青春100%   作:完結の陽炎

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第24話「淳平と綾の告白」

 受験の追い込み時期ともいえる冬休み。

 淳平の部屋で勉強を教えてくれる綾。

 泉坂高校の合格ラインに達するか否か?

 淳平の学力では安心ができない。

 

 ――正直クリスマスどころじゃない!! ヤバいよオレの成績!!

 

 学校の先生から志望校を変えるか、滑り止めの受験をするように言われている。

 滑り止めはともかく、泉坂高校の第一志望を変更するつもりはない。

 受験日が近づくにつれてプレッシャーが増していく。

 危機感の余りに綾に頼み込んで勉強を教えてもらう日々である。

 

 ――オレ情けねえ!! 東城にすげえ迷惑かけてんじゃん!!

 

 自虐な思考をしつつも頑張るしかない。

 映画の夢を諦めたくない。

 そのためには綾に頼るしか方法がないのである。

 

「東城はクリスマスって予定ある?」

「えっと……と、特に予定はないけど真中くんは?」

「見ての通りだよ。オレって受験がヤバいって先生に言われてるから」

「大丈夫だよ真中くん。私ができるだけ教えていくから頑張ろう」

 

 綾に励まされて淳平は思ってしまう。

 あまり優しくされると勘違いをしてしまいたくなる。

 オレのことが好きなのかと思いあがりも甚だしい。

 だが……。

 

「女の子ってさ、どういう告白されたらOKするんだろう?」

「へっ!?」

「小宮山が帰り際に勢いで告白してOKもらったって聞いてさ」

「あ、私も聞いた。それで小宮山くんと向井さん、お付き合いするようになったって」

「小宮山はその場の勢いで言ったみたいで、それで成功してるんだから何かコツでもあるのかなって思ってさ」

「……きっと勇気を出したのが良かったんだと思う」

「勇気か。振られるかもしれないって思うと、なかなか告白って出来ないよな」

「真中くん、告白したい人がいるの?」

「え、あ……」

 

 淳平が他に好きな人がいるのでは?

 綾からすれば、そのように勘ぐってしまう。

 そこに自分が入っていない所が綾らしい。

 

 ――ヤバいヤバい!! 目の前の東城が好きですなんて言えるか!! 

 

 とにかくごまかそうと必死になる淳平。

 下手に言葉を交わすと墓穴を掘りそうだ。

 よって手を繋ぐことで何も言わない空気を出そうとした。

 

「東城、手を繋いでいい?」

「えっ!?」

「あ、いや何でもない何でも」

 

 淳平の頭はパニックを起こしている。

 おかしなことを口にしてしまって恥ずかしい事この上ない。

 でも綾はそんな淳平の言葉を真に受ける。

 

「いいよ」

 

 手を差し出してきたのだ。

 それにつられてしまいギュっと綾の手を握る。

 隣に寄り添う形となってしばらくの沈黙タイム。

 その間、淳平は緊張で胸がドキドキしていた。

 

 ――東城の手、細くて柔らかい。

 

 強く握ったら壊れてしまいそうなほどに儚さを感じる。

 だからかジーと動かずに時を過ごしてしまう。

 しばらくして綾がウトウトして淳平の肩にもたれて眠る。

 勉強を教えるために色々と大変だったのだろう。

 もしかしたら睡眠時間を削ってまで準備をしたのかもしれない。

 

 ――東城がオレに優しくしてくれるのは夢を一緒に叶えるためだ。

 

 断じて自分のことを好きだと自惚れてはいけない。

 そう言い聞かせても無防備な綾の寝顔が淳平の理性を削る。

 全くもって免疫がないので刺激が強すぎた。

 

「ね、ねてる……よな?」

 

 急に起きてこないかビビってしまう。

 小声で呼び掛けても綾の寝息が立つばかり。

 よほど疲れているのだろう。

 

「……」

 

 周りをキョロキョロと見渡す。

 部屋の中には淳平と綾の二人だけで誰もいるはずがない。

 

 ――起こしたらダメだ。オレのせいで東城に負担をかけてるんだから。

 

 心の中で淳平は複雑な思いをする。

 ありがとうとごめんなさいが混ざっていく。

 もはや我慢の限界だ。

 そんな若さの勢いから囁くように声を掛ける。

 

「東城……オレさ……東城のこと……」

 

 寝ている綾に返事はない。

 穏やかな寝息が聞こえるだけ。

 だからこそ今ここで淳平は想いを口にする。

 

「好きだよ」

 

 この一言を起きている時に言えたらいいのに。

 そこまでの勇気を淳平は持ち合わせていない。

 

「寝てるときなんて卑怯だよな。でもさ怖いんだよオレ。東城に振られるの。そうなったら立ち直れないと思う。それぐらい弱いから、今の関係に甘えてしまうんだ」

 

 世界観だけでなくお互いの心までもが共有している。

 淳平も綾も同じだ。

 お互いに失恋を恐れて前に進めない。

 

「泉坂高校に合格して、卒業式で東城に言えたらいいな。その時はちゃんと伝えたい」

 

