青春100%   作:完結の陽炎

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第13話「必要な道標」

 時の流れと共に人も変わっていく。

 自分だけが変わらないようで不安になる。

 だからといって誰か気になる人がいる訳でもなく、淳平や正太郎のように夢中になれるものもない。

 それが西野つかさの悩みである。

 

「ねーちゃん、弁当忘れていくなよ。かーちゃんが呆れてたぞ」

「えっ……あれ、忘れちゃってた?」

「ったく、カントクの事ばかり考えて色ボケすんなよ」

「う、うるさい。ほら、もう弁当受け取ったんだから、自分の教室へ戻りなよ」

「つーさんごめんな。ねーちゃん、こんなんだから色々迷惑かけちゃって」

「もう!! だから校内で保護者ぶらないでって言ってるでしょ!!」

 

 姉弟のやり取りは見ていて微笑ましい。

 いつもと違う綾の顔が見れるから楽しい。

 だからこそだろう。

 いつか終わりが来ることに寂しさを感じてしまう。

 

「つーさん、なんか悩み事抱えてるっスね。顔に書いてあるッス」

「こら正太郎!! つかさ、正太郎の言うことなんて気にしなくていいから」

「ううん、ありがとう心配してくれて。ねえ弟くん」

「なんッスか?」

「弟くんにとってあたしってどんな感じかな?」

 

 あまりに抽象的な質問である。

 答えるほうが困ってしまう内容だろう。

 だが正太郎は小学生のノリで気軽に答えてみせた。

 

「つーさんはお菓子の魔法使いってイメージになるッス」

「魔法使い?」

「ウィッス。ねーちゃんが昔に書いた絵本みたいな小説、そこにお菓子で人々を幸せにする魔法使いの物語があるッスよ」

「それは正太郎が書いたほうでしょ。私は普通の魔法使いだったのに、正太郎がお菓子の設定を加えてアレンジした物語じゃない」

「おっとそうだった。つーさんが作ったおやつ食べながら思いついたんだよな」

 

 純粋だからこそ心に響くものがある。

 その物語を読んでみたい。

 つかさの要望に正太郎は……。

 

「絵本もどきのヤツだから読みやすいだろうし、ねーちゃんが保管してるからそっちで借りてくれッス」

 

 つかさは後ほど借りて読んでみる。

 小学生が書いたものにしては文章の質が高い。

 綾の才能に対抗をするための努力が滲み出ている。

 超えてやるという意気込みが筆圧の強さから伺えた。

 ストーリーを読み終えてみると心が和んで癒される。

 そういう読後感を味わうことができた。

 

「お菓子で人を幸せに……か」

 

 自分の手を見つめて呟く。

 そんな魔法のようなことができるのか?

 お菓子作りは趣味のレベル。

 プロのような凄いものが作れる訳ではない。

 だが……。

 

「何もやらないより、やったほうがいいね」

 

 やらない後悔よりもやる後悔。

 何をするにしてもリスクはつきもの。

 失敗を恐れては何も進まないし変われない。

 借りた小説を綾に返す際につかさは言った。

 

「綾、あたしはもっと色々なお菓子が作れるように頑張ってみる。出来たら食べてくれる?」

「うんいいよ」

「弟くんにお礼言っておいて。おかげで気持ちスッキリしたから」

「それなら作ったお菓子をあげたらどうかな? そっちほうが正太郎も喜ぶし」

「回復とか言ってノリノリで食べそうだね」

「う、うん。そういう所は変わってないから」

 

 無邪気に喜ぶ少年という印象は変わらない。

 図書室からお菓子に関連した本を探して調べる。

 洋菓子のケーキに興味を持ちチャレンジをしていった。

 

 ………………。

 …………。

 ……。

 

 季節が夏から秋への移り変わる。

 若干肌寒くなる時もある衣替えの時期。

 淳平の調査手伝いをしたちなみへのご褒美をする。

 休日の駅前で待ち合わせ。

 一足先に現地で待機をする正太郎。

 ジャケットを羽織り、ワンポイントのロゴ入り野球帽を被っている。

 待っている間はヒマだから、愛用のネタ帳で走り書き中。

 デートは恋愛小説に欠かせないイベント。

 この時の心理描写を参考にするため今の心境を書く。

 なお、背後からの襲撃を予防するため壁を背にしている。

 ちなみが後ろから驚かせてくるかもしれないからだ。

 

