morning glory   作:鈴夢

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sunset

 

 

 

 

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――同日 午後16時過ぎ

中央都市 ユーバーハウゼン――

 

 

 

 

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「((……人多すぎ…やっぱり大人しく部屋で寝ていればよかった。))」

 

 

 

勤務を終え、適当に軽食を済ませた後にホテルへと戻ったティファニー。持ち帰らされた仕事もなければやることが無い、暇だ――時間を持て余すのもそれはそれで苦痛だし、少しでも今は気を紛らわせる方が良い。

 

淡いピンク色の麻素材のワンピースに着替えサンダルに履き替えるとティファニーは外へと飛び出した。

 

ホテルの外の大通りには端から端まで露店が立ち並んでおり、人の量もいつもの倍以上だ。浜辺もたくさんの人で溢れていた。それに天気も回復したのか空は綺麗な色をしていた。地平線の向こう側に僅かに橙色が見える。暗くなった頃には花火が打ち上がることだろう。

 

 

「…………」

 

 

浜辺が見渡せるデッキにたどり着くと手すりに体を預け、ぼんやりとした視線で周辺を見回した。涼しい潮風がティファニーの体を包み込む。バーリントでは感じることの出来ない海の表情に見蕩れるようにため息を漏らす。そして同時に、脳裏に彼の顔を思い浮かべた。

 

 

"ユーリは現れなかった"

時間通り退勤し病院を後にしたが姿は見られず、もちろんその後ホテルにも戻っている様子も無い。

 

 

「((薄情だな。…最後の最後にやる事だけやっておいて捨てるんだから。――))」

 

 

まさか、実の姉にしか興味を見せないようなあの男が自分を抱き潰した事実。しかしそこに愛情があったのかは分からなかった。あの時のことはあまり記憶が無い。というより、自分で必死に消しているのかもしれない。

 

 

「((…所詮、ユーリさんも"そういう人間"だった。……そう思いたくなかったけど。))」

 

 

所詮、自分は普通の女性のような人生を送ることはできない。分かりきっていたことだ。好きな人ができてもそれは叶わない。スパイという道を選んだからには明るい未来は望めない――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「"ティファニー・ラドナー"」

 

 

 

 

 

刹那、背後から飛び込む抑揚の無い声。平坦と冷たささえ感じるその声には覚えがあった。その声は祭りで賑わう人々の声で掻き消されてもおかしくない音量のはずなのに、ティファニーの耳は敏感にその声だけを察知した。

 

 

肩を落とし、諦めたかのように小さく息を吐いた。橙色に染まる目の前の景観が今の自分の感情を表しているかのように見えた。

 

ゆっくり、体ごと背後へ振り向く。そして僅かに口元に笑みを浮かべ"声の持ち主"へと視線を向けた。

 

 

 

「――ユーリさん。」

 

 

自分を見下ろす赤い瞳。それは鋭く、恐怖さえ感じるほどに冷めきったものだった。昨日の夜の時と同じだ…まるで全てを見透かし、獲物を漸く捕らえたかのような獣の気配。彼は間違いなくあの"ユーリ・ブライア"だ。

 

 

「((…ついに……ここまでか――))」

 

 

そして彼の手がティファニーの左腕を掴む。しかし少女は一切怯む様子もなく振り払ったり逃走するような気配も見せないまま、ただただ彼を見上げたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何故…手を振りほどかない。」

「…………」

「ボクから逃げないの?」

「…………」

「逃げるなら今のうちだぞ。相手はボク1人だけだ。ボクをこの場で捩じ伏せて、人混みに紛れることが出来れば十分に逃走できる。」

「………今更そんな事しないですよ。」

 

 

ティファニーの言葉にユーリの眉がピクリと動いた。

 

全く逃げようとも、言い訳をする訳でもない。明らかに諦めている彼女の様子を目の前に赤い瞳は更に鋭さを増す。

 

自分を捩じ伏せ、抗い、この場から逃げて欲しい。自分という存在から完全に拒絶し、いっその事ナイフでも突きつけるくらいの姿を見せてくれれば良いのにと――"そうであって欲しかった"。