 綾は目を閉じたまま動かない。

 淳平にもたれて心臓がドキドキと鳴り響く。

 もう何も不安に感じなくていい。

 

 ――ごめんね真中くん。卑怯なのは私のほうだよ。

 

 その日から綾の様子は変わった。

 鼻歌交じりでニヤニヤと上機嫌である。

 弟の正太郎がドン引きをし、親友のつかさもやや引かれるほどであった。

 

 ………………。

 …………。

 ……。

 

 正月になって神社でお参りをした。

 お誘いをしてくれた綾が着物を身に着けている。

 大和撫子のイメージにピッタリで、淳平は似合っていると褒めて大いに喜んだ。

 はにかんで笑う様子が愛らしく見えてしまう。

 

 ――あれ? 東城から誘ってきたのって今まであったか?

 

 綾の性格上で誘うという大胆な行動に出たことがない。

 正太郎という弟が相手ならば遠慮をしないが、淳平に対しての積極性は皆無であった。

 それが今になって変化が起きている。

 淳平としてはいつも通りの綾に見えてしまうのだが……。

 

 ――なんか緊張があまり伝わってこないような?

 

 向こうの緊張でこっちも緊張をしてしまう。

 そんなぎこちないムードがあったはずである。

 それが今では優しい空気で妙に心地よさを感じた。

 

 ――なんかあったのかな? でも別にいいよな、悪いことじゃないし。

 

 淳平ではこれ以上の推察ができない。

 ちょっと不思議に思えただけでも大したものだ。

 それだけ綾のことを見ている証明といえる。

 

「へえー、その着物って親戚のお姉さんから借りたんだ」

「うん。遥お姉ちゃん、正月に遊びに来るって言ってたから」

「そっか。いいお姉さんなんだろうな」

 

 綾がコケてしまうことを心配して淳平が家まで送る。

 手をしっかり繋いで離れないようにした。

 せっかくだからと東城家の中へご招待という流れになる。

 そして従姉である遥がラフなトレーニングスタイルで顔を出した。

 

「こりゃビックリ!! 綾がオトコ連れてきた!!」

「ちょ、ちょっと遥お姉ちゃん!! なんて恰好してるの!?」

「えーいいじゃん。ここ最近、運動不足だから解消しておかないとね」

「真中くんがいるんだから着替えてきて!! 私も着替えてくるから!!」

 

 綾に押し出されて遥が部屋の奥へと消えていく。

 冬用の部屋着となって綾と遥が淳平の前に現れた。

 

「東城のご両親は仕事?」

「会社のお得意様に新年のご挨拶に行ってるから遅くなるって」

「そっか。あ、オレ真中淳平って言います」

「なるほど、キミが綾のコレね」

 

 小指を立てて恋人関係のサインを出している。

 それに動揺する淳平と俯いて照れる綾。

 

「あ、あのまだそういう関係じゃ――」

「まだってことはこれからか。そうかそうか若いね」

「もうからかないで。真中くんが困っちゃうから」

 

 ここで淳平は正太郎が不在であることが少し気になった。

 外出をしているようだが、もしかしたら遥を避けているのかもしれない。

 あまりこの辺りは触れないほうがいいだろう。

 

「そういえば綾、アンタまたちょっと胸大きくなったんじゃない?」

「ひゃあっ!? ど、どこ触って――んっ!!」

「中3でこれってどんだけ成長してんのよ。こりゃ来年も期待って所かな」

 

 淳平には目の毒だったようで目を逸らしてしまう。

 見てはいけないものを見てしまうような気分になるから。

 顔が真っ赤になって気恥ずかしさが増してしまう。

 

「おやおや純情だね。今時の中高生の男の子なんて、下半身ばかりのスケベしかいないって思ってたけど」

「真中くんはそんな人じゃないよ!!」

「ごめんごめん。ま、キミとか正太郎みたいな例外もいるってことだね」

 

 正太郎が名前に挙がったことで淳平は少し迷う。

 それを察したようで遥のほうから言ってくれた。

 

「無理させたくないからね。指定の時間にならないと戻って来ないよ」

「指定の時間?」

「家庭教師をする時間。その時間だけは特別だからね」

「……辛くないですか?」

「全然。親戚だからって先生と生徒として接したらダメなんて決まりはないからね。逆に感謝してるよ。正太郎のおかげで国語に強くなれたからね。完全に文系一択さ」

「遥お姉ちゃん……」

「キミから見て正太郎はどんな感じ?」

「色々と凄すぎてオレでは全く敵わないです。ただ……」

「ただ?」

「意外と子どもっぽい所があったり、年相応だったり、年上だったり、よく分からないんですよ。色々な顔が見えてくるので」

「そっか。綾、こういう周りにも優しく見れる子は大事にしなよ。そういうの中々いないからね」

「な、ナデナデしないで。もう子どもじゃないんだから」

 

 正太郎と遥の関係について、周りが口出しをすることではない。

 双方の合意があって成立していることだから。

 綾も理解はできないが黙認をしている。

 

 ――時間になったら帰ったほうがいいな。

 

 他人が踏み込んでいい事ではない。

 それぐらいは淳平でもわかった。

 

