頑張りとは、報われるべき願いである   作:ババネロ

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今回の連続投下はここまでです。
ここすき、感想、本当に励みになります!ありがとうございます!

では本話もお願いいたします。


Area-05「アビドス商店街 #買い出し #部員募集 #事件」

 全身を黒の外套で身に包み、華美な装飾が施された長大な狙撃銃を抱えた少女──”絵庭サロネ”を名乗る生徒は根城にしているとある地下施設のオペレーションルームにいた。

 

『不知火カヤは確かに預かった』

 

「はい」

 

『君のように約束を違えることのない生徒が彼女の傍にいてくれて助かる』

 

「約束は守るから約束です。私は当然のことをしたに過ぎません」

 

『そうか。なら今後もよろしく頼む』

 

「えぇ、どうぞ。よしなに」

 

『そういえば、以前、我々の再教育プログラムがどのようなものか知りたがっていたな』

 

「……FANG小隊に与えたものとは違うとは聞いていますが」

 

『FANG小隊が受けたのは我々のPMC用に作られた訓練プログラムだ。個の能力で戦況が左右されない、群の動きで戦場を掌握するためのものだ』

 

「では、再教育プログラムとは」

 

『……時に、君はヴァルキューレ警察学校が行っている”スラム狩り”は知っているかな?』

 

「えぇ、知っています。点数稼ぎの大量検挙。目的を見失った行為です」

 

『そこまで言うかね。犯罪者は確かに減るぞ?』

 

「……続きを」

 

『すまない。失言だったな。続けよう。そのスラム狩りを我々カイザーPMCも行っている』

 

「あぁなるほど……最近、ヴァルキューレ内部で捜査されているスラム失踪事件はあなた方によるものでしたか」

 

『実際に行っているのはカイザーではなく、カイザー傘下のグループ会社だがな。オクトワイズ社の名前を聞いたことは』

 

「連邦生徒会でも使用している研修専門の会社ですね。カイザー傘下だったとは知りませんでした」

 

『オクトワイズ社は大人から生徒まで幅広く研修を行っているが、今回不知火カヤに受けさせるのはスラム狩りで回収した生徒たちに受けさせる地獄の更生プログラムだ』

 

「地獄……具体的には?」

 

『二人一組ペアになり、寝食は与えられる。すべての行動は管理され、一日のノルマが科される。ノルマを達成できなければその解消策を翌日朝の朝礼で言う。言えなければ卒業まで1日ずつ伸びていく──無間地獄とも社内では言われているな』

 

「そのようなプログラムはオクトワイズ社のホームページにはないですが」

 

『いわゆる裏メニューだ。この更生プログラムを突破した生徒から選抜し、さらにカイザーPMCの養成校へと送るという計画だ』

 

「なるほど。では、不知火カヤも?」

 

『いや、彼女には突破後さらに再教育センターへと行ってもらう』

 

「そこで何を」

 

『カイザーへの忠誠を埋め込み、連邦生徒会へと返す。約束を守れるように』

 

「………なるほど。しつけが必要と」

 

『そういうことだ。反骨精神が透けて見える彼女の鼻を折ってしまわないといけない。再教育センターの教官たちは彼女の到着を心待ちにしている』

 

「そうですか。流れはわかりました」

 

『ではな。セカンドサンクトゥム計画の始動は遠くない。プレジデントはサンクトゥムタワーから見る景色を早く見たいと言っている』

 

「急いではことを仕損じる可能性もあります。慎重にやっていきましょう」

 

『君の言うとおりだ。心得ておこう』

 

 ブツリと通信が切れる。絵庭サロネは一息つく。

 

「思っていたものと違いましたね」

 

 絵庭サロネはカイザーの重役から話された内容にやや肩透かしをくらっていた。カヤが再起不能となるような環境とは程遠く、やっていることはチンピラを矯正し、手に職を最終的には与えるものだ。

 

 その中で脱落し、消えていく生徒がいるのは想像できたが、カヤの異常なまでの精神力が耐え抜けてしまうことは容易に絵庭サロネには想像できた。

 

「カイザーの狙いは採掘場で発見されるかもしれない超兵器。そして、その採掘に関わった生徒をPMCに入れる。更生プログロムは精神力・知力・体力を計るにはもってこいということですか」

 

 カイザーグループのPMCには数少なくとも生徒が所属しており、優秀なものは他の企業や学園に入学させられることもあった。絵庭サロネはもしカイザーの計画が成功すれば、新たな企業主体の「学園」が産声を上げることが簡単に想像できた。

 

