morning glory   作:鈴夢

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標的と標的

 

 

 

・・・・・・・・・

 

 

 

夕刻――

――フォージャー家

 

 

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「((予定よりちょっと遅くなっちゃった…。))」

 

玄関の前で手土産や身なりの最終チェックを行うティファニー。

シフォン素材の可愛らしい花柄のワンピース。歩く度に裾がふわふわと揺れ、まるで伽話に出てくるような"お姫様"を思わせる格好。バーリント内で流行中のその身なりは、年頃の女の子というような、今時の普通の女の子らしいというようなものを感じさせる。

 

 

 

 

 

 

「((手土産のスパークリングワインと、美味しいって評判の3番街のお店で買ったココア。喜ぶかなあ。…))」

 

手土産の入った紙袋の取っ手をギュッと握りしめ、いざ呼び鈴を鳴らす。

 

 

 

扉の先から微かに聞こえる足音、そして開かれる扉――

 

「こんばんは〜。お招き頂きありが…」

「こんばんは!はじめまして!いつも姉がお世話になってます!」

 

 

勢いよく開かれた扉の先にいる人物にティファニーは目をまん丸と瞬きさせる。

 

黒髪、童顔。一見すると人好きのニコニコ笑顔の好青年。瞳の色はヨルと同じく容姿がかなり似ていた。

 

 

 

 

「((ん?……ここは先生のお家……だよ、ね?))」

 

ロイドでもなく、ヨルでもなく、アーニャでもない。

はたまたフランキーでもなければ…

 

 

「ユーリ!いきなり失礼ですよ?」

「ちち〜!"まなでし"のおねいさん来た〜」

「ボフッ!」

 

その背後からひょっこりと顔をのぞかせるヨル・フォージャー。足元には娘のアーニャ・フォージャー。ペットのボンド。

 

 

「ごめんなさいティファニーさん。驚きましたよね?」

「いえ。気になさらないでください。」

 

ティファニーも同じくニッコリと笑顔を向けると、ヨルから目の前の青年に再び視線を移す。

 

 

「((…この男。ハンドラーから渡された情報。ユーリ・ブライア。――))」

 

 

じっとティファニーが見上げていると青年の右手が差し出される。

 

「姉さんの弟の"ユーリ・ブライア"です。」

「ユーリさん、はじめまして。バーリント総合病院に勤めてます。ティファニー・ラドナーです。」

 

そしてそれに答えるように自らも右手を差し出し握手を交わす。

 

 

 

「((ロッティの過去を知る唯一の存在。あわよくば、この女からロッティのあんな事やこんな事を聞き出して、姉さんとの夫婦関係にヒビを入れてやる。…))」

 

 

 

「((私の標的(ターゲット)――))」

「((僕の標的(ターゲット)――))」

 

 

 

互いに偽りの笑みを浮かべ、友好的な雰囲気を醸し出す2人。

しかしその瞳の奥底には底知れぬ欲望が渦巻いていた。

 

 

 

 

 

「((おじとおねいさん…ワクワク!))」

 

 

 

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――時は遡って数日前。

バーリント市内、某カフェ。

 

 

 

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定期連絡で何度も利用しているカフェ。

そしていつもの1番奥の席に座る2人組。

金髪の少女の手元には一枚写真――

 

 

 

 

「この男性が?」

「ああ。黄昏からの情報によるとこの男は"秘密警察"に所属しているらしい。」

 

 

ティファニーの対面側に座る女性は妖艶に口元に弧を描き、微かに笑顔を見せる。

 

一部の隙も見せない威厳のあるその佇まい。自分には持ち合わせていない色気を感じるその女性。

 

 

"シルヴィア・シャーウッド"

 

暗号名(コードネーム)"鋼鉄の淑女 (フルメタル・レディ)"

 

西国情報局対東課、WISE" 管理官(ハンドラー)"

また、在東西国大使館の外交官という肩書きを持つ。

 

そしてオペレーション梟の進行管理や予算管理といった管理面を担当し、この作戦にティファニーを起用した張本人でもあった。

 

 

「此度の大臣暗殺を目的とされたであろう"爆破テロ"。東西の軍事衝突を意図的に行う学生まで現れた。上も徐々に焦り始めてる。」

「………。」

 

「元々お前に与えた任務は東国の重要省庁の内実捜査。それに加えて――」

 

 

「"秘密警察の内実を暴く"。…運良く現れた"先生"の妻の弟の存在。その人物が秘密警察。――話は全部読めました。」

 

