頑張りとは、報われるべき願いである   作:ババネロ

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今回で本章の話はほぼ終わりです。

いつも感想やここすき、ありがとうございます。


Area-15「エリドゥ上空 #囮作戦 #精神世界 #勇者」

 ヴァルキューレで色々な経験をしたし、シャーレに入ってから休む暇もなく色んな事件に巻き込まれたけど、今回のような状況はまた初めてだ。

 

「どうだいエリカ?」

 

「違和感はない。問題なさそうです」

 

 私は対ホド戦で囮を張るために、白石さんたちが整備してくれたパワードスーツ、サムス・イルナ改に乗り込んでいた。両足は機械に包まれるし、体はハーネスで機体とがっちり固定される。

 

 操作は室笠さんの乗っていたプロトタイプ・アビ・エシュフという、夏から向こう私がやられっぱなしの因縁がある機体の操縦系統を引っ張ってきたとのことで、私の頭につけたヘッドセットで思考による操縦となってる。つまり、ほとんど自分の体と変わらずに動かせる。

 

「すごい。思った通りに機械の腕が動く。それでも自分の腕も意識すれば別々に動かせる」

 

「機体自体の処理能力はサムス・イルナの方がコスト度外視でいい性能だからね。ソフトが良いアビ・エシュフの操作系統と噛み合わせが上手くいったみたいだ」

 

 よくわからないけど、とにかくやれそうだ。

 

 今頃、先生たちも天童さんたちを助けるために動いているはずだ。私たちも仕事を始めよう。

 

「白石さん。装備は?」

 

「あるさ。チーちゃんから君の戦闘スタイルは聞いている。といっても、これしか残ってないんだがね」

 

 白石さんが視線を向けた先には一枚の菱形のシールドと、サムス・イルナ用の大型アサルトライフル一梃が分解されたプロトタイプ・アビ・エシュフの横に置かれていた。十分。むしろ、最初にここへ来た時のような重装備は私も扱えない。

 

「問題ない。あれで行かせてもらいます」

 

「そうかい。それじゃあ、私たちは後方から支援する。支援、といっても私は君のモニターぐらいしかできないし、オペレーターはチーちゃんの方がいいだろう」

 

 チヒロちゃんのオペレートには新人時代から助けられてるので、そうしてもらえると嬉しい。なので、頷いておく。とはいえ、彼女たちエンジニア部の力がなければ私はこんな無茶もできなかった。

 

「白石さん。あなた方エンジニア部のおかげで私はこうやって無茶ができる。ありがとう」

 

「それはどういたしまして……と言っていいのか微妙だけど、君が無事に帰ってきてくれることを祈るよ。何かあったらそれこそ、いい加減チーちゃんに締め上げられそうだ」

 

「約束はできないが、善処はする」

 

「幸運を祈るよ」

 

 白石さんが駆け足で離れて、ヴェリタスのメンバーが乗っている指揮車へと乗り込んでいく。私は自分の足のようにパワードスーツを動かして、転がっていた武器を拾い、装備する。

 

 眼前のバイザーには武器を認識したことを報せる表示が出た。ハイテクだ。

 

「こちらシャーレ草鞋野だ。これより、デカグラマトン・ホドに対する撃退作戦を開始する。先生たちは今、セントラルタワーで身動きが取れない。ホドの侵攻をここで止めなければ先生たちの身も危険だ」

 

 通信をメンバー全員に繋げる。実は電子戦では既に、通信が回復したミレニアムから黒崎さんたちセミナーが頑張ってくれている。シッテムの箱とは別のエリドゥのシステムを復旧しようと試みている。もちろん、そのセミナー三人にも通信は繋げた。

 

「これより私が先行し、ホドを釘付けにする。その隙に地上班はホドに接近し、急襲しろ」

 

『こちらRABBIT1、了解。シャーレ、草鞋野補佐官。ご武運を』

 

「よし、作戦を開始するッ!」

 

 私の号令と共に、視界の隅にエリドゥの地図が表示されて、ミヤコちゃんたちの位置が表示される。今いるキャンプ地から迂回して、エリドゥの玄関口、鉄道の駅を彼女たちは徒歩で目指す。

 

 その間に私はホドを地上に露出させ、囮になる。

 

『エリカ、聞こえてる?』

 

「感度良好。各務、頼む」

 

『わかってる。いつも通りね』

 

「あぁ」

 

 機体を浮かせる。室笠さんから水に浮くような感覚をイメージして、あとは水中を流れるようにすれば上手く飛行できると聞いていた。彼女のいう通り、私は初めて、ヘリなどに頼らない形で空中に浮くという感覚を得た。

 

『推力、安定してます!』

 

『バックパックのエンジンは正常に稼働』

 

 豊見さんと猫塚さんが状況を報告してくれる。問題ないみたいだ。

 

『サムス・イルナをカタパルトに』

 

 白石さんからの指示を受けて、指揮車が牽引していた格納コンテナへと向かう。コンテナは変形していて、上に向かって2枚の板のようなものが伸びてる。そこへ、私は機体ごと乗った。

 

『カタパルト内への侵入確認。電磁カタパルト作動開始!』

 

『出力上昇、射出まで10秒』

 

 このコンテナに搭載されているのはカタパルトらしい。これで一旦私を打ち上げて、推進剤を節約しようというところだ。増槽は付けてくれてるらしいけど、何時間も飛行は無理だそうで。

 

『エリカ』

 

 射出まであと5秒というところで、チヒロちゃんが私の名前を読んだ。心配させてるもんね。

 

「大丈夫。帰ってくるよ」

 

 だから根拠のない自信で私はいつものように帰ってくることを告げた。

 

『──1、0!サムス・イルナ、射出します!』

 

 豊見さんの声と共に、強烈なGがかかって私は上空へと打ち上げられた。かなりキッツイけど、これ!?なんとか意識を保って、状況を確認。バイザーに表示されてる高度計ではそれなりに高さまで上がったみたいだ。

 

 ここからなら、エリドゥの正面にある駅が見える。不気味なまでに静けさを保ってる。あそこからまずは燻りださないと!

