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街を彩る装飾品。
色とりどりのオーナメント。
赤、白、緑の3色。
リボンでラッピングされた箱。
プレゼント選びに悩むカップル達。
ケーキを選ぶ家族の姿。
クリスマスを控えたバーリントの街は華やかで賑やかだった。人々はいつもに増して浮き足立っており、幸せな光景がありとあらゆる場所で目に入る。
そして
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12月24日 15時―――
バーリント総合病院"小児科 特別医療室"
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期待に胸を膨らませ、目を輝かせながら仮設された壇上を見上げる子供達。
その視線の先―――白衣を纏った、研修医"ティファニー・ラドナー"の姿があった。
彼女は即席で作ったダンボール製のマイクを握りしめ、満面の笑みを浮かべながら声を上げる。
「今日はみんなの為に!スペシャルゲストが来てくれてます!」
部屋の出入口に合図を送ったその時。"あの人物"が現れる。
「ホッホ〜〜!!メリー!クリスマーーース!!」
ふくよかな体型。白髪、白髭。赤い服に赤い帽子、黒のブーツ。そして大きな白い袋を背負って現れたのはこの時期にしか現れない特別な"キャラクター"だった。
「わーーい!サンタさん!」
「きてくれたの!?」
「プレゼント持ってるよー!」
「わたしにも!?!」
「サンタさん!」
この世で"サンタクロース"を嫌う子供など皆無だろう。
ふくよかで、いつもニコニコと温厚で優しい。子供達の願いを聞いて、叶えてくれる夢のような人物。
子供達の反応を見る限り大成功のようだ。
「いつも頑張ってる皆にサンタさんが会いに来てくれましたよ!」
「順番にプレゼントをサンタさんから受け取ってね?」
子供達の傍には小児科の看護師たちの姿。
部屋の後方には入院中の子供の両親が面会に来ており、家族総出でこの空間を楽しんでいたのだった。
どこか普段より明るい子供達の顔。
ティファニーはその姿を確認すると壇上から降り、協力者である人物の元へと駆け寄った。
「―――"先生"、"先輩"。お忙しいのにありがとうございました。」
律儀に深々と頭を下げた先に―――
「礼を言うのは俺の方だ、ファニー。」
「構わないわ。ティフィー。((あぁ先輩。クリスマス前日にまさかご一緒できるなんて。私服姿もさいっこう!!好き、好き好き好き好き―――))」
壁に背を預け、幸せな空間を同じく楽しむのは"精神科医 ロイド・フォージャー"。"事務員 フィオナ・フロスト"。
ロイドもフィオナも完全にオフモードなのか私服姿。2人は貴重な休暇にも関わらず彼女の企画に立ち会っていたのだった。
「ここの特別室の改造。昨晩から事務員総出でやった甲斐があったわ。」
「その節は本当にありがとうございます。……さすがにこのスペースを用意するのは医師たちでは困難でしたから。」
「今度、ランチ奢りなさい。((そして先輩を連れてきなさい、絶対に。))」
「勿論です!」
普段は滅多に使用しない医療室の一室。無理言ってパーテーションなどを上手く使ってそれっぽい部屋に作り替えたのはフィオナ含め、事務員達のお陰だった。
「サンタクロースの"変装"。俺の出番は必要なかったな?」
「ですね?まさかあの医局長があそこまで"なりきって"くれるなんて……」
ロイドお手製の"サンタクロースセット"を纏った医局長の姿。ここまでやってくれるようなタイプでは無いはずなのだが、ティファニーのお願いに二つ返事で応えてくれたらしい。
そして誰よりも楽しんでいるような気も……
「本当に企画して良かったです。こんなにも子供たちが喜んでくれるなんて。」
「医局長もあの通りノリノリだし、最近小児科の改革も考えているとか言ってたからな。今回の件がいいキッカケになっただろう。」
「やたらと目立ちたがりですからねあの医局長。ちょうど良かったのでは?」
「…フィオナ君。言い方……」
