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とある週末の昼下がり。
窓の外を見ると昼間とは思えない程にどんよりと暗く、嵐のような酷い雨が降り注いでいた。
「…………」
"ロイド・フォージャー" またの名を〈黄昏〉。
男は目の前のダイニングテーブルに並べられた数枚のプリントをじっと見据えるとため息を漏らす。
そしてこちらに背を向け、じっとテレビの前で大人気アニメ"SPY WARS"を観ているのは娘のアーニャ。
彼女は背後から漂う微かな嫌な気配を察知していた。
「おい、アーニャ。」
「アーニャいまいそがしい。」
テレビの前から微動だにしない娘。
ロイドはそんなアーニャに対しゆっくりと近寄ればテレビの電源を落とし、1枚のプリントを突きつける。
「これは何だ。」
「……き、きのうの"しょうテスト"……」
「………………」
各科目の小テスト。
そして見事に全て赤点。
このままの学力では学期末テストまでに今学期中に
「今日は勉強だ。終わるまでアニメは禁止。ヨルさんにみっちり監督してもらえ。」
「びやあああああ!!べんきょー"やーー!"」
「俺は夜勤でそろそろ出ないといけないからな。……ということでヨルさん、アーニャを頼み……」
駄々をこねるアーニャを他所に皿洗いを終えたヨルに視線を向ける。
すると気まずそうな表情で視線を逸らすヨルの様子にロイドは首を傾げた。
「…ロイドさん。私すっかり失念していたのですが……」
「どうかしましたか?ヨルさん。」
モジモジと人差し指と人差し指を擦りながら微かに肩を落とし酷く落ち込んだ様子だった。
「……今日、午後から広場で行われる来週のイベントの打ち合わせがある事をすっかり忘れてしまいまして。恐らく夕方までには終わるとは思うのですが……((本当は"店長"から殺しの依頼が……))」
週末、アーニャとボンドを家に残して出ていく訳にはいかない。ましてやこのテストの結果を黙って見過ごす訳にもいかないのだ。
「お仕事なら仕方ないです。となれば僕が
「((どうしましょうどうしましょう…またロイドさんにご迷惑を。こんな時にどなたかアーニャさんのお勉強や子守りができる方が居てくれたら――……お勉強………))」
「((……別の諜報員。今日空いているのは"朝顔"だったか。最悪、この任務を彼女に託す――いや、まて。それならば適材適所で……))」
2人はグルグルと脳内で必死にこの状況について考え込む。そして互いにそれぞれが思う"適任"の人物が脳裏に浮かべばパッと明るく閃いた表情を向けあった。
「ロイドさん。私に案があります!」
「奇遇ですね。僕も案が――」
名案が浮かんだと言わんばかりの様子の2人。両手を打って子供のように喜ぶ大人の隣でアーニャはどこかワクワクと愉快でたまらない表情をしていた。
「((……ちち、はは。ゆかい……))」
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「じゃあ頼んだよ"ユーリ君、ファニー君"」
「アーニャさんとボンドさんをよろしくお願いしますね?"ティファニーさん、ユーリ"。」
「「…………」」
それぞれの"仕事"の為に颯爽と出ていくロイドとヨル。
そして2人を見送り、玄関でじっと立ち尽くしたまま言葉を失う"2人"
その背後で目を輝かせるアーニャ。隣で大人しく様子を伺うボンド。
ティファニーとユーリは連絡を受け、全速力でフォージャー家に訪れたと思ったら……まさか自分の他にも1人呼ばれていたなんて予想外だった。そもそもロイドもヨルも"もう1人"居ることを一切口にしていない。
「……なんでユーリさんが…」
「それはこっちのセリフだ!ボクはこのチワワ娘の子守りと家庭教師をと"姉さん"に…」
「私も全く同じ理由です。"先生"が困ってるって言ったものだから来てみたものの――」
「((先生。私の標的が彼である事を理由に……))」
「((姉さん。もしかして、ボクが最近彼女の話をする事を察して"勘違い"を!?…ボクは姉さんだけが!姉さんが好きなんだ!!))」
互いに腕を組み、まるで啀み合う様に隣の相手を睨みつけるユーリとティファニー。
