頑張りとは、報われるべき願いである   作:ババネロ

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というわけで、本話から最終編に相当する章となります。

原作よろしくまずは日常回から。ではよろしくお願いします!


第九章 終点とは、始発点である
Area-01「D.U.外郭地区 #日常 #緊急車両 #支援要請」


 少女が目にしたのは神話だった。暁のホルス、暴虐のエニューオー。互いの死力を尽くした衝突に、少女は介入できなかった。

 

 神の息吹のような散弾が女神の肢体を貫くたびに、貫かれたところから体は再生する。

 

 女神の持つ神槍から放たれる弾丸は神の体を貫けない。

 

 このまま永遠に結末など迎えられない矛盾が目の前で繰り広げられる。

 

「ホシノ先輩、エリカ……ダメ……それ以上、戦えば」

 

 すでに少女の体は打ちのめされ、砂の上を這うことしかできない。手を伸ばそうとしても、神々の戦いで巻き起こる嵐が弾き飛ばしてくる。

 

 ──あとは、私がどうにかするから。

 

 全ての神秘を解き放つ前に告げられた言葉が少女の頭を過ぎる。

 

 ──先生が目覚めたら、きっと、あとのことは、なんとかなるから。

 

 その”あと”に、彼女がいないことは少女にも容易に想像できた。

 

 ──もし、全てがなんとかなって、元に戻ったらさ。

 

 まさしく告げられていたものは遺言でしかなく。

 

 ──■■■に、伝えておいてほしい。約束、守れなくてごめんなさいって。

 

 最期に見せた微笑みは、せめてもの強がりだった。

 

 ──それに、シロコさん。あなたとの約束もごめんね。ライディング、いけなくて。

 

 なにもできない。届かない。少女は己の無力さを呪うしかなかった。

 

 そうして、永遠とも思われた神話の戦いが終わり、残ったのは少女だけだった。神と女神は斃れ、その日から世界は終末へと、音を立て崩落を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──アビドス砂漠での生徒拉致監禁事件から半月後。

 

 シャーレの執務室では日常が流れていた。

 

「エリカちゃん何してんの?」

 

「………」

 

「おーいエリカちゃん」

 

 いつも通り、シャーレでの奉仕活動にやってきていたミカはエリカが突然部屋の隅に行ったかと思えば、何かを手に佇んでおり、尋常ではない気配が漂っていた。シャーレの執務室の中で漂わせてはいけないような覇気であり、ミカは思わずそれ以上声をかけるのを戸惑う。

 

 しばらくすると、バキャッという樹脂製の何かが砕ける音が執務室内に響いた。

 

「ふふふっ」

 

「え、エリカちゃん?なんで笑ってるの」

 

「いやね?………そろそろしょっぴこうかなって」

 

 エリカの手に合ったのは電源タップであり、彼女は何故かそれを砕いていた。ミカは意味がわからない……こともなくため息をついた。

 

「またぁ?」

 

「そう、また。そろそろ堪忍袋の尾が切れそうだよ」

 

「先生狙いなんだろうけどやりすぎだよね〜」

 

 先生のことをあらゆる意味で想っている生徒は少なくなく、執務室に盗聴器を仕込む生徒がいるのをエリカとミカは知っていた。一時期はミレニアム生のうち、ヴェリタスの生徒がやっていた行為だが、エリカがシャーレにやってきてしばらくしてからヴェリタスの生徒は盗聴器の類を執務室に仕込むのはやめている。

 

「聞いちゃいけない話とかもあるし、そろそろ張り紙だけじゃダメだね。エリカちゃん、見せしめに捕まえよ?」

 

「………先生に言ってもらった方がこの手のは解決する。私とミカさんが突くと変に刺激するから」

 

「うーん。それがわかるのになんで……」

 

「なんのこと?」

 

「いやこっちの話。他にもありそう?」

 

「いやないよ。チヒロちゃんからもらった装置だとこれが最後」

 

 ミカはエリカの机の上を見るといつの間にか他にも盗聴器の残骸があった。そもそも警察官がいるシャーレの執務室でこのようなことをする少女たちにミカは、恋は本当に人を盲目するのだと慄いた。