「事実を言った迄です。((先輩の"ふくよかなサンタクロース姿"を見たかったのに!!あの目立ちたがり空気読めない医局長……一生恨む。))」
「まあまあ!とにもかくにも大成功ですよ!」
"よいしょっ"と声を上げ、ティファニーはロイドとフィオナの間に立つと同じく壁に寄りかかる。
そして3人はそれぞれが想いを浮かばせながら目の前の光景を見据える。
「……特別な"クリスマス会"。おっしゃる通り少しでも良いキッカケになれば本望です。」
バーリント総合病院 小児科棟に入院中の子供達。彼らが幸せな時間を過ごせるようにとティファニーが企画したものなのだ。
子供は皆平等に、幸せであるべき。
そしてそれは病で床にふせている子供達も勿論同じだ。
病気だからと、他の子達のように楽しめないなんてあってはならない。どうか皆が同じように幸せなクリスマスを過ごして欲しいと心の底から願っていた。
「あ!そうだ!この後、あの有名なピアニストの"ジョージ・メスメル"さんがボランティアで来てくださるんです。子供たちに音楽のプレゼントをと……」
「え?本当に?」
「はい!ダメ元でお願いしたら快く引き受けてくださったんです。」
何故、わざわざアップライトピアノがこの部屋に運ばれていたのかは不思議に思っていたが……"まさかあの人が?"と驚いた表情を浮かべたロイドと表情には出さないものの内心吃驚していたフィオナが疑問を投げかける。
「一体どうやって?あの爺さん、巷では"薄情"なピアニストで有名で……ボランティアなんて以ての外。ギャラもそれなりだろう?」
「女ったらしで有名。最近は元奥様との金銭トラブルで問題にもなってる人物……そんな人がボランティア?」
世界的にも有名なピアニスト(やたらとトラブルは多いみたいだが。)例ととフィオナ曰く"クソ"な人物。そんな人物がボランティアなど有り得ない。
「んー…それは分かんないですけど。最初はギャラも渡すって話しだったのに無償で良いって言ってくださって。」
「……マジで?」
「……嘘でしょう。」
「大マジです。嘘じゃないです。」
「((恐ろしいやつだ、相変わらず……))」
「((なんでこんな小娘相手に?……私だって、ピアニストの1人や2人簡単に―――))」
だいたい予想はつくがティファニーの人柄が幸をなしたのは確実だ。
"子供達の為なら―――"と
その熱意が伝わったのだろう。
「……にしても。ファニー、フィオナ君。」
「はい?先生。」
「何でしょう。((……フィオナ呼び、本日5回目ッ……好き…好き…))」
ロイドの視線がティファニーとフィオナから目の前の子供達へと移動する。それにつられるように、2人もまた子供達へと視線を向けた。
「"子供の笑顔"は良いな。」
ロイドは朗らかに笑った。
今までにないような多幸感。それを噛み締めるような微笑ましいもの。
そんなロイドの表情にティファニーとフィオナも頬を緩ませた。
「……はい。その通りですね?」
「はい……。」
嬉しさに喜色を浮かべる子供。
溢れんばかりの笑い声、曇りのない晴れやかな光景。
朝顔、黄昏、夜帷―――
任務ではないものの、例えられないほどの幸せな達成感を噛み締める。
そんな幸せを噛みしめていたその時。
3人の元に1人の少女が駆け寄ってきた。
「ちちーー!トイレからきかん!」
現れたのはロイドの付き添いで病院に訪れていた"アーニャ・フォージャー"。クリスマスらしい赤いワンピース姿はいつにも増して可愛らしく、アーニャもまたクリスマスという行事にわくわくとココロを躍らせていた。
「ちち。アーニャにもサンタさんくる?」
「今日1日いい子にしてたらな。」
「やたーー!サンタさん!!」
3人の周りをバタバタと嬉しそうに駆け回るアーニャの姿。子供の喜ぶ姿はいくら眺めていても良い。
ティファニーはその場にしゃがみ込むとアーニャの肩にポンっと手を乗せニッコリと満面の笑みを浮かべる。
「アーニャちゃんも朝からお手伝いありがとう。おかげでお部屋が明るくなったよ。」
色紙で作られた輪っかの飾りやクリスマスツリーのオーナメントの飾り付け。アーニャもまたこの空間を作り出してくれたのだった。
「えっへん!!アーニャ!"くるすますつりー"のかざり!とくい!」
「クリスマス、な?アーニャ。」
「うい。」