「そろそろ帰るよ」

「あ、私は出かけてくるから遥お姉ちゃん、正太郎をよろしくね」

「あいよ。っていうかさ、出かけるぐらいなら彼の部屋に押しかけちゃいなよ」

「っ!!」

「確かに外は寒いよな、東城、オレの部屋で勉強を見てくれたら助かるんだけど?」

「そ、そうだねわかった。じゃあ行こう真中くん」

 

 こうして指定の時間までに東城家を出て行く。

 特別な家庭教師の時間を邪魔したくないから。

 そして淳平の部屋で勉強タイムを繰り広げていった。

 

 ………………。

 …………。

 ……。

 

 泉坂高校の受験はマークシート形式。

 選択肢問題であるならば消去法が使える。

 明らかに正しくないものは必ずあるから分かりやすい。

 紛らわしい表現での引っ掛けには要注意。

 マークシートのズレや塗り間違いなどのケアレスミスをしないこと。

 

 ――東城に選択肢の対策を色々教えてくれたからマジで助かった。

 

 たとえ分からなくても勘で当たることがあるからマークは必ずつける。

 全体的に淳平が分かったと思えて回答できたのは半分程度。

 残りは消去法を用いての勘である。

 どの科目も半分ぐらいの手応えは感じた。

 

 ――本当にこれで受かるかな? 落ちたらどうしよう?

 

 受験を終えたが不安が拭えない。

 やるだけのことはやったと開き直れるほど淳平は強くない。

 こういう時、自分より劣る人を確認することで安心を求めたくなる。

 そのターゲットを力也にしたが、後ろのこずえが隠れながら慰めている。

 明らかに力也が落ち込んで暗い影を落としていた。

 

「どうした小宮山!? ダメだったのか!!」

「ま、真中……俺はもうダメだ……お終いなんだ……」

「力也さん大丈夫です!! まだ結果は出てませんから!!」

 

 この異様な空気に綾とつかさも心配になり事情をこずえから聞く。

 勘違いによるマークシートの付け間違いをやらかしたそうだ。

 原因は集中力の低下。

 前半でほとんどの気力を使い切り、後半で注意散漫になってしまった。

 見直しで気付いて修正しようにも時間オーバーというオチである。

 

「真中くんは大丈夫だった?」

「あ、うん。東城のおかげで半分ぐらいは何とかなったよ。自信がなくてゆっくり回答したのが良かったかも。もし焦っていたら小宮山みたいに……マジ他人事に思えない」

 

 命拾いをしたような気分になった。

 少なくともケアレスミスはしていないはずである。

 力也のことは過ぎた事なのでどうしようもない。

 こずえに任せて元気になってもらうしかないだろう。

 

「外村は……聞くまでもないよな」

「いやー、受験するカワイイ女の子たちが最高に目の保養となったよ」

「いや受験に集中しろって」

 

 楽々とマークシートを全て埋めて残りは女の子の鑑賞である。

 さすがにカメラの持ち込みは自重をした。

 

「おっ、あそこのポニーテールの活発少女がいいね。なかなかの素質を感じさせるよ」

 

 ヒロシのフラフラとした足取り。

 その少女の所へ声を掛けにいく。

 軽薄なナンパ男に用はないと蹴りの寸止めで威嚇をされた。

 まるで空手でもやってるかのような鋭さであったが。

 

「うひゃー、魅惑的なパンツ――ぐはっ!!」

 

 寸止めの足に構わずスカートの中を覗き見した。

 警告を無視と受け止めた少女が下段の足払いでヒロシを転倒させる。

 そしてダウンしたヒロシの顔面に拳の寸止め。

 

「ナンパなら他を当たりな。あと前髪がダサイから切れ」

 

 男らしさを感じるほどの威風を纏う。

 ヒロシの足を砕かないように綺麗に払ってみせた。

 転倒の痛みを除けばそれほどのダメージを与えていない。

 自分の身を守るためとはいえ、相手に過剰なケガを与えるつもりはない。

 静かに一礼をして立ち去っていく。

 

「大丈夫か外村!?」

「……真中」

「そうだよ!! まったくバカなことしやがって!!」

「あの子……素晴らしい」

「は?」

「最高だよ真中!! あれほどの素敵な少女は中々お目にかかれない!!」

「いや待て待て!! 頭でも打っておかしくなったか!?」

「僕は極めて正常だよ。いやー、見事にやられた。ああいう子ほど美しさが際立っていくものさ」

「とにかく立てよ。こんな寒空の下で倒れたままだと注目されるから」

 

 そんなヒロシと淳平がやり取りしている中。

 立ち去ったポニーテール少女は泉坂高校の門を出る。

 そこで鉢合ったのが。

 

「唯の写真にいた北大路さつきか?」

「……アンタだれ? あたしの名前と唯を知ってるようだけど?」

「唯の幼なじみ、東城正太郎。来年こっちの泉坂高校に受験する予定の後輩」

 

 受験の雰囲気を外でいいから味わってみよう。

 そんな純粋な試みで下見に来ている正太郎。

 さつきは聞き覚えがあったようで反応を示した。

 

