morning glory   作:鈴夢

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君を探し続ける










Dear__

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扉の先には

何があるか分からないけど

誰かがきっと"貴方"を待ってる

 

 

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――東国(オスタニア)

バーリントン国際空港――

 

 

 

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たくさんの人が行き交うターミナルビル。

再会を喜ぶ家族やこれから旅立つであろう人々が多く目につく。

 

 

目の前のガラス窓から見えるは人々を運ぶ飛行機。

 

"黒髪赤眼"のスーツ姿の男性はそれをぼんやりと眺めていた――

 

 

 

 

 

「――"ユーリ"……」

「……」

「ユーリ!」

「ッ…!」

 

スーツ姿の男――ユーリ・ブライア

その隣では似た風貌をした女性が心配そうに声を上げたのだった。

 

 

「もう!またぼーっとして。」

「ああ…ごめん…"姉さん"。」

 

弟の気抜けた様子に心配の色を変わらず見せるヨル。ユーリが纏っているシャツの襟を直してみたり、まるで自分の子供のように扱う姿は昔と変わらない。

 

 

「チケットは持った?それと大事な"身分証と通行証"…」

「大丈夫だよ。…ほら!ここにある。」

 

得意げにジャケットの内ポケットから取り出されたのはパスポートと通行証。東国の刻印が押されており、中には身分証のカードがしっかりと挟まれていた。

 

 

 

「――まあ"外務審議官"の立場があるなら基本問題ないだろう?」

 

 

刹那、二人の背後から別の男性の声がした。

金色の短髪、ツーピースジャケットを纏った"義兄"。

 

 

「……なっ!何でお前がいるんだよ!ロッティ!」

「居たら悪いか?」

 

ロイドは更に二人に近づくとヨルの真横へと立つ。そして仲睦まじそうにヨルの腰に手を回すと意地悪そうに笑みを零した。

 

 

「姉さんにベタベタするな!」

「夫婦なんだから別に良いだろう?」

 

ロイドの正論にぐうの音も出なかった。

ここ数年で更に夫婦らしくなった"フォージャー夫妻"に嫉妬してしまうほどに……ムカつくほど仲が良い。

 

 

「…それより!そもそも今日は"いんぺりあるすっからん"とかいうチワワ娘の集まりがあるって聞いてたぞ!」

「それは午後からだ。問題ない。」

「もうユーリ!わざわざロイドさんが見送りに来てくださったんですよ?いい加減"いい歳"になるんだから!その態度はいけません!」

 

「それとこれとは別だよ!それにボクの事を子供扱いしすぎなんだよ……"昔と変わらず"姉さんは。」

 

"昔と変わらず"――

そういえば、あれから何年も経ったんだった。

 

今日の日が訪れるまで、この数日間ぼんやりと過去を思い出すことが多かった。ふとガラス窓に反射する自身の姿に目をやってみた。身長もあの頃の年齢から何故か伸び始めたし、鍛える頻度も増えて以前よりかは筋肉質になっただろうか。

 

"だが中身は何も変わっちゃいない"

 

 

 

「そういえばユーリ君。ヨルさんがお弁当を作ってくれたんだよ。」

「長旅になるだろうし、着く前に体力が無くなってしまったら元も子も有りませんから!」

「……いや、機内食あるんだけど…」

 

 

 

 

三人のなんと無い会話がひとしきり終わったその時、ユーリが乗る便のアナウンスが響く。するとユーリは頭上に掲げられた電子盤に目をやった。

 

行き先は――――

 

 

 

 

「それじゃ、搭乗時間だしもう行くよ。」

 

傍らに置いていた鞄を手に取ると二人に笑みを向けるユーリ。その表情は期待と不安が垣間見える。

 

 

「ああ。…だが東西の行き来が緩和されてまだ間もない。十分に気をつけるんだよ?ユーリ君。」

「心配せずともボクはあくまでも"外交官"だ!お前より外交に詳しいんだよ!」

「確かに忘れていたがユーリ君は"外務審議官"…」

「忘れてた!?もう一度言ってみろ!ロッ…」

 

 

「もう!!ユーリも言い方!ロイドさんも!」

 

ロイドに掴みかかるユーリ。

心做しか数年前より距離感が近くなった気がする。それを制止するヨルも何だか嬉しそうだった。

 

 

 

 

「ふんっ!それじゃ行ってくる!」

「ユーリ君。通行証と身分証…」

「持ってるよ!」

 

