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―――バーリント市内 地下
西国情報局対東課〈WISE〉支部―――
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「
「御苦労。」
部下の若い男から分厚い封筒を受け取る。ずっしりと重い茶封筒の中には何ら変哲のない"ただの書類"が入っているのだが勿論それは全てダミー。1枚1枚の紙には彼女からの暗号が細かに隠されており、ハンドラーはそれを見逃すことなく目を通していく。
「…にしても、相変わらず仕事が早いですね?朝顔さんって。」
「あいつはそういう奴だからな。」
「はぁ〜〜…黄昏さんにしても夜帷さんにしても…朝顔さんも含めて皆カッコイイなぁ…」
部下の男は3人の姿を脳裏に浮かべ呑気に口を開けていた。WISEの大黒柱とも言える"彼ら"に憧れを抱く諜報員は数多く存在していた。若い男もその1人。
朝、黄昏時、夜―――それぞれの暗号名にピッタリと当てはまる彼らの面影に彼らが元々持っている性格。暗号名を授けた人物は"天才だ"なんて口にするものもいたり居なかったり……
「あの、ハンドラー。ひとつ聞いてもいいですか?」
「何だ?」
男は持っていたバインダーを両手で強く抱き締め、未だに書類に目を通しているハンドラーに疑問を投げかけた。
「朝顔さんって、実際のところ"おいくつ"くらいなんですか?」
「急に何だ?私が知っていたところでお前に開示するとでも?」
「いや…表向きの年齢は18とは聞いているのですが……僕もそんなに顔を合わせたことがないのでハッキリとは分からなかったのですが…」
男は何度か朝顔の姿を見た時の事を思い出す。この場所で黄昏と共にハンドラーに任務の情報を話す時の姿。奥の部屋で書類を手に取る後ろ姿。たまに見せる無邪気な子供のような笑顔―――
「―――彼女、もっと若いですよね?」
「…………」
核心を突くような鋭い男の視線。
ハンドラーは書類をデスクに戻すと肩肘を乗せ、男をじっと睨みつけるように見上げる。
「お前―――幼女が趣味なのか?」
ニヤッと意味深な、妖しい笑みを浮かべると男の襟を容赦なく掴む。
「はっ、はい!?」
「余計な詮索をするなよ?」
「別に詮索じゃないですよ!気になっただけです!」
焦り散らす男を前にニヤニヤと笑みを浮かべ続けるハンドラー。まあ、彼女に興味を抱くのも無理は無い。年齢不詳でぶっ飛んだ知能を併せ持つ有能なスパイ。有能な彼女は一体何者なのか?と今の今まで多方面から何度も質問責めにあった事がある。しかし情報を安易に話す事はスパイにとっては御法度だ。秘匿案件だ。
「ま、気になる気持ちも分かる。だが私はあいつについて簡単に口は開かない。―――朝顔のことをよく知る黄昏も同様にな?」
無関心を顔に装うように男を見下ろすハンドラー。
微かに口元に見える笑みは何を意味するのか、誰にも分からなかった。
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―――午後12時
レーゲンボーゲン孤児院 大広間―――
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「…………」
昼食を摂る為、大広間に集まる子供達。そして同じくテーブルで昼食を口に運ぶユーリとティファニー。だが今日はユーリの様子がいつにも増しておかしい。疲れているのか?