 

「はぁ。とりあえず、休憩でもしようかな。ミカさんもどう?」

 

「そうだね。しよっか」

 

 エリカが執務室内の時計を見ればちょうどお昼時であり、最後の盗聴器を破壊したためキリが良く、ミカもまた彼女が対応できる範囲のお悩み相談メールの処理が完了したところであった。

 

「んー、パソコンで仕事って肩が凝るよ」

 

「慣れだよ慣れ」

 

「いっそのこと体動かすような支援要請とか入らないかな?」

 

「いや事件が舞い込んでくるの望んじゃダメでしょ」

 

 伸びをしつつ立ち上がったミカの言う内容をエリカはたしなめる。ミカは「ごめんごめん」と平謝りし、エリカはため息をつくしかなかった。二人は並んで歩き出し、執務室から出て、エリカが執務室を施錠する。今は先生がシャーレにいなかった。

 

「先生は連邦生徒会だっけ?」

 

「そうだよ。七神代行に話があるとかで」

 

「あー、例のなんか災害?」

 

「そうみたい。キヴォトス全域を巻き込むような何かが起きるって」

 

 エリカとミカは、先生からあることを伝えられていた。キヴォトスそのものに降りかかるかもしれない厄災。それを先生が予知夢で見たという信じがたいものであり、エリカでさえも半信半疑であった。

 

「先生の言ったことをエリカちゃんが信じないのはびっくりしたよ」

 

「いや、流石に予知夢だなんてそんなこと………ミカさんが百合園さんのことを教えてくれなかったら信じられなかったよ」

 

「セイアちゃんが先生の話す前の日大騒ぎだったんだから。私だってセイアちゃんから聞いてなかったらちょっと話半分だったし」

 

 ミカは機密事項であったセイアが予知能力者であることをエリカに明かしていた。同時に、その能力を失う直前にセイアからキヴォトス滅亡の予知があったことも知らされていた。

 

「けど、先生は本気で対処をしようとしてる」

 

「先生だもんね。可能性が1ミリでもあったら、ってことかな?」

 

「そうだね。それがいつ起こるかはわからないけど」

 

 エレベーターホールでエレベーターを呼び出し二人は乗り込む。

 

「ま、私たちは先生と一緒に頑張るだけだもんね」

 

「そうだね。シャーレの生徒だから」

 

 何がどうやって、いつ起きるのかも二人はわからない。しかし、シャーレの生徒であることから先頭に立って挑まなくてはいけなことは間違いなく、エリカとミカはそのことだけは既に理解していた。

 

「それにしても、ミカさんがミレニアムの事件の時に話してた予知の話って百合園さんのことだったんだ」

 

「そうだよ?あの頃ってさ、ナギちゃんが急に私と模擬戦たくさんし始めたんだけど、私に敵わないからってセイアちゃんと組んで襲ってきたし」

 

「ナギサちゃんが?」

 

「ナギちゃん、別に弱いわけじゃないんだよ?私ほどじゃないけど。頭がいいから動きが結構無駄ないし、セイアちゃんの予知を使ってやりづらかったなぁ」

 

「結果は?」

 

「もちろん勝ったよ?何発かもらったけど」

 

 ナギサの戦闘能力をエリカはよく知らない。それはナギサを守るべき対象として見做していることもあったが、そもそもとしてナギサが激しく闘う様を知らないからだった。

 

「確かに射撃の腕前は悪くなかったし。そういえばエデン条約の時も普通に私たちにくっついて走ってたね………」

 

「でしょ?まぁ、ナギちゃんはそもそも、私と違って拳銃抜くようなことに基本ならないし、それこそナギちゃんが闘うなんてあのときみたいな状況じゃないとね。立場もあるし」

 

「そうだろうね。またあんなことにならないといいけど」

 

「何度もあったら困っちゃうよ。エリカちゃん」

 

 エレベーターが1階に到着し、エリカを先頭にミカも降りる。シャーレのエントランスは静かであり、基本的に来客はそう多くない。二人分の足音が響く。

 

