では今話もどうぞ。
「んにゃ〜……これが朝チュンってやつかなぁ」
早朝。いつぶりかの熟睡を経てホシノが目を覚ます。二つ並べた布団のうち一つから体を起こし、横でまだ寝ているエリカを見れば、綺麗な寝相に「性格出てるなぁ」とホシノは思った。
枕元に置いた携帯をホシノは取り、画面で時刻を確認すれば朝6時にちょうどなったところで、布団の上であぐらをかきながらホシノは携帯でネットニュースを覗いた。
「さてさて、今日の世界情勢は、っと」
その行動はおじさんっぽい動きをしようというホシノのおじさん被りが今は日課となってしまった結果であり、新聞を定期購読していないがために携帯での閲覧だった。
「…まぁ、目ぼしいものはないかにゃ」
ありきたりなニュースばかりで、特段気にする必要がないものばかり。じゃあ今日の運勢も見よう、とホシノはページを移ろうとしたが、その際に誤ってページを更新してしまった。
「おっと…間違えちゃった。回線遅いからめんどいなぁ」
遅い、といってもサイトは軽く、ものの4、5秒で更新される。改めて占いをとホシノは指を動かしたが、止めた。
「……なにこれ?」
ついさっきまでなかったとあるニュースタイトルがそこには踊っていた。ホシノは指をそちらへ向け、ページを開く。速報と打たれたためか、記事の内容は薄かったが、何が起きたかはわかった。
「……防衛室長、失踪…?」
記事のタイトルは──【速報】連邦生徒会防衛室室長、失踪か──センセーショナルなタイトル、失踪した人物の顔写真。記事の内容は数行。ホシノはエリカのほうへ振り返る。防衛室長、不知火カヤ。エリカの友人だったはずだ。
「(これまずくない?)」
エリカの友人が失踪・拉致された場合どういう行動を取るかということはホシノも既に知っている。自らの身など顧みない。死ぬ気、否、本当に死んでも構わずに助けようとする。それは死んでもいいと思っているのではなく、ただ必死に手を伸ばすからだ。
そして、ホシノは一度、その腕の中で息絶えようかというエリカを見てしまった。二度と、あのような姿は見たくなかった。
「(………どうする……?)」
ホシノは考える。このまま全ての情報をシャットアウトし、ナギサとの約束を守るか。それをしてしまえば、確かにエリカはアビドスで穏やかな休暇を過ごすだろう。休暇後に、ホシノやナギサとの友情を犠牲に。
「(それは、ダメだ。結局ダメだ。エリカを追い詰めるだけだ)」
誰かを喪うということがどういうことか、わかっているホシノだからこそ、それだけは絶対にやってはいけないと判断する。となれば、ホシノに残された手は少ない。
「(………約束……桐藤ちゃんとの約束は、エリカのことを守ること。彼女が無茶をするのを止めること)」
仮にエリカが飛び出そうとしても、ホシノは彼女を止めることは不可能ではなかった。実力で言えば、ホシノはエリカを制圧できる自信があった。エリカが迷いを捨てたとしても、痛み分け一歩手前まで行くかもしれないと思いつつ、勝てるという確信があった。
しかし、それではエリカに大怪我をさせることとなり、ナギサとの約束に反するため、エリカを実力行使で止めるという案は最初から採用できなかった。
「(……できるだけ、エリカが冷静でいてくれるのを信じるしかない)」
ホシノに今できることは目が覚めたエリカがカヤ失踪を知り、飛び出さないことを祈ることしかできない。
「(どうして、この子はこんな辛いことばかり、辛い目ばかり遭うんだろう)」
まるでそれが、彼女に課せられた償いとでも言うかのように降りかかる困難は、ホシノをしても痛ましかった。ホシノの前で死の淵に瀕した前にも後にも致命傷に近い怪我を負っていることはホシノも知っている。
