頑張りとは、報われるべき願いである   作:ババネロ

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本話から新章に入ります。今回は前の章の事後処理込みの話です。

いつもここすき、感想ありがとうございます。大変励みになります。

では今回もよろしくお願いします。


第八章 平和とは、次の騒乱までの休息である
Area-01「キヴォトス各地 #会談 #休息 #最強のメイド」


 要塞都市エリドゥ上空をヘリが飛行していた。ヘリの機体側面にはSRT特殊学園所属であることを示す校章が貼られ、操縦席に座っているモエはプライベートではなく、SRTの生徒として任務を請け負い操縦しているため、彼女にしては珍しく口数が少なかった。

 

 ヘリのキャビンにある席に座っているのは防衛室長のカヤと、ミヤコ、ユキノのSRTの小隊長たちだ。

 

「……これほどの都市を生徒会長一人で……よくぞと言ったものだな」

 

「はい、七度小隊長。私も初見時は圧倒されました」

 

「誰でもそうなるだろうな。……不知火室長はいかがですか」

 

「同じですよ。流石に、ここまでのものを見せられれば、いくら私といえど、驚きを隠せませんね」

 

 余裕を崩さずにカヤは眼下に広がる近未来の都市に圧倒されていた。カヤは先生とエリカが夜鍋して作った報告書を既に読み込み、エリドゥの概要を知ってはいた。しかし、実際に見てみればとてもではないが一人の生徒が完成させたものには見えなかった。

 

 なんとか意識を機内に戻しつつ、カヤは咳払いした。

 

「コホン。月雪さん、ユキノ。今回の目的はこの都市ではありませんから、それを忘れないように」

 

 それは自身への釘刺しであったが、カヤはいつも通り、まるで二人が浮き足立っているかのように言う。ユキノはいつものことでありスルーし、ミヤコも以前にエデン条約に関わる事件で短時間とはいえ行動を共にしたおかげで、受け流すことはできた。

 

 カヤたちがこのエリドゥへとやってきた目的は都市そのものではなかった。

 

「……お、見えてきた。ご搭乗中のみなさ〜ん。左前方、報告のあった大穴だよー」

 

 気が抜けた声でモエがアナウンスする。ミヤコは注意したい衝動に駆られたが、それは後でも出来るため、窓の外へ目を向ける。ヘリの窓から広がるエリドゥの景色の中で、都市の玄関口とも言える鉄道の駅──があったはずの場所には大穴が開いていた。

 

「あれはホドの出現したという駅ですか…駅?」

 

 原型を止めていない駅の姿にカヤは首を傾げた。残っているのは巨大な空洞と、粉々に吹き飛んだ建造物の跡である。

 

「室長。一昨日、私が交戦した際にはあの場所からホドが出現しました」

 

「報告でわかっていますよ、月雪さん。わかってはいますが」

 

 カヤはわかってはいたが、いざ本当にデカグラマトンによって破壊された都市を見て、彼女は言葉を失っていた。カヤの脳裏には最悪の想像が過ぎる。もし、エリドゥが無人ではなく人の住む都市であったら?もし、それで犠牲が出れば?

 

 責任を取り、済む話ではない。デカグラマトンは災害ではなく、意志を持って破壊活動を行う脅威であり、その存在はシャーレにより防衛室に報告されている。既知の脅威であり、知らなかった、想定外でした、では済まない存在である。

 

「(だからといってどうしろと?)」

 

 だが、カヤは対策など打てずにいる。明確なキヴォトスの脅威を前に、カヤは自身に手札がないことを思い知らされる。エデン条約事件で味わった苦い思い出が蘇る。

 

「(……ぅ………!)」

 

 血まみれになり、生気の薄い虚な瞳で運ばれてきた少女。

 

 同じく血まみれになり、普段のような軽口を叩くことなく沈黙した大人。

 

 デカグラマトンが居住地で暴れれば、そんな光景が目の前で埋め尽くされる。

 

「(弱気になってはいけません。この程度で弱音を吐いては、超人などと…言っていられません)」

 

 目を逸らさず、カヤは再びただの穴と化した駅を観察する。よく見れば穴の周りで早くも無人の建設機械による復旧作業が始まっていた。ミレニアムの応急対応の速さにカヤは関心する。

 

「報告にはあの穴からホドが逃げたとあります。月雪さん、そうですね?」

 

「はい。0428頃にシャーレの聖園補佐官が放った一撃を最後に、無視できないダメージを受けたホドは即座に穴へと落ち、姿を消しています。地下十数メートルでその後反応消失し、追跡は失敗しています」

 

 カヤは空いている隣の席に置いていたファイルを取り出し、印刷し持ち込んだシャーレの報告書を確認する。確かにミヤコが語った内容が記載され、反応を見失ったあとはミレニアムが追跡を試みるも、ある程度の深さで土が埋め戻されてしまい完全に見失ったとも書かれている。

 

「追跡を振り切ったということは敗走と見て間違い無いでしょう。室長、我々FOX小隊が観測したビナーも同様の動きをしていました」

 

「そうですね……両者の共通点はただの破壊兵器ではなく、不利と見るや撤退をしてみせる知能があること。厄介ですね」

 

 厄介、と評するカヤに、ユキノは満足げに頷く。ミヤコはまるでカヤのほうがユキノの部下にも見えてくることに戸惑うが、口にすることはしなかった。

 