 

なのに目の前の少女の行動はどうだ?最初は若干の混乱を見せたものの自分の告白に対し異議を唱えることも無く、あっさりと自分が東国の裏切り者だと認める言動を見せた。そして今も大人しく静かにこちらを見上げている。

 

揺らがない彼女の碧眼。それは夕焼け空に反射し、いつも以上に美しさを増していた。

 

 

 

 

「…ユーリさんこそ、なぜ早く私を捕まえに来なかったんです?」

「…………」

「私、身構えてたんですよ?一日中。」

「…………」

「きっと秘密警察の方々が大勢で病院に乗り込んできて――私に手錠をかけるんだろうな〜とか。」

 

 

"あのドキドキし続けた時間を返してくださーい"と呑気に台詞を吐くとティファニーは再び無邪気な笑顔を見せた。掴まれた左腕を呑気にゆらゆらと揺らすとあまりにも危機感の無さすぎる彼女の行動にユーリは苦言を漏らした。

 

 

 

「お前、秘密警察に捕まったらどうなるか分かってるんだよな?」

「はい。分かってますよ?」

 

「……((何なんだ…コイツは――))」

 

あっさりと即答するティファニーに恐怖さえもおぼえる。東国の誰もが……いや、それは勿論そうなのだが西国の人間の方が"それに関して"は詳しいはずだ。身構えているはずだ。

 

東国の秘密警察〈SSS〉――

国内の治安維持を目的としたスパイ狩りや市民の監視。そしてその尋問は誰もが恐れている地獄のようなものだ。様々な噂が出回っているが、殆どが事実だった。

 

 

「――噂通りなら、待っているのは犯罪に近い尋問。睡眠の剥奪や殴打は当たり前。他にも違法薬物を使ったり"もっと酷いもの"も知ってます。私が何かしらの情報を吐くまで残虐行為は続けられるでしょうね。」

「………ッ…」

「私が…それを恐れていると思いますか?ユーリさん。」

 

微細な笑みに可愛気があるのに、水のような表情で淡々と言葉を吐き続けるティファニー。そして抑揚の少ない、把みどころのない声。いつもの彼女らしい個性のある明るい声色は一切感じない。――もしくはコレが本来の彼女の姿なのかもしれない。

 

 

「死を恐れない――ということは医者として、人を救いたいと口にしていたのも偽りなのか。」

「…それはどうでしょうか。ですが私はいつ死んでもいいように医者としての仕事は完璧にしているつもりです。仕事は残さない…何があっても。」

 

その言葉に、ふとユーリは今までのティファニーの行動を思い出す。

 

「……お前が何があっても仕事を溜め込まなかった理由はそれか。」

 

 

「言ったじゃないですか。私は医者でもあるんです。命を扱う責任ある立場がある以上、自分の都合で大切な患者様を困らせる訳にはいきません。…自分の身に何かあって、医者として居られなくなったとしても、やる事はやってるんですよ?」

 

 

日々休む間もなく、寝る間も惜しんで医者としての職務を全うしていた姿はユーリが一番見てきたことだ。白衣を纏い、老若男女問わず皆のために働く彼女。バーリント病院に通うようになって、彼女がどれだけ周りに必要とされているのかをユーリは実感していたのだから。

 

 

ティファニーの言葉と様子にぐうの音も出ないユーリ。そんな惑いさえ感じる微細な彼の様子を読み取ったティファニーは僅かに視界を落とすと、小さな声で呟いた。

 

 

「――それに…ユーリさんに尋問されるならそれは本望です。そのまま殺してください。」

「…巫山戯た冗談を…何を言ってるんだか…」

「冗談なんかじゃないですよ?」

「お前――」

 

 

 

刹那、彼女の行動にユーリは目を見開く――

 

 

 

 

「私は"普通の女の子"…ではないんですよ。」

「ッ……」

「普通の感情なんて遠の昔に捨ててます。……分かるでしょう?ユーリさん。」

 