 

「こちら草鞋野、目標地点へ先行する」

 

 駅の方向へ向かってブースターを吹かせた。これもまたかなりのGがかかってる。なんでも、モモイさんは花岡さんの急制動の連続で降りた後に戻してしまったらしい。訓練して身体を鍛えていてもキツい。

 

 駅の上空へとあっという間に辿り着く。ミヤコちゃんたちはここまでまだ距離がある。

 

「目標地点に到達した。これよりホドに仕掛ける。──白石さん!」

 

『了解!ヒビキ、コトリ!引き寄せくんα版を起動させるんだ!』

 

『わかりました!起動します!』

 

 引き寄せくん、という白石さんのネーミングセンスマシマシな機能が豊見さんによって起動する。ホドがここに来たのは強大なエリドゥの力に引き寄せられたからというのが、調月会長の結論だ。

 

 だからそれを真似て、共食い整備で取り外して不要になったサムス・イルナのコアユニットをオーバーロードさせるまで全開で運転する。

 

 背中に積んでるのでものすごい鳴っちゃいけない高音が聞こえるけど、ホドが出てくるまで我慢だ。

 

『…………ソナーに感アリ。来ます!』

 

 音瀬さんがアンダーグラウンドソナーを使ってホドの動きを感知する。確かに、真下の少々前衛的な現代アートっぽい駅舎が揺れていた。これは出てくる。

 

『ハレ!出現タイミング計算して!サムス・イルナのバイザーに表示!』

 

『わかりました。草鞋野さん、送ります。ホドの出現まであと20秒』

 

 チヒロちゃんの指示で、小鈎さんがカウントを視界に表示させてくれた。

 

 機体の左腕を駅へと向ける。暴走しているサムス・イルナのユニットからエネルギーをビーム・キャノンにも回す。ミレニアムの技術力……というよりは調月会長、明星さん、白石さんの三人の技術力は本当に、このキヴォトスの中でも遥か先を行っている。

 

 その気になってしまえば近未来の技術で装備を固めて、ミレニアムより歴史がある周りの自治区をどうにかしてしまえるぐらいの圧倒的な力があることはわかった。けれども、そんなことは起きない。

 

 ミカさんのいう通り、人の作ったもの。扱い方を間違わなければ、力は悪さをしない。それをミレニアムの子たちは知っている。

 

 だから、この貸してもらった力で、私はみんなを助けたい。

 

『エリカっ!』

 

「発射!」

 

 駅がその地下から押しあがってきた何かによって崩落する。広がる煙の中からそれは現れた。白い装甲が目立ちながらも、オレンジ色の光がところどころに走る。うねうねと触手のようなアームユニットが飛び出し、複眼のようなセンサーが私を見上げていた。

 

 デカグラマトン。このキヴォトスを脅かす正体不明の機械生命体。

 

 そのホドに向かって、私は大出力のビームを放つ。

 

 高出力で圧縮されたビームは青白く、まるで太い一本の、光の矢のようにホドへと突き刺さる。当たったビームは装甲板の上で防がれて飛散する。

 

『サムス・イルナのコアユニット、これ以上は危険です!』

 

『エリカ!パージする!』

 

「了解」

 

 チヒロちゃんが操作して、背部についていたサムス・イルナのユニットが放棄された。それと同時にビームキャノンの射撃も終了。直撃を受けたホドの本体装甲は赤熱化して、ドロリと表面が融解しかけていた。それでも耐えられたのは驚く。こんなもの、生身に撃てば、当たった相手は消滅するレベルだ。

 

 警報が鳴った。ホドが私に対してミサイルを放った。よし、乗った!これで第一段階はクリアだ。

 

「キャノンパージ!」

 

『外した!』

 

「よし、突貫!」

 

 十数発のミサイルを確認して、こっちも大出力で発射して使い物にならなくなった左腕のキャノンをパージしながら全面に放り投げる。熱誘導なのか、何発かがビームキャノンに引き寄せられた。

 

 ミサイルがキャノンに当たり、爆発。私は盾を構えて爆炎に向かって突撃。煙を突き破ってしまえば、ホドの真上をとった形。盾を構えつつ、機体に持たせたアサルトライフルを放つ。なんて反動…!生身じゃ使えないぐらいすごい。

 

「そこは装甲が弱くなっているだろう!」

 

 まだ熱が引く前に赤熱化した部分へ弾丸を降らせれば、ホドは当然アームユニットを私に向けて伸ばしてくる。

 

「ぐぅうううっ……!」

 

 足を前にして、ブースターを点火。急停止。そこからまた横向きのブースターを点火させて突き刺すように飛んできたアームユニットを回避する。回避しながら射撃を継続。

 

 流石に距離がまだ開いているからか、アサルトライフルの弾はホドに有効なダメージを与えられていない。けど、別に問題ない。完全にホドは私を脅威と認めて、こちらに釘付けになった。

 

「ん?」

 

 アームユニットの射程は長くないのか、高度を上げれば散発的なミサイルによる攻撃だけになったと思ったら、崩れた駅を囲むように立っている4つのビル屋上から何かが展開する。

 

 あれはなんだ?

