morning glory   作:鈴夢

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碧眼の青年

 

 

 

 

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――午前8時過ぎ

"ユーリ・ブライア"自宅にて――

 

 

 

 

 

 

 

 

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「絶対、絶対に余計な事を言うんじゃないぞ、ティフィー。絶対だ!!」

「分かってますってば。……ちょっと、退いてください!」

 

 

洗面台で身支度を整えるティファニー。

そしてその背後で執拗いほどに同じことを繰り返し口にする寝巻き姿のユーリの姿。

 

ブロンドの長い髪の毛をいつもと同じように編み手際よくピンで止めていく。そして珍しく黒色のサテン生地のリボンを巻き付けると"大人っぽい"雰囲気に。

 

 

「もしあんな事やこんな事を話したら…」

「執拗いです、煩いです。あーもう!引っ付かないでください!」

「あとその"丈"!短すぎるだろ?その服見たことないし、やけに気合い入ってないか?」

「この丈が"流行"なんです!服くらい自由にさせてください!」

「そんなにピタッとしたワンピースが流行ってるのか?卑猥だ!直ぐに着替え――」

 

 

初秋に差し掛かった今日この頃。最先端を行くバーリント市内は常にオシャレな女性が多く街を行き交っていた。ティファニーも年頃の女の子、敏感なのは当たり前のこと。最近では膝上のタイトな丈のスカートやワンピース、そしてそれに合わせるロングブーツなど……流行は目まぐるしく変化していく。

 

ノースリーブのニットワンピース、ウエストは太めのベルトで巻かれ、流行の丈に流行のロングブーツ。上にはサッと羽織れるキレイめのジャケット。あまり見なれない大人っぽいその姿に珍しくユーリはタジタジだったのだ。

 

 

 

「――それじゃ"お仕事"頑張ってくださいね?ユーリさん。」

「ちょっ、待てティフィー!!こっちのいつもの花柄のワンピ……」

 

 

刹那、玄関の扉は勢いよく閉じられるとポカンとした情けない表情で立ち尽くすユーリ。寝癖に寝不足の跡、勤務開始まで残り僅かという中でもユーリの頭の中は先程のティファニーの姿でいっぱいだった。

 

 

 

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必死に街中を駆け抜けるティファニー。バーリント市内は秋で色づき、至る所で美しい景観が広がっていた。この時期の朝の気候は最高だ。今ではそんな"余裕"さえ感じることが出来ていた。

 

"ユーリ・ブライア"という人物と密な関わりが増え、より一層ティファニーの心が彩られていく日々――

 

 

 

 

「((あーーーー!もう!!今日も遅刻なんて絶対嫌!!せっかくオシャレなモーニングをいつも予約してくれてるのにーーー!!!!))」

 

 

 

今日は楽しみにしていた"朝活の会"。

その相手とは定期的に平日に休みを合わせてわざわざ時間を作ってもらってまで会っているのだ。しかし尽く今朝のようなユーリの面倒事に巻き込まれ遅刻ばかり。

 

今日こそは……自分が先に――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ティファニーさーーん!こちらです!」

 

 

目的地のカフェにたどり着いたその時、既にテラス席に腰をかけ、笑顔でこちらに手を振る美女……

 

 

 

 

 

 

 

「……はぁ、はぁ……ヨルさん……すみま、せん……はぁ……」

「ティファニーさん!?大丈夫ですか!?」

 

 

"ガタンッ!!"と大きな音を立て、テラスの段差を飛び越えこちらへ向かってくる人物。"ヨル・フォージャー(ブライア)"。あの男の姉とは思えないほどの人格……だからこそこの状況が毎回辛いのだ。

 

 

 

「すみません……ッ……今日も遅れてしまって。」

「いえ!全く問題ありません!…それに恐らくですが、遅くなった理由はだいたい想像が――」

 

 

 

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「いつも"私の弟"がすみません……」

「別に何も!頭を上げてください!」

「うぅ……ユーリ…………」

 

 

無事(?)2人は予約していたテラス席に腰をかけ温かい紅茶を片手に朝活会をスタートすることに。しかし会話の流れはいつもと同じ、"私の弟がすみません"から大体始まるのだが予想通り今日も同じく…。

 

 

