デカグラマトン編本編入りで色々楽しいブルアカ。
では今回もよろしくお願いします。
アビドス高校付近の機能を停止しているコインパーキング。そこに止められた赤色回転灯装備のワンボックス車の横で、ハイランダー鉄道学園の生徒会組織、セントラルコントロールセンターの事務官である生徒は携帯電話を手にしていた。
「──アビドスへの協力依頼は取り付けられました。朝霧監督官」
『了解した。あとは全てアビドスに任せればいい』
事務官の電話相手、監督官を名乗る生徒が冷たく言い放つ。ハイランダー側がこれからアビドス内ですることは不法に設置された線路の現地確認だけとはいえ、見るべきものを全て見ていこうと考えていた事務官は監督官の言葉に眉を顰めた。
「いいのですか?」
『あの”救世主”もいると聞いた。彼女が関わった時点で今回の事案は終わったと言っていい』
「草鞋野エリカ、そこまでの実力者なのですか?」
ハイランダー内での草鞋野エリカの名は独り歩きしていると言っていいもので、噂に尾鰭がついていた。しかし、事務官はCCCという立場上、事実ベースで彼女が救世主と呼ばれるほどとなった原因の事件を全て把握しており、確かに幾度となくトレインジャックを防いだがそれまでだと感じていた。
D.U.路線が安定したのは一介の警察官が路線を守ったからではなく、ハイランダー鉄道学園生の頑張りがあったからこそ。トレインジャックを防いだという感謝こそあれど、救世主という評価は過大であるというのが事務官の考えだった。
だが、事務官の電話相手である監督官はそう思っていないのか。電話の向こうで沈黙が僅かに流れる。
『………あの草鞋野エリカはカイザーPMCの1部隊を一人で、護衛対象を抱えながら殲滅したという話を聞いた事がある』
「生活安全局の生徒、が?」
『そうだ。それも飲食店ほどの狭い空間の中でだ』
監督官の語る内容が事実であるのならば、一般的な生徒である事務官からすれば信じられないものであった。
先ほど、アビドス高校内で見せた姿は非常に理性的であり、顔つきも童顔気味で暴力とは程遠い世界に生きているような雰囲気を醸し出していた草鞋野エリカとは想像もつかない話だった。
「それならば、確かに何かがあっても、彼女に任せればいいということになりますが」
『そういうことだ。そして、あの女は今、連邦捜査部シャーレの生徒だ。火を着ければあとは勝手に動く』
まるで最初からシャーレにあとは任せるつもりだったかのような発言に、事務官はこれまで飲み込んでいた感情が溢れた。
「…………あの占用許可書。ヒカリさん、ノゾミさんたちが見つけられるはずがありません。ろくに資料庫なんて覗かないのに。置いたのは、監督官ですよね」
事務官はヒカリとノゾミの補佐役、学友として二人のことをよく知っている。幼い子供そのものであり無邪気、奔放に振る舞うが決して無能ではないこともわかっている。
だが、それでも細々とした事務は手が回っていない。だからこそ、過去の、ハイランダー内でも腫れ物に近いはずだったアビドス線に関わる資料など、二人がわざわざ探して見つけてくるなどありえないと事務官はわかっていた。
『そうだ』
監督官を名乗る生徒は澱みなく認めた。
「あっさりと認められるとは」
『隠す必要はないからな』
「カイザー案件ということですか?」
『いや、おそらく尻尾切りで終わる。それでも、少しでも削ぎたいというのがネフティスからのオーダーだ。今後のためにな』
「あの二人を政治に巻き込むのは、やめてください」
邪気のない子供を利用するような真似に、事務官は嫌悪感が湧いた。セイントネフティス社とカイザーグループの争いは水面化で繰り広げられているが、今は小康状態だった。この現状をまだ崩したくない。だから、シャーレを利用する。そのような魂胆はここまでくれば事務官でさえも容易に想像できた。
『CCCである以上避けきれない。だから君がついているのだろう』
「私たちの本分はお客様に快適に、安全に、目的地に送り届けることです。セイントネフティスのためにあるのではありません」
事務官は思わず制服の校章に手を触れる。まるでこれでは、利権に溺れて他者の軌道を捻じ曲げてまで目的に達しようとする、汚物のような大人と同じではないかと、事務官は吐き気がしていた。