"余計なお世話だ!"と荒々しく声を上げユーリは搭乗口へと向かってしまった。まともに別れの挨拶もすることなく……だが大丈夫だろう。戦地に行くわけでもない。数日後には帰ってくるのだから。

 

 

「「……」」

 

ユーリの背中を静かに見つめる二人。

ヨルは心配そうにロイドの腕を掴む。

 

 

「……無事…"再会"できるでしょうか?」

抑揚のない心配そうな声。

それを耳にしたロイドはより一層ヨルを引き寄せる力を強め、同じく不安そうに眉を顰めた。

 

「後はユーリ君次第だ。そもそも彼女の安否さえ不明。限られた滞在期間の中で見つけることができれば…」

 

 

 

 

 

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「………」

 

離陸する飛行機。窓から外を眺め、ユーリは小さく息を吐いた。

 

新たに建設された高層ビルや建造物。長い月日をかけて出来上がった空港。見慣れたはずの景色――しかし今回は何故か不思議な気分だった。

 

今回は外交員として仕事で"西国"へ向かうのでは無い。"彼女"を探す為―――

 

 

 

 

┈┈

 

 

 

 

 

――あれから"十年"の月日が経過していた。

 

 

東国(オスタニア)西国(ウェスタリス)

繰り広げられた東西戦争。その後の冷戦状態。十年前はいつどこで再び戦争の火種が撒かれるかと人々は恐怖していた。

 

中でも世を揺るがした事件。それは暗躍するWISEの諜報員たちが"たったひとりの諜報員"を国家保安局本部を破壊してまで救い出した、というもの。

 

当時、その事件は大きく報道された。

 

危険な組織の存在、逃亡した諜報員、しかもその人物はかの有名な大病院の医師だったという事実。若くて美しい少女が"東国を裏切った"と。そしてその危険人物の仲間が近くにいるかもしれないと。世間を大きく騒がせた。

 

暗躍する諜報員(スパイ)達の存在。それは完全なる悪だと――

 

 

 

 

 

――しかしある日。その概念が大きく変化する。

且つ東西の冷えきった関係性に再興の兆しが見え始めた"きっかけ"。

 

 

国家保安局本部 局長の西国を巻き込んだ"汚職問題"。

 

対西国強硬路線を掲げる東国の最大野党"国家統一党"総裁 ドノバン・デズモンドの"とある計画"。

 

このふたつが状況を一変させたのだった。

 

 

 

 

 

国家保安局 局長の汚職――西国の戦争孤児を利用し、政財界の人間や国の上層部との歪な関係かあったという事実。"黒い鎖(ブラックチェイン)"との繋がりもあったのではないか?という噂も広がり始め、国民の目は厳しいものに変化した。そして西国に対し良心の呵責のような思いを抱く国民が増えたそうだ。

 

"消えた美しい少女"――

彼女もまた、東西の歪な争いに巻き込まれた哀しい存在だったと、言わば被害者だったのではないかと。東国では一時期 謎のブームが起こり、そんな彼女を題材にしたドラマや本などが出版されたことも。また彼女と共にバーリント総合病院で過ごしていた仲間たちの発言。一言で言うと"あの子は何もかもが美しい人"だったと証言されたのだった。

 

 

 

そしてもうひとつ。

"ドノバン・デズモンドのとある計画"。

それは酷く残忍で決して起こしてはならない。この世に生きている人間が考えたとは到底思えない惨すぎる計画だった。

 

"一発でひとつの国を滅ぼす事ができる爆弾、原子兵器の所有"

 

"天然痘ウイルスやボツリヌス菌、毒ガスなどを用いた生物化学兵器の開発"

 

これが何のために作られていたのか。それは国民誰しも説明不要だろう。ドノバン・デズモンドは対西国強硬路線を掲げていた。WISEの思惑通り、デズモンドは再び大戦争を起こそうと計画していたのだ。

 

それに関わっていたであろう東国大手軍事企業"ブラックベル"はこの計画を真っ向から拒否していた。しかし逆らえばどうなるか、誰もが想像の着く結果が待っていると、ブラックベルCEOは苦渋の決断を強いられていた。

 

 

 

 

――この出来事により、世の中は大きく変化した。

 

国家保安局は上層部の解体が行われ、ドノバン・デズモンドは政財界から後退し、東国に徹底して管理される身と堕ちた。

 

 

 

