青春100%   作:完結の陽炎

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第20話「部活の煮詰めと向井こずえの出会い」

 美鈴の部屋での映制メンバーの集結。

 遠方に引っ越している唯が参加できる機会は限られている。

 だから少しでも活動を増やして結束を固めた。

 

「内場、ヒロシ兄さんからカメラの扱いを教えてもらってるのか?」

「せやで。写真のカメラやから畑違いになるけど、やらんよりはマシやと思うてな。ヒロシさんがヒマな時にちょっとずつ教わっとる」

「しょーたろ、脚本作りは? それによって唯のピアノ演奏も変わってくるよね?」

「それだけどな。実はちなみにねーちゃんを演じさせるのが難しいことが判明した。だから詳しく報告するぜ」

 

 当然といえば当然であった。

 正太郎に接する時しか姉として振る舞わない。

 他の人がいる前でも全く出ない事はないが明らかに少ない。

 お姉ちゃんとしての綾という情報が乏しいのである。

 

「主役をちなみにして、二重人格設定でオレたちの実話を進める。あーちゃんとちーちゃんの見分けを映画でどうやって分かりやすくするかは課題だな。ピアノのBGMで聞き分けさせるのが一手かもしれないが、あまり頻繁だと演出がくどくなるから調整が難しい」

「しょーくん、わたしたちの実話を出すなら内場くんと美鈴がいるんじゃない?」

「そうだな。さもないとオレとちなみの関係が成立しない。内場に美鈴のことを任せたから、ちなみと付き合う流れになっていく訳でそこは外せない」

「ちゅう事は僕らも出なアカンのか?」

「美鈴の許可があるなら、ちなみに美鈴の演技をさせたらいいし、内場はオレがやってもいい。メガネだけだと手抜きになるから、もう少し見た目の工夫がいるけどな」

「美鈴どないする? 東城こう言うとるけど?」

「……反対したらあたしたちに出ろって話になるんでしょ? 別にいいわよそれで」

 

 正太郎は紙に時間を書いて逆算をする。

 黒川先生から教わった数学の知識を活かした。

 おかげでスケジュール管理もしやすくなる。

 

「脚本は冬休みまでに仕上げる計算だ。唯のピアノ練習できる時間を少しでも多く確保できるようするぜ」

「しょーたろスゴイ!! なんかすっごい難しそうな計算してる!?」

「アンタ、いつの間にこんな計算ができるようになったのよ?」

「黒川先生に数学の修行をつけてもらってるからな。こんな感じで使えるから便利だぜ」

「しょーくんは先生に数学いっぱい教わってより賢くなったんだよ。わたしなんてここまで出来ないのにスゴイよね」

「僕、多少数学できるつもりやけど、東城が桁違いになったのだけは分かるで」

「アンタは国語だけしか能がないって思ってたけど、数学でも遥かに上回る勢いね」

 

 トップクラスの成績をはじき出す美鈴でも、正太郎の潜在能力には吃驚する。

 国語と数学ならば正太郎が上回るかもしれない。

 それでも総合的には美鈴のほうが上である。

 色々な映画を見て分析をしたり、図書館で研究をしたり等、己の研鑽を徹底的にしている。

 監督として恥じないように自分にも厳しい。

 正太郎たちからは絶大な信頼を寄せられている。

 

「あ、これは黒川先生から部費の試算で、ここから半分は映研で引かれて、残りでやりくりしないといけない。だからバイトの日数も大体これぐらいで資材の確保ができる計算だ」

 

 皆にできるだけ分かるようにグラフや図も取り込んで紙に示す。

 これも黒川先生が懇切丁寧に教えてくれた。

 尊敬をする余りに師匠と呼んでみたが、他の人の前では黒川先生と呼べと注意をされる。

 ただし二人っきりの他に、彼女のちなみがいる前は例外として呼んでいいと許可が下りた。

 ちなみとしては色々思う所はあったが黙認をしている。

 

「これはあくまで試算だから目安な。高1の夏休みまでには準備が整うようにするぜ」

「唯もそれまでにピアノいっぱい頑張るね」

「おうよ。映研に勝つためには唯の音楽スキルも欠かせないからな。期待してるぜ」

「しょーくん、わたしは?」

「主演女優としてマジ頑張れ。オレも演技で足引っ張らないようにするし、脚本で引き立てるようにも努力するぜ」

「東城、僕は? カメラマンになる予定の僕には何もないんか?」

「内場は助監督として美鈴を支えるのも兼ねてるんだ。労いの言葉がほしいなら、実際に美鈴の役に立ってみせろよ。そしたら美鈴から感謝されて、内場も嬉しくなって両方バンザイだぜ」

