青春100%   作:完結の陽炎

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第15話「進級した映制のスパイ活動」

 月日が流れて進級の春を迎える。

 3年生で同じクラスになったのは淳平・小宮山・ヒロシ・綾。

 違うクラスになったのはつかさだけである。

 2年生で同じクラスになったのは内場・美鈴・ちなみ。

 違うクラスになったのは正太郎だけである。

 

「なんで!? なんでしょーくんだけ別のクラスなの!?」

「ついとらんな東城」

「まあ仕方ないさ。二人ともちなみをよろしく頼むぜ」

「まったく。ほらちなみ、みっともないからギャーギャー騒がないの」

 

 内場と美鈴で何とかこの場を収めてもらう。

 別の教室へ入った正太郎はマイペースに授業を受けた。

 休み時間にちなみの様子を見に行くことも忘れない。

 ヒマだからと言い訳をした上で会っておく。

 どうにも顔を見ないと落ち着かない。

 恋煩いがランダムで発生をするから予防も兼ねている。

 その際、内場に話しかけられた。

 

「東城以外で男の友達がおらんから寂しいで」

「そいつは奇遇だな。オレも内場以外で同性の友達がいない」

 

 同じ男だからこそ語り合えることもある。

 どちらも肩身が狭く感じる時はあるが慣れるしかない。

 必要な会話程度ならできるので割り切るしかない。

 

「悪い美鈴。当分はちなみの機嫌、直らないと思うぜ」

「そう思うなら映制の活動で返してほしいわ」

「それで早速だが、ちなみを借りていいか?」

「へえー、なにするつもりよ? アンタのことだからまた何かするんでしょ?」

「大したことじゃない。ただの敵情視察だ。つーさんがオレと同じはぐれ者になったらしいから様子を見てくる」

「東城、お昼はどないするんや? 食べてから行くんか直行か?」

「つーさんの都合もあるからアポ取るわ。ちなみ、やってくれない?」

「アポ取りね。りょーかい。できたらしょーくんの所へ知らせるから」

「おう、よろしく頼むぜ」

 

 事前にアポを取って昼休みを一緒にしてもらう事にした。

 場所は校庭のベンチ。

 左からつかさ、ちなみ、正太郎である。

 

「いやー、正直参ったね。あたしってクジ運が悪いかも」

「それを言うならオレもッス。ちなみと一緒になれなかったのもそうッスけど、内場と別になったのは痛いッス」

「しょーくん、内場くん以外で男の友達がいないからね」

「内場がいい男すぎるんだよ。他の男だと必要な会話だけで精一杯だぜ」

「そっか。あ、しょーくん。今のクラスで女の子に言い寄られてない?」

「問題ない。ちなみが色々とやってくれたおかげで声掛けもないぜ」

「……ちなみちゃん、何かしたの?」

「大丈夫ですよ。つかさ先輩が心配するようなことはしていませんから」

 

 ちなみの満面な笑顔につかさの表情がこわばった。

 これ以上は深入りをしないほうがいい。

 同じ女だからこそ直感的に感じ取った。

 

「つ、付き合うって色々あるんだね」

「あるッスよ。遊び半分でやってる訳じゃないんで」

「つかさ先輩も彼氏ができた時に分かりますよ」

「知りたいような怖いような。なんか二人を見ているとハードルが高く感じちゃうよ」

「別にオレらの付き合い方をマネしなくてもいいんじゃないッスか? 人それぞれってことで」

「そうですよ。人それぞれの付き合い方がありますから。つかさ先輩はつかさ先輩のやり方でいいと思います」

「ありがとう……あ、今度新作のケーキを作るから、良かったら二人とも食べに来て」

「おっ、久しぶりに回復アイテムのケーキはありがたいッス。ちなみが良ければ味見させてもらうッスよ」

「しょーくんがOKなら行きます」

「オレはOKだから決まりだな。都合のいい日教えてくれたら行くッス」

 

 ここから話を変えていく。

 つかさから去年の授業・宿題・テストに関しての情報を探った。

 2年生である正太郎たちに役立つ可能性が高いから。

 事前に知っておけば勉強の対策が取りやすくなる。

 

