morning glory   作:鈴夢

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本音とくちづけを

 

 

 

・・・・・・・・・

・・・・・・・

 

 

 

午後13時過ぎ―――

――フォージャー家

 

 

 

・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やふぅーーーー☆来たよ〜〜☆姉さーーん!!」

 

 

チャイムを押すことも無く、突如として現れる異様なほどハイテンションな男"ユーリ・ブライア"。

手には姉のヨルの為に用意されたと思われる花束を抱えており、手土産をも用意している様子。

 

満面の笑みで飛び跳ねていた男。しかし光景を目にした瞬間、一変して瞳の色が変わる。

 

 

 

「―――って、なんでティフィーがここに!?」

 

 

リビングでティーカップを手に寛ぐ"そこに居ないはずの彼女"。ダイニングテーブルを挟むように対面に座るヨルとティファニーがそこに居たのだった。

 

 

 

「何でってユーリさんこそ…」

 

 

2人はそれぞれヨルから連絡があって今日この場を訪れていたのだ。お互いに仕事が早く終わったのは"たまたま"なのだが…

 

 

「「………」」

 

ティファニーとユーリは互いに顔を見合い、ふと傍らのヨルに視線を向けた。

 

戸惑う2人を他所に嬉しそうにクスクスと笑みを浮かべるヨル。そこで2人は察した。"きっとヨル(姉)さんが仕掛けた"と―――

 

 

「今日は私が半休なので"もし空いてたらお茶でも"…なんて思いついたんですよ?」

 

"美味しいお菓子を頂いたものですから"と言葉を付け加えるヨル。なんらいつもと変わらない様子にも見えるが…いいや、何か違う。

 

 

"最愛の弟と夫の教え子の恋路の為"に―――なんて考えていそうな顔だ。

 

 

「だからってティフィーが居るなんて聞いてないよ?姉さん。」

「私も今の今までユーリさんが来るなんて聞いてませんでしたよ?ヨルさん。」

 

 

同時に向けられる視線。微かにバツが悪そうに、恥ずかしそうにも見て取れる2人の様子にヨルはただただ笑顔を浮かべ続けるのみだった。

 

 

「ふふふっ。」

 

 

 

そう。

"あの一件"からティファニーとユーリは付き合っている、という事になっていたのだ。

 

あくまでもティファニーはオペレーション〈梟〉の為。ユーリに関しては表向きは姉を安心させたいなんて―――いいや、実のところ曖昧なのかもしれない。

 

しかしユーリは珍しく[[rb:女性 > ティファニー]]に、微細な恋心を抱いているのは間違いなかった。

 

 

 

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キッチンではヨルがユーリの為にコーヒーを用意している最中。そしてダイニングテーブルを挟んで座る2人は止まることなく喋り続ける。

 

 

 

「お前、最近は学会がどーのこーので忙しいって」

「今日は急遽お休みになったんです。ユーリさんこそ外交官のお仕事が忙しいとかでロクに電話も出なかったじゃないですか。」

「ボクも今日はたまたま時間が出来たから立ち寄ったんだ!」

「お互い様ですよ。お互い様…」

 

 

"お互い忙しい立場なのだから仕方ない"と言わんばかりに会話を途絶えさせるティファニー。こういう話で言い合えば埒が明かないのは明白だ。

 

 

 

「…だから!…その……。ボクとお前はだな!―――」

「ボクとお前は?」

 

 

急にシュンと大人しくなったと思えばバツが悪そうに腕を組み視線を逸らす。

素直に何かを言いたいのに喉に詰まって言葉が出ない。

 

姉の前では―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あら?もしかして私お邪魔でしょうか?そうなのでしたら正直に言ってくだされば―――」

 

 

 

「違います!」

「違う!」

 

 

同じタイミングで重なる声、向けられる視線。

 

"似たもの同士"の2人をヨルは面白可笑しそうに見据えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

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太陽が天頂を通過した頃。

天気も良く、外には人が溢れていた。

 

 

 

昼間の街は何もかも明るい。青空や浮かぶ雲、木々が風に揺れる音やその匂い。公園を駆け回る子供や傍で語らう母親たち。何もかもが笑っているような明るさなのだった。

 

 

「………」

 

そんな駆け出したくなるような気分のいい今日(こんにち)。歩道に敷かれたレンガ道を肩をを並べて歩く2人。互いの距離感も以前よりも狭まっているような気もしている。―――が。

