共和国軍の急降下爆撃隊   作:鈴名ひまり

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「ほう、これはまた更に奇怪なのが出てきたものだな」

 

 届いた新型機を見てルーデルは思わず呟いた。

 

 スレイン&コーピル社製【V-19トレント・スターファイター】は訓練で使ってきたV-7を更に尖らせたような機体だった。

 

 切り詰められた胴体とSフォイル機構の主翼はそのままに、上向きに固定されていた垂直尾翼が飛行時に下向きに展開するSフォイルに変更され、主武装のブラスター砲はより広い射界を確保するため翼端に移されていた。

 

 この機体がクローン軍の正式な主力戦闘機となるらしい。

 

 そしてルーデルたちは栄えある先行量産型の実地テスト役を任されたというわけである。

 

 上等だ。

 ドロイドファイターの大群相手に戦うために地獄の猛訓練を積んできた俺たちの腕に応えてくれる機体かどうか確かめてやる。

 

 ルーデルは鼻息荒くV-19に乗り込んだ。

 

 それから始まったのは、これまでの訓練が前座だったと思えてくるような更なる猛訓練の日々だった。

 

 特に部隊での連携がこれまで以上に重視され、更にそこに対艦攻撃訓練も加わった。

 

 ドロイドファイターは司令船からの指示で動いているため、司令船を沈めれば機能を停止する──というナブー侵略時に判明した事実を根拠に、中隊単位で相互に支援と攻撃を繰り返して敵ファイター部隊を翻弄し、防御を突破して敵司令船を撃沈するという内容だった。

 

 戦争の時は近づいている。

 

 それを誰もがひしひしと感じていた。

 

 そして程なく、共和国元老院で最高議長に【非常時大権】を与える動議が可決され、クローン軍が銀河共和国の正規軍となった、というニュースが飛び込んできた。

 

 見覚えがある、とルーデルは思った。

 

 かつての祖国ドイツでヒトラー総統がまだ首相だった時代に議会で全権委任法を可決させた時によく似ている。

 

 結局のところ、国家の危機においては強力なリーダーが必要だと誰もが分かっているのだ。

 いくら文明が発達しようが──それこそ銀河にまたがる途方もない規模の巨大国家を作り上げるほどに進もうが──人間そのものの性質が変わらない限り歴史は似たような流れを繰り返す。

 

 だが──その流れを辿った祖国は負けて滅びた。

 東と西から無限の物量に圧し潰されて。

 

 共和国はそのようなことにならなければいいが。

 

 ──いや、そうならない、そうさせないために、自分たちはここにいるのだ。

 

 

◇◆◇

 

 

 そして運命の日はやって来た。

 

 全クローン兵を召集するアナウンスが流れ、プラットフォームに集合させられたかと思うと、ジェダイ評議会グランドマスターを名乗る小柄な緑色の肌をした老人が命じた。

 

「全軍、出撃じゃ」

 

 白い装甲服を纏ったクローン兵たちが一斉に敬礼する。

 

 そしてかねてからの訓練通り、隊ごとに指定された輸送船への搭乗が始まった。

 

 ルーデルも慣熟訓練を終えたばかりのV-19と共に巨大な楔形の輸送船へと詰め込まれた。

 

 そして言い渡された任務は惑星【ジオノーシス】へ艦隊が突入する際の護衛だった。

 

 現在惑星ジオノーシスには共和国からの分離独立を掲げる分離主義勢力が戦力を集結させており、武装蜂起の準備を進めている。

 これを速やかに撃滅し、共和国に対する攻撃を阻止するのが今回の出撃の目的である。

 

 当然、激しい抵抗が予想されるため、ルーデルたちスターファイター部隊には艦隊の周囲を固め、敵航空戦力を艦隊に寄せ付けないようにすることが求められる。

 

 情報ではジオノーシスは軍隊を保有しており、独自開発した極めて俊敏なスターファイターを多数運用しているという。

 もし、それらが輸送船に群がってくれば、地上軍の展開ができなくなるため、ルーデルたちスターファイター隊の責任は重大である。

 

 だが、ルーデルは平静を保っていた。

 伊達に敗色濃厚なドイツで最後まで戦い続けてはいない。

 修羅場など数え切れないくらい潜り抜けてきた。

 

 今更初出撃で緊張したりはしない。

 それどころか、敵基地への攻撃をこそ任せてくれたらよかったのに、とすら思う。

 

