特異現象捜査部との話が済んだところで、ホシノちゃんとノノミちゃんは先にアビドスに戻ってしまった。元から二人の用はそこまでだったし、ノノミちゃんの様子がずっとおかしかった。
ビナーって、あれだけの巨体で砂漠を動き回ってるらしいから、やっぱりアビドスが砂漠に沈んだ原因の一つなのかな。わからない。アレが生徒の敵ならいずれどうにかしないとね。
「おや?あなたはシャーレの」
「ん?」
早瀬さんがいるという校舎の上階を目指していたところ、エレベーターホールで声をかけられた。声をかけてきたのは――メイドさんだった。なんだろう。和泉元さんといい、ミレニアムはいろんな格好の人がいるね。
メガネをかけて、ロングスカートのメイド服。まさに従者って感じで姿勢もピンとしてる。コスプレじゃなくて本物のメイドさんかな。
あ、いや、先生の報告書にあったな。
「たしか、C&Cの……」
「ご主人様の部下の方ですし、さすがにバレてますね。室笠アカネです」
「草鞋野エリカです。どうも」
ミレニアムサイエンススクールのメイド部、というかエージェントのCleaning&Clearing。室笠アカネさんだ。室笠さんは「失礼」とエレベーターのボタンを押してくれた。
「ありがとう」
「いえいえ。それにしても、シャーレの方がどうしてこちらに?」
「今日は個人的な用事で」
早瀬さんに謝りに来たことを伝える。室笠さんはくすりとして「とても律儀な方ですね」と言ってくれた。いや、理由もなく銃を向けたし当然だと思う。
「ご主人様からエリカ様のことは聞いていますよ」
「え、エリカ様?」
「お嫌でしたか?ご主人様の生徒、相棒のような方と思っていましたから」
むずがゆいし、様なんてつけられるほど私は立派じゃないんだけど………先生はそういえば「メイド服可愛かったしエリちゃんも着て!」ってコスプレさせてきそうになった。丁重にお断りしたけど、先生メイド服好きなのかな?
室笠さんの姿を見てると、ちょっとわかるかもしれない。可愛いながら、なんというか機能美みたいなものさえ感じる。
エレベーターが到着し乗り込むと、当たり前のように室笠さんがエレベーターを操作する。
「なんかごめん。やってもらっちゃって」
「遠慮しないでください。お客様を持て成すことができないのではC&Cの恥です」
「……C&Cって、諜報員のようなものって、先生から聞いたけど」
形は違うけど特殊部隊というか、そんなようなイメージだった。報告書を見る限り。
「それも嘘ではありませんよ。ですが、同時に私たちはミレニアムに奉仕するメイドでもあります」
「ミレニアムに奉仕……」
学校への奉仕ってちょっといいかも……って私は思ってしまった。
「ふふっ、まっすぐな方なんですね。ご主人様の一番傍にいるエリカ様が、そのような方で、私、嬉しいです」
「えっと、それは褒められてるのかな?」
「もちろん。――そろそろですね。セミナーのある階です」
室笠さんの言葉の終わりと同時にエレベーターが停止する。どうぞ、と室笠さんに先を譲られ、私は恐縮しながらエレベーターを降りた。室笠さんはそのままエレベーターに残っていた。
「あれ?降りないんですか?」
「えぇ。この上に私は用があるので。どうぞ、ごゆっくり」
スカートの端を両手でつまみ、お辞儀した室笠さん。ゆ、優雅すぎる。トリニティじゃないよね?ここ。扉が閉まって、エレベーターは更に上階へと登っていった。当然階数が表示されなくなって、たぶん生徒会長……さっき明星さんが名前を出していた調月リオ会長がいるのかな。
エレベーターホールから廊下に出ると、廊下は全面ガラス張り。人気はなくて、静かだった。窓から見る景色は昼間だけど、夜になれば綺麗なんだろうなって想像がつく。