 

車道側を歩く男はムッと不機嫌そうに視線を合わせようとしなかった。

 

 

 

「ユーリさん。」

「…………」

「やめてくださいその顔。ブサイクですよ?」

「…………」

「ヨルさんの前だとそんな顔しないのに。もしかして怒ってます?私に対して。」

 

グイグイと服の袖を引くティファニー。どこまでも子供のような言動を繰り返す年上の男に振り回されっぱなしだ。

 

「―――時間が出来たなら連絡を入れればよかっただろ?」

 

漸く口を開いたかと思えば"そんな事"。休みなら連絡をよこせと言いたかったらしい。

 

「今朝、職場から連絡が来たんです。最近休めてなかったし、学会が中止になったこのタイミングで1日休んだ方がいいって。さすがに"今日の今日"で連絡するのも迷惑かなーって思ったんですよ。」

「………」

 

ティファニーなりの気遣いだったのだがそれが気に入らなかった様子。…というか、どっちみち電話をしても仕事で出ない確率の方が高いのに…この男……都合が良すぎる。

 

 

 

「―――ほら。ヨルさんに頼まれた"買い物リスト"貸してください。…えーーっと…挽肉に玉ねぎ…見た感じだと今夜はハンバーグかな〜」

 

"アーニャちゃんの(ステラ)獲得パーティかな?"と嬉しそうに呟くティファニー。そしてその姿を横目でじっと見つめるユーリ…

 

 

「((…だめだ……完全にティフィーのペースに"やられる"ようになってきた…。しっかりしろ!))」

 

 

子供のように立ち振る舞っている自分が恥ずかしい事は勿論わかっていた。しかし、なぜか最近この調子なのだ。ティファニーを相手にすると調子が狂う。ハッキリと言えないもどかしさが裏目に出ては子供のような態度を出してしまう。

 

 

 

「あ!先に野菜から買いに行きましょう!4丁目のスーパー確か今日特売日なんです。」

「…キューダム通りの店にも寄りたい。リストには書いてないが、グラスを割ったとかで姉さんが困っていたからな。」

「了解です。じゃあスーパーに行って、その後キューダム通りの食器屋さんに。帰りにお肉屋さんに寄りましょう?」

 

漸く彼と目が合った。未だに決まりの悪そうな顔をする反面、何食わぬ顔で普段通りと変わらないティファニーが上手。振り回されているのは間違いなくユーリ…

 

 

「シャキッとしてください!置いていきますよ?」

「ッ……」

 

 

 

やれやれと露骨な表情を向けたあと、ティファニーは強引に彼の手を掴むと足早に目的地へと歩いて行く。

 

手は子供のように小さく全体的に華奢だ。女性特有の柔い感触に吃驚と肩を揺らす。それに気づいたティファニーは可笑しそうにクスクスと笑みをこぼした。

 

 

 

 

 

 

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「―――最近。お仕事はどうですか?」

 

 

買い物も終盤。残りはリストに書かれている挽肉のみ。2人は行きつけの精肉店へと向かっていた。

 

そんな時、ここまで一切話題に出さなかった"互いの仕事"についてティファニーは口を開いた。

 

 

 

 

「外交交渉の仕事が増えてきたな。そのせいでかなり忙しい。…お前は?」

「私は…そうですね、学会ばかりで疲れました。自分が発表するのは良いんですど……こう見えて私ずーーっと静かに座って話を聞くのって苦手なんですよね。」

「こう見えてって、見たままだろ。」

「どういう事ですか、それ…」

 

ムッと頬を膨らませ"見たまま"だと呟いた相手にジト目を向ける。

バーリント総合病院のエースでもあり、将来を期待された頭脳明晰な彼女も"こんな顔"をする。きっとそれは一部の人間しか知らないし、むしろ自分の特権かもしれない。奇妙なことにそれが嬉しいのだ。

 

 

 

 

「…にしてもこの前大変でしたよね。」

「この前?」

「バスジャックですよ。…ほら、数日前まで報道されてた…」

「ああ。極左組織がどーのっていう事件の事か。」

「そうです。本当にアーニャちゃんが無事でよかった。」

「あの時、救急隊に混じってお前も外で待機してたんだろう?」

「よく知ってますね?」

「姉さんから聞いたんだ。まさかテロ行為が行われていたあの場所に研修医が駆り出されるなんて…バーリント病院も何を考えてるのか…」

 