 

ティファニーは左腕を掴むユーリの手を強引に右手で引き剥がし、自分の左胸辺りにその手を押し付ける。胸下に刻まれた羞恥の烙印、負の烙印の存在を改めて解らせるかのようなその行為に若干の怯みの表情を浮かべるユーリ。

 

 

「……私のような人間にとって、死ぬ事は無期懲役の減刑のようなものです。寧ろ悦びです。」

「お前ッ…」

「私は普通じゃないんです。歪んでるんです。…」

 

 

 

彼女の本音。

まだ"若すぎる"少女が口にした台詞全てが異常だ。

 

しかし、そうさせたのは"この世界"だ。

自分も実の姉であるヨルが"この世界"で幸せに暮らせるようにと…だからこそ"この世界"で出来ることを見つけ、今の仕事に就いている。

 

 

 

――そもそも自分が見てきた世界はどういうものだ?

 

確かに自分には両親は居らず、姉がたった1人で守ってくれた。食事は3食与えてくれた。学校にも通い勉学に励む事もできた。両親が残した家の庭で花を育て、毎日水をやり、時には庭に集まる虫や動物を愛でた。1人で眠るのが怖かった時には姉が子守唄を歌い、暖かいベッドで一緒に眠った。――苦しいこともあったが、姉と共に大きな不自由なく生きてきた。

 

 

 

「((…彼女が見てきた世界は……彼女を"普通"ではなくなってしまった理由を――変えてしまった世界をボクは知らない――))」

 

 

 

戦争孤児という事実。――家族は全員殺され、家は焼き払われ、空腹と恐怖でたった1人で路頭に迷っていたのだろうか。それに子供は純粋で騙されやすく真っ先に利用される弱者。敵国の犯罪組織に誘拐され、利用され、歪んだ大人達に囲まれていたのだろう。

 

当然、身も心も荒んでいく。美しい碧眼の奥底で真っ暗闇が彼女を襲っている。

 

 

「((――だが、彼女は人を救う仕事を選んでいる。医者として…例えそれが偽りの姿だったとしても……"あの笑顔"は本当の姿だと信じたいんだ。))」

 

 

脳裏に再生される数々の彼女との思い出。その中にはいつも彼女の天真爛漫な笑顔があった。時たま自分を小馬鹿にする意地の悪い"あの顔"も、ツンっと不機嫌そうに頬を膨らませ口を尖らせる"あの顔"も――――ボクを好きだと言った時の、何とも形容できない"あの顔"も……

 

 

 

 

「――ッ…!」

 

 

その時、ユーリはティファニーの腕を再び掴み返すと強く引き寄せた。小柄な彼女がすっぽりと腕の中へと収まる。

 

 

「はっ…離してください!…ちょっと……ユー…」

「歪んでなんかない。"歪んでいるもんか"…」

「ん…ッぐ……離し――」

「強がるな、隠すな、…嘘をつくな。」

「離してッ!」

 

 

耐えきれなくなったティファニーはユーリの胸を強く押し返す。驚いた様子で酷く息を切らしながら目の前の男を睨みつけている――はずだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「死ぬ事を恐れてないやつが…そんな顔をするもんか。」

「ッ……」

 

 

無関心を装っているつもりのティファニー。だが彼女は"まだ子供"だ。本音など、少し心が揺らいでしまえば簡単に見透かすことが出来る。

 

悲しみ、切なさ、困惑、憐れみ――それらの表情がいっぺんに水煙のように拡がっていた。僅かに唇をかみしめ、手元は小さく震えていた。

 

 

 

「ボクはこの数ヶ月間、ティファニー・ラドナーを見てきた。…医者のお前も、ただの年頃の少女のように燥ぐお前も――」

 

 

距離を取った相手に再び近づくユーリ。ティファニーは本音を見透かされるのを恐れるように顔を背け体を強ばらせる。

 

 

 

「"ティフィー"……君は普通の女の子なんだ。優しい心を持った"普通の女の子"だ。」

 