ティファニーは獲物を逃がさまいと。ユーリは何故かペースが崩されてしまうティファニー相手に警戒をしているようだった。
「((おじとおねいさん。なかよくなったらおとくまんさい。ちちのにんむのため、へいわのため。))」
ニヤッとアーニャは特有のにやけ顔を炸裂させるとそれを目にしたユーリは怪訝な顔を浮かべる。
「なんだその顔は!なにか企んでるのかチワワ娘!」
「けんかだめ。ふたりなかよくべんきょーおしえろ。なかよくしないとアーニャぐれる。」
「「………………」」
アーニャの謎の笑み。
全く理解不能な子供の様子に対して、いがみ合っていた2人は同じタイミングで息を吐くと落ち着きを取り戻した。
「……とにかく、アーニャちゃんの家庭教師がメインですから!勉強は私に任せてください!((こうなったら勉強を教えながら標的に上手く近寄るしか……))」
「はっ!待て!勉強はボクの方が得意だ!((姉さんにいい顔するつもりか!?許さん!))」
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「――うん。ちゃんと解けてる。アーニャちゃんさすが!」
「やたーー((こころよんだ。さっきからおじがぜんぶこたえいってる。))」
「これくらい序の口だろう?あまり甘やかすな。……ほら、次はこっちの応用問題――」
「おじ、やさしくないからきらい」
「なっ!!!((しまった……飴と鞭を上手く使わねば姉さんに何を言われるか――))」
あれから約40分後。
アーニャを真ん中に挟むようにソファに座るティファニーとユーリ。ローテーブルには教材とプリントが並べられており、一つ一つ丁寧に、手取り足取り臨時家庭教師の2人は勉強を教えていた。
尚、アーニャは勉強よりも2人の心を読み取る事をとにかく楽しんでいた。
秘密警察とスパイ。年頃の男女。
まるで友人のベッキーがよく口にしている"恋愛ドラマ"とやらはこんな感じなのだろうか?と勝手に脳内で妄想が広がる。
「――おじもおねいさんも、なんであたまいい?べんきょーすきなのか?へんたいなのか?」
秀才すぎるユーリとティファニー。
アーニャでさえも、2人の会話から頭の良さが十分に伺えるほどだった。
"いや、ここは○○だろう"
"そうですけど、より分かりやすくする為にこっちの式を………"
"……確かにそれも良いがチワワ娘には難解すぎる。だったら――"
というようなアーニャには理解できない真剣なその会話。さっきまでいがみ合っていたのに、今はアーニャを間に介して何だかんだ楽しそうに"家庭教師"をという役目を全うしていた。
「うーん。頭の良し悪しはともかく私は勉強は好きよ?――この人は変態だからだと思うけど。」
「おい。ボクが年上だということを分かっているよな?年上は敬え、大食い女。」
「私、大学を飛び級で卒業してるので学年でいえば殆ど同い歳みたいなものですよ?」
"ふふふん"と明らかに試すような表情。
ムカつくことを言われたはずなのに何故か憎みきれない。
「くっ……((……クソっ…やめろその顔。変に気が散る………))」
「……おじ。かおあかい。」
「う、うるさい!――ほら、次の問題を……」
ユーリは感情を誤魔化すかのように話を逸らし、ページを捲ろうとテキストに触れたその時。
ふと、なにかに気づいた様子のアーニャが窓に向けて指を指す。
「あ!あめやんだ!」
「本当だ、いつの間に……さっきまで酷い雨だったのにね?」
窓から明るい日差しが射し込む。
アーニャと同時にティファニーもその光に気づくと目を輝かせる。
「ボフッ!!ボフッ!!」
「ん?どうしたボンド?」
今の今まで静かだったボンドが急に興奮した様子で吠え始める。一体どうしたのか?と惑うアーニャとティファニーを他所にユーリは何となく状況を察する。
「…もしかして、朝から雨だったから散歩行けてないのか?」
「いけてない。ボンドあめにぬれたらたいへん。だからあめふってたらさんぽいかない。」
「ここ最近ずっと雨だったし……散歩するなら今がチャンスかもしれないですね。」
"ね?"とアーニャと視線を見合わせるティファニー。恐らくはそろそろ息抜きしたいのだろう、と様子からそれを察するとユーリは呆れ笑いを浮かべため息を漏らす。