 

『対空ビーム砲が展開された!?エリカ!エリドゥの防御機構だ!』

 

「駅周りは完全に掌握されているか…!」

 

 白石さんの警告と同時に、展開された砲台から黄色のビームが何発も飛んできた。シールドを前に出して受けようと思ったけど、直感がアレは受けてはいけないと囁いて、私は再びブースターを使って小刻みに避ける。

 

『良い判断だ。あれの出力は高い。衝撃もかなりのものになるはずだ』

 

『ウタハ、止められないの?』

 

『チーちゃん、デカグラマトンに勝てるハッカーがいないと無理だ』

 

 ビームは見えるけど、生身じゃないからかえって避けるのが大変だ…!それでも、あんなものを対地射撃されたら危ない。なんとか引きつけないと。

 

 本体は厳しい、なら、砲台を狙うしかない。

 

「砲台を排除する!」

 

『無茶よ、エリカ!』

 

「なんとかする!各務!」

 

『まったく…!また…!』

 

 推力を全開、まずはホドの右前にある砲台に向けて突撃する。ビームをすれすれで避けていく感覚は心臓に悪い。正面以外からの攻撃は上手く外れてくれている。砲台自体の作動スピードはそれほどでもないみたいだ。

 

 接近戦用の装備は当然ながらないので、組みついてライフルを装甲薄い部分に撃ち込むしかない。

 

「ぎっ…!ぁああああっ!」

 

 砲塔の真横で急停止、2本ある砲身一つをサムス・イルナのマシンパワーで蹴って基部から折ると、そこへアサルトライフルをフルオートで連射。瞬く間に砲台は火を吹く。

 

「次!二つ目……ッ!?」

 

 アームユニットが私を狙って飛んでくる。回避は完全にはしきれない。避けつつも、シールドを使って受け流す。シールドはもげてしまった。

 

「だが、もらった!」

 

 もう一つの砲台、ホドの右後ろに突っ込んで、砲台正面で急制動、逆L字を描くように砲台の上を取り、そのままブースタを使って落下し、砲台を踏み潰す。踏み潰した勢いで跳ねて、アームユニットを再び避けた。

 

『脚部ユニットに損傷発生』

 

「このまま戦闘を続行する!」

 

 猫塚さんの警告を無視して、戦闘を続ける。右側の砲台を優先したのは、ミヤコちゃんとミカさんたちが取り付きやすくするためだ。

 

 ホドはこっちを見つめている。意志があるというぐらいだ。かなりのストレスを受けているはずだ。残った砲台のビームを避け、ミサイルはビルを盾にして防ぐ。こんな縦横無尽に飛べるなんて本当になんてものを開発したんだミレニアムは。

 

 けれども、引き換えに体が受けるGは尋常じゃない。内臓が持つのか、これ。

 

『推進剤の残量、残り50%です!』

 

『エリカ、地上班の到着まで後少し、頑張って!』

 

「了解!」

 

 マップを見れば、確かに地上班の位置はあともう少しでホドの足元につく。

 

 ロックアラート。左のビーム砲から。

 

「しまった…!?」

 

 一瞬思考に動きを割いたからか、回避が遅れる。サムス・イルナの左腕へビームが当たってしまい、衝撃で私は空中で大きく回転する。左腕はもげて飛んでいった。

 

 好機と攻撃が殺到する。三方向からの攻撃。ホドのミサイルが上から、アームユニットは右から、対空ビーム砲の射撃が左から。あぁ、これは地上でやられてしまえば終わりだ。でも、今は空中。

 

『エリカ避けて!』

 

「言われなくても!」

 

 下に向かって急降下。瓦礫がちらばる幹線道路のスレスレまで落ちて、ギリギリで機体を引き上げる。ミサイルは道路に突き刺さって爆発していく。

 

「もう少し付き合ってもらうぞ、ホド!」

 

 アサルトライフルを前に連射しながら、ホドに向かって突撃をかける。ホドは声にならない、軋むような叫びを上げながら、こっちへ本体正面を向けている。口が開いた。

 

『……!ホド内部に高エネルギー反応!』

 

 チヒロちゃんの警告。これはまずい。撃たないと思っていたホド本体のビーム砲をこっちに撃つつもりだ。なるほど、下に私は誘導されたらしい。

 

「機械の癖に頭が回る!」

 

 今度こそ避けられない。あんなものに当たればひとたまりもないだろう。骨が残るかも怪しい。

 

『エリカ!逃げて!』

 

 正面が真っ白に染まる。発射までもう何秒あるのか。走馬灯は流れない。だって、

 

『エリ──!』

 

 ここからは反撃の時間だから。

 

 ホドの本体が、大きく揺れる。僅かに見えた淡い光弾。サムス・イルナのアサルトライフルでは貫けなかった装甲を容易く貫いた一撃は、私にとっての、勝利の女神が降り立ったことを意味していた。

 

 放たれかけたホドのビームは衝撃を受けたためか、不発。行き場を失ったエネルギーが暴発し、ホドの本体正面の口が爆破、破壊された。

 