そんな危険な場所に放り出すなど有り得ない、と言わんばかりに眉を顰めるユーリ。

"あの時、あの場所"に自分も居たのは意図的なのだが…それを口にする訳にはいかない。ただの外交官の職員がその場所にいるはずないのだから。

 

 

 

「一応看護師として動けますし。それに、私優秀なので。」

「調子に乗るなチンチクリン。」

「へへへっ」

 

調子に乗るなと額を指で突かれるティファニー。その行動になぜか笑みを零すとつられるようにユーリも微かに笑みを零した。

 

 

「((―――まあ…ユーリさんが保安局員としてあの件に絡んでたことは知ってたけど。))」

「((現場にいたことは口が裂けても言えないが…ティフィーがあの場所に居たのは知っていた。))」

 

 

極左組織〈赤いサーカス〉の残党が起こしたテロ未遂事件。博物館に向かっていたイーデン校のバス複数台のうち二台がバスジャックされ一時大きく報道されていた。

幸いにも犠牲者はゼロ(ユーリは左肩を負傷していた様子だが…)。バスに乗っていたアーニャからもその時の話を耳にした事がある。

 

ティファニーは万一に備えて救急隊と共にバス付近に待機。しかしそれは裏工作をして意図的にティファニーを現場に向かわせたのはハンドラーの指示あっての事。それにロイドも突入部隊に扮してあの場にいたのだ。

 

ユーリに至っては姪でもあるアーニャに顔が割れる訳にいかないともう一台のハイジャックされた車両の制圧に向かった。

 

お互いが分かっていながらもそれを口にする事は許されない。

西国の諜報員(スパイ)

東国の公安局員(秘密警察)なのだから―――

 

 

 

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「やたーーー!!はんばぁーーぐ!!」

「こうやって皆で揃って食べるのも久しぶりだな?」

「ユーリとティファニーさんも来てくれましたし、[[rb:星 > ステラ]]獲得のご褒美です。ロイドさんの帰りも早くて嬉しいですね?アーニャさん。」

 

 

テーブルを囲むフォージャー家、それにプラスしてユーリとティファニーの姿もそこにあった。

アーニャを挟むようにユーリとティファニーがソファに座り、対面側にはにこやかに微笑むロイドとヨル。特にヨルはそんな3人の姿に誰よりも嬉しそうな喜色を浮かべていたのだった。

 

 

「味は保証するぞ。ボクが作ったんだからな。」

「ユーリさんは種を捏ねて焼いただけですよ?味付けは私です。このソースも私が作ったんです。」

「ハンバーグは焼き加減が大事なんだ。味なんて二の次だ。」

「でも種の分量間違えそうになってたじゃないですか?」

「おい!それは言わない約束だろ!!」

 

「((……おじとおねいさん"ゆかい"))」

 

 

傍から見れば仲睦まじい2人。どこからどう見てもただの関係性では無いことが分かるほどに2人の距離は近くなっていた。嘘か誠か、爛漫な笑みを零すティファニー。ロイドはそんな2人の雰囲気から様子を伺う。

 

 

 

「((……ユーリ・ブライアの様子を見る限り例のブラックリストの件は本当のようだな……))」

 

 

 

秘密警察のブラックリスト。以前はそこにティファニーの情報が載っておりマークされていた事実。しかし新たにティファニーが盗み出したそのリストから除外されていたのだ。その経緯は不明だが……。

 

 

マークする必要が無くなった。多少なりともユーリ・ブライアはティファニーを怪しんでいない…のだろう。だからこそブラックリストから除外された。

 

 

 

「((だが、これも罠かもしれない。油断するなよ、朝顔。))」

 

 

 

じっと目の前のティファニーに視線を向けるロイド。それに気づいたティファニーも視線でそれに応えると様子に気づいたユーリが大声を上げ、ロイドに向けて指を指した。

 

 

 

「おい!ロッティ!!今ティフィーをイヤらしい目で見つめていたな!?」

「なっ……」

「姉さんが居ながら貴様はティフィーにも手を出すのか!この鬼畜め!シスコン!変態!」

「もしかして…もう酔ったの?ユーリ君。」

 

ブライア家は酒癖が悪い。たった1口、ワインを口にしただけでこの状態だ。

ロイドを罵倒するのは見慣れた光景だがやけに今日は虫の居所が悪いらしい。

 

