王女の知識を借りるのであれば、従者が主人を傷つけるとでも」

 

「……………」

 

「ユズちゃん…」

 

 こんなに怒ったようなユズを見たのは初めてかもしれない。ゲーム開発部の部長として、ユズは要所要所で責任感ある子だと思ってたけど、ここまであるとは。私もまだまだ、わかってないな、みんなのことを。

 

 銃は向けずに、私はケイへと声をかけた。

 

「君は嘘をつけない、それは間違いないかい?」

 

「嘘は負荷がかかります」

 

 なんの負荷なのかはわからないけど、間違いない。彼女は嘘をつけないようだ。

 

「じゃあ君は私たちの目的も理解しているかな?」

 

「私をラハムという出来損ないの人形に封じ込めるというものでしょう」

 

『出来損ない……』

 

 リオがショックを受けてるけど、慰めてる暇はないので後でフォローだ。

 

 ともかく、やっぱり私たちがなんでここに来たのかはわかっているみたい。なら、武器を構えてここに来たのであれば、ケイがどうしようというのかはもう、誰でもわかる。

 

「生徒の支柱は先生。あなたと理解しました。王女を人間に変えたのも先生、あなただ」

 

「そんな大層なことはしてないよ。アリスは望んで今のアリスになったんだよ」

 

「あなたを消せば、扉が開く。私が開く…最後の扉を。エリドゥ、デカグラマトン、そして、アトラハシース──全てをアーカイブし、終わらせる」

 

 一気に、捲し立てるようにケイが呪文のように言葉を流してきた。なんだかわからないけど猛烈に嫌な予感がする。

 

「意味わかんないんだけど!」

 

「モモイ、簡単だよ」

 

「どういうこと先生?」

 

「私たちがここで負ければキヴォトスはゲームオーバーってことだよ」

 

「先生も意味わかってないじゃん!」

 

「でも、わかりやすいでしょ」

 

「それはそう!」

 

 そういうこと。これまで立ち向かってきた事件と比べれば本当に今回はわかりやすい。

 

 大人の陰謀に子供たちが翻弄されたわけでもない。

 

 誰かに憎しみを植え付けられて誰かを傷つけることもない。

 

 まるで勇者の冒険譚みたいに、誰かが誰かを助けて幸せになるための物語。そういう結末になることを願うのではなく、生徒たちが手にするために私は彼女たちの背を支える。

 

「ケイ、これが終わったら話をしよう」

 

「話?不要です。先生、個体名は──」

 

「そのためにも、不慣れな先生に戦い方を教えてくれるかな?」

 

 わざと、見当外れなところに銃を撃つ。うん、ちゃんと狙った通りに外れてくれた。エリちゃんの指導の賜物だね。ケイは私が銃を撃って言葉を遮られたことに露骨に機嫌を損ねている。

 

 アリスとずっと一緒にいたんだ。アリスが変わったように、ケイ、君も影響を受けないことはできなかったんだろうね。自分の使命のために真っ直ぐすぎる。そんな印象を目の前の彼女から受けた。

 

「人間風情が──王女を犯し惑わし堕とした罪、その死を以って償え!」

 

「いやアリスに私たちそんなことしてないからっ!?」

 

 ケイがレールガンを”感情”のままに振り回し、発射する。全力で横っ飛びして回避したけど、着弾の衝撃で私は転がる。いてて、瓦礫があるから痛いって。

 

 それにしても、

 

「モモイはそんなことってナニを考えたんかなぁ〜?」

 

「変なコトなんて考えてないって!」

 

「お姉ちゃん!先生!真面目にやってください?!」

 

 たまに大人も身体を張らないとね。ここらでいっちょ、生徒と肉体言語と行こう。エリちゃん、私も頑張るから、待っててね。

 

 




やっとケイにプロトタイプノアが持ってたレールガンを持たせられました!
ノアと一緒にあのレールガンを登場させたのもこのためでした。

先生は流石に生徒相手に(仮に肉体が同等でも)どうこうできる力はほぼないです。
あとあんまり言及できる機会ないですが本作の先生はしっかりある感じです。
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