……さて。後はこの会を自分を含めほかの小児科の医師たちと無事開催し子供達を見守るのみ。
ロイドやアーニャ、フィオナはここまでの予定だ。クリスマスという一大イベントの今日。2人もそれぞれ任務を抱えていた。
「フィオナ先輩は…確かご友人たちと
「ええ。とても楽しみだわ。((任務がなければ先輩と素敵なクリスマスを過ごせたのに……))」
「フォージャー家は今夜はクリスマス会ですね?」
「ああ。ヨルさんが今頃クリスマス料理を――」
ロイドは何かを思い出したかのようにハッと目を見開く。
オペレーション〈梟〉の重要任務"家族でクリスマス会"。しかしロイドは早速失敗へと繋がる失態を犯してしまった。
病院での行事を優先したが為に"あのヨルさん"にクリスマス料理を任せてしまっていることに。
「アっ、アーニャ!ちちの"くるすますりょうり"がいい!ははのだんこきょひ!!」
「そ、……そうだな。帰ったら少し手を加えよう……」
「((私だったらバーリント一のフレンチレストラン以上のクリスマス料理を作ることが出来るのに。先輩、いつか私が貴方の為に―――))」
しかし、張り切っているのは間違いない。最近料理を勉強し始めて少しはマシになってきているのだから……それを無下にはできない。
……なんて大したことでは無い事を考えていた時。ニコニコと微笑むティファニーを見てロイドは再びいつもの表情に戻ると隣のティファニーにある事を問いかける。
「……ファニー。本当に今夜は病院で寝泊まりするのか?」
「はい。そうですよ?小児科の先生たちはお子さんがいらっしゃる方が殆どですし……今日くらいそんな先生達こそご家族で過ごして欲しいので。」
入院中の子供達を診る為にティファニーは今夜病院で寝泊まりすることに。寝泊まり……夜勤と例えるのが正解かもしれない。そもそもこの企画をしたのはティファニーだ。勿論その分小児科に協力もしなければと研修も兼ねて自ら手を挙げた事。
「相変わらず無理ばかりするわね。((たまには休みなさい。代わりに私が先輩の為に活躍するわ。))」
「無理じゃないですよ?小児科の先生達にも家庭がありますし、こういう時こそ何も無い私が動けばいい事なので。それに小児医療に携わるのが私の夢でもありますし、良い機会です。」
「だが……"彼"は黙っていないんじゃないのか?」
「まあ確かに。クリスマスくらい一緒に1日過ごしたいって言ってくれたんですけど――」
彼とは"ユーリ・ブライア"の事だ。
恋人がクリスマスを共に過ごさないなんて……仕事なら仕方ないのだが、今回のこの企画はほぼティファニーのボランティアのようなものだ。あの男が黙って聞き入れるとも思わない。なんせあの男はティファニーに溺愛しているのだから。
心配の色を浮かべるロイドを他所に、ティファニーはニッコリと笑顔で応える。
「"子供達の笑顔を見たら"彼も許してくれますよ。」
"ね?"と首を傾げ自信ありげなティファニーの発言に3人は脳裏にとある人物を浮かばせた。
「……ん?まさかその言い方……」
「………………((やっぱり………))」
「(("おじ"のけはい!?))」
「はい!そろそろ来ると思うんですけど。臨時職員って事で、今日の夜までは子供たちの相手を――」
バタバタと忙しい足音が近づく。
もうひとつの出入口から飛び込んでやってきたのは―――
「ティッフィーーー!!来たよーー!」
幸いにも子供たちやその親たちはサンタクロースと楽しんでいる様子。ロイドとフィオナ、そして予め読み取っていたアーニャは想定通りの登場に呆れ顔を浮かべる。
「((……保安局員は暇なのか?))」
「((相変わらず。そもそもなんでこんな小娘にベッタリなのか理解不能……))」
こんな所で臨時職員として雇えた事自体大問題なのだが……まあそれは置いておいて保安局員は本当に暇なのだろうか。もっと適任は居たはずだろう。……恐らくはこの男が無理言ってバーリント病院の臨時職員を買って出たのだろうが……
「…なるほどな。」
「臨時職員。確かに申請がありましたがまさかこの方だとは。」
「おじ!!はいてんしょん!」
ユーリの両手には何やら色鮮やかな道具が満帆に入った紙袋。おそらく子供たちを楽しませようと個人的に用意したものだろうか。気合いの入りっぷりが逆に恐ろしい。