「ああ、アンタが映制の柱ね。話は唯から聞いてるよ」

「それ、ヒロシ兄さんが付けた異名だけど、他でも広まっていくのかな?」

「で、わざわざ声を掛けてきたのはあたしに用事? 少なくともナンパの気配はないね」

「映研に入るかもしれない相手として注目をしている。もしかしたら映研の花形として活躍するかもしれないから」

「へえー、ずいぶんと高い評価してくれるじゃない。まだ知り合ってもいないのに」

「知らないからこそ敵をより探っていくんだよ。映制が勝つためにな」

「いいね。そういうノリあたし嫌いじゃないよ。空手でもそうやって全力で相手するの割と楽しかったからね」

 

 さつきは正太郎の生真面目さが気に入ったようだ。

 先ほどナンパしてきたヒロシよりは断然に好感が持てる。

 

「そっちの空手を習ったら、演技のアクション系が捗りそうだ」

「なに、あたしから空手を教わりたいの?」

「間合いの取り方、足運び、拳の握り方、蹴りのタイミングなど色々と学べるところは多い。知識はあっても実践となれば話は別だからな」

「やる気はあるのは結構だけど、本気でやりたいなら道場に通ったほうがいいよ」

「オレの本業は創作家であって武術家じゃないんだ。だから道場通いで本格的にするつもりはない」

「ふーん……アンタみたいな男は初めてだね。気に入ったよ」

「他校生の年上相手にタメ口を叩く生意気なヤツでもか?」

「敬語嫌いの話は聞いてるよ。そういう堅苦しいのは、空手の礼儀だけで沢山さ」

「意外とフレンドリーだ。さて呼び方は……さっちゃんでいいか」

 

 あだ名を付けるとさつきが噴き出すように笑う。

 北大路という苗字は長いから言いにくい。

 年上だからさつきという呼び捨ては流石に問題がある。

 その辺りの線引きという名のこだわりは持っているのだ。

 

「笑顔が綺麗だな、さっちゃん」

「そういうことは彼女だけに言いな」

「オレのこと唯から色々聞いてるようだから、説明の手間が省けて助かるぜ」

「かなりね。あとは真中っていうだらしない男の話も聞くよ」

「カントクか。唯の愚痴る姿が想像できるぜ」

「それ当たってる」

「それで空手の指南は無理か?」

「あたしに得がないじゃない」

「ふむ……勉強が苦手らしいなさっちゃんは」

「……」

「沈黙は肯定と受け取る。国語と数学どっちがいい?」

「どっちもイーヤ」

「交渉決裂か。現実は漫画のようにはいかないな。まあいいや、受験の合格を祈ってるぜ」

「部活で敵になるかもしれないのに?」

「そうなったらそうなったで、美鈴を旗頭に完膚なきまでに叩き潰すだけだ。映画という勝負でな」

 

 姉を超えようと長年に募った対抗意識は凄まじく精神力の高さが伺える。

 悠々とした足取りで正太郎が去っていく。

 後日、この出来事をさつきは唯に向けて楽しく話した。

 

 ………………。

 …………。

 ……。

 

 泉坂高校の合格発表日。

 掲示板に受験番号を確認していく一同。

 そんな中で力也の番号がなく、不合格のレッテルが重くのしかかる。

 

「おい小宮山!! こっちにお前の番号があるぞ!!」

「ほ、本当か真中!?」

 

 補欠合格の掲示板に力也の番号があった。

 滑り止めで他の受験生が他校へ進学をすればいい。

 しかし補欠合格は他にもいるため、必ずしも力也が受かるとは限らない。

 このままでは彼女のこずえと同じ高校に行けなくなる。

 それは何をおいても耐え難いことだ。

 

「うぉおおおおおおおおおおおお!!」

 

 力也はトチ狂ったように吠えながら校長室へ直行する。

 その場で土下座までして入学させてほしいとお願いをした。

 追い出されると今度は職員室へ、それでも拒否となれば電話で嘆願をする。

 当然、補欠待ちのままで判定が覆るはずがない。

 今度は親を巻き込み、プラカードを作成して泉坂高校の前で抗議デモ。

 挙句の果てに世間を味方につけようと署名活動までする始末だ。

 子が非常識ならば親も非常識。

 世論は他に行けよと入れてやれよの賛否両論に分かれる。

 マスコミが騒ぎ出してもおかしくない。

 後日、泉坂高校から力也の正式な合格が認められる。

 これで泉坂高校に伝説が生まれた。

 己の青春を全て賭けた戦いとして、青春100%事件と名付けられる。

 なお、暴走の起爆剤となってしまったこずえは……。

 

「力也さん、あたしのためにそこまで……す、素敵です……やんっ……だ、だめでふぅん……っ」

 

 力也の行動を美化100%で空想に浸ってしまう。

 非常識な実行をする力也と非常識な妄想使いのこずえ。

 ある意味でお似合いのカップルである。

 なお余談として、さつきは補欠で後日に欠員を埋めての合格だったことを付け加えておく。

 

 ………………。

 …………。

 ……。

 