「感謝ッスよつーさん。特にテストの情報はありがたいんで」

「去年のテストが丸ごと出題されるとは限らないけどね」

「基本問題は変わないと思うッスよ。それにしても宿題は2年でも容赦ないッスね」

「今年も勉強会で美鈴が大活躍しそうな予感だねしょーくん」

「ああ。美鈴がビシッと仕切ってくれたら、瞬く間に宿題なんて片付けられるぜ」

 

 さらに話は映像研究部に持っていく。

 つかさの知る限り、メンバーは今のところ変更なし。

 増えてもいないし減ってもいない。

 それはそれとして、つかさの進路話を聞かされる。

 

「あたし、お菓子職人パティシエの仕事に興味があるんだよね」

「ほぉー、趣味を通じて進路を考えるようになったッスか?」

「うん。趣味をきっかけに興味を持ち始めたよ」

「いいんじゃないッスか。手探りから始めることで見えてくるものもあるッス」

「弟くんは将来の夢ってある?」

「ねーちゃんを超える小説を書くこと。でもこれはつーさんが言う将来の夢じゃないッスね」

「しょーくん、小説家にならないの?」

「オレは二次創作がメインでオリジナルがほとんどないからな。まだ漠然としてんだよ。そういうちなみはどうなんだ?」

「うーん、わたしは演技が楽しいから、何かそういうのを活かせる仕事を考えちゃうかな」

 

 それぞれ自分を活かせる仕事を希望する。

 まだ中学生ゆえに明確に示すだけのものはない。

 つかさの視察を済ませた後に美鈴へ報告。

 勉強の情報は今後の役に立つだろう。

 

「内場の歴史漫画に敵を知り己を知りがある。次はねーちゃんを敵情視察するぜ」

「しょーくんなら家でお姉様とお話できるんじゃないの?」

「学校だから引き出せる情報があるかもしれないだろ。ちなみと一緒なら尚更な」

「あ、それはあるかもしれないね。美鈴、調査してもいい?」

「アンタたちに任せるわ」

「なんかスパイ活動をしているみたいでワクワクしてきたぜ」

「わたしもそれ思ったよしょーくん。スパイって楽しいね」

 

 二人の様子に美鈴が呆れ顔だ。

 それでも任せてくれるのだから信用を得ている。

 ここで内場から一声が掛かった。

 

「僕と美鈴も何かやったほうがええんちゃう?」

「だったら泉坂高校を詳しく調べてくれよ。オレら、そこまで手が回らんから」

「了解や。何かわかったら伝えるで。美鈴もそれでええか?」

「いいわよ。あたしと貴方で受験先を調べていきましょう」

 

 二組に分かれて調査を開始。

 綾のアポ取りをちなみに頼み、放課後の屋上で話をする予定を作った。

 約束した通りに綾が屋上で待ってくれている。

 今回はおさげとメガネの地味な変装をした状態。

 フェンスの近くに立っていた。

 

「お待たせしましたお姉様」

「ううん大丈夫。そんなに待ってないから」

「しょーくん、どんなお話をするの?」

「とりあえず、お互いに書く脚本についてのルールは必要だと思う」

 

 成人向けの除外、残酷な暴行や殺人を控える、実現不可能なシナリオは作らない等。

 明らかにアウトの判定になるような脚本を書かないこと。

 両者がこれに異を唱えるはずがない。

 

「オリジナルだから盗作は厳禁。双方の脚本でパクリ合いも禁止としようぜ」

「うん。当然そうだね」

「実現不可能なシナリオというのは、例えば出演が二人しかいないのに十人以上もいるような無茶なシナリオにしているとか、そういう極端な話な。一人二役みたいな場合があるから、この辺りは脚本家が判断して書けばいいと思うぜ」

「非現実的なSFやファンタジーはどうするの?」

「演出で可能なら別に有りでいいと思う。やるやらないは監督に決定権があるから、そっちで相談でいいんじゃね?」

「わかった。予算があるから、それに適したシナリオにしないといけないね」

「確かに。予算オーバーするシナリオは実現不可能って事で注意が必要だぜ」

 

 創作家としての真面目な話し合い。

 ハキハキとした言葉の攻防戦。

 そんな両者のやり取りにちなみは見惚れていた。

 

