今回は長かったので分割してちょっと短めです。
それではどうぞ。
ホシノちゃんと線路の上を歩き続けて数時間。陽が暮れてしまったので、私たちはたまたま見えた風除け・屋根代わりになりそうな岩場までやってきた。
こういう状況はよくホシノちゃんがなるのか、簡易的なキャンプ用品も持っていて本当に準備がよかった。ミレニアム製のレーションや火要らずのヒートパック。慣れた手つきであっという間にホシノちゃんは夕食を準備してくれた。
「あちち。はい、エリカちゃん」
「ありがとう、ホシノちゃん」
砂漠の夜は冷える。本当にそうで、私たちは身を寄せ合って一つの毛布に入っていた。
「いやぁ、ちょうどよく岩場があって助かったよ」
「ほんとにね。これなら一晩はしのげそう」
「ね〜」
隣にいるホシノちゃんの体温は高い。子供体温…って言ってしまうのはちょっと失礼かな、と思って言わない。
手元にあるレーションはスープパスタというか、マカロニや豆などが入ったトマトベースでかなり美味しい。ミレニアム製のは美味しいものから食べ過ぎ防止でほどほどの味のがあったけど、これは当たりのやつだね。
「ん〜、おいしい。今日のは当たりだ〜」
「ホシノちゃん、こういうレーションは個人で?」
「そうだね。エリカちゃんには言っちゃったけど、私は一人で出歩くことも多いからさ」
「じゃあハズレも……」
「一時期SRTの廃品がいっぱい出回ってたけど、あれは」
「あ〜、おいしくないだろうね。そういう設計だったし」
「って、そのSRTの会長さんにこれは失礼だったね。ごめんよ〜」
「大丈夫、気にしないで。むしろ美味しくないのが前提のものだから」
話しつつ、ふと私は思った。そういえば、SRTの廃校決定後に横流しなのか、正式な手順で行われたのかわからないけど、備品が妙に民間へと流れてた。あれ、誰がやったんだろう。
「どしたのエリカちゃん」
「ううん。なんでも。あとで戻ったらこのレーション代は払うよ」
「いいってそんなこと〜」
「いやいや、そこはちゃんとしないとね。それに、経費で落ちるよ」
「真面目だねぇ、エリカちゃん」
「そんなことないよ」
事後になるけど結局これは支援要請になると思うし、七神代行もOKしてくれると思う。先生……先生はそのあたりズボラというか、シャーレの経費関係は私と早瀬さんの管理だ。なんでミレニアムの早瀬さんが高頻度で処理してくれてるのかは触れないでいる。
私が来る以前から早瀬さんはぶっちゃけてしまうと半分シャーレ所属みたいな勢いで仕事をしてくれているのだ。
調月会長が戻ってからは多少余裕ができたのか、当番の頻度も上がっている。助かるけど、なんだか申し訳ない。
「アビドスは優秀な会計さんがいるから安心だよ〜」
「黒見さんだっけ?」
「そうそう。セリカちゃんのおかげでおじさんは領収書渡すだけで済むからねぇ」
「出し忘れは?」
「痛いとこ突くねエリカちゃん……先月の分を今月頭に出したらめっちゃ怒られちゃったよ……」
「それはそうだよ。締めたのにそれはヤバいよ」
「エリカちゃんもあるの?そういうこと」
「まぁ……」
あるのだ。私も人間なので、過去に一度精算を忘れてヴァルキューレの会計局に怒られたことがある。
「エリカちゃんがねぇ。ヴァルキューレの時だろうけど、忙しくて忘れちゃった感じ?」
「そうだね。新人の時だったけど、内務処理を後回しにし続けて気がついたら……あれ以来すぐにやれるときにやるようにしてるよ」
ずずぅ、とスープをすする。ホシノちゃんは「なるほどね〜」と言いつつマカロニを口に含んでもぐもぐとしている。なんだかリスみたいで可愛かった。