 淳平たちの卒業式が開かれる。

 在校生代表の美鈴が送辞を行ない、卒業生代表の綾が答辞をする。

 校長先生から卒業証書を受け取り、後で専用の筒に入れるお約束な光景。

 ファンクラブは綾とつかさの卒業に涙する。

 それでも温かく見送るのがファンとしての美学だ。

 ヒロシは抜かりなく次の世代の会長に受け継がせる。

 未来永劫、ファンクラブは不滅だと象徴していた。

 

 ーー東城に人が集まってる。これじゃあ自分の気持ちを伝えたくても出来ないな。

 

 校庭の集まりに淳平は遠くから見ているだけ。

 告白を決心したかと思えば、人のせいにしてヘタレてしまう。

 別に卒業式にこだわらなくてもいいではないか?

 そんな囁きが心の中で聞こえてしまう。

 

 ーー東城が誰かを探してる? まさかオレな訳ないよな。なに自惚れてんだよ。

 

 諦めて帰ろうとマイナスな考えに傾いていく。

 そんな淳平に向かって後ろから声が掛かった。

 

「あー、やっばダメね。こんな意気地のないヤツが再来年に対決する相手だなんて。ハッキリ言って虫唾が走るわ」

「美鈴、あんまキツく言うてやりなや。せやけど真中先輩、このまま帰ってしまってホンマにええと思ってますか?」

 

 後輩の美鈴と内場である。

 淳平の行動を先読みして言ってのけた。

 

「で、でもあんなに大勢いたら何もできないよ」

「東城ファンクラブやな。ほな美鈴、端本と西野先輩を呼んで誘導させたらええな?」

「既に準備は整っているわよ。まったく不本意だけど、卒業祝いに今回だけは塩を送ってやるわ」

 

 美鈴が片手を上げて合図を送る。

 ちなみとつかさのコンビが颯爽と現れた。

 上手く演出してみせたのでファンクラブが激しく盛り上がる。

 その隙を突くようにして淳平と綾が近寄り、一緒に駆け出す流れとなった。

 邪魔の入らない思い出の場所は一つ。

 屋上に通じる階段前。

 立ち入り禁止のチェーンが敷かれている踊り場に立っているのはーー。

 

「正太郎!? こんな所で何してるの!?」

 

 正太郎が腕を組んで堂々と立っている。

 姉の問いには答えず、腕を解いて真っ直ぐに淳平に向けて口を開いた。

 

「どうぞカントク。屋上は誰もいないことは確認してるんで。オレはここで邪魔が入らないように見張りッス」

「いいのか?」

「二度は言わないッス。男ならバッチリと決めてほしいッスよ」

 

 そう言い終えると場所を開けてくれた。

 その振る舞いが淳平に勇気を与えてくれる。

 

「行こう東城!!」

「う、うん!!」

 

 手を繋いで一緒にチェーンをくぐり、階段を上がって扉を押し開ける。

 そこには屋上の風景と澄み渡る青空が広がっていた。

 

「ここも今日で見納めか」

「うん。ちょっと寂しくなるね」

「泉坂高校の屋上は開いてないかな?」

「うーん、普通は鍵かかって入れないから、おそらく開いてないかも」

 

 淳平は悩んでしまう。

 どのようにして伝えたらいいのだろう?

 ただ好きだと言えばいいのか?

 もっと他に何か言ったほうがいいのか?

 経験のない淳平はひとまず呼び掛ける。

 

「東城」

「は、はい」

 

 綾の緊張が淳平の緊張を生む。

 分かっていても実際に伝えられるとなれば話は別。

 気軽に構えられない。

 淳平は向かい合って話を切り出していく。

 

「オレ、東城弟みたいにあんなカッコ良くないし、内場みたいに気遣い上手くないし、小宮山みたいに凄い事はできない」

「小宮山くんのは流石にマネできないと思う」

「うん。オレも自分で言ってて思った」

 

 誰もがやらない馬鹿をやってしまうのが力也である。

 あれをマネしたがるとすれば狂人の領域だ。

 正太郎ならやりたがるかもしれないので、姉の綾としては注意をしたほうがいいかもしれない。

 

「たまたま東城のノートを拾って、そこに書かれていた小説に感動して、オレが映画を作る夢を語って」

「うん」

「泉坂高校に合格して、今ようやく夢のスタートラインに立てたんだ」

「うん」

「東城はオレと一緒に夢を歩いて行きたい。応援したいと言ってくれた」

「うん、言った」

「そんな東城にオレは伝えたい」

 

 綾は何も言わない。

 次の言葉を聞き逃したくないから。

 沈黙している時間がとても長く感じる。

 

 ――言え!! 今ここで言うんだ真中淳平!!

