青春100% 作:完結の陽炎
姉弟の交換日記ノートも何冊目になるだろうか。
時折、交換小説になることもある。
今回は使用人に恋をしたお嬢様が主人公。
時代背景が古く身分差を障害とした恋愛物語が書かれていた。
区切りのいい所まで読み終える。
楽しい現実逃避はここまで。
今から正太郎の苦手な時間が待っている。
「ねーちゃん、予習しに来たぜ」
「わかった入って」
授業についていくためには仕方のないこと。
これをやらないと成績に響いてしまう。
精神的に疲れながらも何とかやり遂げていく。
「そういえばねーちゃんってさ、カッコいい人が苦手だったな」
「なによ突然?」
「カントクは平気なんだなって。オレは弟だから例外として分かるけどさ」
「あのね正太郎、別に私は真中くんがカッコ悪いなんて思ってないから」
「そもそもカッコいい人がダメな理由が劣等感だろう。自分に相応しくないって自信のないヤツにありがちなパターン」
「う、うるさい。関係ないことに口を挟まないで」
「オレはねーちゃんで見慣れてるから美人とか可愛いとか、そんなの全然気にならない。見た目じゃなくて中身を見るし、実際に話してわかることもある。自信がないときは修行をして自分を磨くし。カッコいい人だってひとりの人間なんだって思うようにしている」
綾が苦手と感じることへの共感も伝えた。
正太郎は目上の親に対して苦手意識がある。
親もひとりの人間であると分かっていても割り切れないから。
「案外フツーの人なんだって、そう思えることがコツになるぜ」
「……どこでそういうこと覚えてくるのよ?」
「ねーちゃんの小説、内場の漫画、美鈴の恋愛小説、ちなみとの交際、カントクの映画など色々と学んできたぜ」
お世話になってる姉に感謝を込めて弟からのお節介。
言ってることには一理ある。
綾は文句を言わずに弟のアドバイスを呑み込んだ。
「話変わるけど、最近のつーさんは少し髪伸ばしてきたな」
「おしゃれや流行り、気分転換とか女の子には色々あるからね」
今まで違う自分になろうとする変身願望。
髪を伸ばしておしゃれを楽しむお年頃である。
「髪といえば、ちなみも気にしていたな」
「なにかあったの?」
「以前にオレが髪を撫でて、ちなみから好みの髪型とか長さを質問された」
「正太郎は何て答えたの?」
「髪が長かったら色々な髪型にできて楽しそうだなって言った」
純粋にそう思っての回答である。
それ以来ちなみは髪を短くすることがない。
綾ぐらいの長さを目標としていくようだ。
「髪を変えたら気付いてる? 彼女にちゃんと言ってあげてる?」
「そりゃあ分かりやすいからな。毎日顔を合わせているし。いいなって言って髪を触らせてもらってるぞ。オレには覚醒モードがないからマジで羨ましいと思うぜ」
「うーん正太郎らしいけど、ちゃんと褒めてあげてね。好きな人にそう言われるだけで嬉しいから」
「彼氏の好みに合わせる女心ってヤツか。オレ、見た目の変化だけで状態異常にはならないけど、ちなみの髪はいい香りがするし、触ってると気持ちいいからそういう意味では状態異常かもな」
香りも色々とあって奥が深い。
フローラルという花の香り、フルーティーな甘い果物、清潔感のある石鹸、柑橘類の爽やかな香りなど多種多様だ。
色々試して自分のスタイルに合うものを探す楽しさもある。
「好みの香りって言われても、実際に嗅いでみないと分からない。自分だけの香りを作って、これがちなみだと分かるようにしたいみたいでさ。色々試していたぜ」
「ちなみちゃん、本気なんだね」
「そういう約束だからな。お互いに本気で相手をするって。で、香りはフローラル系がちなみのスタイルに合うらしい。その匂いでちなみだと分かるようになってきたぜ」
香りによる恋愛感情の刺激でスキンシップの欲求が高まる。
キスしたい、抱きしめたい、手を繋ぎたいなど。
理性で自重していることを促す魅惑的な香りだ。
ちなみとしては望む所で、いつでもウエルカムである。