大切にしている友人、ナギサが連れ攫われた際に常人ならば生きていられないはずの出血量だったことも聞いている。
「(まるで、そういう星の下に生まれたみたいに)」
比較することは正しくないと思いつつも、ホシノは自らの境遇がまだマシなのではないかとさえ思える。エリカは母校からすら追い出されている。シャーレがなければエリカはどうなっていたのか、ホシノは想像もできない。
「(それなのに君は、どうしてそこまで)」
頑張りは報われる。エリカのがむしゃらな姿は、エデン条約事件を機にホシノの乾き切った心の砂漠の中で、焚き火のような小さな炎を灯した。それがナギサからの依頼を受ける種火となって、今、ホシノはエリカのことをどうにか守ろうという意志につながっている。
ホシノは寝ているエリカに手を伸ばす。顔に張り付いた青い髪を避ければ、あどけなさを残した顔が不安もなく眠っていた。
「んん……せ、んぱい……?」
「……っ………」
ひゅぅ、っとホシノの口から息が悲鳴のように溢れた。手を触れて起こしてしまったことで漏れたのではなく、エリカから漏れた声がまるで──自身の声に聞こえたのだから。
「あれ…もう朝か」
「お、おはよう!エリカちゃん!」
「おはよう。どうしたの、そんなに慌てて」
エリカが体を起こす。寝ぼけていたかのような雰囲気は目覚めて1秒と立たずに雲散していた。
「目覚めてすぐしゃっきりしてるね…」
「そうかな」
あくびもせずにいるエリカに、ホシノは常在戦場の意識を持ったままのエリカに慄く。かつてはホシノ自身もそういった時期があったが、常にエリカは気を張っているようにホシノには見えていた。
「じゃあ顔とか洗って着替えようかな。ホシノちゃんも準備するでしょ?」
「そ、そうだね」
「………怪しい」
「うへ、な、何が怪しいって」
「何か隠してるね」
ジト目でエリカがホシノを見る。動揺し、昨晩の交流でエリカへの警戒心が取り払われたホシノはいつもの飄々とした態度を取ることはできなかった。寝起きだったことも大きく、しまったとホシノは思わず後ずさる。
しかし、シロコ同様、狼の獣人であるエリカにそれは悪手であった。
「携帯?」
「なっ、あっ」
「なんで庇うような仕草を?」
一挙一動。見逃さない鋭い視線。エリカはホシノが思ったような寝起きでもはっきりとした状態ではなかった。警察官としての厳しいエリカと、普段のただのエリカが混ざったかのような中間の状態となっていた。
「その携帯に何を隠してるの?」
「な、なにも隠してなんかないよ〜」
「………ほんとうに?」
まるで取り調べのような窮屈さにホシノは改めて彼女が警察官であったことを実感する。
こんな状況でカヤのことを伝えられるわけもなく、ホシノは黙るしかなかった。
しばらく、沈黙が続き、折れたのはエリカだった。
「あ……ごめん。なんでか探るような真似しちゃった」
「ふぅ……まるでおじさん犯罪者みたいだったよ」
「ほんとごめん。寝ぼけてたみたい」
「あ、あはは。よかったよ、起きてくれて」
思わずホシノはありえないと言いかけたが、エリカを傷つけてもしょうがないので気にしないことにした。
「それはそれとして私の寝顔でも撮った?」
「うへっ!?終わったんじゃなかったの」
「まぁ撮っても大丈夫だよ。気にしないからさ」
「気にしない?」
「……先生もよく撮るんだよねぇ……」
何してるのさ先生、とホシノは思った。エリカはホシノから見ても可愛らしく、普段は穏やかな印象を受ける少女であり、寝ている顔は確かに愛らしいと言ってよいものだった。先生の気持ちがなんとなくだがホシノはわかる気がした。