「室長のおっしゃる通りかと。相手を機械と侮ることはやめたほうがいいと、小官は愚考します」

 

「いいえユキノ。その通りですね。デカグラマトンはいわゆるシャーレ案件ではありますが、ここまでの知能があり自治区への攻撃、生徒への危害を加えていることから……」

 

 被害状況に目を通しながらカヤは言葉を続ける。

 

「被害を鑑みれば、デカグラマトンは連邦生徒会からキヴォトスに対する明確な脅威と認定することも不可能ではないですね」

 

 カヤの言葉を聞き、ミヤコは驚く。それが意味することは決して喜んではいけないが、まさに望んでいたものであったのだから。

 

「この件はこのあとの会議の結果にもよりますがサンクトゥムタワーに戻り次第、七神代行に報告・提案をしたいと思います」

 

 ミヤコ、ユキノの両名が頷く。キヴォトスを脅かす存在。まさにSRTが戦うべき相手であり、二人にとっては待ち望んでいたカヤの決断だった。

 

「とはいえ、防衛室やSRTではデカグラマトンに対する知識や解析・分析力は無いに等しい」

 

 そうと決めてもカヤは実質の対応は連邦生徒会ではできないと考えていた。デカグラマトンは口八丁手八丁で済まない、超人だからなどという空元気で解決できる相手では無い。

 

「では、連邦生徒会で介入を?」

 

「いいえ、ユキノ。介入ではなく、支援と言ってよいでしょう」

 

「支援ですか?」

 

「月雪さん。既にデカグラマトンに対して動いている方々がいます。それらを取り上げて、こちらでいきなりやろうということはできません」

 

 ミレニアムの特異現象捜査部がデカグラマトンを追っていることはカヤの耳にも入り、シャーレがそれを補佐していることは承知していた。そこへ防衛室が割って入りいきなり主導権を持ってもどうすることもできない。だからカヤは支援、という形を思いついた。

 

「(まぁ、横から入って誤ちが起きた時に責任問題にされるのも嫌ですし?)」

 

 本音はあまりにも保身に満ちたものだったが、カヤの判断は間違ってはいなかった。

 

「これほどの脅威です。ミレニアムがいかに優れていようと、1自治区でどうにかできる問題ではありません。キヴォトスの安全保障に関わるのであれば、資金面や物資面での支援は連邦生徒会としても拒むものではありません。具体的な支援策は考えますが、1案としてあなたたちSRTを現地調査員と言う形で派遣することも悪く無いでしょう」

 

 ご機嫌どりのためにカヤは最後の発言をしたが、二人の小隊長からすれば待ちに待った言葉であり、深く頷いた。

 

「言ったところでミレニアム側が望めば、といったところでしょうが」

 

 仮にカヤが支援を申し出てもミレニアム側が快くそれを受け入れるとは思っていなかった。カヤですら、連邦生徒会に対して各自治区が見せている態度が心地の良いものではないと知っている。むしろ、エデン条約での事件を皮切りに、思い知らされている。

 

「(アリウス自治区への更生プログラムはほぼトリニティのプランで通されましたからね)」

 

 連邦生徒会が当初打ち立てたアリウス自治区生徒への更生プログラムはトリニティ側から受け入れられず、ほぼ全て書き直されトリニティの案が採用されている。

 

「(採用されたというか、アリウスはトリニティの一部であるから内政干渉になると。あの紅茶女……桐藤さんは御しきれず申し訳ないと言っていましたが、どうだか)」

 

 たとえ善意でも受け入れられない。その例を経験として持ってしまったカヤは、確実に連邦生徒会そのもののイメージを変えていく必要があると考え始めていた。

 

「(そのためにもこの支援は通したい。そうしないと、私の発言力も上がっていかない。なんであれ、これから会う調月リオ、明星ヒマリ。どれほどのものか)」

 

 ヘリは、カヤからすれば生意気にもサンクトゥムタワーのように聳え立つ、エリドゥ中枢セントラルタワーへと向かっていた。

 

 

 

 

 

 

 

「よぉ〜、先生。邪魔するぜ」

 

「いらっしゃい、ネル」

 

 モモトークでナギサからエリちゃんをお借りします、と連絡があったので、そろそろ年貢の納め時かなぁ、とエリちゃんの無事を拝んでいたら乱暴に扉が開いた。第一声でネルとわかる元気な声だった。

 

 入り口へ顔を向ければ、ネル以外にも、もう一人の姿があった。

 

「トキ、君も来たんだね。こんにちは」

 

「こんにちは、先生」

 

 ネルと違って落ち着いていそうな感じの子だなというのが第一印象。一昨日の騒動の時はあんまり話せなかったから、せっかくきてくれたのでお茶でもしようかな。ウェブ会議まであと1時間ぐらいあるし。

 

「二人とも、とりあえず座りなよ。ちょうど今隙間時間だから、お茶にしようか」

 

 私が席を立って、二人を応接用のソファーへと促すと、ネルは慣れた様子でソファにドカッと座った。今日はメイド服じゃなくてミレニアムの制服姿なので、メイドさんじゃないからね。トキも同じだ。長い髪はめっちゃ綺麗だし、アリスもだけどどうやって手入れしてるんだろう。