「ムッ!何でお前たちがここに!?」
「アーニャおてつだい!」
「何でって、僕はこの病院の医者ですよ。」
「私は職員です。正規の。((一応"こんなでも"保安局なのよね……))」
まさか憎きロッティに事務員の女まで…ニヤニヤと笑みを浮かべるチワワ娘まて不愉快だ!と言いたげに3人に指を指していく。
そしていつも通り。最終的に矛先は"ロッティ"に。
「貴様!ロッティ!こんな所で油を売ってる場合じゃないだろう!?クリスマスイブに姉さんを1人家に置いてくるなんて夫失格だ!離婚しろ!」
「なっ……!((何故また俺に食いつくんだ、ユーリ・ブライア…))」
「ははーん、分かったぞ。もしかして…あわよくばボクという存在を差し置いてティフィーともクリスマスを過ごそうと…?」
「そんな訳ないだろう?何度も言うがファニーは元教え子であって今は」
「言い訳は聞かんぞ!このロリコン変態精神科医!!」
烈火のごとき叱咤に晒されるロイド。
そしてティファニーを間に挟み、今にでもユーリを"殺してしまおう"なんて殺意を湧かせるフィオナの気迫…
「((ユーリ・ブライア…貴方がオペレーション梟に欠かせない人物であろうとも先輩を侮辱するのは許さない。今すぐ私の手で殺―――))」
殺意を感じるフィオナの手を押さえ込み苦い表情を浮かべ、何とか宥めるティファニー。
「せ、先輩!顔怖いですよ〜?―――ユーリさんも!!声が大きい!先生は無理言って来てくれたんです!」
ギャーギャーと1人で酷い思い込みを起こし、騒ぎ立てるユーリを必死に抑え込む。
するとその瞬間、ユーリは手荷物を床に下ろすと対面側に立つティファニーの腕を強引に引き込んだ。
小柄な彼女の体はすっぽりとユーリの腕の中に。突然の出来事に声にならない悲鳴をあげるティファニー。それをジト目で見据える3人。
「いいか!ティフィーはボクと付き合ってるんだ!余計なことを吹き込むなよ!」
「ちょっと!何言ってるんですか!ユーリ……」
呆然としている3人にこんな姿を見られるなんてとティファニーは顔を真っ赤に染めあげる。"羞恥だ!こんな姿見られたくない!"
「「………」」
「ゲプッ…」
姉好きといい、今度は恋人までも囲い込み、嫉妬に埋もれる男。もうこれはどうにもならない。随分厄介な標的を相手にしてしまったものだとティファニーを哀れむほどに―――
「…帰ろう。」
「ですね、暑苦しいです。」
「アーニャもおなかいぱい…」
やれやれと疲れた様子で踵を返す3人。
ティファニーは必死に手を伸ばすもユーリの力に抗うことができず声を上げることしか出来なかった。
「そんな!!先生にアーニャちゃんまで!フィオナせんぱーーい!!」
部屋から出ていく3人の背中。
しかしその3人の胸中は暖かいものだった(…いや、やはり1人は除く…)
「((…ま。仲が良い事に越したことはないな。任務の為にも、ファニーの為にも。))」
「((おじもおねいさんも"しあわせそう"。アーニャもうれしい!わくわく!))」
「((心配は有るけど、あの子が笑顔で居るのは悪くないわね。でも絶対あの男は生かしておけない。先輩を侮辱するなんて。許さない、許さない許さない許さない許さない―――))」
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「本当にいい加減にしてください。最近ひとつひとつの行動がうるさいんですよ?ユーリさん。」
「ん?なんの事?」
「…………((ッ…本当にこの人は…自覚なし!?))」
ロイド達が去ってものの数分後。
幸いにもクリスマス会は滞なく平和に続いており、その後ろでは企画者であるティファニーと助っ人のユーリが次の催しの準備を進めていた。
「ね?ジュースはこれくらいの量で大丈夫?」
「あー…その子の分はこっちの飲み物を。可哀想だけど甘い飲み物は控えさせるように言われてるんです―――」
さっきの嵐のような出来事が嘘のような様子の2人。"いつも通り"の雰囲気へと戻るとムダの無いコンビネーションでテキパキと仕事をこなしていく。可愛らしい柄の入った紙皿に特別な菓子を盛り付けていく。あくまでもここは病院。しかも小児科、相手にしているのは重度の病を持つ子供達だ。ミスはできないし、ふざけている場合でもない。そんな真剣な彼女の邪魔をするまいと、ユーリも手際よく指示通り動いていた。