国家保安局の汚職と野党総裁の計画。

何者かが意図して計画的に情報を漏洩させたのは間違いない。

 

しかし両者とも情報の出処である"ソースは不明"。

 

 

…だが一部の人間は分かっていた。

 

『平和を願うふたりの少年少女が成した技だった。』と

 

 

 

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――西国(ウェスタリス) 首都リリベリア

リリベリア国際空港 入国審査場――

 

 

「身分証と通行証を」

 

入国管理の金髪の男は列の先頭に並んでいたユーリを呼ぶと早速書類を出すように指示を促す。

ジャケットの内ポケットから取り出されたパスポートと通行証。それとは別にカード型の身分証を手渡した。

 

身分証に写された顔写真。入国管理官の男は目の前の男と交互に照らし合わせる。

 

赤い瞳は神経質に切れ上り鼻筋は通り、幼さを感じる風貌もあるが男性的な面もある。"美青年の紳士"。黒艶のある黒髪はオールバックで整っており、より美しさが際立っていた。

 

 

正に男も惚れる"男"。

背丈も優に六フィートは越えているだろう。鋭い赤い瞳は安易に人を寄せつけない威厳ささえも感じる。

 

「……ぁ…」

 

そんな相手に入国管理管はゴクリと息を飲むと現実に引き戻され、彼の名前や職業などを確認していくのだった。

 

 

 

「ん?何か不足書類でもあったか?」

「い、いえ!今確認しておりますので少々お待ちください…」

 

その時、管理官の視線がユーリのジャケットの襟元へと向けられた。付けられているバッジの形状と種類。それは東国の外交官を意味するものだった。理解した男は慌てて身分証の職業欄に視線を落とす。

 

「まさか貴方は……東国外務審議官…殿?」

「そんなに驚かなくてもいい。」

「いえ!寧ろ国賓レベルじゃあありませんか!直ぐに上のものを…」

 

慌てて椅子から立ち上がる男。まさか相手が東国と外務審議官だとは。

"外務審議官"――それは外務省に置かれる国家公務員の役職の一つ。外務事務次官に次ぐポストであり、いわゆる次官級審議官職の一つとして外務省設置法に定められている"特別な職"なのだ。

 

「(("外務審議官 ユーリ・ブライア"…見覚えがあると思ったらやはりこの人物が…))」

 

"東西の関係を好転させた一人でもある。秀才並外れた才能を持つ青年――"

 

テレビでも外務省大臣と並び報道されていた噂の人物…

 

 

 

その時、ユーリは管理官の腕を掴む。

 

「止めてくれ。今回はプライベートで西国に来たんだ。」

 

大事にされては困ると言わんばかりの困惑した表情だった。

 

「ですが…」

「頼む。」

 

一見冷酷そうにも見えた男。しかし険しい眉の形が解け、表情が少し変化した。

柔い春風のような、穏やかに咲き誇る花のように優しい表情だった。

 

 

 

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無事入国審査を終え、空港を離れると都市部へと向かうユーリ。タクシーから外の景色をぼんやりと眺めていると賑わいを見せる街中へと入っていく。

 

 

 

「((何度か西国には外交で訪れたが……前よりは華やかになってきたな。))」

 

季節は穏やかな"春"。

東国とは違い自然が多く、そこら中に美しい花や木が咲き誇っていた。

 

東西戦争の傷跡も東国と比べて深く、ようやくこの数年間で街も人も生活も全てが落ち着いてきたとも言えるだろう。

 

 

――本当に長かった。

ようやくここまで来ることが出来た。

 

 

「((……やっと………やっとだ…))」

 

 

ユーリは無意識にスーツジャケットの襟で光を放つ外務官僚のバッジに手を伸ばす。

 

 

 

"表の顔"は外務官として、役職は外務審議官。

 

"裏の顔"は国家保安局、秘密警察内部では副局長として。

 

立場は変わったものの十年前と変わらず表と裏を使い分け生きてきた。ここまで来るのに血反吐を吐く思いをしてきた。何度も何度も挫折しかけた、危険な目にも数え切れないほど合ってきた。

 

…だが構わない。

全ては"彼女に再会する為"…望んできたことだ。

 

「……」

 

ふと、ポケットから革製のパスケースを取り出す。使い込まれたそれは色あせており、中には少額の小銭や名刺が数枚。

 

そして"一枚の写真"。

そっと優しい手つきで取り出すと写真に映る彼女を慈しむように指でなぞった。

 

