青春100%   作:完結の陽炎

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第21話「夏に歌う者と冬に馳せる者」

 こずえの家まで迎えに行くのが力也。

 待ち合わせの駅までに何かトラブルがあっては困るから。

 真っ先に目についたのが髪型の変化。

 髪の先端に巻き癖はあるが、肩にかかる程度のセミロング。

 日差しを防ぐための麦わら帽子を被っている。

 服は白のワンピースで清楚な印象。

 小物入れ用のコンパクトなショルダーバックを肩に掛けていた。

 

「うほーさいこー!! バッチリ似合ってるよこずえちゃん!!」

「あ、ありがとうございます」

 

 喜びを全身でアピールをする力也。

 気恥ずかしそうにしながらも満更でもないこずえ。

 出かける服を選ぶのに散々悩んだ甲斐があった。

 

「よっしゃあ任せろ!! 俺がこずえちゃんを守ってやるからな!!」

「は、はい」

 

 護衛としての役目に燃える力也。

 その力強さがこずえに安心感を与えてくれる。

 今まで見ることのなかった男の勇ましさ。

 気を付けないと妄想で悶絶をしかねない。

 こうして待ち合わせの駅まで二人一緒に向かって行く。

 

 一方、いち早く待ち合わせの駅にいるのが正太郎。

 ラフなシャツ、シンプルなボトムのズボン、そして野球帽を目深く被っている。

 壁を背に屋内で日差しを防いで暑さをしのぐ。

 常備のネタ帳で小説のアイデアを書き込んだ。

 脚本作りや勉強などで忙しくても、合間を縫って趣味の小説は少しずつでも書く。

 日課のようなものでやっていないと落ち着かない。

 そろそろ来るだろうと思ってみれば案の定。

 

「お待たせしょーくん」

 

 正太郎とお揃いの野球帽。

 伸ばした髪をスッキリとスカーフで束ねている。

 羽織の涼し気なパーカーに合わせてデニムのショートパンツ。

 活発な印象を与えるカジュアルなスタイルだ。

 

「なぜ覗き込む?」

「照れてるしょーくんが可愛いから」

「オレって分かりやすい?」

「わたしだから分かるって言えば嬉しい?」

「ちなみがよく笑顔を見せるから。いない時もそれが頭に浮かんで離れん。昨夜も夢に出てきた」

「どんな夢だったの?」

「人前では言えない察しろ」

 

 それ以上は言葉にしない。

 ちなみの唇に向けて指を差した。

 あまり意識をしないようにしようと理性が働く。

 

「したいなら素直にそう言ってくれたらいいのに」

「好きだからしたくなるのだろうか?」

「愚問だよしょーくん。そんなの当たり前じゃない」

「好かれていることを実感して、安心を得るための確認という可能性は?」

「不安になるようなことでもあるの?」

「疑いはない。でも愛情って目に見えないから欲しくなる」

「言わなくても分かるだろう、がダメな理由がそれだよ」

「なるほど……恋愛ってワガママなんだな」

「そうそう、ワガママになっちゃうんだよ」

 

 ちなみが野球帽を脱いで頬の近くへ添えた。

 正太郎も反対鎌の頬に向けて同じことをする。

 これで周りからは帽子で隠れて見えない。

 

「よく思いつく。感心するよマジで」

「すぐに分かってくれるしょーくんが好き」

「二人が来るかもしれないから一瞬だけな」

 

 ちなみが黙って目を閉じたのでそっと口付けをして離れた。

 顔がほのかに紅色に染まって見えるのは気のせいではない。

 お互いに照れ隠しで野球帽を被ってしまっている。

 それでも手の指を絡めて、恋人繋ぎをしつつキスの余韻に浸った。

 しばらくして力也とこずえが小走りでやって来る。

 

「初めまして端本ちなみです。よろしくお願いします向井さん。あ、わたしのほうが一つ下なのでちなみと呼んでくれると嬉しいです」

「あ、はい。はじめまして向井こずえです。こちらこそよろしくお願いします。ちなみさん」

 

