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――朝8時過ぎ。
週末ということもあり人手も疎らなバーリント市内。
青々とした雲ひとつない空。清々しいほどに気持ちの良い気候。
"こんな日は美人と朝からモーニングデート"なんて夢のまた夢……
「はぁあああ……俺にも良い女が現れねぇかな〜」
全くもって自分には縁のない妄想を脳内で広げ、自身が構えるタバコ屋のカウンターで酷く項垂れている男。
赤縁メガネとアフロヘアー、左耳のピアスが特徴の情報屋。
その男の名は"フランキー・フランクリン"
表向きはバーリント市内でタバコ屋を営みつつ、情報収集等でロイドやティファニーのサポートを行っている。彼の名前も偽名であり、本名は誰にも明かしていない。
またフォージャー家とはロイドの友人として度々交流もあり、アーニャ達からも好かれている存在でもある。
そして何故か"選り好みしてないのにデートすら叶わん"と本人が悩む程に女性関係は皆無だった。
「((ったくよー……週末も何も用事も無ければ、ただただこの店で情報屋―――))」
"ぐすん"と涙ぐみながらゆっくりと項垂れていた頭を持ち上げる。すると数十m先に見慣れた女性のシルエットが目に入った。
「フランキーさん!おはようございます!」
爽やかな初々しい幼さを残す無邪気な笑顔。こちらに向かって手を振りながら現れた女性に対し、フランキーは顔に嬉しさを滲ませ、頬を赤らめながら手を振り返す。
「おお〜!ファニーちゃん!週末のこんな朝早くにわざわざ俺のところに?((もしかしてデートの誘い!?ついに俺にも春が―――))」
ニヤニヤと我慢しきれないその顔に、ティファニーも満面の笑顔で応える。
「はい!この前の"公安委員会提出用診断書の偽造書類"と別任務で使った"印章偽造"の報酬支払いに。」
ティファニーはゴソゴソとハンドバッグから封筒を取り出すとそれをフランキーに手渡す。中には依頼した分の報酬がギッシリと詰められていた。
「んだよ〜。用事はそれか。」
「ふふっ。…あ!あとデイリーオストを1部お願いします。」
「はいよ〜」
分かりきっていた理由だが残念そうなフランキー。そして彼女に言われるまま朝刊を取り出すと、ふと彼女の身なりに疑問符を浮かべていた。
「今日はいつもと雰囲気が違うじゃん?どこか出掛けるのか?」
「えっ……やっぱりどこか変ですか、ね?」
「いや!そーいう意味じゃねえよ!……なんつーか……((可愛い。天使。いつも以上に……))」
いつも結われている髪の毛はふわふわと巻かれダウンスタイルに。私服は可愛らしいものを身につけているイメージだったが今日はどことなく"知的なお姉さん"の雰囲気が漂っていた。
グレンチェックのテーパードパンツに華奢な足首が覗いては可愛らしい赤いパンプス。そしてブラックのトップスに革製のバッグを肩にかけ、実年齢よりも大人びた様子だった。
「ははーん。もしかして任務だな?"歳上の男を落とす"とか?」
「フランキーさん凄い!正にその通りなんです!」
「……え?」
本人は冗談で言ったらしいが彼女のウキウキとした様子り見るに本当の事みたいだ。
「今から"モーニングデート"なんです。まだちょっと時間があるのでデイリーオストを読みながら散歩しようかな〜って。」
「え、マジなの?デート?ファニーちゃん、デート……」
「じゃあ行きますね?――それと、この前話した特別価格で作ってくれるって言ってた新型の盗聴器。出来上がったら教えてくださいね?」
「……ぁ…………ファニー、ちゃん……」
"それじゃ!"とルンルンと朝刊を片手にスキップすると足早にその場から立ち去るティファニー。
自分が思い描いていた想像が、まさか全て的中するなんて……と。
フランキーは泣き出しそうな憂鬱な表情を浮かべ、心の中で叫び散らしていた。
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――バーリント市内 五番街
公園広場――
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待ち合わせ場所に20分ほど早くたどり着いたティファニー。公園広場の大きな噴水前のベンチに腰をかけるとデイリーオストを広げ東国の情報をインプットしていく。