「そういえばいつになったらあのゲート直るの?」

 

「予算がないから…」

 

「財務室にちょーだい♪って言いに行こうよ」

 

「いやいや。財務室長厳しいから」

 

「そういえば執務室の椅子もあんなかったいの変えてって言ってるのにくれないし」

 

「座布団は買ってあげたでしょ、ミカさん」

 

「そういう問題じゃないってー」

 

 自然とミカとエリカの会話はシャーレの置かれている環境の愚痴になりがちだった。春、夏、秋へと移ろう中で、シャーレの懐具合の改善は未だにされず、つい最近ようやくまともな車両が支給されたばかりだった。

 

「あ、ソラちゃんだ。やっほー」

 

 シャーレのエントランスと繋がっているコンビニ、エンジェル24のアルバイトの生徒、ソラにミカは手を振る。ソラもそれに気がつき手を振っていた。

 

「ミカさん、ソラさんとよく話すの?」

 

「そんなには話さないけど、いい子じゃんあの子」

 

「まぁ、お客さん来ないのに毎日お疲れ様だよね……」

 

「私たちぐらいだもんね。あとはウサギちゃんたち」

 

「そうだね」

 

 エンジェル24の客入りはエリカの知る限り春先から全く改善されておらず、シャーレへの生徒の出入りが増えても変わりはなかった。大半の生徒はシャーレに来る途上のコンビニで買い物を済ませてくることが多いからだ。

 

「あとでお菓子ぐらいは買ってあげよう、ミカさん」

 

「そうだねー」

 

 シャーレのビルから出た二人は入り口横に停められているシルバー色のセダンに乗り込む。運転席にはエリカ、助手席にはミカが乗り込んだ。

 

「まともな車が来てほんと嬉しいよ」

 

「ヴァルキューレで使ってた車だっけ?」

 

「覆面用のやつだね。ちょっと型は古いけど、ちゃんと整備してたのだから全然いいよ。緊急走行もしたかったからちょうどいいし」

 

 エンジンをかけ、エリカは車を発進させた。ミカは少しだけシートを倒すと、携帯を取り出した。

 

「そういえばこの前エリカちゃんが解決したアビドスの事件、結構やばいことになってるね、カイザーグループへのバッシング」

 

「そりゃそうだよ。いくら末端だからって言ってもね。それでも大きな影響がないのは流石の企業体力だけど」

 

「さすがに生徒攫って強制労働はねー。オクトワイズ社って結構有名だったし、連邦生徒会も使ってたから連邦生徒会にもちょっと厳しい意見多いね」

 

「去年ぐらいかな?FOX小隊の子たちが検挙した違法な兵器の件も連邦生徒会の一部役員が噛んでたし……」

 

「だいじょぶ?キヴォトス。災害うんぬんの前に」

 

「うーん……どうだろうね」

 

 キヴォトスの行く末を案じたところでミカにもエリカにも、政治的な能力など今はなく、シャーレの生徒として日々舞い込んでくる生徒たちの事件や悩みを解決することしかできない。

 

「ま、今はお昼だね。どこいくの?」

 

「いつものお店。ニコちゃんのところだよ」

 

「りょうか〜い。いつも、って言っても最近は行ってなかったよね?」

 

「今週は山海経の子がよく来てたからご飯は困らなかったもんね」

 

「えっと、あのお姉さん……ルミちゃんのご飯ほんとに美味しかったね」

 

「確かに……ハルナも喜んでたし」

 

 つい先日にシャーレの当番がハルナ、ルミと重なったことでちょっとした食事会がシャーレ開かれ、ルミが簡単に作ったというにはあまりに手の込んだ品々にエリカ、ミカ、ハルナは舌鼓を打ち、あっという間に虜にされていた。

 

「そういえば、あの子がナギちゃんの友達だっけ?聞いてたような子じゃなくてナギちゃん並みに超お嬢様って感じだったけど」

 

「何にもしてなければね。でも美食研究会の悪行はミカさんも知ってるでしょ?」

 

「SNSでよく聞くからね〜。ゲヘナのくせに妙に人気あるし」

 