 やや堅いと感じる正太郎だが初対面なので仕方がない。

 これから仲良くできれば気楽に接してくれるだろう。

 ちなみの演技は見ていて楽しめる。

 敬語を使ってもサマになっててカッコイイとすら思えてしまう。

 

「コミさん、最初は神社で合格祈願のお参りッス。御守りも縁起がいいので良かったら買っておくといいッスよ」

「げへへ、こずえちゃん。あーかわいいなこずえちゃん」

「あ、これ人の話が聞けない状態異常だ。パイナップル女子しか目に入ってない」

「あのー、髪を変えたからパイナップル女子はちょっと」

「予想通りに髪型を変えてきたな妄想使い」

「しょーくん、そのあだ名はちょっとひどいよ」

「人前で妄想しなくなったら変えるつもりだ。だから今は妄想使いで決定」

「ごめんなさい向井さん。しょーくんはこうなると絶対に引かないから」

「あ、はい。頑張ってみます」

「そこは人前で妄想しませんと断言してほしいな。まあいいや、時間が勿体ないから行こう」

 

 力也は放っておいても勝手について来る。

 神社で合格祈願と御守りの購入。

 そこから電車で移動をして海の見える公園。

 遠くで眺めるからそれほど混雑はしていない。

 

「今度、黒川先生に部活で合宿の可能性を訊いてみるか。もしかしたら海で泳ぐ未来があるかもしれないぜ」

「しょーくんはどんな水着が好みなの?」

「オレは外見で人を判断をしないから何でも、となってしまうんだよな。だから恋愛小説みたいに、ちなみが幾つか見繕って選択肢問題にしてくれるといい。どれがいいかみたいな感じでさ」

「わかった。その時は一緒に水着選びを手伝ってね」

「了解した」

 

 この時のこずえはじっくりと観察をしている。

 正太郎とちなみのやり取りを。

 恋人同士とはどんな感じなのか?

 年頃の女の子として興味津々になっている。

 

「あわわ、あんな指を絡めて繋いで……手汗とか気にならないのかな……で、でも力也さんとなら……いやん、まだそんな……ダメだよ力也さぁーん……っ」

 

 こずえの妄想が発動してしまい、それを間近に見た力也が鼻血を出してダウン。

 正太郎がこれだよと言わんばかりにこずえに向けて指を差す。

 見せつけられたちなみが苦笑いを浮かべた。

 

「これで分かっただろ? オレが妄想使いってあだ名を付けたくなる心境が」

「ノーコメント。でもどうするの? 小宮山先輩が倒れちゃったよ」

「しかも鼻血出すなんて、内場の漫画でもやらんぞ。とりあえず妄想使いにデコピンでも当てて正気に戻す」

「普通に呼び掛けてもダメなの?」

「ちなみがやってくれるならそれで頼む。戻るかは分からんけど」

 

 ちなみがこずえの肩を掴みつつ何度か呼び掛ける。

 揺さぶって何とか正気に戻ったようだ。

 そしてこずえに力也を目覚めさせるように声掛けをしてもらう。

 それだけでは力也が起きてくれないので手を繋いでもらった。

 

「うほー!! きたきたきたぁーーーーーー!!」

 

 何が来たのかは本人のみぞ知ること。

 細くて柔らかくサラサラとした感触を与えてくれるこずえの手。

 それは力也にとっては女神の手に他ならない。

 噴き出ていた鼻血が止まる。

 そして物理法則を無視するかのような立ち上がりをした。

 

「今どうやって立った? というか飛んだ?」

「しょーくん、小宮山先輩って本当に人間なの?」

「宇宙人じゃないの? 存在が非常識だぜ」

 

 復活をしてくれたので最後はカラオケで締める。

 食事もそこで済ませることにした。

 こずえは力也と手を繋いで不思議な感覚を味わった。

 男の人なのに怖くない。

 守ってくれる人の大きな手にドキドキとする。

 初めての気持ちに戸惑いを隠せない。

 

「あたし……り、力也さんと手……つ、繋いじゃった……はうっ……」

「ちなみ、また妄想使いが暴走しそうだから止めてくれ」

「もう放っておいたほうがいいかも。なんか幸せそうだし」

「ったくオレらのいない時にしろって話だぜ」

 