「……ちがい、ます。」

 

「無邪鬼な笑顔を見せるお前を…ボクは"歪んでる"なんて思わないよ。」

 

 

そっとユーリの手が彼女の頬に添えられる。白い陶器のような肌に淡く咲く桃色の頬は驚く程に熱を持っていた。

 

 

「そんなキミのことが好きだと…ボクは伝えたはずだ。」

 

「――ッ!」

 

 

うつくしい夢のように、うっとりした目で彼女を見つめる。向けられている赤い瞳に吸い込まれる碧眼。優しい彼の表情に不思議とティファニーは目が離せなかった。

 

まるで夢物語だ。この瞬間だけ、自分という存在を全て切り捨て、普通の女の子という感覚に堕ちてしまいそうだった。

 

自らが夢を見ていた"非現実的な遠い夢"。おとぎ話のようなふわふわとした甘い蜜のような、綿のような、宙に浮くような――全て彼の手のひらから伝わる体温で"のぼせそう"になる。

 

 

 

 

――――夢の世界に遊ぶような陶酔――……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――はぁ…」

「……ん?…え?…"はぁ"?」

 

 

 

夢物語から覚めるような軽すぎる"溜息"。気の抜けた顔。

 

聞き間違いだろうか?うっとりと痺れるような表情を浮かべていた少女の口から……溜息?

 

 

 

「もういいです。…こうなったら、ユーリさんを信じます。」

「はっ……え?……」

「周りの視線も痛いので離してください、"手"。」

「……はぁ、?……はぁぁあぁぁぁぁぁぁ!?」

 

 

キリッと光るティファニーの碧眼。

堂々とその場で腕を組み、"いつもの様に"彼を見上げた。

 

 

「え、本当に何なの?何、この軽い空気。ティフィー?」

「軽い?」

「なんかこう…ッ…"私も好きです"――的な空気感は無いの!?」

「何ですかその安い恋愛小説みたいな台詞回し。」

「かーーーっ!!!」

 

 

 

ぐしゃぐしゃと髪の毛を掻き回し、夢と現実が混濁しているような感覚に堕ちてしまうユーリ。美しい夕陽を背景に感動的なシーンだったはずなのに――"何が起こったのか理解が追いつかない"。

 

 

「お前な!何だったんだよ!今の今まで!」

「何って…何がです?」

「ぐっ………そうだったな……お前はそういう奴だった……」

 

 

"本気"で向き合った自分の行動を今すぐに消し去りたい。…なんなら、やっぱり捕まえるか?手錠を持ってくればよかった…クソ!!

 

――なんて半ば本音に近い心情をユーリは心の奥底で呟いていた。

 

 

そしてそれをティファニーは可笑しそうに笑いながら見つめていたのだった。

 

 

 

「やっぱりお前を連行する。」

「ちょっと!あんまりその事を大きい声で言わないでください!そもそもユーリさんが"秘密警察"の人ってバレちゃいますよ?」

「お前こそ!それを直接口にするな馬鹿!」

 

"やいやいやい!"と言い合う2人。通りかかる人々は"騒がしいバカップルだ"なんて口にしていた。

 

 

「馬鹿はそっちです!人が沢山いるのにあれやこれや喋りすぎなんですよ!」

「それはお前が煽るからだろう!」

「ほら!また責任転換!煽ってませんから!」

「煽った!」

「煽ってない!」

「認めろ!煽ったのはお前だ!」

「本当にそうやってすぐ人のせいにするんですから!…昨夜の行為も、どうせ後から私のせ――」

「そういう事は安易に口にするんじゃないチンチクリン!」

「認めたらどうです?変態ロリコンって?」

「だからそういうことを此処で言うなって――」

 

 

一通り文句を言いあった2人。肩を上下させ息を荒あげる姿は滑稽だ。結局、いつもと変わらない攻防戦に呆れさえ感じるほどに。

 

 

 

 

 

 