「さぁて、じゃあ準備しようかねおじさんもさ」
「あ、先に顔とか洗っていいよ」
「気を遣わないで大丈夫だよエリカちゃん。それに私は色々髪も長いから時間かかるしー」
「そう?それならお言葉に甘えて──」
ホシノはひとまず着替えなくてはと立ちあがろうとしたが、彼女が手をついた先には運悪くテレビのリモコンがあり、それを押してしまった。
「ん?」
『──…捜査関係者の話では、不知火防衛室長の失踪した場所には大量の血痕がみられたとのことで』
「え?」
「あ」
エリカの耳はテレビから流れてきた情報を聞き逃さなかった。
「…………なに、それ」
「(馬鹿…!何をやってるんだ私!)」
『重要参考人としてヴァルキューレの関係者がいるという情報もあり、現在情報が錯綜しています。引き続き、続報が入り次第──』
テレビで流れていたのはクロノススクールの情報番組であり、ホシノは最悪の情報開示にどうすることもできなかった。エリカの顔を見れば、先ほどまでの同級生の少女の姿がなくなっていた。
「いかなきゃ」
「え?」
「……ごめん。シャーレに戻るね。まず状況を」
「待ってエリカちゃん。待って」
行こうとするエリカをホシノは呼び止める。
「……私もさ、さっき携帯でニュースを見たんだ。けど、昨日の晩起きた事件だし、手がかりも、ないよね?」
「なかったら探すのが私の仕事だよ。カヤちゃんが大きな怪我をしてる可能性があるなら、一刻の猶予もないから」
立ち上がり、エリカは着替え始める。このままではエリカがアビドスから出て行ってしまう。ナギサとの約束もそうだが、またエリカが死地に飛び込むことは明白だった。真相不明だが、連邦生徒会の生徒が不覚をとるような相手に単身で挑みかねない。
「エリカちゃん、落ちついて。先生だって今は百鬼夜行なんでしょ?ミカちゃんだってトリニティだし」
「だからこそシャーレの生徒である私が動かないと。生徒が危機に瀕してるから」
「エリカちゃんだって生徒でしょ」
「…………ナギサちゃんには、ホシノちゃんから謝っておいて」
着替え終わり、エリカが銃に手を伸ばす。ホシノはどうすることもできなかった──言葉では。
「止まって」
ホシノは部屋の出口に立ち、普段から使っている盾を手に取っていた。エリカはホシノの行動にギョッとする。
「ホシノちゃん、なにして」
「ダメだよ。一人で飛び出すなんて」
「けど」
「それに、桐藤ちゃんとの約束をそんな簡単に破るなんて。エリカちゃん最低だよ」
「…………………」
かなりの罪悪感があるのか、ホシノに突かれたその言葉はエリカの表情を曇らせた。
それでも、エリカはホシノから目をそらしながらも口を開く。
「私が今頑張らないと、手遅れになっちゃうかもしれない。だから、行かないと」
「ただがむしゃらに頑張って、手がかりもなしこのキヴォトスで人を探すなんて無茶だよ。このアビドス砂漠でも人を探すのなんて半月以上もかかるのに」
ホシノの口にしたそれは経験からのものであり、苦い味が口の中に満ちる。まだ、エリカは退きそうになかった。
「…………私も、警察官として人探しに手がかりに時間をかけたこともあるよ。でも、それで、手遅れになったから」
エリカの口から放たれた言葉も実感に満ちたものだった。ホシノはどこまでエリカは自身に似ているんだと衝撃を受けていた。
この瞬間に、エリカの脳裏に流れていたのは惨劇の直前の記憶だった。
──ここに……いたんですか、先輩。
──にげ、て、エリカ、さん。
──先輩……?