「――息抜きがてら散歩でも行くか?そもそも家庭教師だけの為にここに来たわけじゃないしな?」
「そうですね?キリも良いですし散歩に行きましょ!」
「やたーー!!いきぬきーー!」
「ボフッ!!」
るんるんとソファから立ち上がり、散歩の用意をするティファニーとアーニャの姿。
ユーリはそれを見るに、微かに笑みを瞼に浮かべていた。
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草木や花々から雫がポタッと地面に滑り降ちる。
少しずつ薄れていく雲の隙間からは柔らかな陽が差し込み、車道の轍に溜まった水や、玄関脇のブロック塀の表面に浮いた雨の一滴一滴が、みるみる蒸発していくようでもあった。
雨上がりを待っていた街の人々が徐々に現れ、週末ということもあり子供たちの嬉しそうな姿がいつも以上に目に飛び込んでくる。
その中を歩く3人と1匹。
リードを手に持つユーリ、アーニャと手を繋いでその前を歩くティファニーの姿。
ほかの子供たちと同じように雨上がりを喜ぶ彼女の姿は不覚にも"可愛らしい"なんて思ってしまうのであった。
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「さっきの雨が嘘みたいですね?」
「……そうだな?」
近くの広い公園にたどり着く。
濡れていたベンチを軽くハンカチで拭き取ると、ユーリとティファニーはゆっくりと腰掛け、楽しそうに駆け回るアーニャとボンドをじっと眺めていた。
「「…………」」
公園に集まる子供たち。
皆嬉しそうに駆け回り、その光景を見るだけでティファニーは自然と笑顔が零れていた。
「――素敵ですね。」
「何がだ。」
「気持ちいい青空の下。雨のあとで空気も美味しくて、子供たちが嬉しそうに駆け回って…。まるでこの光景が一つの作品みたい。……額に収めて部屋に飾りたいくらいです。」
"一体何を急に……"とティファニーの言葉に心内で呟くユーリ。
しかし、目の前の光景に目を奪われる彼女の横顔をチラッと横目で盗み見すると何故か上手く言葉が見つからずら適当な言葉を放ってしまう。
「………なんだそれ。…」
「比喩表現ですよ、比喩表現。」
つくづく変な女だ。そして嫌に賢い女だ。
言動から全てにおいて年相応に感じられない佇まい。だが唯一の相応と思えるところは感情が直ぐに顔に現れるところ、だろうか。
楽しく駆け回る子供たちを目で追うティファニーの横顔から目が離せない。
「――お前。子供が好きなのか?」
「はい。――ああして楽しそうに走り回る子供たちを見るのはとても楽しくて嬉しいです。」
何の邪気も感じない子供を見守る彼女の瞳。"それ"は彼女の美しさをそのまま表すような、上手く言えないが"奇麗"だと思う。
静かに慰めるような日光が樹木の間に差し込み、まだら模様の光が風に揺れている。
そんなティファニーを見据えていると、急にムッとした顔をした彼女がユーリに向けて目に角を立てた。
「…ていうか"お前"呼びやめません?」
「はあ?」
「"ティファニーさん"っていうのも、年上のユーリさんに言われるのもなんか気になるし……。せっかくなら"愛称"で呼んでくださいよ?例外も居ますけど、だいたい皆"ファニー"と……」
例外とはフィオナこと〈夜帷〉の事だ。
ファニー=Funnyというのが何となく嫌らしく、彼女は頑なにファニーと呼ぶことはなかった。
ユーリはグッと膝に乗せた両手に力を込めると何故かやけに緊張してしまう。
彼女に言われっぱなしなのも気に食わない。何より、余裕そうに振る舞う年下の彼女に何故か"負けたくない"なんて感情が湧き上がっていた。
「――ティフィー…」
ボソッと呟かれた言葉にティファニーは耳を疑う。
「……今"ティフィー"と…」
「ロッティと同じ呼び方が嫌なだけだ。あいつはお前のことをファニーと呼んでるだろう。」
「……はあ((あまのじゃく……っていうか……))」
「かっ、勘違いするなよ!さすがに年頃の女性に対して改めて"お前"呼びは失礼だと思った迄だ!それに俺は年上だからな?それに――」
愛称呼びすることに抵抗があるのだろう。