『今の言葉は聞かなかったことにする。……アビドスは呪われた土地だ。すぐに戻るように』
話はそれ以上ない、と言わんばかりに監督官から通話を打ち切られた。事務官は足元へと目を向けた。砂に汚れたボロボロのアスファルト舗装が目に入る。
「(ネフティスの腰巾着が……!二人なら裏がないようにみえるからって使って…!)」
監督官に対する呪詛を内心呟きながら、事務官は携帯をポケットに仕舞う。彼女は清濁を飲み込み、濁った泥を沈下させ、清く取り繕えるような大人にはなりきれていなかった。
「事務官ちゃーん!」
固まっていた事務官の視界に突如ヒカリとノゾミが割り込んできた。事務官は飛び上がって驚いた。
「うわぁ!?ノゾミさんにヒカリさん!?」
「どうしたのそんな難しい顔してさ」
「いえなにも……それより、どうされましたか?」
無邪気な双子に、事務官は何事もなかったかのように取り繕った。橘姉妹は事務官が難しい顔をしているのはいつものことであり、特に追求することはなかった。
「周りなんもなくて飽きちゃったし、そろそろアビドスの連中と行くんでしょ?運転よろしくー」
「よろよろー」
「あ、そうですね。じゃあ、もう一回アビドス高校に行きましょう」
双子に促され、事務官は運転席のドアを開けた。
午前中のうちにミヤコちゃんへの電話を済ませたけど、話を聞く限り霞沢さんがヴァルキューレの警備局にかなり詰められて塞ぎ込んでしまったらしく、今はニコちゃんがカウンセリングをしてくれてるらしい。
なのでユキノちゃんにも状況を確認したけど、今はRABBIT小隊のケアを優先するしかなく、カヤちゃんの捜索は行えていない。おまけに、SRTから移ったヴァルキューレの生徒たちからは犯人扱いされてしまったせいで、下手に動くこともできないみたいだった。
ユキノちゃんは申し訳なさそうに「今動けばSRTは……」と言っていた。今のRABBIT、FOX小隊は春先の状況にほぼ逆戻りだ。監督者たる防衛室長が消えたということは身動きがとれない。シャーレの権限で動かせば別だけど、今独断で動けば事が終わった後にカヤちゃんを巻き込んで大問題に発展しかねない。
即ち、今のあやふやな状態の2小隊の処遇をハッキリとさせないといけなくなる。その可能性があるから、動けない。
「……SRTの子たちの救援は望めない。一番、あの子たちが動きたいだろうに」
カヤちゃんはエデン条約事件の時にユキノちゃんと行動を共にしている。仲間、と見ているかはわからないけど、彼女を放っておくほどFOX小隊は薄情ではないはずだ。それなのに動けないとはどれほど悔しいのか。
「お願い。少しでも手掛かりが出て来て…」
これからハイランダーの子達と向かう先に、カヤちゃんへと繋がる何かがあることを祈るしかない。
そろそろかな、と思ったら携帯が震えて、画面を見ればホシノちゃんから「玄関にきてー」とメッセージが来ていた。迎えが来たらしい。ちなみに今いるのは家庭科室で、移動中に喫食しようとサンドイッチを用意していた。もちろん、アヤネちゃんに許可をもらった上で。
すぐ食べようと思ってるので、サンドイッチをカゴに入れて私は部屋を出た。
アビドスのホシノちゃん以外の子達はそれぞれの日課などに移っているので、玄関までの道中ですれ違う子はいなかった。
「ホシノちゃん!」
「お〜、エリカちゃんおつカレー」
おじさんくささが全開すぎるホシノちゃんと合流した。玄関の外で待っていたホシノちゃんはいつもの折り畳み式の盾とショットガン。予備の弾薬を腰に追加したポーチで持っていくみたいだ。最低限の飲み物とか物資も用意してるみたいで流石に慣れてる様子だ。
「あれエリカちゃんそのカゴは?」
「あ、これ?サンドイッチ。移動中に車の中で食べようと思って。お昼まだだよね?」
「助かるゥ〜。ちょうどいいねぇ」
「先に食べる?まだハイランダー来てないし?」
「お。じゃあ頂こうかな」
まだハイランダーの子達は見えないのでいいかなと思って、ホシノちゃんにカゴの中身を見せる。迷いなくホシノちゃんは取って一口ぱくりと食べてくれた。
「うまぁー!ほんとエリカちゃんのご飯はおいしいねぇ。お嫁さんにもらう人は最高じゃない?」
「私がお嫁さんだなんて」
「確かに。どっちかっていうと旦那さんか」
「…………意味がわからないんだけど」
私だってウェディングドレス着たいわい!
