morning glory   作:鈴夢

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共闘、本心、本音

 

・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

「――いいな?邪魔する奴らは皆殺しだ。子供だろうが、教師だろうが、医者達だろうが関係ねえ。――"邪魔する奴は殺せ"。」

 

 

リーダー格だろうか。やけにガタイのいい強面の男は銃に弾を込めると仲間たちに的確に指示を下していく。

 

狙いは不明だが、やはり校内に侵入しようとしているのは間違いない。そして無差別に人を殺せる神経を持つ人間だと言うことも。

 

男達は物々しい雰囲気を漂わせ足を踏み出す――

 

 

「よし、作戦通り行くぞ。何がなんでも目的を……」

 

 

刹那、6人の男たちを挟むように現れる2つの影。

青と赤の鋭い眼光が男たちを捉え怯ませる。

至ってどこにでも居そうな服装の男、そして白衣を纏ったブロンドヘアの少女。

 

その2人も何か打ち合わせをした様子で呼吸を合わせつつ、そっと口を開く。

 

 

「――子供たちを脅かす汚い大人達」

「姉さんのいる、この国を脅かす危険分子――」

 

 

興奮にじっとはしていられないと言わんばかりの恐ろしく冷めた形相。

その2人の気迫だけで男たちは一瞬の隙を見せる。

 

 

 

「「排除するのみ」」

 

 

鋭い眼が再び光を放つ。

 

同時に駆け出すユーリとティファニー。

凄まじいスピードで男たちに襲いかかると圧倒的な力に次々と倒れていく。

 

 

「ッ!!なんだコイツら!?」

「おい!何やってる!?相手はふた……グハッ!!」

「チッ……ただの一般人だろ!?」

 

恐れの表情を浮かべる男達の顔は見ていて滑稽だった。

 

苦痛を他人に与えることで喜び、または性的満足を得る2人のその様。心の奥で眠っていた"サディスティック"な面が垣間見えていた。

恐ろしい程に狂気じみた青と赤の瞳――

 

 

諜報員と秘密警察。

それなりの訓練を受けてきた2人の動きは、もはや常人には打ち倒すことは不可能。

 

素早い身のこなし、力強い一撃。

正に"阿吽の呼吸"という言葉が相応しいほどに――

 

 

 

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

 

 

駐車場の片隅に転がる6人の男達の体。

どうやら起き上がる力も無い様子で、ただただ項垂れていた。

 

 

ユーリは男達から銃火器を奪い、呆れた様なため息を漏らす。

 

 

「――見た目の割に呆気なかったな。」

「ですね。……通報は私に任せてください。」

「ああ、頼む。」

 

背を向け、踵を返すティファニー。その後ろ姿をじっと見据えるユーリ。

あまりにも呆気ないこの状況は気味が悪いほどに不自然だった。

 

格闘技の"師範"だと言っていたが、それは確かに先程の動きを見れば納得のいくものだった。

――だがしかし、"慣れすぎている"んだ。

 

銃火器を持った数人の男たち相手に怯むことなく突っ込む様。普通の女性がそんな行動を起こせるはずがない。

 

 

「((……"ティファニー・ラドナー"……お前は一体……))」

 

なにか引っかかるものを感じ取るも"とりあえず考えるのは後だ。無線機を使って仲間たちに報告を――"とユーリは隠し持っていた無線機に手を伸ばす。

 

「――こちらユーリ・ブライア。東棟の関係者専用駐車場にて銃火器を持った不審者を発見。至急応援――」

 

 

 

 

 

 

 

 

力なく倒れる男の1人が上半身を起こす。どうやら足を折っているようで立ち上がることはできず、最後に抗いを見せていた。

 

 

 

「……くっ……クク……こんな所で……倒れる訳には――」

 

 

着衣していたジャケットに手を伸ばし、隠し持っていたリボルバー銃をそっと取り出す。

 

 

「!?」

 