エリカの目がホシノを射抜いた。
「お願い、いかせて。私に、あの子を守らせて」
痛いほどに、ホシノにはエリカの気持ちがわかってしまう。セリカが失踪したとき、アビドスが危険にさらされたとき、ホシノ自身も無茶をしてきたからこそ、同じ立場であればエリカと同じ選択をすると。
「エリカ。君を行かせられない」
「………カヤちゃんを見殺しにしろと?」
「違う。一人で無茶をしないでよ」
ふざけていられる余裕はホシノにはもうなかった。口調がエリカに引きずられて本来のものへと変わって行った。
「……なら、どうすれば」
「頼りなよ、私たちを」
「え」
「アビドスはシャーレに助けられた。なら、次は私たちの番だよ」
ホシノが構えをとる。エリカはまさかホシノからそのような言葉が出るとは思わず、固まっていた。
「そうでしょ、アヤネちゃん」
いるはずのない生徒の名前が出たことで、エリカが完全に硬直する。宿直室の扉が開き、ホシノが呼んだ通りに制服姿のアヤネが立っていた。どうしているのか、いつから聞いていたのか、エリカは完全に固まっていた。
「ど、どうして」
「おはようございます。草鞋野さん」
「お、おはよう」
「どうして、と言われれば、私も不知火防衛室長の話をニュースで見たので」
「でも、君は、カヤちゃんとの面識は」
「ありますよ。つい先日のデカグラマトン対策会議で、草鞋野さんのこと話していましたから。ご友人だと思って」
アヤネがここにいる理由がたったそれだけのことから推測したものであったことにエリカは驚愕を受けた。そして、何よりエリカが驚いたのはそれだけでエリカが暴走すると予測されていたことだ。
「どこまで力になれるかはわかりませんが、私たちもお手伝いします」
「………だってさ、エリカちゃん。いやぁ、優しい後輩を持っておじさん嬉しいよ」
エリカから発せられていた暴風のような印象が消えたことで、ホシノはようやく安堵していつもの調子に戻っていた。
私は本当に学習もしない馬鹿だと思った。後少しで、ナギサちゃんの信頼も、ホシノちゃんとの縁も全部無くすような真似をするところだった。最低だ。
……カヤちゃんが大怪我をしている可能性は捨てきれない。だから飛び出そうとしてしまったけど、冷静になれば、飛び出してシャーレに戻ったところでどうしようもない。ヴァルキューレに割り込んで捜査の邪魔をするわけにもいかない。
頭を冷やした私は対策委員会の委員室に行き、さらに落ち着くためにお茶を入れた。そうしていたら、ホシノちゃんやアヤネちゃん以外のアビドスのメンバーもこんな朝早くから集まりだした。
どうやらアヤネちゃんが呼んだらしい。
「そんじゃみんな集まったし、はじめよっか」
ホシノちゃんが音頭を取って委員会を始めた。みんなにはすでにカヤちゃんの件は伝えてあるらしい。
「……サイクリング」
「え、なんて?シロコ先輩」
「セリカ。今日はエリカとアビドスでサイクリングするはずだった」
「いやそんなこと言ってる場合じゃないでしょ!」
本当は一緒に出かけるはずだったシロコさんががっかりしていた。申し訳なく思う。
「シロコさん。今度行こう。約束させて」
「ん。わかった」
「立ち直りはやっ」
ほ、本当に立ち直りが早かった。
「不知火防衛室長さんを探すんですよね?でも、そもそもどこに連れ攫われたのでしょう」
十六夜さんがまずそもそもの問題をさっそく上げてくれた。探そうにも手がかりが今は0だ。じゃあ現場に、といってもすでにヴァルキューレが現場を見ているだろうし、ことの大きさからして、公安局が動いてるのは間違いない。
カンナちゃんやコノカちゃんが電話をかけてこないのはまさにさっきみたいに私が馬鹿な真似をするのを防ぐためだろう。
けれど、私たちもカヤちゃんを探すなら話を聞くのが一番手っ取り早い。こういうときは申し訳ないけど、コノカちゃんだ。
「あれ?草鞋野先輩、携帯なんてどうするんですか?」
「流石に手がかり0はどうしようもないから、ヴァルキューレの知り合いに状況を聞くね」
「なるほど」
黒見さんと話しつつ、コノカちゃんにかける。出てくれるといいけど。
数コール後、通話に入った。
「もしもし。私です。エリカです」
『………やはりかけてきたか』
「カンナちゃん!?」
なんでかカンナちゃんが出てきた。どういうこと?