ホシノちゃんはもぐもぐとあっという間にサンドイッチを食べてしまう。おいしいとは思ってくれてるけど、これたぶん待機中だから早く食べてるんだろうなぁ。
「いやぁ、ありがとエリカちゃん。おいしかったよ〜」
「まだあるよ?」
「だいじょぶ、だいじょぶ。あんまり食べちゃうと動いたとき大変だからね」
「ホシノちゃんって緩そうに見えてやっぱりそこらへん実はシビアだよね」
「そんなことないって〜それっぽくしてるだけだよ〜」
うへへ、と気が抜けた感じにしてるけど私の目は誤魔化せないからねホシノちゃん。口調とか雰囲気・表情はいつものままだけど、さっきからずっと背がピンと張られていて、隙が見えない。
そのせいで、突入前でも余裕を崩さない特殊部隊の隊員のように見えてしまった。
「そういうエリカちゃんはあの警察官モードじゃないんだねぇ」
「今はトリニティの生徒だからね」
「うーん、生真面目だね。ならウチの制服を着せたらまた変わるのかな?」
「いや人をそんなカメレオンみたいに……」
「ごめんごめん。そもそも、一回着てたね春先。その時は変わらなかったもんね」
まだ一年も経ってないのにもはや最初に訪れた時が懐かしい。そういえばあのときも、不法占用物であるATMを結果的に排除する形になった。カイテンジャーは夏前ぐらいから出会ってないけど、どこで何をしてるのやら。
………これだけ私ばかり着せ替え人形もなんだか不公平な気がしてきたので、ホシノちゃんを眺めてみる。私なんかよりもっと可愛らしくて、大雑把なおじさんみたいな態度しといて長い髪はかなり維持に努力しているのがよくわかる。
「な、なにかなエリカちゃん?」
「ホシノちゃん。改めて見ると髪ほんと綺麗だなぁって。大変でしょお手入れ」
「そういうことね。そうだねぇ、慣れるまでは大変だったからねぇ」
「慣れるまで?どういうこと?」
「……ぁ……伸ばす前は短くしてたからさぁ」
どうやら元は短くホシノちゃんはしていたらしい。想像してみると、なんだか私からすると違和感の方が勝る。ゆるゆるとしたホシノちゃんの雰囲気は今の髪型とよく合っていて。
「そうなんだ。なんだかイメージ湧かないかも。今のホシノちゃん、よく似合ってるし」
「そう?それは嬉しいかもぉ」
「ミカさんがいたらきっとホシノちゃんも着せ替え人形にされちゃうかも」
「聖園ちゃんだっけ?トリニティのあのギャルっぽい子だよね。おじさんを着せ替え人形にって、ないってぇ」
「いーや、絶対にするよミカさんは。ホシノちゃんみたいな可愛い子は絶対見逃さないもん」
天童さんにあれだけおめかしを教え込んだミカさんのことなので、同年代だと更に加熱する可能性がある。ホシノちゃんが普段そういうことに疎そうな感じを見せてると余計にだろうな。当番の時に出会ったらミカさんは仕事をほっぽり出してしまうかもしれない。
ホシノちゃんは着せ替え人形にされる可能性があることが恥ずかしいのか、ほっぺを赤くしてポリポリと指で掻いていた。
「おじさんをおもちゃにしても面白くないと思うなぁ」
「おもちゃなんてそんなことないよ。ほら、この子もミカさんがおめかしをしてあげたんだよ」
せっかくなので天童さんの前後を携帯の中から探してホシノちゃんに見せてあげると「うへ〜、すごいねぇ。お姫様みたい」と驚いていた。きっとミカさんの手にかかればホシノちゃんもお姫様みたいになっちゃうはず。
「…あ、来たみたい」
私の耳に車が走ってくる音が聞こえて来た。ホシノちゃんはワンテンポ遅れて気がついたみたいだ。校門のほうへ目を向けていると、赤色回転灯がついて車体側面に青色のラインが走った白地のワンボックス車が入って来た。青いラインの上にはハイランダー鉄道学園と書かれている。
砂漠地帯で走るためかタイヤは太めだし、ちょっとハイリフト気味というか車高が明らかに上げられていた。