後日の放課後、久しぶりの演技を楽しんでみた。
勉強の復習ばかりではストレスが溜まるから。
今回は淳平の映画から社交ダンスをするシーンを参考にする。
学校のフォークダンスとは違った激しい動き。
うろ覚えな所が多くてほとんど素人のアレンジとなる。
ノリノリで一緒に踊れたらいいという流れだ。
「台詞ないから楽かと思ったのに。ダンスが激しくて大変だったぜ」
「しょーくん、何度かコケそうになったよね」
「そういうちなみこそ、足を踏みつけそうになってたぞ」
「ふ、踏まなかったから問題なし」
「しかし、立ち入り禁止の屋上で演技ってどうなんだ?」
「バレなきゃオーケー。悪いことしてる自覚はあるけど」
「スタジオ借りるにも金がかかるからな。公園は全く人目がない訳じゃないし」
塔屋に姉がいることは承知の上。
一言添えてはいるので姉の存在は気にしない事とする。
小説を書くのに邪魔になっていなければいい。
「お姉様って美人だね。メガネ外して髪ほどくとスゴイよ」
「覚醒モードだからな。ああいう時のねーちゃんが書いた小説の完成度がマジすげぇぜ」
「わたしはしょーくんが書く小説も充分にスゴイと思うけど」
「まあ、比べる相手が悪すぎる自覚はあるけどな。さて長居は無用。そろそろ出ようぜ」
「うんそうだね。あ、お姉様お邪魔しました!!」
「邪魔したなねーちゃん!! 先に帰るぜ!!」
塔屋の上から気になったのだろう。
正太郎とちなみの様子を見ていた綾。
二人が立ち去った後、滑らかにノートを書く。
演技をする二人を見て創作意欲が沸いたようだ。
………………。
…………。
……。
寒い冬休みを迎える。
夏休み同様に宿題を一気に完了させた正太郎たち。
唯は再び美鈴の家でお世話になる。
「唯の再会を祝して乾杯」
「かんぱーい!!」
美鈴の部屋にて、正太郎と唯が缶ジュースの盃を交わす。
美鈴・ちなみ・内場、そしてシャッターチャンスを逃さないヒロシがいる。
人懐っこい笑顔で元気な唯は相変わらずだ。
淳平の近況を知りたいようで正太郎へ話をおねだり。
途端に美鈴の機嫌が悪くなった。
「しょーたろ、何かあったの?」
「終業式の日、ねーちゃんが久しぶりにドジやらかしてな。カントクを巻き込んで絡み合ったのをオレたちが偶然に見てしまったんだよ」
「あちゃー。じゅんぺーのことだから、スケベなことしちゃったんでしょ?」
「誤解だと言い訳するカントクに美鈴からは不潔呼ばわり。ある意味、内場が描くラブコメ漫画の参考になったんじゃないか?」
「あんなんベタすぎて参考にならんで。ほら美鈴、そろそろ機嫌なおしや」
「無理よ!! だってあのヘンタイ、パンツを見ただけでなく触っていたのよ!!」
「唯、その場にいなかったけど想像できちゃうな」
決してわざとではない。
もつれあった時にたまたま綾に触ってしまったのだ。
それでも目撃者の美鈴は嫌悪感を露にしている。
ただでさえ淳平に対しての印象が良くないのに。
「ねーちゃんがやらかした事だし、オレはカントクに迷惑かけたと謝ったけどな」
弟の立場として淳平にお詫びはした。
ちゃんと内場を頼って美鈴をなだめてもらっている。
しかし淳平の話題になれば不機嫌になる始末。
もはや禁句になりかねない事態だ。
「ヒロシ兄さん、あの後のカントクはどうッスか?」
「この世の終わりみたいな顔をしてたよ。いくら僕が励ましても反応なかったし重症だったね」
「美鈴が見てしまったのはマズイッスよ。カントクに対する評価が一気に下がったんで」
「うん、底抜けに落ちたね」
「いい映画作って挽回するしかないッス。それでも美鈴が手伝うかは分からないけど」
「それなんだけどね……いっそのこと、キミらで独立したらどうだい?」
独立という言葉にいち早く反応をしたのが美鈴。
わが意を得たりとばかりの閃き。
そんなことを他所に正太郎が会話を続ける。
「ヒロシ兄さん、美鈴を監督にして自分たちで映画を作れってことッスか?」