セミナーの執務室はちゃんと案内板に載っていたので、それに従って廊下を進めばすぐに辿り着いた。鉄製の扉なので当然中は見えないけど、自動ドアのようだった。ただ、チヒロちゃんの手が加わったあとのヴァルキューレの校舎で見たものと同じセキュリティシステムが扉の横の壁についていた。
「えっと、呼び出しボタンを押せば――きゃっ!?」
「あーもー!本当にコユキはどこに――うわっ!?」
中にいるであろう早瀬さんに開けてもらおうとしたら、いきなり扉が開いて中から出てきた人と私はぶつかった。思わず倒れて尻餅をついた。いたた。というか、この声って。
「いたた、もう、なんで扉の前に……って、草鞋野さん?」
「早瀬さん、どうも」
ちょうど出てきて欲しかった早瀬さんが出てきてくれた。
お互い、最初に出会った時と似たような状況で思わず苦笑いを交わしてたら、早瀬さんの後ろ、部屋の中から見事に早瀬さんと対になるような制服や髪、容姿が真っ白な生徒さんが慌てて出てきた。
「ユウカちゃん!大丈夫ですか!?」
「ノア、大丈夫よ。私が飛び出したのがいけなかったのよ」
ユウカさんが立ち上がり、白い生徒さんに無事を報告した。私も立ち上がり、向かいあう。
「紹介するわ、ノア。シャーレの草鞋野さん」
「この人がユウカちゃんに初対面で銃を向けたというあの」
「その節は本当に申し訳ありませんでしたっ!」
なんか冷ややかな声に聞こえて慌てて頭を下げた。そうすると、くすくすとノア、と呼ばれている生徒さんが笑っていた。
「いいえ、私は別になんとも。生塩ノアと言います。草鞋野エリカさん」
生塩さんはハキハキとしている早瀬さんとは違って穏やかな人だった。
「それにしても、遅かったわね。もう着いたって聞いてたけど」
「ちょっと下で用事があって」
「あぁ、ヒマリ先輩の……まぁいいわ。それより、ちょうどいいわ。草鞋野さん。少し手伝ってほしいことがあるのよ」
手伝い?早瀬さんは一旦部屋の中に戻り、私を手招きする。中に入れば、セミナーの執務室だけどがらりとしていて……というか、席がすごい少ない。そんな少数精鋭でやってるのこの学校。
「いいんですか?ユウカちゃん。草鞋野さんは元ヴァルキューレ。コユキちゃん、逮捕されちゃうかもしれませんよ」
「背に腹は変えられないし、今のこの子、シャーレの先生の生徒よ。事情を話せば簡単には突き出さないはずよ」
え?なんかすごい不穏なこと言ってません?
「えっと、何を話しているのかわかりませんけど、ことと次第によってはヴァルキューレに差し出しますよ?」
「大丈夫ですか?ユウカちゃん」
「大丈夫よ!……たぶん」
とにかく、何かを早瀬さんは私に頼みたいようだ。犯罪に関わることならもちろんヴァルキューレに即通報……としたいけど、そこは先生のこれまでの姿勢からいきなりは避けたい。どんな頼みにせよ、早瀬さんに一度迷惑をかけてるから、断ることはしづらいし。
「ふぅ。草鞋野さん、警察官だったんでしょ」
「ヴァルキューレ警察学校にいたのでもちろん」
「なら……迷子のウサギ、探してくれないかしら」
「ウサギ?」
早瀬さんに詳細な話を聞くため、セミナーの執務室の早瀬さんの席に私たちは集まった。
「悪いわね。こっちの問題に巻き込むような形になって」
「いえ、全然。私、シャーレの生徒ですし。それに、ヴァルキューレの元生徒としても、困っている人がいたら助けるのがモットーです」
「そう。それなら、探して欲しいのはこいつよ」
早瀬さんがスマホを操作し、写真を見せてくれた。そこにはまたしてもピンク色の髪の、髪を長いツインテールにした確かにウサギっぽい生徒が写っていた。なんかものすごい無理矢理笑ってません?あとなんか格好がその、可愛いけど絶対着せられてる感が半端じゃないんだけど。