「わかりやすいねぇ。じゃあ、お供させてもらおう」
「うん」
私たちがそれぞれ荷物を持って屋根の下から出る。日差しは強く熱い。ハイランダーのワンボックス車は見た目の力強さとは真逆の丁寧さが目立つ挙動で私たちの前にやってくると停車した。運転手は事務官さんのようだ。橘さんたちは後部2列のシートのうち、1列目に座っている。
「お待たせしました。どうぞ」
「よろしくねぇ」
「よろしくお願いします」
事務官さんが降りて来て、スライドドアを開けてくれた。ナンバーも業務用でハイランダーの公用車というかパトロールカーなんだと思う。私たちが案内された席の更に後ろにはヘルメットや反射ベスト、ハーネスとか色々な安全器具もあって、現場用の車両なのが目に見えてわかる。
「さっきぶりじゃん。それなに?」
「サンドイッチだよ。食べる?」
「気が利くじゃん!食べる食べる!」
「おー、おいしそー」
持って来たサンドイッチを橘さんたちにも分けてあげると、二人は笑顔で受け取ってかぶりついていた。
「おいしー!」
「やるじゃん草鞋野エリカ。警察官ってこんなこともできるの?」
「いやこれは私の趣味だよ」
褒めてもらえるのは嬉しい。事務官さんはいらないのかな?と思って目を向ければ流石に運転中だからか申し訳なさそうな目でこちらを見て手で断っていた。
「それでは出発します。シートベルトを」
砂漠の中を行くわけなので揺れるだろうから当然シートベルトをつけた。橘さんたち二人も素直につけている。こんな素直な子たちがやっぱり何か策謀に長けているとは思えない。ナギサちゃんのいう通り、ここに来ている3人はきっと無害なんだろうな。
ホシノちゃんどうだろう、と目を向ければ早くも寝ようとしていた。まぁ、移動するだけだし、いいかな……。
車はゆっくり、静かに発進した。
ハイランダーのパト車に揺られて2時間弱。道中は四輪駆動に加えてハイリフトなおかげか荒野気味なところも難なく車は突き進んでいて、目的地と思われるアビドス外縁の駅付近、その線路の近くで車は止まった。
「到着しました」
「おしりがカチコチになっちゃうよ。降りよ、ヒカリ」
「おっけー」
我先にと双子が降りていき、事務官さんも降りる。エンジンは付けっぱなし?まぁ、見るだけだからかな。寝ているホシノちゃんの肩を揺らして起こす。
「ホシノちゃん、起きて」
「……んあっ、もう着いたのー?」
「着いたよ。ほら、よだれ拭いて」
「おっとごめんよ」
よほど気持ちよく寝ていたのかよだれまで垂れていたので指摘してあげる。ハンカチで拭ったホシノちゃんは装備類を纏めて、私と一緒に車から降りた。気温は更に上がっている。熱いね。
「んしょっと。それで、ウチの自治区に勝手に敷かれた線路がこのあたりにあるって?」
「通報ではこのあたりで列車が規定の路線から外れて走っていると報告がありました」
ホシノちゃんの問いに事務官さんが答える。私は本当にそうなのかとあたりを見渡すも、線路は正規の方向、アビドス外縁駅に繋がる分しか見えない。D.U.方面を上り線とすれば、アビドス方向の下り線周りに別の線路が繋がってるはずだけど。
「砂しかないじゃん!蜃気楼でも見たんじゃないの?」
「まぼろしだー」
「事務官ちゃん、やっぱりないみたいだし熱いし帰ろうよー!」
橘さんたちは早くもそんな声を上げている。判断が早すぎ……とは言い切れないほどにあたりには砂漠と、往来があるために埋まっていない線路があるだけで、通報は誤報だったと言いたくなるような状況が目の前にある。
ホシノちゃんはあたりを注意深く見ているけれど、表情はなんともいえないものになっている。
「まいったね。こりゃほんとにあの双子ちゃんが言う通り、ただの蜃気楼だったりしてね」