微かに色がくすんでおり、汚れも目立つ。しかし中に映る彼女は色褪せない存在。お気に入りの花柄のワンピースを纏い、花に触れる彼女の横顔。

 

天女のように美しく、儚げな少女。

ユーリはこの写真を御守りのように常日頃から持ち歩いていたのだった。

 

 

「((…しまった…もっと分かりやすい写真を持ってくればよかった。つい普段から持ち歩いているものを……))」

 

 

彼女を探すために西国へと来たのだが情報はほとんどない。となれば自力で聞き込みをするしかない。十年も経てばそれなりに見た目も変化しているだろう。にも関わらず、彼女の顔が分かりにくい"横顔"の写真。もっと分かりやすく、ハッキリと写っている写真を持ってくればよかったと後悔していた。

 

 

ユーリの親指が彼女の横顔を愛おしそうに撫でる。

 

 

 

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――過去 華やかな晩餐会の間にて

 

 

┈┈┈┈

 

 

 

 

「ブライア外務審議官って素敵よねぇ〜」

 

派手なカクテルドレスを身につけた女性達がシャンパングラスを片手にうっとりと彼を見つめていた。

 

「ねえねえ!声掛けてみない?」

「賛成!」

「私も私も!」

 

視線の先には燕尾服を纏うユーリ。

物怖じすることなく年上を複数相手に時折笑顔を見せながら談笑する姿は女性たちの的だった。

 

「あの歳で外務審議官よ?若くして将来有望すぎ…」

「噂だとかなりのシスコンって聞いてるけど本当なのかな?」

「別にシスコンでもなんでもいいわよ〜。あの風貌と肩書きだけで十分でしょ?」

 

こういった公式の場では女性たちは様々な男性たちを天秤に掛け合う。職業、見た目、階級や収入。とくに東西の冷えきった関係が解消された今、人々は更に自由な思想を抱くようになった。

 

 

女性たちが黄色い声を上げる中、ひとりの女性が冷めきった視線でそれを見つめボソリと呟く。

 

 

「あの人はやめた方がいいよ。」

 

その女性の一言に騒ぎ立てていた女性たちは不思議そうに首を傾げた。

 

 

「何?ブライア外務審議官の事、何か知ってるの?」

「知ってるもなにも、私猛アタックして冷たくあしらわれて終わったのよ。」

「冷たくって……あのスーパー優しくてイケメンハイスペックブライア外務審議官が!?」

「そう。」

「嘘でしょ絶対。貴女の妄想でしょ?」

「だから本当よ。」

「「……」」

 

顔を見合わせる女性たち。

まさか、あの優しくて有名なブライア外務審議官がそんな事あるのか?と。

 

 

「――"ずっと想ってる人がいる。君には興味無い"。」

 

以前"振られた"と口にしていた女性はユーリに放たれた言葉を呟き、深いため息を漏らす。

 

 

「それにあの人。いつも写真持ち歩いてて、たまにそれを見てニヤけてるから。」

「え?ニヤけてる?」

「チラッと写真見たことあるけど、めちゃくちゃ若いブロンドの女の子。」

「…若いって…どれくらい?」

「……たぶん10代の女の子だと思うけど。」

「えーっ!?まさかの幼女好きなの!?」

「そうなんじゃない?しかもあのニヤケようから考えても多分"変態"。」

 

女性たちの目が点になる。パチクリと何度か瞬きをし、再び皆視線を合わせ合う。

 

 

「「えーーーっ!?」」

 

 

意外すぎる彼の素顔に発狂する女性たち。

ユーリはそれを横目にからかうような、嘲笑うような笑みを口元に浮かべ内ポケットに肌身離さず持ち歩いているパスケースに手を添えたのだった。

 

 

 

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――西国首都 リリベリア

中央街 ――

 

 

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「――ありがとうございました。」

 

 

タクシー運転手に支払いを済ませ街へと踏み出すユーリ。辺りは大勢の人で賑わい市場や催しの様々な音が耳に飛び込んできた。

 

手元の鞄を握り直すと踵を返す。

そしてポケットから一枚のメモ用紙を取り出すと真剣な表情に変化した。

 

 

 

 

 

「((先ずは彼女の故郷を追おう。ロッティから彼女に関する情報はいくつか貰ったし。……ムカつくがあいつは唯一肉親のような存在だったからな。))」

 