「力を持ち過ぎたもの。秩序を破壊しようとするもの。いずれそれらは腐り、世界を病ませる。カイザーには事を急いで仕損じてもらわなければなりませんから──」

 

 絵庭サロネはオペレーションルームから抜け出すと、地下施設内を歩いていく。そこには本来貯蔵されていなくてはいけない兵器群が全て無く、伽藍堂の倉庫でしかなかった。

 

「──あの駄犬が、食い散らかしてくれるのを愉しみにしていましょう。絵庭防衛室長」

 

 彼女の指が、狙撃銃を撫でる。寒気のするような光景を見たものは誰一人としていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「ん。強盗を襲う」

 

「なんて?」

 

 アビドス廃校対策委員会の朝礼が終わり、やることのなかった私はアヤネちゃんからシロコさんと買い出しに出かけたのだけど、車の助手席に座っているシロコさんからなんかとんでもない言葉が出てきた。

 

「それならエリカも止めない」

 

「えっと、シロコさん?何を言ってるのかよくわからないんだけど」

 

 今、走っている道路はほとんど対向車もいない。買い出しに行く予定のアビドスの商店街までは借りたワンボックス車ですいすい走っている。シロコさんの発言に驚いて気を取られても大丈夫だった。

 

「最近、賞金稼ぎをしようとしても賞金首がいない」

 

「賞金稼ぎ?」

 

「アビドスにはアウトローが多いから。捕まえてD.U.まで行ってヴァルキューレに突き出せばお金になる」

 

「あぁ、懸賞金だね。シロコさんそんなことしてたの?」

 

「ん。頭使わなくても簡単にお金が入るから楽ちん」

 

 得意げになる彼女になんだか可愛さを感じつつも、懸賞金がかけられるような生徒はそこそこの実力があるし、複数人でグループを作ってることも多い。それをシロコさんは一人で狩っているみたいだ。

 

「でも、今の仕事は買い出しだよ」

 

「それはそう。アヤネの指示はちゃんとこなす」

 

「よかった。アビドスのこと私はよく知らないから、シロコさんがいなくなったら困っちゃうよ」

 

「そうだね。だから一緒に済ます」

 

「………はい?」

 

「昨日、セリカが言ってたみたいに強盗がまたエリカのところに現れるかもしれないから」

 

「人を罠みたいに思ってない?」

 

「思ってない」

 

 ほんとかなぁ。まぁいいや。悪事をする人が現れたら対応しないとね。

 

 賞金首以外でも、強盗のうち悪質なのは捕まえるとちょっとだけ報奨金が出たり”することもある”というところなので、シロコさんはそれ狙いなのかな。

 

「そういえば、シロコさんは普段何をしてるの?」

 

「サイクリング」

 

「自転車が好きなんだよね?」

 

「ん。でも色々とお金がかかる」

 

 自転車も行くところまで行くと車1台と変わらない値段のものあるし、やっぱり入り用なんだね色々と。アビドスの借金返済に加えて自分の趣味も維持しようとするとなれば、そりゃ、狩れるなら賞金首を狩るのは効率的かも。……効率とか言っちゃいけないことだけど。

 

「よければエリカも一緒にやろう。アビドスサイクリング部、部員募集中」

 

 スッ、と視界に広がる入部届。

 

「危ないから!?」

 

「ごめん」

 

「はぁ……それで、サイクリング部?」

 

「そう。自転車で風を切って走るのは気持ちいい。特に朝のアビドスの空気は冷たくて、澄んでて」

 

 シロコさんは表情の変化が乏しい。でも、チラリと見た彼女の顔は明らかに楽しそうというで、本当にサイクリングが好きなのがよくわかる。

 

「他のアビドスの子は?」

 

「みんな断られた。ノノミだけはやろうとしたけどウェアが、おっぱいおっき過ぎて入らなくて断念した」

 

 ものすごくあけすけにシロコさん言ってて私はむせそうになった。いやまぁ、なんとなく状況が想像できるけど……。なんで心なしシロコさんが遠い目をしているんだろうか。

 

「だから今も一人。エリカ。どう?」

 

「サイクリングか〜」

 

 自転車に乗ることは安全局の局員として交番勤務だったりするとあるし、乗ること自体を楽しもうなんてこと、考えたことがなかった。新しい趣味の開拓は悪くないな、と思う。

 

「悪くないけど、時間があるかなぁ」

 

「どういうこと?」

 

「支援要請がひっきりなしに来ることが多いから」

 

「もしかしてエリカも先生と同じで休みがないの?」

 

「シャーレは室長とかそのあたりと同じ幹部扱いになるから無いよ」

 