「言うやないか。ほなしっかりと美鈴を支えて役立ってみせるで」

「そういう訳で美鈴は監督として、遠慮なく助監督&カメラマンの内場を使えばいいさ」

「アンタに言われるまでもないわ」

 

 映制の柱として皆のやる気を出させる。

 おかげで美鈴も監督としてやりやすい。

 色々と紆余曲折もあるが、それこそ部活としてのやりがいが持てた。

 

「あたしから泉坂高校の受験対策についてだけど、教える役目が必要になると思うのよね」

「オレだったら美鈴を真っ先に推薦するぜ。つーか美鈴一択だろ」

「あたしだけだと負担が大きいから、アンタに国語と数学を担ってもらうわよ」

「ちなみを助手につけてくれるならいいぜ。確かに美鈴だけだと負担が大きいからな」

「わーい、わたしがしょーくんの助手だ」

 

 重要な二科目を美鈴から信任をされる。

 唯と内場も賛成をした。

 それに堂々と応えるのが正太郎である。

 

「唯、北大路さつきについての情報がほしい。映研に入る可能性があるなら知っておきたい」

「さつき先輩は空手やってるけど、中学卒業したらやめるみたい。他にやりたいことを探すためと言ってたよ」

「運動タイプの女子か。頭はいいほう?」

「勉強は苦手だって。だから受験勉強もすっごく辛そうで唯によく愚痴をこぼしてるよ」

「仮に映研に入った場合、演出する人が増えるかもしれないな」

「じゅんぺーと気が合いそうだよ。友達みたいなノリで仲良くなれちゃうみたいな」

「彼氏とか好きな人はいるの?」

「いないって言ってたよ」

「恋愛小説なら、好きになってはいけない人を好きになっちゃうタイプでもありそうだな」

「あ、うん。もしライバルになったら、対抗しちゃって勝ち取ろうとすると思うよ」

「立ち位置がちなみのようだな。頭の良し悪しは置いておくとして、映研の花形になるかもしれないからマークしたほうがいい」

 

 部活にしても恋愛にしてもさつきの存在は無視できない。

 用心をするに越したことはない。

 唯にさつき偵察を任命して定期的に情報を送ってもらうことにした。

 まさに小学時代のニンジャに相応しい役目である。

 

 ………………。

 …………。

 ……。

 

 西野家にいる正太郎とちなみ。

 つかさが作ったケーキを試食をするためだ。

 頭を使う時は甘いものが欲しくなる。

 回復アイテムというノリで存分に堪能していった。

 

「この前、綾の所へ遊びに行ったらビックリしたよ。いつもの恰好じゃなかったし」

「ねーちゃんがああなった理由、つーさんならすぐに分かったんじゃないッスか?」

「もちろん。でもまだ付き合ってないんだってね。もう焦れったいんだから」

「泉坂高校に合格して卒業式に告白のオチになると思うッスよ」

「そう上手くいけばいいけどね。なんか綾って肝心な時にドジる所があるから」

「つかさ先輩はお姉様が誰を好きでいるのか知っていますか?」

「うん知ってるよ。弟くんとちなみちゃんも知ってるんでしょ?」

 

 当然という返事で正太郎とちなみでハモる。

 お互いが顔を見合わせて笑ってしまった。

 

「ホント仲がいいねキミたち」

「もちろんです。わたしたち付き合っていますから」

「付き合う前でも仲は悪くなかったと思うけどな」

「それはそれ、これはこれだよしょーくん。今この時もしっかりと思い出作りしたいと思ってるからね」

「まあ時間は戻ってこないからな。今この時を大切にする考えに賛同するぜ」

 

 つかさも年頃の女の子で色恋沙汰に興味がない訳ではない。

 ドキドキの経験がないからこその憧れはある。

 だから野暮であることが分かっていても二人の進展を訊きたくなった。

 

「付き合ってるなら……キスとかしたりするの?」

「しますよ。とっても幸せな気持ちになれる魔法みたいで素敵な愛情表現です」

「見世物じゃないし、人前ではやらないけどな」

 

 その先もしているのだろうか?