メモに記されているのは"彼女に関する情報"。ソースは全てロイドだった。

出身地と思われる地名はふたつ。今も存在するかは不明。そしてロイドが彼女と故郷についての会話をした時に出てきたワードの数々。情報はただそれだけだ。なんとかそれを繋いでいけば彼女に行き着くはずだとユーリは信じていた。

 

 

賑わう街を歩き続ける。

すると様々な花を取り扱う出店を見つけ、店主であろうガタイのいい男にユーリは近づいた。

 

 

「すみません。」

「ん?何だい?」

 

ぬうっと大きな体格。堂々たる体躯をもてあましているような男の姿は花屋の店主というより酒場の店主の方が似合っていそうだ。

 

「少し聞きたいこと…」

「女性に送る花束かい?あんたモテそうだし、東国のイカした兄ちゃんならオマケするぞ?」

「悪いんだが、今花は必要なくてね。」

「つれねぇなあ〜。」

「また買いに来ますよ。」

「信じるぜ!その言葉!」

 

"ニシシッ!"と豪快に笑う男。しかし鋭い目を持っていた。胸元の外交官バッジの形状を見て直ぐに東国の人間だと判断したらしい。差別する様子もなく、悪い人間では無いらしい。

 

「実は人探しをしているんです。…この女性を探しているのですが……」

 

ユーリは写真を男に手渡す。

男は写真を片手に顎に手を添え考え込む仕草を見せた。

 

 

彼女は特徴的な容姿だ。

金髪碧眼。必ず何かしら印象に残る容姿。それにあくまでも予想だが、彼女は複数の人々に関わる仕事をしている可能性が高い。

 

もしかしたら、この市街で知っている人が居るかもしれないのだ。

 

 

「…うーーーん…ブロンドに碧眼……ちなみに歳はどれくらいだ?かなり若く見えるが。」

「この時の彼女は十八、十九辺り。正確な年齢は分からなくて。なので今は二十代後半かと。」

 

「んんん〜〜…特徴的だがこれだけじゃあなあ〜。他に情報は?」

「医者、教師、もしくは子供に関わる仕事をしている人物。」

「…病院もここ数年で一気に増えたし、学校もわんさか建ったからなあ。」

「………」

 

やはりそんな簡単に情報は集まらない。

この広大な国で、且つ少ない情報で人探しはほぼ無謀な行いだ。

だが諦める訳には行かない。

 

――必ず彼女に再会するんだ。

 

 

 

「そういえば兄ちゃん。その娘の"名前は"?」

「……あ…」

「名前を教えてくれ。それほどのべっぴんさんなら誰か知ってるかもしれねぇ。」

 

うっかりしていた。肝心な名前を伝えていない。

 

 

「ああ、名前は"ティファ"……」

 

名前を口にした瞬間、ユーリはハッとした目を男に向け言葉を詰まらせる。

 

「ティファ?その子はティファちゃんっていうのかい?」

「…………」

 

男から写真を返却され、花畑の中で微笑む彼女の横顔に視線を向けた。

 

"暗号名(コードネーム) 朝顔"

"バーリント総合病院勤務 ティファニー・ラドナー"

 

 

 

――彼女の"真実の名"は

 

 

 

 

 

 

 

「いえ……彼女の名前は――――」

 

 

その名前を耳にした屋台の男は大きく目を見開いた。

 

 

 

 

 

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『――春に会う花百合 夢路より覚めて』

 

 

古びた教会に流れる賛美歌。

うるわしの白百合――賛美歌496番

 

 

『かぎりなき生命(いのち)

さきいずる姿よ――』

 

 

協会内部はうつくしく整頓されていた。

両側の高い窓から差す光が快い調和を作って、木の床やベンチに積った埃を照し出していた。

 

 

『うるわしの白百合

ささやきぬ昔を――』

 

 

群衆が会堂に満ち、跪いて祈っていた。声なき音楽が、彼等の頭の上を渡るらしかった。

 

 

『百合の花 百合の花 ささやきぬ昔を』

 

 

一人の女性が賛美を口ずさむ。

 

差し込む陽の光が目に照り付けると

その碧は美しく輝いた。

 

 

 

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※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

次回が最後とお伝えしましたが

もう1話続けます。

 

冒頭の言葉は

Mr.s Green AppleさんのDearという曲の歌詞です。

 

ぜひ聴いてみてください…めちゃくちゃ良い…

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