「美食研究会のお墨付きは実際人気出るもんね」

 

「悔しいけどあいつらが行ったケーキ屋さんめっちゃ美味しかったし……」

 

 ミカは最近になってゲヘナだからという理由で忌避していた美食研究会のお墨付き店に足を運び、SNSでの美食研究会の評価が間違っていないということを思い知らされていた。それだけに、その首魁がナギサの友人ということもあり、シャーレで顔を合わせても無闇に嫌味を言うこともなかった。

 

 ハルナ側もナギサの幼馴染ということはナギサから聞いていたため、上流階級同士の緊張感を漂わせた対応をし、エリカはそんな二人に挟まれて若干の居心地の悪さがあったことを思い出していた。

 

「あ。エリカちゃん、そういえばさっきシャーレ宛にメール入ってたけど、ミレニアムのあのイケメン……ウタハちゃんから例の宇宙戦艦のことでミレニアムに来て欲しいって」

 

「そうなの?」

 

「うん。移送したんだよね?」

 

「そうそう。エリドゥに。ほんとに宇宙戦艦かはわからないけど、今のところ宇宙船ドックがあるのはミレニアムだけだから」

 

 詳細不明のアビドスで発見された艦艇のようなものはエリカとミカも現在の状況は聞いていた。先生そしてリンにより正式にミレニアムが預かることになり、現在は最も強固でかつ、このキヴォトスで唯一宇宙船用ドックが存在する要塞都市エリドゥへ運ばれていた。

 

 搬入には2週間も要し、機密保持を結んだ上でハイランダーも協力した大規模プロジェクトとなっていた。

 

「それで、白石さんが呼んでるってことは何かわかったのかな」

 

「流石だねミレニアム。先生に言う?」

 

「もちろん。話を聞くだけなら私たちだけで行くことになるだろうけど」

 

「オッケー。じゃあお昼明けに先生に言おうよ」

 

「そうだね。お願いできる?」

 

「いいよ」

 

 お昼明けの連絡をミカに任せたエリカと任せられたミカ。二人の関係はようやく同僚として確立され始めていた。

 

 ニコのアルバイトしているお店まであと半分というところの交差点で車が信号で止まる。

 

「あ、電話だ」

 

「誰から?」

 

「ヴァルキューレの生活安全局って出てるよ?」

 

 ミカの携帯は個人用のものではなく、シャーレの補佐官としてのもので、当然各校に先生、エリカと同様周知されている。とはいえ、大半は先生にしか電話がかかってこない。その次にエリカであり、ミカの携帯が鳴るのは稀だった。

 

「スピーカーにして?」

 

「りょうか〜い。……はい、聖園だよ〜」

 

『よかった繋がった!聖園補佐官ですか!?』

 

「そうだよ?君は?」

 

『私はヴァルキューレ生活安全局の中務キリノです!』

 

 電話の相手はキリノだった。エリカはまさかミカの携帯にキリノがかけてくるとは思わず驚いていたが、明らかに緊急だとわかる声音に、意識を昼食に向けていたものから切り替える。

 

「中務、私だ」

 

『副局長もいらしたのですか!?』

 

「すまない。もしかして、私に電話を入れていたか?運転中だった」

 

『そうだったのですか!?失礼しました』

 

「それで、要件は」

 

『アッ、はい!シャーレに支援要請です!つい先ほど、連続ひったくり犯が目撃されまして!』

 

「なるほど?外郭地区に逃げ込んだか」

 

「へー、シャーレあるのに?」

 

『追跡システムでもそちら方へと向かっています!見かけましたらどうか協力を!』

 

「シャーレ草鞋野、了解。聖園、回転灯を出せ」

 

「はーい」

 

『助かります!以上です!こちらも向かいます!』

 

 ミカは車のセンターコンソールに備えられたスイッチを押し込むと、二人が乗る車両の屋根から赤色回転灯が展開される。サイレンは鳴らさず、エリカは警戒態勢に入る。

 

「お昼だったのにー」

 

「仕方がない。連続ひったくり犯は最近騒がれていたからな」

 