 帰るときに家を送らせる際、こずえの手は力也の手を求める。

 もう一度繋いでみたいという好奇心が芽生えた。

 でもおねだりをするのが恥ずかしくて出来ない。

 

「コミさん、妄想使いが疲れて転んでしまうかもしれないんで、手を繋いでやったほうがいいッスよ」

「そうですね。わたしも疲れちゃったからしょーくんと手を繋いでるよ」

「最初からだろうという突っ込みは野暮か?」

「野暮だよしょーくん」

 

 そう言われて力也はこずえの顔を見つめる。

 アイコンタクトでこずえが頷いてくれた。

 力也が緊張した面持ちでそっと手を差し出す。

 こずえも同じようにぎこちない動作で手を伸ばした。

 お互いの手がゆっくりと重なって繋がれる。

 

「それじゃあオレらはこれで」

「小宮山先輩、向井さん。二人ともお幸せに」

 

 そう言い残して立ち去る正太郎とちなみ。

 二人っきりになった力也とこずえ。

 こずえの家まで手を繋いで一緒に帰る。

 お互いに言葉はない。

 緊張の余りに何も考えられなかったから。

 こうしてダブルデートは完了したのである。

 

 ………………。

 …………。

 ……。

 

 映研の活動を名目に淳平の部屋へ集まる。

 メンバーは淳平、綾、つかさ、ヒロシ、力也、こずえの6名。

 こずえの自己紹介は済ませている。

 まだ男が苦手で淳平とヒロシに対しては上手く話せていない。

 今も力也の背中に隠れて守られていた。

 

「外村。オレら受験生だから、部活してる場合じゃないだろ?」

 

 淳平が言うように受験に追われる大切な時期。

 泉坂高校に向けて勉強しなければならない。

 それに対してヒロシは平然と答えた。

 

「たまには息抜きに、みんなで集まって親睦を深めるのも悪くないんじゃないかい? それに映制の団結力は凄まじいからね。見習うべき点もあると思うよ」

「おー、なんか外村がまともなことを言ってるぞ。もしかして俺らヤバいのか?」

「酷い言い草だね小宮山。それだと僕がいつもまともじゃないと言ってるみたいじゃないか」

「……なあ外村、自分がまともだと思ってるのか?」

「失礼だね真中。僕はいつだってまともじゃないか」

 

 それに対して肯定をしてくれる人が誰もいない。

 ヒロシが変態であることは周知の事実だ。

 今もカメラを構えて女子の写真を撮る始末。

 このままでは埒が明かないのでつかさが切り出す。

 

「それであたしたちを集めて何するの? 息抜きなら勉強会じゃないよね?」

 

 特に何も考えていない。

 単純に綾たちを撮影できたらそれでいい。

 そんな本音を駄々洩れに言い切るヒロシはやはりまともではない。

 これを少し擁護しようとしたのが綾である。

 

「確かに映制を見習ったほうがいいかも。正太郎が頑張って映画作りの準備してるから」

 

 正太郎の名前を聞いた瞬間。

 淳平に動揺の色が浮かび上がる。

 脚本、演技、交渉、部費の計算およびスケジュール管理、受験対策の国語と数学の担当など。

 多種多様に役目をこなす映制の柱。

 辛口の美鈴から中心的な役割を任されている。

 人を見る目がある淳平としては最も敵にしたくない。

 

「へえー、弟くんがマジでやる気出してるなら、あたしたちも頑張らないと負けちゃうね」

「うん。正太郎は黒川先生から数学を教わって、それを部活や日常生活で活かしてるみたい」

「あー、なんか潜在能力が目覚めたとか聞いたよ。漫画の主人公みたいだね」

「あ、それオレも思った」

 

 つかさの言葉に淳平は同意をして頷く。

 ヒロシが黒川先生に聞いた所、正太郎は今まで教えた生徒の中で突出している。

 もっと上手く使いこなせば他の科目でも応用ができるだろう。

 実際、正太郎がそれに気付いて、頭ごなしの暗記に頼らず、そこに至るまでの過程を意識するようになった。

 