癖のある安全装置の解除音が微かに鼓膜を叩く。ユーリは咄嗟に目の色を変えその男の姿を捉える。

 

 

「((増援を呼ばれる前に、あの女から殺る……))」

 

「――ッ!((まずい!射程圏内――))」

 

躊躇なく向けられる銃口。

その先にいるのはティファニー。彼女はそれに気づいている様子はない。

 

 

「くっ……((間に合え――ッ!!!))」

 

気づくと勝手に脚が動いていた。

猛スピードで風のように一心不乱に駆ける抜けるユーリ。

 

 

「ティフィーーーー!!!!」

「――ぇ……」

 

ユーリの叫びに近い声が背後から飛び込む。半ば気の抜けたような間抜けな声を漏らすティファニーは振り向いた瞬間に状況を飲み込んだ。

 

――しかし、自分ではどうにも……

 

 

 

「伏せろ!!」

「ッ!!!」

 

 

 

刹那、男の握っている銃が火を噴く。

銃声が響き、弾丸は金属音を伴って乱れ飛ぶ。

 

耳を塞ぎたくなるような衝撃音が一帯に響き渡ったのだ。

 

 

「――ッく……」

 

 

 

その音と同時に倒れ込む2人。

ティファニーを庇うように抱きつく形でユーリが覆い被さる。

 

突然の衝撃にティファニーは反応に追いつけず地面に強く頭を打ちつけ、痛みと同時に視界がぼんやりと歪んでいた。

 

 

「――痛……ッ……ユーリ、さん。……」

 

自分の体に伸し掛るユーリの体。

ユーリはゆっくりとティファニーから体を剥がすように上半身を持ち上げる。

 

 

 

「ユー……リ……さ……」

「――ぐっ……ぅ……」

 

 

苦しげに眉間に皺を寄せ左肩を押さえるユーリ。

 

 

 

何が起こったか理解が追いつかないティファニー。まるで時が止まったかのように、無音の世界に放られたような感覚に陥る。

 

 

 

――ポタッ……ポタッ……

 

 

 

ティファニーの蒼白な顔面に生暖かいものが垂れ落ちる。"赤い水滴"は徐々に増え白い肌を染めていく。

 

 

「――ぁ……あっ……あぁ」

 

青い瞳が大きく開かれ、酷く蒼白した表情は怯えた魚のように目と口をぱちぱちとさせていた。

 

 

 

 

 

 

┈┈┈┈

 

 

――○○ッ!!!!

 

 

┈┈┈

 

 

 

 

 

 

昔、兄が自分の名を呼び、こちらに向かってきた時のことを思い出す。

妹の自分を爆撃から守ろうと必死な形相で追いかけ、手を伸ばすその光景が――

 

 

――血に濡れた、その光景が。

 

 

 

"何故か重なってしまった"

 

 

 

 

 

 

「ユーリさん!!ユーリさん!!!!!」

「……ぐ……うる、さい……」

「直ぐに応急処置を!」

「ボクのことは…………それより、逃げ――」

「逃げません!」

 

 

やっと我に返ったティファニーはユーリを引き、車の物陰へと引っ込む。そして直ぐに応急処置を行うと左肩、胸辺りに真っ赤な鮮血が広がっていることに気づく。

 

「((左肩……銃弾はパッと見体内には残されてない。貫通して出血が…………まずい、早く処置しないと――))」

 

白衣の一部を破り、止血を試みるティファニー。荒ぶる感情を何とか沈ませながら懸命に手を動かす。

 

 

 

 

「((ッ……へへっ、狙ってた女は外したが男に命中したか……ざまぁねえ……ぜ――))」

 

 

その一端を満足気に薄ら笑いを浮かべ、男は地面に再び倒れ込む。

 

 

 

 

 

 

「……はやく、逃げろ、と――」

「逃げません。」

「…お前も……怪我……」

「こんなのただの擦り傷です。――ちょっと痛いかもしれませんが我慢してくださいね。」

 