 ただ、ルーデルにとってはどうということはなくても今回が初陣の者たちは違う。

 

 周りを見れば部下の中隊員たちが緊張の面持ちでいるのが見えた。

 

 これは危うい。

 身体こそ成熟していても実際に生きている年月は十年足らず故仕方ないが、これでは充分に力が出せない。

 

 少し、喝を入れてやらなければなるまい。

 部下の士気を上げるのも隊長の務めだ。

 

 ルーデルは立ち上がって手を打った。

 

「ガンマ中隊、注目!」

 

 部下たちが姿勢を正し、ルーデルの方を見る。

 

「ガンマ中隊中隊長、ルーデルである。知っての通り、我々は今惑星ジオノーシスへ初の戦いに向かっている。これは共和国の平和を守る重要な戦いだ。だが──その大義は今は忘れろ」

 

 部下たちが驚いた顔をする。

 

 それを見てルーデルは思い出す。

 勇壮な宣伝に踊らされて戦いに身を投じ、血気に逸って命を散らした数多の将兵のことを──

 

「戦いで必要なのは、生き残ることだ。生きていればまた戦い、敵を倒すこともできる。だが、死ねばそれで終わりだ。そして我らパイロットは、一人死ねばそれが百人千人の友軍兵士の死につながると心得ろ。故に、どんなに敵に撃たれようが、囲まれようが、機体が火を噴こうが、翼をもがれようが、絶対に諦めるな。諦めた時に人は負ける。負ければ死ぬ。だが、諦めずに戦い続けているうちはまだ負けていない!諸君、絶対に負けるな。あらゆる敵、あらゆる危機に対して死力を尽くして戦い、生きて帰れ。生きて、また戦え(Live to fight another day)。最後まで生きていた者こそが、勝利の栄光に輝き、名誉と称賛を得る。以上だ」

 

 部下たちが顔を引き締める。

 

 誰からともなく敬礼し、すぐに全員がルーデルに敬礼する。

 

 そしてルーデルも彼らに敬礼を返す。

 

 その様子を背後から見ていた者が一人。

 

「お前のフォースは変わっておるのう。ルーデル」

 

 振り返ると、プラットフォームで遠目に見たあの緑色の肌をした老人が立っていた。

 

 共和国軍司令部の者かと考え、姿勢を正す。

 だが、疑問を投げかけずにはいられなかった。

 

「大変失礼ですが、貴方は──」

「儂はヨーダじゃ。先程お前の訓示が聞こえてきての。興味が出て聞いておったのじゃ」

 

 微笑みを浮かべながら宣う【ヨーダ】と名乗る老人。

 

 一体何者なのかとルーデルは困惑する。

 雰囲気からして軍人には見えないし、自分たちに命令する立場でありながらこうして盗み聞きにやって来る。

 

「ふむ、まずは儂のことから話そうかの」

 

 ヨーダは床を胡座をかいて座り、自分のこと、ジェダイのことについて語り始める。

 

 千年に渡って共和国と共にあり、そこに暮らす人々を守ってきたジェダイは宇宙にあまねく存在する【フォース】を信奉し、その力の一部を己がものとして引き出すことで常人を超えた力を発揮し、未来さえも見通して、平和の守護者として君臨してきた。

 

 そしてジェダイが平和の守護者として重んじてきたのが「調和と命の道」である。

 

 無益な争いやそれに伴う流血を防ぎ、誰も殺さぬよう死なぬように平和に事を収めることを希求するその思想に近いものが、ルーデルから感じ取れたとのことだった。

 

 正直意味が分からなかった。

 

 宇宙全体に満ちた力?あらゆる生き物の細胞にある共生生物?

 この老人は何を言っているんだ?

 

 そのルーデルの内心を見透かしたか、ヨーダは楽しそうに笑う。

 

「またお前とは話がしたいのう。お前はどこか──ここではないどこかを見ておる」

 

 そう言ってヨーダは歩き去っていくが、ルーデルは不思議な胸騒ぎがした。

 

 まさかあの老人、自分が前の人生の記憶を持っていることに気付いているのか?

 もしかしてフォースとやらの力で?