 流石に言葉にするのは躊躇してしまう。

 それを察したようでちなみが先んじるように言った。

 

「まだ中学生ですから、つかさ先輩が考えてるような事はありません」

「……顔に出てた?」

「知りたいけど訊くのはちょっと……という顔をしていました」

「つーさん、ちなみは相手に合わせての演技スキルを持ってるから、読心術も長けてるって思っていいッスよ」

「一番読みやすいのはしょーくんだよ。ずっと見てきているし、しょーくんは素直に自分を出してくれるから」

「おかげで体調管理が万全だよ。ちょっと消耗が激しくて疲れた時でもすぐ見抜くし」

「彼女としては、あまりしょーくんに無茶してほしくないんだけどね」

「ちなみが癒してくれるから心置きなく本気出せるんだよ。オレ手加減できるほど器用じゃないからな」

 

 ちなみの頭を軽く手を乗せてすぐ離す。

 ありがとうの意味を込めた。

 つかさの見ている前だから弁えている。

 

「弟くんって割と彼女の頭を触ったりしてる?」

「頭乗せは時々かな。髪を撫でるほうが多い」

「へえー、ちなみちゃんはイヤじゃないの?」

「むしろドンドン触ってほしいです。ちゃんとお手入れも欠かさずにしていますから」

「弟くん、すごい愛されてるね。これって中々できることじゃないよ」

「まあ、これも人前では控えてるッスよ。秘密の愛情確認ということで」

 

 会話も程々に切り上げてケーキのお礼を言う。

 また新作ができたら二人で食べに行くという約束をした。

 恋人繋ぎをして帰り道を歩いていると。

 

「しょーくん、キスしたいって思ってない?」

「髪を撫でたいと思っていたら?」

「両方考えてたでしょ?」

「正解。オレは嘘を言ってない。数学の論理を応用してみた」

「ホント、数学好きになったねしょーくん」

「国語も好きだぞ。読解力が問われて二次創作で役立つし」

 

 ちなみの部屋で恋人同士のスキンシップ。

 甘えたいし甘えられたい。

 親密な触れ合いでお互いの気持ちを確かめ合う。

 他の人の前では見せない顔や態度を見せ合う。

 とても大切な二人っきりで行なう秘密の時間である。

 

「しょーくん、キス上手くなったね」

「一瞬キスなら色々試したからな。お互いの姿勢も含めて」

 

 お互いにベットの側で座り、彼女の顎に指を添えて上げさせの一瞬キス。

 髪を撫でたり、肩寄せしたり、手を繋いだりでスキンシップを継続。

 触れる時間を長くすればするほど、ちなみが幸せを感じてくれるから。

 

「わたし、しょーくんと密着しての長いキスが好み」

「接触の面積が増えると不思議と息が乱れてしまうんだよなオレ。だからちなみがリードしてくれないと、上手く息継ぎができなくて気絶というオチが待っているぞ」

「しょーくんはわたしとくっつくの嫌い?」

「というか体がムズムズして擦り付けたくなって変な気分になる。知識不足だからこの辺りの感情がよく分からん。なぜか興奮して呼吸が乱れるというパターンに陥る」

 

 学校で性教育は教えていないのか?

 デリケートな問題で教えにくい大人の事情がある。

 そういう規定もあって正しい知識を身に付けにくい。

 図書館で自主的に調べるしかないのかもしれない。

 

「好きだよちなみ」

「わたしも大好きだよしょーくん」

「……言わなくても分かるだろうはダメだったな?」

「うんダメ。ちゃんと言葉にすることも大切だから」

「好きを言い過ぎるとありがたみが減るらしいぞ」

「少なすぎても不安になっちゃうよ」

「だから二人っきりの時ぐらいは素直に言葉や態度で示せってことだな」

「うん、わたしはそうしたい。しょーくんは?」

「オレの答えはこれで」

 

 ほっぺにキスをして態度で示した。

 ちなみも頬の口付けでやり返す。

 

「ねえしょーくん」

「ん?」

「しょーくんとくっついて長くキスしたい」

「密着のロングキスか……ベッドの角を背に試してみるか?」

「角?」

 

 ベッドは部屋の壁にくっつけている。

 その直角となる壁の位置を指して言った。

 

「横倒れ防止になるからな。座りながらの抱っこが一番密着すると思う」

 

 横寝しながらは手の置き場に迷うことがある。

 でも座った状態なら抱きしめるので特に迷わない。

 たとえ力が抜けて手を垂れ下げても邪魔にならない。

 

「なんかちょっとエッチな感じ」

「エッチ?」

「ううん何でもない。さっそく試してみようよ」

「了解」

 