ひたすらに慌てた様子で適当な理由を並べるユーリは見ていて滑稽だった。
そんなこんなで言い訳を聞かされていたところ、遊び疲れた様子のアーニャとボンドがベンチに腰掛ける2人に駆け寄る。
「おじとおねいさん。おにあい!」
「ボフッ!」
「なっ、何を言ってるんだチワワ娘!((お似合いだと?……まさかそれは姉さんの目にもそうやって映っているのか!?だから誤解を――))」
顔に熱を帯び羞恥で固くなる隣の男。
アーニャに弄ばれるようにニヤニヤと怪しい笑みを向けられる度にユーリの顔は赤く染っていく。
そしてそれを面白がるティファニー……
「え~。嬉しい。」
「は!?おまっ……何言って……」
「ユーリさん。優しくて素敵です。――私好きですよ?ユーリさん"みたいな人"」
「はぁ!?((何故だ…まただ。この女に会うといつもペースが……))」
"にやぁ"と再びアーニャと同じくして向けられる憎たらしい顔。
完全にティファニーのペースに惑わされる自分に腹が立ったユーリは"ボクだって……"と心に唱え、何故か勢いよくベンチから立ち上がると彼女を見下ろした。
「……ボクも。お、"オマエ"の事は何だかんだ嫌いじゃない。……」
「………((分かりやすいな、この人。))…」
「なっ……なんだ!そんなにじっと人の顔を見るんじゃない!」
「…へへっ。へへへ~。(にやぁ)」
「その変なチワワ娘と同じ顔は止めろ!不細工!」
「ぶ、不細工って酷い!私これでも院内では美人で有名――」
ガミガミと愉しげに言い合う2人の様子を眺めるアーニャとボンド。
「((……もしかして、おじもおねいさんも……))」
キョロっとユーリとティファニーを交互に見合う。
「(("すきどうし?"))」
「よーし。また戻って続きだ。」
「そうですね?」
「帰ったらおやつの時間にしましょ?」
「相変わらず食う事ばっかり……」
「アーニャ!ココア!!」
「ミルク、お砂糖入りね?」
「ぱんぱかぱーーん!せいかい!」
「ボンドさんは私が。行きはユーリはさんがリードを握ってくれましたし、帰りは私に任せてください。」
「あ……ああ。」
ユーリが握っていたリードを受け取り、にこやかに微笑むティファニー。
何となく未だに距離がある2人を察したアーニャはとある作戦を脳裏に浮かべると、ある事を口にする。
「アーニャ、おじとおねいさんと"て"つなぎたい!」
「「手?」」
ユーリとティファニーは空いている自身の手に視線を向けると、互いに見合う。
何となく気恥しい気がするが可愛い女の子のお願いに"NO"と口にする訳にはいかなかった。
「じゃあ、ボンドさんのリードを左手に持って……。はい!アーニャちゃんは私に左手を。」
"はい!"と差し出されたティファニーの右手を嬉しそうに掴むアーニャ。そして右隣に立つユーリに視線を向けたアーニャは"にやにや"といつもの企みを含んだ怪しい笑顔を浮かべていた。
「……ほら、手を貸せ。チワワ娘。」
「やたー!」
ユーリに差し出された左手。その手をギュッと右手で掴むと嬉しそうに歩き始める。そんな無邪気なアーニャの姿にどこか暖かさを感じる2人は歩調を合わせるように歩みを進める。
「((……ちゃんとべんきょーして、テストでいいてんとったら、またおじとおねいさんきてくれる?そしたら、おじとおねいさんナカヨシさくせん……))」
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――午後20時過ぎ
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あれからヨルが帰宅後、晩御飯をご馳走になり帰路につく2人。夜遅いということもあり、ユーリはティファニーを送ることに。
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「わざわざ最寄駅まで送ってくださってありがとうございます。」
「家まで送らなくて大丈夫なのか?」
「はい。駅に自転車を停めているのでそれに乗って帰ります。」
嫌な顔ひとつせずここまで快く送ってくれたユーリ。暗い夜道に女性ひとりで帰らせるのは、と口にした彼の姿(まあ、ヨルさんが居たからかもしれないけど)は紳士そのもの。やはり根は優しい。