 

「理解が早くて助かる。」

 

つい先日、東国の学生による西国要人の暗殺未遂テロが発生したばかり。

さすがに危機感を覚えた本部。東国各省庁が"何か隠している"なんて憶測を掲げ始めているようだった。

 

 

「それで。私は具体的に何を?」

 

「"上手く取り入れ"。お前ならエリート研修医と看護師の札があるだろう?東国VIPの見立て、各省庁や学校の定期健康診断。お前のその頭脳は幾度となく活かされてきた。」

 

「…でしたら…、この男性の姉と偽装結婚をした"先生"の方が何かしら情報とか掴みやすいんじゃ…」

 

遠巻きに自分に任せるより、いっその事ロイドに任せた方が早いのでは?と考える。

しかしハンドラーは首を振り、ティーカップへと手を伸ばす。

 

「相手は秘密警察。いうなればエリート中のエリート。実姉の旦那が変に嗅ぎつけるのは怪しすぎる、ハイリスクだ。それに――"男女の関係"の方が隙が生じやすい。」

 

「…なるほど。あわよくば恋人にでもなって、運が良ければそれ以上の関係性を築いて、相手の懐に入り込む。という事ですね?」

 

「さすが察しがいいな。"取り入れ"と言うのはそういう事だ。」

 

相変わらず無茶苦茶な任務だ。

相手が私だからとなんでも出来ると思っているのだろうか?

 

「ですがハンドラー。この手の任務は初めてです。恋愛経験も無いですし…」

「それなら"百戦錬磨の黄昏"にみっちり鍛えてもらうんだな。私からも伝えておこう。」

「……((先生に恋愛の指南なんて…))」

 

「おい。顔に出てるぞ"朝顔"」

 

 

 

明らかに嫌そうなその表情。

眉をしかめてひどく憂鬱そうな顔に、ハンドラーは小さくため息を漏らした。

 

 

 

「お前のポジションは巧い。…標的から見たお前は実姉の旦那の"元教え子"。しかも外務省お抱えの"看護医"。VIPの見立てに立ち会える"研修医"――だからこそ朝顔、お前をオペレーション梟に捩じ込んだ。」

 

「半ば都合が良すぎますし、無茶苦茶過ぎますけどね…」

 

ティファニーも同じくティーカップに手を伸ばす。

 

そんな少女を目の前に、ハンドラーはにこやかに口元に笑みを浮かべ、珍しく頬を緩ませる。

 

 

 

 

「お前の優秀なその頭で"ユーリ・ブライア"を落とせ。そして内実を暴け。以上――」

 

 

 

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――という事なのだが。

私は今、とても混乱している。

 

 

 

 

 

 

 

「へぇ〜。ティファニーさんって優秀なんですね?」

「別にそんな大したことないですよ?――ユーリさんこそ…」

 

 

ダイニングテーブルに集う面々たち。

そこでロイドとヨル、アーニャは"有り得ない"その光景に唖然としている様子だった。

 

 

「((あのユーリ・ブライアが…女性に興味を!?))」

「((あぁ…ユーリ…。私は安心しました…。))」

「((おじ……))」

 

 

あのユーリが、ティファニー相手に質問を投げ飛ばしていたのだった。出身地や大学、ロイドとの関係性などをメインに、それは根掘り葉掘り…

 

 

「最年少で、しかも首席で卒業。今はバーリント総合病院で外科の研修医。並行して看護師としても一線で活躍してるなんて――((絶対にロッティの裏の手引があるはずだ。この2人が歪な男女の関係性である事は間違いない…))」

 

 

 

出身大学は東国一の医科大学、しかも最年少で飛び級、首席卒(嘘)

 

学生時代にニールバーグのとある病院にて。看護研修でロイドが自身の教育担当としての関わりがあった事(嘘)

 

などなど。あらゆる自身の経歴を口にしたもののユーリの質問責めは終わらない。

ティファニーはその質問責めに真摯に向き合うも、徐々に疲れの表情が垣間見える。

 

 

「…おねいさん。おじのしつもんにつかれてる。」

 

ソファに並んで腰かけるユーリとティファニーの間でその様子を静かに見守っていたアーニャがロイドとヨルに助けを求めた。

 

 

「ユ…ユーリ君。質問は後にしてそろそろ晩御飯を…」

「そ、そうですよ!初対面の女性に質問ばかりすると嫌われちゃいますよ?」

 