「ありえるの?ホシノちゃん」
「可能性は0じゃないからねぇ。砂漠ってのは何にもないように見えて人を化かすことだってあるからさ」
仮に誤報だったとしても、それは決して悪いことじゃない。事件はなかった。それだけの話だから。とはいえ、流石に来て数分と経たずに決めつけるのはよくないので、あたりの捜索はしよう。
「事務官さん。少しあたりを確認してみましょう」
「はい、そうですね。お二人とも!熱いですからこちらに!」
事務官さんは橘さんたちを呼んで、取り出した日傘を差すとヒカリさんに渡していた。そのまま二人は同じ日傘に入ってまたあたりを駆け出した。元気だなぁ。私も感心してる場合じゃない。動こう。
「んじゃ、おじさんはあっちを見るよ。エリカちゃんと君はそれぞれ向こうとかよろしく〜」
「了解、ホシノちゃん」
「承知しました」
ホシノちゃんの指示に従って別れた私たちは砂の上を歩く。
このあたりは線路脇なのもあって、定期的に線路へ積もった砂を雪のようにかきわけて飛ばしているのか、少し不安定な足場だった。また、その周囲も人通りが少ないし、D.U.に繋がる幹線道路は付近にないため、一面の砂漠で線路は正規のもの以外見当たらない。
この正規の線路も使っているのなら切り替えているポイントもあるはずだけど、その様子も見られない。必要な時だけ線路を弄っているのか。それなら今ここにある線路にも痕跡があるかな。
列車は……来る気配はない。線路に近寄ってみよう。
パッと見てみると、特に線路にも異常は見られない。これだけの暑さに晒されても変形や不具合を出さないあたり、流石のハイランダーと思った。生活安全局には稀に列車の事故などが起きた時に通報が入ったり…なんてこともあったりした。管轄外なのですぐによそへ回していたけど。
「……これは」
しばらく線路の上を歩いて、だいぶ車から離れたところで違和感のある線路を見つけた。他の場所と比べてレールが置かれている感覚が短く、留めている金具類に目を向ければ、工具で外された痕が残ってる。
ここだ。あたりをもう一度見渡す。仮にここから線路が分岐したのなら………。
線路から降りて、もしここで切り替わって伸びていったらと思える方向へと足を向ける。数メートル進んだ先で、砂の下に安定した地面を感じる。その場でしゃがんで、私は手袋をつけたまま砂を掘り始める。
それはすぐに出て来た。
「あった。線路」
砂に埋もれた線路。線路の先を見れば確かに、この線路があるであろう上だけ砂の積もり方が少ない。アビドスの頻繁に起こる砂嵐、気候を利用した隠蔽だ。見つかったし、みんなを呼ばないと。
私は立ち上がった。立ち上がった瞬間、耳が音を捉えた。少し遠くで話している橘さんたち、ホシノちゃんや事務官さんの足音とは別の何か。
どこから?地上じゃない。空から。
音がした方に目を向けようとしたけど、太陽で見えない。何かが空にいる。この、ブーン、って音は……ドローンのローター音…?こんな場所にドローン、しかも、よくPMCなどに出回ってるタイプじゃなくて、観測用に使われるような一般ドローン。
この線路を作った人たちのものなのか。だとしたら、私たちが来ることは読まれて?何かまずい気配がする。みんなに状況を伝えて。
「え」
ひゅるるる、と何かが複数落ちてくる音が聞こえて来た。なにこれ。
観測用ドローンに加えてこれは……。
「ッ!?」
砲撃された。どこに?誰に?とにかく危険をしらせなくちゃ。耳が立つ。頭を貫くように何か、言葉が走る。勘が私の体を動かした。砂の下にある地面を蹴る。飛んだ先にはヒカリさん。ごめん、と謝ることもできない。突き飛ばす。
突き飛ばした先にはホシノちゃんがいる。受け止めてくれるはずだ。間に合った。
砂に体が落ちる。直後、私の体は複数の爆発に巻き込まれて飛んでいった。
