那由多の始まり   作:アフロダイB

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『神吉 那由多(みよし なゆた)です。

太刀花 藍(たちばな らん)ちゃんですか?』

 

暗く静かな山中に似つかわしい声を飛ばす。

こんな時間の山中に女の子が何人もいるわけがないから間違いないと思うがそれにしたって若すぎる。

自分改め私、神吉那由多が声を掛けた小娘はまだ中学生くらいの小柄な少女だった。

 

『はい、初めまして太刀花藍です。

那由多さん、よろしくお願い致します。』

 

丁寧なあいさつと綺麗な所作で出迎えられた。

かなり育ちの良いしっかりした子なのだろう。

こんな人の良さそうな子があんな男共に好き勝手されるのは気分が悪いがやるしかない。

私には2人を救うのは無理なのだから。

 

妖魔とやらが潜む場所へ向かう途中、お互いの身の上話をした。

もっとも私のは嘘だらけだが。

 

『藍ちゃんみたいな小さな子がどうして戦うの?』

 

この後で辞めさせる事になるのかもしれないが、それでも気になるので聞いてみた。

心のどこかで彼女の粗を探していたのかも知れない。

彼女が少し前までは共感できたが今は最も嫌悪するタイプ、ヒーロー気取りな少女であれば良かった。

 

『私が剣の腕を磨き上げるまで大勢の方々に支えられてきました。

世のため人様のために使うのは当然の事と思っています。』

 

1つ目は恩返し。

自分は努力を重ねて強くなったとでも誇ればいいのに、なんとも損な子だ。

 

『2つ目は、私の夢を叶えるためには力が足りないので修行も兼ねてです。

苦難な道には必ず私に必要な物があるはずですから。』

 

恩返しをしつつ自分を成長させて夢を叶えるという彼女の言葉に心が痛む。

ただ人助けをしようと考えていた自分とは大違いだ。

情けない話だが私は中学生の彼女よりも未来を見据えていなかったと思う。

私は正義を愛していたと言うよりは依存していたのだろう。

 

(正義の志だけは絶対に負けない。)

 

そんな幼い頃の誓いが私を嫉妬心で狂わせる。

目の前にいる少女が酷い目にあって泣きながら後悔する姿を見たらどんなにスカッとするだろうか。

黒い欲望が自分を蝕んでいった。

 

妖魔の潜む現場に辿り着くと彼女は札を貼って結界を作る。

これについては私の身体の記憶が教えてくれる。

妖魔が自分達を警戒して出てこないので炙り出すと同時に退路を塞ぐためのものだ。

結界を張り終えてしばらく待つと妖魔が姿を現した。

 

『那由多さんは支援をお願い致します!』

 

自分よりも何周りも大きい3mほどはあろうかという鬼のような姿をしたバケモノに藍は勇敢に立ち向かっていく。

一方の私は戦闘経験など全くないが、身体の方の記憶を頼りにして何とか戦う事が出来た。

私の戦い方は素人同然だったが、その能力だけは本来の那由多ちゃんとも遜色ないものだろう。

私のサポートを受けることで藍は大幅に強くなっていた。

 

『やぁっ!!』

 

頭を掴まれ頭を持ち上げられ始めた藍が咄嗟に足を上げる。

戦い慣れてる。

 

約3mの巨大生物に頭を掴まれたら本来は潰されたのかも知れない。

鬼側に別の思惑があったのか私のサポートの影響ですぐに潰せなかったのか。

ともかく頭を掴まれ持ち上げるという絶望的な動作の中で咄嗟に上げられた足は的確に鬼の股間を蹴り上げた。

勝ちを確認し勝利宣言の様に持ち上げようとした所でコレだ。

同じモノをぶら下げていた者としては鬼に同情する。

 

手を離されて自由落下から着地するまでに横に一振り、鬼の目を切り裂く。

鬼側も戦い慣れているのだろう。

危険を感じてすぐさま退避を試みたが無駄な努力であった。

藍は一呼吸おいて力を溜めると、一気に駆け出して刀を大きく横に振る。

閃光のような一撃は鬼の身体を真っ二つに斬り裂き消滅させた。

 

実戦による緊張感が消え去り、安堵からお互いに自然と笑みが零れる。

 

『神吉の力、噂にたがわぬお力でした。

お力添えありがとうございます。』

 

藍は両手を重ねて丁寧にお辞儀をする。

これから起こる事を考えると少し心苦しい。

 

『また怪異が発生しないように土地を浄化してくる。

藍ちゃんはそこで息を整えてて。』

 

私がそう告げると藍は大きく息を吐いて姿勢を崩す。

優雅にお辞儀をしていたが本当は無理をしていたのだろう。

あれだけ激しく動けば当然だ。

 

彼女につかの間の休息を与え、自分は淡々と計画を実行する。

 

『終わったよ。』

 

少し離れた位置で待ち構えていた男達に告げると、彼らはニヤけた笑みを浮かべながら音を立てないように藍の周囲を囲んでいく。

ここから先は見たいような、見たくないような、複雑な感情だ。

私にも男達とそう変わらない醜い部分がある。

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