「そうだよ。キミらが揃って美鈴に協力すれば、素晴らしい映画が作れるんじゃないかい?」
「無理ッスよ。ねーちゃんがカントクの脚本を書く以上――」
「アンタが書けばいいじゃない」
美鈴が不敵な笑みを浮かべて言い放った。
この上ない期待を乗せて断じている。
まるでこれが最良だと言わんばかりに。
「最強のねーちゃんを敵に回して戦えと?」
「超えるんでしょ、その最強のお姉さんを。だったらやりなさい」
「ねーちゃんの脚本で映画を作りたいって言ってたくせに」
だから正太郎も今まで独立の提案をしなかった。
美鈴ならそのほうがいいと分かっていてもだ。
「アンタが作る脚本で映画やるほうが面白い。今まで気付かなかったのが不思議ね」
「畑違いの脚本でねーちゃんと対決か……勝算はあるのか監督?」
美鈴に向けて監督呼びをする。
それが美鈴に最高の気分を与えた。
正太郎の意志を強く感じたから。
「演技でちなみ、音楽で唯がいるじゃない」
「唯はカントクの味方に――」
「唯もこっちがいい!! 絶対にこっちのほうが面白いもん!! じゅんぺーが忘れられないスゴイ映画にするんだ!!」
「ちなみはいいのか?」
「わたしはしょーくんと共演できればOK」
「内場は言うまでもないか」
「愚問やで東城。まあ、僕にできることがあればええけどな」
「カメラマンがほしいから、そっちを何とかしてほしいぜ」
「あ、それなら僕が教えようか? カメラの扱いは慣れているからね」
「ヒロシさんおおきに。メッチャ助かります」
結束力が一気に高まっていく。
中学1年メンバーのやる気が上昇。
本当にやりたい事が見つかった瞬間である。
「美鈴に改めて確認するぜ。あのカントクと映画で勝負するために独立でいいんだな?」
「二言はない。これ以上の問答も必要ないわよ」
「わかった。ヒロシ兄さん、カントクに伝えてほしいッス」
「うん。僕からちゃんと伝えておくから、美鈴をよろしく頼むよ」
ヒロシの発案で一気に流れが変わった。
もはや止めることは誰にもできない。
あとは流れゆくまま思うがままに進むしかない。
………………。
…………。
……。
中学1年生の冬で当分先の話。
それでも使える時間は限られている。
中学の勉強で時間を奪われてしまうから。
高校受験の対策も含めて考えないといけない。
各自の都合も考慮しながらの準備となる。
別の日、具体的な計画を練るためにサシで話し合いをする。
淳平側からはヒロシ、美鈴側からは正太郎。
場所はヒロシの部屋である。
「アイツらオレに丸投げしやがって。代表者はカントクと美鈴だろうが」
「あの二人でまともな話し合いができると思うかい?」
それを言われると返す言葉がない。
速攻で美鈴から手を出すし足も出すだろう。
そんな未来しか想像ができない。
「対決の舞台は泉坂高校で決まりッスね」
「そうだね。皆の志望校がそこなら決定だね」
「今の泉坂高校に映画の部活ってあるッスか?」
「それがね、昔はあったけど今はCG部になっているんだよ」
「それって映画作りとは全然違う部活ッスよね?」
「そうなんだよ。だから僕らは映像研究部、略して映研を立ち上げるつもりさ」
部活の立ち上げを一足先に考えているヒロシ。
美鈴から変態呼ばわりされている兄だが油断は禁物。
正太郎はその場の雰囲気に当てられて対抗意識を燃やす。
しっかりと気を引き締めてヒロシに強く言った。
「そっちが研究ならオレらは制作。映画制作部、略して映制で勝負ッス」
「おっ、センスがいいね正太郎くん」
「映像の研究にこだわるカントクと、映画の制作にこだわる美鈴。どちらもいい映画を作りたいという共通点はあるけど、そこに至るまでのやり方に違いがありそうッスね」
「だからこそ競い合いをする価値があるんだよ」
ヒロシは大いに楽しむ。
淳平や小宮山とバカな話をするのも好きだが、こうして真面目な話をするのも悪くない。
美鈴が感情的になりやすいから、冷静に話し合える正太郎の存在は貴重だ。