 

 

「ユーリ!空きっ腹の状態で飲み過ぎですよ!」

「ちょっと顔が良くて背が高くてスマートだからっていい気になるなよ!」

「ユーリさん、グラス!せっかく買ったばかりなのに割れますから!振り回さないで!」

 

「……ゲプッ((おじ、あいかわらずくそやろう。))」

 

 

いつも通り騒ぎ立てるユーリに止める2人。それを冷ややかな瞳で眺めるロイド。アーニャはユーリの心中の重い思いに胸焼けを起こすことは日常茶飯事だった。

 

 

「((今までは対象がヨルさんだけだったが…。何故かファニーもその対象に含まれて前にも増して俺への当たりがキツくなったぞ。…何なんだ、一体……))」

 

やっぱりそれほどに彼女を好いているのか…相変わらず分からない奴だとため息を漏らす。

 

 

 

「ユーリさん。飲みすぎると明日シンドいですよ?お仕事ですよね?」

「ぅ…うるさい!」

「そんなに酔っ払ってどうやって帰るんですか?また車に轢かれて私に手当てされたいですか?」

「轢かれる訳ないだろ!それにお前に手当なんて―――」

 

 

 

 

┈┈┈

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「…本当にごめんなさい……ティファニーさん。ロイドさんも……弟が失礼ばかり……。」

 

 

あれから小一時間。酒を飲むだけ飲んで自爆したユーリ。

 

何故かロイドに喧嘩をふっかけまくり謎の勝負を挑んでは素面の相手にボコボコにされ……以下略。

さすがに埒が明かないと考えたティファニーはユーリを連れてフォージャー家を後にすることに。

尚、その本人はほぼ泥酔しきった状態でティファニーの肩に腕を回し体を預けていた。

 

 

「よいしょっ…と。大丈夫ですよ?いつもの事ですし。」

「タクシー呼ばなくていいのか?」

「はい。…逆にこの状態でタクシー乗せると大変なので。車内で吐かれたりしたらクリーニング代取られちゃいますし。請求しますけど、本人に。」

 

一体どっちが歳上で大人なのか。男性の方が精神年齢は低いという事も言われているがユーリは典型的すぎる。

 

 

「それに私、明日は学会の出席だけで発表も無いですし、多少寝不足になったとしても大丈夫です。」

「うぅ……本当に…弟がご迷惑を……」

「そんな謝らないでください。その代わり、またお茶してください!」

 

そして再びユーリを担ぎ直すとひょこっと頭を下げた。

 

 

「それじゃあご馳走様でした!先生、ヨルさん。また遊びに来るね?アーニャちゃん、ボンド。」

 

「ボフッ!!」

「オーキードーキー」

 

可愛い2人に笑顔を向け、その後踵を返すティファニー。ロイドが玄関扉に手をかけたその時、ユーリはまるで寝言を零すかのように口を開いた。

 

 

「…ろってぃ……次こそ…」

「はいはい、帰りますよー……。それじゃまた明日、先生。」

「ああ、気をつけて。」

 

 

閉じる扉、まるで嵐が去った後のように静まり返る室内。そしてまるで"酔いが覚めた"と言わんばかりに冷却しきった顔つきをする一同……

 

 

 

 

「…ロイドさん、本当に本当に本当にごめんなさい!」

「いえ、変わらず元気そうで良かったですよユーリ君。……それに―――」

 

フッと口元に弧を描くロイド。冷却な顔つきが穏やかなものへと変化していた。

 

「可愛い教え子にユーリ君みたいな相手がいてくれて……僕は嬉しいですよ。」

「うぅ…ロイドさん…。」

「ユーリ君もファニーも元気ならいいじゃないですか?―――さてと、僕達も片付けをしましょう。アーニャは風呂に入る準備だ。」

「オーキードーキー……」

 

ダイニングの片付けに取り掛かるロイドとヨル。そんな時、ふとアーニャはボンドと共に玄関扉に視線を向けていた。

 

 

「((……おじ、なんか"へん"だった。……おねいさんが"すぱい"……きづいてる…?))」

 

 

 

彼女は微細なユーリの本音を密かに読み取っていたのだった。

 

 

 

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「…ぅ………ティフィ……」

「少しは夜風に当たって酔いも覚めましたか?」

 