「ごめんしょーくん、待った?」

 

 スタイリッシュなパーカーにチェック柄のスカート。

 秋に馴染みやすいデザインのベレー帽を身に付けている。

 正太郎はジャケットのポケットにネタ帳を収納して応じた。

 

「待たせるより待つほうが性に合ってるから大丈夫だぜ」

 

 ちなみの右側へ位置付き左手を伸ばして手を繋ぐ。

 笑顔を向けてきたら自然と笑顔で返す。

 本日の行き先は動物園で、正太郎が事前にリクエストをした。

 ペットを飼っている人がいないので動物を見る機会がないから。

 

「ちなみのご褒美で、オレの行きたい所を叶えてもらうのも少し悪い気はするが」

「いいの。わたしはしょーくんとデートすることが目的だから。それにわたしも動物見ることがないから普通に興味あるし」

「ほぉー、見てみたい動物がいるのか?」

「うん。ライオンとかパンダとかナマケモノとか」

「ナマケモノが本当に動かないのかは見てみたい」

 

 百獣の王ライオンの立派なたてがみが印象的。

 パンダが笹をむしゃむしゃと食べるシーンに和む。

 ナマケモノがほとんど微動だにせず、いつ動くのかで根気強く様子見をした。

 なぜナマケモノは動かないのか?

 それは隠密スキルで天敵から見つからないようにするための作戦らしい。

 確かに動かなければ物音がしない。

 ゆっくりと少しだけ動くなら気配も察知されにくい。

 また動きを最小限にすることでエネルギー消費量の節約にもなっているのだろう。

 

「休みの日に家でゴロゴロしてるのって、まさにナマケモノみたいだ」

「でもあそこまで動かないと逆に疲れない?」

「というかじっとしてられなくなると思う」

 

 お昼はちなみ特製のサンドイッチ。

 外食ではお金が掛かってしまうのでちなみの気配りがありがたい。

 ちゃんとお礼を言ってから頂く。

 

「恋愛小説にあった食べされるアレってどうなんだろう? 看病の時だったらまだ理屈として分かるんだが」

「しょーくん、そういう時はレッツトライだよ」

「では早速、ちなみあーんして」

「えっ!? しょーくんがわたしに食べさせるの!?」

「先手必勝ってな。まずはオレがやってみるから次はよろしく」

「うぅ……」

 

 こぼさないように食べさせるにはコツがいる。

 一口サイズだったらやりやすいかもしれない。

 サンドイッチなら小さくちぎってから食べさせるのも一手。

 その場合、具材の部分が少なくなるので食べた気がしないかもしれない。

 こぼれても大丈夫なように空いてる手を下側に添えておく。

 

「うぅ……なんか赤ちゃんになったみたいで恥ずかしいよ」

「確かに。なんか親鳥がひな鳥にご飯をあげる気分だぜ」

「むぅー、しょーくんはお父さんじゃなくて彼氏だからね」

「あーんは恋人同士でやるものではないと?」

「わたしだけ恥ずかしいのはズルい。次はしょーくんがあーんする番だよ」

「おう、いつでもかかって来い。あ、食べやすいサイズで頼む」

 

 今度は逆に食べさせてもらう。

 ちなみの言い分がもっともだと理解した。

 赤ちゃんになったような羞恥心を感じてしまう。

 

「ちなみ、あーんは封印したほうがいいんじゃないか?」

「うーん、でも慣れてきたら楽しくなるかも。恥ずかしがるしょーくんがカワイイし」

「やり返される覚悟があるのならオレは構わないぞ」

「や、やっぱり遠慮する。されるほうは恥ずかしい」

「賢明な判断だ」

 

 食べ終わってからも様々な動物を見て回る。

 ちなみの好みは小型の動物だ。

 小さいのが単純に可愛いのと怖く感じないから。

 大きい動物でも赤ちゃんなら好みの範疇である。

 

「しょーくんは好みの動物ってないの?」

「好みというか、興味があるのはアライグマ。本当に洗い物をするのか見てみたくなる」

 

 ナマケモノと同様に不思議な行動をする動物に興味を持つ。

 なぜこんな事をするのか?

