青春100%   作:完結の陽炎

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第19話「恋を自覚する淳平」

 淳平は東城綾のことが気になっていた。

 正太郎を相手にしている時の綾は明らかに他とは違う。

 普段の大人しい姿からは全くかけ離れての魅力があった。

 それとは別に、見た目の地味さはある意味で助かっている。

 もしつかさのような美少女になっていたら、緊張の余りまともに話せる気がしない。

 監督という夢で勢いを乗せても、嫌われるのを恐れて心にブレーキが掛かる。

 

 ――西野だって、東城がいてくれたら話せたようなものだし。

 

 夏休みの中学で図書室の開放日がある。

 それを利用して、綾に勉強を教えてもらった。

 泉坂高校に合格をするにはまだまだ不安が残る。

 

 ――東城って小説がすげぇし勉強もできるし。でもオレにここまで親切にしてくれるのって何でだろう?

 

 将来の夢を語り、綾の才能を熱烈に褒めた。

 それだけでここまで優しくしてくれるのか?

 本人に訊けば分かるかもしれないが。

 

 ――なんで優しくしてくれるの? なんて訊いたら変なヤツに思われそうだ。

 

 これが唯だったらお節介なヤツで疎ましく感じるだけだ。

 でも綾に対してはそう思えないのだから不思議である。

 

 ――とりあえず勉強だ勉強!!

 

 現実逃避かもしれないが目の前の勉強に集中。

 泉坂高校に受かるために頑張らないと映画作りができない。

 そこが最優先事項である。

 

「あっ……」

 

 綾が小さく声を漏らす。

 机にある消しゴムを落としてしまった。

 それを淳平が拾う。

 手渡そうかと思うも、何となく触れると悪い気がして机に置き直す。

 

「あ、ありがとう真中くん」

「うん、どういたしまして」

 

 気を取り直して勉強を再開。

 淳平は物覚えが悪いので同じ所を間違いやすい。

 それでも綾が根気強く教えてくれる。

 説明も分かりやすいから勉強の辛さが緩和された。

 利用可能な時間がもうすぐで終わる。

 忘れ物がないことを確認してから一緒に学校を出た。

 

「……」

 

 淳平が隣を歩き、綾の横顔を見つめる。

 メガネとおさげで目立たない外見でも肌が綺麗だ。

 夏の暑さで汗が少し出ているが特に気にならない。

 そんな淳平の視線を感じたのだろう。

 綾がチラリと目を動かした、

 咄嗟に顔を背ける淳平。 

 覗き見してるのがバレた?

 そんな心のやましさで心臓がバクバクと鳴る。

 

「べ、勉強なかなか覚えられなくてごめんな」

「ううん、私こそ教え方が下手でごめんなさい」

「そんなことないって!! 東城の教え方はすげぇ分かりやすいよ!! ただオレが忘れやすいだけで!!」

「あっ……」

 

 否定をしたくて思わず綾の顔を見た。

 その視線が交じり合って両者が固まる。

 

「……」

 

 まるで金縛りを受けたように動けない。

 今の状態でそっぽを向く訳にはいかない。

 だからといって何を言えばいいのかも分からない。

 頭の中がグチャグチャで真っ白になり混乱する。

 

 ――ど、どうしようどうしよう!? 誰か助けて!!

 

 淳平の心がヘルプを求める。

 自分では手に負えないからと他力本番だ。

 しかし現実は漫画と違う。

 都合よく助けてくれる人はいない。

 

「あ、あの……」

 

 綾が何か言おうと声を掛けてくれる。

 だから淳平も。

 

「え、えっと……」

 

 声を発するも二の句が継げない。

 お互いに話の切り出しが上手くない。

 とにかく何でもいいから今の状況を打開したい。

 ふと掲示板を見かけて夏祭りのお知らせポスターがあった。

 まさに救いの手。

 

「も、もうすぐ夏祭りだな!! 去年は台風で中止になったけど!!」

 

 淳平の声が大きいのは言葉に勢いを乗せるため。

 こうでもしないと何も言えなくなるから。

 

「う、うん。真中くんはお祭りに行くの?」

「一人で行くのもな。今年は唯が西野と一緒に行くみたいだし」

「あ、それ私も聞いた」

 

 他に誘う人がいるでしょうと唯から小言を受けている。

 今になってそれを思い出す。

 目の前の綾を誘えばいいのか?

 

「東城はどうするんだ夏祭り?」

 

 綾の出方を伺ってみる。

 返答次第ではそのまま引っ込めるつもりだ。

 

「わ、私も一人だから。正太郎はちなみちゃんと行くし」

 

 引っ込みがつかなくなった。

 誘うしかないだろうという流れを感じる。

 しかしそんな勇気も度胸もない。

 

 ――東城弟みたいに付き合ってる訳じゃないし。

 

 逃げの一手。

 完全に気持ちが後ろ向きである。

 友達? ただのクラスメイト?