 ベッドの角に背を向けて両足を投げ出して座る正太郎。

 その両足を跨って女の子座りをするちなみ。

 正太郎の首の後ろに腕を回すと、ちなみの腋の下から背中へ正太郎の腕が回った。

 顔が至近距離になるため、お互いの息遣いが感じ取れる。

 その吐息ごと呑み込もうと唇を重ね合わせた。

 お互いに目を閉じて、慣れない体勢から無意識に腕の力がこもる。

 

 ――なんかこれヤバい。寝ながらよりもヤバい。

 

 横寝しながらは無意識に体を逃がして刺激を抑えていた。

 しかし座った状態の密着は固定されて体を逃がせない。

 体を擦り付けて本能的に発散しようとする。

 密着する面積が大きくより刺激を味わう。

 もがけばもがくほど興奮が増すばかり。

 

「んっ……むんっ……ち……な……んんっ」

 

 ちなみを呼び止めようとするもキスで封じられる。

 彼女は無我夢中。

 今までしたキスの中でも最上級。

 身体のぬくもり、胸の鼓動を最もよく感じられた。

 正太郎の口呼吸が頻繁に繰り返す。

 それだけ興奮が激しくなっている。

 落ち着こうにも密着の刺激が強くて抑えられない。

 だから強く抱きしめる。

 ちなみが苦しそうに呻く。

 そのほうがちなみには嬉しいようで受け入れた。

 

「んんっ!! んっ!! むんん!!」

 

 燃え盛る体内の熱を発散しようと声が大きくなる。

 それはちなみの唇によってくぐもってしまう。

 少し間を置いてからちなみの肩にトントンと手でノックをする。

 ちょっとストップしてという合図。

 それに応えてちなみがそっと唇を離した。

 

「はぁはぁはぁ……しょーくん?」

 

 ちなみの髪を撫でながら呼吸を繰り返す。

 今も密着している体の熱は取れる気がしない。

 ドキドキとする鼓動も高まる一方である。

 

「ちょ、ちょっと離れて。これヤバい。色々とヤバいから」

「耳みたいに感じやすいってこと?」

「ああ」

「ふーん、感じてくれていいのに」

 

 そう言いながらも正太郎の要望通りに離れる。

 それでも頭を差し出すので撫でてほしい様子。

 優しく撫でることでちなみが微笑んでくれた。

 

「声が大きくなるぐらい刺激が強かった。密着する面積が広いことが原因だと思う」

「そういえばキスしてる時、しょーくんから喘ぎっぽい吐息を感じたよ」

「あれは抑えようとしても無理。耳に息を吹きかけられて悲鳴を上げるのと同じぐらい無理」

「わたしはしょーくんが感じてくれると嬉しい。だってわたしの体で気持ちよくなってるってことでしょ?」

「ちなみの体が密着して、その刺激が気持ちいいという意味なら合ってる。不思議な感覚だから戸惑いが大きいけどな。まだ慣れてないし」

「わたしは今回の座り抱っこのキスが一番好き。すっごく良かった」

「それは何より」

 

 お気に入りの体勢が見つかった。

 今後もおねだりをしてくる可能性が高い。

 それならば改善をしておく点はある。

 

「声が大きくなる点を改善したいと思う」

「そんなにすごい声になっちゃうの?」

「キスで封じなかったら部屋中に響くと思うぞ多分」

「じゃあそれで封じちゃおうよ」

「……口呼吸する時に声が響くと思うが?」

「さっき、くぐもった吐息を感じたけどそんなに響いてないんじゃない?」

「そうかな?」

「うん大丈夫、問題なしだよ」

 

 ちなみが自信満々に言ってのける。

 そうなると正太郎としては受け入れるしかない。

 

「あと密着の刺激は慣れるしかないかな。厚着で防御力上げても変わらんと思う」

「それじゃあ一杯練習すればいいね。今までもそうして上手くなっていってるから」

「……そんなに気に入ったのか? あの座り抱っこのキス?」

「うん!!」

「わかった。次の機会から練習ということでよろしく」

「今すぐはダメ?」

「次の楽しみにとっておけ。今までもそうしてきたからな」

 

 この後、正太郎は膝枕を頼んでしてもらった。

 ゆっくりと癒されたい時はこれに限る。

 居眠りをしてしまうほどに心地良いから。

 

 ………………。

 …………。

 ……。

 

 また遊ぼうという男の約束。

 それを律儀に守るのが正太郎と小宮山。

 兄弟のように仲良く馬が合う不思議な組み合わせだ。

 

「コミさん、次こそは格ゲーでリベンジをするッス!!」

「おう!! かかって来いよ東城弟!!」

 