「ま、要するに常識の範囲内で書こうって話だな」

「でも、その常識だって人によって違うから。今みたいに話し合うのは大事だからね」

「ねーちゃんの脚本と内容が被ることはないと思うけど、あまり被りすぎるようなら考えるぜ」

「大丈夫。正太郎がオリジナルを書くなら私と被らないから」

「その根拠は?」

「私が正太郎のお姉ちゃんだから」

「答えになってないけど別にいいや。それにしても、随分と白熱したな」

 

 集中をすると人は時間の感覚を忘れてしまう。

 正太郎と綾にはアッという間の出来事だった。

 夕焼けをバックにして綾が楽しそうに口を開く。

 

「ちょっとはしゃいでしまったかも」

「ちょっとだと……あれだけ真剣なオーラ出しておいてよく言うぜ」

 

 忌々しそうに睨む正太郎。

 姉の存在が巨人のごとく見えた。

 本気を出させるだけのプレッシャーもあった。

 

「覚醒モードじゃないから命拾いした気分だ。なんかハンデつけられたみたいでムカつくけど」

「そんなことないよ。正太郎だって人のこと言えないから」

「あいにくオレは変身できないよ。ねーちゃんやちなみが羨ましいぜ」

「ふえっ!?」

「なんだよちなみ。ボーとしてたけど退屈だったか?」

「そんなことないよ!! 真剣にお話する姿に見惚れてたの!!」

 

 顔を真っ赤にしてムキになるちなみ。

 優しく微笑む綾と照れたように頭をかく正太郎。

 こうして綾の敵情視察は完了した。

 後日、美鈴と内場へ情報を持ち帰る。

 

「ヤバかったぜ。さすが最強ねーちゃんだ」

「でもしょーくんもカッコ良かった。キリッとした顔でバサバサって切り返すように話をして」

「惚気はまた今度聞いてあげるから今は自重しなさい」

「東城、脚本でどう立ち向かうんや?」

 

 内場の言葉に正太郎は少し間を置く。

 頭の中でよく考えてから推測を述べた。

 

「ねーちゃんの脚本は恋愛要素を入れてくると思う。ねーちゃん自身が投影したストーリーを書く可能性も高いぜ」

「へえー、それは有力な情報ね。アンタがそう言うなら間違いないでしょう」

「ちゅうことは恋愛シナリオの脚本か。東城の姉ちゃん自身の恋にシナリオを混ぜる感じか?」

「脚本も小説も、作る人の心を映す鏡みたいなものだ。ねーちゃんの書く小説に嘘が書かれたことはない。良くも悪くも正直なんだよ」

「アンタはどういうシナリオで勝負するつもり?」

「自分を投影させるなら、超えるべき相手に奮闘するアクション系になりそうだな。お前らも知っての通り、オレはねーちゃんを超える野望で今までやって来てるから」

「アクションか。相手の脚本と被る心配はなさそうやな」

「アンタの根幹がそこにあるのは知ってるわよ」

「しょーくんならスゴイ演技すると思う。わたしも張り切ってガンバるね」

「あくまで投影したらの話な。今の所は仮ということで参考程度に留めてくれ」

 

 残りのターゲットは淳平・ヒロシ・小宮山。

 なるべく個別に調査をしたほうが情報を得やすい。

 しかし……。

 

「次はカントクとコミさんの二人組で調べてみようと思う」

「へえー、二人まとめて調べるつもりなの?」

「コミさんは暴走しやすい感じがあるからな。カントクを盾にしたほうがいい。この二人に関しては、オレと内場で探らせてほしい」

「えぇー!! どうしてわたしはダメなの!?」

「男二人を相手に同じ男二人にしたほうが情報を得やすいからだ」

「……本音は?」

「なんだよ美鈴、他に何があると思ってるんだ?」

「ちなみを関わらせくないんでしょ? アンタがヤキモチする所なんて初めて見たわ」

「ホンマやな。東城が嫉妬するなんて僕も初めて見たわ」

「そ、そうなのしょーくん?」

「……コミさんがヤバいんだよ。あの人すげぇパワーあるからな。暴走した時にオレでは対処しきれない。カントクを盾にしても時間稼ぎが関の山。そんな危険な所へちなみを近づけたくないと思うのは悪いことか?」

 

 小宮山を紹介してもらった時の印象から推測する。

 背中を叩かれた時の打撃力が半端ではなかった。

 淳平との口喧嘩からも暴走しやすい様子が見てとれた。

 

「という訳で内場、悪いけど協力してくれ」

「受験先を調べとる最中やけどな。美鈴、少しの間だけこっちやらせてくれんか?」

「いいわよ別に。少しの間なら貸してあげる。ちなみも彼氏の気持ちを汲み取って遠慮しなさい」

「う、うん……えへへ、しょーくんがヤキモチか……ああもうぉ、顔が熱くなってきちゃう」

 

 身悶えをして喜びを表すちなみ。

 危ない所から守るために最初から近付けさせない。

 その合理的な判断を嫉妬と呼んでいいのか?