『RABBIT1、現着!各員、ホドに一斉攻撃!』

 

『お待たせ!近いと大きいね!』

 

『ハッ!デケェだけだ聖園!お前ら援護しろ!トドメはあたしがキメる!』

 

 ミヤコちゃんたちが間に合った。ホドは奇襲に混乱しているのか、アームユニットの動きが露骨に鈍っていた。

 

『エリカ、大丈夫!?』

 

「各務、問題ない!砲台の破壊を優先する!」

 

 地上班の援護のために、ここからは残った砲台を破壊する。推進剤の残量は40%。使い切る前に砲台を排除、地上班の援護だ。

 

「月雪!あとは頼む!こちらは周辺砲台の脅威を取り除く!間に合えば援護も考える!」

 

『了解しました!──角楯さん何か…電撃が有効?わかりました!こちらの自爆ドローンを使います!』

 

 上手くいきそうだ。ホド本体は任せよう。

 

 おそらくこちらの決着は着く。先生たちは大丈夫なのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

「ひえっ…」

 

 目の前で壁が粉々に砕け散った。ケイが大剣のようにレールガンを私に振り下ろしたのだ。

 

「のわっ!?」

 

 そこから瞬時に突き出すような動きに変わって私を刺そうとしてくる。なんとか避けた。エリちゃんから最小限の動きで避けた方が良いって言われたけど、これさぁ、エリちゃんがキヴォトスで上から数えた方が早いぐらい強いからじゃないの!?

 

 こんな状況で反撃なんてとてもできない。だから、情けないけど助けてもらうしかない。

 

「援護助けてマジで死ぬ!」

 

「ひ、光よ──!」

 

 距離を取っていたユズがバイポッドを展開して設置した光の剣で援護してくれる。流石のケイもこれを喰らうのはマズイのか、即座に私の前から大きく飛んで避ける。目の前をグワァ!っとレールガンの光弾が通り抜けていった。

 

「ミドリ!」

 

「お姉ちゃん!」

 

 ケイの着地を狙ってモモイが連射しながら突撃、そこをミドリが援護する。

 

 ミドリの弾丸は緑色に光っていて、独特の発射音が聞こえる。あれは確か特殊な弾だったはず。なんだっけ。

 

「……!?酸…!」

 

 外れた弾が壁や地面に着弾すると飛び散って僅かな煙を立てる。あぁ、そうそう。散弾ならぬ酸弾。もちろん人体にただちに有害な影響を及ぼすようなものじゃなくて、また特殊なやつのはず。

 

「当たると服が溶ける特殊弾、だよっ!」

 

「破廉恥な…!」

 

 モモイがケイの懐に飛び込んだ。私も援護、したいけど無理!これモモイに当たるわ!

 

 振り回されたレールガンをモモイは小さい体を生かして上手く避ける。そこを抜群のタイミングでミドリが援護する。ケイはレールガンという大きい得物のせいなのか、思ったよりモモイが強いからか、意外にも苦戦していた。

 

「そしてこっちは炎上弾!」

 

 モモイのアサルトライフルがピンク色の弾丸を連射する。ケイは咄嗟にレールガンで防御するけど、モモイの放った弾丸がレールガンの表面で煌めいた。

 

「これは…!?」

 

「アリスの知識、知ってるんでしょ!」

 

 飛び退くモモイ。レールガンの表面に着弾した弾丸が火を吹いて小爆発した。炎上弾、とモモイは言ってるけど、アレは超小型の低威力ナパーム弾。当たれば服が大ダメージだし、ユウカ曰くちょっと熱いらしい。

 

『思ったよりも才羽姉妹はテクニカルね』

 

『ネルの報告書に書いてありませんでしたか?コンビネーションだけならC&Cにも劣っていないと』

 

『優秀ね』

 

 天才二人の解説の通り、ほんとにモモイとミドリの連携はすごいもので、こうして見てると他校の実力者にも劣っていないように見えてくる。性格は真逆なのに、肝心な時は以心伝心の双子ですごいぞ。

 

「意外と大したことないじゃん!ミドリ!決めちゃおう!」

 

「いや流石にお姉ちゃんそれは油断しすぎ!」

 

「大丈夫だって!」

 

 あー!またモモイがフラグ立ててる!

 

「舐めるな人間!」

 

「えちょっ!?」

 

 ケイが左手にノアが持っていたものと同じハンドガンを抜いてモモイに向けた。あれは絶対避けられない。私はケイに銃を向けてモモイの援護のためにトリガーを引いた。重い反動でブレて、当たり前のように弾が外れた。咄嗟にはやっぱまだ無理かー!

 

 でも、ミドリも同時に通常弾で攻撃したからケイはモモイへの攻撃を散発的にしかできず、モモイは1、2発受けただけで済んだ。

 

「先生、ミドリ、ありがとう!」

 

「どういたしまして。でも油断しない!」

 

「ごめんなさい!」

 

 仕切り直しかな。ケイはまたこちらと距離を離した。右手にレールガン、左手にハンドガンと。アリスもできるだろう膂力を生かした無茶苦茶な形態だ。

 

「ケイ、大人しく降伏するならもうちょい穏便に話を済ませたいと先生は思うんだけどな」

 

「結末は変わりません。あなた方の死。それだけです」

 

「頑固だね」

 

「私はAIです。与えられた目標に向かい、進むのみの存在。くだらない人間のこだわりと一緒にしないでください」

 

 やべっ。またレールガンこっちに向けてる──!