 

「トキもいいよ」

 

「失礼します」

 

 遠慮がちな感じがするトキにも座るように促してあげると、トキもちょこんとネルの横に座った。二人が来た理由はなんとなくわかる。私に用があるのはトキの方だろうね。

 

 インスタント……とはいえ、こだわりのある生徒(ミカ)がちょくちょく指定してくるので買った銘柄の紅茶をケトルに入っているお湯を注いで作る。ティーパックにしては確かにおいしいので、ギャルっぽくしてもちゃんとお嬢様なんだなぁ、あの子は。

 

「お待たせ。紅茶でいいよね?」

 

「泥水出さなきゃあたしはなんでもいいよ」

 

「ありがとうございます、先生」

 

 対面に私が座ると、少しの間沈黙が流れる。気まずいけど、ちょっと我慢して待つか。ここで助け舟は絶対出しちゃダメ。言い出すまで待たないとね。

 

 甘く優しい紅茶の香りがほどよく漂い出した頃、トキが立ち上がった。

 

「……この度はシャーレ生徒に対する加害行為、および物品の不当な押収、大変申し訳ありませんでした」

 

「うん」

 

「また、夏、アウトランドリゾートでも襲撃を行ったことも、謝罪します。申し訳ありませんでした」

 

 あの夏のリゾートで襲ってきたパワードスーツを操っていたのもトキだったらしい。リオから既に一連の件は自分が全て悪いと謝罪を受けていたので、個人的+シャーレとしては手打ちとして、リンちゃんに上げた報告書には全ての処分をシャーレに一任するよう載せてる。

 

 私としては今回のリオの行動も、これまでのトキの行ったことも、根っこは善意であり、誰かを想ってのこと。許されないことも考えていたとはいえ、謝罪は受け入れるものだと思う。

 

 結末は、絵に描いたようなハッピーエンドだったのだから。

 

「トキ。まず、シャーレとして今回の件は、リオに伝えた通り監察処分って形だから、これ以上言うことはないよ」

 

 トキが目をふせる。ネルは黙って聞いている。本当はトキ一人で来るような話かもしれないのに、付き合ってあげてるあたり、ほんとお人好しだこの子も。

 

「そして、私個人としては、みんな無事だった。終わりよければ…って話でもないけど、必要以上にリオやトキ、アカネに追求するつもりはないよ」

 

 そもそも、責任を負わせるべき話じゃない。命を賭けてまでの話となる前に、私がどうにかしなくてはいけなかった。私がアカネに攫われたからとか、そういうのは言い訳にならない。もう少し……何か助言ができるタイミングがあったはずだ。

 

「先生、それはこいつを許すってことか?」

 

「ううん、ネル。謝罪は受け取るし、必要以上に罰則を課すこともない。これで手打ちにする、ってだけだよ」

 

「え…?」

 

「あぁ、ごめん。トキ、怖がらせちゃったね。許さない、とかそういう話じゃなくて、簡単に言えば、今回の”失敗”をよーく考えていってほしいなってことだよ」

 

 子供達の失敗を許すのは簡単だ。でも、そこで、その場で怒られて終わりにしてほしくない。アリスに伝えたように、大きな失敗をしても自分がどうしていきたいか、そこが大切なんだ。

 

「優しいな、先生はよ。後輩、先生はチャンスをくれてるってことだ。挽回のな」

 

「……ありがとう、ございます」

 

「あーそんな深刻には…いや、考えてほしいけれども、とはいえ、考えすぎちゃうのもよくないから、自然体でいてほしい」

 

 トキは頷き、もう一度頭を下げた。もういいよ、と手で座るように促すと座ってくれた。良くも悪くも素直な子なんだろうなぁ。トキの経歴を見るとどうにもおかしな部分も見受けられるけど、あのリオが登用するあたり、根っこは間違いなくいいのはわかる。コユキだってちゃんと見てあげれば寂しがりな子ってだけだし。

 

「さて、じゃあ辛い話はここまでにして、お茶を楽しもっか」

 

 空気を入れ替えるように手を叩いて言うと、ネルも同じ気持ちなのか、少し笑ってくれた。

 

「せっかくだし、トキのことを先生は知りたいから、教えてほしいな」

 

「……私のことを?」

 

「うん。だってなかなかこうやってゆっくりした時間作れないからね」

 

「本当だぞ新入り。そもそもアポ無しで来て先生が暇そうにしてるのは超運がいい」

 

 エリちゃんがいないので、これから週の後半は無茶苦茶忙しくなるのが確定してる。嵐の前の静けさとも言う。なお、ミカも来ない。コユキも来ない。ユウカは当然無理。

 

 今週の当番は山海経からルミが来てくれるけど、当番というよりはお昼を作りに来てくれるだけ。

 

 うーん、大変。

 

「先生はお忙しいのですか?」

 

「ちょっとね。今週はワンマンだよ」

 

「ワンマン?草鞋野はどうしたんだよ。そうだあいつにもトキが頭下げねぇと」

 

「エリちゃんはちょいと野暮用でね。1週間は帰ってこないんじゃないかな」

 

「……まぁーた厄介ごとに首突っ込んだのか?」

 

「ちょっと違うけど、今回のは放っておいた方がよさそうなやつ」

 