 

 己を奮い立たせてみるも、喉の奥に詰まったように言葉が出てこない。

 それだけ緊張してしまい、押しつぶされそうになっている。

 逃げ出したい衝動があっても、それだけは絶対にしてはいけない。

 

「す、す……」

 

 呼吸がちゃんとできていない。

 肺の酸素がなくなって声が上手く出ない。

 このままでは酸欠を起こしてしまう。

 

「ま、真中くん。深呼吸して落ち着いて」

 

 さすがに待ってるだけでは危険と判断したのだろう。

 気を失いかねない淳平に深呼吸を促す。

 息を吸って吐いてを繰り返させる。

 おかげで少しは落ち着いたようだ。

 

「大丈夫、真中くん?」

「あ、うん……」

 

 淳平が少しばかり気まずさを覚える。

 面を向かって言おうとすると言いにくい。

 プレッシャーが重くのしかかってしまうから。

 

 ――そうだよ。面と向かって言えないなら見なければいいんだよ。

 

 だからといってそっぽ向いて言う訳にはいかない。

 向かい合っている状態であまり移動をするのも不自然だ。

 頭の中がグチャグチャになってまともに考えられない。

 だから本能のままに動く。

 何も考えずにとった淳平の行動は――。

 

「きゃっ!!」

 

 映画のワンシーンのような熱い抱擁。

 大きく目を見開く綾。

 吹き出る風が清潔感のあるシャンプーの香りを奏でる。

 その耳元へそっと告げた。

 

「好きだ」

 

 綾の目が閉じられる。

 嬉しさの余りに涙がこぼれそうになったから。

 それでも瞼の隙間から流れ落ちてしまう。

 夢ではないことを確認するかのように抱き返した。

 そして……。

 

「私も……好き……」

 

 ………………。

 …………。

 ……。

 

 屋上に通じる階段前の踊り場。

 腕を組んで見張りを徹底する正太郎。

 そこにちなみが駆けつけて来た。

 

「お疲れちなみ」

「しょーくんもお疲れ」

「……」

「しょーくん、お姉様を真中さんに取られちゃって寂しい?」

「感慨深いものだよ。ちなみ、人は成長するものだな」

「そうだね。皆そうやって大きくなっていくんだと思う。個人差はあるけどね」

 

 ちなみが優しく笑ってくれる。

 それにつられて正太郎も楽しそうに笑う。

 笑顔は笑顔で対抗だ。

 

「オレの所へ来た時のカントク、いい目してたぜ」

「しょーくんのほうがいい目してるよ。すっごくカッコいいもん」

「それなら美鈴を推薦だ。監督になってから随分とカッコ良くなってるぞ」

「フフッ、そうだね。監督としての貫禄がついた感じ?」

「ああ。美鈴なら信じてついて行ける。それが映制の絆といってもいい」

「わたしも美鈴がトップに立ってくれたら安心して頑張れるよ」

 

 屋上の扉を開く音が聞こえた。

 正太郎は腕を解いて走り、ちなみもついて来る。

 淳平と綾が呼び止めるヒマを与えない。

 

「確認するまでもないよね」

「ああ、二人の邪魔をしたくないからな」

「しょーくん」

「なんだ?」

「わたしの部屋に来て」

「スキンシップの愛情補給か?」

「正解」

「了解した。あの二人に当てつけられたから丁度いい」

 

 このままちなみの家まで向かう。

 恋人同士が行なう秘密のやり取り。

 お互いの愛情を満たすための大切な時間を過ごした。

 

 ………………。

 …………。

 ……。

 

 主人公の生まれた国を治める美しい王女と主人公と同じ夢を持つはた織りの少女。

 どのような世界観であろうとも一人では生きられない。

 他者との関わりは必ず存在する。

 主人公然り、ヒロイン然り。

 戦いがあれば戦友がいても不自然ではない。

 部隊を組んでいるのであれば、隊長のようなトップがいるはずだ。

 主人公は周りに助けられ支えられ、失敗し悲しみ悔やみ、紆余曲折を繰り返しながらも少しずつ成長をする。

 主人公が強くなって夢を追うためには、そこに至るまでの弱さを幾度となく経験して立ち上がっていくのが望ましい。

 主人公はどちらかしかヒロインを選べない。両方は論外だ。

 しかし、それでは片方しかハッピーエンドとして物語が成立しない。

 淳平から話を聞いた姉の小説。

 実際に読ませてもらい、あの日のノートというタイトルを付けた。

 そこから二次創作としてのチャレンジ。

 姉の投影には弟の投影でやり返す。

 主人公と戦友、はた織りの少女と王女。

 シンプルな改善として主人公とはた織りの少女、戦友と王女の組み合わせが取れれば全員でハッピーエンドを迎えられる。

 結論はそうなるのだが、読み手が納得をするだけの過程が最重要。

 人の心はそう簡単に進められるほど甘くない。

 三角関係になるかもしれないし、そもそも戦友がただのいい人止まりになって王女から選ばれるほど好かれるかという疑問がある。

 正太郎とちなみ、内場と美鈴のように関係が上手く成立できるかどうかだ。

 主人公と戦友のどちらも違った魅力を出させる必要があった。

 そんなこんなで試行錯誤をしながらも二次創作を完成させる。

 

「はいねーちゃん、カントクとの進展を祝う二次創作だ」

「……これ、私が書いたあの小説の?」

「両方ハッピーエンドになるように改善した。かなり原作に配慮したつもりだけど、オリキャラが気に入らなかったら処分してくれて構わん」

 