「もー。捕まえたらひどいんだからね」

 

「ほどほどにな。……周囲を確認しつつ見かけ次第、拘束する」

 

「はーい」

 

 信号が変わり、エリカは車を発進させようとした。だが、アクセルを踏み込んだところで急ブレーキをかけた。

 

「きゃあっ!?」

 

 目の前で、一台のバイクが信号無視で走っていく。

 

「ちょっと危ないじゃん!なにあれ!」

 

「ひったくり犯の特徴はレーシーなバイクで体躯の良い生徒だったな」

 

「あ、確かにさっきのそんな感じだったね」

 

 ミカとエリカは目を見合わせた。そこからの動きは早かった。ミカが即座にマイクを手に取る。

 

「はーい!緊急車両左折しま〜す♪」

 

 サイレンが鳴り響き、エリカはアクセルをベタ踏み。シャーレのパトカーは直進レーンから急加速しつつ左折した。

 

 問題のバイクはかなり速いのか既に距離が大きく離れている。

 

「あまり使いたくないが、仕方ない」

 

 エリカはこのままでは突き放されるため、ハンドルに後付けされた赤いボタンを押し込む。それはミレニアムのエンジニア部が「厚意」という名の下に施した改造だった。途端にエリカの視界に映る回転数のメーターが跳ね上がり、車両が急加速する。

 

「わぉ、速いね!」

 

「ナイトロだ。負荷が高いからあまり吹きたくないが」

 

「でも追いつけるじゃん」

 

「呼びかけ頼む」

 

「はーい。そこのバイクの子〜、信号無視だよ〜、止まってね〜!」

 

 ミカの優しい呼びかけに逃げる相手は全く止まる様子がなかった。

 

 それどころか、逃げている生徒が片手で何かを持つと、エリカたちの方へと向けてくる。ハンドガンだった。

 

「うわっ」

 

「チィ!」

 

 数発撃ち込まれ、3発ほどがフロントガラスに直撃する。何かしらの強化弾なのか、防弾ガラスにもかかわらず大きなヒビが入り、正面の視界が大きく失われた。

 

「まったくすぐこれだっ!」

 

「全然前見えないけどっ!」

 

「蹴飛ばせ!」

 

 ミカとエリカは肘打ち、蹴りなどをして壊れたフロントガラスを砕いて吹き飛ばす。

 

 既に発砲されたことで、ミカは容赦する必要がなくなり、足元に置いていたケースからサブマシンガンを取り出した。

 

「警告するよ!止まらないなら撃っちゃうからね!」

 

 ミカが発砲しようとしたが、逃走している生徒は追跡を続行する二人がただの相手ではないことを察して、突如路地へと左折する。エリカは当然追いかける。狭い道に入ればバイクなら振り切れる。逃走犯の判断は間違ってはいなかった。

 

「あれ?いないよ?」

 

「いや右だ。静粛性のないバイクなのが仇になってるな。このまま回り込むぞ」

 

「おっけー」

 

 エリカはサイレンを消させると、頭の中に入っている現在地の道路網と相手の排気音を頼りにバイクの進行方向へと向かって回り込む。ミカはエリカの警察官としての実力を改めて目の当たりにし、これは逃げられないと相手に同情した。

 

「次、あのT字で出てくる」

 

「撃っていいよね?」

 

「発砲を許可する」

 

 エリカは一気に車を加速させ、サイレンも再びミカに鳴らさせる。突き当たりとなるそこへ車を急停車させれば、逃走していたバイクの生徒はまさか回り込まれるとは思わず動揺し、その場で急ブレーキをかけ止まってしまった。

 

「じゃ、撃っちゃうね★」

 

「!?」

 

 運転席側のパワーウィンドウが開き、助手席側のミカがサブマシンガンの銃口を向ける。エリカが耳をぺたんと畳むのを確認し、ミカは容赦無くトリガーを引いた。

 

 

 

 

 

「いらっしゃいませー!って、草鞋野先輩に聖園さん!」

 

「やっほーニコちゃん」

 

「お疲れ様、ニコちゃん」

 