 数学の知識で解析を始めていく。

 乱数、アルゴリズム、確率など様々な要素からのパターンを探る。

 その結果、小宮山のプレイを先読みしての逆転勝ちだ。

 

「うっしゃあ!! オレの勝ちッス!!」

「や、やるな東城弟」

「コミさんも黒川先生に数学教えてもらったら、オレみたいに出来るかもしれないッスよ」

「あの美人教師と個人指導……げへへっ、いいなぁー」

「あれ? コミさんはつーさんが好きだったのでは?」

「そ、そうだ!! 俺にはつかさちゃんという心に決めた人が!!」

「それならつーさんに告白して付き合わないッスか?」

「つかさちゃん、誰が告白しても断るって話なんだよ」

「でも言わないまま卒業したら後悔しないッスか?」

 

 正太郎に言われて小宮山の中で確かにと思った。

 しかし成功のビジョンが見えないのも事実。

 告白をするにしても上手いやり方があるのではと躊躇う。

 ゲーセンを出た先でトラブルの現場を目撃。

 男にナンパされているパイナップルの髪型をした女子が困っている。

 小宮山が女子の前に立ってナンパ男を追い払った。

 トゲトゲ頭の強面に睨まれての異様な仁王立ち。

 筋肉質で体格が良いので、喧嘩をしても勝てないと直感をしたのだろう。

 

「カッコイイッスよコミさん。正義のヒーローッスね」

「よせよ。目の前で困ってる女の子を見捨てるなんて男じゃねえだろ」

「いつもそうしてたらモテるッスよきっと」

「おい!! それはどういう意味だ東城弟!?」

「とにかく大丈夫か? 名も知らぬ女子――って、その技はコミさんバリア!?」

 

 小学時代、正太郎が唯をバリアにしたことがある。

 相手の背中に回って盾とする防御技だ。

 それを見知らないパイナップル髪の女子が披露してみせた。

 

「何者だ!? その技を使えるってことは只者じゃないな!!」

「おいおい東城弟、女の子を怖がらせるんじゃねえぞ」

「そっちがコミさんバリアならオレからはこれだ!!」

 

 身近に見かける電柱を盾とする。

 ただし動かない障害物だから動ける小宮山と違って不利。

 盾が固定されてしまい、がら空きの横からやられてしまうからだ。

 それでも声を上げてハッタリをかますしかない。

 

「バリアが使えるのはお前だけじゃないぞ!! 小学時代から培ってきたバリアの使い手を舐めんな!!」

「ごめんな。コイツ馬鹿だけど、俺の可愛い弟みたいなヤツなんだ。べつに怖がらなくてもいいんだぜ」

 

 コクコクと頷くのが精いっぱいの女子。

 それでも小宮山の背中に守られたいようで隠れ続ける。

 外は夏の暑さで炎天下に見舞われていた。

 長期戦は双方にとっての損害になる。

 だから正太郎は女子へ和睦を提案した。

 本来は国同士の争いに使われる言葉だが、正太郎の価値観からあえて使う。

 

「和睦の証として涼しい喫茶店でお茶でも交わそう。店員がいるからナンパの被害もないはずだ」

「おっ、そいつはいい考えだぜ。えっと……」

「む、向井、こずえ……です」

「こずえちゃん、いい名前だね。俺は小宮山力也」

「コミさんの弟分みたいなもので東城正太郎だ。とりあえず、コミさんバリアの使い手よ。和睦のために喫茶店で涼しくお茶しないか?」

「だから争うんじゃねえよ。カワイイ女の子に向かって男らしくねえぜ」

「男女平等社会ッス。それにオレは同じ人間として見るんで」

 

 こずえが静かに頷いて喫茶店へついて来る。

 さくらんぼパフェを注文して美味しく食べていた。

 チェリーが好みなのかもしれない。

 正太郎もぶどうパフェで対抗して食べる。

 小宮山はブラックコーヒーを飲んでいた。

 

「苦いのによく飲めるッスね」

「これが男の味だぜ東城弟」

「男の味……あ、そんな……エッチはダメ……あんっ……っ」

 

 いきなりの激しい妄想癖を見せつけてきた。

 小宮山としては可愛い女の子の妄想なら大歓迎。

 すっかり鼻の下が伸びている。

 一方、正太郎はこずえの中身、すなわち能力を冷静に観察。

 他にも何らかの手札がないかを探った。

 とりあえず妄想から戻ってもらわないと話が進まない。

 こずえの口の中へぶどうを放り込んで正気に戻す。

 パフェの貴重なぶどうが一個減ったがやむを得ない。

 