「よくわからねえが、いないのはわかった」

 

 ここのところ、春先の一人でやっていた頃よりは私自身もキャパが増えて一人で回せる仕事が増えたけど、私は残念ながら分身できないし、腕の数も阿修羅のようにはないので限界がある。

 

「って、私のことはいいからさ。トキのことを教えて」

 

「かまいませんが、どのようなことをお聞きになりたいのですか」

 

「じゃあまずは年齢、身長、スリーサイズ──」

 

「イメクラじゃねぇって先生は何度言えばわかるんだバカ!」

 

「あうっ!」

 

 どっから取り出しのそのハリセン!?ネルにハリセンで叩かれた。加減してくれてるけどいい音鳴ったな〜。

 

「せ、先輩?」

 

「はぁ……トキ、一つだけ言っとく。先生は超がつくほどのメイド好きだ」

 

「……それは嬉しい情報では?」

 

「目が微妙にねっとりしててキモいんだよ…」

 

「失礼な。ネル、私はね、そんな微塵もやましい気持ちなんて」

 

「アカネが膝枕やら耳掃除やら甘やかしてるのはどう言い訳すんだよ」

 

 私は何も言い返さず、紅茶を一口すすった。うん、本当においしい。さすがトリニティの高級品だ。

 

「茶を大人っぽく飲んでも誤魔化せねぇぞ、先生」

 

「いやだって!あれはさぁ!アカネと私でWin-Winでぇ!」

 

「余計に悪いわ!はぁ……ほら、トキ、もう帰るぞ」

 

「いえ、私はここに残ります」

 

「はぁ?」

 

 トキが再び立ち上がって、綺麗な姿勢で私の前まで歩んできた。思わず私は制服越しにトキのメイド服姿を見てしまう。ロングスカートに長い髪を結い上げて、静かに佇む瀟洒なメイド──!

 

「先生はしばらく、多忙な様子。であれば…贖罪とはならないかもしれませんが、草鞋野エリカ不在の間、私が先生にご奉仕、というのはいかがでしょうか」

 

 ご奉仕。奉仕。ほうし。

 

「お願いします」

 

 トキの手をきゅっと握った。柔らか…。

 

「あたしは知らねぇからな!先に帰るぞ!」

 

「ええどうぞ。先生の最強のメイドの座は私が頂きますので」

 

「お前それアカネの前で言ったら塵も残さず消し飛ばされるぞ……」

 

 

 

 

 

 

 

 十六夜ノノミは目の前を歩く小さな先輩のことがよくわからなくなっていた。外部からの干渉を避け、善意でも借りを作らせることはせず、緩くことなかれ主義のように見えて、実際は頑固で、熾烈な本性。

 

 その先輩が、今ノノミを連れて向かおうとしている場所は、本来絶対に向かうはずがない場所だ。

 

「いやぁ、電車に乗って外に行こうなんていつぶりだろうねぇ〜」

 

「私はよく行ってますよ〜」

 

 ノノミの前を歩く先輩──ホシノは気の抜けた声で言いつつ、歩みを止めない。普段であればそれなりの距離を歩いてはおぶるように要求してくるはずが、今日はそんなこともなく、しっかりとした足取りでいる。

 

 極力、いつも通りでノノミはいようとするが、それでもホシノに対する戸惑いはあった。

 

 二人が向かっているのはアビドスの外縁部近くにあるD.U.方面へと向かう列車がある駅である。外縁部であるため、二人が今いる周囲はアビドス砂漠の砂嵐の影響は大きく受けておらず、壊滅的なアビドス自治区の中ではまだ都市機能を残した地区だ。

 

「ホシノ先輩」

 

「なにかな」

 

「どうして……トリニティからの招待を受けたんですか」

 

 信号待ちとなったタイミングでノノミが意を決してホシノに問いかけた。正面を向いたままのため、横にいるホシノの顔をノノミにはわからない。

 

「あちゃー……やっぱり、気になる?」

 

「……みんな、気にしてると思います」

 

「そりゃそっか。今まで嫌がってたのにいきなり受けたからねぇ」

 

 歩行者用の信号が青になり、ホシノが歩み出す。ノノミも半歩遅れて続いた。

 

「まぁ、色々あったし、なんだか、このままじゃいけないのかなって、漠然とね」

 

「色々って」

 

「みんなには話してなかったけどさ、やっぱり草鞋野エリカちゃんの影響かな」

 

 前を行くホシノの顔は伺いしれない。ノノミは、先輩の言う影響がなんであるかは察しが付いていた。

 

「ノノミちゃんはさ、ハイランダーというか、お家のこともあって、知ってるんでしょ、全部」

 

「ッ……!?それは」

 

「いーよ、流石にそれはここで話すことじゃないし」

 

 横断歩道を渡りきり、ノノミは僅かに足を止める。ホシノが知っているのではないかと言うことは、草鞋野エリカという生徒の過去だ。

 

 D.U.近郊のハイランダー鉄道が運行する路線はトレインジャックや車両の損壊がここ数年は極端に少なく、その原因がたった一人の生徒によるものであることはハイランダー鉄道学園──そして、学園と深いつながりがあるノノミの実家が経営するセイントネフティス社に伝わっている。

 

 ノノミには”候補”として草鞋野エリカの名前は伝わっていた。

 