「ユーリさん?どうしたんです?顔色悪―――」
「オ・マ・エ・な!何度も言ってるがお前のせいだからな!」
額をユーリの人差し指で強く突かれ、わざとらしく背中を仰け反らせるティファニー。それを子供たちは面白そうに見物していたのだった。
「あ!ユーリ先生がティファニー先生イジメてる!」
「うわー!悪いんだー!」
「女の子には優しくするのが紳士の務めでしょー??」
「―――チッ!((さっきまでボクにちょろちょろついてきていたくせに!掌返しやがって……!!))」
人気者の"ユーリ先生"に容赦なく飛び交う否定的台詞。そんな時、ティファニーは隣の10代の少女に寄るとわざとらしく呟いた。
「私何も悪くないのに、朝から"お前のせいで眠れなかった"とか責任転換するの。酷いよねー?一緒に寝ようって言ってきたのはアノヒトナノニー……」
「なっ!お前卑怯だぞ!子供を味方につけるなんて!それに嘘をつくな!」
"ドヤっ"とあのジト目でこちらを見据えるティファニー。アーニャと全くおなじ"ムカつく顔"で挑発するように見られると余計に腹が立つ。しかし年頃の男女の口喧嘩は子供ウケは最高だった。
「((あああああー!ムカつく!そもそもアイツの寝相が悪すぎてボクは全く眠れなかったんだ!))」
真夜中、何度もまとわりついてくるティファニーの動きにまともに眠れなかったそうだ。暑苦しい室内にも関わらず、ティファニーは自分から一切離れない。離れろと押し離そうとしてもベッタリと引っ付いてきては呑気な寝顔を浮かべてはニヤニヤ笑っていたりと―――
「((……まあ、悪くはなかったが―――))」
隠しきれない微細な本音。
それは無意識にユーリの頬を緩める。
「……ティフィー先生。ユーリ先生ニヤニヤしてる。変。」
「なっ!なっ!!違う!」
「ユーリ先生って、あーやって無意識に笑っちゃうの癖だから許してあげて?」
「好き勝手言い過ぎたぞ!お前!だったらこっちにも手があるからな!コイツこそ―――」
大賑わいの広間。まるで目の前で行われている夫婦漫才に子供たちはいつも以上に楽しそうに昼食を口にしていた。子供たちの賑やかな笑い声、満面の笑顔。ユーリとティファニーはその光景を目の前に満足気だった。
子供たちの笑顔は無条件に素敵なものだ。平和の象徴だ。この笑顔でずっと彼らを照らし続けて欲しい―――
「………………」
そんな広間の片隅に"あの少女"は無表情のままその光景を見据えていた。細く窶れた手でスプーンを片手に、静かにスープを口に運ぶ。
金髪碧眼の彼女は遠くのティファニーをただただ無言で見つめ続ける。
「…………」
その異質な雰囲気を纏う少女。
ユーリは昨日から彼女に対し、何も口を出すことも無かったが何となく気にかけていたのだった。
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「おい、ティフィー。急に呼び出しって何の用だ?」
「…………」
「1時間後に上の子達を集めて数学を教える約束をしているんだ。」
「大丈夫です。1時間もかかりませんから。」
長い廊下を歩く2人。
理由を言わず、ただたた少し手伝って欲しいと突然声をかけられたのだが……何となくその面持ちは険しいものだった。
「1人じゃ対応できない女の子がいるんです。」
「……どういう事だ?」
「傷跡の手当をしないといけなくて。前回来た時は医局長が居たので良いんですけど……。なんせその子はマジョリーさん含めて、施設の人に傷を見られるのを嫌がる子なので。」
すると、道具箱を手にしていたティファニーはピタリと足を止め、ある部屋の前で立ち止まる。年季の入った木製の扉、その先は医務室らしい。しかし今は人の気配は感じることなく、誰も近づかないように配慮がされているようにも感じる。