 疲労が限界に達すれば私と先生交互に休むといった形で、土日祝日などない。ヴァルキューレ時代と同じだ。事件は待ってくれないからね。夏季休暇も自由に取れと七神代行に言われたのはそのあたりの裁量は各々に任せられてるからだ。

 

「……ブラックすぎる」

 

「そうかな?」

 

 シロコさんがものすごく微妙な顔をしてる。けれど、しょうがない。それがシャーレ。生徒たちみんなの味方なんです。

 

「話を戻すね。趣味で乗れるかわからないけど、自転車は欲しいかも。近場に行く時、やっぱり便利だからね」

 

「…!それなら、私がいい自転車を紹介する。今から行こう」

 

「買い物を済ませたらね」

 

 露骨にシロコさんの耳がピコピコしていた。私たち獣人系の生徒はケモ耳に感情が出やすい。それはどこかポーカーフェイス気味なシロコさんでも変わらないようだ。

 

「そういえば、ホシノ先輩はエリカのこと、前に間違えて先輩って呼んでた。エリカのほうが年上なの?」

 

「え?ううん。同い年のはずだよ」

 

「……?そうなんだ」

 

「誰かに似てたのかな」

 

「そうかもしれない」

 

 今朝のことといい、ホシノちゃんの知っているアビドスOGの人と私似てるのかな?まぁ、卒業してる人のことだから知る由もない。そういえば、私ってこのままシャーレにいるってことになるとどうなるんだろう。シャーレ1年生、ってことでまたあと2年は学生なのかな。

 

「あとアヤネがエリカに懐いてて驚いた」

 

「懐いてるって、そうかな」

 

「あれは懐いてる。エリカは人たらし」

 

「………それ言われたの、シロコさんで二人目かも」

 

「その一人目は誰?」

 

「私の友達。ヴァルキューレ警察学校の子だよ」

 

 カンナちゃんのことである。捜査では有用だし、必須技能だと褒めてくれたけど、それはそれとして背後には気をつけるんだなとよくわからないことを言われた。八方美人するなってことだと思う。

 

「だから私はエリカにも従う」

 

「従う?」

 

「アヤネの判断は間違うことがないから」

 

「すごい信頼だね」

 

「私はいい先輩だから」

 

「あはは…そっか。でも、大事なことだね。私も部下のことは信じてるから」

 

 じゃあアヤネちゃんと合ってなかったらシロコさんは私をどうしていたんだろう。考えないようにしておこう。仮に戦うことになっても、地の利があるシロコさんに勝てるビジョンがあんまり浮かばない。

 

「エリカ、見えてきた」

 

「あそこが商店街のあるところ?」

 

「そう」

 

 遠くに、街が見える。目的地のようだ。

 

 私は少しだけ、気持ちアクセルを踏み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 買い物は手早く済ませることになった。どうやらシロコさんが自転車屋さんに早く行きたいらしい。買うものは保存が効く食材や、弾薬類。ちょっとした弾はコンビニで買えるけど、大量にとなると難しいからね。

 

「ん。これで全部」

 

「そうだね」

 

「早く自転車屋さんに行こう…!」

 

「ものすごく嬉しそうだね!?」

 

 なんだかまるで、おもちゃ売り場に急ごうとする小さな子供のようだった。乗ってきた車に荷物を詰め込んで、一旦駐車場に停めたままにすることになる。治安的に大丈夫かな、と思ったけど、しっかりそのあたりはアヤネちゃんがキルスイッチなどの細工をしていて、エンジンをかけるにも一手間が必要だから平気だ。

 

「それでお店は?」

 

「あっち」

 

 シロコさんが駆け出す。慌てて追いかける。結構足早いなぁ。

 

 しばらく走って、商店街の端っこまでやってくるとだいぶ年季の入った自転車屋さんがあった。店主の獣人もだいぶ年配の方のようだけど、シロコさんを見ると破顔した。

 

「おぉ、シロコちゃんじゃないか。どうしたんだい?」

 

「今日は友達が自転車を買いに来た」

 

「本当かい?そりゃ嬉しいね。大したもんは置いてないけど、まぁ、見てってくれ」

 

 まだ買うとは…と思ったけど、大して使いもしない給料、使わないとね。シロコさんに案内されるがままに店内へと入り、それから色々と説明を受けた。

 

 シロコさんは話せる相手に飢えてたのか、クールなイメージとはかけ離れた饒舌さだった。趣味が話せないというのはかなり苦痛だと思う。なので私は極力彼女の話に合わせたし、わからないことがあれば積極的に聞き返すようにした。