「あんなに苦しいのに、辛いのに頑張ってる子を前にしてさ、おじさんも流石に何も感じないってことはなかったんだよ」

 

「ホシノ先輩……」

 

「……私とは、ワケが違うからさ」

 

 ホシノはエリカの過去を知っている。知っているからこそ、ある意味似たもの同士だとも考えていた。だが、草鞋野エリカという生徒を目の前にして、それは違うとわかってしまった。

 

 このキヴォトスで人の死に触れる機会はそう多くない。多くないからこそ、目にしたものが愛する者であったときの絶望は深く、暗く、二度と這い上がってくることはできない。ホシノは自ら、”先輩”を言葉で死に追いやったと今でも自らに何度も釘を打ち続けている。

 

 しかし、どこかで、それは事故だと言う彼女自身もいる。

 

 だが、草鞋野エリカはどうだろうか。ホシノは自らの手に触れた”先輩”から感じ取れたのは枯れ果てた枝葉のような喪失だけだった。

 

「先輩。その、彼女と比較してというのは」

 

「うん、わかってる。比べてどっちがひどいとか、そういう話じゃないよ。けれども、私もさ、ちょっとだけまた、信じてみたくなったんだよ。頑張りが、報われるかもしれないってことをさ」

 

 似ても似つかないはずの、同じ境遇にも見える彼女に、ホシノはなぜか、手を伸ばし続けた太陽のような少女の姿を見てしまった。

 

「だからさ、たまには腐ってないで、おじさんらしく、ちょっぴりいいとこ見せようかなって」

 

 いつもの調子でホシノはおどけてはにかんで見せて、ノノミは苦笑いする。下手くそな誤魔化しに、ノノミは本当に不器用な先輩だと思ってしまう。

 

「というわけで電車に乗りにきたわけだけど、切符はあそこで買えばいいんだっけ?」

 

「そうですね。私はICがあるので待ってますよ」

 

 話しつつ駅に到着したホシノは切符を買うために券売機へと向かう。交通費はセリカから支給されており、ホシノの財布は久しぶりにお札が入っていた。

 

「いやはや、おこづかいがもらえないおじさんは辛いねぇ」

 

 トリニティに向かうためにはD.U.を経由するしかなく、駅も変わるためひとまずD.U.へと向かう分だけの切符をホシノは購入した。待っていたノノミの方へと戻ると、ノノミが前を行き、改札を通っていく。ホシノも切符を通し、駅構内へと入場した。

 

「うひー、暑いし、ちょっとD.U.の銭湯で汗ながしてかなぁい?」

 

「シャーレに寄ります?」

 

「流石にそれは遠回りになっちゃうし、アポ無しで先生のとこはちょっと悪いかな」

 

「そうですね」

 

「だから銭湯でいいかなぁ、って。前にエリカちゃんに教えてもらったけど、サッと流せるとこもあるみたいだし、お色直しにはちょうどいいかなって」

 

 ホシノは流石に外部の学園から会談を申し込まれた以上は正装をした方がいいと後輩たちから詰め寄られ、致し方なくブレザーの上着を着せられていたが、アビドスの気候で着続けることは難しい上に、汗をそれなりにかいてしまっていた。

 

 なので、銭湯で汗を流している間に制服をクリーニングできるというサービスがあるというD.U.の銭湯に寄ることを考えていた。

 

「その銭湯ってこのスーパー銭湯ですか?」

 

「あ、そうそう。なんでも、エリカちゃんと、その友達のゲヘナの子が前に汚れた時に、入浴中の間にすごいスピーディに制服のクリーニングもしてくれるってさ」

 

「へ〜、すごいところもあるんですね〜」

 

「ほんとね。助かっちゃうよ」

 

 ホシノはホームのベンチに腰掛ける。アヤネからヘリや車による送迎も提案されていたがやんわりと断っていた。

 

 ホシノがトリニティから申し込まれた会談と同じぐらい大切なウェブ会議がアビドスのメンバーには予定されているため、対策委員会の委員長代行としてアヤネが対応する必要があった。

 

「それにしても、なんだかあのデカグラマトンだっけ?だいぶ大事になってるみたいだね」

 

「まさか連邦生徒会から会議をセッティングされるとは思いませんでしたね」

 

「先にヒマリちゃんから聞いたけど、一昨日にミレニアムで大規模な襲撃があったって聞いたからさ、流石に連邦生徒会も黙っていられなくなったみたいだよ」

 

 ビナーというデカグラマトンが自治区内にいる以上、アビドスも他人事とは言えないことであり、このこともホシノが外部とのつながりを増やすしかない、という判断に至った理由の一つだった。

 

「大丈夫でしょうか?ミレニアム」

 

「先生たちも手を貸してくれたみたいだから平気じゃないかな」

 

 ホシノは先生が心強い限りであるが、先生は一人しかいない。だからこそ、生徒自身で対策を練っていく必要があるというのは悪くない方向性だった。

 

「ウェブ会議の企画者は連邦生徒会の…」

 

「防衛室長の不知火カヤって子らしいね。エリカちゃんからどんな子か聞いたけど、一生懸命で悪い子じゃないってさ」

 

「なら安心ですね」

 

「ね」

 

 エリカが言うのだから大丈夫だろう、とホシノはカヤのことを見たこともないが心配はしていなかった。もしカヤの実態を知っていればホシノはエリカの人物評を疑っていたかもしれないが、それを知るのはFOX小隊や防衛室の役員などである。

 

 遠く離れたアビドスのホシノが知る術はない。

 

「そろそろ電車が来るね。さてさて、どんな話をされるのやら」

 

「そういえばホシノ先輩。今回、トリニティの桐藤会長からはどんな要件で呼ばれたんですか?」

 

「お願いごとがあるんだってさ。あと正式にこの前のエデン条約事件のお礼だって」

 

「なるほど〜」

 

 

 

 

 

 

 

 なんだろう、ものすごいホシノちゃんから視線が痛い。もう明らかに「え、お前なんでいるの」って目をしてる。あ、いや、自意識過剰かもだけど!