 

 ──話がしたい理由はこちらにもできた。

 

 もしかすると自分がこの世界に再びの生を与えられた理由や経緯を探れるかもしれない。

 それで別に何がどうなるわけでもないが、それでも知りたいと思ってしまうのが人情というもの。

 

 前の人生では東方の蛮族ことコミュニスト共から祖国ドイツを守るという使命感があった。

 パイロットとしての才能も、何度も撃墜されながらも生き延びた強運もそのために神が与えたのだと思っていた。

 だが結局、自分が尽くし、支え、守るために戦い抜いた祖国は負けた。

 シュツーカ乗りとしての自分はあの時死んだ。

 

 なのに、老いさらばえて死んだ後になってこの世界に人造兵士として生まれ、また戦闘機で戦おうとしている。

 これはどういうことなのか。何者かの意図によるものなのか。そうだとして、自分に何をしろというのか。

 

 それが知りたい。

 

 そのためにもこの戦い、ますます生き残らねばならなくなった。

 

 

◇◆◇

 

 

 赤茶けた砂漠の星の軌道上に十二隻の大型輸送船が出現する。

 

 設立されたばかりの銀河共和国正規軍二十万を乗せたアクラメーター級アサルト・シップの艦隊だ。

 

 その艦底部から数十機のスターファイターが飛び出し、編隊を組んで周囲を固める。

 

『直掩全機展開完了』

『各艦、強襲兵員輸送船発進準備!』

『先行する第一グループは偵察隊からの報告があり次第、敵航空基地に対して艦砲射撃を開始。第二グループは静止軌道上に展開、封鎖線を構築せよ』

『第一グループ、大気圏突入シークエンスに移行』

『直掩部隊、啓開予定座標へ移動』

 

 飛び交うアナウンスで通信が一気に騒がしくなる。

 

 ルーデルも中隊に指示を飛ばし、大気圏への突入を開始する。

 

 機体を覆うシールドは高速突入に伴う断熱圧縮をものともせずに、ルーデルたちを惑星ジオノーシスへと送り込んだ。

 

 アメリカで見たようなどこまでも続く赤い砂漠が目に飛び込んでくる。

 

 そして所々にそびえ立つ巨大なアリ塚のような尖塔。ジオノーシス人の町だ。

 

『偵察隊より入電!敵基地発見!建物高層よりファイターの発進を確認!』

『第一グループ各艦、艦砲射撃用意!ガンマ中隊、デルタ中隊は発進した敵ファイターを排除せよ!』

 

 命令が下る。

 

「各機。聞いての通りだ。市街観光の申請に向かうぞ。続け!」

 

 ルーデルは部下に呼びかけ、操縦桿を倒した。

 

 十二機のV-19が一斉に翼を翻し、降下を開始する。

 

 スキャナーが示す方向に砂漠に溶け込む赤茶色の敵機を三機視認すると、その進路上目掛けて更に急降下していく。

 

 照準コンピュータが敵機をロックすると、翼端のブラスター砲が連動して動き、敵機の未来位置に向けて青い光弾を吐き出す。

 

 針のような尖った形をした敵機が一機爆散し、残りの二機は散開した。

 

 素早く後続の二個小隊が追いかけ、仕留める。

 

 スキャナーから敵機の反応が消えるが、代わりに通信が入る。

 

『こちらデルタ中隊!中隊規模の敵ファイターと交戦中!援護を求む!』

 

 初陣から忙しないことだと思いながらもルーデルは部下たちに集合を命じる。

 

 一瞬、自分たちがエスコートしてきた輸送船が少し離れた所のアリ塚のような建物の一群目掛けてレーザー砲を浴びせるのが見えた。

 

 レーザーの砲火を浴びて崩れていく建物の周囲で数十機のファイターが格闘戦を繰り広げている。

 

 ルーデルはそこへ突入を命じる。

 

 ガンマ中隊が加わったことで共和国軍が盛り返し、遂にジオノーシス軍のファイターは姿を消した。

 

 初陣は大勝利に終わり、パイロットたちは大きな歓声を上げる。

 ルーデルも彼らに混じって思い切り叫んだ。

 

 これでいい。

 やっぱり空が俺の生きる場所だ。

 

 なお、ファイター部隊が奮戦している間に展開したガンシップ部隊がヨーダの指揮の下、地上のドロイド軍を蹴散らし、闘技場に囚われたジェダイたちを救出する歴史的活躍を演じていたことをルーデルが知って無表情になるのはもう少し先のことである。




ガンシップ…
EP2と映画版CWだとめちゃくちゃカッコいいのにCWTVシリーズだと完全にやられメカ…
絶対運用間違えてると思う
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