頑張りとは、報われるべき願いである   作:ババネロ

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これにてこの章はおしまいです!
エピローグなのでかなり短めです。


Area-16「エピローグ #罰則 #眠気 #ゲーム開発」

「これはなにかしら」

 

「これはなにかしら、じゃありませんよ!会長!」

 

 エリドゥでの戦いの翌々日。実に半年ぶりにミレニアムタワー内の執務室に登校したリオはデスクの上にうずたかく積まれた書類の山を見て、なんとか声を絞り出したが、リオの横に立っていたユウカが怒りを露にした。

 

「会長が自動返信での処理を行ったもののうち、本当に会長の決済が必要な案件を差し戻し決済していただく必要があるので、用意しました」

 

 一方で、ノアは不気味なほどの微笑を浮かべて淡々とリオへと書類が何であるかを伝える。

 

「罰、ということね」

 

「えぇ。理解が早くて助かります。不明な点があれば呼んでください。書類の内容は全て記憶しています」

 

「わかったわ。ノア」

 

「はい。では、失礼します。ユウカちゃん、行きますよ」

 

「会長、わかってると思いますが機械に頼らず自分の手で、目で、しっかり処理してくださいね!」

 

 ノアとユウカが執務室から出ていき、リオはため息をついた。今回の資金横領からのエリドゥの建造に対して、リオへと降った処分は横領した資金分を自らの持つ特許の売却や今後の開発で調達することであり、額が額なだけに何年かかるかは……ユウカにより試算されたが、流石のリオも頭の片隅へと追いやるほどのものだった。

 

 むしろ、長期にわたり会長としての仕事を放置したことを考えれば、ノアとユウカからの執拗な詰問や責めは当然のことであり、まだ優しいものだったとリオは考えている。

 

「……紙の書類ね」

 

 デスクに近づき、久しぶりに見る紙の山に、リオは入学時の学園のことなど考えずに研究開発に没頭していた頃のことを思い出す。紙の束と言っていい設計図の山。そこにかけた情熱と、一人の少女のために費やした想い。その全てが、今のリオにとっては遠く、遥か過去の出来事のように思えた。

 

「これは…」

 

 まずは一枚目を手に取り、リオは目を見開く。

 

「偶然…というには出来すぎているわね」

 

 そこにあったのは、ゲーム開発部の予算増額の陳情。それは本来であれば会計のユウカが処理しても良い案件であり、リオはユウカの判断を聞き、判断を認めて決済をするだけだ。今、リオの目の前にある書類にはどういうわけかユウカの印が押されず、決済欄は陳情者である部長の「花岡」という押印以外は空欄だった。

 

 リオは書類を持ちながら、執務室の窓から広がるミレニアムの景色を眺める。つい一昨日までは世界の危機が訪れていたにもかかわらず、そんなことはまるでなかったかのように、多くのミレニアム生たちが今日もまた夢を追って駆けていた。

 

「……部員が一人増えるのだから、何かと入り用でしょう。限定的に…一部増額」

 

 書類に、リオがペンを走らせる。

 

 後に、その筆跡を見たノアは、初めてリオの感情が字に乗っていることに気が付いたという。

 

 

 

 

 

 

 

 トリニティ総合学園の敷地内、その端にある更生寮の扉をミカは静かに開いた。

 

「ただいま〜…」

 

「お帰りなさいませ。ミカ様」

 

「ナギちゃんは?」

 

 寮長はミカに聞かれ、視線を談話室へと向ける。ナギサは毛布をかけられ、ソファの上で静かに寝息を立てていた。ミカはその様子を見て、苦笑いだった。

 

「寝ちゃったんだ」

 

「えぇ。うつらうつらとされていましたので、リラックス効果のあるお茶をご用意し、お休み頂きました」

 

「そっか。寮長は寝てないの?」

 

「……不良生徒が眠るまで、私は寝れませんので」

 

「それはごめんね」

 

 悪びれる様子もないミカの言葉に寮長はため息をつきつつも、そのままの足でキッチンへと向かう。

 

「どうしたの」

 

「朝ごはんはお済みで?」

 

「まだだよ。そんな暇なかったし、事後処理は先生たちがするって言われて帰ってきたから」

 

「であれば、朝食をとってから仮眠を取りましょう」

 

「ありがと」

 

「いいえ」

 

 寮長はキッチンへと姿を消し、ミカは眠っているナギサの前に座った。

 

 朝日が僅かに差し込み、まさに眠り姫と言っていいあどけなさをナギサは見せていた。

 

「(ま、残念ながら王子様はいないけど)」

 

 ミカはナギサに、一晩のうちに起きたことは全て明かすつもりだった。政治的な目的ではなく、一人の友人として経験した冒険譚を。

 