そういえば、こういうレーションもだけど、ホシノちゃんの使っている武器はどうなんだろう。目に入る位置には砂を被らないように置かれたショットガンがある。かなり使い込まれているのがよくわかる。
明らかに敵の攻撃を受けたような傷もあるし、塗装が所々剥げてしまっているのも見える。補修はされているんだろうけど、それでも出てしまっている。けれど、整備はしっかりされているのか、ホシノちゃんが戦う様を見ていると新品のようにも思えた。
「私の銃なんて見てどうしたの?エリカちゃん」
「ごめんつい。かなり使い込まれてるなぁって」
「そうだね。何年使ってるんだろ。苦楽を共にしてきたこの子もおじさんだねぇ」
「おじさんって……そこは経験豊富、ってところじゃない?」
「おだてても何にも出ないよ〜」
「いやいや、正直な感想だって」
さっき、迫撃砲で吹っ飛ばされたあと、体が実はしばらく動かなかった。……確実に私の中で蓄積されたダメージは簡単に許容値を超えてしまった。すぐに回復はしてくれたけど、私はホシノちゃんが戦ってくれなければそのままやられていた。
なんとか強がれる程度には動ける。次にあんな面制圧の射撃をまともに受けたら気絶ぐらいはするかもしれない。
ともかく、動けない間に見たホシノちゃんの動きはあまりにも一人で戦うことに特化していることがよくわかった。普段のおだやかな空気なんてカケラもなく、攻撃的で、スマートな動き。あれが、ホシノちゃん本来の動きなんだろうか。
「それにしても、無事でよかったよ。あんな派手に爆撃されて」
「あれぐらいなら大丈夫だよ。でも、助かったよ、ホシノちゃん」
「どういたしまして。けどさ、あんな無茶はダメだよ?」
「ごめん、つい」
怒られてしまった。それでも、あの状況ではあぁするしかなかった。あんないい子が攻撃される謂れなんかないし。本当に誰なんだろう、私たちを襲撃したのは。
「全くも〜、おじさん、偉い人には怒られたくないんだからねぇ〜」
「うう、返す言葉もない」
ナギサちゃんがホシノちゃんを怒るところはちょっと見たくない。申し訳なさすぎる。
「まぁ、とはいえさ、誰なんだろうねぇ、あんな攻撃しかけてきたの」
「ホシノちゃんに心当たりはないよね?」
「ないない。おじさん、あんなハイテクな装備使ってる相手なんてカイザーしかないよ」
「カイザーはあるんだ」
「エリカちゃんがシャーレに来る前かな?色々使ってたよ、カイザー」
私が来る前というと、それこそ先生単独で挑んだアビドス事変、と記録上は残っている支援要請だろうか。ゲマトリア、と呼ばれるベアトリーチェも所属している怪人の集団も関わった事件だ。
それに、カイザーPMCによるアビドス生の誘拐事件も絡んでいた。その中で戦ったんだろうか。
「でも、今回のはミレニアム製だったよ、エリカちゃん。改造はされてたけど」
「そうだったの?」
「うん。そうだと思うよ。それになんというか、今思うと動きがまるで軍用犬みたいというか、素直な子たちだったねぇ」
「じゃあ、少なくともどこかの組織に所属してるドローンだった、ってことになるよ」
「やだねぇ。アビドスになんか紛れ込んでるみたいだぁ」
組織的にハイランダーの子を狙う必要がどこにあるのだろうか。ハイランダー鉄道学園は確かにぞんざいな扱いを(主にゲヘナ自治区で)受けることはあるけど、基本的には公共の交通を担っている学園だからやりすぎると連邦生徒会が動いてしまう。
それに、砲撃された橘ヒカリさんはCCCというハイランダーの生徒会、幹部生徒であり洒落にならない。