「((昨日は"閣僚協議"だったんだ。……だとすれば外務省はバタバタだったはず。念の為話のネタになるし内容を覚えておこう。まあ彼は外交官ではないんだけど―――))」
鋭い目付きで新聞に目を通すティファニー。
情報把握はスパイとして欠かせないスキル。訓練時代にロイドに口煩く叩き込まれた記憶……
……訓練時代、何度ロイドに説教されたか―――
「((私は感情も表情にもあからさまに出やすいし。1番スパイには不向きだなんて言われた事もあるし……ぅう……))」
そんなこんなで考え事をしつつ新聞を熟読するティファニー。集中し過ぎて時間があっという間に経過し、気づけば待ち合わせ時刻を過ぎて10分……
まさか忘れられた?と不安気に腕時計に目をやった瞬間。
向かいからこちらに駆けてくる人物の姿。
「……ティファニーさん!すみません、遅れて……」
スーツ姿ではない彼を見るのは初めてで一瞬誰か分からなかったが……間違いなく"ユーリ・ブライア"。
彼は息を荒あげ、恐らくは全速力で駆け抜けてきたのだろう。
そして何故か―――
「((……え、ちょっと待って。また怪我?))」
またもや額からタラりと垂れている血液。
当の本人は全く気にしている様子はなく、ニコニコと笑っているのだが……
「地下鉄が遅延して……結構待ちました?」
「ちょ、ちょ!怪我!」
「あーー、ただのかすり傷……」
「だから……頭から血が出てるのにかすり傷な訳……。隣座ってください!((既視感……))」
この人は変人なのか?
単に鈍臭いのか、一体何なんだ。
地下鉄が遅延したからと頭から血を流す理由が全くもって意味不明だ。
頑なに拒否するユーリの腕を半ば強引に引っ張りベンチに座らせる。
そしてティファニーは常備している簡易治療キットが入ったポーチをとり出すと簡単に手当を施す。
「……も、申し訳ない。待たせた上にこんな事まで((俺とした事が…まさか焦りすぎて車に轢かれるなんて。))」
「いえ!ゆっくり新聞も読めましたし。ちょうど良かったです。((よく見たらパンツの裾に薄くタイヤ痕が………また轢かれたな、この人。))」
「相変わらず勉強熱心なんだね。((クソっ……あからさまにマウントを。やはり憎きロッティの教え子。ムカツクが隙がない……))」
互いに心の中で本心を呟く2人。しかし表情は相変わらず笑みを零しあっていた。
「…少ししみちゃうかも。消毒しますね?……」
そして手際よく、ものの1分程で処置を終わらせたティファニー。額に絆創膏を貼り付け他に傷は無いか?と確認するも大丈夫そうだ。
「はい、オッケーです。血の量の割に傷は浅くて良かったです。((超人なの?この人。))」
「……ありがとう。((またもやこの女に借りを…))」
バツが悪そうに顔を逸らし悔しさを滲み出すユーリ。
それとは対照的に改めて姿勢を正しくするティファニーはユーリに向けて天真爛漫な満面の笑みを向けた。
「改めまして、おはようございます。ユーリさん。」
「あ、ああ。おはよう、ティファニーさん。((……ドキッ……ドキ??))」
いつもと雰囲気の違う彼女の姿と無邪気な笑みに何故か翻弄されてしまう。尚、こんな感情は姉以外に感じたことが無い為、全く理解が追いついていないようだった。
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公園広場から歩いて5分ほど。
五番街の大通り沿いに位置するオシャレな外観のカフェ兼バー。"
日中はカフェとして。夜はダーツも楽しめる大人なバー。首都バーリントでは最近のホットスポットとして有名だ。
「――やっぱり人気店。大行列……」
「同僚も行ったことがあるって聞いてたけど、さすが週末。」
店の入口から伸びる人の列。カップルや若者達、さすが首都1番の人気スポット。
まさかここまでの大行列だなんて予想していなかった。
「((まあ、これは想定内だけど……。できるだけ
2人は店の入口に向かう。するとティファニーは名簿を見つけ、傍らに置かれていたペンに手を伸ばす。
しかし、それをユーリに阻止されれば不思議そうに彼を見上げた。
「それ、書かなくて大丈夫だよ?」
「え?」
入口に現れた2人に気づいた女性店員が店内から現れるとにこやかな笑みを浮かべ2人に近寄る。
「ご予約の方ですか?」
「いえ、予約はしてな―――」
「はい。"ブライア"で2名予約をしてます。少し遅れてしまってすみません……」
「えっ!?」
全くもって意味がわからない。
もしかしてこの男……前もって予約を?