 正太郎の恋愛レベルではまだ自覚ができない。

 

「で、東城。どうやって二人と話すんや?」

「カントクはオレたちを警戒していると思う。まずはそこを解く必要があるぜ」

「せやな。遊びに行く形で誘うのがええんやろうか?」

「コミさんとどうやって知り合ったのかとか、そういう昔話をネタに近付くのもありだな」

「ほなヒロシさんを通じて予定を尋ねたらええんちゃう?」

「そうだな。ヒロシ兄さんに仲介してもらうのが無難か。それでいこう」

 

 作戦は決まったのでヒロシに仲介役を依頼する。

 二人のことをもっとよく知りたいから遊びに誘いたい。

 特に小宮山は紹介されただけでよく分からない。

 確かに敵の立場だが、共に良い映画を作ろうとする仲間でもある。

 喧嘩がしたい訳ではないし、憎しみ合ってる訳でもない。

 そんなことは双方ともに望んでいないという主張をした。

 

「キミらの言い分はもっともな事だね。でも誘って応じるかは真中と小宮山次第だよ」

「構わないッス。嫌なら引き下がるんで」

「わかった。僕から言っておくよ。返事はまた今度伝えるから」

 

 結果、淳平は警戒をしていたが小宮山がOKを出した。

 面白そうだからという単純な理由で。

 それに引っ張り込まれる形で淳平も了解を出す。

 ヒロシから返事を受け取った正太郎。

 遊びとしてボーリング・バッティングセンター・ゲーセンを提案する。

 小宮山のパワフルなプレイが見たいという理由も添えた。

 

「東城、小宮山先輩を狙い撃ちやな」

「今回はコミさん中心でスパイしてみようと思う」

「真中先輩はどないするんや?」

「別に一回だけで終わりにしなくていいだろ。何回か分けて接近すれば警戒も解けるだろうさ」

「地道にちょっとずつジワジワ作戦か。東城は頭が回りよるな」

 

 休日に男たちが集まってのボーリング。

 小宮山が勢いに乗って力強くボールを転がす。

 パワーは凄まじくてもコントロールが悪くてガーター炸裂。

 最下位の点数でガックリと頭を下げてしまった。

 

「コミさん、お疲れッス。次のバッティングセンターで挽回ッスよ」

 

 移動中に正太郎は小宮山と雑談を繰り出す。

 大半は小宮山のつかさに関する話で占められた。

 一部は淳平との出会いと淳平の空想癖を知った程度である。

 

「あのさ、えっと……」

「内場って言います。真中先輩とあんま接点がないんで、覚えとらんのは気にせんでいいですよ」

 

 年上相手により、多少の訛りが混ざりながらも敬語を使う。

 これは現時点での正太郎にはできないことである。

 淳平は不思議そうに内場へ問う。

 

「どうしてオレたちと遊ぼうって思ったんだ?」

「そうですな。僕らは別に真中先輩たちを嫌っとりませんし、部活で対立するからって個人的に遊んだらアカンという決まりはないでしょ?」

「うんまあ、そうだけど。でも争う相手と仲良く遊ぶってのは……」

「それはそれ、これはこれなんですよ。見て下さいな東城のあの様子。単純に小宮山先輩と遊んでみたい、知ってみたいちゅう感じに見えません?」

「うん、東城弟って意外に小宮山と合うのかな?」

「東城は姉ちゃんはおっても、兄ちゃんがいないですからね。せやから小宮山先輩を兄ちゃんみたいに思っとるかもしれないですよ」

「そっか。ああいう顔もするんだな東城弟って」

 

 小宮山の力こぶを触って大はしゃぎをする正太郎。

 いつもと違う無邪気な姿にギャップを感じた。

 