「へえー東城弟って意外と賢いんだな。俺と遊んでる時は馬鹿やってるのに」

「それは僕も同じだよ。バカをやる時とマジメにやる時、どっちも楽しいものさ」

 

 力也が意外そうにするもヒロシは理解を示している。

 部活の交渉で正太郎と話し合いをしているからこその発言である。

 

「ほらシャッキとしなよ。後輩相手にビビって情けないぞ」

「つかさちゃんの言う通りだぞ真中。ここは男らしく勝負するところだろ」

 

 つかさと力也から喝を入れられる。

 静かに見守るこずえは力也がカッコいいと見惚れていた。

 そして綾が淳平の傍で励ましをする。

 

「真中くん、私も精一杯頑張るから。一緒にいい映画作ろうよ」

 

 ここまで言われて奮起しなければ男ではない。

 淳平も割と単純な所があり、その気になってしまう。

 

「そうだな!! 今回、向井も加わったことだしきっと勝て――」

「あんっ……ダメ力也さぁーん……みんながみて……やんっ……はっんん……」

「うひょー!! さいこーだぜこずえちゃーーーーーん!!」

「いいよいいよ!! その妄想に浸る顔は絶好のシャッターチャンスだね!!」

 

 いつの間にか妄想が発動しているこずえ。

 それに興奮をして鼻息を荒くするのが力也とヒロシ。

 淳平はその場で両手を床につけて頭を垂れてしまう。

 

「も、もうダメかもしれない」

「真中くん!? き、きっと大丈夫だから!!」

「大丈夫だと思う? 本当に?」

「うんきっと……多分」

「いや綾、そこはキッパリ言い切りなよ!! 気持ちは分かるけどさ!!」

 

 つかさにツッコミを入れられて綾は乾いた笑いしか出ない。

 淳平としては真面目に映画作りをしたい。

 しかし本当にできるのか不安でたまらないのである。

 前途多難を感じさせる映研メンバーであった。

 

 ………………。

 …………。

 ……。

 

 映制の活動として美鈴の部屋へ集まる。

 メンバーは美鈴、内場、正太郎、ちなみ、唯の5名。

 今回は映研に参入するこずえに関する情報の報告。

 提供者は正太郎とちなみ。

 ダブルデートを通じて力也との甘酸っぱい関係も伝えた。

 

「わー、向こうは部員が増えていくね」

「僕らはどないする? 入学してから即募集かけるんか?」

「オレたちだけで勝負するか? 新入りを集めてから勝負するか?」

 

 唯、内場、正太郎がそれぞれ口にする。

 二者択一の選択肢に対してちなみが答えた。

 

「わたしだけでしたほうがいいと思う」

「何か理由があるのかちなみ?」

「映研に勝つためだよ。このメンバーで集中してやったほうがいいと思うの」

「確かに新入りに合わせて脚本や演技など調整が必要になるし、その新入りと上手くやれるかも分からない。勝負をする大切な時期は、あえて募集をしないほうがいいかもな」

「せやな。やるなら映研との勝負に勝ってからにしたほうがええか」

「唯はどっちでもいいけど、勝負をするなら勝ちたいよ」

 

 どちらを選んでも利点と欠点はある。

 大体の話がまとまったので監督の指示を仰ぐ。

 美鈴は事も無げに答えた。

 

「募集はしない。このメンバーで勝負よ」

「映研が部員を集めて戦力の強化をしてもか?」

「関係ないわ。誰が相手であろうと勝つのはあたしたち映制よ」

 

 泰然自若。

 正太郎の問いかけにも動じることなく強気の発言。

 微塵も勝利を疑わない。

 不安を全く感じさせない。

 その一本筋の通った美鈴の堂々たる姿がメンバーの心に響く。

 

「美鈴カッコいい。なんか唯、すっごく感動しちゃった」

「わたしも。どんな事があっても美鈴なら絶対に勝てるって信じちゃうね」

「さすが美鈴やな。惚れ直したで」

「内場の漫画でいうカリスマってヤツか。そこまでオレらを信じてくれるのなら応えてやるのが礼儀だぜ。にしてもマジで落ち着いているな。きっと映研のカントクならオロオロしてるぜ」