「いえいえ、先輩方も。それにしてもどうしたんですか髪の毛。自転車で来ました?」

 

「ううん。ちょっと車のフロントガラスが壊れてね」

 

 エリカたちがニコのバイトする定食屋に着いたのは実にシャーレを出てから二時間後だった。捕らえたひったくり犯の引き渡しと事後処理を終えてようやくだった。ニコは相変わらず忙しい様子のシャーレの二人を労いながらも、深くは聞かなかった。

 

「もーお腹ぺこぺこ」

 

「流石にそうだね。ニコちゃん、日替わり2つね」

 

「はーい!お席は好きなところにどうぞー」

 

 空いている席にエリカとミカは着く。二人はようやく辿り着いたことにため息を同時についてしまった。

 

「お昼食べに行こうとしただけなのに」

 

「大変だったね、エリカちゃん」

 

「車……また壊れた……」

 

「まーまー、流石に経費で落ちるって〜」

 

「だといいけど……」

 

 落ち込むエリカをミカは励ましつつ、店内にかけられたメニュー表で今日の日替わり定食を確認する。

 

「今日の日替わりは鰤の漬け丼だって」

 

「そうなの?おいしそう」

 

 一息ついた二人に、割烹着姿のニコが水とおしぼりを持ってきていた。

 

「お疲れ様です。事件だったんですか?」

 

「そーそー、お昼食べに行こうとしたら連続ひったくり犯捕まえてって」

 

「急な支援要請だったけど、タイミングよく犯人が現れたから追跡したの」

 

「お疲れ様です。その様子ですと」

 

「もちろん捕まえたよ。だってエリカちゃんと一緒に追ったし」

 

「ふふっ。さすがですね。お冷とおしぼりです。先輩はご飯大盛りにしなくてよかったんですか?」

 

「あ。ごめん、お願い」

 

「はい。おかみさんに伝えておきますね」

 

 二人が食事にありつけたのはそれから数分後だった。

 

 

 

 

 

 

 

「美味しかったね!」

 

「うん。甘めのタレだったけど」

 

「半熟卵も味変できてよかったし。トリニティだと生魚あんまり出ないから新鮮だったよ」

 

「そういえばトリニティはそうだね。マグロもステーキなのが多いし」

 

「あれはあれで美味しいけどね」

 

 定食屋から出た二人はシャーレビルへと戻るために再び車に乗っていた。フロントガラスは無くなったが、代わりに透明度の高いビニールシートをひとまずテープで貼り付けて風を凌いでいた。

 

「先生には電話した?」

 

「うん。ウタハちゃんには先生から電話するって」

 

「了解。じゃあ私たちは戻って仕事の続きしよう」

 

「はいはーい。…ふあぁ、でもお腹いっぱいで眠くなってきちゃった」

 

「少しだけ寝れば?ミカさん」

 

「そうしよっかな。着いたら起こしてね」

 

「もちろん」

 

「それじゃあ、おやすみ──って、また携帯鳴ってる……」

 

 ミカが目を閉じよう、というタイミングで再び携帯が鳴る。今度はエリカの携帯だった。車が路肩により一時停車すると、エリカは電話に応答する。

 

「はい、草鞋野です」

 

『あ、どうも。すいません、トリニティの生徒なんですけど──』

 

 エリカにかかってきたのは一般生徒からの支援要請であり、エリカが状況を確認していると、今度はミカの携帯も鳴る。

 

「うえ……マジで…?」

 

 シャーレに入る支援要請は次から次にやってくる。エリカとミカ、そして先生の三人をもってしても、捌ききれないときがあるぐらいには。

 

「はぁ。エリカちゃん。シラトリ地区で生徒同士のトラブルだって」

 

「ほんと?それ私の方にも入ったやつと同じかも」

 

「行く?」

 

「当然。はい、サイレンつけて」

 

「お昼寝できないじゃん!もうっ!」

 

「あとで戻ったら休憩して良いから」

 

「エリカちゃんのアップルパイもないとやだよ」

 

「作ってあげるから」

 

「ならいいよ。──緊急車両、赤信号つうかしまーす!」

 