 

 最終的に、シロコさんおすすめのロードバイクを購入した。アビドスにいる間は暇なんだから早速明日走ろう、とシロコさんが言うので、買ってすぐお持ち帰りだ。

 

「明日が楽しみ」

 

「本当に楽しみそうだね」

 

「当然。念願のサイクリング相手」

 

 お目目がキラキラしてる。無茶苦茶相手に飢えてたんだね…。

 

 まぁ、気分転換にはもってこいだし、ナギサちゃんもたぶんこういう感じで過ごして欲しかったんだろうと思う。そう思えば、シロコさんの趣味に付き合うのはアリなんだと思えてくる。

 

「自転車を積めるワンボックスで来てよかったね」

 

「アヤネが流石」

 

「ははっ、そうだね」

 

 そこまで見越してじゃないけど、ペイロードに余裕のある車両を回すあたり、やっぱりアヤネちゃんは優秀だ。自転車以外なら昨日乗らせてもらった四駆でも済むんだけど、あえてワンボックスで行かせてくれたのかな。

 

「戻ったら準備しよう。明日は早い」

 

「そういえばどれぐらい走るつもりなの」

 

「D.U.まで往復」

 

「え」

 

 いやいやちょっと待って?D.U.まで往復?え?

 

「も、ものすごい距離あるよね!?」

 

「エリカは毎回私が自転車で来てるの知ってるはず」

 

「あれほんとにアビドスから来てたの!?」

 

「大丈夫。エリカの体力ならいける」

 

「一応私、休みを取らなきゃなんだけど!?」

 

「……そうだった。あんまり連れ回すとアヤネに怒られる」

 

「わかってくれてよかったよ」

 

「だからアビドス1周にする」

 

「いやアビドス広いよね!?」

 

 このままだと明日一日自転車に乗る羽目になる。それはもうなんだかもはや、競技の域に達しているような気がする!ぐぐっ、でも、シロコさんのことをがっかりさせるわけにも…!

 

「し、シロコさん!私初心者だからさ!こう、お手柔らかに」

 

「は……ごめん。そうだった。沼に沈めるには、大事にしないと」

 

 沼ってなに。

 

 ともかく、わかってくれたのか、それ以上は長い距離を走る話はなかった。

 

 車を停めた商店街の駐車場に戻って、自転車を積み込む。コインパーキングなので、黒見さんからもらった学校のお金を使って支払い、領収書も忘れない。

 

「戻ろうエリカ」

 

「そうだね。じゃあ帰りも安全運転で──」

 

 ドアを開けて車にいざ乗り込もうとした瞬間だった。商店街のアーケードの中から発砲音が響いた。生徒同士の喧嘩ではなく、一方的な発砲だ。シロコさんも私と同じく種族的によく聞こえるのか、私を見て頷き、アサルトライフルを手にしていた。

 

「シロコさん」

 

「わかってる。それじゃあ……」

 

 シロコさんが颯爽と車から降りて駆け出す。

 

「強盗を襲う」

 

「いやほんとになんて?」

 

 強盗がカモにでもシロコさんからは見えているのか。走るスピードはさっきと比較にならない。まるで獲物を見つけて狩るためのような動き。姿勢も低く、獰猛に感じる。そんなシロコさんの横につき、私もライフルを構える。

 

「……エリカ、速いね」

 

「ありがとう」

 

 賞賛を受けつつ、現場に急行する。見えた。あれは質屋さんだったはず。よく営業車などに使われるバンがお店の前に停められ、そこに覆面姿の生徒たちが次々と商品を放り込んでいた。

 

 あれ昨日の強盗団では?もう現行犯となってしまえば捕まえるしかない。シャーレの生徒として……いや待て。まずい。今の私はトリニティの生徒でしかない。つまりシャーレの生徒としての権限が使えない。

 

 それどころか、そもそも、私ってアビドスで戦っていいのかな。

 

「私たちの偽物。手際も悪い」

 

「シロコさん!?」

 

 悩んでいたらシロコさんが発砲しながら突撃してしまった。

 

「なんだ!?」

 

「あの銀髪ケモ耳……!強盗狩りの砂狼だ!」

 

 え、そんなにシロコちゃん名前知られてるの。

 

「おとなしくして」

 

「ぐべぇ!?」

 

 突撃したシロコさんは流れるような動作で見張り役をしていた一人の生徒へ飛び蹴りし、転がったところへ更に追撃で射撃。鯛のように転がった相手は跳ねた。おとなしくってそういう感じ!?