「それにしても意外と少ないんだね?…いち、にー…さん―――16人?」
サンタクロースとの触れ合いを楽しむ子供達に目を向け、人数を数えるユーリ。重度の病を持つ子供達。東国一の総合病院の小児科にしては案外少ないんだな?と口にした。しかし隣で作業するティファニーの表情は少しずつ険しいものへと変化していく。
「実は入院している子供たちはもっと多いんです。"クリスマスは一時帰宅"の許可が降りる子供が殆どなのですが…」
「…なるほどな。ということはここにいる子供たちは……」
「"一時帰宅の許可が下りなかった"。即ち、病状が良くない子供たちです。でも、一応夕方までは面会も許可してますし、それまでこの部屋を自由に使って良いと許可も出てます。」
「……そうか。」
16人の子供たち。ここにいる子供たちは一時帰宅も許されない程に重い病気を患っている患者だ。年齢も様々、病状は各々違えど余命宣告された子どももいれば、ギリギリのラインで一時帰宅が許されなかった子ども達も……理由は様々だった。
しかしそんな中でも、家族と一緒に―――
"みんな平等にクリスマスという幸せな今日を過ごして欲しい"。
そう思っていたティファニーは今日の企画を思いつき、実際に行動に移せたのだった。
「明日の朝まで子供たちを診るのは私と小児科の先生3人。ユーリさんは19時まで子供たちのお相手をお願いします。」
「はっ!余裕だな。なんせボクは過去に何十人もの子供たちの相手をしたんだからな!」
隠しようのない得意顔を満面に浮かべるユーリ。
その隣でニッコリと嬉しそうに微笑むティファニー。
「…頼りにしてますよ?ユーリさん。」
喜び、期待、多幸感。
クリスマスに子供たち相手に働けることは幸せな事だ。だが、やはり彼とすごしたいという気持ちが心の隅っこに張り付いていたティファニーにとってこんな幸せなことは無いだろう。
ティファニーは傍らに置かれていたサンタ帽を手に取り、彼の頭に被せてみた。思いの外"似合ってる"。なんて呑気なことを考えるほどに今が幸せだった。
「まっ……任せろ!」
「…ふふっ…」
柔くて壊れてしまいそうな笑顔にうっとりと見惚れるユーリ。
彼もまた、彼女の素敵な今回の企画に携われた事を心の底から喜んでいたのだった。
どうか、幸せなクリスマスイブに―――
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―――同時刻 バーリント市内
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人の波でごった返す街中。
そんな中、娘のアーニャが迷子にならないようにとしっかりと手を握る父親のロイドの姿があった。
「うぅ…ひとおおい…」
「手を離すなよアーニャ。ここで迷子になったらクリスマス会どころじゃない。」
「うい!」
「―――ッ!!」
「…?ちち?」
刹那、咄嗟にアーニャを抱き上げ近くのケーキ屋に入るロイド。突然すぎるロイドの行動はあまりにも不自然。何かを察したアーニャは自身の能力を使うことに。
"―――1、2、3。…怪しいと思っていたがやはりあれは秘密警察の連中―――"
ケーキ屋の窓から外を眺めるロイド。
どうやら怪しい動きをしている秘密警察の男たちを見つけたらしい。
「…ちちー?ケーキは"はは"がつくって…」
「せっかくならここのケーキも買って帰ろう。ヨルさんはここのチーズケーキが好きなんだ。」
偽りの台詞、偽りの表情。
"―――アイツら、誰かを尾行しているな。どうやらそれは俺ではないようだが―――"
アーニャは既に読み取っていた。
「((……ちち…へん。))」
強く手を握るロイドを見上げ、首を傾げる。
いつもと違う、焦りの色さえ見える"ちち"の姿。アーニャもまたその姿を見ると不安の波に駆られていく。
「キャーーーーっ!!!!離して!!!」
刹那、店内にいても聞こえるほどの悲鳴が轟く。
賑やかな街中、ケーキ屋の店内―――それぞれその場所にいた人々は騒然としている様子。