ハイランダーがその気になれば犯人をなんとしても見つけ出して吊し上げてもおかしくない。
「エリカちゃんはどう見る?あの砲撃」
「うーん、なんだか凄い違和感があるの」
「違和感ね」
まるで私たちが来るのをわかっていたかのような攻撃であったけど、それにしては火力が半端だった。待ち構えていたならもっと全員を巻き込むような攻撃もできたはずだし、ハイランダーの車だって破壊できたはず。
それなのに、あの砲撃はピンポイントで、ヒカリさんだけを狙った。彼女に恨みを持つ人物?……とても恨みを買うような子には見えない。ノゾミさんはあの言動からしてあり得なくもない。ダメだ。推測しようにも材料が足りなさすぎる。
「事実だけをまずは並べるね。私たちは不法に敷かれた路線を見つけた。その直後に隠れていたドローンを通してハイランダー生が砲撃されて、さらに襲撃された」
「で、襲ってきた犬型のはミレニアムの市販品。改造されてたけど」
「………犯人像が全然わかんないかも。訓練されてるような感じなら傭兵?なら誰が依頼を?」
わからない。本当に。そもそも線路を敷くなんて大胆で大規模なことをやる相手だ。ちょっとした刺激で自らを晒すような真似をするとは思えない。見つかったならその時点で私たちに攻撃などせずにこの線路の先から撤退すればいいだけ。
携帯がここは通じないとのことなので、ヴァルキューレやSRT、それに、ナギサちゃんを頼ることはできないからこれ以上の推測はしても無意味だ。
「相手がどうあれ、この線路の先には何かがあるはずだから……ここまでかな推測できるのは」
「まぁいいんじゃない?ダメなことしてたらお仕置きすればいいだけだし」
「ホシノちゃんがそう言うならそれでいいかな」
「どゆこと?」
「ホシノちゃんはアビドス廃校対策委員会のトップだからね。自治区の最上位の人がそれでいいなら、私はいいよ」
「じゃあシンプルにいこっか。悪いことしてたら倒しちゃおう」
「うん。そうだね」
あれこれ考えても、結局それしかない。よほどの事情があればだろうけど、経験上これほどの規模でやっていて情状酌量、なんてことはなかった。特に温泉開発部とか。
喋りながらもスープは食べていたら、もうなくなっていた。ホシノちゃんも同じぐらいのタイミングで食べ切ったみたいだ。
「んあ〜、砂漠で人と一緒にこうしてるの久々かも」
「そうなの?」
「そうそう。おかげでよく寝れそうだ〜」
「あはは。ホシノちゃん、私を抱き枕にしないでよ?抱き心地は硬いだろうし」
「そんなことないよ」
「それを言ったらホシノちゃんの方が抱き心地いいと思うな」
「ふぁ…!?」
後ろにまわりこんで体が小さいので、ぎゅーっと抱きしめるとやっぱりホシノちゃんのぽかぽか体温もあってなんだか気持ちがいい。十六夜さんとかも抱きしめてたりしそうだ。
「砂漠ってこんなに冷えるんだね……ホシノちゃんがいてくれてよかった」
「そ、そっか、それはよかったよ。お、おじさんも」
「ほんとにポカポカだよ〜ホシノちゃんは。お日様みたい」
「へ、へえ、そうなんだ、わ、わたしはじぶんじゃわからないし」
「ご飯も食べたせいかなんだかちょっと、ふわふわしてきたかも」
「…………」
「ホシノちゃん?」
「うひっ、み、耳元で囁かないで」
「あ、ごめん」
ついついうとうとして、首が下がってた。背中を岩に預ける。ごつごつはしてるけど、そんなに尖ったところがなくていい感じだ。まだ早いかもだけど、このまま眠れそう。目の前にはホシノちゃんの後頭部。髪の毛長いなぁ。
「綺麗だね、ホシノちゃん」
「なにが、かな?」