「バリアだけでなく、妄想術まで使えるとは侮れないヤツめ」

「ぶ、ぶどうも美味しい」

「そりゃどうも。とりあえず今から話を聞かせてもらうぜ」

 

 こずえは幼稚園の頃からずっと女子校の出身。

 家族も女子ばかりで異性と接する環境がない箱入り娘。

 しかしこずえはこのままではいけないと思った。

 世の中で生きていくためには、男との関わりが避けて通れない。

 だから外の世界を知ろうと、一人で見知らぬ土地へフラフラと出かけた。

 

「そして知らない男にナンパされ、コミさんに助けられて今に至ると?」

 

 コクコクと頷いて肯定を示す。

 物騒な世の中であまりに不用心なこずえ。

 家庭と学校のどちらも女ばかりというのも非現実的だ。

 父親が他界したのか離婚したのかは触れないでおく。

 人の不幸を問い詰めるほど非情になるつもりはない。

 それよりも正太郎は気になる所を尋ねた。

 

「見た所、中学生だと思うが何年生?」

「さ、三年生です」

「……悪い、年下と勘違いしたッス。オレはひとつ下なんでよろしくッス」

「あ、あの普通に話してくれていいですよ」

「うーん……実はオレ、敬語嫌いで年上にタメ口か今みたいな後輩口調じゃないとストレス溜まるんだ。今回の場合、同じ中学じゃないから先輩と後輩の関係ではない。だから現時点では許可もあるしタメ口でいくよ。同じ高校になったら後輩口調にするということで」

「えっ、じゃああたしも敬語で話すのはダメってことですか?」

「正直堅苦しく感じるけど、なるべく気にしないようにする。赤の他人だから仕方ないってな。それはそうと、男が苦手そうに見受けられるが、コミさんが相手なら問題なさそうに見えるぜ」

「おっ、それって俺が特別ってことだよな?」

「ヒーローだからッスね。オレはその弟分だからちょっとマシに相手できる感じッス」

 

 人は慣れた環境から抜け出すのは容易ではない。

 そこから飛び出していこうとする勇気は立派だ。

 多少なりとも男と関ろうとするのも社会で生きていくには必要だろう。

 

「コミさん、そのパイナップル少女の護衛かつ男に慣れるための訓練相手になったらどうッスか?」

「お、俺が!? マジで!!」

「オレにはちなみという彼女がいるんで、その子の相手は無理ッス。コミさんほど心を許されてもいないんで」

「け、けどよ。こずえちゃんが俺でいいのか分からねえし」

「大丈夫ッスよ。コミさんの隣にいる時点で、それしか選択の余地がないんで」

 

 席へ移動して小宮山が座った瞬間。

 こずえは素早くその隣へ座ったのだ。

 怖い思いをしたので傍から離れたくないのだろう。

 

「そうか。まあ、困ってる女の子を助けるのが男ってものだよな?」

「そういうことッス。その男らしさでパイナップル少女を助けてやったらいいッス」

「あ、あの……パイナップルはちょっと……」

「美味しそうなあだ名でいいと思った。特徴も分かりやすいし」

「こずえちゃん。コイツは人にあだ名つけることがあるけど、悪気はないから許してやってくれないか?」

「あ、はい……力也さん」

「おっ、俺のことを名前で呼んでくれるなんて嬉しいな」

 

 女慣れをしていない小宮山こと力也が紳士的に接している。

 守らないといけないという男の父性本能。

 それがスケベな感情を上回っているのだろう。

 

「パイナップル少女よ。コミさんと同じ受験生だが高校は女子校か? それとも共学?」

「あ、女子校の他に、泉坂高校を受けます」

「おっ、奇遇だな。俺も同じ泉坂高校を受けるぞ」

 

 力也が嬉しそうにそう言うとこずえも微かに笑う。

 同じであることに運命でも感じたようだ。

 こずえが妄想する予兆を感じて正太郎が先手を打つ。

 

「妄想術は使わせないぞパイナップル少女。貴重なぶどうをこれ以上減らされてたまるか」

 

 ぶどうの恨みでデコピンの一発でも当ててやりたい。

 それは力也が阻止するだろうと予想して自重をする。

 

「パイナップル少女は携帯電話を持ってるか?」

「う、うん」

「コミさんは携帯持ってなかったッスね? 今から携帯を持てないッスか?」

「そうだな。親に言えば持たせてくれるかもしれねえ」

「それならパイナップル少女のために携帯を持ってやったらどうッスか?」

「よしわかった。説得して持てるようにするぜ」

「という訳でパイナップル少女、とりあえずコミさんに連絡先をメモして渡してやるといい。ただコミさんがうっかりなくしてしまわないか心配だけど」

「おいおい、俺がそんなドジをする訳――」

「世の中に例外はあっても絶対はないんッスよコミさん」

 