 その場で綾が読みふけっていく。

 しばらくして嬉しそうに感想をもらした。

 

「主人公の戦友……とってもいいと思う。私が書くよりもいい」

「女が書く男と男が書く男では違うからな。男の友情はオレと内場の経験を踏まえているから説得力があるはずだ。投影で充分に効果は出ていると思う」

「ありがとう正太郎。これ、真中くんにも見せていいかな?」

「別にいいよ。好きにすればいい」

 

 この日が来ることを予見して書いたといっても過言ではない。

 時間こそ掛かったものの、それに見合うだけの修行ができた。

 もっとも制映の脚本化という作業があるので、かなり時間配分で苦労してしまったが。

 

 ――あとは弟子の指導と二次創作か。これもまた修行だぜ。

 

 中間古書店の息子が中学生となる。

 その祝いを兼ねての二次創作でもある。

 激動の学生時代に突入するから反抗期が来てもおかしくない。

 正太郎も去年に経験したことだ。

 

「という訳で弟子よ。激動の中学時代に負けずに上手く立ち回れ。オレみたいに不器用だとストレスマッハで血反吐を吐きかねんぞ」

「吐いちゃうの?」

「ものの例えだ。そういうイメージな。反抗期が発生するかもしれんが、オレの場合は勉強と創作、あとはたまに遊びで発散している」

 

 恋愛もあるが気恥ずかしいので言わない。

 何より師匠としての沽券に関わる。

 

「遊び?」

「他の友達と遊ぶことだ。一人だと抱え込みがちになるから。弟子の苗字が中間なのは、仲間を大切にしろという意味合いが込められてると解釈するぜ」

「でも中という字は違う」

「人が抜けてるのは依存しすぎるな、という警告を示すと解釈する」

 

 こじつけであろうと何だろうと構わない。

 発想が自由であればこそ創作に活かせる。

 正解は一つではないという思考力の鍛錬だ。

 

「今年のオレは高校受験という強敵と戦う。あと高校生になったら映研との激戦が待っている。弟子とこうして時間を取れるのも少なくなるだろう」

「そ、そんな……」

「さっき言っただろ。依存しすぎるなと。それ故の中間だろう。オレはオレで修行を積んでもっとレベルアップをしていく。それで最強のねーちゃんを超えるという野望を果たす。弟子も弟子で、自分の小説を店に置けるぐらいに大きな夢を果たせるよう精進するがいい」

「うん!! いっぱいがんばる!!」

 

 弟子に負けまいと師匠としての面目を保つ。

 基本的な教えを叩き込めば後は本人の努力次第だ。

 正太郎も自分の修行があるので時間の有効活用をする。

 

 ――黒川先生にもらった問題集が終わってるから、次はそっちだな。

 

 黒川先生に電話をして問題集を済ませたことを報告。

 また映像研究部と映画制作部の顧問をよろしくと改めて伝えた。

 

「東城、お前は数学において高校レベルでは収まり切らんな」

「国語の家庭教師にもそれ言われた。となると他の科目をやれってこと?」

「そうだな。お前は国語と数学に偏り過ぎだ。他の科目とのバランスが取れればより成長するだろう」

「でも師匠、英語はスペルミスがあって攻略法が確立されてないんだよ。あれって発音との関係があるのは多少分かるけど、詳細を突き詰めるとかなりややこしくて把握しきれないんだ」

 

 スペルミスの原因は探っているが、改善方法が見い出せていない。

 どうしても暗記が要求されて英語に対しての拒絶反応が増す。

 極端にいえばローマ字だけでいいと投げやりの気分になる。

 ローマ字を覚えられたのは、パソコン実習の授業でキーボード入力の練習をしたからだ。

 

「あ、でも理科は数学と相性が良いよ。社会も地理や歴史など割とプロセスから見ればいいかも。小説のネタにもなるし」

「楽しそうだな東城」

「暗記頼りでなければ楽しめるよ。人間忘れる生き物だから、メモとかパソコンとかの道具で補うのが賢いと思う」

 

 これは悪いけどこれは良い。

 ハッキリと物が言えるのは美鈴の影響かもしれない。

 作品の問題点をよく聞かされてきたから。

 黒川先生への電話を終えると今度はちなみの携帯へかけた。

 

「修行で疲れたから、ちなみで癒されたい」

「いいよ。それが彼女であるわたしだけの特権だからね」

「忙しくなれば恋煩いするヒマがない。でもヒマが出来てしまうと、ちなみのことが頭に浮かんで、声を聞きたくなったり、会いたくなったり、触れたくなったりというパターンに陥る。分かってても予防しようがないんだよ」

「ずっと忙しくするようなマネは絶対にしちゃダメだよ。しょーくんが過労で倒れちゃう」

「だからこうして甘えている。今もちょっと切ない感じ。多分、寂しいんだと思う」

「もぉー、そんなカワイイこと言うとわたしのほうが会いたくなっちゃうじゃない」

「今日は時間が遅いから仕方ないけど、明日になったらちなみに会いたい」

「うん来て。わたしもしょーくんに会いたい」

 