 

「一人目」

 

「4号がやられた!?くそぉ!ずらかるぞ!」

 

「逃がさない」

 

 逃げようとするリーダー格なのか赤い覆面姿の生徒に、シロコさんはするりと近寄ると脇腹をストックで殴ったところに足払いし転ばせた。そこへ、背後から大きな盆栽が乗った鉢を振り下ろそうとしている強盗がいる。

 

「やめてくれー!その盆栽はワシの私物!」

 

 店主の悲鳴。あのままだと割られるし、シロコさんもあんな鈍器で殴られてはまずい。

 

 ええい!私よ迷うな!撃たなきゃいい!

 

 地面を蹴る。爆ぜるインターロッキング舗装。ごめんなさい。シロコさんと鉢を抱えた強盗の間に回り込む。鉢を左手で掴み、私は強盗の鳩尾に正拳突きを放った。

 

「ガボぉ!?」

 

 加減したので大丈夫かな。それでも相手は力を失い、鉢から手が離れる。私が鉢を持っているので盆栽は台無しにはならず、強盗は痛みでうずくまった。

 

「4号、1号、3号!」

 

「なんなんだよ!お前らいきなり!」

 

 残った二人が声を荒げてくる。なんだと言われてもね。

 

「大人しくして」

 

「いだだだだっ」

 

 シロコさんが倒した強盗の利き手を踏んでいた。よ、容赦がなさすぎる。

 

「そこの二人、投降すれば撃たない」

 

「えちょっ」

 

 ゴリ、っと聞こえてきそうなぐらいシロコさんが足蹴にしてる強盗の頭に銃口をめりこませた。待って。どっちが悪党だかわからなくなる。

 

「く、くそっ!噂は本当だったのか…!」

 

「血も涙も無い狼…!」

 

「あと5秒待つ。5、4」

 

「待って待ってシロコさん!やりすぎ!」

 

 あぶなっ。本当に撃つとこだった。シロコさんがこてんと首を傾げて「どうして」と言わんばかりだ。私の立場がいくら微妙でも、過剰なのは見過ごせない。とりあえず手に持った鉢を店主の前まで持って行き床に置いてから、店内でこちらを伺う残りの強盗と向き合う。

 

「今ので私たちの実力はわかったはず。投降して下さい」

 

「す、するかよ!だいたいお前ら警察でもなんでもないだろ!」

 

「少なくとも、こちらの砂狼さんはアビドス高校の生徒会組織の生徒。治安維持の権利はありますよ」

 

「………そうなの?」

 

 てっきり理解してるものかと思ってたよ!?取り乱すわけにはいかない。とにかく、相手に抵抗は無意味だということをわからせないと。

 

「ここで投降すればヴァルキューレ警察学校へ連れて行きます。……それとも、このまま怪我をしたいのですか?」

 

 ナギサちゃんの喋り方を意識してみる。声音は穏やかに、でも硬く冷たく。凪いだ海のように大きく自分を見せる。

 

「お、おどしかよ」

 

「いいえ──事実を、述べているにすぎません」

 

 私に殴られた子がギロリとこちらを睨んで、殴りかかってくる。

 

「うおおおおっ!」

 

「ですから、おやめなさい」

 

「うあっ!?」

 

 勢いを殺さず腕を掴み、背負い投げ。投げ飛ばさずにそのまま地面へと叩きつける。

 

「うぐっ」

 

 背中を強打した相手は動きが鈍る。これ以上動かれては困る。

 

「ご理解頂けないでしょうか。これ以上の乱暴狼藉を図られるようであるなら、私たちも相応の対応をしなくてはなりません」

 

「だったら──」

 

「人質を取ろうなどという、卑劣な真似は許しません」

 

 言葉で先を取れば、相手は怯む。捕まりたく無いから諦めないのはわかる。でも、なんというか、追い詰めていけばどんどんそれ以上に何か、焦っているような感じがする。頼むから諦めて欲しい。

 

「ふざけんなっ!こんなところで終われるかよ…!あたしたちまで消えたくねぇ!」

 

「ヴァルキューレは犯罪者であったとしても、その存在を否定することはしません」

 

「警察なんか知るか!私たちを助けてもくれねぇ!スラムの人間に警察が何をできる!」

 

 気になるワードが聞こえた。

 

 スラム、そして消える。少し前、ハルナとの休暇から帰ってきた時のことだ。コノカちゃんから珍しく仕事のことで電話がかかってきて、私に手助けを求めてきた。

 

 その内容が、公安局で捜査中だというスラム街や非合法な活動をしている生徒の集団失踪事件。人が集団で消えるなんてたとえどんな相手であっても、ヴァルキューレは無視できない。