 

「ようこそ、小鳥遊委員長、十六夜さん。おかけになってください」

 

「はぁ〜い」

 

 ナギサちゃんが着席を促す。ホシノちゃんと十六夜さんはブレザーを着ているし完全に学校間の真面目な話をする感じだ。え、まさかそんな私を送り込むためにそんな正式なやりとりするの!?

 

 くっ、先生は承知しているのだろうか。けれどここで騒ぎ立てればナギサちゃんの面子が……ええい!とにかく、流れに身を任せるしかない!少なくとも、私が全力でこのトリニティから逃げ出すのは不可能!まずナギサちゃんに危害を加えようなんて絶対嫌だし、そもそもミカさんや剣先さん、蒼森団長が来たら私はなんにもできずにぺしゃんこにされてしまう。

 

 そうでなくても、コハルちゃんにカッコ悪いところは見せたくない。

 

「突然の会談に応じて頂いたこと、感謝致します」

 

「いーってば、ナギサちゃんとおじさんの仲でしょ〜」

 

 え。そこはホシノちゃんいつも通りでいくんだ。若干、十六夜さんが口元ひくひくさせてるけど、たぶん同じこと考えてるっぽい。……あとたぶん、ホシノちゃん夏の時にナギサちゃんと会ったこと話してないんじゃ。

 

 周りの役員たちは……あ〜…まずい。明らかに「無礼な!」ってイキリ立ってる気が。過激なフィリウス派はみんな転校したって聞いたけど、今残ってる子たちはそれなりにナギサちゃんへの忠誠心が高い子たちだからあんまりよくない流れだ。

 

「えぇ、そうですね。小鳥遊委員長には返しきれない恩がありますから」

 

 でも、そんなことはナギサちゃんも織り込み済みだ。実際、ナギサちゃんがホシノちゃんに助けられたのは二度。夏の時とエデン条約事件。ナギサちゃんはこのことを恩返しできていないと言っていた。お返しをしようにもホシノちゃんが断ってくるんだっけか。

 

 これは先生の過去の記録から、アビドスに対してのものはあんまり受け取らないようにしているのを私も見てる。たぶん、ホシノちゃんが自治区の長として決めてるポリシーなんだと思う。個人的なお礼は結構もらってくれるけど。

 

 ナギサちゃんの恩がある、という言葉に周りは振り上げたものを下ろしてくれた。

 

 トリニティにいたおかげで、やっぱり歴史があるというのは大きい意味があるのを知れた。アビドスの実情は晄輪大祭でだいぶ知れ渡ってしまったけど、それでも見せつけた圧倒的な力と、長い歴史というのはトリニティで大きな意味を持つ。

 

 無下にはできない相手。そうでなければ、思いつきのようなタイミングで会談をセッティングして、トリニティ側から招待したとしても、ホシノちゃんがこのテラスに来ることはできない。

 

「それで、今日はどんな用なのかな」

 

「まずはトリニティを代表して、エデン条約の際に助力を頂いたこと、お礼を」

 

「お礼なんて。私たちは友達を助けに来ただけだよ」

 

「だとしても、本校の生徒が助けられたことは事実です。ありがとうございました」

 

 ナギサちゃんが椅子を立ち、深々とお辞儀する。多くの役員が驚く中、私はこういうところで躊躇いがないナギサちゃんのまっすぐなところ、人として好きだと頷きたくなる。

 

「うーん…」

 

 ホシノちゃんはなんともいえない、困ったような顔をしたが、笑顔のままの十六夜さんに小さく肘で小突かれていた。

 

「ど、どういたしまして」

 

「いいえ」

 

 なんとなくだけど、十六夜さんはこういう場に慣れてる感じがする。いいとこのお嬢様って聞いてるから、そうなのかな、やっぱり。

 

「本来であれば、自治区の危機を助けて頂いたこと、お礼を差し上げたいのですが」

 

「無理をしなくていいよ。お礼を言われるだけで十分だよ」

 

「そう言って頂けるのは嬉しいですが、流石に何も、というわけにはいきませんので」

 

 ナギサちゃんが私に目線を送る。いやぁ、これ私からじゃなくて他の役員子達からでもいいんじゃ、と思ったけど、周りの子も「エリカ様からのほうがよろしいかと」「騎士様であることを見せつけていくべきです!」などと妙に鼻息荒く任せられてしまったのでしょうがない。

 

 私はナギサちゃんの横のカートに置かれているA3ぐらいの大きさのケースを取り出し、テーブルの上に置き、ゆっくりとその中身を開いた。

 