「「…………」」
黙り込む2人。
なかなか帰るタイミングを切り出せず、気まずい時間が過ぎていくのみ……
「((…まあ。ロッティと繋がりがある限りまたどこかで会えるだろう。定期検診もあるし……。ん?ボクは何故彼女に会うことを……))」
「……あの、ユーリさん!」
その沈黙を突き破ったのはティファニー。胸元に手を添え、意を決したように大きな声を上げた。
「……あの!……また……その……」
「?」
「会ってくれますか?」
「……(ドキッ)」
「変な意味ではなくて!ユーリさん、色んなこと知ってますし話してると楽しくて。――それに、恥ずかしながら気軽にお茶ができるような友人も少ないので……ご迷惑じゃなければ……」
"こんな私に付き合ってくれるかは分からないけど"
今日のこのタイミングを逃せば次いつチャンスが現れるか分からない。そもそもロイドがこのチャンスを作り出したのだ。それを無碍にする訳にはいかない。
与えられた任務のために、彼を……"ユーリ・ブライア"を落とし懐に入り込む。
――そう。これは任務……任務だ。
「………ん」
その時、トレンチコートの胸ポケットの手帳から紙を破り取りサラサラとペンで何かを書き込む。
そしてその紙をティファニーへと差し出せば戸惑ったような表情を浮かべゆっくりと手を伸ばす。
「――それ、家の電話番号だ。」
「……え…」
「最近仕事が忙しくて遅い日が多いが、余程のことがない限り夜の9時過ぎには帰宅してる。」
「…………ユーリさんの……」
矯正された綺麗な字。
ただの紙切れなのに特別なものに感じてしまう。
「"ティフィー"。君は研修医だろう?看護師と並行して大変だとは思うが、せいぜい体調管理には気をつけるんだな。」
「――ありがとうございます。"ユーリさん"。」
メモを両手で掴み、ぎゅっと胸に押し当てる。ティファニーは久しぶりに心が浮き立っていた。
出会ってまもない彼に優しい言葉を投げかけられ、自然と表情が緩んでしまう。
理由は分からない。だけど嬉しいのだ。
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――数日後、フォージャー家
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「よくやったな、アーニャ。((やはりあの2人に任せて正解だったな。))」
「すごいです!すごいです!アーニャさん!」
「えっへん!!アーニャやればできる!」
テーブルに並べられたテスト用紙の数々。
いつもの赤点ギリギリよりも点数はかなり改善されており、アーニャの日々の努力とあの2人の家庭教師の力だろう。
「ちちー、ははー。アーニャきづいたことがある。」
「ん?なんだ?」
「何でしょう?」
ピシッと右手を上げ、急に改まるアーニャ。
そして視線が注がれると"きづいたこと"を口にする。
「アーニャ。おじとおねえさんの"ふたり"だったらテストいけるきがする。もし"ふたり"でべんきょーおしえてくれたら、またスターライトアーニャなれるきがする。"ふたり"だったら。」
「……え、……あ、うん?((やたら"2人"と強調するな……))」
「でしたらまた来てもらいましょうか?ユーリもティファニーさんも。……ご迷惑でなければ、ですが。」
「おじもおねいさんもまたきたいっていってた。ふたりならゆかい……(言ってない)」
「((アーニャの"プランC"さくせん。おじとおねいさん"ナカヨシさくせん"。そうすれば、おねいさんがへいわになる"じょうほう"をおじからゲットする。そしたらちちもよろこぶ。せかいはへいわに……))」
楽しそうに笑みを向け合うアーニャとヨル。
しかしその傍ら、どこか心配そうに表情を曇らせるロイドの姿があった――
「((……〈朝顔〉。
あいつの事だから、そんなに心配は要らんだろうが……))」
スパイといえど、ティファニーはまだ若い。ロイドから見ればお子様だ。
どうか私情を持ち込みすぎないように、と微かに懸念していたのだった。
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