 

 だからその捜査のために民間協力者を探しているということなので、先生にも相談して便利屋68を紹介しておいた。陸八魔さんや錠前さんが応じたかはわからない。

 

「それとこれとは話が別です。もし不安があるならヴァルキューレに相談してみましょう」

 

「お、おまえ、なんなんだ。トリニティの生徒のくせして」

 

「さぁ?それは秘密です。とにかく、投降してください。私たちの実力はお分かりになったはずです」

 

 

 

 

 

 

 

 強盗団たちは投降し、全員拘束した。アビドスに一番最寄、D.U.の端にある派出所に通報し、強盗団は引き取られていった。なお、コノカちゃんに強盗団が失踪事件を恐れてD.U.から逃げ出してアビドスで悪事を働いていたことも伝えておいた。

 

「随分遅くなっちゃったね」

 

「問題ない。ちゃんとお金も貰えた」

 

「よかったね」

 

 ライトを点けながら帰ることになった。生モノ買わなかったので時間がかかってしまったけど大丈夫そうだ。シロコさんへの報奨金は私の口添えによってコノカちゃん経由で支払われた。代わりに「お土産楽しみにしてるっす」とねだれられたけど。

 

 えーっと、誰と誰にお土産を買っていけばいいんだろう。先生、飛鳥馬さん、ナギサちゃん、ミカさん……あとコノカちゃん?あぁ、カヤちゃんにもだね。

 

「シロコさん。アビドスの定番のおみやげとかある?」

 

「ホシノ先輩が詳しいと思う」

 

「そっか。じゃあ戻っていたら聞いてみようかな」

 

「それがいいと思う」

 

 というわけでそれからしばらくは疲れたのもあってお互い無言でアビドス高校まで戻ると、校門のところでみんな待っていた。待たせてしまったなぁ。

 

 校門の前で止めて、私は窓を開けた。

 

「ごめん、遅くなっちゃった」

 

「へーきへーき。それじゃあ荷物運ぼうか。昇降口の前につけてね」

 

「はーい」

 

 車を昇降口の前につけて、私たちは手早く校内へと荷物を運んでいった。陣頭指揮をとっていたのはホシノちゃんではなくアヤネちゃん。的確な指示で、あっという間に荷物の運び込みは終わった。車は黒見さんが戻しにいき、ホシノちゃん以外はみんな解散ということで下校してしまった。

 

「じゃ、あたしも帰るわ。またね、先輩」

 

「ほいほい。気をつけるんだよ〜」

 

「お疲れ様、黒見さん」

 

 車を戻した黒見さんも帰ってしまい、私とホシノちゃんは昇降口に残されてしまった。

 

「ふぁ。色々悪かったねぇ。治安維持まで手伝ってもらって」

 

「全然」

 

「シロコちゃんやり過ぎちゃうとこあるからね。あんまり恨みを買ってあとで大変なことになったらヤだし」

 

 やっぱりそこは懸念してたらしい。実際、賞金稼ぎをしてる生徒って恨まれて逆襲されることも少なくない。シロコさんは並の実力じゃないから大丈夫だし、おそらく力量差も測っていると思う。

 

 けれど、狩り続けて多くの賞金首たちが団結してくることもありえる。手早く圧倒的に、というのが賞金稼ぎをする生徒たちの鉄則なはず。

 

「ねぇ、ホシノちゃん。今日の強盗団だけど、どうにも今、各地で起きてる事件から逃げてた生徒たちみたいなの」

 

「なに事件って」

 

「スラムとか、ワケアリな生徒たちの集団失踪事件」

 

「物騒だなぁ」

 

「……シロコさんが言ってたけど、最近賞金首が少なくなったって」

 

「それ確かに言ってたよぉ」

 

「もしかしたら、アビドスでも起きてるかもしれない」

 

「……まさかあ。こんな場末で?」

 

 ホシノちゃんがありえないでしょ、って顔をしてるけど、私の勘が既に何かあると囁き始めてる。ホシノちゃんはぽりぽりと頬を掻いた。

 

「うーん……まぁ、エリカちゃんならいっか」

 

「え?」

 

「たしかにまぁ、最近パトロールしてるとヤンチャな子たちが減ったなって思うよ」

 

「ホシノちゃんパトロールしてるの?」

 

「散歩がてらね。ほっとくと本当にアビドス無法地帯になっちゃうし」

 

 まさかホシノちゃんがそんなことをしていたなんて。まさか普段から眠いのってそれが理由なのかな。

 