「一緒にするんじゃないよ。これでうろたえるなら上に立つ資格なんてないから」

 

 当たり前だと言わんばかりにキッパリとした態度だ。

 上に立つ者の心得をよく分かっている。

 おかげで映制の士気が大いに高まっていく。

 

「わかった。じゃあ次の議題――と言いたい所だが、ちょっと思ったことがあってな」

「どうしたのしょーくん?」

「話の進行役だけど、オレじゃなくて内場がやったほうがいいんじゃないか? 助監督だし内場の立場がなくなるだろ?」

「そんなん気にせんでええよ。つーか僕より東城のほうが向いとるんやから続けてほしいわ」

「くだらないこと考えてんじゃないよ。アンタがそのままやりなさい」

「ほらな。監督の美鈴がこう言うとるんや。東城がそのまま話を進めるってことで決まりや」

「……次の議題だが、オレの演技についての問題点を報告だ」

 

 ちなみと共演をしている時だけ正太郎の演技力が発揮される。

 それが一人演技になると共演よりも見劣りが生じてしまう。

 改善をするための模索はしているが芳しくない。

 

「ちなみワールドの距離を測定して、多少遠くても効果があることは分かっている。声が聞こえる範囲なら全然問題ないし、動きが見えればそこそこいける感じ、釣られる感じで演技するからな」

「カメラが映らない距離や位置でわたしが演技したらOKだね」

「カメラマンの腕が問われる。視線がちなみへ向くから角度にも注意が必要だろうし、内場の活躍に期待だぜ」

「えらいプレッシャーをかけてきよる。その場合なら音声の編集も必要やな」

「唇の動きだけで言葉がわかる読唇術ができたらいいけど、さすがにそのスキルは会得してないぜ」

 

 水分補給用のドリンクを飲んで一息つく。

 部屋の中でも油断せずに水分を摂取する。

 熱中症や脱水症状などの対策は怠らない。

 

「受験対策の国語と数学だが、次の講習で黒川先生に教え方の心得を学んで来るよ」

「東城が将来、教師になったりするかもしれんな」

「しょーくんが先生か……いいかも」

「唯にも分かりやすく教えてね、しょーたろ先生」

「あたしに言わせれば、アンタのほうが上手く教えられると思うけどね」

「個人的に美鈴の教え方はストレートで分かりやすいぞ。人を選ぶだろうけど」

「うっさい。どうせ煙たがられるのは分かってるからイチイチ言うな」

 

 美鈴を受け入れる人がいるのも事実。

 その証明となっているのが正太郎たちだ。

 お互いを高め合える良好な関係といえる。

 

「部費確保のバイトについて。ヒロシ兄さんの紹介は胡散臭いという意見がある。あえて誰とは言わんが、疑うのは当然だと思う。別に紹介に頼らずとも、自分たちで探すのもありだろう。そもそも高校生ができるバイトって何がある?」

「コンビニちゃうか?」

「わたしはレストランの接客とレジが思いつくよ」

「唯はハンバーガーショップかな?」

「新聞配達、奨学生がやるイメージだけどね」

 

 内場、ちなみ、唯、美鈴がそれぞれのバイトを連想してくれる。

 主に接客系が高校生のバイトとして多いようだ。

 

「そういうアンタは、どんなバイトがあると思ってるのよ?」

「……本屋がいい」

「それアンタの希望じゃない。あたしも嫌いじゃないけどね」

「僕も漫画があるなら大歓迎やで」

「唯も唯も!! 面白い本があるならそこで働きたーい!!」

「ねえしょーくん、全員で本屋のバイトしたらそれで万事解決じゃない?」

「おいおい、そんな大人数を雇う本屋なんて聞いたことないって」

 

 大体のバイトは育成の手間が掛かるので長期が望まれる。

 しかし部活のことがあるため、短期のバイトが望ましい。

 ヒロシの紹介を受ける受けないは内容次第だ。

 前向きに検討という方向で、あとはその時になってから考えればいい。

 こうして様々な議題を繰り広げていく映制メンバーであった。

 