止血処置の為に布を強く括り付ける。

ユーリは小さく唸り声を上げるも、心做しか先程より顔色が戻っていく様子が伺えた。

 

その様子に微かに安堵を浮かべるティファニー。

 

 

「どうして……私"なんか"を庇ったんですか。」

「…………」

 

青い瞳に悲しい影が映る。

そこにはいつもの天真爛漫な少女の気配は無く、ただただ自分の失態を酷く貶している様子だった。

 

自分の不注意で、安易に敵に背を向けてしまった。そのせいでユーリは――

 

 

 

 

 

「――この国の未来を担う医者を……失う訳にはいかないだろうが。…阿呆。」

「…………」

「……ったく。……隙だらけなんだよ、……」

 

 

ため息混じりの呆れ声。

そんなユーリは神妙な面持ちで今にでも泣き出しそうなティファニーに対し、ほんの少しだけ口元に笑みを滲ませた。

 

 

「――不細工な顔で……泣いたらはっ倒すからな。」

「……ふ……ふふ……ぅ……」

「だから……そんな顔……――ぐはっ!!!…」

「ユーリさん!!!」

 

「((やめろっ……それ以上ボクに抱きつくな!昔姉さんに折られた肋が疼く――))」

 

ガクッと気を失うユーリの横で幼子のように騒ぎ立てるティファニー。

 

すると刹那、大勢の乱れた足音が近づいてくる。

 

 

 

 

 

 

 

「――おい!銃声が聞こえたぞ!」

「こっちだ!人が倒れてる!!」

「すぐに救急車を――」

 

 

ユーリの通信を聞いた秘密警察の仲間たち。そして銃声を聞いた者たちが徐々に集まり始める。

 

 

無事、ティファニーとユーリは保護されるのであった。

 

 

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

 

 

――翌日

 

バーリント市内 地下

西国(ウェスタリス)情報局対東課〈WISE〉支部

 

 

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

 

 

「こんにちは、あるいはこんばんは。――エージェント"黄昏"、"朝顔。"」

 

 

テーブルに両肘を立て微かに妖艶な笑みを浮かべる女性――管理官(ハンドラー)

 

 

 

「昨日の件について、ご苦労だったな"朝顔"。たまたま居合わせたらしいが……災難だったな?」

「……うう……本当ですよ……」

 

そんなハンドラーを前に薄笑いをうかべるロイド。そしてその横であからさまに肩を落とすティファニー。

昨日の今日で疲労困憊の様子だった。

 

 

「お前がたまたま居合わせた銃火器を扱った男達。奴らは国家保安局にマークされていたテロ集団だったと報告が入った。目的はイーデン校の"占拠"。各要人の子供たちを人質に取ろうと企んでいたんだろう。……全く、暇な連中だ。」

 

「たった数人でですか?私が見た限り6人ほどしか……」

 

「どうやら、校外の数ヶ所に複数の怪しい車両が待機していたらしいぞ?作戦失敗と踏んだ輩たちは尻尾を巻いて逃げ出したんだろうな。……アーニャもいつもと変わらない様子だったし、学生たちは何も知らないんだろう。」

 

「……そんなに大事だったんですね。昨日の件……」

 

たまたま居合わせただけだが子供たちに一切害は無かった様子で一安心。

気が抜けたようなため息を漏らすティファニーに視線を向けると、ハンドラーは小さく笑みを零した。

 

 

 

「一先ずお手柄だったな。お前がいなかったらイーデン校は今頃テロ集団によって占拠されていた可能性が高い。」

「そんな。本当にたまたま居合わせただけで。……それにどうやら秘密警察も警備を敷いていた見たいですし、"彼ら"がいなかったら私もどうなっていたか。」

 

そうだ。そもそも自分も致命傷を負う可能性があったのだ。あの時ユーリが咄嗟に庇っていなければ……

 