 そんな謎を解き明かしたくなるからだ。

 小説を書く正太郎の性なのかもしれない。

 

「エサを洗ってるね」

「洗ってるなゴシゴシと」

 

 この行動理由については明らかにされていない。

 野生のアライグマは水辺で獲物を取るために前足で抑えて引き上げる。

 それが洗っているように見えるらしい。

 動物園のアライグマだけがエサを洗うようで、その諸説は色々あっても確定はされていない。

 

「なぜ楽しい時間はすぐに過ぎるのか? 勉強の苦しい時間は長く感じるのに」

「ホント楽しい時間って早く感じちゃうよね」

 

 ちなみを家まで送っていく。

 恋人繋ぎでしっかりと互いの手が繋がる。

 ちなみが嬉しそうに手を軽く振った。

 離れないことを確かめているかのように。

 

「またデートしようねしょーくん」

「次があるなら水族館に行ってみたい。ジャンルが違う生き物ということで」

「イルカショーとかあるかな?」

「アシカショーも捨てがたいぞ」

「見れるならどっちも見てみたいね」

 

 ちなみは次もあることを喜び、正太郎も次が楽しみになった。

 家の前でちなみから背伸びのキス。

 数秒ほどくっついてから離れ、笑顔でまた今度と言って家へ入る。

 それを静かに見届けた正太郎。

 唇を軽く指で添えて余韻に浸りつつ自宅へ帰った。

 

 ………………。

 …………。

 ……。

 

 淳平のお気に入り映画を視聴してからの討論会。

 提供された場所は綾の部屋。

 淳平の部屋でも美鈴の部屋でもない。

 綾の脚本を気に入っている美鈴への配慮である。

 立会人は正太郎・内場・ヒロシ・ちなみ・綾だ。

 

「なんだこりゃ、全然つまんないじゃん。ちょっとは期待してたのに」

 

 容赦のない切り捨ての感想を口にする美鈴。

 これを侮辱を捉えて淳平の目に怒りが宿った。

 その感情が火を噴くようにして怒鳴り声を上げさせる。

 

「なんでだよ!? いい所だって一杯あるだろうが!!」

「へえー、じゃあそれ言ってみてよ」

「は、派手な演出とか、キャラの強さとか、仲間思いな所とか」

 

 淳平がやや自信なさげに良かった所を挙げてみた。

 それを美鈴は鼻で笑ってからの反論。

 演出は派手にすればいいというものではない。

 それでごまかそうとする魂胆が見え見えだと白けてしまう。

 キャラの強さも、ただ強ければいい訳ではない。

 なぜ強いのかという裏付けが必要。

 また弱さがあってこそ強さは光るものである。

 仲間思いに関しては矛盾が突けてしまう。

 本当に仲間を大切に思うのなら、何でこんな事をしたのかという問題点を出すべきだ。

 行き当たりばったりで、その場の雰囲気に流されているようにしか見えない。

 

「ぐぬぬっ、さっきから理屈ばっかり言いやがって!! いいだろ別に感覚で映画を観たって!!」

「映画は中身よ。どれだけ観てくれる人の心に中身を焼き付けるかが重要なの。それを感覚なんて曖昧な形で正当化しようとするのが気に入らない」

 

 二人の相性は著しく悪い。

 綾があたふたした様子で取り乱す。

 ヒロシはカメラを構えて綾や美鈴をしっかりと撮影。

 正太郎・ちなみ・内場は思った通りだと納得の顔を浮かべた。

 

「大体あの剣の設定はどうなの? あれを禁止にしてる明確な理由がないじゃない」

「あ、それ思った。うーん、あの場面で剣が封じられてるってのも変だよな」

「それ使ったら終わるからって曖昧にしすぎなのよ。だったら最初から剣なんて出すなって話よ」

 

 ここから空気が変わった。

 淳平の中で納得ができない部分を美鈴が指摘をしたからだ。

 そこから淳平は他にもおかしい点について美鈴に投げかけてみる。

 美鈴はその辺りも問題点として応じた。

 

 ――この女、すげぇクチ悪いけど頭よくね?