「ユウカちゃん、それ見せていい写真ですか?」
「は?何言ってるのノア?」
生塩さんが早瀬さんに指摘すると、早瀬さんが画面を確認しなおして、固まってからもう一度操作して画面を見せ直した。今度は自然体の生塩さんが着ているものとほぼ同じミレニアムの制服を着た姿になっていた。ただ、この写真も笑顔がベストショットだった。
「………あの、さっきの写真は?」
「ユウカちゃんは可愛い子が好きなんですよ」
「あ、なるほど」
「ちょっ!違うから!さっきの写真はコユキが余計なことをしたからそのお仕置きに」
早瀬さんの性癖は聞かなかったことにしよう。
「ユウカちゃん、墓穴掘ってません?」
「うっ、ノアぁっ!」
「うふふっ、ごめんなさい。それでは草鞋野さん、本題に入りましょうか」
「あっはい」
もしかしてこの二人、デキてる……?ものすごい仲がいいというか、間にいるのがなんだか肩身狭く感じる。これ、生塩さんが早瀬さんいじってるよね?私ダシにされてるよね?え、何を見せられたの?
「この子は黒崎コユキちゃん。見ての通り、ウサギのように可愛い私たちの後輩です。会計のユウカちゃん、書紀の私、そして庶務のコユキちゃんでセミナーを回しているのですが、度々問題を起こしてしまう困った子なんです」
全然困っていない様子で生塩さんは言っている。もはや楽しんでいるのかな…?そんな雰囲気さえ感じるけど、早瀬さんそうではないようだ。
「草鞋野さん、あなたがシャーレの生徒だから信じて言うけど、コユキはちょっとどころの問題児じゃないのよ。公にしてないだけで、前科はたくさん。やらかすたびにC&Cとノアに説教されて反省部屋に突っ込まれては出てを繰り返してるの」
「前科?」
「特に多いのが違法賭博ですね。他にも学校の資金を勝手に横領したり」
え、普通に矯正局案件では?
「けど、矯正局には送れない。セミナーの生徒だから、外に出せないのよ。あいつ」
「ユウカちゃんの言う通りで、コユキちゃんは矯正局へ送れないのです。もし無理に送って他校へ内部情報が漏れるのは困ります」
なんとなく理由はわかったし、違法賭博や所属校の資金の横領、それらを自治区内で処理できているのならヴァルキューレは動かなくてもいい。もちろん、自治区の代表者が突き出せば違うだろうけど。
「それに、コユキはこんなんだけど、優秀で……リオ会長の推薦でセミナーに入ってるから下手に首にできないのよ」
「特にコユキちゃんの数学的才能はキヴォトス最高と言ってもいいかもしれません」
「え、そんなにすごいんですか!?」
「はい。電子的な暗号は全て、コユキちゃんにとって鍵がかかっていないようなものです」
キヴォトス1の数学の天才って……それに電子的な暗号が全部簡単に開けられてしまうのなら、それは逆に利用されてしまう危険性だってある。
「………失礼ですけど、保護的な意味もありますか?セミナーに所属してるのは」
「察しがいいわね。その通りよ。コユキは……確かに問題児で、クソガキだし、倫理観は終わってるけど………大事な後輩なのよ」
「コユキちゃん、これでも可愛いところたくさんありますからね。それに、たくさんやってはいけないこともしてますけど、根っからの悪人ってわけじゃないですから。たまに、私たちの役に立ちたいって手伝ってくれて、褒めてあげるとすごく喜んでくれるんです」
話を聞いて、私は一度目を閉じる。もし私がヴァルキューレの、そして、ニコちゃんたちの先輩として、草鞋野エリカ生活安全局副局長だったときなら問答無用だったと思う。
でも、今の私はシャーレの、生徒みんなの味方だ。だから、先生にならって、私はこの子たちを“助けたい”。黒崎コユキさんは二人の話を聞く限りでは更生の可能性もあるし、何より、誰かの力になりたいと少しでも見せる子を、頑張っている子が迷子なら私は頑張りたい。