「…ま。いずれ、いつか話せる時が来たら話します。」

「は?今度は何言って……」

「約束します。それに絶対に誰も不幸にはさせません。」

「……」

 

 

深呼吸するように息を吐き、真剣な顔付きで改まるティファニー。急に話を変えると思えば真面目な話。自分自身のことはいつか時が来れば話すと――そして自分は誰かを不幸にするようなことはしないとユーリに誓ったのだった。

 

 

 

「…だからこれからは…お互いに偽装し合いませんか?」

「偽装し合う?」

「この関係性は2人だけの秘密。私が西のスパイだということも、ユーリさんが秘密警察だということも…」

「……まさか、都合のいいことだけを共有しあって、それを周りにバレないように演じるって言うことか?」

「さすがユーリさん。頭の回転が早いですね?」

 

 

余裕そうにトンっとユーリの胸を指で突き、口元に弧を描く。そして一歩、ユーリへと距離を縮めると言葉を続ける。

 

 

 

「そしてもし、本当に私の事が信じられなくなった時は――」

 

 

澄んだ碧眼がユーリを見上げる――

 

 

 

「容赦なく私を捕縛してください。そして拷問でも何でも、私が死ぬまで追い詰めてください。」

「………」

 

「私が何を目的に東国に居るのか。単独なのか組織的なのか…それは一切言うつもりはありませんが――

 

 

 

――"信じてください"。誰も不幸にさせないし誰も犠牲にしない。ユーリさんのご家族……アーニャちゃんもヨルさんも"先生"も――」

 

 

 

ティファニーの右手がユーリの左手を握りしめる。それは力強く、気迫さえ感じさせる。

 

 

 

「誰も死なせません。」

 

 

ユーリの瞳から視線を外すことなく、真っ直ぐとした口調でハッキリとそう言った。真剣な瞳には知的な眼差し、嘘偽りない眼差し。ユーリはそんな気迫に圧倒される。

 

彼女から伝わる体温、手を握る力。ユーリもそれに応えるように強く握り返した。

 

 

「分かった。…だが、ティフィー――

ボクもお前と同じく立場がある。……お前の言う通り、裏切るような行為をチラつかせたら――」

 

 

背中に腕を回し彼女を引き寄せる。鼻が触れ合いそうな程の距離感でユーリはハッキリとした口調で忠告した。

 

 

「ボクは容赦なく"この手"でキミを殺すよ。」

「…構いません。」

 

 

見つめ合うふたり。背中に腕を回すユーリの力が更に加われば、赤と青が交わりそうな程に近づく。台詞は決して他言できないような酷なものなのだが、夕陽に照らされる2人の姿はまるで映画のワンシーンにも見える。

 

 

 

 

「((ボクたちは――))」

「((――共に罪を犯す。))」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――おじとおねいさん、"イチャイチャ"。」

「ボフッ!」

 

 

「「ッ!?」」

 

 

 

 

"いい雰囲気"だったその時、聞き慣れた愛嬌のある可愛らしい声と野太い犬の鳴き声が2人の鼓膜に飛びかかる。反射的に2人は体を勢いよく離すとその声がする方へと"見下ろした"。

 

 

「え!?アーニャちゃん!?」

「チワワ娘!?…と犬…」

 

「ういっ。」

「ボフッ!ボフッ!!」

 

ティファニーとユーリへと駆け寄る"2人"。その少女は嬉しそうに笑顔を浮かべると交互に視線を向けたのだった。

 

 

現れたのは間違いなく"アーニャ・フォージャー"とその愛犬の"ボンド・フォージャー"。

 

特徴的なピンク色の髪の毛はいつもの角のようなヘアアクセサリーは付けておらず、可愛らしいおだんごヘアーでまとめられており、服装はリゾート地を思わせるような花柄のワンピースを着ていた。傍らでは尻尾をふりふりと揺らし、大人しい様子でアーニャの傍から離れないボンド。

 

 

 

 

 

 

 

「「((という事は――))」」

 

 

顔を見合わせるティファニーとユーリ。アーニャが現れたということはその"両親"もこの場にいるはずなのだ。

 