「コミさん、次のバッティングセンターで先にホームラン出したほうがジュース奢りでどうッスか?」

「おういいぜ!! かかってこいよ東城弟!!」

「いざ尋常に勝負ッス!!」

 

 二人の掛け合いを見て淳平の警戒が解けていく。

 確かに勝負するからといって個人的に仲良くしてはいけないルールはない。

 正太郎が嫌っていないことは態度で分かることだ。

 

「真中先輩、確かに美鈴は真中先輩を嫌ってると思いますが、それは美鈴の気持ちであって、僕らの気持ちとは関係ないんですよ」

「うん。何かごめんな。そっちを疑うような感じで見てしまって」

「とりあえず僕は美鈴の彼氏なんで、何かあったら僕に言って下さい」

「……えっ!? あの女に付き合ってるヤツがいたのか!?」

「ここにいますよ。あとあの女呼ばわりはちょっと遠慮してほしいですね」

「ご、ごめん!! えっと、外村妹でいいかな?」

「オーケーです」

 

 内場と淳平のやり取りをしている間にバッティングセンターへ到着。

 正太郎と小宮山で真っ向勝負。

 結果、小宮山のまぐれ当たりでホームランを出しての勝利となった。

 

「だっはっはっはっ!! どうだ見たか東城弟!!」

「見た見たッスよ。それでドリンク何するッスか?」

「炭酸くれ!!」

「どうぞっッス」

 

 豪快に炭酸ドリンクを一気飲みをする小宮山。

 その普通じゃない飲みっぷりに驚く正太郎。

 

「オレ、炭酸一気飲みできないッスよ。すぐゲップ出るんで」

「そうか? 俺は普通に飲めるぞ」

「どんな胃袋と喉してるんッスか? 頑丈すぎるッス」

 

 外側の筋肉だけでなく内側の筋肉も並外れているようだ。

 小宮山は物理的な意味で最強かもしれない。

 

「小宮山は階段から落ちても大したケガしなかったしな」

 

 淳平の言葉で正太郎は思い出す。

 ある噂を耳にしたことがあるのだ。

 

「3、4階から落ちても無事だったという武勇伝。あれってコミさんだったんッスか?」

「僕もそれ聞いたな。下手すれば即人生終了やで」

「でっへっへっ、そんなに褒めるなよ。照れるじゃねえか」

「カントク、コミさんって何者ッスか? まさか宇宙人?」

「うんまあ、そう言いたくなる気持ちは分かるよ。妖怪みたいなヤツだし」

「誰が妖怪だこら!!」

「お前だよ小宮山!!」

「おっとゲーセン着いたッス。コミさん、今度は格ゲーで勝負を挑むッスよ」

「だっはっはっはっ!! 次も俺が勝つぜ!!」

「いざ勝負ッス!!」

 

 格ゲーの経験不足でフルボッコの惨敗となる正太郎。

 回数をこなせば慣れてくるがお金の都合で断念。

 帰り道で小宮山からはつかさの話が再び出てくる。

 それを上手くかわすようにして正太郎が応じた。

 

「映像研究部でコミさんが演じたらインパクトすごいッスね」

「げへへっ、そんなに褒めるなよ」

「多分褒められてないぞ小宮山」

「それはそうとカントク、ねーちゃんは間違いなく最強の切り札ッスよ。これから色々あるかもしれないけどよろしくッス」

「……オレは東城弟もすげぇと思ってるんだ。ぜひ映研に来てほしい」

「それなら映制に勝つことッス。美鈴を認めさせるカントクの映画、楽しみにしてるッス」

 

 今も正太郎は淳平の夢を応援している。

 敵の立場になろうとも関係ない。

 個人的に思うことは今も変わらない。

 

「コミさん、今日は楽しかったッス。また今度、ヒマがあったら遊んでほしいッス」

「いいぜ東城弟!! また次も遊ぼうな!!」

 

 小宮山に気に入られる正太郎。

 二人が兄弟のように仲良くなったのを見届ける内場。

 淳平は得難い存在の正太郎をより高く評価した。

 

 後日の放課後、美鈴とちなみへ伝達タイム。

 正太郎がほぼ小宮山と遊んでいたため内場が報告をした。

 美鈴の眉が潜め、ちなみが無表情となる。

 二人が不機嫌になった理由は……。

 