 

「「させない!」」

 

 モモイとミドリが同時に射撃。ケイはそれを避けなかった。特殊弾だったせいか、アリスと同じ服が一部弾け飛ぶ。

 

「避けない!?なんで!?」

 

「避ける必要はありません。ここでは王女の身体を傷つけることがない」

 

 こっちは避けようにもあんなの防げる遮蔽物はない。動いたところで置き撃ちされておしまいだ。どうする?右にも左にも、後ろにも引けない。だったらあとは。

 

「先生。王女をかどわかした人間。ここで終わりです」

 

「先生!きゃっ!?」

 

 ケイが左手のハンドガンでユズを撃って今度は光の剣での援護を許さない。

 

 絶体絶命ってやつだ。でも、まだ私は撃たれてないし、撃たれても前は生きてた。

 

「光よ。王女を犯した罪人を貫け」

 

 君も間違いなくアリスの影響を受けまくってるというか、もうAIというのは無理なんじゃないかなぁ。

 

 逃げ場がないなら前に進め。エリちゃんならそうするはずだ。

 

「ふっ──!」

 

「なっ!?」

 

 右斜前に私は前進してケイの一撃をギリギリ…パリィした。余波で服が切れる。服どころかブラもいってないかこれ。いや、今はいいからとにかく前に進むんだ。

 

「馬鹿な!?ビームほどではないにしても、ただの人間が、生徒でもない先生が回避など!」

 

「諦めなきゃ人間なんとかなるもんさね!」

 

「なぜ笑っていられる…!?恐怖心がないのか!?」

 

 いやいや怖いよ。無茶苦茶怖い。私だって先生である前に一人のただの成人女性でしかないわけでさ。キヴォトスに来るまではドンパチなんて経験してない。それでも、私のここでの役目は大人であること、そして、みんなの前に立つ先生であること。

 

 お腹撃たれても生きてる。レールガンっていう超兵器で撃たれても恥晒すだけで済んでる。

 

「生きてるなら笑えって言うでしょ?!死ななきゃ安いの!」

 

 走りながら銃を構える。狙うのはケイの右手にあるレールガン。ここが精神世界とはいえ、完全再現してしまったのだろう。正直者のケイらしい。狙う先にあるのは、アリスが使う光の剣スーパーノヴァと同じ、緊急停止用の赤いボタン。キルスイッチ。

 

「当たれ!」

 

 動揺し、固まっているケイに向けて、私の渾身の一発は我ながら見事に、キルスイッチに直撃した。

 

「キルスイッチを…!」

 

「女は度胸!どりゃあああっ!」

 

 銃をぶん投げて私はケイに飛び掛かる。ミドリとモモイが援護して、ケイは左手の銃を構えようにも、ハンドガンはミドリの狙撃で吹っ飛ばされる。

 

「ごふっ!?」

 

 いくらケイがアリス譲りの怪力があろうと、成人女性の体重で組み敷かれたら止められない。私忙しいから痩せてるとみんな思うけどね、結構ギリギリなんよ。このスタイル維持してんの!

 

 最近はミカのおかげでお茶請け充実してるし、アカネやニコの飯が美味いからねぇ!

 

「ぐっ!離せ!」

 

「ダメ!大人しくしなさい!」

 

 意外にもケイの両手首を掴んでも私の力で押さえ込めてる。これはここが精神世界だからなのか。

 

「ケイ」

 

「いい加減、その名前で私を…」

 

「怖いのは、君のほうでしょう」

 

 なので、このまま私はケイに告げる。

 

 彼女はおそらく、アリスの中に潜んでいる間にアリスからも強く影響を受けたのだろうね。そのせいでたぶんだけど、感情を得てしまった。そもそも、感情がなければ、人のように思考をしなければ、もっとケイは簡単にやることをやっていたはず。

 

 リオやヒマリの推測ではデカグラマトンがいたから、だとは言うけど、ただの機械であればそんなことお構いなしに決められた通りの動きしかしない。

 

「私が、恐怖している?私はAI、感情なんてものは」

 

「じゃあなんで、そんなに必死な顔で、私から逃れようとしてるの」

 

 図星、という顔をケイはする。

 

『……機械や道具は用済みとなれば廃棄すればいい。ケイ、あなたが鍵だというのなら、その鍵を使い、扉を開く王女がいらないと言ったら、あなたはどうなるのでしょうね?』

 

 ヒマリが冷たく言い放つ。

 

「……関係、ありません。私が鍵であることは、王女が否定しても変わらない。私と王女が作られた目的が、使命があるのだから。王女は逃れられない」

 

『いいえ。意図的に追い込まなければアリスはその高尚な使命とやらに屈することはないでしょう。先ほどリオにカメラの映像を確認させましたが、どうやらホドに操られたノアの人形を差し向けられて錯乱したようですね、アリスは』

 

 なるほど。そういうことね。アリスが閉じこもったのはそれが原因か。自分のせいで誰かが傷つくのが嫌だ。怖いとなっていたアリスが、目の前に死体となった知人が出てくればそうもなる。

 

 アリスの情緒は幼い。

 

「ふーん。じゃあ、アリスは勘違いしてるだけなんだ」

 

「そこに…この子がつけ込んだんですね」

 

 モモイ、ミドリの言う通りだと思う。アリス自身は、まだ誰も傷つけちゃいない。

 