『弾着。目標に直撃』
『よくやった。FANG2。砂の中の戦闘用ドローンを立ち上げ、その隙に撤退を』
『了解、FANG1。これより離脱する』
「きゃぅ!?」
「うわいきなりどした──!?」
何が起きたのかわからなかった。いきなり私の方に双子ちゃんのうち不思議ちゃんの方がエリカちゃんに突き飛ばされて飛び込んできた。受け止めてエリカちゃんにいきなり何を、と目を向けた時には、エリカちゃんは大きな爆炎の中に消えていた。
「え──」
ヒカリちゃん、と名乗っていた子が自分がついさっきまで立っていた場所が吹き飛ぶ様に呆然としていた。
「何が」
「すぐに逃げて!」
「え!?えぇ!?なんなのさ!?」
「いいから早く!」
抱き止めたヒカリちゃんを事務官ちゃんにぶん投げる。攻撃された。エリカちゃんが爆撃を受けた。どこからかわからない。このままじゃ全員共倒れだ。
「ここは電話の電波もない!すぐにどこかに状況を伝えて!」
「承知しました!二人とも!」
よし。ハイランダーの、あの事務官の子は動きが早い。幸い車は狙われてない。双子ちゃんは私の声に素直に従って逃げてくれる。悪い子じゃないね。
あの子達のことはもういい。エリカちゃん!
「エリカちゃん!エリカちゃんッ!」
あんな爆撃を受けて無傷とは思えない。どうしよう。どうしよう。なんで気がつけなかった。結局、春先の時と同じじゃないか。エリカちゃんに怪我をさせて、私はなんにもできずに。
まだ爆煙と砂が巻き上がる中、彼女のところへ行こうとしていると、周囲の砂の山から何かが飛び上がる。
「チッ……!?」
そして発砲。グレネードランチャー!?一体なんだ、と思えばミレニアム製の市販されている四脚の犬型戦闘用ドローン、その改造品だった。黒色に塗装されて、背中にはマシンガンとグレネードランチャーを同軸装備。
ご丁寧に頭も追加されて、ピンク色に光っているバイザーゴーグルのセンサーが光った。
「……はぁ…なんなのさ。君らは」
邪魔をするな。左手に盾を展開。現れた4体の犬型ドローンからの砲撃を私は大きく前へと飛んで避ける。着地の瞬間を狙ってくるだろうけど、盾の裏から手榴弾を先行投下。起爆は即座に。
吹き飛んでくる砂。煙幕がわりにそこに紛れ込む。
この距離ならこっちの方がいいか。ショットガンを背に回して盾からハンドガンを引き抜く。いるであろう方向へ目を閉じたまま射撃。装甲への着弾音。手応えある。
砂が落ち切る前に前へと加速。砂で足を取られる?私はここで生まれたんだ。たかだかドローンごときに遅れるつもりはない。
爆発音。右。さっき撃った一機が沈む。残りの3機、うち一機が飛び込んでくる。頭の部分には牙のように付けられたアーミーナイフ。振り向いて盾を向ける。
「物騒なワンコだね」
鉄と鉄がぶつかり擦れる嫌な音。弾いてドローンを吹っ飛ばす。空中でひっくり返りながらも見事に足を地面に向けていた。よく調教されてるこって。
「でも遅いよ」
攻撃を受けた、という隙を狙って残りの2機が突っ込んでくる。遅い。盾から手を離す。グレネード、サブマシンガンが手を離した盾に直撃して、盾が砂に倒れ込む。
その影から体を起こして、空いた左手にショットガンを構えた。
「消えてよ」
容赦しない。神秘を込めるのはいつぶりだろう。
トリガー。拡散した弾丸は2匹のドローンを蜂の巣にしてくれた。飛び込んだ勢いのまま、私の左右をドローンは通り過ぎて、砂の上に突っ込むと爆発した。
「よくできたオモチャだね」
右手にショットガン、左手にハンドガンと組み直す。残りの一機はまるで怯えるように動いている。なるほど、遠隔操作か。なら近くに潜んでるんだね。さっきのヒカリちゃん──彼女を狙った攻撃はおそらく迫撃砲だ。