 

 しかし印象が悪すぎる。

 不愛想で可愛げもない。

 このような口うるさい女を助監督にしたらどうなるか?

 周りと上手く打ち解けるだろうか?

 無理だろう。

 喧嘩になって険悪な雰囲気になることは火を見るよりも明らか。

 そんなギスギスした状況で映画作りが出来るはずもない。

 淳平の中でそんな悪い想像が浮かんでしまった。

 

 ――オレがこの女をどうにかできるとは思えないし。

 

 淳平の映画論は美鈴に軽々と論破されてしまう。

 正太郎が前もって忠告をした理由がよく分かった。

 確かに精神的なダメージは大きい。

 

 ――でも賞を狙うならコイツの力が必要……か。

 

 リスクを承知で美鈴を引き込むべきか?

 それとも拒絶するべきか?

 今すぐ決めろという話でもないが、それはあくまでも淳平の都合。

 美鈴にも選ぶ権利はある。

 

「ハッキリ言って、アンタみたいな人にまともな映画が作れるとは思えない」

「なっ!! なんでそんなことが言えるんだよ!!」

「そうやってウジウジ悩んで、先延ばしにするのが見え見えよ。映画作りは時間との勝負でもあるの。貴重な時間を無駄遣いする人を監督なんて認めない」

「いいだろ別に!! まだ先の話なんだから!!」

「こっちを疑ってるくせに。どうせコイツがいるとギスギスするから嫌だとか思ってるんでしょ?」

「っ!! そ、そんなことは思ってないぞ!!」

「図星ね。いいわよ別に隠さなくても。つーかバレバレだから。下手な嘘をつかれるほうが逆にムカつくわ」

 

 まるで見限ったような言い回しをする。

 時間云々はあくまで表向きの理由。

 実際は信用されていないのが分かったからだ。

 どこかで折り合いをつける必要がある。

 空気を読んで正太郎が間に割り込んでいった。

 

「二次創作にしたら、色々と直すところが多いな。特に剣の設定を修正するか、最初からなくすかで話が変わってくるぞ」

「アンタだったらどうするつもり?」

「その映画、曖昧さが持ち味みたいだからな。剣を都市伝説扱いにするとか、隠された財宝みたいにするとか。とにかく中途半端に出さないようには徹底するぜ」

「だったら仲間思いの行動原理はどうするつもり? 剣との関連性は?」

「それは明らかに描写不足だろ。もっと深く掘り下げないと問題行動への説明がつかない。剣に頼らなくても仲間がいるみたいな王道にするか。あるいは剣がないことを理由にして、自分が犠牲になる悲劇な展開へするかで変わってくるぜ」

 

 正太郎が参入すると問題提起だけで済まなくなる。

 具体的にどうすれば良くなるのか?

 その改善点を出させるために、美鈴が次々と問題点をぶつけていく。

 

 ――あれ? この女、東城弟がいると上手くやれるんじゃね?

 

 正太郎がいれば険悪なムードにならない。

 真剣に作品を良くしようという引き締まった空気になる。

 淳平が求める理想の映画作りがそこにあった。

 だから咄嗟に淳平が言ってしまう。

 

「東城弟、外村妹!! 二人ともオレが作る映画に協力してくれ!!」

「美鈴、誘われてるぞ。どうするんだ?」

「イヤよ。ってか何でアンタまで数に入ってる訳?」

「どうせオレを間に入れて、空気が悪くならないようにしたいんだろうよ」

「この場にしゃしゃり出てくるからよバーカ」

 

 遠慮のない美鈴の言葉遣いに慣れ親しみがある。

 妙に安心感のある掛け合いだ。

 幼なじみだから成立するやり取りに見える。

 