 ………………。

 …………。

 ……。

 

 もし映研が負けた場合、全ての権限と部費を映制が支配することになる。

 美鈴の下につくことになり、淳平は自分で映画作りが出来なくなる。

 それでは夢が遠ざってしまうと落ち込む。

 綾としてはどうにかして淳平を元気付けてあげたい。

 ふと思い出す。

 正太郎との日記で書かれていたことを。

 お互いに敵同士だけど、良い映画を作ろうと志す仲間でもある。

 だから悔いのないように全力で戦うことが礼儀と心得ている。

 まるでバトル漫画のようなノリだ。

 それでも綾の心にはしっかりと残っている。

 

 ――真中くんと一緒に夢を見て歩きたい。

 

 まだ始まってもいないのに夢の終わりは早すぎる。

 ここで出し惜しみをしているようではダメだ。

 まだ誰にも見せていないとっておきを出すしかない。

 長年少しずつ積み立てるようにして書き上げた小説。

 プロデビューをするために温めてきた綾の宝物。

 後日、淳平の所へ行って大切な切り札を差し出す。

 

「おぉー!!」

 

 読み終えた淳平の目には感動の涙。

 これなら映制にも決して負けない。

 希望が見えてテンションが爆上がりとなる。

 

「ありがとう東城!! マジでありがとう!!」

 

 淳平の手が綾の手を包んで握った。

 ふと我に返る淳平。

 慌てた様子で離れて、綾は少し名残惜しんでいた。

 

「ごめん東城!! 嬉しくてつい」

「ううん!! 元気になってくれて良かった」

 

 まともに綾の顔を見れていない。

 まだ美人慣れをしていないのだろう。

 自分の気持ちも伝えていない。

 嫌われてしまうことを極度に恐れて前に進めない。

 それでもジレンマがあるのだろう。

 綾の気持ちを知りたいようで淳平がこんな質問をする。

 

「東城、どうしてオレにここまでしてくれるの?」

「め、迷惑かな?」

「全然迷惑じゃないよ!! ただオレの為にここまでしてくれてさ、東城には何の得もないのに優しくしてくれて。どうしてかなって?」

 

 好きだから。

 その一言を伝える勇気があればいいのに。

 答えは出ているのに言えない心の葛藤がある。

 

「一緒に夢を見て歩きたい。応援したいから」

「あ、ありがとう。そんな東城なら絶対モテるぞ。彼氏がいてもおかしくないよな?」

「いないよ!! 私、そういうのは全然!! 真中くんは彼女いないの?」

「いる訳ないよ!! そういえば小宮山ってガールフレンドがいるんだよな。信じられるか? あの小宮山だぜ、奇跡ってあるんだな」

「向井さんだよね? 小宮山くんが守ってて、ちょっと羨ましいかも」

「……やっぱあんな感じで守られるのって、嬉しかったりするの?」

「うん。大事にされてるみたいで嬉しくなると思う」

「東城弟も祭りの時に彼女を守ってたな。そっか、そういうものなんだ」

 

 綾を守れる男になれるのだろうか?

 まったくもって自信がない。

 勉強を教えてもらったり、今みたいに小説を見せてくれたり。

 与えてもらって甘えるばかり。

 情けないにも程があり、何かしらの恩返しをしたくなる。

 

 ――でもお返しなんてオレに何が出来るんだ?

 

 何か形のあるもので証明ができれば、少しは自信がつくかもしれない。

 プレゼントをするにしても、何を贈れば喜んでくれるのか?