「―――いいですか?ユーリさん。」
「んっ……何だ……」
簡易的な布エプロンを道具箱から取りだし、手際よくそれを巻き付けると傍らでただ立ち尽くすユーリにまるで念押しするかのような言葉を放つ。
「今から見る事は他言無用です。」
「他言……無用?」
箱の中の処置道具を再度確認するように弄る。
そして再び道具箱を持ち上げると隣のユーリを真剣な瞳で真っ直ぐと見上げたのだ。
「絶対に……"
「……は?」
「このことを知っているのは私と医局長。そして施設の大人達、……そしてユーリさん……」
予想外すぎるティファニーの台詞に言葉を失うユーリ。一体どういう事だ?訳が分からない。
そもそも自分こそが
一体この部屋の中で、国家保安局を欺いている何があるのか。
「"彼女"の秘密を厳守してください。……約束できますか?」
「…………秘密……?」
「私はユーリさんを"信じています"。だから最初からこの孤児院に誘ったんです。」
「ッ……」
僅かにティファニーの口角が持ち上がる。あなたを信じていると、畳み掛けるように台詞を吐く彼女。もはや拒否する権限すら与えられる暇もない、考える時間も―――
「((……ユーリさんにも彼女にも悪いけど。―――あなたがどこまで私を信じるか。オペレーション〈梟〉にどれだけ利用できるか試させてもらいます。……もしダメなら"抹殺"するのみ。))」
ティファニーの右手がドアノブに伸びる。
「((今回のこの任務であなたを切るか、利用し続けるか。それは私が決める―――))」
金属が錆びれた独特な嫌な音と共に扉は開かれる。結局、ユーリの口から"秘密を厳守する"という言葉は出てこなかったがティファニーにとってはどうでもいい事。
過程はどうでもいい、欲しい答えは"結果"。
裏切ろうとしたその時―――容赦なく私は彼を殺す。
「―――"レイラ"さん。お待たせ。」
「((……ッ!この娘……))」
医務室の椅子に腰掛け、扉とは反対側の窓に視線を向ける金髪の少女の姿。"レイラ"という少女。名前を呼ばれ、反応を見せた彼女はティファニーとユーリへと視線を移す。
だらりと伸びた長い金髪の隙間から僅かに見える空のように真っ青な碧眼。美しいはずなのに、異質で気味悪さを感じるほどに暗さが際立つ。
"あの少女"だった。いつも部屋の片隅で無の表情をこちらに向け続けるあの少女。
「彼女はレイラ・オア。歳は16。」
「………………」
「((……目の焦点が妙に合わない。不気味だ。……なんというか、生気を感じない。))」
殆どティファニーと同じ背丈のレイラ。金髪碧眼という共通点以外は全てが正反対。まるで生きる気力をなくした、息をするだけの屍だ。
「じゃ、ユーリさん。この箱から今から私が言うものを全てテーブルに並べてください。」
「あ……あぁ。」
「20分で終わらせます。」
「…終わらせる?」
「ほら。素早く動いてください。まずは"クロルヘキシジングルコン酸―――"」
「……この青い瓶か?」
「そう、それです。次に―――」
言われた薬剤や備品を次々と揃えていくユーリ。その傍ら、ティファニーはレイラの衣服を丁寧に脱がしていく。ワンピースのボタンを手際よく外し、中に着ていたインナーのボタンにも手を伸ばしたその時。
「((……包帯?))」
少女の体を凝視するのは失礼にあたる。窶れた細い体をまじまじと見るのもレイラ本人は嫌がるだろう。だがユーリの視界に違和感のある彼女の姿が僅かに飛び込むと横目でそれを確認した。
綿素材のインナーの下はグルグルと包帯で覆われていた。
何か先天的な酷い皮膚の病気でも持っているのか?だとしても"国家保安局に決してバラすな"というティファニーの言葉は全く意味もなければ隠すようなことでもない。人にうつるような疫病でも無さそうだ。
だとしたら理由は一体何だ?