 中途半端な関係が誘う選択を阻む。

 そうこうしている内に帰り道の分岐点となった。

 

「そ、それじゃあな東城」

「う、うん。またね真中くん」

 

 結局、誘わないままのお流れ。

 落ち込んでベッドで寝転がる淳平。

 そこに乱入して来た唯からの問い詰めと説教を食らった。

 同じく東城家でもジメジメとした空気を出す綾。

 日記を渡す際、正太郎にカマをかけられてバレた。

 

「別にねーちゃんから誘えばいいじゃん。『一緒に行こう』は無理でも『一緒に行かない?』ぐらいなら、相手の顔色を伺うねーちゃんでも言えるだろう」

「だ、だって……」

「仕方ないな。ちょっと待ってろ」

「ち、ちょっと何するつもり?」

 

 姉を無視してちなみへ電話をする。

 事情を伝えて協力を求めると快く了解が出た。

 あとは淳平のOKがあればいい。

 

「カントクはどうしようかな? ねーちゃんから誘うのは無理そうだし」

「任せて。あたし、美鈴のお兄さんと連絡取れるから、そこから確認してみる」

 

 困ったときに頼れるのがヒロシだ。

 ちなみからの電話があると、様付け呼びで下僕となってしまっている。

 正太郎の前ではやらないことを厳命してから、ヒロシが望む演技で確認を取った。

 淳平からは正太郎とちなみがいるのならと承諾。

 綾と二人だけでは心理的なハードルが高すぎて無理だから。

 

「ねーちゃん、オレたち四人で夏祭り行くぞ」

「よ、四人?」

「オレ・ちなみ・カントク・ねーちゃん」

「そ、そんな勝手なことして!! 真中くんの都合だってあるのに!!」

「カントクからOKは出ている。ねーちゃんが行きたくないならハッキリと断れよ」

「べ、別に行きたくないわけじゃなくて」

「せっかくだから覚醒モードで浴衣着るといいぜ。こういう機会でもないと、ねーちゃん本気出せないだろ」

「その言い方やめてって何度も言ってるのに」

 

 夏祭りのダブルデートをセッテングする。

 それを知った唯は安堵をしてくれた。

 心置きなくつかさと一緒に祭りを楽しめると笑顔だった。

 そして当日。

 祭りの入り口が混むことは想定済み。

 だから待ち合わせの場所は少し離れた交番近くの自販機だ。

 先に待っているのが淳平と……。

 

「真中さん、しっかりとお姉様をリードしてあげて下さいね」

 

 明るい朱色をベースにレトロな花柄の浴衣。

 髪は真っ白なリボンでふんわりとまとめている。

 履き慣れていない草履なので足元に注意が必要。

 可愛さと元気を兼ね備えたちなみがいた。

 

「てっきり東城弟と一緒に来るかと思ったよ」

「お姉様が転んで怪我をするかもしれないから、しょーくんが付き添って来ます」

「優しいんだね」

「そうですよ。一方的に我儘ばかり押し付ける人とは違いますから」

 

 やや毒舌なちなみに淳平はタジタジである。

 勧誘のことを根に持っているのかを尋ねても。

 

「いいえ別に。過ぎたことを蒸し返しても仕方ないですから」

 

 割り切る様子を見せても淳平に対しての愛想がない。

 そこまでする義理はないと言わんばかりである。

 このままでは間が持たないと淳平は困ってしまうが。

 

「しょーくんこっちだよ!!」

「悪いな遅くなったぜ!! やはり本気の覚醒には時間が掛かるものだな!!」

 

 紺の色をベースに菊の柄で大人っぽい雰囲気の浴衣。

 髪をアップさせて涼しげなうなじ。

 コンタクトレンズに変えて整った顔立ちの綾が姿を現した。

 

「なるほど。可愛くて元気なちなみと、美人で大人なねーちゃんで被りがない。浴衣も互いに違うのに似合っているのが凄いぜ」

 

 正太郎に可愛いと言われるのが初めてのちなみ。

 顔から火の出る勢いで一気に赤く染まった。

 ゆでだこのような湯気が出てもおかしくない。

 無意識に手をモジモジさせての照れが生じている。

 

「ねーちゃん、カントクが誰この美人って顔してるぜ。変装している時とは別人だから無理もな――って痛いから踏むなって!!」

 

 黙ってろとばかりに弟の足を草履で踏みつけた。

 それでも叱り飛ばさないのはおしとやかに振る舞いたいからだろう。

 淳平に不安そうな視線を向けている。

 似合ってないのではないか、変ではないかという気持ちが丸分かりだ。

 

 一方、淳平は驚きつつも頬を赤く染めた。

 今までの綾との関わりも相まって今回が決め手となる。

 何が起きたのか?