「……それなら、調べて見る価値はありそうかな」

 

「いやいやエリカちゃん。約束」

 

「うっ。でもぉ」

 

「まぁまぁ。そんな事件がここで起きてるなら、私たちも何かしないとだからさ。ちゃんと自治区のことは自治区で片付けないとね」

 

「いいの?」

 

「当たり前だよ。ここは私たちの学校だから」

 

 ね、とホシノちゃんが笑ってくれた。その表情はとても頼れるもので、普段のゆるいホシノちゃんからは想像もできない。

 

「さぁて、ガラにもなくおじさんかっこつけちゃったし、もう今日は帰って寝るかなぁ」

 

 なんだろう、一瞬でこう、ぷしゅーっと空気が抜けたかのようにホシノちゃんの雰囲気がいつもの気の抜けたおじさんに戻ってしまった。私も苦笑いするしかない。あぁでも、なんだろう。もう少し、ホシノちゃんとは話してみたいな。普段は喋る機会もないし。

 

「ねぇ、ホシノちゃん。帰ろうと思ってるところ悪いけど、一緒に夜ご飯食べない?」

 

「こんなおじさん誘うなんて趣味が悪いぞ〜」

 

「そんなことないよ。お世話になってるんだもん。少しは何かさせて欲しいから」

 

「うへ〜、律儀だなぁ。わかったよ。それなら、また美味しいご飯、作ってくれたりするのかな」

 

「もちろん。食べながら、テレビでも見て話そうよ」

 

「うへへへ。なんだろ、ちょっとそういうの久々だなぁ。わかった。食べよ」

 

 ほんのちょっとホシノちゃんの動きが弾んだものになった。よかった。

 

 結局、このあと私とホシノちゃんの夜更かしは長くなってしまい、学校の中でお風呂に入ったりして、二人でお泊まり会となってしまった。なんだかホシノちゃんは終始私に対して話す時に甘えてくる感じで、ホシノちゃんの新たな一面を見てしまった。

 

 アビドスでの二日目はちょっとした騒動があれど、楽しく終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 あぁ、これはダメだ。

 

「へぇー、こんなおしゃれなカフェオープンしてたんだ。ホシノちゃん、今度行ってみない?」

 

「いやぁ、そういうのは黒舘ちゃんとか桐藤ちゃんみたいな子と行くといいよぉ〜」

 

「そんなことないって」

 

 朗らかに笑う彼女を見て、どうしてもよぎる。まるで乾いた私の心のうちに雨が降るみたいに。

 

「でもホシノちゃんも甘いもの、嫌いじゃないでしょ?」

 

「そりゃそうだけどねー」

 

「ならいいじゃん!今度当番に来た時行こうよ!」

 

 夏出会ったあの子達がどうして心惹かれるのかようやく本当に理解した。それと同時に、私の中に出てくるのは吐き気に近い自己嫌悪。

 

 最悪だ。私は。

 

「うへ〜、熱烈だなぁ。こんなおじさんと一緒にいて楽しいの〜?」

 

「楽しいから誘ってるんだよ?」

 

「こりゃ一本取られちゃったなぁ」

 

 甘い毒のように、じんわりと私の中が満たされていく。私はこんな最低な人間だったのか。代わりがいれば、それを求めるような、そんな人間でしかなかったのか。

 

 よりにもよって、それを、目の前にいる彼女に、求めてしまうのか。私と同じ、違う。もっと、辛く苦しい経験をしている。草鞋野エリカ、彼女は。

 

「………エリカちゃん」

 

「どうしたの?ホシノちゃん。急にそんな真剣な顔して」

 

 止めないといけない。こんなことは。でも、名前を呼ばれる度に声がかぶる。

 

 

 

──ホシノちゃん!

 

 

 

 明るく太陽のような暖かさ。

 

「いやぁ、そろそろ眠くなってきたなぁって」

 

 じゃれるように飛び込んで彼女に触れる。その身体は先輩とは違う。柔らかい女の子の体の下に、よく鍛えられた堅さがあった。それがひどく、安心感を与える。

 

「急に抱き付かないでよ、ホシノちゃん!」

 

「ごめんごめん。いやーお泊まり会なんて久々だし、ガラにもなくテンション上がっちゃったよ〜」

 

「そういうこと?」

 

「そういうことだよ〜お姉ちゃん」

 

「それ絶対おじさん的なセクハラでしょ!」

 

「お、よくわかったねぇ〜」

 

 最悪だ。私が、最悪だ。なんで、こんなひどいことを彼女にしているのに。

 

 なんで私は………こんなにも、彼女の暖かさで、深い眠りに落ちそうなんだ。

 

 彼女を私は託された。守って欲しいと、健やかにいてほしいと。それなのに。彼女のことを大切に想う人たちに、なんて申し開きすればいい?