「トリニティが盟友に送るティーセットとなっています。どうぞ、受け取ってください」

 

「……つまり、同盟ってこと?」

 

「いいえ、それほど、堅苦しいものではありません。友人へこれからの健康と繁栄を願って渡した……そういったものと思ってください」

 

「桐藤会長がおっしゃりたいのは純粋なお礼、そういうことでしょうか?」

 

「はい、十六夜さん。ですから、どうぞ、お受けとりください」

 

 ホシノちゃんは一瞬だけ険しい表情もしてたけど、最終的には「まぁ、そういうことならいいかなぁ」と受け取ってくれた。このティーカップなどのセットはあくまでよくある贈答品の一つに過ぎず、配ったのもホシノちゃんたちだけじゃないと聞いている。

 

 でも、この品を渡すのは大きい意味があるという。ナギサちゃん曰く「アビドスの方々には仇を返すようにもなりかねませんが、”釘”は刺しておきませんと」と言っていた。

 

 急速にレッドウィンターへと近づくゲヘナへの対抗措置だとフィリウス派の子たちは教えてくれた。なんでアビドスが関係あるのかはわからない。……ナギサちゃん個人は、私としては好いているけど、生徒会長である以上は学校のことも考えて動かなくちゃいけない。間違った方向に行く可能性も0じゃない。先生に報告はしたほうがいいかな。

 

 いやでも、そのことすら織り込み済みで「釘を刺す」ってことなのか。

 

「よいしょ、っと。それで、あともう一つお話があるんだよね?」

 

「はい」

 

 ケースを十六夜さんに渡したホシノちゃんはナギサちゃんに問う。彼女は頷く。もう一つの話をする前に、私は役員たちへ目配せすると、彼女らは静かにテラスから出ていった。残されたのはナギサちゃんと私、そして、ホシノちゃんと十六夜さんの4人だけだ。

 

「なぜ人払いを……?」

 

 十六夜さんが戸惑ってる。うーん、まぁ、そうだよね。ホシノちゃんもかなり警戒してるのか、こっちをあまりに凪いだ目で見ている。おかしな真似をすればただじゃおかない、という顔だ。怖い。

 

 ナギサちゃんは流石に威嚇されても平気なのか、調子を崩さずに紅茶を口にする。

 

「すいません。人払いをさせたのは……」

 

 ナギサちゃんが胸元につけたティーパーティーのバッジを外すと裏返してテーブルの上においた。

 

「私、桐藤ナギサとして、個人的に小鳥遊さんにお願いをしたいからです」

 

「あ、そういうことね」

 

 張り詰めた空気が一瞬で消えて、ホシノちゃんが深く椅子に腰掛けた。

 

「いやぁ、肩凝っちゃうよ〜こんな綺麗なとこにきちゃうと。おじさん、慣れてないからさぁ」

 

「すいません。お呼びしたうえで」

 

「いいって。あ、このもらったやつは後で使ったら感想をモモトークでするね」

 

「ふふっ。楽しみにしておきます」

 

「それで、桐藤会長、個人的なお願いというのは?」

 

 十六夜さんが聞いてくる。あぁ、とうとう言ってしまうのか。

 

「エリカさんを1週間ほど、預かっていただけませんか?」

 

「いやそんなペットみたいな」

 

「……」

 

「なんでもないです……」

 

 異を唱えようとしたらものすごい綺麗な笑顔を返されたので黙るしかなかった。ホシノちゃんたちは…いやなんで納得、みたいな顔をしてるのか。

 

「桐藤ちゃん。まぁウチでエリカちゃんのことを預かるのはいいとして、先生は?」

 

「承諾を得ています」

 

「外堀埋まってますね♧」

 

 先生が私の誘拐…?拉致?を見逃したのはショックだった。だったけど、ホシノちゃんたちがここに来る前にナギサちゃんに言われたことで、今私は何にも言えないのだ。

 

「そうなんだ。でも、なんでウチに?」

 

「エリカさんが一昨日、ミレニアムでデカグラマトンと交戦したことはご存知ですか?」

 

「シャーレが関わってるのは聞いたし、やっぱりエリカちゃんもいたんだね」

 

「はい。そこで彼女は無茶を、また、したようでして。こちらの救護騎士団での診察の結果、内蔵にダメージがあるとのことでした」

 

 何してるのお前、って顔をしないでホシノちゃん!十六夜さんも口元抑えてめっちゃ驚いてるし。

 

「彼女には休息が必要です。しかし、エリカさんに休息をとってもらおうにも、彼女は勝手に事件へ首を突っ込みますし、こちらが矢面に立とうとしても言うことを聞かないと、全会一致でした」

 

「全会一致ってなんですか?ねぇ、ナギサちゃん?」

 

 待って本当に待って。なんか知らないうちに私の知り合いの中でネットワークできてるの?さっきのこと、たぶんハルナとの旅行の時の話だよね?

 

 私の言葉にナギサちゃんは完全な無視を決めて話を続けた。

 

「そこで、彼女より強い方がいるところであれば、と考えが出た結果──」

 

「それでおじさんがってこと?やだなぁ、買い被りすぎ……って、桐藤ちゃんには言えないね」

 

「えぇ。あなたの実力は目にしていますから。どうでしょうか、引き受けてくれますか?」

 

「いいよ」

 

 二つ返事!?

