ピンポーンとドアチャイムが鳴った。来たか、俺は立ち上がって玄関に向かう。一応、覗き穴から外を見てみると、約束通りの人物がドア前に立っていた。ドアを開ける。若干青みがかった白い髪。透き通った水色の虹彩。まだ幼げな雰囲気を残した美少女がそこに立っていた。
「いらっしゃい。ましろ」
「翼君、久しぶり」
「ほら、寒いでしょ。早く入って」
「お邪魔します」
こちらを見てパァッと笑うましろは、とてもかわいくて、あまりに愛おしかった。最近、大学の講義やレポートで立て込んでいたから会えていなかったこともあって、ましろに会えた喜びはひとしおだった。今すぐ抱き寄せたい。ただ、ましろは大きな荷物を抱えている上、寒気に覆われた外は気温二桁も行かない寒さだ。まずこの荷物を中に入れて、ましろに温まってもらわなければ。重い荷物をよいしょと言いながら中に入れようとするましろ。その手から荷物を奪い取る。
「自分の荷物くらい自分で運ぶよー」
ましろはそう言うけれど、荷物を運ぼうとするその姿はフラフラしていて危なっかしい。到底、許されません。そもそもなぜ、ましろがこんなに大きなスーツケースを持ってきているのかというと、今日、十二月二十五日から一月三日までの十日間、ここに泊まることになっているからだ。
「ほらほらましろ。中入っちゃって」
「……うん。ありがとう」
荷物を取られて固まってしまっているましろを、先に部屋の中に入るよう促す。俺は荷物を持ってましろの後に続く。ましろがフラフラするのがわかるくらいに、荷物は重かった。冬物の服は嵩張るけれど、ここまでの重さにはならないはず。一体何が入っているんだろう。ましろは部屋に入ると、「わぁ!」と嬉しそうな声を上げる。
「こたつ出したんだね」
「そうそう。昨日でやっと今年の授業終わったし、バイトも年明けしばらく入ってないから、いいかなって」
こたつがあったら外に出られなくなっちゃうからね。出る予定が固まっているときは迂闊に出せない。まぁ一番の理由は、ましろが来るからなんだけれど。ましろの荷物を部屋の一角に置いてましろの方を見る。すると、猫のようにスルリとこたつへ潜り込むましろがいた。とてもかわいい。喜んでくれたし、置いた甲斐があった。
「みかんもあるぞー。ただその前に手洗いうがいしような」
「やだー。出たくない」
そう言ってこたつの中に目元だけ出して更に埋まり込むましろ。かわいい。
「わかるわぁ。でもだめ」
「……はーい」
渋々ましろはこたつを出て、洗面所に向かう。寒寒と言いながら出ていく姿に少し罪悪感を覚える。ましろが風邪を引いて苦しむ姿は見たくないからね。ましろが離席している隙に台所の方から買い置きしていたみかんを持ってくる。本来は一人でクリスマスも年越しも過ごすつもりだったから、二人だとみかんも他の食べ物も足りないかもしれない。大晦日までに一回買い出しに出なきゃかもな。みかんを準備しながらそんなことを考えていた。
昨日の夜、母親から電話がかかってきた。てっきり帰ってこいとのご命令かと思って聞いていたが、ましろがここに泊まりに来ると言われたものだから驚いた。ましろの両親と俺の両親でキャンプに行くらしい。ウチとましろの家は昔から仲が良かったから、こういうことがたまにある。故にましろのお守りをしてくれと。でもあまりに直前過ぎて、前々から教えといてくれたっていいじゃないかと思わず文句が出た。そうしたらアンタここ数ヶ月連絡しても返事よこさなかったじゃないと一蹴されました。はい。忙しかったのと単純に面倒くさかったからです。めちゃくちゃ俺が悪いな。
他にも、そもそも年頃の女の子を男の家に預けていいのかと、そもそもましろはまだ高校生だぞと反論してみたら、お前はヘタレだから大丈夫と言われました。実の息子をヘタレ呼ばわりですか? 仰る通りです。誠に遺憾ですが。そこら辺の分別はついてます。どうやらましろの両親もOKを出しているらしい。元々お互いの両親公認だったけれど、それにしても緩すぎやしないかい? ましろといられるならいいか。
ただ今、午後五時を過ぎたくらい。そろそろ夕飯の準備をしたいところ。準備と言っても、出来合いのチキンは焼くだけだし、サラダは盛り付けるだけだし。まともに作るのはスープくらいか。サラダ食べてくれるかなぁ……。ましろ。ちょっと心配かもしれない。……ただ夕飯の準備をする以前の問題が、今ここにある。
「すぅ……」
ましろが俺を背もたれにして寝ているのだ。つい数十分前、二人でテレビを見ていた時だった。俺が胡坐を崩して脚を広げたら、ましろがササッとやって来てその間に座ったのだ。
というわけで、夕飯の準備をするには、一旦ましろに離れてもらう必要がある。脚の間に座ってきたから頭を撫でていたら、いつの間にか寝ちゃってたんだよな。かわいい。
起こさないように左側からそっとましろの横顔を覗いてみた。安心しきった顔で、俺の右肩辺りにもたれている。穏やかな寝息を立てて寝ているましろ。とてもかわいい。左手の人差し指でましろの左頬を優しくつついてみる。ぷに、ぷに、と柔らかい。ぐっすり眠っているましろの寝顔には、神秘的なあどけなさがあった。起こすのも忍びないなぁ、そんなことを思いながら、ほっぺプニプニ。ちょっと楽しい。
「……んっ。むぅ……」
しばらくすると、つつかれているのが気になったのか、ましろがもじもじと顔の向きを変えた。今度は心臓の真上辺りにましろの頭がある。起こすのは忍びないけれど、そろそろ起きてもらわないと困ってしまう。さて、どうやって起こそうか。
「翼君……。待ってぇ……むぅ……」
どうしようかと思索に耽っていると、ましろの寝言が聴こえた。一体、どんな夢を見ているんだか。
「追いかけなくていい。俺はここにいるよ」
ましろの耳元で優しく囁くと、安心したように、ましろが「ふふっ」と笑った。しばらくは、起こせそうもないなぁ。
もう少し、もうほんの少し。この寝顔を眺めていようかな。
クリスマス特別回です(遅い)