「討論の言い出しっぺがオレだからな。その責任を取るつもりで割り込んだぜ」

「それで目を付けられてたら世話ないわよ。だからバカなのよアンタは」

「内場、お前の彼女がバカバカ言ってくるんだぞ。少しは注意してくれよ」

「僕も東城をアホって言う時あるで。そこが東城らしいと思っとるんや」

「やれやれ。カントクちょっといいッスか?」

「い、いいけどなに?」

「オレが協力する条件ッス。美鈴がOKしたらいいッスよ」

「ちょっとアンタ!! あたしをダシにして逃げるつもりね!!」

「逆だぜ。美鈴の力が必要だからな。それが無理ならカントクの夢は静かに見守るぜ」

「この卑怯者!!」

「おっと手が出たな。助けてヒロシ兄さん!!」

 

 拳を振り回す美鈴から逃げてヒロシを盾にする。

 撮影をするヒロシに美鈴の蹴りが入った。

 淳平はこの時に思う。

 

 ――無理だろ。この女を説得して引き入れるなんて。

 

 頭では分かっている。

 美鈴の必要性は感じたから。

 でも引き受けてはくれないだろう。

 こうして淳平は途方に暮れてしまうのであった。

 

 ………………。

 …………。

 ……。

 

 昼休みにいつもの踊り場で弁当を広げる。

 食べ終えてから話題を切り出すのは正太郎。

 淳平と美鈴の討論に関して思う所があった。

 

「美鈴、率直に訊きたい」

「なによ?」

「カントクが実際に映画を作って、その映画の中身次第で協力する可能性はあるか?」

「さあー、その時になってみないとわからないわね」

「了解した。ちなみ、今から行きたい所があるから一緒に来てくれ」

「いいよ。でもしょーくん、どこに行くの?」

「ついてきたら分かる。それじゃあ二人ともまたな」

 

 美鈴が怪訝そうな目つきで睨むが正太郎は気にしない。

 内場も疑問を浮かべていたが今の時点で正太郎の説明はない。

 そして正太郎とちなみが移動した先は上級生の教室。

 綾とつかさが昼食を終えてお話をしている所だった。

 

「あれ? 弟くんと彼女さんじゃない。二人してどうしたの?」

「ウィッスつーさん。ねーちゃんと一緒にちょっと話があって来たッス」

「へえー、どんな話なの? ここで聞いていい話かな?」

「そうッスね。人目がないほうがいいかもしれないッス。別に無理ならここでもいいッスよ」

「いいよ。じゃあ場所変えよう。綾もそれでいいよね?」

「うん。でも正太郎、一体何の話?」

「場所変えてから話すぜ」

 

 人目のつきにくい階段付近で話をする。

 つかさは討論の時にいなかったので、そこから説明を始めた。

 そして実際に淳平が映画を作り、それを見てからでないと判断できないという現状を伝える。

 

「うわー、そんな事があったんだ。綾、大変だったんじゃない?」

「う、うん。でも美鈴ちゃん、真剣に真中くんと話してた。きっと真中くんが監督で大丈夫なのか心配したんだと思う」

「ねーちゃんの言う通り、美鈴はカントクが映画作りの監督として相応しいかを見定めようとした。今の時点では協力したいと思える所がなく、実際に映画を作ってくれない限りは検討の余地なしだ」

「弟くんはどうなの? 個人的に協力しようと思わない?」

「思わないッス。美鈴の実力をカントクも認めたからこそ勧誘して来た。本気で結果を残すなら美鈴は絶対に必要ッス。オレもやるなら最高の結果を出したいし、美鈴なしでは協力する気ないッスよ」

「へえー、弟くんがそこまで言うほど凄い人なんだね。でも何でそれを伝えに来てくれたの?」

 

 つかさに伝えたのは、淳平に協力するメンバーとして知る権利があると思ったから。

 綾に伝えたのは淳平に報告してもらうためである。

 