 一目惚れである。

 運命的な出会いを果たしたかのような衝撃を受けた。

 幻を見ているのかもしれない。夢かもしれない。

 ふらふらとした足取りで進み、綾の正面で止まる。

 見つめ合ったまま固まって動けない。

 

「と、東城……なのか?」

「うん……」

「そ、そうか……本当に別人みたいだ」

「へ、変かな?」

「ないない!! 絶対に変じゃないから!!」

 

 力強い発言で綾がホッと一息をして安堵した。

 色々と準備に手間を掛けた苦労が報われる。

 頃合いを見計らって、正太郎とちなみが入り込んだ。

 

「カントク、ねーちゃんが転ばないように手を繋ぐこと出来るッスか?」

「て、手って!? えぇええええ!?」

「あー、やっぱ無理ッスか。それならねーちゃん、カントクの服の袖でもつまんでおくといいぜ」

「な、なにを言ってるの? そんなことできるわけ……」

「こんな感じでやればいいんだよ。ちなみ」

「はいしょーくん」

 

 お手本を示すために正太郎のシャツの袖をつまむ。

 服が伸びる、シワが出来る。

 そんな突っ込みは野暮だから無しとする。

 

「手汗を気にせずに済む。目を合わせにくいから自然と緊張が和らぐ。まあ、歩調を合わせるのにちょっと慣れがいるけどな」

「お姉様、祭りの移動中は混雑しているのではぐれやすいです。そうならないための予防でもありますから」

「で、でも真中くんの迷惑になるから」

「カントク、迷惑ッスか? それならそれで言ってあげてほしいッス」

「迷惑じゃないよ!! 東城がイヤじゃければ!!」

「決まりッスね。ほら、時間がもったいないからガシッと掴めよねーちゃん」

 

 弟に促されて一瞬だけムスッと不機嫌になる綾。

 でも淳平を待たせてはいけないとシャツの袖をそっとつまむ。

 初々しさが醸し出されて微笑ましくあった。

 

「カントク、この方法を使うとオレとカントクが前に出るんで、彼女をリードして歩く必要があるッス」

「う、うん。そうだよな」

「歩くスピードはゆっくりで。あまり早いと彼女を転ばせてケガさせる危険があるッス」

「ど、どれぐらいの速さで歩いたらいいのか分からないよ」

「オレの歩くスピードに合わせたらいいッスよ」

 

 正太郎の歩き方に淳平も合わせる。

 彼女の足が草履だからいつも以上に慎重だ。

 これも慣れれば自然と出来るようになる。

 

「カントク、射撃一緒にどうッスか?」

「いいよ。どれ狙うんだ?」

「あの兎のぬいぐるみを一緒に狙ってほしいッス」

「わかった」

 

 正太郎と淳平のコンビ撃ち。

 同時の狙い撃ちで景品のぬいぐるみを落とす作戦だ。

 残念ながら景品に掠るだけでヒットはしなかった。

 

「内場の漫画ならこれで決まるけど、現実は甘くないか」

「……もう一回やらない?」

 

 ちょっと悔しかったのだろう。

 淳平がリベンジを申し出る。

 意外と負けず嫌いかもしれない。

 

「それなら黒川先生に習った数学を活かして、角度と距離を計算して調整するッス」

「で、できるの?」

「目算だとかなり大雑把ッスけど、やらないよりは当たる確率は上がるッス」

「あの先生って、射撃の計算まで教えてるのか?」

「数学の応用ッスよ。それじゃあ合図するんで、同時撃ちでよろしくッス」

 

 淳平の腕を動かして角度と弾の位置を固定してもらう。

 それから自分の位置も固定して合図による同時で発射した。

 3回目で成功して、兎のぬいぐるみを手に入れる。

 

「感謝ッスよカントク。ちなみは唯と同じ趣味してるんで、これあげたいと思ったんッス」

「役に立てて良かったけど……これって本当に計算できるんだ」

「数学の勉強が楽しいのはこういった応用ができるからッス」

「いやいや、これができるのって東城弟だけだって。普通はそこまで出来ないから」

 

 ちなみに兎のぬいぐるみをあげると抱きしめるように受け取った。

 その表情は恋する少女そのもの。

 綾が見てもカワイイと思ってしまうほどだった。

 

「オレが祭りでやりたいのは射撃と輪投げッス」

「他はいいのか?」

「金も掛かるんで。二つだけで充分ッスよ」

「食べ物は……た、高い」

「雰囲気代ッスよアレ。祭りの外で買うほうが安いッス」

「それ身も蓋もないな」

「ウィッス。夢も希望もない現実ッス」

 

 この後に輪投げをしてみたが、射撃よりも難しかった。

 手首のスナップをきかせて投げるので計算が困難である。

 次の修行で回転に関連した数学を教えてもらおう。

 黒川先生の講義を楽しみとする正太郎であった。

 