ドローンか何かで観測して撃って来たんだ。そして、本当にそれはあの双子ちゃんを狙ったものなのだろうか。
「エリカを狙ったな。そうなんでしょ?」
相手は答えるわけがない。返答は私への突貫だった。ただし、動きは動揺した直線的なものではなく、左右交互に飛びながらのもの。サブマシンガンを撃ってくる。避ける。正確な射撃だった。機械の性能というよりは、あのドローンの先にいる誰かの性格が見える。
「あの子に危害を加えるなら。私が許さない」
最後に飛び込んでくるけど、それでやられるほど私は弱くない。ショットガンを向け──いつか感じたゾクっとした悪寒が背筋に走った。破砕音と共に目の前でドローンが光弾に貫かれて吹き飛んでいった。
時間差でドローンは大爆発する。……まさか自爆狙ってた?あぶな。
「大丈夫ホシノちゃん!?」
「いやぁ、助かっちゃったよ、エリカちゃん」
援護してくれたのはエリカちゃんだった。ライフルを向けて膝をついて狙撃してくれたみたいだ。あれだけの迫撃砲、喰らったらただじゃ済まないと思ったけど、彼女はちょっと煤まみれになりながらも、服を叩きながら立ち上がった。ふらつく様子もない。
あぁ、よかった。
「エリカちゃんこそ平気〜?あんな派手に撃たれてたけど」
「大丈夫。直撃はしなかったみたい。ちょっと頭がくらくらするけど」
「そっか」
近寄って見てみれば顔色は悪くなさそうだ。空元気ってわけでもないし。よかったぁ。
エリカちゃんはあたりを見渡して「ハイランダーの子たちは」と気にしているので、助けを呼んでもらっていると伝えた。
「それにしてもまさか襲撃を受けるなんて」
「おじさんちょっと状況が急展開すぎてついてけないよ」
「あと、あの4脚ドローン……あの動きどこかで……」
「エリカちゃん心当たりある感じ?」
「うーん…そうなんだけど…残骸は」
「ごめん。あの爆発した以外のも木っ端微塵にしちゃった」
「いや、しょうがないよ。あとで誰かに回収してもらおう。最悪、ミレニアムに回せば何かしらの解析はできるかもだし」
だといいねぇ。……できることならこれらを仕向けた連中を探したいけど、エリカちゃんの視線はそいつらには向いてない。顕になった不法な路線の先に向かっている。
「……行きたい?」
「え。あ、そりゃ……」
「なら、いこっか。二人で」
「いいの?」
「このままここで動かないのもねー。幸い、線路って道標はあるし、遭難することもないから大丈夫かな」
「歩いていける距離かな」
「一応、GPSはあるし、電波が通ってる地域まで行くかもしれないし、大丈夫だよ」
万が一の時はアヤネちゃんにSOSだ。……私としては、ハイランダーはまだ信用できるお客さんじゃない。ノノミちゃんの実家が絡んでいるとしても、いや、逆にだからこそ信用できない。
アビドスの土着企業でも、企業は企業なのだから。善意で彼らはここにいたわけじゃない。
それに、エリカの側から離れたくない。今は大丈夫だった。次が大丈夫かなんて保証はないんだから。
「さて、それじゃあエリカちゃん、おじさんと楽しいおさんぽだぁ」
「よろしくね、ホシノちゃん」
彼女の横に立って歩く。盾は背負っておく。
この線路の先にあるものが何かはわからない。でも、碌でもないものなんだろう。それがエリカを、アビドスを苦しめるものなら──容赦はしない。
今回はここまで、次回は未定です。
感想・ここすき、大変励みになります。また誤字報告もいつもありがとうございます。
そういえばあと5話でこの作品100話らしい…え?マジで?
四脚犬型ドローンのモチーフはもちろんバ○ゥ。本作のホシノはアートワークスに従い常にハンドガンを盾に装備してます(以前のお話でもしれっと使ってます)。なのでフル装備にならなくてもブチギレていきなり臨戦になります。
今回のブチギレポイント:純真な子を餌にエリカを砲撃