「この前、ロイドさんやアーニャさんを交えてのお夕飯の時もユーリはティファニーさんにご迷惑を掛けてましたし……それにロイドさんから聞いたのですが勤務先にもご迷惑をかけてるとか……あと1週間前の――」

 

 

次々とヨルの口から零れるのはユーリの迷惑行為(奇行、ストーカーetc)。ティファニーはニッコリと笑みを浮かべたままそれをいつも通り静かに聞いていると"あぁ、私は慣れてしまっているんだな"と半ば自分の慣れ具合に絶望する程だった。

 

 

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「ロッティ!!!貴様!!絶対勤務先でティフィーにちょっかい出してるだろ!!姉さんという存在がありながら!!」

 

「((おじ、きょうもくそやろう。))」

「((何で俺は毎回責められるんだ、ファニーの事で……))」

 

――フォージャー家での醜態晒し。

 

 

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「ねぇ、またあの人来てるわよ?」

「ラドナー先生とお付き合いしてる外務省の方でしょ?」

「昨日も来てたし、なんならこの前は1週間連続、深夜まで居たこともあったわよ?」

「((ぞわぁぁぁぁぁ……))」

 

 

――明らかなストーカー行為。

 

 

 

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「なあなあ!今夜こそティファニーちゃんをメシに誘おうぜ?」

「今日はエントランスに例の彼氏居ねぇし!大チャンス!」

「あんなクッソ重い男より絶対俺らの方がいいよなー?」

「よーーし!今夜は口説きまくってやる!お前ら先にティファニーちゃん……」

 

 

 

 

 

「――"楽しそうですね?ボクも混ぜて貰えますか?"」

 

 

「「「ぎゃあああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」」

 

 

 

――奇行。

 

 

 

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「………………」

 

 

 

あんな場面やこんな場面が容易に脳裏に浮かび上がった。異常すぎるあの男の行動に自分も異常な人間だと思われるのも時間の問題だろう。そろそろあの奇行を止めなければ任務に支障が出てしまうのはほぼ確実。

 

しかし……慣れというものは恐ろしい。

 

 

 

「本当にごめんなさい……ティファニーさん。」

「ヨルさん。」

「……うう……」

 

 

何度も何度も頭を下げるヨル。本当に申し訳ないと思っているのが痛いほどに伝わってくる。まあそれもそうだろう、誰がどう考えてもユーリの行動は明らかに異常なのだから。……だが、ティファニーはひとえに全てを否定していないし出来なかった。

 

 

――それはティファニーしか知らない本当の彼の姿、彼の優しさを知っているからだ。

 

 

 

 

「ユーリさん。とても優しくて頼りになるんです。」

「へ……?」

 

 

ティファニーはティーカップに手を伸ばし甘い香りが漂う紅茶に口をつけた。バニラのふわっとした匂いが何故か彼を想像させてしまう。同時に頬が緩み、少女の瞳はとろんと変化していくとヨルは不思議そうにじっとティファニーを見つめるのだった。

 

 

 

「確かに……大変なのは否定できないですけど……。ユーリさんは優しいんです。」

「…………」

「私の微細な表情とか、ちょっとした変化とか……何も言わずとも理解して、そっと支えてくれるんです。」

「……ユーリが……」

「はい。」

 

 

ティーカップをテーブルに戻し、無意識に視線を落とすティファニー。そっと両手を膝の上で組み、もぞもぞと親指と親指を擦る。

 

"好き"という事実は変わらないし、優しい言動に心が強く揺さぶられる。

 

「この前、私が体調を崩してしまって……」

「体調?だっ、大丈夫なのですか!?ティファニーさん!」

「今はもう何ともないですよ!ただの風邪で――」

 

 

 

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たまに見る"悪夢"。

 

種類は様々。家族が吹き飛ぶ瞬間、破壊された街を空腹の中彷徨ったあの時、大人に利用され弄ばれた時、少女が殺される瞬間、死体、ちぎれた手足、血、吐瀉物、叫び声――

 

 

 

 

 

「はぁっ…………あぁっ!」

「ティフィー?」

 

あれは真夜中だった。バネに弾かれたように体を起こし、隣で眠っていたユーリもつられるように目を覚ました。

 

 