『お前のことだ。不知火防衛室長の件だろう』
「そうだけど…コノカちゃんの電話だよね、それ」
『あいつにかかってきたら私に渡せと言っておいたからな。安全局時代から副局長同士でやりとりしていたのを私が知らないと思ったのか?』
げぇ、それバレてるの。同期とはいえ局長になっちゃったし、カンナちゃんも話せないこと増えたから、どうしても情報が欲しい時とかはコノカちゃんが教えてくれていた。筒抜けだったらしい。
『まぁいい。その様子だと、アビドスで頭を冷やされたようだな』
「……うっ、そうだけど」
『よかったな。止めてくれるやつがいて。それならある程度は話してやれる』
どうやら、カンナちゃんは私の様子次第で話すかどうかを考えていたらしい。本当に、ホシノちゃんには申し訳なさと、冷静にしてくれたお礼を言いたい。
「それで、状況は?」
『まずテレビやニュースの情報は全て無視しろ』
「了解。誇張されてるんだね」
『そうだ。簡潔に言うと、室長はおそらく無傷だ。残された制服は確かに血まみれだが、検査に回したら他人の血だった。輸血用のだな』
捜査の撹乱を犯人はしているってことね。……実際に私が現場に居合わせたら危なかった。まさかそれが狙い?いやいや。そんな特定個人狙ったようなものじゃないだろう。といっても、なんのためにかは現時点でわからない。
「そっか。捜査撹乱だろうからその血まみれの制服がフェイクだし、置いといて……」
『問題はどこに室長が消えたかだ。これに尽きる』
「だよね」
結局そこだ。この時間帯ですぐ電話に出るあたり、おそらく捜査はもう始まってる。どこまで進展があったか、教えてくれるかな。
「室長が攫われたあと、周囲の監視カメラとかは?」
『室長が攫われたのは子ウサギタウンだ。あそこはほとんどゴーストタウンだからな』
「そっか。それはカメラとかないね」
カイザー系不動産業者などによる悪質な地上げ行為や地面師による無茶苦茶な土地の売買。いつされるかわからない再開発と……子ウサギタウンはゴーストタウンと化している。そもそも、どうして室長が子ウサギタウンに?
「なんで室長がそんなところに?」
『………これに関しては私の責任もある。実は警備局から元SRTの生徒が失踪、いや、おそらく脱走した。そのことを報告したんだ』
穏やかじゃないことが聞こえてきた。カンナちゃんの声は後悔に満ちていた。
『室長は汲んだのだろうな、私の言葉を。室長の制服の第一発見者がRABBIT小隊だったから聞いたが、室長は確かにRABBIT小隊に会っていたらしい。といっても、話をするだけして帰ったようだが』
「じゃあ、子ウサギ公園からサンクトゥムタワーに帰る間で?」
『あぁ。だが撹乱のためか公園に制服を棄てたようだ、犯人は』
まるでそれじゃあRABBIT小隊を犯人に仕立て上げようとしているみたいだ。でも、そんな動機がある生徒、いるのかな。ミヤコちゃんたちが恨みを買うような相手なんて──あっ。
「カンナちゃん。失踪した元SRTの生徒は?」
『元DINGO小隊の小隊員たちだ。小隊長から順に名前を挙げる。狐狼ミエ、多神ヒメカ、大上サナエ、大島シズルの4人だ』
あれ、4人目、名前をどこかで………。
──このバカがデモが申請が必要だって言ってたら他の小隊の連中も集めてたのに、今じゃ全員着信拒否だ。
──全員じゃなかったじゃん。大島ちゃんは出たよ。
──それでも……やりすぎ……迷惑……って言われたよ……。
公園で野営を始めた頃のRABBIT小隊の子達が会話をしていた中で出てきた名前だ。いやよく覚えてたね私。RABBIT小隊の子達は元SRTのヴァルキューレ移籍組からは快く思われていない。
まさかとは思うけど。
「元DINGO小隊を含めて、ウチに移籍したSRTの子達はRABBIT小隊を快く思ってなかったはずだよ」
『………相変わらずだな。身内であろうと容赦なく容疑者に挙げるのは』
「関係ないよ。違ったら容疑者から外せばいい。それだけの話でしょ」
『そうだな。ならそちらの線も当たってみる。しかし、こうも失踪事件が続くとは』
「大小あるけど、今カンナちゃんたちが追ってるのは3つの失踪事件だね。スラム関係者大量失踪事件、元SRT生失踪事件、そして、不知火室長の失踪事件……こんな短期間で3つなんて」