「ケイ。君はもう、ただのAIじゃない。自身の存在意義が脅かされ、それに恐怖して必死になるのは、人間だよ。君はもう、人間なんだ。ケイ」

 

「やめてください。私は、そんなものではない。私の存在意義は」

 

 本当に頑なだ。アリスとある意味似てるのかもしれない。まるでこれじゃあ、姉妹だ。説得は厳しいかもしれない。……私はここに潜る前に、可能であればケイと話して、説得してみたいと思っていた。それをリオとヒマリは、私が先生だからと納得はしてないけど、了解してくれた。

 

 けれど、これはダメなのかもしれない。……こうなってしまえば、強制的にリオにやってもらうしかない。私がこうして捕まえてしまえば、現実世界でアリスの横に寝かせた人型のドローンにケイを流し込める。

 

「リオ。お願い」

 

『……いいのね?』

 

「うん」

 

「待て、何を──」

 

 ケイをここから移動させる。そうしようとした瞬間だった。周りの景色が突然ブラックアウトしたと思ったら、また別の景色へと変わった。

 

「ここって…」

 

 ユズが呟く。景色はロビーから、目指そうとしていた……アリスの玉座に変わっていた。

 

「…みんな」

 

 声がした方を見れば、そこにはアリスが立っていた。かつて眠っていた玉座の前に。黒い、ドレスのような服を着て。

 

「アリス!?」

 

 モモイが駆け寄ろうとしている。でも、アリスが手で制した。

 

 私が気を抜いたからか、ケイが私を押し返し、拘束から抜け出す。

 

「っと……ごめん、抜けられた」

 

『いいえ、先生。……もうケイに、力は残されていないわ』

 

「どういうこと?」

 

『精神世界の主導権は。天童アリスに移った』

 

 あぁ、それで景色かわったのか。

 

 ケイは明らかに焦っている様子だ。

 

「王女!?何故です!?」

 

「………ケイ」

 

「何故、あなたもその名前で呼ぶのですか…!私は<Key>それ以外には」

 

「アリスは!」

 

「ッ!」

 

「アリスは………王女ではありません」

 

 ガクンと、ケイがアリスの前で崩れ落ちて、すがるようにアリスのスカートの裾を掴んでいた。アリスは、絶望してしまったと思ったけれど、違うのかな。…いや、してはいる。表情がひどく、笑っているのに暗い。

 

「モモイ、どうしてここまで来てしまったのですか?」

 

「アリスに会うために決まってんじゃん!」

 

「……アリスのせいで、危険な目に皆があってしまっています」

 

 それは違う、と私は言おうとしたけど、アリスは私に目を向けてくる。次に何を言われるのかわかっているという顔だ。

 

「ホドがここに現れたのも、アリスがいるせいです。ケイが教えてくれました。ホド、デカグラマトンの目的はアリスの身体です」

 

『アリス、どういうことですか?』

 

「ヒマリ先輩。それは、よくわかりません。ケイの考えてることはわかりません。ケイとアリスは、別の存在ですから」

 

『それがわかっているのなら、何故まだ罪の意識を持っているのかしら、あなたは』

 

「それでも、アリスの力でエリカを傷つけてしまったことはかわりないからです。そして、ケイがみんなのことを倒そうとしました。アリスは、ここからいつでもそれを止められたのに」

 

 嫌な沈黙だ。アリスは、もうとっくにみんなの中に戻ることを諦めてる。ここに出てきたのはたぶん。ただ、ケジメをつけるためだ。

 

「アリスはやっぱり、魔王でした。この姿は、魔王としての姿です。少しだけですけど、アリスとケイで出来ることを思い出しました。……アリスは、この世界を滅ぼせます」

 

「アリスちゃん…!?何言ってるの!?」

 

 ミドリが困惑するのも無理はない。……私は納得してしまった。黒服。アンタはだからアリスを欲していたんだね。世界を滅ぼすことが目的じゃなくて、おそらく、アリスという存在を使って、生み出される何かが、見たかったんだね。

 

「アリスは、みんなの中にいてはいけません。ですから、ここでお別れです。最後に会えて、嬉しかったです」

 

『……っ……まずいわ。ヒマリ、手伝いなさい』

 

『もうやっています!』

 

 え、なんだろう。何が起きた。

 

『アリス!辞めなさい!強制ログアウト処理をしようなんて!』

 

『天童アリス!このままではあなたの精神に致命的なダメージが及ぶ!よしなさい!』

 

 どうやらアリスが私たちをここから強制的に退場させようとしているらしい。うーん、ケイはこういうところがアリスに似ちゃったんだね。

 

「ここから、みんなが戦う姿を見ていました。あんなに傷ついて、痛めつけられて、同じミレニアム生同士なのに。アリスのせいです。アリスがいたから」

 

「それは違うよ、アリス。君のせいじゃない」

 

「先生。違いません」

 

「みんなはね、君のために来ているのもあるけど、それ以上に……みんな、自分自身がそうしたいと思っているんだよ」

 

「そんなことはありません」

 

「あるんだよ。アリス。だって、ミカやエリカがいい例じゃないか。もっと言えば、ミカは関係のない学校の生徒だよ。シャーレ奉仕活動をしていてもね」

 

 ミカはエリちゃんのことを助けにきたと言っていた。でも、本当にそれだけではないはずだ。

 