「――っと……ブライア様ですね?大丈夫ですよ?こちらにどうぞ。」
女性店員はバインダーで名前を確認するとにこやかに微笑み2人を店内へと案内する。
ティファニーは驚いた様子でユーリの後をついて行くなり彼に問いかけた。
「予約って……ここの予約席は2ヶ月待ちって聞いてましたよ?」
「同僚のツテがあって。特別に席を譲ってもらったんだ。((これ以上この女に上手に取られるのは気に食わなかったからな。))」
「……すみません。まさかそこまでして頂けるなんて。」
若干20歳のこの男。ただの変人だなんて思っていたが意外とスマートらしい。……というより、普通に"できる"人だ。
……秘密警察に抜擢される理由も何となくわかるかも。なんて微かに相手の好感度が上がっていた。
「こちらの席です。」
案内された席は予約者限定のテラス席。
大通りの反対側に面しており、傍らには綺麗な景観と小川が流れている素敵な席だ。
「うわあ〜綺麗!。見てください!小川に可愛い小鳥がたくさん!」
「……案外子供なんだな?((取っ付き難いなんて思っていたが、そんなことは無さそうだ。))」
「――コホンっ……((私とした事が……はしゃぎすぎよ))」
周りの女性陣たちのようにはしゃぐ様子を見せるティファニー。どちらかというと同年代の女性に比べて大人びているなんて思っていたが、どうやら彼女も普通の女の子らしい。
「―――ほら。クロックムッシュが食べたかったんだろ?同僚曰くここは紅茶も有名でパフェも人気らしい。好きなものを頼め。ここは俺の奢りだ。」
向かい合わせで座る2人。ユーリはメニュー表を手渡すと同時に自分で集めた情報を慣れた様子で口にする。抜かりなく歳上の男性らしい振る舞いを魅せていた。
「いえ、ここは私も払います。」
「何言ってるんだ。そもそも今日はあの時の治療のお礼にと。」
「それは既に払ってもらいましたよ?」
「は?」
ティファニーは腕時計をトントンと指でつつく。
「お忙しい貴重なユーリさんの時間を頂いてますから。それに奢ってもらうなんて恐縮です。これでも私だってちゃんと稼いでるんですよ?なんたってバーリント総合病院の次期エースなんですから!((どっちみち、WISEの経費で落とすし……))」
「…((なんだこの女。その辺の女達とは違うぞ。普通こんな事サラッと言えないだろ……ムカつく。))」
予想外のセリフにぽかんとした様子のユーリ。自分よりも歳下の女性にまさかそんなことを言われるなんて。仲間内で何度か食事などは経験があるが、明らかに違うその対応に秘かに尊敬の意を示していた。
「だから本当に……」
「"こういう時"は大人しく奢られるのも
肩肘を立て目の前の男は自分のことを"お嬢さん"なんて口走る。いつも姉の前では少年のようにはしゃぐ童顔のそれとは違い、目の前には大人な雰囲気を醸し出す男性の姿があった。
何故か"お嬢さん"なんて落ち着いた声色で言われると恥ずかしくなってしまう。こんな経験は滅多にない(ロイドとはあったとしても所詮経費で落ちるし、いつも快く奢られていた)し、予想外すぎる彼の行動にドキドキとしてしまう。―――いや、相手は自分の任務の
「……では、お言葉に甘えて……」
「((意外と聞き分けも良い。……存外扱いやすいぞこの女―――))」
"このまま上手く波に乗ってロッティのあんな話やこんな話を……"と心の中でガッツポーズをするユーリ。
そして現れた店員にティファニーはメニューを指差しながら注文することに。
「えっと……"クロックムッシュ"と"ベリーグラノーラパフェ"。あと"ブランダード"と"キャロットラペ"を。ドリンクは季節限定の"エルメ・ルイボスティー"をお願いします。」
何人分?とツッコミたい程に料理を注文するティファニー。ユーリは奢ると口走った事を少し後悔していた。
「……そんなに食べ切れるのか?」
「はい。あと食後のケーキはまた後ほど……」
確かに先日の姉の手料理の食べっぷりから大食いであることは想像はついていたがまさかここまでとは。
「他にも食べたいものあるんですけど流石に食べきれないので…ユーリさんシェアしません?」
「……ったく。仕方ないな。((この大食い女め))」
柔らかな優しい表情と呆れたような笑みを零すユーリ。なんと例えれば良いだろうか。先日初めて会ったばかりなのに異様に距離感の縮め方が上手く、まるで自分の妹のように無邪気で天真爛漫な彼女にペースを崩されていく。
らしくない自分の感情にユーリ自身"???"マークだらけだった。
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「―――で、ロッティと出会ったのはいつ、何処で?研修先をバーリント総合病院にした理由は?やっぱり恩師が居るからという理由で?ロッティの過去の女性関係は?前妻について―――」
次々と尋問のように繰り出される彼からの質問(ほとんどロイド関係)
どうやら彼の目的は"コレ"だったらしい。大好きな姉を奪ったロイドという存在を陥れる為の情報収集。
それを聞き出す相手は確かにあながち間違っていない。事実、ロイドを昔から知るのはティファニーである事は本当の事だ。
以前の食事の際はさすがにロイド本人も姉のヨルも目の前に居たし、なかなか深堀できなかったから......