 約束を交わして次の日にちなみの家へ向かう。

 すぐに応対してくれて思わずギュっと抱きしめてしまった。

 

「く、苦しいよしょーくん」

「ごめん」

「そんなに会いたかったんだ」

「多分、二次創作・指導・勉強・脚本など色々やりまくってるから、その反動でちなみに甘えたくなってるのかもしれん」

「むー、頑張るのはいいけど、ちょっとやり過ぎじゃないの?」

「受験のことがあるから、弟子の指導は減らす。そう宣言してるし。脚本は夏休み中には終わる予定。二次創作は今の所書く予定なし」

「うーん、ならいいかな。でも辛くなったらホントに言ってね? しょーくんにもしもの事があったら悲しむ人がいることを忘れないで」

「そういうちなみはどうなんだ? 演技の研鑽をしてることは知ってるぞ。どこまでレベルアップするんだって感じで驚かされるし」

「大丈夫だよ。わたしはしょーくんみたいに頑張り過ぎないから」

 

 立ち話もそこそこにちなみの部屋へ案内される。

 最近は紅茶にハマっているようだ。

 正太郎もコーヒーよりは紅茶が好みだ。

 それ以外となれば日本茶になるだろう。

 

「内場と美鈴がコーヒー派でオレとちなみが紅茶派ってことか」

「好きな人と好みが一緒っていいね」

「たまたまだろうけど悪くはないな」

 

 紅茶を飲み終えてベッドの側で肩を寄せて座る。

 正太郎とちなみの距離はゼロに近い。

 パーソナルスペースがほとんどないに等しい。

 触れることで安心感を得ている。

 

「恋愛小説で目の前に付き合ってる人がいるのに、他の人を考えて指摘される女の勘がある。いわゆる修羅場の布石で書かれていたりする」

「ふんふん、それで?」

「ちなみも女の勘を持ってると思うんだが、そんなちなみから見てオレは他の人を考えてるように見えるか?」

「見えない」

「即答だ。しかも当たってる」

「しょーくんって、この時間はずっとちなみのことを考えてるの伝わってくるよ。目とか仕草とか触れ合ってる感じとかで分かるから」

「ちなみと二人っきりの時はちなみだけを意識するのは当然という理屈がある」

「その心は?」

「ちなみが好きだから」

「ありがとう。わたしも大好きだよしょーくん」

「……」

「あ、目を逸らした照れてる。しかも口元を手で隠す照れ隠しの癖付きだ」

 

 感情の制御が上手くいかなくて照れやすい。

 好きな人から直球に好意をぶつけられることに慣れない。

 他の人には見せない正太郎の一面がちなみを喜ばせる。

 言葉のやり取りでは敵わない。

 黙らせてやろうと両肩に手を乗せて顔を近づける。

 

 ――ちょっとは照れさせないと何か悔しい。

 

 やり返しの精神からちなみの反応を伺う。

 目を閉じて無防備な顔を見せつけてくる。

 キスをしたい衝動に駆られた。

 誘われるまま唇を合わせて角度を調整する。

 回数を重ねてきたからか丁度いい位置が不思議と分かった。

 あまり長くなると興奮で呼吸が乱れるので適度に離す。

 その焦らしがちなみには物足りなさを感じさせた。

 もっとしてほしいからと抱き着いて積極的にキスをねだってくる。

 

 ――あまり焦らすと逃げられなくなるんだよな。

 

 経験上分かってしまうので、ベッドに押し倒そうとした。

 抱き着かれているので一緒に横倒れとなる。

 主導権を握るため正太郎が上になるように体勢を変えた。

 

 ――上の方が動きやすい。

 

 頬を撫でたり、髪を撫でたりで手の愛情表現をする。

 欲張りなちなみが仰向けのまま両手を広げてきた。

 誘いだとは頭の中で分かっている。

 でも理性が追い付かず、両手の間へ引き込まれるように接近。

 そのまましがみつかれてのキス。

 体重を掛け過ぎないようにしても気持ち良くて力が抜けてくる。

 身も心も委ねたくなって横寝で体重を逃がした。

 そのタイミングを狙ったかのように、ちなみが反転して上になる。

 唇が離れて、ちなみの目はとろけていた。

 

 ――下になるとちょっと怖いな。

 

 相手に支配をされてしまうという受け身な感覚。

 逆の立場になることで実感をする。

 先ほどのちなみもこんな気持ちだったのだろう。

 

「しょーくん、大丈夫だよ。こわくないから」

「すぐ見抜くのはズルい。あと動きの先読みもズルい」

「しょーくんを誰よりも知ってるの、わたしだから」

「……まだ足りないよな?」

「うん足りない。もっと欲しい」

「仰向けは全てを委ねるのに一番ラクな姿勢だと思う。何もできなくなるけど」

「いいよ。全部わたしに委ねて」

「……うん」

 

 覆い被さったちなみに全てを預けるようにして力を抜く。

 目を閉じて両手をベッドに投げ出すようにして。

 唇のぬくもりに眠くなるような夢心地に浸った。

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