「オレの希望はこれで完了ッス。カントクは何かしないっスか?」

「うーん、金魚すくいしても家で金魚は飼えないし」

「スーパーボールすくいならどうッスか? それなら生き物じゃないんで」

「ボールもらってもな……やっぱ雰囲気味わいたいから、たこ焼きでも買おうかな」

「一人で食うッスか? 分け合うならねーちゃんとちなみの意見も聞くッス」

「わたし、わたあめ食べたい!! ああいうのって祭りならではって感じだから!!」

「私は何でも……あ、あまり熱すぎるのはちょっと厳しいかも」

「ヘビーカステラならねーちゃんでも多分いけるだろう。シェアもできるし」

 

 飲食のお金は皆で出し合うことにした。

 飲み物は王道のラムネを選ぶ。

 こうして祭りの気分を堪能しつつ出店巡りをする。

 

「ちなみが背中を守ってくれるおかげで前方に集中できるぜ」

「んもー、褒めたって何も出ないよ」

「内場の漫画なら、草履の鼻緒が切れる展開になりそうだがな」

「もし切れちゃったら?」

「一応、それを見越して応急処置ができるように備えてあるぜ」

「さすがしょーくん、抜かりなしだね」

 

 隣同士もいいが前後も悪くない。

 正太郎の背中が守ってくれていると感じるから。

 しかし……。

 

 ――そろそろねーちゃんが転びそうな予感がする。

 

 弟としての勘である。

 むしろ今まで転ばなかったのが奇跡だ。

 ドジをしないように頑張っているが完璧ではない。

 

「きゃっ!?」

「うわっ!!」

 

 綾が足を躓かせて淳平にぶつかる。

 不意打ちを食らった淳平が踏ん張ることは不可能。

 お互いにもつれ合うようにして倒れ込んだ。

 

「お姉様、大丈夫ですか!?」

「終業式の再来か。美鈴がいなくてよかったなカントク」

 

 人目があるので迅速に助け起こす。

 ちなみに頼んで綾の浴衣に付着した汚れを払ってもらった。

 ボーとして機能停止状態の淳平。

 正太郎が呼びつつ頬をつねると正気に戻った。

 

「いってえー!! なにするんだよ!!」

「呼んでも反応なかったッスよ。目が覚めて何よりッス」

「そ、それは悪かったけど、何もつねらなくたっていいだろ」

「美鈴なら平手打ちと蹴りのコンボ食らってるッスよ」

 

 特にケガはしていないのが幸いである。

 仕切り直しをするように祭りを巡っていく。

 そして一通りを楽しんでから帰ることにした。

 正太郎はちなみを家まで送るため、綾のことは淳平に頼む。

 淳平がうろたえてしまうが、引き受けてもらわないと困る。

 

「見た目は別人に見えても、中身はねーちゃんで変わらないッス。カントクが映画監督になるなら、美人が相手でも慣れていかないといけないッスよ」

「そ、そりゃそうだけどさ……」

「訓練だと思って家に送るぐらいはやってほしいッス。それともねーちゃんを一人で帰らせるッスか?」

「……わかった。オレが送るよ東城を」

「よろしくッス。ちなみ帰ろうぜ」

「はーい」

 

 ちなみが人懐っこい笑顔で正太郎の左腕に抱き着く。

 隣同士で歩調を合わせて歩き去っていく。

 それを見送ってから淳平と綾が動き出した。

 

「あ、あの真中くん。正太郎が色々と勝手しちゃってごめんなさい」

「何も謝ることないって。逆に色々と助けてもらったし」

「う、うん……あと転んじゃってぶつけたことも」

「ケガがなくてよかったよ。うん」

 

 肩を並べて歩く二人はどことなくぎこちない。

 特に淳平は綾のことを意識しすぎている。

 一目惚れした瞬間が目に焼き付いて離れない。

 

 ――オレ、東城が好きだ。

 

 単純明快な答え。

 同時にこのような考えも浮かぶ。

 

 ――でも好きになられても迷惑だよな東城には。

 

 自分に自信がないから後ろ向きになる。

 想いを自覚してもそれを伝えようとはしない。

 迷惑をかけまいと隠してしまう。

 だが……。

 

 ――東城はオレをどう思ってるんだろう?

 

 今の関係が壊れてしまうかと思えば知るのが怖い。

 でも知りたいと思ってしまうのもある。

 知ってどうするのか?

 

 ――オレみたいなヤツが東城と付き合えるのか?

 

 お得意の妄想だけならば何をしても許される思想の自由。

 しかし現実を目の当たりにするなら話は別である。

 

「あ、あの真中くん?」

「へ?」

「大丈夫? なんか思い詰めてるみたいな顔してる」

「あ、いやべつに……その……あ、あのさ」

 

 隣に綾がいるけど目を合わせられない。

 あまりに綺麗で美しすぎて眩しいから。

 言葉で何を繋げていけばいいのだろう?