 

「………まだまだ、私は未熟ですよ。」

「…………」

 

 

酸いも甘いも噛み分けたような、感情のはっきりしない複雑な表情。

それを隣のロイドは見逃す事無く、横目で攫うように見据える。

 

 

 

「((―――スパイたるもの、仲間を見捨ててでも標的に狙いを定めなければならない。テロリストの始末を優先すべきだったのに、私はユーリさんの応急処置を優先した。確かに、"私の任務"においては正しい選択だったかもしれないけど……だけど……))」

 

ハッキリしない"分からない"感情。

だけど放っておけなかった。

……自分を庇ったあの時の表情、痛みに苦しむユーリ

様子。

 

 

――私はどうすべきだったのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ところで朝顔。お前バレていないだろうな?」

「え?」

「秘密警察のユーリ・ブライアとの共闘だ。お前は元々体術には不慣れであるのは事実だが、それでも"人並み以上の身体能力"は持っている。銃火器を扱う男を相手に懐に飛び込むなんて"普通"なら有り得ない。」

 

ハンドラーは懸念していたのだった。

万が一、ティファニーに疑念の眼が向けられればWISEとしてもかなり危険を被る事になりかねない。

もし国家公安局にマークされ、ティファニーが秘密警察の手に堕ちれば…

 

 

 

「大丈夫ですよハンドラー。彼は気づいてません。上手く誤魔化してますし。…それに――」

 

 

おそろしく青い瞳が鋭く炯々と光る。

呑気な柔い表情は一瞬で消え、ただただ冷酷さしか浮かばない表情。

 

その不気味な程に鋭さを持った顔を見たハンドラーとロイドは不思議と心臓の鼓動が大きく揺れる。

 

 

「"もし"、怪しまれていると分かったら私が彼を先に始末します。…ヨルさんには悪いですがそれとなく上手く対応する策は考えてますよ。」

 

「フッ…確かに心配は無用だったな。お前はその頭脳を活かして利口に行動ができる。――頼りにしているぞ"朝顔"。」

 

「はい。お任せ下さい、ハンドラー…」

 

ニッコリと天真爛漫ないつもの笑顔に変化する。

しかし、その裏に隠された微細な本音。

 

 

その僅かな少女の表情に対し、ロイドは微かに息を漏らしていたのであった。

 

 

 

 

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

 

 

 

 

 

「――お前は相変わらず嘘が下手だな、ファニー。」

「なんの事ですか?"先生"。」

 

 

 

地上に戻り、真昼間の街中を歩く2人。

 

ティファニーは唐突に言葉を呟いたロイドに対して"?"を浮かべていた。

 

 

「やはりお前は優しすぎる。隙も多くて俺は心配だ。」

「すみません、ご心配ばかり。」

「…お前な……」

 

呑気に軽快にステップを踏むように隣を歩くティファニーに対して盛大な溜息と共に頭を抱え込む。

 

「もしお前が国家公安局の手に堕ちたら俺は気が気じゃない。」

「大丈夫ですよ?奴らの拷問なんかで情報は吐きませんし――」

「違う。そういう意味じゃない。」

 

人気の少ない裏通りの歩道に立ち止まるロイド。その様子に更に"?"を浮かばせる。軽快に歩いていたティファニーもさすがに空気を察したのか脚を止めると、ロイドに視線を向けた。

 

 

「…どうしたんですか?先生らしくないですよ。」

「((こいつは…分かっていない。))」

「今は密告ブームですし、私もいつ身柄を拘束されるか分かりませんよ?」

「((こいつはスパイとしての正しい考えも覚悟も持っている。だが、あまりにも"滅私奉公"なんだ。))」

 

 

 

私利私欲を捨てて、主人や公のために忠誠を尽くす。過去にロイドが彼女をスパイとして教育したのは事実。その時から、あまりにも彼女から"普通の少女らしさ"というものが欠如していたのは分かっていた。