 

 もう、止められない。だからせめて、彼女がアビドスにいる間は約束を守ろう。

 

 エリカちゃんのことは傷つけさせない(次は絶対に死なせない)。誰にも。

 

 

 

 

 

 

 

「お疲れ様です!局長!」

 

「問題のものは」

 

「こちらです!」

 

 D.U.子うさぎタウン、子うさぎ公園。その前に何十台ものパトカーが集結し、遅れてやってきたカンナは降りたパトカーから局員に案内され公園内へと急ぐ。公安局や鑑識局、警備局、さらには安全局などの生徒が公園内のある茂みの周りを調査している姿がカンナに映る。

 

「第一発見者は」

 

「あちらのSRT生です」

 

 案内をする公安局の生徒が手を挿す。顔を青白くした黒髪の生徒……ミユがミヤコに付き添われ聴取を受けていた。

 

「公園の中を警戒中に発見したと」

 

「そうか」

 

 カンナは短く答え、街灯が照らす公園の中、規制線で囲われた範囲内へと入る。パシャリと写真を取る鑑識の生徒がカンナに気がつき敬礼をするが、カンナは辞めさせる。

 

「いい。それより、これか?」

 

「はい……ひどいものです。衣服の状態からして、脇腹をひどく損傷しているかと」

 

「………バカな」

 

 木陰、そこにあったのは血まみれでズタズタになった白い制服──連邦生徒会の防衛室室長が身につけている制服であり、生徒手帳やハンドガンも落ちている。

 

「付着した血痕はすぐに検査に回すんだ」

 

「了解しました」

 

「姉御ー!」

 

 指示を出したカンナにコノカが駆け寄ってくる。

 

「なんだ、副局長」

 

「あのSRTの生徒、昼間に防衛室長に会ってたらしいっすよ」

 

「そうか」

 

「いやそうか、って。状況的に一番あいつらが怪しいっすけど?」

 

「動機がない。それはお前もわかるだろう」

 

「うーん、姉貴の下にいる連中ですし、そりゃそうなんすけど」

 

 コノカが頭を掻いていると、聴取をしている警備局の生徒が声を荒げた。

 

「だから最後に会ったのはいつなんだ!本当にこの公園に防衛室長が一人でやってきたのか!?ありえないだろ!」

 

「ひぅ」

 

「やめてください!ミユは嘘をついていません!」

 

「SRTの名前を汚して…恥を知れ!恥を!」

 

 まるで犯人と決めつけているような強迫的な言葉に、カンナは思わず顔をしかめる。

 

「なんだアレは」

 

「あの警備局の、元SRTらしくて」

 

「……捜査の邪魔だ。帰らせろ」

 

「いいんすか?警備局長がうるさいっすよ」

 

「私怨をぶつけるなど警察官として失格だ。とっとと摘み出せ」

 

「へーい」

 

 部下に対応を任せ、改めてカンナは遺留品……明らかにカヤのものと思われるそれらを観察する。そのまま見れば、遺体は持ち出され、見せしめとして制服が残されたと見える。出血量も明らかに致死量であり、カンナはこれ以上の血の池を見たことがある。

 

「(フェイクだな)」

 

 だからこそ、カンナは目の前の惨状がフェイクであると考えた。カンナは周囲の茂みを観察したが、血痕が枝木に付着していないことを見る。目の前の光景はまるで致命傷をこの場で負い、木によりかかったまま息絶えたかのようだった。

 

 そして、そこから衣服を脱がしたのなら、血はもう少し不自然なつき方をしているところがあるはずだが、それもない。

 

「(なら室長は無傷の可能性がある。拉致されたか。……まさか、私と室長の会話が盗聴されていたのか?)」

 

 カヤが拉致される可能性としては一つだけカンナに心あたりがあった。SRTの元DINGO小隊失踪事件。何が起きているのか。

 

「(………これは我々の手に負えるのか?)」

 

 カンナの脳裏に過ぎるのはシャーレの名前。何か大きなことが動いている。彼女はどう動くのが最適解なのか悩みながら、夜空を見上げた。

 

 




■現在公開されているエピソードはここまでです。
↑どうして?となりがち。

ホシノは可愛いですね。サービスイン時に即天井かましたぐらいには個人的に好きです。


お読みいただきありがとうございました。

次回はまた未定です。
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