青春100% 作:完結の陽炎
唯のピアノを聴く機会はあるのか?
ストリートピアノが弾ける場所を探さないといけない。
それはヒロシの情報網で瞬く間に特定ができた。
マナーを守れば撮影もOK。
唯の写真を撮る気満々のヒロシ。
見張り役は美鈴と淳平だが、あまり仲がよろしくない。
「上辺の口先だけで説得力がない。そんなザマで本当に映画作る気あるの?」
「おい外村、お前の妹すげぇ口が悪いぞ。何とかしてくれ」
「いやいや、これが慣れるとカワイイんだよ真中」
あまりこじれないように内場が間に入って対処。
それとは別に綾とつかさが雑談をしている。
綾は地味なおさげとメガネで、いつも通りに影を薄くするスタイルだ。
「つかさは音楽よく聞くの?」
「たまに聞くぐらいかな。綾は?」
「私はあんまり……ちなみちゃんは?」
綾に向けられた先にはちなみ。
その隣にいる正太郎と恋人繋ぎをしている。
「機会があれば聞きますけど、ご縁がないのでお姉様と同じです」
「そうなんだ。ちなみちゃん、正太郎のことよろしくね」
「はい任せてください。しょーくんはわたしが幸せにします」
「すっごいラブラブじゃん。いいね弟くん、青春してて羨ましくなるよ」
「そういうつーさんはモテるから選び放題ッスね?」
「体目当ての男子はお断りだよ」
しばらくして唯がストリートピアノで演奏を始める。
まだ一曲だけしか弾けるものがない。
穏やかな風を漂わせて涼しげなイメージを浮かべる楽曲。
テンポもスローで無理なくできる初心者向け。
楽しそうに弾く唯の姿が輝かしい。
当然、ヒロシがそれを逃すはずもなくカメラの撮影を怠らない。
そして終えた後の拍手に照れ笑いを浮かべる唯がいた。
「なあ唯」
「なにしょーたろ?」
「他にも弾いてみたいと思っている曲はあるのか?」
「あるよ。唯はね、春・夏・秋・冬の季節に合った曲が弾けるようになりたいんだぁ」
「魔法の火、風、水、土の四大元素みたいなノリだな」
「ちなみに今回弾いたのが、夏におすすめの曲だよ」
「じゃあ残りは春・秋・冬を目標に練習するってことか?」
「うん。次に会えるとしたら冬休みだから、冬の曲にチャレンジだよぉ」
「冬の曲でクリスマスを連想してしまうのはオレだけか?」
「クリスマスいいね。プレゼントもらえるし、ケーキ美味しいし」
ストリートピアノでいい曲を聞かせてもらえた。
唯への贈り物として漫才をする予定だが、果たして成功するのか?
参考の題材は、つかさから録画されたお笑い番組が提供された。
ちなみの要望で、練習場所は正太郎の部屋。
殺風景なインテリア故に部屋のスペースは広い。
事前に内場へ電話を入れて話をしておく。
どんな内容かと言うと……
「お笑い番組を見ると、内場の喋り方と相性が良い。だから内場の口調になりきるぜ」
「なんやねん、僕のモノマネで漫才やるんかい」
「あくまで口調な。さすがにちなみの演技みたいに動きまでコピーする自信はない」
「それ、端本やったら僕を完璧にコピーできるみたいな言い方やで」
「ちなみが本気出したらできそうな気がするぞ」
「じ、冗談やろ? けど端本やったらホンマにやれそうやな」
「ん、待てよ? ちなみにオレをコピーさせて、オレが内場のマネをして、小学生時代のやり取りでもやったら、唯にウケるんじゃね?」
「まあ、懐かしんでくれそうやな」
簡易的な台本を作成しながら漫才の練習。
ちなみに正太郎のマネをさせてみた。
かなり乗り気になって実演をしてくれる。
「おいおい、普段のオレってそんな感じなのかよ?」
「そんな感じだぞ。鏡でもあったら見せてやりたいぐらいだぜ」
「おぉー、見た目はちなみでも男口調が妙にハマりやがる。演技力が上がってね?」
「ったく、褒めても何も出ないぜ。ほら内場のマネやるんだったら、さっさとやろうぜ」