じめっとした大雨の深夜、季節の変わり目でやけに冷えきった部屋のせいなのか、それともたまたまなのかは分からない。

 

 

「ぁ……あ…………」

「ティフィー?おい!」

 

口を開けたまま、呼吸困難を起こしたかのように体が震え、声掛けにも反応できない。肩を強く揺さぶられる感覚だけがやけに記憶に残っていた。

 

 

「ゆっくり息をするんだ。」

「はぁ……ッ……ぁ……」

「"ティファニー"…」

「う、……ぅ……」

 

口の端からだらしなく涎が落ちる感覚。ポロポロと無意識に涙が零れ、嫌になるほど体が震える。

 

こんな醜態を晒すなんてユーリに対して"気を抜きすぎだ"。今まで何度かロイドに見られたことはあるものの他の人物には見せたことがない姿。――こんな姿、恥ずかしくて見せたくない。 恋人になんて以ての外、もしかしたら気味が悪いなんて思われても仕方がないような錯乱状態。

 

 

 

 

「……ゆ……ユー、……さ……ッ……」

「ボクの目を見て」

「あ…………ぁ……」

「大丈夫。ボクはここに居る。」

「はぁ……あ……はぁ、……」

「我慢しなくていい。全部吐き出すんだ。」

「……ッ……」

 

優しい抱擁、落ち着く胸の中、甘い彼の匂い。微かに聞こえる心臓の鼓動が子守唄のように落ち着く。大きな暖かい手が背中を撫で、グチャグチャになった顔を手で拭う。

 

 

感じる深い愛情――私はそれに寄りかかった。

 

 

 

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「――本当に優しいんです。あったかいんです。」

「……ティファニーさん。」

「ユーリさんの事が好きで堪らな――って!!私何言って……」

 

惚気けるような台詞が無意識に漏れ、慌てて口を覆う。顔がそのまま溶けてしまうのではないか?という程に熱を帯び、真っ赤に染まっていく顔を必死に手で覆い尽くす。

 

 

「あーー……えっと……とにかく!別にユーリさんの奇行が迷惑だとか!本当にやめて欲しいだなんて!……思ってなくて――」

 

 

語尾が徐々に弱々しくなり、再び恥ずかしくなったティファニーは視線を落とす。恥ずかしくてヨルの顔が見れない。きっと有り得ないくらい真っ赤になってるだろし、心臓はさっきから煩いし、どうすればいいのだろうかこの状況――

 

 

「………………」

 

 

そんな少女を落ち着いた表情で見つめるヨル。先程の言葉は彼女の本心に心の底から喜びを滲ませつつも、ヨルは落ち着いた口調で、視線を落とす相手に言葉を投げかける。

 

 

 

「……ティファニーさん。ありがとうございます。」

「えっ!…と……」

「ユーリの優しいところ、分かってくださっていたんですね。」

 

凛としたハッキリとしたヨルの言葉に視線を持ち上げるティファニー。優しく微笑むヨルの表情はどこかユーリに似ていた。

 

 

「ユーリは私より賢くてなんでも器用にできる子です。それは私が昔から頼りなかった面があったからこそなのかもしれませんが……」

「………」

「その分、変に甘えきれない部分があるといいますか……やけに大人びて昔からちょっぴり生意気で、違う部分で不器用なところがあって――

 

 

 

 

――でもティファニーさんと出会って、きっとユーリは色んな意味で"甘える"事が出来てるんだと思います。……不器用なところとか、何も言わずともそれを受け止めてくれるティファニーさんにしか見せない顔があるというか。」

「……私にしか見せない顔……」

「日頃のユーリを見ていたら分かるんです。…あの奇行は止めさせないといけませんが……」

 

 

最後の一文を口にした時は再び申し訳なさそうに眉を顰めるヨル。ガクッと肩を落とし溜息を漏らすも暫くして再び背筋を伸ばすと真っ直ぐとティファニーへと視線を向けた。

 

 

 

「どうか、これからもユーリをお願いします。」

「……はい、勿論!こちらこそです。」

「何か嫌なことをされたら容赦なく怒って良いですからね!寧ろ私を呼んでください!!私がガツンと言いますから!!」

「あー……はは…は…((それはそれで大変なことになりそうだから絶対やめておこう。))」

 

 