 

「ホシノ先輩、いいんですか?」

 

「いいんじゃない?それに、エリカちゃんは頑張りすぎだからさぁ、おじさんと一緒にゆっくりしようかぁ」

 

「いや、そう言われても……」

 

「ゆっくりできないなら一緒に草むしりとか雑用しよっか。最近、アヤネちゃん厳しくておじさん一人じゃつらくてね」

 

 だめだ。もう流れは止められない。いいのか。いきなりシャーレを離れてしまって。本当にいいのか。というか、私の意思は?

 

「……ナギサちゃん、先生に確認してもいい?」

 

「えぇ、構いませんよ」

 

 とりあえず、最終確認だ。これ実質休暇だ。今週は当番も実質無しの週。朱城さんの美味しいご飯はあるけど。

 

 先生に電話をすると、いつも通り1コールで先生は電話に出た。

 

『はい、シャーレです』

 

「誰!?」

 

『私です。シャーレ最強メイドの飛鳥馬トキです』

 

 あぁ、ミレニアムのあの子。

 

 じゃなくて!

 

「なんで飛鳥馬さんが先生の携帯を」

 

『先生はただいまウェブ会議中です。ご用件があるなら承りますが』

 

 あ。そうだ、今ぐらいからだった。防衛室・ミレニアム・アビドス合同のデカグラマトンに関する会議。まいった。先生に確認をしようにもこれじゃあできない。

 

「………あの、飛鳥馬さんはどうしてシャーレに?」

 

『先生が今週末にかけて多忙とのことで、臨時で補佐をすることにしました』

 

 そっか。そうなんだ。C&Cといえばメイド部として名を馳せてる。あの騒動のあと、角楯さんがお詫びにと「サービスチケット」なるものを渡してくれた。これはC&Cの表向き、つまりはメイド部としての家事代行サービスをタダで受けられるものらしい。

 

 生業にしているぐらいなので、きっと飛鳥馬さんもすごいメイドさんなのだろう。調月会長専属だったし。

 

「……わかりました。私は所用でアビドスに行くことになりましたので、しばらく戻れないとお伝えください」

 

『かしこまりました。お土産楽しみにしてます』

 

「あ、はい」

 

『では』

 

 電話が切れた。お土産………ん?なんかこれ飛鳥馬さんが欲しい感じでは?まぁいいや、お土産は買って行こう。

 

「エリカさん」

 

「わかりました。行きます」

 

「それはよかったです。では小鳥遊さん。本日はこの時間からとなりますと、日を跨ぎますから、ホテルを用意させてあります。そちらで休息を取られてから、明日出立するのがよろしいかと」

 

「何から何まで申し訳ないね。じゃ、いいのかな?」

 

「はい」

 

「それじゃあ失礼するね。またねエリカちゃん」

 

 ホシノちゃんと十六夜さんが去っていく。私のアビドス行きが決定してしまった。先生のことが心配だけど、それも心配する必要はなくなってしまった。

 

 二人がいなくなったあと、私はため息をついた。

 

「強引すぎるよ、ナギサちゃん」

 

「ですが、ここまでしないとあなたは休んでくれません。……あなたより弱い者からの心配は、気に障りますか」

 

「そっ、そんなこと一ミリもないよ!ただ、いきなり拉致されてこれじゃあさ、やり方とか他に」

 

「私が休んでくださいとお願いしてもエリカさんは聞かないでしょう。ニコさんやハルナさん、彼女たちが言っても同じです。ですから、私たちよりあなたのことを医療的に心配されているミネ団長にお任せしただけです」

 

「………まぁ、そりゃ、うん」

 

 何も言い返せない上に蒼森団長、次はないって感じだったから……はぁ。私が悪いな、これは。

 

 カンナちゃんは「自業自得」と言うだろうし、コノカちゃんは「姉貴のせいっすね」と爆笑するだろうな。

 

「大人しくしてます」

 

「えぇ、そうしてください。先生も、強くは言いませんが許可したということはそういうことです。……しっかりリフレッシュして、元気になって戻ってきてくださいね」

 

 ナギサちゃんが私の前に立って。抱きしめてくる。ものすごく柔らかくていい匂いがする。今回ばかりは……大人しくてしていよう。

 

 

 

 

 

 

 

『そういえば先生、エリカさんはどうされたのですか?』

 

「あぁ、カヤ。エリカには休暇をとってもらったよ。また無茶したからね」

 

『どちらへ?』

 

「アビドスだよ。あそこならエリカより強い子たくさんいるからね」

 

『なるほど。ならこの前のようなことにはなりませんね!』

 

 カヤの純粋な笑顔で放たれた発言に、その会議に出ていた全員が同時に「フラグでは?」と感じたことは間違いではなかった。

 

 




主人公は前章でパワードスーツに乗った際に某トールギス初乗りのゼクスみたいな状態でしたが「死ぬな…このままでは…」とならずにそのまま動いたので中身がズタボロでした。万一アビドス行きを拒むようなら救護騎士団本部に軟禁でした。

ナギちゃん含め複数人が言うこと聞かないならめっちゃ強い人に任せればいいとホシノに白刃の矢が立ちました。



次回は未定です。またお待ちくださいませ。
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