「((さっきの台詞はただの脅しか?ティフィーが悪ふざけで話しただけか……))」
ティファニーは少女の包帯を解いていく。その傍らで、ユーリはとくに気にとめないまま言われた薬品を並べていくのみ。
「((……何だ……気を張って損をした。全く、悪ふざけも大概に―――))」
薬と備品を出し終えたユーリは木箱の蓋を閉じ、テーブルの下へと収納した。そして再び、ティファニーとレイラの姿を見た時、ユーリは今までにないほどの驚きと、大きく目を見開くと声にならない声を喉に詰まらせた。
「―――ッ……ぅ……」
レイラの体に巻きついていた包帯。それは皮膚に近づくにつれて赤く薄汚れていた。床に転がった使用済の包帯は床に放置され、少女の上半身が完全に顕になる。
「ユーリさん。ガーゼをください。」
「……おい…………彼女の……それは―――」
「聞こえませんでした?ガーゼをください、"今直ぐに"」
ハッと我に返るユーリ。直ぐに用意しておいたガーゼを手渡すと、男は2人に背を向け"目にしてしまったものの"の事実に眉間に皺を寄せ、混乱の顔を浮かべていた。
「((……あの大火傷、そして"焼印"。噂程度にしか聞いた事は無いが……知っている。))」
真っ赤に腫れ上がった少女の体。その一部に刻まれた焼印らしき痕……
「ユーリさん。レイラさんの後ろに回ってください。」
「……え?」
「お願いします。ガーゼを押さえていて欲しいんです。1人じゃ処置ができないんです。」
「あ……分かった。」
ユーリはできるだけレイラを不快な気持ちにさせないようにと視線を落としたまま背後に回り込む。やせ細った背中も赤く腫れ上がっていた。まるで皮膚が爛れているような……それを見るだけでも不思議と体が痛む感覚に陥ってしまうほどに。
「((……一体……この少女は……))」
言われるがまま処置の手伝いを行っていると、今の今まで沈黙を貫いていた少女がついに口を開いたのだった。
「……気持ち悪い、ですよね。」
「………」
「ちょっと顎を上げてもらえる?……うん、そう。」
ティファニーは彼女の言葉をスルーし、処置に全集中を注いでいた。脱脂綿に消毒液を吸わせ、刺激を与えないように丁寧に当てていく。
「…ワガママを言ってごめんなさい、ラドナー先生、ユーリ先生。」
「なんの事?別にワガママだなんて、私もユーリさんも思ってないですよ?」
「……ああ。」
傷の状態によって薬を変えては塗り直す。ガーゼを当て、調合した薬剤を散布する。それを何度か繰り返し、再び包帯を巻いていく―――ほんの数分で処置を終えると今度は彼女のために痛み止めや塗り薬などを調合していく。
その間、ユーリはレイラの傍らに腰を下ろし様子を伺っていた。本来出れば、彼女の左腕と右の背中に押されていた"焼印"について聞きたいことは山々だったがここでそれを聞くのはナンセンスだろう。きっとティファニーにぶっ飛ばされる……いや、殺される。
「……痛みはマシになったか?」
「はい。ありがとうございます。」
「この後、君と同年代の子達を集めて勉強会をするんだが……来るか?」
「いえ、私は少し休みたいので遠慮しておきます。ごめんなさい……」
彼女の碧眼が初めてユーリの瞳とぶつかり合う。その瞳はまるでティファニーを見ているようだった。綺麗な澄んだ瞳、世界の美しいものを全てかき集めたような不思議な瞳―――
刹那、再び彼女の視線が外へと向けられた。青々と広がる青空を覚めた瞳で見据えるレイラはとてつもなく小さな声で言葉を呟く。
「―――いっそ………秘密警察にでも密告されて死んだ方がマシ……」
「―――ッ!?」
普通の人間ならば聞こえないような声の音量。だが、やたらと耳の良い隣の男にはハッキリと全て聞こえていた。まるでその場の時が止まったようだった。年端のいかない未来のある美しい娘が放った台詞はそれほどに衝撃だった。
残酷なリアルな台詞。"死にたい"と遠回しに言っているようなものだ。それは恐らく、この大火傷と焼印に理由がある。言わずともユーリは即座に理解していたのだった。
「――はい、コレ。塗り薬と痛み止めの粉薬。包帯も新しいものを入れてるから使って?滞在中、また時間が空いたら来るから、様子を見させてね?」
「ぁ……はい。ありがとうございます。」
「前より傷の状態は良くなってる。とにかく無理しないで、安静に。できるだけ汗をかくようなことはしないようにね?」