「確かに人は、誰かに影響される。誰かの意見に従うこともあるかもしれないし、選択の余地がないこともあるかもしれない。それでも、それでもね。今回はそうじゃない」

 

 ゲーム開発部の子達を見渡す。モモイも、ミドリも、ユズも。皆が頷き、アリスに向けて口を開いた。

 

「アリス!私は、私がアリスを助けたいからここに来たんだよ!」

 

「アリスちゃん。私もお姉ちゃんと同じだよ。私も、私がアリスちゃんを助けたいから、怖かったけど、お姉ちゃんと、ユズちゃんと、先生と…先輩たちに助けられながら、ここまで来たんだよ」

 

「モモイ、ミドリ……」

 

 ユズが私の前に出て、光の剣を床に立てた。

 

「……アリス。部長として、言わせてもらうね。そもそも、退部届も、私はもらってない。私は、頼りない部長かもしれないけど。それでもね、勝手に辞めていく部員にはちゃんと、お話をしないといけないかなって」

 

「退部、届?」

 

「うん。入部届をアリスは出してるから。……アリスちゃんはまだ、ゲーム開発部の一員。その一員が悩んでるなら、部長として、私も…力になりたい。私が、そうしたいから」

 

 ユズの顔はここからはわからない。でも、容易に想像できる。

 

 私は再びアリスに声をかける。

 

「アリス。みんな、ここにいるのは自分がそうしたいからなんだよ」

 

「………そう、したいから…」

 

「そうだよ。そしてこれは、ここだけの話じゃない。これからアリスが歩んでいく人生で、何度も、きっと今回みたいに消えちゃいたいぐらいの失敗や悩みが出てくると思う。それでも、そのときに折れずに前に進むためには自分がどうしたいか。それが大事なんだ」

 

 アリスとケイに、私は歩み寄っていく。

 

「自分が進む道は自分で決めるものだよ。アリスが本当になりたいものは何?」

 

 彼女たちの前に立って問いかける。アリスは俯く。その先にはケイがいる。ケイは私に顔を向けて、明らかな敵意と…AIのはずの彼女が浮かべるはずのない涙を目尻に浮かべていた。

 

「やめてください。王女を、王女をたぶらかすな」

 

「ケイ。私はたぶらかしてなんかいないよ」

 

 アリスへと視線を戻す。アリスは再び顔を上げていた。その表情は、堪えていたものが決壊しそうだった。

 

「アリスは……アリスは……いやです。みんなと、お別れなんてしたくないです…」

 

「うん。そうだね」

 

「怖いです。恐ろしいです。アリスが、誰かを傷つけて、誰かを悲しませてしまうのが」

 

「そっか」

 

「でも、でもっ、そう恐れるよりも、もっと、みんなと一緒にいられなくなるのが怖いです!モモイ、ミドリ、ユズ、先生っ」

 

 アリスの表情はくしゃくしゃだ。ボロボロと涙が溢れていた。

 

「アリス!」

 

 モモイは叫ぶ。

 

「アリスは、どうしたいの!?」

 

「アリスは…アリスは──!」

 

 アリスが、ケイの横を、私の横を通り過ぎて、ユズの下へ……そこに置かれている光の剣へと向かっていく。そして、掴んだ。

 

「アリスは、まだ、冒険したいです、みんなと!あの世界で!アリスは、勇者になりたいから!」

 

「よく言えたね、アリス」

 

「あ──」

 

 ユズが、アリスを抱きしめた。

 

「……したいこと、やりたいこと、なりたいもの……それを想像して、創造することができるのが、私たちの部活だよ。おかえりなさい。アリス」

 

「ユズ…ユズ…!」

 

 まるで、産声のようなアリスの鳴き声が玉座の間に響いた。

 

 ユズの目は優しくて、まるでお母さんのようだった。

 

「……ケイ」

 

 私は振り向いて、残された彼女へと声をかける。ケイは、手を床について、声も出さずに泣いていた。

 

「私は、わたしは……なんのために、そんざいしているのですか、王女が、王女がいなければ、私は、鍵は…」

 

「ケイ」

 

 もう一度呼べば、ケイは私のことをキツく睨んでいた。

 

「あなたが、あなたさえいなければ」

 

「それはどうだろうね?」

 

「なにを」

 

「私がいなくたって、アリスはきっと、勇者になってたよ」

 

「そんなことは」

 

「人は自分のなりたいものにしかなれない。なりたくもないものには、演技できても、いつかは綻びが出るから」

 

 アリスは、勇者でありたいと心の底から思っている。それはゲームのような救世主、ではなく──愚直で、まっすぐで、好きなことを全力で、諦めたくない。諦めないことが、勇者である。言ってはいないけど、きっとそう思っている。

 

 どれだけ絶望しても、それでもアリスは諦めきれずに、再び光の剣を取った。

 

「ケイ。君はまだそれもきっとわからない。君は、生まれたばかりだから」

 

「私は…AI」

 

「AIはね、人の真似はできても、人みたいに受け答えができても……自分の言葉は喋れないんだよ」

 

 自分の存在意義を脅かされる恐怖から、懇願するような真似をするだろうか。あれは模倣なんかじゃない。心の底から、怯えているから出てしまったものだろう。

 

「王女が役目を放棄した以上、私は鍵であっても意味がない」

 

「なら、別の意味を探せばいいんじゃないかな」

 

「…………意味、不明です」

 