「うむ……よっしゃ、やったるで!! これも南戸を笑わせるための作戦や!!」
ノリにはノリで返す。全力で。
こうしてモノマネの漫才コンビ練習に明け暮れた。
しっかりと台本も書いて忘れないようにしておく。
昔話をネタにする予定で台詞としての暗記はあまり必要としない。
ちなみの助言もあり、アドリブ上等で練習をしていった。
………………。
…………。
……。
唯、内場、美鈴、ヒロシ、淳平、綾、つかさの7名が見物客。
演じるのが正太郎とちなみの2名。
一つの部屋で9人はどうあがいても不可能である。
お金を出し合い、机やイスなど設備があるスタジオを借りた。
伊達メガネの正太郎と男装をしたちなみ。
正太郎が内場を、ちなみが正太郎をマネして演技をする。
夏の教室をイメージして、ちなみが机でうつ伏せ状態で始まった。
「あちぃー!! エアコンのない教室なんて最悪だぜ!!」
同じく机で何かを描くマネをする正太郎。
「ぐあっ、やってしもうた!? 汗で僕の漫画が!!」
小学時代に唯も見たことがある日常的な光景。
しかも夏の暑い教室ということで共感性も高い。
「内場、漫画で涼しくならないか?」
「アホ、漫画は関係ないやろが」
「じゃあその漫画よこせよ。パタパタするから」
「やめい東城!! 僕の漫画を団扇にすんな!!」
唯と美鈴が笑いをこらえている。
二人のやり取りは小学生の夏で実際にあった出来事だ。
クラスメイトだった唯も近くで目撃をしており、美鈴も知っている。
正太郎にマネされた内場は、恥ずかしそうにメガネを触っていた。
厳しい先生、山積み宿題、難易度の高いテストなど他の話題も披露。
上級生の綾たちも学校あるあるで共感をしてくれた。
「オレはねーちゃんを超える。それがオレの野望だぜ」
男口調のちなみがキリッと顔を引き締めて宣言する。
正太郎は伊達メガネをしたまま呆れた様子を演じた。
「このクソ暑い中で、よぉ燃えとるのう東城」
「内場のバトル漫画でもあるだろ。最強の敵を倒すために修行する。まさに男のロマン」
「東城の姉ちゃんってそんなスゴイ人なんか? どうにも影が薄いんやけど?」
「チッチッチッ、甘いんだよ内場。あれは仮の姿、覚醒モードのねーちゃんは最強だぜ」
これには綾が俯いて大いに恥ずかしがった。
なんてことを言ってるんだと。
後で正太郎を叱ろうと思ってしまうぐらいに。
それをつかさが微笑ましそうに見守っている。
「唯もよく聞いたよ。しょーたろは、いっつもお姉ちゃん目標だもんね」
「それがアイツが書く小説の原動力だから」
「ちょうど僕、あんな感じで聞かされたわ。よぉ覚えとるで」
唯、美鈴、内場がそれぞれ口にする。
三人とも姉に対する正太郎の対抗意識を熟知していた。
だからこそ正太郎の向上心も果てしない。
「頼むぜ内場!! お前の漫画が必要なんだ!!」
「こぉんのドアホ!! 無理なもんは無理いうとるやろが!!」
「やべえよやべえよ。内場の漫画がないと」
外村ヒロシが提示した一枚の写真で小説を書く試練。
当時のポーズまでちなみが演じてくれる。
正太郎が恥を忍んで当時の様子を細かく教えたからだ。
これにはヒロシが懐かしそうに頷く。
「僕が出した課題を正太郎くんは見事にやり遂げたね。あれは実に素晴らしかったよ」
「兄貴が一週間なんて無茶な期限を出さなければ、あれで解決したのに」
「僕なりに考えた結果さ。そう簡単にクリアされては面白くない」
「巻き込まれたあたしたちは、たまったものじゃなかったわよ」
もはや漫才というよりも昔を再現した演劇。
それでも唯にウケたことは間違いない。
淳平としては再現度の高さに驚くばかりだ。
――映画作りであの二人に演じてほしい。
そう考えてしまうのも自然の成り行き。
この二人ならイケる。
絶妙にハマり役となるだろうと確信をしていった。