「ちち!!おんなのひと!」
「…ん?どうした?」
クリスマスで賑わう幸せな街中の様子が一変する。
アーニャが指を指す先。先程の叫び声の声の主であろう黒髪の女性が男たちに捕まっていたのだ。
そして同時に、あちらこちらで人々が混乱した声を上げ始めた。
「何!?なんの騒ぎ!?」
「あの女の人が囲まれてて!」
「警察呼べ!警察!!」
「誰か止めてくれ!」
"―――止めるも、通報するも……あの男たちが警察だ。"
ロイドの心の声がアーニャの脳内に響く。
"うち1人の男。…茶髪に碧眼、童顔。"
ロイドの視線が1人の男に注がれる。
"国家保安局 秘密警察―――レノルド・カーウォーディン"
焔のような警戒心を消す事無く、混乱する外へと鋭い視線を向け続けるロイド。その先に立つ男は以前ハンドラーから共有のあった"要注意人物"だった。
「…ちち。アーニャこわい……はやくかえりたい。」
「ん、あ…ああ。早く買って急いで帰ろう。」
人混みに弱いアーニャの反応はいつもの事だ。そもそも連行される所を子供には安易に見せたくは無い。混乱が溶けたタイミングでこの場から去るのがベストだろう。
「((……"こわい"……"あのおにいさん"……こわい…))」
アーニャの脳内に飛び込む心の声。
へらへらと余裕の笑顔で女性を捕らえる青年にアーニャは恐怖を抱いていた。
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「はーいお疲れ様。さっさと連れていこう。」
覆面姿のレノルド。仲間2人を引き連れ標的としていた黒髪の女性相手に容赦なく手錠をかける。
クリスマスの浮き足立った昼間だろうが関係ない。
この国の危険分子はすべて排除する。それが自分の任務なのだから。
「…ほら、さっさと立ちなよ。人混みで迷惑だろ?」
「ッ!離して!!私は何も!何も!!」
朗らかに微笑む青年。地面に力なく座り込み抵抗する女性の首根っこを容赦なく掴むと引き摺るように歩き出した。
あまりにも酷い対応だ。秘密警察が東国民から恐れられるのも当たり前だろう。
「レノルド!やりすぎだ。あくまでもここは街中だぞ?」
「この前"ブライア少尉"に言われたばかりだろうが!―――その女から手を離せ、俺が連れて―――」
レノルドの行いに対して反対する2人の上司。
しかしそれに対して臆することなく、レノルドは女性の首を掴んだままピタリと立ち止まった。
奇妙な光景と不気味な程に笑顔を浮かべながら残酷な行いをする少年に対し、周りの群衆たちも恐怖で誰も何も言葉を発さない。
「その"少尉殿"がクソ忙しい今の時期に休暇なんて取るからこうなってるんだろ?ん?」
先程の笑顔とは打って変わって"恐ろしい顔"に。その額には青筋が浮き出ており、彼が怒りを纏っていることは容易に理解出来た。
「甘いんだよお前ら。だからクソみたいな諜報員が次から次へと湧き出る。……あんなお人好しの"ユーリ先輩"に任せられないよ。」
獣の如く、鋭い碧眼―――
「裏切り者は全員拷問して殺す。それが僕のモットーなんだよ。――――――ね?分かった?」
不気味な程にコロコロと表情も声色も変化する青年。仲間の男2人はゴクリと息を飲み頷くことしか出来ない。にこやかな人柄の裏に隠された本当の男の姿。偽りの仮面を被った青年の本音は恐ろしく残酷。
「―――ッ!?」
刹那、レノルドは何かを察したのか少し離れた建物へと視線を向けた。
視線の先には街で人気のケーキ店。妙な視線を敏感に感じ取った。
「((………誰だ。僕の事を他の人間と違う"視線"で見ていたやつが居る…はずなんだが―――))」
碧眼を細め更に警戒を高める。
自分を刺すような視線を向けていたやつが近くにいたはずだ。しかも只者ではない。まるで自分を全て見透かし、知っているかのような視線―――
しかしどんなに確認しても"その人物"は見つからなかった。
それにこれ以上大きな騒ぎになるのも御免だ。さっさとこの場から離れよう。
「―――杞憂か。」
ボソリと漏れる青年の声。
しかしその碧眼は猜疑心に満ち満ちていた。
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