 せめて嫌われたくない。

 

「東城の弟と端本、すっごくいい感じだったな」

 

 純粋に羨ましくなるほどだった。

 お互いを必要として補えている。

 そんな理想的なカップルに見えた。

 

「うん。ちなみちゃん、とっても幸せそうだったね」

「東城をお姉様って、なんかすげぇな」

「うっ……やっぱり変だよね?」

「いや、端本らしいんじゃね? でも何でお姉様?」

「し、知らない……でもちなみちゃんみたいな妹がいてくれたら嬉しいな」

「弟と妹では違うの? オレ、兄弟や姉妹とかいないから、その辺がよくわからないけど」

「うん全然違う。やっぱり性別が違うのは大きいかも」

「そっか……どっちにしても東城なら、いいお姉さんでいるだろうな」

「そ、そうかな? でもね弟がいるって大変なんだよ」

 

 弟に対する苦労話がこれでもかと出てくる。

 お姉さんをしている時の綾が一番輝いているのかもしれない。

 その激しいギャップの魅力にやられてしまったのが淳平である。

 

 ――東城弟に助けられている気分だ。

 

 何を話せばいいのか分からない時。

 正太郎の話題にすれば内容に事欠かない。

 

「そういえば東城弟、ねーちゃんを超えるってよくこだわってるよな?」

「小さい頃からずっとそれなの。そのためならどんな修行でも乗り越えるって」

「漫画の主人公みたいだ。あの射撃の計算はやべえほど凄いって思った」

「黒川先生のおかげで、自分でも知らなかった潜在能力に目覚めたんだって」

「ほ、本当に漫画の主人公だ」

 

 抑圧されてきたものが一気に噴き出る。

 正太郎の秘めた可能性には綾もビックリだ。

 それを見抜いて指導をする黒川先生が偉大である。

 

「あっ……着いたね」

 

 綾にとってはアッという間だった。

 東城家の前で名残惜しんでしまう。

 淳平のほうは助かったような残念なような気持ちである。

 

「惜しいな。今の東城が見られなくなるかって思うとさ」

「えっ……」

「映画の女優みたいにすげぇ綺麗だから。演じてほしいぐらいに美人だから」

「っ!!」

「あはは、なに言ってんだろなオレ。と、とにかく今日は楽しかった!! じゃあまたな東城!!」

 

 言ってて恥ずかしくなってしまい、逃げるようにその場を去る。

 淳平の言葉が綾の心へダイレクトに響く。

 この時より綾は新たな決意を固めていった。

 

 ………………。

 …………。

 ……。

 

 綾の変化に真っ先に気付くのは弟の正太郎。

 家の中でも極力の変装をしてきた姉。

 それが髪を自然におろしてコンタクトレンズに変えている。

 顔立ちの良さが存分に表れていた。

 

「やってくれたなカントク。ついにねーちゃんを口説いたか」

「ち、ちがーう!! そんなんじゃないから!!」

「どうせカントクから覚醒モードを褒められて、滅多に見られないからって惜しまれたってオチだろ」

「み、見てたの?」

「見なくてもバレバレだつーの。何年家族やってると思ってるんだ舐めんなよ」

 

 目立たないように変装をしていたのに。

 あえて淳平のために変装を解く。

 たとえ他の男子生徒から注目を集めても覚悟の上だろう。

 

 ――でも互いに奥手で進展は難しいだろうな。

 

 祭りの時に淳平が綾に惚れ込んだのは見抜いている。

 綾の淳平に対する想いも既に分かっている。

 気付いていないのは当人同士だけだ。

 

「カントクが最強ねーちゃんにビビるに一票」

「なによそれ、ふざけてるの?」

「ねーちゃんがカッコイイ人を苦手とする感情みたいなものだと言えば分かるか?」

「勝手に決め付けないで。真中くんがそうだと限らないのに」

「オレの言ってることが当たってるか間違ってるか? その答えは緊張しまくるであろうカントクに会えば分かるぜ」

 

 まともに覚醒モードの綾と向き合えるとは思えない。

 逃げ腰になってしまう淳平の姿が想像できる。

 相手が凄すぎると遠ざかってしまう心理だ。

 

「いずれにしても、これで新たなファンクラブの誕生か。会長のヒロシ兄さんが忙しくなるぜ」

 

 カメラを構えてシャッターを切ること間違いなし。

 校内で没収されないように細心の注意を払うだろう。

 美鈴の気苦労が絶えないと同情を禁じ得ない。

 

「そういえば正太郎、最近になって家の手伝いするようになったね」

「ああ、かーちゃんから家事を教わって実践中だ」

「なんで今しようと思ったの?」

「来年は受験で忙しくなるし、高校入ったら部活勝負になるし、家事を覚えるタイミングが今しかないんだよ」

「へえー、偉いね正太郎」

「ねーちゃんが素直に褒めるの珍しい」

「ちなみちゃんのため?」

「自分のためでもある」

 