私は姿勢を正した。
「シャーレの補佐官、草鞋野エリカとして、お二人の支援要請、確かに受理しました。先生に情報を共有後、ただちに動きます」
私の宣言のあと、二人は少しだけホッとしたような表情になった。
「ありがとう、草鞋野さん。それで、コユキなんだけど、飛び出したのは二日ぐらい前なの。今、セミナーは忙しくて、一人でも手がほしいのよ。見つけたらできるだけ早く連れ戻して」
「わかりました。黒崎さんが向かいそうな場所はありますか?」
「自治区内なら違法賭博をしているとこは幾つか抑えてあるわ。ただ、それはもうあたらせてるのよ、C&Cに」
「他に、心当たりは?」
「コユキちゃん、そもそも賭け事が好きですから、違法でない賭博ができるオデュッセイアのクルーズ船というのも考えましたが、港への寄港は最近はないですし」
心当たりがなく、自治区内も確認済み。となればもう、可能性はあと一つしかない。
「早瀬さん、生塩さん。私見ですが、他自治区へ入ってしまったということでしょうか」
これしかない気がする。D.U.近郊のブラックマーケットにいる可能性もあるけど、あそこの違法賭博は生徒がやるのとワケが違う。それに、黒崎コユキさんの能力を鑑みれば、何かしらの騒ぎが起きてるはずだ。先生、こっそりブラックマーケットに出入りしてる子とよくモモトークしてるんだよね。
私の考えに、二人はまずいといった顔になる。そりゃそうだよね。二人ともこの自治区の行政機関の役員だから、自治区間の問題は敏感になるはず。
「一番それが嫌な可能性ね。ノア、コユキが行きそうな、地続きの自治区、心当たりある?」
「どうでしょうか。ゲヘナはコユキちゃんでは生きていけないでしょうし、百鬼夜行はC&Cの目を掻い潜っていけるとは思えません。山海経は問題を起こせばすぐに玄龍門からウチに通報が入ると思います」
有名どころの自治区は上がって、最後に残ったのは――。
「となれば、トリニティ?ですが、さすがにあそこは本官もありえないと……」
治安は比較的いいトリニティに賭博好きが集まるようなところはない気がする。
「そうね。そもそも、C&Cの目を掻い潜ってコユキがミレニアムの自治区から抜け出すなんてできないはずよ。それこそ、外部から手引きがないと」
どうしたものかと、私たちが考えていると不意に部屋の扉が開いた。私たちが振り向けば、入ってきたのは室笠さんだった。
「アカネ?どうしたの?」
「失礼します。ユウカさん、ノアさん。あら、草鞋野さんもいらしたのですね」
「なんの御用ですか?アカネさん。今、私たちは草鞋野さんにコユキちゃんの支援要請をしたところで」
「あら、それはちょうどよかったです」
「どういうこと?」
室笠さんが私たちに近づいてきて、スッと懐から出した小さな記録媒体。USBのようなもっと小さいそれを早瀬さんの席のパソコンに接続した。
「失礼しますね」
パソコンを操作するメイドさん、なんだか若干の場違い感があるけど、ミレニアムの生徒なのでなんともスムーズだった。
画面に表示されたのは何かの履歴だった。
「なにこれ?……いや、まって。これ、学生証のIC履歴!?」
「……アカネさん、どうやってこれを?」
私は絶句した。学生証のICのすべての履歴は簡単には見られない。見るためには連邦生徒会への申請が必要で、学生証を一時的に預けて履歴書を出さなくてはいけないのだ。だから、通常は電子データで見えることはほぼありえない。
「リオ会長からです。入手方法はわかりませんが、自治区の長ならおかしくはないかと」
「…確かに筋は通ってるけど、それにしたってこんなすぐに」
「ユウカちゃん、今は仕方がないと思います。それに、会長が動いたなら、やはり他自治区にいるということでしょう」