「出会ったのは前お話した通り。研修先にバーリント総合病院を選んだのは今の医局長の引き抜きやら推薦があったから。ロイド先生が居たのはたまたまです。実際、先生も赴任したばかりでしたし。......女性関係かあ......」
パクっとクロックムッシュを口に含み"うーーん"と悩む仕草を見せるティファニー。勿論全てが偽りな訳であって真実は一切無いし、あったとしてもそれを話す訳もない。なんせ自分も含めて本職はスパイなのだから。
「前の奥様とは面識はありません。そもそもそこまで親密な仲では無かったですし、あくまで先生と生徒の関係でしたから。」
「...........」
「女性関係......。確かに先生はモテモテでしたよ?現に今でも老若男女問わず皆から人気者ですし。でも周りに特定の女性が居たのは見たことも聞いたこともないです。」
「......なるほど((......彼女の様子を見る限り嘘をついてるとは思えないな。だとすれば―――))」
完全に尋問を行う時の鋭い目付きを光らせるユーリ。まるで獲物を前にした猛獣のような赤い瞳。対しティファニーはきょとんと何食わぬ顔で演じ切る。
「ちなみに。君はロッティの事をどう思ってる?((......彼女の身辺を調べた結果、男の影は一切無かった。となればやはり怪しいのは禁断の"先生・生徒"の関係。院内でもその関係性は有名だとか―――))」
どれだけロイドの後暗い情報を掴みたいのだろうか。ロイドはスパイであるという事実以外、何ひとつ悪い噂などは立っていない。彼は一切の隙を見せない完璧なスパイ―――西の〈黄昏〉なのだから。
「先生の事は大好きです。」
「へえ〜。......それは異性として―――」
「違いますよ?先生は大切な"恩師"です。言うなれば私の"父親"のような存在と言っても過言ではありませんから。」
手に持っていたカトラリーを皿の端に置けば、ティファニーはふと外の美しい景観に視線を向ける。さわさわと風が吹くと美しい艶のある長い髪が揺れていた。
「…父親?」
「はい。―――私は過去の東西戦争で家族全員失ってますから。困った時に手を差し伸べてくれたロイド先生には感謝しかありません。」
"東西戦争で家族を全員失った"
その言葉にユーリは心の奥に刺さるものがあった。
「((彼女の身辺情報の空欄はこの
前もってティファニーの個人情報は全て盗み見していたユーリ。あまりにも情報が少ないと違和感があったが、その理由がようやく分かった。
「…悪かった。嫌な過去を引き出して…((これ以上深堀は良くないな。))」
「そんな、気にしないでください。別に何ともないですよ?」
何となくバツが悪そうなユーリ。それを察したティファニーは話題を変えようと小さく笑みを零せば穏やかな視線を向ける。
「…ところで私も質問いいですか?」
「ボクに質問?」
「はい。ユーリさんについて。―――私はユーリさんの事が知りたいです。」
向日葵の花のようにパッと明るい少女。美人というよりは、仔犬か栗鼠のような愛らしい風貌の相手、そしてその幼げな言動。
何故か胸の鼓動が早くなっていく。
「ユーリさんは何故外交官を選んだんですか?」
「………何故…選んだのか……」
ユーリも同じくカトラリーをそっと置くと口元に手を添え、考える仕草を見せた。
そして少し間を置き、ティファニーに真剣な視線を送れば口を開く。
「――ボクは姉さんの為になるなら正直何の職でも良かったんだ。まあ結果として外交官(本当は保安局員)を選んだが。姉さんの為に、姉さんが平穏に過ごせる世界を作る為に……世界情勢や安全保障、国家規模の仕事が出来るからと考えたんだ。」
姉さん、姉さんと。傍から聞けばあまりにも胸焼けを起こしそうな程にシスコン発言ではあるが……。
彼の真っ直ぐな嘘偽りないその発言にティファニーは率直に意見を述べる。
「素敵な理由です。ここまで想ってくれる弟さんが居るなんて、ヨルさんは幸せ者ですね。」