「え?髪だよ、髪。お手入れの仕方、教えてほしかったり」
「そんな特別なことはしてないってぇ。それに、長いだけで大変だし」
「それでも切らないんだ」
「……うん」
私の周りの子は綺麗な髪の子が多い。ハルナは本当に綺麗で、こんなこと面と向かって言うことはないけど、美しいってまず思う。だって、初めて出会った時に、私は彼女に見惚れちゃったから。
ナギサちゃんも、羽もそうだけど、まるで穢れを知らないかのように綺麗で、私が触れていいのかって思っちゃう。天使族の子特有の、神々しさだってあるし。
「ホシノちゃんはどうして髪を伸ばそうって思ったの?」
「え……それは………はは、なんでだろうね」
急に、ホシノちゃんの声がしおれた。……何か、聞いてはいけなかったのだろうか。
「ごめん、聞いちゃまずかった?」
「………まさか。そんなことはないよ」
しばらく、ホシノちゃんが静かになった。砂漠の夜は静かで、思わず沈黙に耐えきれず空を見上げれば、私は驚くほどに綺麗な星空に感動した。
「私には憧れの人がいてさ。少しでも、その人に近づけたら、勇気をもらえたらってさ」
ホシノちゃんも空を見上げていた。彼女の憧れる人かぁ、どんな人なんだろう。
「学校の先輩?」
「うん。そうだよ。……すごい人だったんだ。私みたいなつまんない人間と違って、どんなときも明るい太陽みたいな人」
憧れの先輩。ホシノちゃんの想う人がどんな人なのかはわからない。それでも、なんだろう、その人はきっと真っ直ぐでとってもいい人だったんじゃないかと、ホシノちゃんの穏やかな声から想像できる。
きっとその人はもう卒業していないんだろうけど、それでもホシノちゃんが憧れるということはそれほどの人なんだろう。
それはなんだか……ちょっとだけ、私も似ている気がした。
「ホシノちゃん、私もね、実はそうなんだ」
「え?どういうこと」
「正義とは、正当なる権限のもとに行使されるべき権利である……これは、私の言葉じゃないんだよ、実は」
「それが、エリカちゃんの先輩ってこと?」
「そう。……今、ライフルをあえて使ってるのも、きっとそれがあるからなんだ。憧れが」
ホシノちゃんのショットガンの横に置かれた私のライフル。ナギサちゃんから託された、それだけが使い続ける理由じゃない。
私はついぞ、先輩が銃を撃つ姿は見なかった。いつも、まるで美術品のように立てかけられた華美な装飾が施された長槍のような狙撃銃。あの銃はどこかへ行って、未だ見つかっていない。
「……じゃあお互い、目標が見えてていいかもね」
「そうなのかな?ホシノちゃん」
「うん、きっとそうだよ」
目標……目標にしているのだろうか。
きっと私が彼女に向けている感情は……憧れと、後悔。
「ホシノちゃん、もしかして、今のおじさんキャラってその先輩の影響だったりする?」
「いやいや、これは私のオリジナル。おじさんだからね、私は」
「それはそれでどうなの!?」
「いいのかなぁ?こんなおじさんを女子高生が抱きしめて」
「ちょっとぞわっとしたよっ!」
「うへへ〜」
急に変態おじさんみたいな感じにホシノちゃんがなったので私はホシノちゃんを解放した。そうすると、彼女はスタッと立ってこっちを向いた。ふわりと星空を背景に髪の毛が舞って綺麗だった。
「ぐっふっふっ。壁気際に追い込まれてるぞ〜」
そしてホシノちゃんはなんともいえないすけべな表情になった。私の感動返して。
「ちょっとそのワキワキしてる手をやめてホシノちゃん。いやらしいよ」
「おじさんだからねぇ」
「…………どうやらしょっぴかれたいらしいな?」
「ごめんちゃい」