「はい。その通りです。履歴の……ここを見てください」
室笠さんがデータをスクロールし、ある履歴の行をドラックする。日付は今日で、お金をATMから引き出している。引き出し元はミレニアムサイエンススクールそのもの。ミレニアムほどの規模となれば、預金の額は莫大で、引き出された額は微々たるものに見えるけど、引き出されたATMの場所が問題だった。
「……嘘でしょ」
「…………トリニティ……?」
早瀬さんと生塩さんが信じられないといった声を出す。私もまさかと思った。けど、証拠はこうして目の前にあって、否定できない事実だった。
「アカネ!今すぐ行って!トリニティに!」
「無理です」
「だったら私が草鞋野さんと」
早瀬さんが立ち上がって飛び出しそうになる。それを止めたのは、同じく飛び出したいであろう生塩さんだった。
「ダメです、ユウカちゃん」
「ノア、あんたも…っ!」
「忘れたのですか?トリニティは今、例の条約もあって、治安には敏感な状況です。下手に踏み込めば、私たちが捕まりかねません」
「それはコユキも同じでしょう!?」
「ですが、それでも多人数で押し掛ければ自治区同士の問題になりかねません。けど、コユキちゃんだけなら……1人が問題を起こしたのなら」
生塩さんが言わんとしてることは私もわかった。元から問題児だった子が他自治区で問題を起こし捕まる。それならまだ“言い訳”が立つんだよね。かなりよくない考えだけど、そう、切り捨てることができてしまう。
けど、そうじゃない早瀬さんや諜報員の室笠さんが無理に今のトリニティ自治区へ入ればそれはただ一人の問題児の話では済まなくなる。
だから、もう残された手は一つしかない。
「なら、もうあとは、私がシャーレの生徒として入るしかありません」
「理由があるのですか?」
「ありますよ、室笠さん。シャーレは元からトリニティ総合学園に別件である調査の協力を依頼しています」
カイテンジャー調査任務。その協力依頼を私が先生の名前を借りて出している。解答はまだだけど、今のトリニティ自治区へ入る理由になるはずだ。
「………わかったわ。草鞋野さん、お願い。コユキを、私たちの後輩を連れ戻してきて」
早瀬さんが泣きそうな顔で言う。答えなんて一つしかない。
「もちろん。そのためのシャーレです。さっそく先生に連絡をします!」
「お願いします」
ノアさんに頭を下げられ、私はすぐにスマホを取り出す。モモトークで先生のアカウントから通話をかけようと思ったら、あまりにもいいタイミングで先生から電話がかかってきた。
「はい!エリカです!先生、お疲れ様です!」
『お疲れ様、エリちゃん。今大丈夫?』
「ちょうど私も電話しようと思ってました」
『運命感じちゃうな〜』
「そうかもしれません。それで、先生。どっちから話しましょうか――」
結果として、早瀬さんと生塩さんの支援要請は正式に受託されて、私は……私たちは翌日にはトリニティ自治区の、それも行政府とも言えるトリニティ総合学園の生徒会組織“ティーパーティー”のお茶会の席に呼ばれていた。
先生が電話をかけてきた理由は私に補佐されつつ受けたい支援要請があったからだ。内容はトリニティ総合学園の落第しかけの生徒たちを集めた“補習授業部”の顧問となって生徒たちを救うこと。私はその副担任のような立場として、いてほしかったらしい。
まさに渡船だった。合法的にトリニティ自治区へ入れる大義名分ができたのだ。
そして、その交換条件といっていいのか、トリニティ側はシャーレからの調査任務の協力を呑んだとのこと。
「――こちらの支援要請については理解頂けたかと思います」
「あとは、そっちの協力依頼だっけ?」