 生活をする上で必要な家事は出来るようになって損はない。

 早い内にやれるならそれに越したこともない。

 自発的な弟の行動力に綾は見習う所だと感じ入った。

 

 ………………。

 …………。

 ……。

 

 淳平の部屋へ遊びに来ている唯。

 淳平の気持ちに変化があったことを一目で見透かした。

 女の勘は恐ろしい。

 

「オレは別に東城のことなんて」

「唯、東城なんて一言もいってないんだけど?」

「な、なんでもない。とにかくオレはいつも通りだ」

「無理あるからね。あ、まさか強引に押し倒したり――ってじゅんぺーにそんな度胸ないか」

「倒してねえ!! あれは東城が転んでぶつかってたまたま一緒に倒れただけだ!!」

「……じゅんぺーって、隠し事が下手だね」

「うっ……だ、誰にも言うなよ絶対に言うなよ!!」

 

 ムキになって迫る淳平にニヤついてしまう唯。

 淳平から主導権を握っていた。

 

「唯、欲しいぬいぐるみがあるんだよね」

「お、脅す気かこの野郎!!」

「女の子だから野郎じゃない!!」

「と、とにかくだ!! 東城のことはいいんだよ別に!!」

「えー、好きならフツーに告白して付き合うでしょ? なんでそれしないのー?」

「無理無理無理無理!!」

 

 首を激しく振って連呼する。

 ファンクラブの心理に近い恐れ多さと釣り合わない劣等感。

 いくら妄想できても現実ではヘタレてしまう。

 

「意気地なし。じゅんぺーは泣き虫だけじゃなく弱虫も追加だね」

「う、うるさい!! オレは東城に迷惑かけたくねえだけだ!!」

「それ決めるのじゅんぺーじゃない。勝手に決め付けて逃げてるだけじゃん」

「べ、べつに逃げてない」

「その内、しょーたろがじゅんぺーを殴ってそう。ねーちゃん悲しませやがって、な感じで」

 

 まったく冗談には聞こえない。

 綾の弟である正太郎なら本気でぶん殴りそうだ。

 幼なじみだからこそ言えてしまい説得力もある。 

 

「じゅんぺーは綾さんを泣かせたいの? それとも笑ってほしいの?」

「そんなの笑顔がいいに決まってるだろ!!」

「だったら笑顔になるように頑張りなよ。映画監督になりたいんでしょ?」

「そう言われたって、何をどう頑張ったらいいのか分かんねーよ!!」

 

 夢では必死な熱意を見せるくせに。

 恋では臆病風に吹かれての腰抜けになる。

 そんな淳平を見かねて唯が動く。

 

「しょーがないな。唯がちょっとだけ助けてあげよう」

「お、おい余計なことを――」

「いいからいいから。じゅんぺーは綾さんから逃げないようにしなよ」

 

 唯が玄関で外を出ようとした時にインターフォンが鳴る。

 ついでとばかりに唯がドアを開けて応じた。

 

「しょーたろじゃん。珍しいねこっち来るの」

 

 正太郎がスイカを片手にやって来た。

 去年と同じおすそ分けだ。

 今回はヒロシに頼まず自ら足を運んでいる。

 

「おすそ分けを口実にカントクの様子見だ。理由はねーちゃんで察しろ」

「あ、うん察した。じゅんぺー殴ったりしない?」

「ヤクザ映画のカチコミじゃないから安心しろ。唯は今から出るみたいだな」

「うん。ちょっとしょーたろのお姉ちゃんとお話して来るけど家にいる?」

「いるから遠慮せずに行って来いよ。お互いに苦労するよな全く」

「ホントだよ。でも仕方ないじゃん黙って見てられないし」

「最悪の事態にならないことを祈るぜ。んじゃ行ってらっしゃい」

「行ってきまーす!!」

 

 唯と入れ替わるように正太郎が中へ入る。

 そのまま遠慮なく淳平の部屋まで向かう。

 

「邪魔するッス!!」

 

 ドアをノックして一声かけると。

 

「殴らないでくれ!!」

 

 ドア越しに悲鳴のごとく叫ぶ淳平。

 唯に言われて正太郎への警戒心が跳ね上がっていた。

 誰だって痛い思いはしたくない。

 

「殴らないッスよ!! スイカ台所に置いていいッスか!!」

「あ、うん」

 

 了解を得たので台所のテーブルへ置いておく。

 さすがに冷蔵庫を勝手に開けたりするのは無粋だ。

 このまま帰るにしても夏の暑さで喉が渇いている。

 熱中症にならないように水分補給はさせてほしい。

 

「カントク、このまま帰れは流石にないッスよ。せめて茶の一杯ぐらいは出してほしいッス」

「ご、ごめん。すぐ用意するから部屋で待ってて」

「ああ、やっと開けてくれたッスね」

 