「で、ティファニーさんはなぜ医者の道を?看護師の免許も持っているのに今は外科医を目指してるとか。」
"結局また自分に質問が降りかかるのね……"なんて心の中で呟くも聞かれたからには自分も真実を話さなければと、応えることに。
「人を助けたいからです。それだけです。」
「……え、それだけ?他に理由は無いのか?」
「うーん……強いて言うなら……"無力な自分が悔しかった"から。ですかね?」
「……無力な自分、か。」
戦争で命を落とした家族、友人、名も知らない人達。幼い頃にそんな人たちをたくさん目にしてきた。"自分に知識があったら救えたかもしれない"。そんな後悔があったのだ。
「怪我や病を患って死んでしまう。救えるはずの人達が死んでいく光景。……そんな人たちをたくさん見てきました。」
青い瞳に影が映る。
険しいその表情は過去の辛い経験を表しているようだ。
「もし自分に知恵や能力があれば、そんな人たちを救えたかもしれない。救える人を救う為に、私は勉強して医者になると決めたんです。知識は培えば培うほど活かされますから。」
「…………((この女……俺と似たような……))」
ユーリ自身もティファニーと同じような見解を持っていた。幼い頃の無力な自分。だからこそ早く姉の力になりたいと"知をつけた"。培った力は必ず裏切らない、どんな時にでも活かされると。
「"知は力なり"。ロイド先生が私に教えてくれたんです。……私はその言葉を信じてます。看護師に外科医。まだまだほかの分野に関しても学んでいくと決めてますから。」
"先生のように精神科医も目指してみたいし、いずれは小児医療ももっと勉強したいです。"と言葉を続ける。すると呆気に取られていた様子のユーリは相手の壮大すぎる台詞に思わず無意識に笑みを零していた。
「な……なんで笑うんですか?私真面目に……」
「いや。……あまりにも予想外な返答だったから……」
「馬鹿にしてませんか?ユーリさん。」
"むぅっ"と頬を膨らませ相手を睨みつける。真面目に話して損した気分になったと眉を寄せ、口に料理を運び込んでいく。
「((まさか、この能天気そうな女がそんなことを考えているとは。…良い師の出会いがそうさせたのか…))」
少なくともロイドの影響もあるのだろう。ただのムカつくスマートで良い男だとしか考えていなかったが、微かにユーリの中でロイドの株が上がったようだ。
「……ユーリさん。食べないなら貰いますよ?」
「あ!ちょっと待て!それはボクが……」
「だって最後まで残してるじゃないですかこの苺。嫌いだからですよね?」
「違う!ボクは好きな物は最後まで残しておく派なんだ!」
「可愛い歳下の女の子のために残しておいてくれたんですよね。分かります。……ぱくっ」
「この大食い女が!!だったらボクはそれを貰うからな!」
「あーー!ダメです!それは最後の一口!!ヨルさんにチクっちゃお〜。」
「それは絶対やめろ!断じて許さん!」
ギャーギャーと賑やかに騒ぎ立てる2人組。微笑ましいその光景に周りの客たちはクスクスと笑い声を含めた笑みを零す。
すると追加注文したケーキを手にした女性店員が2人の元に現れる。何やらニコニコと、その女性は嬉しそうに笑顔を浮かべていた。
「素敵なカップルさんですね?」
現れた店員の台詞に2人は勢いよく顔を向ける。
「違います!」
「違う!」
あまりにも息ピッタリの2人。
互いにバツが悪そうな視線を向け合うも可笑しいほどに笑ってしまうこの状況に堪えきれず、思わず笑みを零しあっていた。
互いの利の為に近づいた2人。
西国の為。姉の為。
―――しかし、互いに"惹かれる"ものがある事に気づいていく。
糸で引き合うように近づいていく2人。
果たしてそれは吉と出るか凶と出るか……
「((――ただの
無邪気に笑う青年のその笑顔に。
ティファニーは青い瞳を輝かせる。
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