 こういう時、綾の弟である正太郎なら何か分かるかもしれない。

 

「それでオレの所に相談に来たッスか?」

 

 別の日、正太郎の部屋へ行って相談に乗ってもらう。

 後輩に頼ってしまうのは情けないが背に腹は代えられない。

 淳平が綾のことを考えている。

 多少なりとも変わったのかもしれない。

 

「これならいいと思うっス」

「しおり?」

「別名はブックマーカーというッス。オレは創作家の読書好きなんで、ちなみから向日葵の柄をプレゼントされたッス。ねーちゃんも趣味は同じなんで、こういうのをあげたらいいと思うっス」

「なるほど。でもこういうのってどこで買えるんだ?」

「規模の大きい雑貨店、文具店、書店ッスね。博物館や水族館、土産物屋でも売ってる所があるッスよ」

「詳しいね」

「読書好きなんで、ブックマーカーも割と重宝するっス」

「それなら一緒に選んでくれないか? ちょっとこういうのよく分からなくて」

「タダ働きは虫が良すぎるッスよ。せめてメシぐらいは奢ってほしいッスね」

「あ、あまり高くないのであれば出すよ」

「心配しなくてもファーストフードで手を打つッス」

 

 正太郎の案内で上手く見繕ってもらう。

 幸運をテーマに選んでくれたのが和紙のクローバー。

 それを買って綾に贈ればいいのだが。

 

「渡すきっかけがない? それならオレが作ってやるッスよ」

 

 ファーストフードでハンバーガーを奢ってもらった。

 ポテトも付けてドリンクのコーラーも抜かりなし。

 そこで飲食を済ませてからアフターサービスをする。

 淳平を連れて綾の部屋まで連れて来た。

 恥ずかしいとか照れくさいとかは知った事ではない。

 

「ねーちゃん、カントクからプレゼントがあるってよ。いつもお世話になってるお礼みたいだから受け取ってやれ」

「そ、そんなお礼なんて」

「こっちはプレゼント選びを頼まれて手間が掛かってんだ。グダグダ言ってないで受け取れ。カントクもさっさと渡してやるッスよ」

「え、えっと……東城、これどうぞ」

「あ、ありがとう真中くん……うれしい」

「よろこんでくれてよかった。うん」

 

 初々しい二人を他所に静かに離れる正太郎。

 部活では敵同士だがプライベートだから気にしない。

 これで二人の仲が少しでも進展をすればいいと願った。

 

 ………………。

 …………。

 ……。

 

 夜に正太郎の部屋をノックする姉。

 それに応じて扉を開けて応じた。

 

「正太郎、ちょっといい?」

「ああいいぜ。あ、日記――ん? それは?」

「私が書いた小説。あとは日記に書いてあるから」

「おう、わかった」

 

 正太郎の部屋でやり取りをした出来事。

 交換日記に書かれた用件は2つ。

 1つ目は添付した小説を映画作りに使うという予告。

 2つ目は正太郎へ向けてのお題である。

 お題とは渡した作品を読み、正太郎ならどんなタイトルをつけるかの問いかけだ。

 

 ――ヤバい気配がする。こいつはマジモノだ。

 

 タイトルは小説の命。

 ちゃんと本人が考えているはずだ。

 その上でこのような命題を突きつけてくる。

 時間を惜しみ十八番の速読で姉の作品に目を通した。

 

 ――プロデビュー用の小説じゃないか!! とんでもない秘密兵器を出してきやがった!!

 

 同じ書き手だからこそ分かってしまう。

 明らかに部活の映画レベルで使う代物ではない。

 正太郎の中で危機意識が最上級に跳ね上がる。

 

 ――ねーちゃんは本気だ!! カントクのために全てを捧げて戦うつもりだ!!

 

 こういう時こそ冷静にならないといけない。

 監督の美鈴を見習ってドッシリと構えるのだ。

 この場で怯んではいけない。

 目を閉じて深呼吸を繰り返す。

 

「……よし」

 

 目を開けて平常心を取り戻す。

 そしてお題について思考を巡らせていく。

 

 ――季節は夏。歌詞のごとく世界観や情景の描写。登場キャラは人。

 

 紙の上に夏、歌、人のキーワードを書く。

 そこから自由発想法に基いて連結をすると夏に歌う人。

 いささか安直である。

 

 ――人の同義語となるのは者、輩、人物、奴。

 

 夏に歌う者、夏に歌う輩、夏に歌う人物、夏に歌う奴。

 まともに見えて無難に響くのは夏に歌う者である。

 

 ――歌うに相当するノスタルジックな表現はオレには作れん。どんな脳みそしてんだよねーちゃん。

 

 改めて痛感させられる姉の偉大なる才能。

 ラスボスに相応しい見事な文才である。

 そう簡単には超えさせてくれない。

 

 ――オレにはねーちゃんのような才能はない。

 

 天才でもすべからく努力はしているのだろう。

 きっと見えない所で頑張ってきている。

 実力の差を縮めて超える日が来るのか?