「引き抜きしようなんていい度胸じゃない」

「へえー、しょーくんを奪おうとしたんだ真中さん」

「オレは断った。誘うなら映制に勝ってから言えって話だぜ」

「僕らの映制から映研に寝返るヤツなんて一人もおらんで」

 

 裏切りの心配は誰もしていない。

 それでも淳平の誘いは美鈴とちなみの怒りを買った。

 正太郎は不思議に思う。

 女であれば浮気や二股で理解できるが相手は男だ。

 

「同性相手でも嫉妬があるのか、勉強になるぜ」

「なに呑気なこと言ってるのよアンタは」

「そうだよ。しょーくんは真中さんに狙われてるんだよ?」

「嫉妬するってことは恋敵だよな? ってことはカントクがオレに……へっ?」

「なんやえらい誤解しとるようやな東城。安心しい、真中先輩は同性愛ちゃう。ノーマルや」

「男が男を好きになるってあるの? 美鈴の恋愛小説にはなかったぞ」

「アンタは知らなくていいから。ちなみ、ちゃんと見張ってなさいよ」

「言われるまでもないよ。しょーくんにそっちの世界なんて行かせないから」

「どこの世界だよちなみ?」

 

 よほど感情が揺さぶられて不安定になったのだろう。

 ちなみが一言ことわってから正太郎を引っ張っていく。

 向かった先は屋上。

 誰もいないことを確認。

 今日は綾が不在。

 淳平の勉強で図書室にいるからだ。

 

「寂しかったんだから」

 

 ちなみの切ない表情に正太郎は思わず手を伸ばす。

 彼女の髪を撫でることが癖になってきた。

 屋上の風が吹き、ほのかにフローラルの香りがする。

 

「ちょっと長くなったな」

「まだお姉様ほどじゃない」

「……学校だからダメだと頭では思ってるんだけど」

「人目につかない所ならイヤじゃないよね?」

 

 正太郎は黙り込んでから行動で示す。

 ちなみを力強く抱きしめてしまった。

 スキンシップの欲求に支配されて制御ができない。

 しばらくして苦しそうに呻くちなみで我に返る。

 

「わ、わりぃ。感情が上手く制御でき――んむっ!!」

 

 お互い様だと行動で返された。

 抱き返してから背伸びの口付けで言葉ごと奪われる。

 心の準備ができてなかった正太郎。

 不意を突かれて目を大きく見開いたままだ。

 ちなみの熱を帯びた吐息。

 身体から感じる女の子の柔らかい感触。

 密着している所からドキドキと激しい鼓動が止まらない。

 

 ――愛情すごい。溢れて注がれて。何も考えられない。

 

 立っているのが辛くなってきた。

 ちなみの両肩に手を乗せて自分を支える。

 気付けば塔屋の壁に正太郎の背中が押し付けられている。

 そのままちなみがしゃがむと正太郎が尻もちをつく。

 急な動きで対応ができなかった。

 唇は離れたが、覆いかぶさるようにしてちなみが大胆に迫る。

 正太郎は目を閉じて待ち、ちなみは応えて唇を重ねた。

 

「んっ……んんっ……むんっ……っ」

 

 ぬるま湯に浸かるかのような心地よさ。

 ひたすら脱力してしまい手を床へ寝かせる。

 鼻の呼吸に集中し、時折唇が微かに離れて無意識の口呼吸。

 酸欠で正太郎が気を失わないようにちなみがリードしていた。

 同じ失敗は繰り返させない。

 ひときしりキスを交わした後でゆっくりと離れていく。

 お互いに目を開けて間近に見つめ合う。

 そこに言葉はないが目は語る。

 照れ笑いをするちなみ。

 それに見惚れてボーとしてしまう正太郎。

 キスの余韻がまだ抜けていない。

 

「好きだよしょーくん、大好き」

 

 耳から幸せを届けてくれる。

 お返しの言葉が咄嗟に出てこない。

 色々なことを返したいのに上手くできない。

 だからシンプルを選ぶ。

 たった一言だけでいい。

 

「好きだ」

 

 これ以上のものはお返しできない。

 不器用な彼氏にちなみはギュっと抱き着く。

 こうしてお互いの愛情を交わし合った。

 

 ………………。

 …………。

 ……。

 

 最後のターゲットはヒロシ。

 小宮山のような警戒はいらないのでちなみを同行させる。

 場所はヒロシの部屋だ。

 