だからこそ丸投げをされたのだろう。
「部の立ち上げ条件、やっぱり人数多くないと無理ッスか?」
「5名だからお互いにクリアしてるよ」
「あとは部費の確保が問題で、それがないと勝負が成立しないッス」
「キミたちが入学したら、バイトを紹介できるように準備しておこうか?」
「オレの一存では決められないッス。決定権は監督の美鈴にあるんで」
「うんうん、美鈴は良き友達良き仲間を持ったね。兄としては鼻が高いよ」
「美鈴には言っておくッスよ」
正太郎は苦労をしながらもヒロシとの話を進めた。
美鈴たちの期待に上手く応えてみせた。
あとでちなみから膝枕の耳かきで癒してもらったのは余談である。
………………。
…………。
……。
自室の机に卓上の仕切りスタンドを乗せて集中をする。
ノートを広げて、自由発想法の連想をしつつ脚本を模索。
姉を超えるためのシナリオ作りに苦心していく。
「正太郎、ご飯ができたから下りてきなさいって」
扉越しに声掛けをされて思考を中断。
席を立ちあがりドアを開けて応じる。
「わかったよ……なあ、ねーちゃん」
「ん? どうしたの?」
「カントクと美鈴がお互いに映画を作って対決する流れになっているのは知ってる?」
「うん。外村くんから話は聞いたよ」
知っているのならば話は早い。
ここで姉に向けて探りを入れる。
「ねーちゃんとしてはどうなの? 皆で仲良く映画を作ろうってのが理想じゃないのか?」
「そうだけど、美鈴ちゃんの意思を尊重したいな。そっちのほうが美鈴ちゃんにとっては良い事だと思うの」
「なぜそう思うんだ?」
「だって、美鈴ちゃんは私の脚本よりも、正太郎の脚本で映画を作るほうが喜ぶから」
「……その割に嬉しそうだな」
「うん、私は楽しみにしてるよ。正太郎が書くオリジナルの脚本」
「厄介な話だぜ。けどまあ、引き受けた以上は本気でやるさ」
「うん頑張って」
「チッ、余裕ぶりやがって」
このままでは分が悪いと感じて切り上げた。
映画の急所となる脚本は責任重大。
そんな美鈴への信頼に応えなければならない。
姉を超えるためにも全力で取り組んでいく。
翌日、つかさの部屋で談笑する綾。
いつもと違うのは立場が逆であること。
綾が話し役でつかさは聞き役だ。
「へえー、弟くんが自分で脚本を書くんだ」
「うん」
「わー、すっごい笑顔だね綾。映画の脚本を通じて弟くんと対決するのに」
「一度でいいから、正太郎のオリジナルを見てみたいと思っていたの」
「でも弟くんって原作がないと書けないんでしょ? オリジナルは無理って言ってなかった?」
「大丈夫。絶対にスゴイ脚本を書けちゃうから」
「うわー、弟自慢するお姉ちゃんってそんな顔するんだね」
長年、交換日記を通してきたからこその自信。
正太郎の創作は決して劣るものではない。
その可能性を一番の楽しみとする姉であった。
………………。
…………。
……。
淳平の部屋へ遊びに来たヒロシ。
そこから聞かされた話が寝耳に水となる。
美鈴を監督とした映画制作部からの宣戦布告。
メンバーは正太郎・内場・ちなみ・唯の1年生で揃っている。
「じ、冗談だよな外村?」
「本当のことだよ真中。僕と正太郎くんで話し合いもしたから間違いないからね」
「あんなキツイ言い方をする女が監督なんて務まるのかよ」
「向こうには正太郎くんと内場くんがいるからね。特に正太郎くんは真中も知っての通り、美鈴との相性が抜群にいいのさ」
「ああ、あの時に思い知った。東城弟と外村妹の後輩コンビが映画作りに欠かせないって本気で思った」
「映像研究部の僕らにとって、映画制作部は最大の脅威となるだろうね」
「その割に楽しそうだな外村」
「もちろん。お互いに良い映画が作れるように頑張ろうって話し合ったからさ」
淳平が動揺する様子を面白そうに見つめるヒロシ。
こうなることが分かった上で話したのだろう。
「さて真中、美鈴たちと勝負する以上、監督のキミがしっかりしないとね」