 再び二人の乗った車両が急発進する。シャーレの日常はこうしていつも通り流れていく。D.U.地区でのシャーレ、エリカとミカの認知はそれなりに進みつつあった。

 

 

 

 

 

 

 

「ナギサ、どうしたんだい?」

 

「いえ、ミレニアムの調月会長から招待が届きました」

 

 エリカとミカが午後の支援要請に明け暮れている頃、執務を粗方片づけたナギサはセイアとお茶を楽しんでいたが、そんな中、ミレニアムのセミナーとトリニティのティーパーティー間で結ばれたホットラインにリオからとある場所への招待が届いていた。

 

「そういえば、まだちゃんと挨拶はしていなかったね……調月リオとは。それかい?」

 

「おそらくそれもあると思うのですが、見せたいものがあるとのことでして」

 

「見せたいもの?」

 

「詳細は不明ですが、想像はついています」

 

「あぁ。例の古代兵器か」

 

「おそらくは」

 

 ナギサはエリカを絶対安静とするために過ごした3日間で、アビドスでの出来事をほとんど聞いてしまっていた。古代兵器らしき船のようなものの情報は本来機密情報だったが、トリニティ生としてアビドスに派遣したために、報告として受け取ることができてしまった。

 

 しかし、聞いたところでナギサ、そしてトリニティに何ができるわけでもなかった。トリニティにはミレニアムのような技術力もなく、詳細不明な古代兵器など引き取ってどうすることもできない。ましてや、何か災厄をもたらすものであったらどうするのか。

 

 そして、ミレニアムはエデン条約事件以降、トリニティと事実上の同盟を結んでいる学校であるため、トリニティ生徒会長のナギサとしては静観するということが結論だった。

 

「古代兵器がどうあれ、行くのかい?ミレニアムに」

 

「えぇ、断る理由もないですし」

 

「そうか。なら留守は預かる。護衛は……」

 

「シャーレとの付き合いが長い生徒がいいでしょう。宇宙戦艦の件があるのなら、かなりの機密ですし」

 

「それならいっそのこと、シャーレの生徒にミレニアムへ行くか聞いてそれに同伴すればいいんじゃないか?」

 

 セイアの案は合理的であり、ナギサは頷いた。

 

「それがいいかもしれませんね」

 

「その方がエリカと過ごせる時間も確保できるだろう」

 

「ブフゥ──!?」

 

 盛大にお茶を吹き出したナギサを見つつ、セイアは清楚にお茶をすする。

 

「な、なにを言っているのですか!?」

 

「この前もミカが言っていたが、君は露骨すぎるぞ」

 

「うっ」

 

「公務に支障が出る前に外遊を理由にして行ってくるといい。ちょうど最近は情勢も落ち着いてきたんだ」

 

「よいのでしょうか」

 

「エデン条約が表向き破産した以上、次が必要だ。君もそれをわかってミレニアムとの距離を縮めたのだろうに」

 

「それは」

 

「だからちょうどいい理由になる。そうは思わないかい?」

 

 セイアの提案に、ナギサは観念して頷いた。エリカと同じ寝床に潜りこんだことは完全に暴走であり、ナギサ自身もわかってはいた。このままではいずれ、ことあるごとに傷つくエリカをどうにかしまうと。

 

 それは互いに立場があり、なかなか気軽に会うことができないというのも一つの原因だった。故に、セイアの提案はナギサから見ても無理なく会うことができる。

 

「………わかりました。シャーレと調整します」

 

「うん。それでいい」

 

 セイアが観念した友人の姿を見て安堵しつつ、何故こんな友人の恋煩いをカウンセリングしなくてはいけないのかと内心ため息をついた。

 

「(こういうのは救護騎士団の役目のはずなのだがな)」

 

 なんとか友人の恋路が順路に戻ることを祈りつつ、再びセイアは紅茶を口にした。

 

 




次回は未定です。しばらくお待ちください

ついに最終編となります。だいぶ状況が原作と違うので大変ですが頑張ります。

感想やここすき、いつもありがとうございます。大変励みになります。よろしくお願いします。
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