「ま……その前に私も寝ちゃいそう…ふぁ……」

 

 ミカは小さくあくびをする。翼による飛行に加えて、その状態での魔法の行使。さらに一晩続けての戦闘はミカを持ってしても多大な消耗をさせていた。アリウス自地区での戦闘時以来は感じていなかった強い疲労に、ミカは強烈な眠気を感じずにはいられなかった。

 

「(ナギちゃん、また王子様が大変な目にあってるの知ったら、どうしちゃうのかな)」

 

 純粋な好奇心。ミカはナギサがエリカのためにどんなことをしでかすのか想像しながら、ゆっくり、ゆっくりと瞳を閉じていった。

 

「……おや」

 

 一度、何を食べたいのか聞き損ねたことに気がつき、談話室に戻った寮長は寝入ったミカを見て、微笑んだ。

 

「どうやら、また良き経験を積まれたのですね。ミカ様。……あなたの冒険譚、私も楽しみにしていますよ」

 

 寝てしまったのなら、少し時間が経ってもおいしいものにしよう。寮長はそう考えながら、再びキッチンへと戻った。

 

 

 

 

 

 

 

「朝帰りか」

 

「サキ、起きていたのですか」

 

「寝ずの番だ。忘れたのか?」

 

「……すいません、色々ありまして」

 

 ミレニアム自治区からキャンプ地に戻ったミヤコは疲労をにじませていた。

 

 ハイウェイでのカーチェイスから始まり、最後はキヴォトスそのものの危機を救ったのだ。まるでSRTの本来の活動をたった一晩に濃縮してそのままかぶったような怒涛の出来事に、ミヤコはこれが夢だったのではないかと考えもした。

 

「それは?」

 

「朝飯だ。この前、ニコ先輩がお店で持て余した米があるってくれただろ?炊いてるんだ」

 

「そうですか」

 

「食べるだろ」

 

「ありがとうございます」

 

 ミヤコはサキの隣に置かれている椅子に座った。

 

「ただの手伝いじゃなかったんだな」

 

「はい。あとで、報告はします」

 

「消耗品の報告もしてくれよ」

 

「それももちろん。ただ、ミレニアムから補填があるそうです」

 

「……ほんとに何をしてきたんだお前は」

 

 コンビニに行き、そのままシャーレの手伝いを少しするので帰りが遅れる。サキたちがミヤコからモモトークで聞いたのはそれだけだった。

 

「詳しいことはどこまで話せるかわかりません」

 

「そうか」

 

「聞かないのですか?」

 

「Need to knowなんだろ」

 

「……言ってしまえばそうです」

 

「なら、聞かない。どうせシャーレがらみなら、先生がそのうち喋るだろ」

 

 サキは忠実に、自分たちの小隊長の置かれた状況が尋常ならざるものと推察し、深くは聞かなかった。ミヤコは疲れ切った頭で、サキの気遣いを感じ、安堵から大きくあくびをする。

 

「(……今回感じた無力感。そして、キヴォトスを守ったという達成感。学ぶべきものは多かった。……今後の私たちの身の振り方も、考えるべきかもしれません)」

 

 SRTとして以前にミヤコは自身がしたいことを改めて考えていた。

 

「(けれど今は……少し……休息を……)」

 

 パチパチと焚き火の音に混じって、小動物のような寝息がサキの耳に届くようになった。

 

 子ウサギ公園の朝は、いつものように静かに始まろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

「才羽モモイ。ここは論理が破綻しています」

 

「絶対この方がいいでしょ!実は最初から全部友達ごっこでしたぁ!って」

 

 ゲーム開発部の部室内で、モモイとアリスによく似た髪を肩口までで揃えた生徒──新入部員の天童ケイが議論…には達していない言い争いをしていた。

 

「昨日、王女からインプットを指示された数百の作品のシナリオから考えれば、与える絶望感よりも驚愕が強過ぎて上塗りされ、さらには伏線の1ミリもなく脚本の都合でとりあえず敵にしましたとしか見えません」

 

「やけに具体的に言ってくれるじゃん…!」

 

「知識量があなたとは比較になりません。たかだか人間風情が調子に乗らないでください」

 

「きーっ!そっちこそAIとか言ってたじゃん!人間に楯突くわけ!?」

 

「当然です。王女より提供された資料の中にはそういったものを扱った作品もありました。人間の想像にしては悪くないものでした。当面はあの方向性を実現させるために活動しようと考えています」

 

 不敵な表情を見せるケイに、これは本気だとモモイが慄く。ケイはミレニアムサイエンススクールの一員となっても、ゲーム開発部に入部しても、ケイ自身が変わったわけではなかった。性能はアリスの体と比べるまでもない体になり、本来持っている電子戦もリオにより封じ込まれ一般的な生徒と同程度の力しか発揮できなくなったとしても、未だ使命を諦めていなかった。