薬品が入った紙袋を手渡し、にこやかに"医者"の顔を見せるティファニー。しかし相変わらず少女に笑顔は戻らなかった。
そんな幼い少女の横顔をユーリは忘れることが出来なかった。
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無事処置を終え、医務室を後にした2人。
例えようのない喉のつっかえを感じていたユーリは漸くティファニーに問いただす。
「……あの娘の……"アレ"は一体……」
「彼女は3週間前、何故か自分の体に熱湯を被せたそうなんです。それであんな酷い火傷が上半身に広がったとか。前に来た時はもっと酷くて、今はあれでもかなり良くなった方なんですよ?」
「…………」
あの火傷は間違いなく一生残るだろう。例えいくら薬を使おうとも、元の肌が蘇ることはまず有り得ない。皮膚を移植したとしても不可能だろう。
「で、気づいたでしょう?"あの焼印"。」
「…………」
「東国の人間なら必ずあの焼印を見れば"それ"が何を意味するのか分かります。そしてそれは一生消えない烙印――」
「彼女は西国の人間なのか?西国のスパイ……」
あの焼印には様々な"言い伝え的なもの"が存在していた。だからこそ国家保安局はあの焼印のあるものに対し、未だに強い警戒を敷いていたのだった。
「それは分かりません。レイラさんの年齢からして十分有り得ますが。」
「…………」
「あの烙印を押されたものは"西国のスパイ"。本当なのか嘘なのか、未だによく分からない噂もあるのは事実です。……でも、レイラさんにそんな力があるとは普通思いませんよね?」
静かな長い廊下に響く2人の足音。心做しか先を歩くティファニーの歩くスピードが早く感じる。
「だからってなんで熱湯を被った?それによく見たら切りつけた痕も……」
「あの焼印を消したくなったんでしょう。だけど焼印は消えなかった。ナイフで切り裂いても、皮膚を抉ろうとしても―――あの焼印は一生消えない。そもそも東国内で"アレ"を消そうだなんて病院にかかったとしても、その前に通報されて秘密警察に尋問されるのがオチです。」
「別に秘密警察に連れていかれようが彼女ならすぐ解放されるだろう?危害を加えるような力もない"普通の女の子"だ。……だったら」
「"だったら"……いっそのこと秘密警察に渡すべきだと?」
その時、ピタリとティファニーの足が止まる。連鎖するように、背後を歩いていたユーリの足も止まると、自分より背丈の低い彼女は自分を見上げ、鋭い視線を突きつけられた。
「それもひとつの手だと……ボクは――」
「そんなの絶対嫌に決まってる。あの焼印が意味する事、ユーリさんなら分かりますよね?」
「…………」
あの焼印を押された者の背景にあるもの。それもあくまで様々な噂のようなものが出回っているが、言われずともユーリは理解していた。
「迫害に好奇の目。哀れな戦争孤児だと一生言われ続ける。それに、下手をすれば西国のスパイとして疑われ拷問だって有り得る。待っているのは一生の恥。外れない足枷、奴隷の印――」
その背景があの娘を暗く染めていた。珍しい碧眼と美しい金髪を持った娘はそんな美しい容姿を手にしていても見据える先は真っ暗な人生だった。
「とにかく彼女の事は内密に。この施設の大人たちも覚悟の上で彼女を守ってるんです。」
「…………」
「ほら…ユーリさんも勉強会があるんですよね?今日が最終日ですし、早く行ってあげてください。」
「……ああ、そうだな。」
どこか気抜けした表情。ティファニーが口にした"事実"と"正論"に珍しく何も言い返せなかった。どうしようもない、やるせない感情に苛まれるユーリは疲れ混じりの笑みを向け、そのままティファニーを追い越して歩き始める。
そんな彼の背中を目で追う。そして彼女は咄嗟に深々と頭を下げた。
「――処置のフォロー、ありがとうございました。また時間になったら広間で会いましょう。」
彼は何も言わなかった。
立ち止まることなく、ただただ静かな足音が遠のいていく――
「((……さあ。あなたはどう動く。))」
ティファニーもまた、彼とは別方向に踵を返すのであった。
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