「君がアリスの鍵であるのなら、その隣にはこれからもいないといけないわけだ。けれど、ずっとアリスの中にいても、君はただ錆びていくだけ。なら、外に出て、探してみよう。君が君であるための、意味を」

 

 もはや、ケイはアリスに備わった機能の一つではなく、ケイという一つの存在だ。

 

 だから、このまま閉じ込めておくわけにもいかない。彼女は外へと出かけるべきだ。

 

「君が鍵だと言うのなら、君は自分で考え、扉を開けることができるはずだよ」

 

「……………王女をかどわかした者たちへ、危害を加える。その可能性が0ではないとしても?」

 

「いいや、君はそんなことできないよ。それに、世界は広いんだ。キヴォトスにはね、稲妻みたいに見えない速度で動く子とか、天使とか、ビル破壊したり電車に轢かれてもピンピンしてる子とか、ヘッドショットされても平気な子とか……とんでもない子がたくさんいるんだよ。だから、誰かが問題を起こせば、誰かが止める。今回みたいにね」

 

 こんなことはこれできっと終わりじゃない。それでもその度に、私たちシャーレが手を尽くす。生徒たちの未来のために。

 

「………認めません」

 

「今はそれでもいいよ。外に出てたくさん経験して、そうしても君が、アリスを王女と呼び、ケイ自身を<Key>と呼ぶのなら、そうするといいよ」

 

「……………………………」

 

 ケイが立ち上がり、私の横を通り過ぎる。彼女の頭の上にはヘイローが浮かんでるけど、いつの間にかその形は……扉と鍵のようなものに変わっていた。

 

「王女よ」

 

「………ケイ」

 

 アリスが一度ユズから離れ、ケイと向かい合っていた。アリスの顔は、申し訳なさが溢れていた。

 

「見極めさせていただきます。王女の選択が、正しいのか」

 

 ケイの足元が青白く光る。どうやら、リオが全ての準備を終えたみたいだ。

 

「え、ケイ!?」

 

「これは…」

 

『……ケイ。いいえ、天童ケイ。あなたの全てのデータを捕捉した』

 

「調月リオ」

 

『これからあなたのデータ…いいえ、魂は機械人形ラハムへと移動する』

 

 ケイのデータの転送。リオがケイを破損せずに運ぶには時間が必要だった。そのデータの全てを捕まえてしまえば、ダンボール箱に全て詰めて移動するかのように、安全に運ぶことができる。

 

『あなたが出来損ない、と言った人形にね』

 

 めっちゃ気にしてんね!?もしかしてリオって意外と上下関係厳しいタイプなんかな!?

 

「……謝罪はしません」

 

「ケイ。それはよくありません。あちらに戻ったら会長に謝りましょう!アリスも謝る人がたくさんいるので」

 

「王女の御命令であれば」

 

 うーん、なんだろう。もうこの時点で前途多難というか。

 

 それでも、まぁ、いいんじゃないだろうか。

 

 人生、ままならないぐらい、きっとちょうどいいからね。

 

 

 

 

 

 

 

 アリスとケイが目を覚ましたのは同時だった。二人は体を起こし、互いの顔を見つめる。鏡で見たようにまるで同じな顔に、アリスは本当に現実に、ケイが現れたのだと理解する。

 

 ケイは、自らの体がアリスと比較すれば遥かに劣ったスペックであることを分析しつつ、アリスというフィルターを通さずに触れた世界に、驚きを感じていた。

 

「(情報が…完結しない。全てが、動き続けている)」

 

 出来損ない、と言い切ったケイの新たな体は、本来、人類の方舟として機能するものだ。故に、リオは──人類が生きていく上で必要な機能を可能な限り再現している。皮膚の感覚、呼吸、味覚、聴覚、視覚。機械の体に人類は耐えられない。その仮説に従い、生身と同じとなるように、作られた体は、ケイに流れ続ける時を、空気として感じさせた。

 

 気がつけば、アリスとケイの前にはリオとヒマリ、ミレニアムサイエンススクール最高の天才二人が立ち、その少し遠巻きに先生とゲーム開発部が控えている。

 

「改めて、ようこそ、天童アリス──そして、天童ケイ」

 

 リオが歓迎の言葉を二人へと告げる。

 

「ここはミレニアムサイエンススクール。数多の生徒たちが理想と夢想を追い、現実へと顕現させる学園都市」

 

 ヒマリが祝福するかのように詠う。

 

「私は調月リオ、この学園の生徒会長であり、天才よ」

 

「いいえ、私、明星ヒマリこそがこの学園最高の天才です」

 

 僅かな沈黙が流れる。それを割ったのは暑くなったのか下着姿のエイミだった。

 

「会長、部長、空気台無し」

 

「……こほん。あなたたちはこの学園の門戸を叩いた。であれば、あなたたちも夢を追うのでしょう」

 

「そして、その夢を追うのであれば、私たちも先輩として手を貸すわ」

 

「一つの手では足りなければ二つの手で、二つで足りなければ四つ、それでも足りなければいずれ千の手で。諦めなければ、いずれ夢は現実となるのですから」

 

 その言葉は生まれたばかりの二人の少女へ向けられた、祝福そのものだった。

 

 




次回はこの章のエピローグとなります。

ユズはほぼずっと精神世界ではユズクイーンモードのままです。
今回の章は大きく改変をかけましたが、この作品を書き始めた時から構想していたので、書ききれてよかったです。

次話はまたしばらくお時間ください。
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