「うっ……や、やるしかないのか?」
「やるしかないね。まだまだ時間はあるからじっくりと準備しようか」
「わかった。やってやる。あんな女に負けない映画を作って見返してやる」
「その意気だよ。きっと美鈴も同じことを思っているさ」
淳平が次にとった行動は東城家へ向かうこと。
あまり深く考えず勢いのまま会いに行った。
その綾に出迎えられて部屋へ入る。
「東城の弟は出かけてるのか?」
「うん。美鈴ちゃんに呼び出されて、映画制作部の打ち合わせに行ったよ」
その言葉を聞かされて淳平に緊張が走る。
正太郎は脚本、演技、交渉など多方面で活動をする。
味方にいれば頼もしく敵に回れば恐ろしいタイプだ。
「東城の弟が敵に回ると、こんなにも緊張感が出るなんて思わなかった」
「……クスッ」
「東城?」
「あ、ごめんなさい。真中くんが正太郎のことを凄く評価してるんだなって」
「だってオレのことを調査してたって聞くし。二次創作は読めなかったけど、スゴイ文字だったことは分かったし。さすが東城の弟だなって」
弟を褒めてくれたら姉としては嬉しいものだ。
まして気になる人から言われたら尚更である。
「後輩に負けたくない。アイツらが認めるスゴイ映画を作りたい」
「うん作ろう真中くん、私も頑張るから」
ライバルの出現が淳平を奮い立たせる。
その姿を見て綾は心の底から協力をしたいと思った。
世界を共有できる特別な人だから。
一方その頃、美鈴の部屋での打ち合わせ。
監督の美鈴が仕切って話を進めていく。
参加者は正太郎・ちなみ・内場・唯である。
「映画制作部ってええな。誰が決めたん?」
「オレだ。ヒロシ兄さんが映像研究部を名乗ったから対抗するために名付けた」
「唯、その名前いいと思う。じゅんぺーたちに負けてないよ」
「さすがしょーくんだね。美鈴もそう思わない?」
「アンタにしては上出来よ。じゃあ、その映画制作部を立ち上げるための計画を立てるから」
淳平たちと勝負をする以上、受験先は泉坂高校で決定だろう。
そのための勉強も少しずつ計画的にやる事とする。
誰か一人でも欠けてしまっては、部の設立が不可能になるからだ。
「監督はあたしだけど助監督がいないのよね」
確定していることを挙げてみる。
監督は美鈴、脚本は正太郎、出演はちなみ、音楽は唯、カメラマンは内場。
最低限の一人一役で公平に分配はされている。
美鈴を補佐する空きの助監督は誰にしておくのか?
「内場がいいと思う。オレは脚本と出演で二つ掛け持ちになるだろうから」
「うーん、僕としては東城が一番適任やと思うけど、さすがに三つはやり過ぎやな」
「出演なしだったら引き受けるぜ」
「しょーくんが出ないんだったらわたしも出ないよ。そこは譲れないから」
「という訳で内場、よろしく頼むぜ」
「まあ、僕でよければ美鈴を支えるで」
美鈴は照れているのか黙って顔を背ける。
顔を赤く染めてしまうが誰も茶化すことはしない。
気を取り直すように咳払いをしてから話す。
「あたしたちが中学3年になった時、向こうは高校1年になる。先に映画の作品が出来ると思うから、そこは注目すべき所よ」
「部費の確保という課題があるから、すぐに映画作り開始という訳にはいかないだろ?」
「そうね。アンタの言う通り、部費がなかったら勝負するも何もあったものじゃないわ」
「全員でバイトして稼ぐとして、夏休みまでには活動できたらいいな」
「しょーくん、部費っていくら必要なの?」
「せやせや、具体的な数字がわからんと、バイト計画の日数も計算できんで」
「必要な機材の値段を調べない事には何とも……オレとちなみでやっておこうか?」
「わたしたちに任せて美鈴。えへへ、しょーくんとデートだ」
「あのね……ま、やるべき事をやってくれたらいいわよ」
今後も映画制作部は事前の準備に力を注ぐ。
遠方の唯も手紙や電話で情報共有を怠らない。
これも対決する映像研究部に勝利をするため。
監督の美鈴を中心に励んでいくのであった。