 

スパイとしてそれは正しい。

しかしここ最近、時折見せる彼女の微細な表情は――

 

 

 

"健気で、染まりきっていない、普通の少女"

 

 

そんな顔をする彼女は見たことがなかったのだ。

 

 

 

 

「…俺はここまでお前を育ててきた。」

「はい、そうですよ?先生のお陰で私は今を生きてます。」

「………」

「…どうしたんです?先生?何か変ですよ?そんなに私が簡単に敵の懐に落ちそうで不安ですか?」

 

「――ッ…」

 

咄嗟にティファニーの腕を掴むロイド。

彼の顔には悲しみや切なさ、困惑、憐れみ……それらの表情がいっぺんに水煙のように拡がっていた。いつもの凛とした"西国一の諜報員"としての姿はなく。まるで自分の娘を想うような表情だった。

 

 

掴まれた腕の力に驚きを隠せないティファニー。

自分より遥かに背丈の高いロイドを見上げ、同じく困惑した表情を浮かべる。

 

 

 

 

「………お前は、死ぬんじゃない。」

「…………」

「お前が危険な目にあうとするならば、その前に俺やハンドラーに夜帷……すぐに駆けつける。」

 

 

"らしくない台詞"

まさか、ロイドからこんな言葉が出るなんて思ったこともない。

偽装と言えど、家族を持った彼に妙な感情でも芽生えているのだろうか?

 

これは本心?それとも忠誠心を強めさせようと、云わばハニートラップのようなものなのか?

…やっぱり、西国一の諜報員の言葉は"分からない"。

 

 

「大袈裟ですよ先生?」

「………」

「こんな所、ヨルさんやフィオナ先輩に見られたら大変です。((マジで先輩に殺されるから止めて頂きたい))」

 

掴まれた腕をそっと自分の手で引き剥がし、ニッコリと微笑む。

しかし、相変わらずロイドの表情は曇ったままだった。

 

 

 

 

「じゃあ、私はこのまま病院に向かうのでまた今度!良い週末を!先生!!」

 

 

 

 

踵を返すティファニー。

その幼い背中をロイドは目で追い続けるのであった。

 

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

 

 

――30分後

バーリント総合病院 入院患者病室――

 

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんでお前が来るんだ!」

「だって!私のせいで大怪我を……」

「こらユーリ!せっかくお見舞いに来てくださったのにその言い方はいけません!」

「((ははもおじもおねいさんもゆかい…))」

 

 

患者衣姿のユーリ。

傍らには点滴スタンドが立てられており、何となく物々しい雰囲気が漂っているものの怪我をした本人は何事もないかのように元気そうだ。

 

ティファニーは見舞いにと、果物が豊富に詰められた袋と共に現れたのだが――

 

 

「ははっ!分かったぞ!お前、姉さんの前でボクの醜態を笑いに来たんだな?」

「ユーリ!」

「お前の応急処置が無くとも、ボクはピンピンだった!脅威的回復力で明日には退院――」

 

 

"やいやいやい"と言葉を止めることの無いユーリ。傍らでは姉のヨルが必死に止めようとするも、なぜかティファニーを前に止まる様子は無い。

 

そんな光景をティファニーとアーニャは同じようなジト目を浮かべ、ぼんやりと見据える。

 

「((本当にこの人は、姉の前だと理性というか…そういった物が全て吹き飛ぶのか…))」

「((…おじ、くそやろう))」

 

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

 

 

 

「ボクは姉さんだけで良かったのに、なんでチワワ娘も…"お前"まで…」

 

「((イラッ))」

 

ヨルが医者に呼び出され病室を出ていったその後…

ユーリの毒舌は止まることなく、相変わらずティファニーに向けて強がる様子を止めない。

 

 

「アーニャは"ふりかえきゅうじつ"ってやつ。だからきんようびでもがっこうやすみ。」

「…私も心配で来たんですよ。全く……ふんっ…」

 