 正太郎の懸念に対してこずえが動く。

 連絡先のメモを力也だけでなく正太郎にも渡してきたのだ。

 

「パイナップル少女、このメモの管理はオレの彼女ちなみに任せていいか? 嫉妬させて悲しませたくないから」

「あ、はい」

「じゃあ、ちょっと外の公衆電話でちなみと話してくるから待っててくれ」

 

 一旦その場を離れて公衆電話でちなみと電話をする。

 事情を説明してこずえの連絡先メモの預かりを頼んでみた。

 どのように取り扱うかはちなみに全て任せる。

 

「いいよ。でもよく教えてくれたねしょーくん」

「裏切らない忠臣みたいでカッコいいだろ? ばっちりと忠義を尽くすぜ」

「今度、演技でそういうのやってみる?」

「そうだな。機会があったらよろしく」

「あ、それとその喫茶店で待っててくれる? しょーくんに会いたいから」

「いいぜ。パイナップル少女はコミさんに送らせて、オレは一人帰るつもりだったからな」

 

 喫茶店へ戻ってちなみの承諾を得たことを報告。

 彼女への義理立てが良かったのか。

 正太郎に対しての恐怖心がほとんどなくなる。

 ひとつ年下で子どものような振る舞いも要因だ。

 

「しかしパイナップル少女が入学すると、映研メンバーがさらに強力になりそうで厄介だぜ」

「映研?」

「コミさんは泉坂高校で映像研究部を立ち上げる部員だ。オレら映画制作部と対決する予定もあるぜ」

「それって、あたしも入れる?」

「コミさんがいるからパイナップル少女も映研へ入部する。オレはそのように予想しているが違うのか?」

「……力也さん、あたしでも……に、入部できる?」

「こずえちゃんなら大歓迎だよ。むしろ俺と一緒にやろうぜ」

「は、はい!! り、力也さんと一緒の部――」

「妄想術は使うなよ。それは帰った後でいくらでもやればいいから」

 

 再び気配を感じたので突っ込み役に徹して止める。

 あとは力也だけを連れてこずえを帰してやればいい。

 上手く仕向けて一人残った正太郎は喫茶店で待機。

 しばらくしてちなみがやって来たので手招きをした。

 

「お疲れしょーくん、大変だったね」

「疲れたぜ。でもコミさんと相性が良いから上手くやると思う」

「きっと大丈夫だよ。小宮山先輩は変な人だけど悪い人じゃないから」

「トゲトゲ頭でなければもっといいんだけどな」

「それは言わないであげようよ」

「とにかく出ようぜ。あ、支払いは全部オレかよ」

 

 力也とこずえが支払いをせずに店を出ている。

 そのため支払いの伝票が残ったままだ。

 トホホとなる正太郎にちなみが一緒に払ってくれる。

 

「オレのミスだから別にいいのに」

「いいの。わたしがこうしたいって思ったんだから」

「貧乏なオレで苦労をかけるぜ」

「大丈夫。いざとなったらわたしがいっぱい稼ぐから」

「……なんか中学生がしていい話じゃないような気がしてきた」

 

 払わせたままというのは正太郎の気が済まない。

 このままデートしようと誘って昔の公園へ足を運ぶ。

 それは二人にとって思い出の場所。

 初めて演技スキルを見せてもらったので感慨深い。

 つい懐かしくなって昔話に花を咲かせた。

 

 ………………。

 …………。

 ……。

 

 力也が親を説得して携帯を持つようになった。

 こずえとの通話およびメールのやり取りができる。

 自慢をしたくなった力也が淳平の家へ足を運んで行く。

 

「小宮山、冗談はその妖怪みたいな顔だけにしてくれよ」

「誰が妖怪だしばくぞ!!」

「さすがに信じられねえって。あの小宮山に女の子の友達ができるなんてさ」

「東城弟がちゃんと見てるんだ!! いい加減に認めろ真中!!」

 

 信じてくれないので正太郎を呼ぼうとする。

 だが連絡先も住所も知らない。

 強引に淳平を東城家まで案内をさせて証明をすることにした。

 

「カントクはコミさんを甘く見過ぎッスよ。パイナップル女子の護衛に向いてるんで、交流を勧めたのはオレッス」

「護衛って……まあ、確かに小宮山は色々と人間離れしてるけどさ」

「男慣れの訓練も兼ねてるんで。コミさんしか心を開かない感じッスよ」

「そうか? 俺が見た感じ、東城弟も全然怖がってなさそうだったぞ」

「それはおそらく、オレは男として見られてないからッス」

 

 それを聞いて淳平が何故かと不思議に思う。

 ハンサムな顔立ちをしている正太郎が男として認識されていない。

 そんなことがあるのだろうか?