『それぞれの背景が違いすぎる。DINGO小隊の件と室長の件はうっすら関係がありそうに思えてきたがな』
「……本当に全部関係ないのかな」
『いつもの勘か?』
「ううん。これは経験則」
『安全局のお前が出るはずのない経験則だな。まぁだが、友人としてはお前の勘を無視するわけにはいかない。進展があれば連絡する。くれぐれも無茶をするなよ』
「そこはシャーレだからさ。要請があれば、ね?」
『まったく……じゃあな』
「またね」
カンナちゃんとの通話は切れる。携帯を仕舞っていると、みんなからの視線が注がれていた。
「エリカちゃん今のは?」
「同期の子。聞いてみたけどまだ何もわからなさそう」
みんなもそりゃそうだろうって顔をしていた。まぁねぇ。
「犯罪の捜査は全くわかりませんけど、誘拐とかだと目的は身代金とかでしょうか?」
十六夜さんが挙げたのは確かに誘拐とかでよくあることだ。連邦生徒会に身代金を要求というのはありえなくはない。でも、そんなことしたら絶対に逃げられない。連邦生徒会に手を出したということはこのキヴォトスの行政府そのものへの宣戦布告に等しい。
ただ、容疑者として挙げた元SRT生がそんなことのためにするかは怪しい。RABBIT小隊に罪を着せようとしてると考えれば、見方も変わる。でもさ、これは私の推測でしかないからなぁ。
「けどノノミ先輩。流石にシロコ先輩でも絶対渡らない危ない橋じゃない?」
「確かにそうですね〜」
「ん。私ならそもそも攫われたことにすら気づかせない」
「いやそういうことじゃなく」
普通は今の黒見さんと十六夜さんのように考える。なら、犯人はよほどの大馬鹿ものか、もしくは──その危険性を承知の上で起こすような相手。この2択だ。
「………とにかく、大きなヤマなのは間違いなさそう。改めて、みんな、ありがとう。よろしくね」
席から立ち上がり、みんなに頭を下げる。
「気にしない気にしない。大船に乗ったつもりでね〜」
「あはは……ホシノ先輩の言う通りかはともかく、私たちもできることがないか探してみます」
「ありがとう、アヤネちゃん、ホシノちゃん」
二人のおかげで私は今冷静でいられてる。感謝が尽きない。
「けど実際どうするの?シロコ先輩、いい案ある?」
「そもそも失踪なら最近よく起きてる」
「シロコちゃんが言っているのは賞金首さんたちのですよね?」
「そう、ノノミ。もしかしたら同じかも」
おお。シロコさんいい感覚してるかも。
シロコさんが言うのはコノカちゃんが追っているやつだけど、それとカヤちゃんの失踪は関係が無さそうに見える。さっきもカンナちゃんが言っていたけど、集団失踪のターゲットにされている生徒が後ろ暗いことがある生徒ばかりで、カヤちゃんは真反対の存在だ。
それでも、こうも立て続けに『失踪事件』が起きるのは少々おかしい。被害者の背景は不一致。それでも共通しているものがある。それは『失踪』という事件のカテゴリそのものだ。
「じゃあシロコちゃんはその事件に迫れば室長ちゃんが出てくるって?」
「うん」
「ふーむ。どうだろエリカちゃん」
ホシノちゃんに話を振られた。
「わからない、が今の考えかな。でも、失踪事件ってそんなに立て続けには起こらないし、今の段階で全部切り離すのはなんか早い気がする」
「結局情報が足りない。それに尽きますね…」
アヤネちゃんの言う通り、最終的に今はどうやってもそこに辿り着く。こうなればもう、足を使って情報を探すのが結局一番の近道になってしまう。どうしよう。みんなと一緒に情報収集を頼もうか。
なんて言おうか悩んでいたら、ピンポーン、と室内にチャイムが響いた。
「こんな朝早くからどなたでしょうか?」
「ん。カチコミなら蹴散らす」
「いやいやシロコ先輩血の気多すぎだから」
本当に血の気が多すぎる。シロコさん、クールに見えて割と活発というか、体育会系だ。
ホシノちゃんを見るとあくびをしながら「だれかでてー」と力なく言っていた。
「それなら私が出ますね」
アヤネちゃんが名乗りあげて、インターフォンに出ようと動き出す。すると、チャイムが連打された。