2人で穏やかに笑みを向け合う。

なんだか擽ったいこの空間がとても心地よかった。

 

ヨルという存在はティファニーにとってもかけがえ無いものだった。あくまでも"オペレーション〈梟〉"の為の偽物の関係性なのだが――ティファニーはこの関係性が永遠に続いて欲しいだなんて叶うはずのない夢を心の奥底で呟いた。

 

 

 

「さて!いっぱいお話もしたところですし、たくさん食べましょう!ティファニーさん!」

「……にしても頼みすぎましたね?」

「ティファニーさんとこうやって朝ごはんを食べるのが楽しみで……ついつい頼みすぎちゃいましたね?」

「でも私たちなら完食できます。食べましょう!」

「今日は私がご馳走しますから!食べたいものはどんどん頼んでくださいね?」

 

「えっと……いつもご馳走になってるのでここは私が……」

「いえ!未来の可愛い妹さんにそんな事させられません!」

「………………」

 

 

 

そしてヨルを騙しているのだという罪悪感。

こんなにも胸を痛めることは久しぶりの事だった――

 

 

 

 

 

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――午前10時30分

 

 

 

 

 

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街中を歩くスーツ姿の2人。

黒髪赤眼の男、茶髪碧眼の男。全くタイプが対象的な2人ではあるものの"顔は悪くない"。すれ違う女性陣たちは必ずその2人を見返す程に――

 

 

 

 

「せーーんぱい!早いですけどそろそろお昼食べません?」

「何度言ったら分かる。ボクの事は"しょ"……って危ない。」

「"今"はその名前で呼び合えないですよ?なんせ外務省職員っていう"てい"なんですから。先輩♪」

「くっ……((クソガキ……))」

 

 

外務省職員として街を練り歩く"ユーリ・ブライア"と後輩の"レノルド・カーウォーディン"。とある任務のため、スーツ姿で外に出ているのだが……どうやら後輩のレノルドは腹を空かせたらしい。

そもそも出勤時に朝食をとっていないだの文句を言い続け、はたまた外で仕事をするという面倒事にも文句を言い続け――気に食わないやつだが最年少で秘密警察に入った超エリートだ。

 

誰よりも長けた洞察力、身体能力――ユーリと比べるのも難しいほどに賢い人物だ。

 

そしていちいちムカつく言動が鼻につく――

 

 

 

「お腹すいた〜、どこかオススメのお店ありません?」

「まだ早すぎるだろ?我慢しろ。」

「無理です!美味しいケーキ食べたい!甘い紅茶と!それと可愛い女の子と!!」

「((こっのクソガキ…………))」

 

こんな奴が国家保安局に入れるなんて世も末だ。ムカつく……とにかくムカつく……。だが賢いところは否めない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――あれ??あそこにいるのってもしかして"先輩"のお姉様じゃないです?」

 

隣を歩いていた少年の足がピタリと止まるとユーリも同じく足を止めた。そして彼が指差す先にいる人物"達"に気がつくと無意識に鼓動が早くなった。

 

 

「ん〜?その向かいに居る女の子……後ろ姿だけど感じる美女感。金髪――」

「((あれは間違いなく姉さん!まさか今日この通りの店に――))」

 

 

レノルドはわざとらしく両手で輪っかを作り、望遠鏡で覗き込むような仕草を見せた。その先に映る女性2人組。何やら親しげに語らう様子に興味津々。

 

 

「ご挨拶していいですか?」

「ちょっ!お前!今は仕事の途中……」

「大丈夫ですって。一応スーツ着てますし、僕達が秘密警察の人間だなんて誰も思わないですよ?"外務省に勤めるただの先輩後輩です"―――それに……」

 

ユーリのスーツのジャケットを強引に掴み、耳元で厭らしく囁く。

 

 

「向かいの金髪の女の子、雰囲気からして先輩の彼女さんですよね?紹介してくれないと"この前のこと中尉にチクリますよ"って言いましたよ?忘れちゃいました?」

「……クソガキ……」

「へへっ。ラッキーだなあ〜!挨拶挨拶♪」

「おい!待て!!」

 

 

ルンルンと嬉しそうにスキップしながらテラス席へと向かう青年。ユーリはそれに必死について行く。

 

 

 

 

 