するとその直ぐ、案の定予想通りの2人が現れた。

 

 

 

 

 

 

「――おい!急に走るな!」

「そうですよ!アーニャさん!前みたいに誘拐されかけて結婚なんてさせられたらどうするんで……す…」

 

 

バタバタとあわてた様子で現れた2人組とバッチリ目が合うティファニーとユーリ。お互いに存在を認識したその時、

 

 

 

「ゲッ!!ロッティ!――姉さーーん☆」

「ビックリしました!まさかフォージャ一家お揃いで…」

 

「ティファニーさん!ユーリ!」

「まさかこんな早く会えるとはな?」

 

ユーリはともかく、まさかの再会に喜ぶ4人。賑わう祭りの会場付近でまさか会えるなんて……と、その喜びを分かちあっていた。

 

 

 

 

「((フッ……アーニャのちから。おかげで"ごうりゅう"できた……えっへん!))」

「ボフッ!!」

 

実はアーニャとボンドが意図して4人を引き合わせた。その方法は未来を予知するボンド、そしてテレパシーを使いティファニーとユーリの居場所を掴んでいたのだった。

 

 

 

 

「なっ!!何で!姉さんは構わないけど、何でロッティまで!?」

「ファニーと同じく、僕も病院側からお願いされてこっちに3日ほど滞在することが決まったんだ。」

「せっかくだから"ご家族も"と。ロイドさんの職場の計らいで私達も来たんですよ?」

「アーニャもテストのせいせきよかったからきた。」

「…良かったからって、全部赤点ギリギリだったろ。」

 

 

病院側の指示でここに来たと"嘘"をついたロイド。その嘘に敏感に気づいたのはティファニーだった。どうにかして意図的にこちらに来たのだろう。適当に病院に理由をつけて、精神科医という名前を利用して――仲のいい医局長に何かをもちかけて都合をつけたのか……ここに来る手段はいくらでも想像がついた。

 

 

そして、何故ロイドがここに来たのか。その理由をティファニーはハッキリとわかっていた。間違いなく自分のせいだと……

 

 

ロイドと向かい合うティファニー。

傍らでは再会を喜ぶユーリとヨル。

 

黄昏と朝顔はその横で他愛のない会話をしながら、違う口の動きで"別の会話"をするのであった。

 

 

「(――なぜ、定期連絡を寄越さなかった。)」

「(申し訳ありません。"忘れてました"。)」

「(忘れた?らしくないな。)」

「(こちらでの任務が思ったより忙しかったので……)」

「(……何かあったと思って、急遽ハンドラーの指示でこの場所に来たんだか――)」

 

 

表向きは大病院の上司と部下の会話。しかし中身は全くの別物。

 

そしてスパイらしい2人の妙技を目にしたアーニャは"ポカン"と口を開けたまま2人を見上げていたのだった。

 

 

 

 

「((おねいさんも"あのわざ"つかえる!?"こわいおねいさん"と同じ……))」

 

 

過去にフィオナこと夜帷が来た時、全く同じ光景を見たことがある。"このおねいさんもスパイ"だということを改めて思い知らされたのだった。

 

 

そしてひとしきり会話を終えたロイドはティファニーを半ば疑いながらもらこの場の状況を和ませるように声を上げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

「――あぁそうだ!明日、よかったら皆で観光でもどうだい?ファニーは明日も休みだと、こっちの医局長が言ってたぞ?」

「まあ!お休みなんですね?でしたら是非、一緒に過ごしましょう?私も久しぶりにティファニーさんとユーリとお出掛けを――」

 

 

向かい合う4人、その真ん中でボンドの背に跨り大人達を見上げる2人。和やかな雰囲気にアーニャはうきうきとした爛漫な様子を見せるも、明らかに気分を沈ませるユーリに視線を向ける。

 

 

「ボクは明日始発で帰るんだけど……」

 

自身を指さし、呆気に取られたような無に近い表情を見せるユーリ。その隣ではクスッと笑いを零すティファニー……理由は明白だ。

 

