『いいえ、那由多さんは負けておりません。』
そんな情けない私の頭に彼女の一言が響き渡る。
『同じだ。
アイツは俺達と同じで大人なんだよ。
世間知らず苦労知らずのガキに何がわかるってんだ。』
男は言い捨てるように吐き出す。
そんな言葉に彼女は一呼吸を置いて強くハッキリとした口調で言い返した。
『一緒にいたのはわずかな時間でしたが、那由多さんの瞳からは迷いが見えました。
今も戦っているから迷っているのです。
皆様とは違います!』
『苦しんでるから何だってんだ!?
アイツもすぐにわかっちまうよ!!』
男の言葉を合図に藍を囲んでいた男達が一斉に武器を構える。
『教えてやるよ小娘が!
心が折れなかろうが諦めなかろうが、物理的に負けちまえばどうしようもねぇんだよ!!
だからアイツだって見てるだけで出てこねぇんだ!!』
見ているだけどころか頭を抱えて見てすらいなかった。
でも、そんな情けない私を彼女は信じてくれた。
心の中の男が叫ぶ。
身体が女だからと逃げるな!
大人のする事じゃないとか言い訳はやめろ!
ここで戦わなくて何が男だ!
ここが男の死に場所だ!
『うわぁぁああああああ!!』
我ながらなんとも可愛い雄叫びを挙げながら攻撃の呪符を囲いの男に押し当てる。
わずかな悲鳴を挙げて倒れた男を飛び越えて藍に駆け寄った。
『…ごめん、道に迷ってた。』
本当の事が言えず妙な言い訳をしてしまう。
我ながら情けない事だが、彼女は受け入れてくれた。
『では、もう迷わないで下さい。』
短く答えると藍は武器を構えた。
そうだ、もう迷わない。
だけどここで無駄死にしてやる気もない。
1人の男として、大人として、なんとしてでも彼女だけは無事に返す。
それが俺の勝利条件だ。
私が考えを巡らせていると、彼女が小声で語り掛けてくる。
『鬼神符をお願いします。』
鬼神符と言う言葉に私は聞き覚えはないが、身体の彼女が感覚で教えてくれた。
貼り付けた人物に鬼神のような攻撃性を付与する、日に1,2回しか使えないとっておきだ。
『私にもとっておきがございます。』
『お前らやっちまえ!!』
言い終えると同時にタイミング悪く男達が一斉に襲い掛かってきた。
迷う暇もなく脊髄反射のように藍の背中に鬼神符を押し付けると、藍は素早く刀を横に振った。
『花嵐っ!!』
直後、強い風が前方に巻き起こり数人の男達が上空へと浮き上がる。
藍の一撃で包囲網が解け、周囲の男達にも動揺が見える。
『正面突破です!』
言われるまでもない。
藍に導かれるままに唯一の脱出口を抜けて2人で全力疾走する。
次の手を警戒したのか難を逃れた男達が少しだけ間を空けて追いかけてくる。
『鬼神符はありますか?』
『ごめん、まだ時間が掛かりそう!』
札の数も少ないが、そもそも連発できない仕様だと身体が訴える。
『では走りましょう。』
藍に手を取られて走るが、私はそこまで身体が強くないらしい。
呼吸が乱れ足がもつれる。
このままでは私のせいで追いつかれてしまうだろう。
『藍ちゃんは走って人を呼んできて!私は…』
覚悟を決めて反転しようとしたその時、場に似つかわしい底抜けに明るい声が頭上から降りかかる。
『いいよいいよ。
後は私がやっとくから♪』
私達の後ろに何かが降りた。
走りながら振り向くとそこには藍に似た服装のポニーテールの少女がいた。
『私のお姉様です。
私とは比べ物にならない方なので大丈夫でしょう。』
そう言うと藍は走るのを止めて、ゆっくりと下山を始めたのだった。