運悪くテラス席に居る2人。店内にいれば気づかなかっただろうし、そもそも近づくこともできない。

 

ユーリはあることを懸念していた。できるだけレノルドと関わりを持たせたくなかったのだ。だからこそ今の今まで彼女を紹介するという事をやんわりと濁してきたのだが――

 

 

 

 

 

 

 

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「こんにちは〜!」

 

 

 

突如、背後から明るい青年の声が響き渡った。他にも席はあるが明らかに自分とヨルに対しての言葉だろう。対面側に座るヨルの表情が更に笑みを浮かばせている事に気づいたティファニーは声の主の方向へと体を向ける。

 

 

 

 

「ユーリ!……と、職場の方でしょうか?」

「……ユーリさん?」

 

 

ニコニコとあどけなささえ感じる幼い笑顔を浮かべる青年。そしてその隣で微かに口元を緩ませるユーリ。予想外の人物の登場にティファニーはピタリと体を固まらせた。

 

 

「初めまして!僕は"レノルド・カーウォーディン"です。いつもユーリ先輩にお世話になってます!」

「あっ!こちらこそ初めまして!姉のヨル・フォージャーです!」

 

「先輩のお姉様に会えて光栄です!いつも職場の先輩のロッカーに貼り付けられてるお姉様の写真を見ていたのですぐ分かりました!」

 

ヨルの手を半ば強引に掴み力強く握手を交わすレノルドという青年。変わらずニコニコと一切の曇りがない不気味なほど明るい笑顔は"普通の人"なら違和感なく好印象を抱くだろう。

 

 

「…おい、レノルド。」

「あっ!すみません……まさかお姉様に会えるなんて思っていなかったのでつい興奮してしまいました。」

 

背後からユーリに注意されると反射的に身を引くレノルド。"あちゃ〜"

なんて呑気に台詞を吐き、わざとらしく後頭部を擦る姿は正に違和感。営業スマイルとでも言っておこうか。ティファニー自身もよくやる事だ、諜報員らしい――

 

 

 

 

「――初めまして。先輩の彼女さん。」

「ッ……初めまして……ティファニー…ラドナーです。」

 

グイグイと容赦なく迫ってくるこの感じ。先程のヨルに比べては多少行動が控えめになったものの、レノルドの手はティファニーの手をそっと握りしめる。

 

 

「へぇ〜!綺麗な名前だ!しかも見た目も噂通り!……いいや、噂以上に綺麗な方ですね。」

「ありがとう、…ございます?」

 

「仰る通りティファニーさんは綺麗で可愛くて素敵です。」

「ヨルさんまで――」

 

 

 

困ったような笑みを零すティファニー。一気にレノルドという青年の空気に呑まれてしまいそうで怖いと感じてしまった。

 

そしてその嫌な気配は予想通り的を得る。

 

 

 

 

 

 

 

「……澄んだ"碧眼"、光る"ブロンド"の髪の毛……」

 

 

青年の口元が耳元に近づく。

耳元で囁かれる言葉。打って変わって艶のある低い声へと変化する声色――

 

 

「"本当に美しいですよ"。ティファニー・ラドナーさん。」

 

「ッ!?」

 

 

 

異様な距離感。異様な空気。

ユーリとヨルには聞こえていないであろう台詞――

 

ゾクッと背中に寒気が伝わるとティファニーは慌てて手を払い、身を引いたのだったら、

 

 

「おい、あまりベタベタ触るな。」

「ごめんなさい!先輩の彼女さんがあまりにも美しくて……いい匂いするし、可愛いなあ〜」

「……レノルド。」

 

ユーリの真剣な声色。

その口調にハッと目を見開き、レノルドは再び笑顔を零したら

 

 

「うわ〜!怖いなぁ。先輩の嫉妬ほど恐ろしいものは無いです。……ごめんなさい、不快な思いをさせてしまったなら謝ります。」

「いえ……別にそのような事は……」

 

ティファニーはほんの一瞬、横目でヨルに視線を向けた。どうやらヨルも何か違和感を感じたのだろう。穏やかな笑顔の奥、一瞬だけ微細な感情の変化が見えた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「本当に……"先輩が羨ましいです"。」

 

 

 

 

青年の碧眼が撫で回すようにティファニーを捉えていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

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