傍らのパイプ椅子に腰掛け口を尖らせるティファニー。つんつんとしたその様子を前にユーリはここまで見てきた様々な彼女の表情がフラッシュバックするかのように脳裏に浮かんでいた。

 

 

呑気に笑う姿、幼子のように怒る表情。嬉しそうに食べ物を頬張る場面や、頬を赤らめるところ…

 

 

そして昨日の…彼女の必死な表情。

自分の応急処置に集中する医者の顔や心配して涙を流す姿も。

 

 

 

――そして

青い瞳が獣のように鋭さを見せ、敵に突っ込むあの時の光景。

"普通の少女"がテロリスト達をいとも簡単になぎ倒す様。

 

 

――あれは、一体誰だったんだ。

 

 

 

「おじ。かおこわい。」

「本当本当。怖い顔してますよ?…あ、もしかして傷が痛みます?ナースコールを…」

「違う違う違ーーーう!!…お前ら似たような表情でニヤニヤ笑うな!」

 

"ニヤニヤ"と小馬鹿にするようなその笑い。

アーニャとティファニーのその表情は恒例になってきたがやはり腹立たしい…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…まあ、でも、なんだ………無事でよかったよ。」

「…え?」

「だ…、だからお前が!!」

 

今度は打って変わってティファニーの心配を。

……やっぱり、この男は何を考えているのかイマイチ読み取れない。

 

 

「バーリント総合病院のホープなんだろ!?そっ……そんなお前に死なれたら、万が一姉さんが病を患った時に診る人間が減ることになるからな!」

 

「――はあ……」

 

まあそういう事だろう。

所詮、この男は"姉"が1番なのだから。

 

「((私を庇ったのもたまたまだろう。…でも、お陰で私は生きてる。お礼は言えたし今日はここまでにしておこう。))」

 

どこかポッカリと寂しい気持ち。

姉を思うことは勿論とても大切で良い事だが、どこか寂しい気持ちが湧き上がる。

 

「((…く……、だからそんな顔をするな!分からんがもどかしくなるんだよ、この女…))」

 

素直に口から発せられない台詞。

ユーリも同じく"分からない"不思議な気持ちに翻弄される。

 

 

「((おじもおねいさんも…きもちつたえられない、てれやさん?))」

 

 

不思議そうに2人を交互に見るアーニャ。

心の中を読んだアーニャはそんな2人の様子を瞬時に察知していた。本音を心にしまい、閉ざしてしまうその様子はとてももどかしい。

 

 

 

 

 

 

 

――しかし、それを打ち砕いたのは。

 

 

 

 

 

「……どこも、怪我していないな?」

「はい?…ぁ…私?」

「そうだ。お前だ"ティフィー"。」

「……?はい。お陰様でちょっとした擦り傷だけです。」

「なら良い。」

「………」

「機転を聞かせてお前が動いてくれたおかげでボクもうまく立ち回れた。それに応急処置も的確だった。」

「………」

「なんだその顔は!ボクはお前を気にかけて、褒めてるんだぞ!」

「わっ…分かってます!ありがとうございます!」

 

「「…………」」

 

変な距離感に沈黙する2人。

しかし"あのユーリ"が年頃の女性にこんな言葉をかけるなんて以外すぎる。

 

 

「((き…気にかけてって…

…どういう…))」

 

「((あ〜〜〜くそ!そんな顔されると気が狂うんだ!))」

 

 

互いに悶えるように頭を抱える2人。

するとアーニャは面白がるようにぴょんぴょんと跳ねながら言葉を放った。

 

 

 

 

「おじとおねいさん"いちゃいちゃ"!!」

 

「「してない!!」」

 

見事に言葉が重なる様子に、真っ赤に染った顔を覆い隠す2人の姿は正に滑稽。

アーニャは変わらず嬉しそうに笑みを浮かべながらその様子を楽しんでいた。

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

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