私たちの前にいるのはまるで天使のような有翼の生徒。どちらも只人とは思えない存在感であり、私たちが訪れたトリニティ総合学園の生徒会長のうち、二人だ。
「うん。いいかな?その調査で、エリちゃんに自治区内を捜査させてほしいんだ」
先生が相手の、つくづくピンク髪の子に最近は縁があると思うけど、生徒会長の聖園ミカさん、そして、聖園さんと対になるような雰囲気の桐藤ナギサさんに提案する。これが通らないと私は黒崎さんを探しにいけないのだ。私は腹芸が苦手だからここは先生に任せるしかない。
二人の生徒会長は先生の話を聞いて、羽で口元を隠して相談しあっている。トリニティの首脳陣に会ったのはヴァルキューレ時代でもない。感じたことがないタイプのプレッシャーを二人から感じる。なんだろう、本物の政治家を前にしたような。
「………いいでしょう。こちらも依頼していますので」
「けど、タダじゃダメだからさ。条件はつけさせてもらうよ?」
「追加で依頼をさせてもらいます。もちろん、草鞋野さん。元ヴァルキューレであなた向けのものですよ」
「え?それはどういう」
まるで全てを見透かすかのように桐藤さんからの視線が向けられて、私は金縛りにあったかのような気分になる。
「ナギちゃんこわーい。そんなに“神秘”、表に出さなくてもよくな〜い?」
「ミカさん」
「めんごめんご〜」
「全くどこでそんなはしたない言葉を。こほん。草鞋野さん、あなたには人探しをしてほしいのです」
「一体どんな人、でしょうか」
「最近、この自治区に無断で入り込んだ不穏分子がいると聞いています。正体は不明ですが、見つけ次第、正義実現委員会への引き渡しをお願いします」
悲鳴をあげなかった私を先生は後で褒めてほしい。
「具体的な風貌までは聞いていません。あくまで噂のようなものです」
「ふふ。元警察官のエリカちゃんにはピッタリな依頼でしょ?私たち、そういうの得意じゃないからさ、プロの力も借りたいなって」
「………は、はい。喜んで!本官にお任せください!」
声が上ずる。もし、コユキちゃんのこと言っているのならまずいなんてものじゃない。私が震えそうになっていると、先生が頭に手を置いてくれた。
「大丈夫だよエリちゃん。私と初めての支援要請だけど、そんなに緊張しないで」
「す、すいません」
先生が助けてくれた。………先生が支えてくれたならそれに、“絶対”、応えないと。
覚悟を決めて、私は目の前の二人に向き直る。
「…へぇ」
「おや」
「任せてください!これでも私は、犯人の確保率100%なんです!」
精一杯の自慢をして、私は追加依頼を受けた。
「アカネ、これを」
「なんでしょうか、これは?記憶媒体?」
「コユキの生徒証のすべての履歴よ」
「………どこでそんなものを?」
「生徒会長よ、私は」
「確かに、不可能ではないですね。会長なら」
「シャーレの子が来ているのでしょう。ヒマリが会っているはずよ」
「そうですが、どうするつもりですか?」
「コユキは今、抜けられると困るの。連れ戻してもらってちょうだい」
「私たちを使われないのですか?」
「あなたたちも、“今”失うわけにはいかないわ」
「………上手くいきますか?」
「草鞋野エリカのプロフィールは事前に調べさせたでしょう」
「そのためだったのですか?今日、特異現象捜査部とコンタクトさせたのは」
「そうよ。ユウカ、ノア、二人も使えば確実に乗るはずよ。シャーレでの出来事も加味すれば、依頼を受けない可能性は0に近いわ」
「……わかりました。コールサイン03、タイミングを見計らって、声をかけます」
「よろしく、アカネ」
というわけで、第一章はバニーチェイサー in 厳戒態勢のトリニティとなります。
真っ直ぐすぎる主人公、なまじ実力があったので利用されやすく、利用されまくりです。