「いらっしゃい正太郎くん、ちなみちゃん」

「ヒロシ兄さん、ウィッス」

「こんにちはヒロシさん」

「二人とも、以前よりさらに親密になったね」

 

 正太郎の左手とちなみの右手が固く結ばれている。

 指を絡め合う恋人繋ぎ。

 人前で恥ずかしくないと言えば嘘になる。

 それでもあえて繋ぐのは理由があった。

 

「カントクの件で、ちなみを不安にさせてしまって。それで安心させるためにこうしてるッス」

「ヒロシさん、真中さんに伝えて下さい。わたしからしょーくんを奪おうとするなら覚悟して下さいって」

「これはこれは。真中はとんでもないことをしたようだね」

 

 内心でヤバいと感じるヒロシ。

 女の子は怒らせると怖い。

 妹の美鈴を見ていても分かることである。 

 

「コミさんと一緒に遊びに行った時、カントクがオレを映研に誘ったんッスよ。それでオレは断ったッス。そういうことは映制に勝ってから言えって話なんで」

「よっぽど正太郎くんを欲しがったんだろうね真中は。でも引き抜きは良くないな。一人でも欠けたら部が成り立たなくなるのに」

「人は失敗から学んでいくッスよ。オレもそうだし、カントクもそうだと思うッス」

「失敗を繰り返す人も多くいるけど、果たして真中はどっちだろうね?」

「オレはカントクじゃないので何とも言えないッス」

 

 スパイをしようにもヒロシが相手では難しい。

 手の内を探るにも底が見えない。

 前髪で隠れているから表情も今一つ分からない。

 

 ――ヒロシ兄さんが一番相手しにくい。

 

 味方なら頼れる人だが敵に回すと足元をすくわれそうだ。

 学年トップの成績は伊達ではない。

 美鈴のように感情的にならないから心理戦で勝てる気もしない。

 

「ところでスパイ活動はどうだい? 楽しんでいるかい?」

 

 呆気なく見破られている。

 映研メンバー全員を調べ回っているのだからバレバレだ。

 ごまかそうにも相手が悪すぎる。

 

「……割と楽しいッス。コミさんみたいな人って兄ちゃん向きッスよ」

「ああ、小宮山も弟ができたみたいだって喜んでいたよ。とても気が合うみたいだね」

「オレ個人は嫌いじゃないッス。ちなみと関わらせるのはダメだけど」

「ヤキモチかい? キミにしては珍しい」

「コミさんには悪いけど危ない感じがするんで。女の子と関わらせたら暴走しちゃうみたいな?」

「あながち間違ってないかな。小宮山は女の子に免疫がないからね。鼻血を出して倒れちゃうかもしれないよ」

「ある意味、コミさんの危機ッスよそれ。あ、よくつーさんの話題をよく出してたけど、つーさんが好きッスねコミさん」

「まあ、西野は全く相手にしてないけどね。たとえ告白しても即振られるのがオチさ」

 

 二人の会話を聞いてちなみの機嫌が良くなる。

 これでもかと言うぐらいのニコニコ笑顔。

 大切に守られているという幸福で満たされていた。

 

「とにかくヒロシ兄さんを相手にスパイは無理ッスね。オレらの負けッス」

「そうかい? 僕のことを詮索するかと思ったのだけど残念だね」

「やめとくッス。逆にこっちがやられそうなんで。それよりも互いの部が得になりそうな話をしたほうがいいッス」

「この前の話し合いは楽しかったよ。ああいう落ち着いたやり取りは正太郎くんしか出来ないからね」

 

 ここからは映制の活動を話していく。

 現在は正太郎とちなみで敵情視察と資材調査、内場と美鈴で泉坂高校の調査。

 勝負に勝つために調べることが中心。

 そもそも中学生の段階で出来ることが限られている。

 

「僕らの映研は正直あまり大した活動はできてないんだ」

「受験勉強で忙しいッスか?」

「それも無いとは言わないけど、メンバーのまとまりが悪くてね」

「意外ッスね。上手くやりそうな感じなのに?」

「相性の問題とか、やる気の問題とか色々あるのさ。例えばね、小宮山は西野狙いで映画そのものには興味がない。西野も真中の熱意で押された感じの興味本位。東城――あ、正太郎くんのお姉さんは真中に意識が集中しすぎて全体が見えていない。つまり、キミたちみたいにチームのまとまりがないのが現状なのさ」