 

「同じ人間として見てくれているんで、オレとしてはいい事だと思ってるッス」

 

 このように解釈をするのが正太郎らしい。

 こずえから力也へ送ったメールによると、正太郎のパイナップルあだ名を見返してやりたいと息巻いていた。

 その意外な一面も可愛いとデレデレしてしまう力也である。

 

「きっとパイナップルの髪型を変えて来るッスね。そん時は別のあだ名を考えておくッス」

「普通に名前で呼ばないのか?」

「バリアと妄想術を使う侮れない相手なんで。あまりにキャラが濃いんで異名をつけたくなるッス」

 

 いずれにしても力也に先を越された。

 徐々に悔しくなってくる淳平。

 優越感に浸る力也を目の当たりにして余計に苛立ちを覚えたようだ。

 

 ――つーさんのことは諦めたのかな?

 

 人の心は移ろいやすくて変わりやすい。

 自由に連絡ができるこずえを選んでもおかしくはない。

 それも一つの選択肢である。

 

「コミさん、パイナップル少女の男に対する苦手意識は克服できそうッスか?」

「それなんだよな。メールでも何とかしたいって相談があってよ。俺としても力にやりてえと思ってるんだ」

「デートでもすれば慣れるんじゃないっスか?」

「それだ!! よし早速メール送ってみるぞ!!」

 

 送信をしてしばらくすると力也の携帯に返信が届く。

 二人っきりは緊張しすぎるから正太郎にも来てほしいという要望だ。

 淳平は綾の件があるので、こずえの気持ちが分かる気がした。

 

「コミさん、パイナップル少女にオレの彼女も連れて行っていいか尋ねてほしいッス」

「おう、わかった」

 

 確認した結果OKが出た。

 男が苦手であって女は特に問題がないらしい。

 

「ちょっと確認を取るんで待っててほしいッス」

 

 正太郎がちなみの携帯へ電話をする。

 すぐに出てくれるので対応が早い。

 かけてくれる声が嬉しそうで笑顔が想像できる。

 ひとまず用件を伝えてみると。

 

「今度は小宮山先輩と向井さんの二人とダブルデートだね」

「祭りの時はカントクとねーちゃんでやったな」

「向井さんとは初対面になるけど大丈夫かな?」

「問題ない。本人からOKが出てるぜ」

「わかった。また詳しいことがわかったら教えて」

「もちろん。とりあえずコミさん待たせてあるから返事しとく」

 

 今回のダブルデートはこずえの配慮が不可欠となる。

 あまり人混みの多い所は避けたほうがいい。

 できるだけ安心を与えるように四人一緒が望ましいだろう。

 

「コミさん、オレからは合格祈願ができる神社を選ぶッス。二人の合格を願えるし、そんなに混むこともないからパイナップル少女も安心するはずッス」

「おう、ありがとうな東城弟!! 絶対に受かってみせるぜ!!」

「その意気ッス。コミさんはどこか行きたい所ないッスか?」

「そうだな。やっぱカラオケがいいんじゃねーか?」

「確かに。カラオケなら密室の貸し切りで四人一緒。人混みの心配はないッスね」

 

 こうなると女子の意見も聞きたいところ。

 力也はこずえに、正太郎はちなみに。

 お互いに希望のスポットを尋ねてみた。

 こずえは妄想の余りにホテルを口走りそうになったが流石に思い留まる。

 自然公園のような落ち着ける場所がいいとの事だ。

 ちなみからは人混みは嫌だけど海を見てみたいとリクエストがあった。

 各自の希望を正太郎がまとめて順序と時間を計算した。

 これで問題ないかを事前に話し合って決めておく。

 念のため、力也を通してこずえにある事を尋ねてみた。

 それは……。

 

 ――トゲトゲ頭が気にならないだと。やはり認識阻害魔法か。

 

 明らかに非常識だろうと思われる力也のトゲトゲ頭。

 こずえにとっては、むしろ個性があって素敵に見えるらしい。

 パイナップルの髪型をしているから、ある意味ではお似合いである。

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