「ちょっ!?なによ!イタズラ!?」
「うるさい。絶対イタズラ。やってくる」
「朝から元気ですね★」
「うるさいなぁーもー」
ほんとにうるさい。私も思わず両手で頭の上の耳をおさえてしまった。アヤネちゃんがなんとも言えない顔でインターフォンに出てくれた。すると、聞こえてきたのはかなり幼い声だった。
『おー、すぐでたー』
『そんなに連打できなかったじゃん』
「えっと、どちら様……」
『名を名乗るなら自分からー』
『パヒャヒャッ、幼稚園で習わなかったの〜?』
「……………」
『ちょっと、なんとか言って』
ブツん、と通話が切れる音と、何かがブツリと切れた音がした。なんだろう。ただならぬ気配がアヤネちゃんからしている。
「あ、アヤネちゃん?」
ホシノちゃんが声をかけると、アヤネちゃんが振り向く。日差しのせいかメガネが光っていた。
「悪戯だったみたいですね」
「そ、そうみたいだねーありがとねー出てくれて」
誰も声を出せなかった。普段怒らない人が怒るのは怖い。何事もなかったかのように席へとアヤネちゃんが戻ろうとしたところで、再びチャイムが猛連打された。
「うるさっ!なんなのホント!?」
「もう我慢できない。ぶっ飛ばしてくる」
「シロコ先輩、GOです」
「ん。アヤネの許可が出た」
「いや委員長私だよシロコちゃん」
「………」
「そこは何か言ってくれないとおじさん悲しいなぁ!」
「とにかくうるさいです〜!」
うーん、私が出ようかな。こういう近所トラブル的なのも安全局の仕事だからね。
「私が出るね」
「いえ、草鞋野さんが出てしまうのは」
「大丈夫だよ、アヤネちゃん。警察の時にこういうのは慣れてるからね」
インターフォンの機械、通話ボタンを押し、マイクの前に立って私は口を開いた。
「ここはアビドス高校です。私は訳あってこちらにいます草鞋野エリカといいます。そちらは?」
要望通り名乗ってあげる。すると、スピーカー向こうがなんだか静かになった。
『……まじで?』
『おおー、救世主だー』
え、なになに。急に態度が変わったけど。
『えぇー、こちらはハイランダー鉄道学園、セントラルコントロールセンター……CCCです。私は事務官です』
また別の人になった。落ち着いた声なので、さっきの子供たちとはまた違う。上級生かな。
というか、なんでハイランダーがここに?
「ハイランダーがなぜこちらに?」
『前置きを省きますと、捜査協力の相談に来ました』
「捜査協力?」
『そちらは、ヴァルキューレ安全局副局長の草鞋野さんとお見受けしますが、違いますか?』
「元ヴァルキューレ、正確には今は連邦捜査部シャーレ所属だよ」
『そうなのですね。やはりあなたがD.U.路線の……現在、CCCには不審な編成の車両がアビドス自地区にて目撃されたと通報がありました。そのことでこちらに来ました』
不審な編成の車両って…どういうこと?いや待った。一応、過去にも勝手にハイランダーの路線に車両を走らせていた犯罪組織もいた。ハイランダーを退学させられた生徒や辞めた生徒も世の中にはいるもので、勝手に既設の路線と犯罪組織に都合のいい線路を繋いでしまうこともある。最近はあんまり聞かなかったけど。
ホシノちゃんの方を見れば悩んでいるようだ。あと、なぜか十六夜さんがかなり難しい顔をしている。
「ま、いっか。お話聞きに来ただけみたいだし」
「そうですね、ホシノ先輩。私もそう思います。シロコ先輩、やっぱりステイです」
「わかった。先輩とアヤネがいいならイイと思う」
「というわけでエリカちゃん、上らせちゃって」
話を受けることにしたらしい。なら、上げてしまおう。
「お話を聞きたいそうなので、このまま中に入ってください」
『了解しました。ありがとうございます』
スピーカーからぷつりと音声が切れた。カヤちゃんのことが気がかりだけど、今ここで抜け出すわけにもいかない。とりあえず、私もハイランダーの話を聞いてみよう。
今回はここまでです。次回は未定です。
主人公ちゃんの先輩はホシノと違って見つけた時は「生きて」はいましたというところです。完全な暗闇よりも光が少し射してた方が転じた時に色々いいよねと個人的には思っています(あくまで過去話に限りますが…)。