 だが……。

 

 ――ねーちゃん、自分だけが秘密兵器を持ってると思うなよ。

 

 正太郎も創作家の端くれだ。

 最近になってからプロデビュー用の小説を書いている。

 ただし……。

 

 ――まだプロローグしか出来てない。もっと早くに始めればよかった。

 

 後悔先に立たず。

 姉は完成しているのに自分は未完成。

 格の違いを思い知らされてしまう。

 

 ――まだ未完成だけど、これでやり返すしかない。

 

 日記にタイトルの返事を加えてお返しの小説を添えて渡す。

 ちゃんと命題もやり返してある。

 作家としての東城綾は、このプロローグを読んでどんなタイトルをつけるのか?

 次の日には返事が届いた。

 そのタイトルは……冬に馳せる者。

 

 ――確かにな。冬の寒さと掛け合わせて突っ走る生き様だから馳せるが正しい。

 

 実にセンスのあるタイトルを付けてくれる。

 姉からは最後まで書いて見せてほしい。

 それを映画にして勝負がしたい。

 作品を指定をした上での挑戦状を叩きつけて来た。

 

 ――今回はマジで容赦がない。カントクのために真剣勝負を挑んで来るか。望む所だぜ。

 

 綾の視点で正太郎の印象はどのように変わるのか?

 タイトルは綾自身も考えていた事と同じ。

 夏に歌う者。

 これは純粋に嬉しかった。

 外見が似ていない姉弟と言われてしまうが、物語の世界観を共有して確かに姉弟の繋がりを感じられた。

 そして二次創作でやり返されるかと思っていたが、綾の予想を越えてオリジナル小説が届けられた。

 プロローグだけとはいえ充分な執筆量である。

 

「す、すごい……これ、私じゃ書けない」

 

 血反吐をはくような努力。

 泥水をすするような苦悩の日々。

 なぜ失敗をして、どうすれば成功をするのかの試行錯誤。

 寒い冬の厳しさと人生の厳しさを掛け合わせての現実的な描写。

 実にリアリティがある。

 非常に生々しく描かれて躍動感に溢れている。

 これは紛れもなく正太郎がこれまで味わった経験が投影をされている。

 ある意味、狂気といえるかもしれない。

 何事にも恐れず前に突き進んでいく生き様だ。

 確かに綾では書けない。

 綾なら間違いなく逃げて避けて諦めるだろう。

 正太郎のように一貫して突っ走る生き方はマネできない。

 

 ――タイトルは冬と者、あと馳せる生き方……冬に馳せる者。

 

 綾のほうがタイトルを決めるのが圧倒的に早い。

 メモを使って慎重に考える正太郎と違い、頭の中だけで直感的に決められる。

 もし知られたら、正太郎は姉へのコンプレックスをさらに感じてしまう事だろう。

 

 ――冬に馳せる者。その続きを読みたい、最後まで書いてほしい。

 

 日記にリクエストを出して、それを映画に勝負がしたいと綴る。

 返答は自分の一存で勝手に決められない。後日、映研と映制で話し合いをしようで保留だ。

 ちゃんと立場を弁えている。

 正太郎がしっかりと映制の一員を自覚している証拠だ。

 

 ――お姉ちゃんとしては正太郎の成長が嬉しくもあり、寂しくもあるよ。

 

 姉と違って才能がないと卑下をしているがとんでもない。

 幼い頃からずっと姉を超えようと努力をしてきた。

 挫折をすることなく継続ができている。

 それもある意味では才能だ。

 同じ創作家でもお互いに違うからこその魅力がそこにあった。

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