 

宵の口特有の蒼く冷えた甘い空気。柔らかな夜風が吹き抜け、2人の髪の毛を靡かせていた。

 

 

「……うぅ…」

「え、あ…ちょっと……大丈夫ですか?」

 

先程よりかお色はまともになったが今にでも吐きそうな雰囲気。そんな彼の肩をトントンと摩るように叩くとティファニーは心配そうに顔を覗き込んだ。

 

 

「吐きそうですか?」

「…いや……大丈夫だ。……」

「ちょっと休憩しましょう。お水も念の為ヨルさんが水筒に用意してくれましたし。あの公園のベンチで休みましょう。」

 

 

目の前に広がる見慣れた森林公園。中央には大きな池もあり、美しい睡蓮が花を咲かせていた。ほんのりと明るい街灯が点在しており犬の散歩やランニングする人物の姿が見える。ここなら万が一体調が悪化して倒れても人の視線もあるし安全だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――死ぬかと思った……」

「飲み過ぎですよ?いい加減学習してください、自分がどこまで飲んだら大変なことになるか…」

「…………」

 

ティファニーの正論にぐうの音も出ない様子。ムスッと再び不機嫌顔になる相手にティファニーもさすがに表情に怒りを浮かべた。

 

「いっ!!イタタタタタタタッ!!!」

「何度目ですか?毎度毎度泥酔するユーリさんを介抱するこっちの身にもなってください。」

 

ぎゅむっとユーリの頬を抓ると地味な痛みに弱気な悲鳴を上げる。こんな状況を介抱する相手に謝罪すら述べず、まるで子供のように弄れる相手に怒りを覚えるのは当然の事だろう。

 

 

「悪い!!悪かった!!離せ!ティフィー!」

「次は置いていきますからね?……全く、もう……」

 

 

ほんのりと頬を赤らめたままのユーリ。まだ酔いは回りに回っているのだろう。……まあ、あれだけ飲んだのだから明日には今晩のことは全て忘れているに違いない。というか事実、いつも忘れられているのだから。

 

 

「あと少し休んだらご自宅まで送りますよ。((ついでに秘密警察の書類を覗かせてもらおう。))」

「…………」

「お水しっかり飲んでください。アルコールの大量摂取後は脱水症状の危険があるんですからね。」

「…………」

「……私の顔に何かついてます?ていうか話を聞いて―――」

 

 

 

 

 

じっと紅い瞳に捕えられるティファニーの青い瞳。奇妙な彼のその雰囲気に飲まれそうだ。

 

 

「っ!!」

 

 

 

驚くほど柔らかな唇の感触。

アルコールのにおいがほんのりと鼻をかすめ、その後に彼の甘いにおいに包み込まれた。背骨あたりが甘ったるく溶けそうになってしまう。

 

 

「……ん……んぅ!?」

 

突然の口付けに過敏に反応してしまうティファニー。街灯下のベンチで口付けを交わす男女の姿は傍から見れば映画のワンシーンのように映るかもしれない。

―――なんて、そんなことを流暢に考えている状況じゃ……

 

 

「ぅ……、はぁっ……ユーリさん!?」

 

「…ティフィー……君は……」

「やっぱり飲みすぎて頭がイッちゃってますよ?しっかりして―――」

 

 

 

ぼんやりと遠くを見つめるような彼の曖昧な表情。しかし次に放たれた台詞にティファニーは言葉を失う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「君は何者なんだ」

 

 

「……ッ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とろんと甘い表情とは対照的に芯のあるユーリの声色。やけに艶さえも感じる声質に心拍数が一気に跳ね上がる。

 

 

「何者って……どういう……」

「くかーーー…」

「って……寝ちゃったし…」

 

 

まるで気を失うかのように一瞬でティファニーの体に寄りかかるユーリ。胸元で気持ちよさそうに眠る彼の顔は穏やかなものだった。

 

 

 

「((さっきの言葉……やけに冷めた声色……核心を突かれるような妙な雰囲気。))」

 

スヤスヤと寝息を立てる彼の頭部に手を乗せ、ティファニーの顔つきは鋭いものへと変化していく。

 

 

 

「……まさか……」

 

 

 

ティファニーの脳裏に嫌な予感が過ぎった。その視線は真っ直ぐと池へと向けられ、睡蓮の花が不気味に月明かりに照らされていた。

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

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