 

「それはダメです!」

 

「王女」

 

 そんなケイをアリスが叱る。ケイは今、アリスには肉体面でも敵わない。アリスの言葉を無視できず、それ以上は黙った。

 

「まったくもー。辛口評価はほどほどにしてよね!」

 

「いや、お姉ちゃん。ケイちゃんのいう通りだと思うよ」

 

「ミドリがケイに取り込まれてる!?」

 

「いえ、アリスもそう思います!」

 

「アリスまで!?」

 

 モモイはじゃあユズは、と目を向けると、なんでこっちを見るのかとビクッとユズがしたが、ユズもおそるおそる口を開いた。

 

「お、おなじ、意見かも」

 

「味方がいない!?なんでぇ!?」

 

「AI風情とバカにした相手に負ける気分はいかがですか。才羽モモイ」

 

「アリス!この煽り性能なんなの!?お姉ちゃんなら妹にちゃんと教育しないと!」

 

「それはケイの性格だと思います!個性です!」

 

「絶対違う!見てよこのうちのミドリ!いい子の塊なんだから!」

 

「ケイもいい子です!今朝はアリスのために髪の毛をまとめてくれました!」

 

「私は王女の従者です。当然の役目です」

 

 元気いっぱいの部員たちを見て、ユズはただただ暖かな気持ちとなり、微笑む。問題は解決できたわけではなかった。ケイは未だに使命を果たすことを諦めていない。アリスの出自も、隠された能力も何もわからない。

 

 それでも、今、ユズの目の前にある光景は確かな現実であり、夢に向かって想像と創造を繰り返す部員たちの姿が眩しく、嬉しかった。

 

「(なんとか、なるよね)」

 

 これまでも、これからも、ユズはきっとそうだと思いながら、方向性がいよいよ迷走し、勝負をしようとレールガン”スーパーノヴァMk2”を持ち出したケイと、愛用のアサルトライフルを取り出したモモイを宥めるために席から立ち上がった。

 

 

 

 

 

 

 

「……ねぇ見て…あれエリカ様よ…」

 

「え…?あの事件の時に亡くなられたと……」

 

「違うみたいよ。ナギサ様のために大怪我をされたんですって」

 

「まぁ、まるで騎士のようですわ」

 

「もしかして騎士どころの関係じゃないのかしら」

 

 私は今、再びトリニティの制服を着て、ナギサちゃんの横に立って、ティーパーティーのテラスにいた。

 

「……ナギサ様。役員の方の視線が」

 

「あなたの役目は護衛です。無駄口は叩かないように」

 

「イエス、マム」

 

 え?なんでこんなことになってるの。ミレニアムの支援要請を終えた翌日に報告書を先生と死ぬ気で仕上げてカヤちゃん通して、七神代行に提出。仮眠して翌々日にシャーレの通常業務へと戻って、私は街中で久々に迷子とか落とし物とか細々とした支援要請を受けていたはずだ。

 

 それが昨日、突如、蒼森団長がD.U.に現れ、私は当身を食らって気絶。

 

 気がつけばナギサちゃんのセーフハウスで、ナギサちゃんと同じテーブルを挟んで座っていた。これが今朝。

 

 そして今。ナギサちゃんが外部の学校との会談のためにテラスにいるので、護衛として以前のようにひかえている。が、全く喋らせてくれないし、ティーパーティー役員からの視線が痛い。

 

 ……先生はこのことわかっているのだろうか。ほぼ拉致されたんだけど。

 

 しばらく黙って立っていると、テラスの入り口が開き、一人の役員がナギサちゃんの方へとやってくる。

 

「ナギサ様。お客様のアビドス高校 廃校対策委員会の小鳥遊委員長、同委員の十六夜氏が到着しました」

 

「通しなさい」

 

「かしこまりました」

 

 え、なんであの二人がトリニティに……?

 

 わけがわからない。私が混乱していると、ようやくナギサちゃんが私に声をかけた。

 

「エリカさん」

 

「なんでしょうか、ナギサ様」

 

「あなたには……一週間ほど、アビドス高校に行ってもらいます」

 

「………はい?」

 

 意味がわからない。誰か説明してよぉ!

 

 私の心の中の悲鳴は、虚しく響くだけだった。

 

 




お読みいただきありがとうございました。
この章は書き始めた時から考えていたもので、書ききれて嬉しかったです。
次章は肩の力を抜きつつ始めていきたいと思います。

ひとまずこれでこの章は終わりです。次章はしばらくお待ちください。

いつも感想やここすきありがとうございます。大変励みになってるので、どしどし頂けると嬉しいです。
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