「弟くんが直接言わないのは何か理由があるの?」

「ねーちゃんがカントクに話しかける口実になるで納得しないッスか?」

「あー、なるほど」

「へ、変な気を遣わないの!! 別に私はそういうつもりで真中くんに協力する訳じゃないから!!」

 

 顔を赤くしながらムキになっても説得力がない。

 優しく微笑みを浮かべるつかさ。

 友達の恋を優しく見守っているようだ。

 

「ねぇしょーくん、なんでわたしに付き添いを頼んだの?」

「おいおい忘れたのかよ。以前オレが一人で上級生の教室へ突撃した時、ちなみは楽しそうな事してズルいって拗ねただろうが。だから今回、その楽しそうなことに付き合ってもらっている訳だが」

「あ、覚えててくれてたんだ。ありがとうしょーくん」

「改善がオレのモットーだと思っておけ」

「わーアツアツじゃん。綾も負けてられないね」

「だ、だからそんなんじゃないってば!!」

 

 昼休みの時間もあと少しの所で話を切り上げた。

 その場を離れた時、ちなみは思ったことを正太郎へ伝える。

 

「美鈴は真中さんの下で活動するより、美鈴が自ら上に立って仕切るほうが向いてないかな?」

「向いてるだろうけど、それしたら美鈴に乗っ取られるぜ。カントクは自分の映画が作りたいはずだ。美鈴の映画作りを手伝いたい訳じゃないだろう」

「それなら美鈴も同じじゃない? 自分で映画を作りたいって気持ち」

「そいつは難しいぜ。ねーちゃんがカントクの味方についた時点で、美鈴は自分の手で映画を作る選択肢がない。それをしようとしたら、ねーちゃんの脚本で映画作りができなくなるからな」

「……」

「なんだちなみ? オレの顔をジーと見たって何もないぞ」

「そうだね何もないね。あ、教室着いちゃった。またねしょーくん」

「おう。また放課後な」

 

 ちなみが教室に入ると美鈴が待ち構えていた。

 いつもなら一人で読書をしているはずなのに。

 明らかに目が訴えていた。

 だから詮索される前にちなみが言ってしまう。

 

「お姉様とつかさ先輩に現状報告。手伝わせたいなら実際に映画を作ること。話はそれから。以上」

「あのタイミングで出て行ったかと思えば、ずいぶんとお節介焼きね」

「これで真中さんからのしつこい勧誘なんて発生しないよ。作品あってこその宣伝じゃないとダメってことで突きつけたからね」

「ホントお節介な幼なじみね」

「しょーくん優しいから。いいなぁー美鈴」

 

 ここで不意に空気が変わる。

 激しい重圧に美鈴がビクッと体を震わせた。

 ちなみの笑顔が……怖い。

 

「ち、ちなみ?」

「んー、なぁに美鈴?」

「怒ってない?」

「どうしてそう思うの? わたし何も怒ってないよ」

「いやいや怒ってるでしょ。なんか寒気がしてきたわよ」

「羨ましいな美鈴。『絶対に必要』なんてしょーくんに言われちゃってさ」

「あ、あのバカは何てことを……」

「あはは、大丈夫だよ大丈夫。美鈴にはちゃんと内場くんがいるもんね」

 

 美鈴が冷や汗を流してしまう。

 あとで正太郎を叱っておくべきだ。

 もし内場がいなかったら?

 危険極まりない事態になっていたかもしれない。

 一方、正太郎は内場がいる教室へ移動。

 戻った後で報告を済ませておく。

 

「とりあえずカントクが美鈴のストーカーにならないように仕向けておいた」

「真中先輩がそんなアホな事をするほど、しつこく付きまとうやろうか?」

「可能性があったから念のためだぜ。用心するに越したことはないだろ」

「あんま他の女に優しくしなや。端本が嫉妬するで」

「嫉妬に興味あるけど、それはまたの機会で学ぶぜ。でも他の女が幼なじみでもダメなのか?」

「幼なじみやからこそ、ちゅうのもあるんや」

「へえー、女の子って複雑だな」

 