軽く冗談気味に言えばホシノちゃんは頭を下げた。いやいや深々と下げすぎだって。
「冗談だよホシノちゃん」
「いやいやごめん。やりすぎちゃったよ」
「もー」
「ごめんごめん。それじゃあ、明日の準備して寝ちゃおっか」
「そうだね」
冗談はここまで、ということで明日の段取りをすることになった。銃の軽い点検と、どこまで行くか、という打ち合わせだ。あまりに遠いようであればホシノちゃんが持っているエマージェンシーボタンでアビドスの子達を呼ぶ。
このエマージェンシーボタン、ミレニアム製で一回こっきりとはいえ確実に発信可能で、価格は安いらしい。……なんだろう、これってもしかして明星さんがあのとき使ったやつに似てる気がする。もしかして、調月会長の発明した製品なんだろうか。
とにかく、いけるところまでは行こうということになり、私たちは眠りについた。
「おはようエリカちゃん」
「ん…おはよ、ホシノちゃん」
「朝だよー」
ほぼ陽が上がったのと同時に私は目が覚めた。ねぼすけ、というイメージのあったホシノちゃんはもう起きてるし、またヒートパックで朝食を用意してくれていた。今度はお茶漬けだった。なんだかレパートリー豊富な感じ、普段からホシノちゃんがこうやって砂漠で一晩明かすことが多いので半分趣味入ってるんじゃなかろうか。
手早く朝食を済ませ、再び私たちは進むことになったけど、元いた道に戻って驚いた。
「線路が出てきてる!」
「これはあれかなぁ?列車がつい最近通ったのかな」
「そうかも!」
線路が砂から出ていた。おそらくは列車が通ったあとだ。これで追いやすくなる。地味に砂の下を確かめながらは時間がかかったんだよね。
「砂嵐は大丈夫そうだし…行ってみよう。あの丘陵地帯が怪しそうだ」
「あの見えてるやつ?」
「うん。まぁ、このまま行けば夕方ぐらいには着くんじゃないかな」
「了解。それじゃあ行こう、ホシノちゃん」
それから私たちは道中、休憩を挟みつつ線路を辿って進み続けた。ホシノちゃんの言うとおり、たどり着いたのは夕方だった。
「……あれはなんだろう、基地?」
「ずいぶん立派なの作ったね。線路もあそこに伸びてるし」
影になりそうな砂山に身を隠しつつ、持ってきていた双眼鏡で見たのは線路の先、小山の麓に見える基地のような施設だった。ただし、見える限りでは戦車や戦闘ヘリなどは見えず、重機がほとんど。
獣人やアンドロイド系の一般人がまばらに見える。……でも、銃を持っている人もいて、哨戒してるような動きもある。壁は高めだし、なんだか収容施設にも似ている。線路はその基地の中に入って、駅のような施設には確かに列車は止まっている。
「当たりなんだろうけど、一体これは……」
「ん?エリカちゃん、あの左側の広場みたいなところ、なんか女の子たちがいるよ」
「え、どこどこ」
「あれあれ」
ホシノちゃんが何かを見つけたらしい。私も見てみれば5人ぐらいの作業着を着せられた子たちが……目隠しされて、連れて行かれている。
「………どう見てもまともな状況じゃない」
「そうだね。何をして……」
連れてこられた子たちは横一列で並ばせられていた。なんだか、その5人の前に一人のスーツ姿の人が話をしている。スーツ姿の人の背後には傭兵らしきアンドロイド市民が五人。持っているのは……バズーカ?
「嫌な予感がする」
「同感だよ、エリカちゃん」
話が終わると、待機していた5人が前に出て、バズーカを構えた。
「ッ…!?やめっ──」
思わず、声が出る。届くはずがない。目を塞がれた5人の生徒たちは爆炎の中に消えた。
なんて、ことをっ!