「カントクがオレたちを勧誘するのは、チームのまとまりが悪いから?」

「そうかもしれないね。キミたちの本気が真中にとって理想の映画作りに合致してるんだよ」

 

 ヒロシの言い分にちなみの表情が険しくなる。

 それにいち早く気付く正太郎。

 何か気に入らないことがあったようだ。

 それは間もなく判明する。

 

「真中さんってワガママばっかり。ちゃんと相手にお返しできてるの?」

「お返しか……ちなみ、相手に見返りを求めないってのは綺麗事になるか?」

「きれいごとだよ。そういうのって一方的すぎてどこかで壊れちゃう。長続きなんてしないから」

「カントクはねーちゃんにちゃんとお返しをしてるかな? せめてありがとうって感謝ぐらいは言えてないとヤバいな」

「釣った魚にエサをあげない。人の好意や善意を当たり前に受けて甘えてるんじゃないの?」

「あー、美鈴がカントクを嫌うのってそういう事か。問題点を誰よりも一瞬で見抜く美鈴ならあり得るぜ」

 

 ちなみの推察は当たっている。

 淳平は相手にしてもらうことはあっても、してあげる行動が見当たらない。

 ただ映画作りをしたいという一方的な欲求をぶつけるだけ。

 熱意といえば聞こえはいいが、悪くいってしまえば只のワガママだ。

 

「ちなみ、よく気付いたな」

「だって真中さんはしょーくんを勧誘してばかり。しょーくんのメリットになること何もあげてない」

「ちなみが怒ったのって、嫉妬というよりもカントクの一方的なワガママに腹が立ったのか?」

「両方だよ両方」

「なるほどな。でもちなみは優しいと思うぜ」

「え、なんで?」

「ヒロシ兄さんの目の前で教えてあげてるから。改善を期待してるのかなって」

「それはしょーくんの考えすぎ。わたし、そこまでお人好しじゃないからね」

「どうッスかヒロシ兄さん、参考になったのなら幸いッスよ」

「そうだね。ありがとうちなみちゃん」

「別にお礼なんていりません。真中さんがしょーくんに付きまとったりしなければ結構です」

「ちなみのストーカーもしないで追加よろしくッス。ちなみは演技スキルでカントクに目をつけられてるからな」

 

 抜け目のない正太郎にヒロシが前髪越しの苦笑い。

 手厳しい意見であるが的確に淳平の問題点を出してくれた。

 妹の美鈴が淳平を受け付けないのも当然である。

 後日、敵情視察の最終報告をする正太郎とちなみ。

 美鈴はそれだとばかりに激しく同意をした。

 

「そうなのよ!! アイツは人の善意に対して何も返さない恩知らずよ!!」

 

 些か言い過ぎているがそれが美鈴である。

 内場もそういうことかと理解を示した。

 

「言い方はキツイけど、真中先輩がワガママな甘ちゃんちゅうのは当たっとるやろうな」

 

 いずれにしてもヒロシが映研に欠かせない最重要人物である。

 ヒロシがいなくては映研の存続は成り立たない。

 しかしヒロシの動機は可愛い女の子の撮影だ。

 勝っても負けてもいい。

 どちらに転んでも本人の目的は果たせてしまう。

 

「ある意味、ヒロシ兄さんの一人勝ちか。ホント食えない人だぜ」

 

 美鈴が悔しそうに顔を歪ませる。

 兄の掌に踊らされているような気分を味わうから。

 そっと優しく美鈴の肩に手を乗せるのが内場だ。

 

「ヒロシさんはスゴイ兄さんやけど、一人でやれることには限界があるで。せやから美鈴、僕らは僕らで頑張ろうや」

「貴方……そうね、兄貴のことより部の活動に集中よ」

「ほんで東城、次はどないするんや? もう敵情視察は終いやろ?」

「そうだな。カントクの問題点がわかった以上、他の事に手を回した方がいい。オレとちなみは次の休日から資材の調査をするぜ」

「わーい、しょーくんとデートだデート」

 

 気持ちを切り替えて次の予定を立てる。

 唯に報告をするための手紙にも抜かりがない。

 こうして映画制作部こと映制の活動は続いていく。

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