 素直な正太郎に苦笑いをする内場。

 正太郎が動いてくれたのに自分は何もしなかった。

 美鈴の彼氏なのに正太郎みたいな配慮ができていない。

 そんな不甲斐なさを味わった。

 

「なあ東城、次あったら僕に任せてや。僕は美鈴の彼氏やから、美鈴が困るような事態があるなら助けたいんや」

「なるほど確かに。美鈴に関することは彼氏の内場に一任するのが道理。わかった。次があったときは内場が助けてやってくれ」

 

 正太郎に頼らなくても出来る男でありたい。

 そんな男としてのプライドがある。

 美鈴が好きだからこそ、美鈴を大切にしていきたい。

 

「内場、いい面構えしてるぜ。男の顔になった」

「なんやねんそれ? 僕が女に見えるんか?」

「悪い悪い。お前に美鈴を任せて安心してるオレがいるんだよ。うん、やっぱりお前じゃないと美鈴を任せられないぜ」

「そう思うなら、ホンマ僕に任せてほしいわ。東城だけにええ恰好させとうないで」

「了解した。これからは頼らせてもらうぜ親友」

 

 その後、内場を通じて美鈴から怒られてしまう。

 ちなみの嫉妬が怖かった。

 二度とこんな事が起きないようにしろと。

 早速フォローしてくれと内場に頼ってしまった。

 

 放課後、ちなみと一緒に帰る。

 その際、美鈴のことは内場へ一任することを伝えた。

 ちなみは力強く頷いて同意を示す。

 これで美鈴に向けられた正太郎の優しさが自分へ向いてくれる。

 それが嬉しかったようで、瞬く間にヤキモチが解消された。

 

「ちなみ、ちょっと試したいことがあるけどいいか?」

「うん、遠慮しないで言って」

「今、ちなみがオレの腕に抱き着いているだろ。それを逆にオレがやったらどんな気持ちになるかを確かめたい」

「いいよ。どうぞしょーくん」

 

 ちなみの左腕に抱き着いて実験を開始。

 その状態で歩いてみるとリズムが乱れた。

 逆にするだけで勝手が違ってくるようだ。

 

「なるほど、こういう気持ちになるのか」

「どんな気持ちか訊いてもいい?」

「うーん、コイツはオレのモノという変な感情だな。彼女をモノ扱いってどうなんだよって、自分で突っ込みを入れたくなるぜ」

「そっか……えへへ」

「なぜ喜ぶ? 所有物扱いされたら普通は怒る所だろ?」

「しょーくんはまだまだ恋愛の勉強不足だね」

「否定はしないぜ。だから今みたいに実験をして学んでいるんだ」

 

 ちなみは独占欲が強く、好きな人に所有物扱いされることを喜ぶタイプだ。

 自分がそうだから相手もそうだと嬉しくなるのだろう。

 

「しょーくんはわたしのモノって言われたらイヤ?」

「言い方の問題だな。モノじゃなくて彼氏だろって突っ込みを入れる」

「わかった。しょーくんはあたしの彼氏、そしてあたしはしょーくんの彼女。だから誰にも渡さない」

「渡さないという部分にモノ扱いを感じさせる所はあるが、ちなみがオレを本当にモノ扱いしてる訳じゃないし、ものの例えで流したほうがいいのか?」

「そうそう。細かいことは言いっこなしで」

「実験に付き合ってくれてサンキューちなみ」

「せっかくだから、このまま家まで行こうよ」

「周りから変に思われないか? 逆だろって突っ込みが入りそうだぜ」

「気にしない気にしない。ほら、行くよしょーくん」

 

 正太郎に腕を抱き着かせたままで帰宅。

 こんな面白い状態をファンクラブ会長のヒロシは見逃さない。

 こっそりと物陰から撮影。

 その写真を妹の美鈴に見せつけて自慢をするが。

 

「このバカ兄貴!! 盗撮なんてしてんじゃないわよ!!」

 

 生真面目な美鈴に蹴られて激しく説教。

 あとで二人にお詫びをして許される。

 なお、ヒロシがコッソリと撮影するのは、親しい人たち限定であり他では絶対にしない確信犯であった。

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