「落ち着いてエリカちゃん」
「ぐっ…ウゥ……フゥ………フーっ………」
「今飛び出しても、間に合わない」
「………わかってる。わかっては、いるんだ」
本能のような衝動が溢れた。それでもホシノちゃんが圧をかけて、私を落ち着かせてくれる。双眼鏡の先へ目を再度通す。爆炎が晴れれば、5人の生徒たちは全員倒れていた。気絶しているだけだろうけど、それでもこんな非道い真似をするなんて……。
まさか更に乱暴をしないだろうか、と思ったけど、それまでなのか5人は引きずられていった。
「……なんなの、あの施設。あんなことをするなんて」
「まるであれじゃあ処刑だよ。……気絶しただけで済んでるけど、あんなの相当痛いはずだよ」
「ホシノちゃん」
「なにかな」
「……あれは、潰さなきゃダメだ」
どんな施設だろうが関係ない。生徒をあのように扱うものなんて存在が許されない。双眼鏡を仕舞い、立ち上がる。ライフルを構える。
「エリカちゃん、今日は気が合うね」
「そう」
「うんほんと。────あんなものを、このアビドスには残さない。消えてもらうよ」
ホシノちゃんが髪の毛を後ろで結び、ポニーテールになった。盾を後ろで背負って、右手にはショットガン、左手にはハンドガン。ハンドガンは昨日も使ってるのを見たし、思えば晄輪大祭でも使ってた。
ショットガン同様、年季が入ってる。
じゃあ、行こう。と思ったところで、鳴るはずがない携帯が鳴った。
「え?こんなところで?」
「いいよエリカちゃん、出ちゃって」
「うん。誰から……」
携帯を取り出せば、画面に映ったのは知らない番号。ホシノちゃんに見せると驚いた表情になる。
「どうしたの?」
「これ、アビドス自治区内の番号。だけどもう使われないというか、使えないというか」
「どこの番号なの?」
「……あぁ、そっか。この目の前の丘陵地って前に街があったし、そこの番号だ」
つまり、今はもう使えないはずの番号。誰がかけているのか。とにかく出てみよう。
「はい、草鞋野です」
『エリカさん!?あぁアルさん!私神様信じますよ!』
「カヤちゃん!?」
かかってきたのはカヤちゃんだった。えぇ!?どうしてカヤちゃんが!?というか、無事だったの!?
「カヤちゃん!どこにいるの!?」
『繋がったということはエリカさん目の前のものが見えていますね!』
まさか、カヤちゃんはあんな施設の中にいるって言うの!?
「どこにいるの!?今すぐ行くから!それと、この施設なんなの!?」
『詳細は不明ですが何らかの遺跡を違法に採掘している採掘場です!ここには裏社会で追われた生徒を攫って強制労働させているようです!』
どうやら私は、ここに来て大当たりを引いたらしい。
「エリカちゃん?」
「ホシノちゃん、当たりだよ。あれが集団失踪と、防衛室長拉致事件の本丸だよ」
「…へぇ。いやあ、やっぱり歩いてみるもんだね。地道に」
「そうだね」
もう、あとは簡単だ。とっても、簡単な話だ。
非道な真似は許せない。悪と断じていい相手がいる。大切な子が囚われている。
本能を、押さえつける必要なんてない。
「……不知火防衛室長。指示を」
『休暇中のあなたに言うのは心苦しいのですが……よろしいですか?』
「構いません」
あとは、命令がほしい。
カヤちゃんは、きっとくれる。今の私が欲しい言葉を。
『では……これより、アビドス自治区を不法占用し、違法に採掘を行い、生徒を拉致監禁する目の前の施設に対し、連邦生徒会防衛室長の権限を以ってシャーレ、草鞋野補佐官へ命じます』
安全装置を外す。足に力を込める。
『──SRT特殊学園生徒会長として権限を復旧、D.U.外への防衛出動を許可します。全てを制圧、検挙、逮捕せよ』
「イエス、マム」
お前たちはやりすぎた。
「正義とは、正当なる権限のもとに行使されるべき権利である。私は、その権利を有するものである」
「おーおー怖い怖い。それがエリカちゃんの本性っていうか、安全局の狛犬か〜……狂犬の間違いじゃなーい?」
「どうだろうな。本物の狂犬はもっと恐ろしいぞ」
「いやぁ、ヴァルキューレって怖いね。シロコちゃんにはよく言っておかないと」
ホシノちゃんが完全に戦闘体制に入った。
「いくぞっ!目の前の施設を全て制圧する!抵抗するものは全て排除する!」
「りょーかい。じゃあ、久々に本気でやろうか」
私たちは飛んだ。
お読みいただきありがとうございます。
次回も短めですがまた明日です。
ホシノはいい感じの空気に耐えきれずおじさんやりました。
感想ここすき、いつもありがとうございます。大変励みになりますのでよろしくお願いします。