 淳平から冷たい麦茶を振る舞ってもらう。

 飲み終えてから正太郎は姉の現状を伝えた。

 

「ねーちゃんはカントクに褒められて、これから先は地味な変装をしなくなるッス。だから次に顔を合わせるときはそのつもりでよろしくッス」

「わ、わかったけどオレ、そんな大したこと言ってないよ」

「言葉に責任持とうッスよカントク。将来、映画監督という責任者になるつもりなら尚更ッスよ」

 

 軽はずみな言動で姉を傷つけないか心配になる。

 正太郎から見る淳平のいい所は少ない。

 熱意と鑑定ぐらいで、他はパっとしない印象である。

 

「なあカントク、この際だからハッキリしてほしいッス。ねーちゃんのこと好きッスか?」

「うっ……それは……あの……」

「オレは弟としてねーちゃんの幸せを願ってるッス。だから聞かせてほしいッス」

 

 曖昧にして逃げることは許さない。

 そんな不誠実な男に大切な姉を任せられない。

 せめて好意ぐらいは明確にしてほしい。

 

「……うん」

「祭りで一目見て惚れたッスか?」

「……うん」

「カントクはこれまで色々なねーちゃんを見てきたッスね。それらを全てひっくるめて惚れたと思うッス。だからカントクの気持ちが決して軽くないことは分かっているッスよ」

「あ、ありがとう」

「今すぐ告白なんて無理。何かきっかけが欲しいって言うなら、泉坂高校に合格したら告白する、みたいにして自分を奮い立たせるのもひとつの手ッス」

「合格したら告白……」

「ベストタイミングは卒業式。これ以上にうってつけの時期はないッス」

「卒業式……確かにそうだよな」

 

 恋愛にもタイミングはある。

 今すぐに行動できる淳平と綾ではない。

 受験の合格を目指せるように専念させたほうがいいだろう。

 

「泉坂高校の合格目指して頑張れカントク。個人的に応援するッス」

「ありがとう東城弟。色々迷惑かけてごめん」

「それなら結果を出してほしいッス。それを詫びとして受け取るッスよ」

 

 このやり取りをしている一方。

 唯は東城家の呼び鈴ボタンを押して待つ。

 玄関のドアから変装をしていない綾が出てくれた。

 

「わぁー美人。これならじゅんぺーがイチコロになるのも納得だぁー」

「唯ちゃん、どうしたの?」

「綾さんとお話したいの。いいかな?」

「うんいいよ。あがって」

「お邪魔しまーす」

 

 綾の部屋で冷たいジュースを飲んでのお喋りタイム。

 話題は淳平のことで祭りの出来事も聞き取る。

 変装をやめた理由も同じ女として理解をした。

 

「じゅんぺーって女の子に慣れてないから、美人になった綾さんを見て緊張しまくって。そんな照れ屋なじゅんぺーを綾さんが嫌いにならないか心配だよ」

「そんなこと、嫌いなんてならないから」

「そうだよね。じゅんぺーが言ってた。綾さんの笑顔がいいって」

 

 嘘は言っていない。

 多少のアレンジはご愛嬌だ。

 動揺する余りに言葉を失い気恥ずかしさで俯く。

 なんともウブな綾の反応に微笑ましくなった。

 

「綾さんはじゅんぺーとお付き合いしないの?」

「わ、私と真中くんはそういう関係じゃないから」

「でも好きなら付き合ってもいいんじゃない?」

「今の私たち受験生だし。そもそも真中くんが私をどう思ってるか分からないし」

「そうなんだ。でも高校に入ったら新たな出会いで大変そうだよね。じゅんぺーを好きになる女の子、綾さんを好きになる男の子。ライバルが出現して取られちゃうかもしれない。唯ならそんなの嫌だから、早めに付き合っちゃうよ。ちなみちゃんがまさにそんな感じだよね」

 

 いつまでも今のままでいられるとは思わない。

 それは分かっていても今を甘んじてしまう。

 変わっていくことへの戸惑いが大きいから。

 

「言葉や態度にしないと想いは伝わらない。でも本当に大変なのは伝えた後なんだよね。物語は終わりがあるけど、現実は終わらずに続くから」

 

 唯は正太郎の持論を聞いたことがあり同意をしている。

 ハッピーエンドはなくハッピースタート。

 見えない先への不安は誰にでもあるもの。

 それでも後悔のないように全力を尽くすのみだと。

 

「唯はね、綾さんの頑張る姿を見て励まされたよ。唯も来年は受験生だから頑張らないとね」

「唯ちゃん……」

「じゅんぺーにはお節介扱いされちゃうけど、唯はじゅんぺーと綾さん、どっちも大好きで大切だから、ハッピースタートで頑張ってほしいと思ってるんだ」

「……ありがとう唯ちゃん。その優しさに応えられるかは分からないけど」

「えへへ、ただのお節介だから気にしないで」

 

 どのように感じてどのように望むのか?