 

 

「ちょっと待ってよ!何でだよ!せっかく姉さんも来てくれたのにボクだけ帰らないといけないなんて最悪だ!」

「まあ、仕事なら仕方ないですね?ユーリさん。」

「嫌だ!!帰りたくない!」

「大切な外交のお仕事が山積みなんでしょ?残念でしたね?」

「おい!嬉しそうに何笑ってるんだ!ティフィー!」

「お見送りしますから、それで我慢してください。」

「みっ、見送り!?」

 

 

ひょこっと傍から顔をのぞかせるティファニーの姿に何故か動揺を見せる。"見送り"だなんて、なんとなく擽ったい台詞だ。

 

 

 

 

「あら!良かったですね?ユーリ。」

「おじ、おみやげなにがいい?」

「悲しくなるからその話はやめろ!チワワ娘!――」

 

クスッと穏やかな笑顔のヨルと煽るような台詞口にしたアーニャ。

 

 

その様子を微笑ましそうな表情で見守るロイドとティファニー。

 

 

 

 

 

 

 

そして、そうこうしているうちに橙の夕陽は沈んでいく――

 

 

 

 

暗闇に染っていく海岸沿いの街。

一定の距離で設置されている街灯と隙間なく立ち並んでいる露店の照明が徐々に光を灯し始めた。

 

 

 

「そういえば、そろそろ花火が打ち上がる時間だな?」

「あっ、そうですね!それにしても、なんとか天気が回復して良かったです。」

「やたーー!はなび!」

「ボフッ!!」

 

 

和やかで穏やかな時間を過ごすフォージャー家。ティファニーはそんな彼らを目の前に"なんとも言えない"笑みを零すと左手に優しい体温を感じた。

 

 

 

「ボクたちも一緒に――ね?ティフィー。」

 

 

 

ユーリの大きな手は先程と違い温かくて優しかった。こちらを見下ろす赤い瞳も、別人のようだ。

 

 

「はい……ユーリさん。」

 

 

 

ティファニーはその手を握り返す。

そして隣の彼を見あげ、無邪気な笑顔を浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

"己が利のため"

 

 

自分の全てを偽装し"己が利の為"に全てを演じるフォージャー家。

互いの全てを理解し"己が利の為"に全てを曝け出すユーリとティファニー。

 

 

 

 

それは果たして、吉と出るか凶と出るか――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

┈┈┈┈

┈┈┈┈┈┈

┈┈┈┈┈┈┈┈

 

 

 

 

――同時刻

バーリント総合病院 医局長室――

 

 

 

 

┈┈┈┈┈┈

 

 

 

 

 

 

「おっ!始まったね!ユーバーハウゼンの花火大会!」

「…………そうですね。」

「ティファニーちゃんとフォージャーは今頃これを生で見てるのか〜……羨ましい限りだな〜。」

「…………ソウデスネ。」

 

医局長室のテレビに映るのは花火大会の中継映像。

 

フィオナは頼まれていた書類を届けに来ただけなのに何故かこの男に捕まっていた。

 

 

不快だ。とにかく不快。

"花火大会まで向こうに残っていればよかった――"なんて口にする医局長に殺意が湧く。いっそこの男を殺す……いや、ダメよ夜帷。

 

 

 

「((何で私だけ……私だけ私だけ私だけ私だけ私だけ私だけ私だけ――))」

 

 

 

ツンとした無表情のままテレビ中継を見据えるフィオナ。ソファに腰掛け、呑気に笑っている目の前の男に苛立ちが止まらない。

 

 

 

 

 

「フィオナちゃん。良かったら一緒に中継を見ながら食事――」

 

「休暇申請します。」

「……え?」

「休暇申請。」

「え、あ、ちょっと待っ」

「休暇申請。」

 

 

 

 

 

 

――その後、無理やり休暇申請をとったフィオナもティファニー達に合流したとか、しなかったとか――

 

 

 

 

┈┈┈┈┈

 

 

 

 

 

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