「ムッ…((自分とした事が…。確かにいきなり踏み込みすぎるのは危険だ。まずはゆっくり……。そうだ!尋問の時と同じだ。まずは対象を見極め、徐々に徐々に…))」

 

ユーリは深呼吸し焦る気持ちを抑える。そして空気を変えようとテーブルに並べられたヨルが作ったと思われる品々に視線を向ける。

 

 

 

「うわぁ〜!今日も美味しそうだな〜!さすが姉さん!姉さんの料理は世界一……」

「ですよね!私も同感です!!――私お腹空いてるんで…」

 

ティファニーとユーリ。

まさかの打ち合わせもなしに同時に手を合わせ、ヨルの手料理に手を伸ばす。

 

 

 

 

「「いただきます!!」」

 

それぞれが抵抗なく口に次々と料理を放り込む。

唯一まともな見た目のシチューには何故か手をつけない2人…

 

あまりの食べっぷりにロイド達は顔が強ばり、開いた口が塞がらない状態に。

 

 

「ヨルさんの手料理、最高です!…この、ハンバーグみたいなお肉ってオカワリあります?」

 

「うぼおぉぉぉぉおおお!美味しいよ!姉さーーん!!」

 

 

普通に食べ進めるティファニーと口から怪しい液体を吐き出しながらも姉の手料理を食べ進めるユーリ。

圧倒され続ける3人は、そんな2人の様子をただただ見据えていた。

 

 

 

「ティファニーさん。よかったらこれも…」

「ありがとうございます、ヨルさん!――んむ……美味し〜い。」

 

余程空腹だったのかユーリの数倍も食べ進めるティファニー。

ヨルには悪いが…どうやら彼女は本当に舌が"イカれてる"らしい。

 

 

「ファニー…君。そんなにガッツいたら胃を壊…」

「今日忙しくてお昼食べれなくてお腹空いてたんです。…先生、残すなら私にください。」

「え、あ…、うん。((やはり"舌は馬鹿だ"))」

 

ありえない食べっぷりに、ついにユーリが手を止め隣のティファニーに視線を向ける。

 

 

「んふふふ。いくらでも食べちゃいます。――あれ?ユーリさん、意外と少食なんですか?」

 

「はっ、なっ!!!((この女…姉さんの手料理を独り占めするつもりだな?あわよくば、貴様も姉さんを…))」

 

意外な言葉に声を発する事を逃すユーリ。

隣の幼い少女はそんな相手に続けて言葉を放った。

 

「――優しくて綺麗で、可憐で…料理上手なお姉さんがいるなんて、ユーリさん幸せですね?羨ましいです。」

 

 

青い瞳をキラキラと輝かせ、顔一面に満悦らしい笑みが浮かべるティファニー。

その表情から読み取るに、間違いなく本心を口にしていると理解したユーリは、何故かその笑顔に一瞬引き込まれそうになってしまう。

 

 

「((なっ…何だこの女。……姉さんの事をそんなにリスペクトしてるのか!?……))」

 

 

姉以外の女性の笑顔に惹かれたことは一度もなかったユーリ・ブライア。

そんなティファニーを相手に明らかに動揺する姿をアーニャはニヤニヤと見上げていた。

 

 

 

 

「おじ。にやにや。」

「はっ…はぁ!?してないぞ!」

「おじ、ウソついてる。かお、まっかっか〜!!」

「うっうるさいぞ!チワワ娘!これは酒のせいだ!!」

 

「ちょっと!ユーリ!!ワイン飲み過ぎですよ!!」

 

 

ギャーギャーと騒ぎ立てるユーリ達。

その隣で黙々と食事を続けるティファニー、そして騒ぎ立てるその光景に呑気に笑みを浮かべるロイド。

 

2人は一瞬視線を交えるもすぐに逸らす。

するとティファニーとロイドは同じように口元に弧を描き、頬を緩ませていた。

 

 

 

 

 

「((…どうやら。恋愛の"指南"は必要無さそうだな。))」

 

 

 

 

良くも悪くも天然なティファニー。

案外上手く、良い関係を築けると予想したロイドはその笑みの傍ら安堵を浮かべていた。

 

 

 

 

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そして、酔いに酔っ払ったユーリを無理やりタクシーに捩じ込み、それに乗じて自宅まで無賃でタクシーを利用したティファニー。

 

ユーリの自宅に着いた頃には高額なタクシー代を請求されたとか、ないとか。

 

 

 

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