 その時になってから改めて考えていきたい。

 唯の励ましで少しは勇気がわいてくる綾であった。

 

 ………………。

 …………。

 ……。

 

 中学の図書室で利用する他の男子からの注目。

 あんな美人の女子がいたのか?

 信じられない様子で見てしまいがち。

 2学期に入ればさらに賑わうことになる。

 綾のファンクラブが設立されるのも必至だろう。

 

 ――東城弟から言われてたけど、やっぱ緊張するって!!

 

 逃げなかっただけでも大した事である。

 釣り合ってないと思いつつも勉強を教えてもらないといけない。

 一人で勉強をしても全然分からなくて先へ進めないから。

 

 ――とにかく受験に集中!! 目指せ泉坂高校!!

 

 今の気持ちを伝えることはできない。

 伝えていいのかも分からない。

 先延ばしとなるが勉強に全てを注ぐことにする。

 

「あ、真中くん。ここはこうしてね」

「えっと、ここは……これで合ってる?」

「うんそれで合ってるよ」

 

 たまに淳平がトイレのために席を外す。

 その時は十八番の妄想で欲求不満を発散。

 それで不審な行動をしてしまい、トイレを使う男子からドン引きされた。

 ヒロシの変態といい勝負になるかもしれない。

 厄介となるのは勉強が終わって一緒に帰る時だ。

 綾から勉強で疲れてるだろう淳平を気に掛けて、家まで送らなくていいと言ってくれる。

 それでハイさいならとするほど淳平は落ちぶれていない。

 好きだからもっと一緒にいたいと思うのは自然なこと。

 だがそれを素直に伝えられない。

 そこで淳平が言い訳として使ったのが。

 

「ちょっと東城弟と話したくてさ。だから家に行っていいかな?」

「あ、うん。でも正太郎は黒川先生の所へ行ってるから、何時に帰ってくるか分からないよ」

「適当に待ってるよ。夕飯の時間までには帰るから」

「わかった」

 

 正太郎をダシとしてついでの扱いで家まで送ることだ。

 これで不自然ではないという淳平の小賢しさ。

 唯が聞いたら呆れてしまうかもしれない。

 

 ――ごめん東城弟。話なんて何もないけど。

 

 嘘をついてでも綾と一緒に帰ることを選ぶ。

 まだ満足に顔を見られないし上手く話せない。

 それでも傍にいることぐらいならという些細なワガママだ。

 不在としている弟の部屋。

 勝手に淳平を入れるのもどうかと思ってしまう。

 だから綾は自分の部屋へ入れた。

 目の前に綾がいるから妄想は使えない。

 変なヤツだと思われて嫌われたくないから。

 話題は正太郎を的に定めておけば間違いがない。

 将来の夢語りと映画作りについても外れがない。

 やってみれば意外と何とかなるものである。

 案ずるより産むが易しだ。

 

「きゃっ!!」

 

 お茶のおかわりに向かおうとして綾が転ぶ。

 その先にいた淳平と衝突。

 そのまま押し倒す形になってしまった。

 

「ご、ごめんなさい真中くん!!」

 

 はしたないことをしたと羞恥心に溢れる綾。

 健全な男子の理性が崩壊寸前の淳平。

 もう我慢ができない。

 衝動的に抱きしめようと綾の華奢な肩に手をかけた。

 力強い淳平の固い手にビクッと綾の体が震える。

 次の瞬間、玄関のドアが開く音が響いた。

 正太郎が帰ってきたことを二人は感じ取る。

 瞬時に離れてぎこちない空気を漂わせてしまった。

 

「お、オレ東城弟の所へ行ってくる」

「う、うん」

 

 逃げるように正太郎の所へ向かう。

 あと少し遅かったら、と思えば心臓の鼓動が止まらない。

 ホッとしたような残念なような思いになる。

 

「カントク、なんか興奮したような顔してるッスね?」

「そんな顔してないって。気のせいだから」

「そうッスか? わざわざ迎えなんてしなくても、気にせずにねーちゃんの相手すればいいッスよ」

「無理無理!! 今だって危うく――あっ」

「……弟に向けてそれを言うのはどうかと思うッス」

「べ、別に何もしてないぞ!! フツーに話をしただけだから!!」

「告白して付き合うようにしたッスか?」

「し、してない!! そういうのはまだ……受験だってあるし」

「まあ、それはカントクが自分で決める事ッスね。オレからは何も言わず見守るッスよ」

 

 淳平はたびたびに思う。

 余裕のある正太郎が年下ではなく年上ではないかと。

 それぐらい男の格差を感じさせた。

 一緒に帰る口実に使ったことを詫びるが別にいいと許してくれる。

 淳平がそういう人間だと分かってきたから。

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