青春100%   作:完結の陽炎

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第25話「潜在能力で英語を克服」

 ストリートピアノで唯の演奏を聴く。

 哀愁漂うメロディーがいかにも悲劇を演出させてくれる。

 どれだけの努力をすればこれだけの曲ができるのだろう?

 正太郎たちには想像もつかない。

 

 ――唯を敵に回していたらヤバかったな。

 

 もし淳平たちの映研に所属していたら勝つ見込みが激減する。

 そう思わせるだけの実力を唯が自らの演奏で証明をした。

 

「しょーたろ、どうかな?」

「イメージと合ってると思う。美鈴はどうよ?」

「OKよ。あとはどれだけの曲を揃えるかね」

「ほなエンディングはどや? あったほうがええんちゃう?」

「ちゃんと考えて作ってるよ。まだ出来上がってないけどね」

「さすが唯だね。わたしも演技で唯の演奏を無駄にしないように頑張る」

「うん楽しみにしてるよ、ちなみの演技」

 

 この後、美鈴の部屋で映制の会議を開く。

 進行役の正太郎からは中学と高校の違いを議題に上げる。

 黒川先生に問い合わせたところ、科目の細分化が大きい。

 国語であれば現代や古典などがあり、社会なら地理・歴史・公民などがあり、幅広く学ぶことになる。

 カリキュラムの時間は限られているため、中学よりも学習スピードが速くなると思ったほうがいい。

 油断をすれば瞬く間についていけなくなる。

 そうなれば部活動にも支障が出てしまう。

 

「このメンバーで英語ができる人、すなわち高得点が取れるのは誰だ?」

 

 正太郎の問いに誰もが美鈴を指名。

 

「次に社会ができる人」

 

 これも美鈴。歴史だったら内場も悪くない。

 

「理科は?」

 

 美鈴。

 

「国語」

 

 正太郎と美鈴、ちなみも高得点者。

 

「数学」

 

 正太郎と美鈴、内場とちなみも優秀である。

 

「……美鈴って弱点あんの? なんだよこのふざけた万能チートは」

「なによ、アンタの潜在能力のほうがよっぽどふざけたチートじゃない」

「唯……どれも平均ぐらいしか点とれない。ショボンだよ」

「南戸は音楽のピアノちゅう得意なモンあるやろ。せやから自信持ち」

「そうだよ。わたしたちには出来ないことだから自信をもって唯」

「唯は充分に優秀よ。どの科目もバランスよく平均点を出せているのだからね」

「うん、ありがとう内場、ちなみ、美鈴」

 

 唯も平均レベルで好成績といえる。

 比べる相手が悪すぎるだけだ。

 高校に入ってからも勉強会で対策を取る必要はある。

 これまで以上に復習が必須といえるだろう。

 

「さっきとは逆に苦手な科目を出してみよう。唯は苦手な科目あるか?」

「数学の計算が苦手。英語は話すのは好きだけど書けない。社会は地図とか年号覚えるのがダメダメ。理科の実験は大好きだけど記号が出ると頭が痛くなっちゃう」

「なるほど、科目の中の一部が苦手という感じだな。逆に言えばそれ以外で伸びる可能性があるし、苦手な所も語呂合わせ等で楽しくやれば覚えられるかもしれんな。内場は?」

「僕は五科目から外れるけど体育が苦手やな。全般的に運動はあまり得意ちゃうねん」

「メガネつけてるから?」

「それあんま関係ないで。単純に僕が運動オンチなだけや」

「そうか。ちなみは?」

「うーん、英語の文法がちょっと苦手かな。たまにスペルミスもあるし」

「そこだけ気をつければ問題なさそうだな……さて美鈴」

「なによ?」

 

 正太郎は自虐的な笑みを見せる。

 次の言葉がそれを物語っていた。

 

「このメンバーで高校の受験および授業で一番ヤバいのは誰だと思う?」

「アンタでしょ」

「正解」

「えー、なんでなんで!? さっきしょーたろって国語と数学がスゴイって言ってたのに!!」

「南戸、東城の苦手な科目が何か知っとるか?」

「英語――あっ……」

 

 唯も思い出していた。

 正太郎が筋金入りの英語嫌いであることを

 テストの点が壊滅的で、英語の先生から注意を受けたこともある。

 それに反発して英語不要論が悪化している。

 

「東城からな、英語をマスターできる漫画を作ってくれって頼まれたことがあるんや」

「あら、それ初耳よ貴方」

「つい最近の事やし、言うてええか分からんかったんや」

「別に言っていいぞ。口止めは要求してないし」

 

 正太郎は別に何もしていない訳ではない。

 なぜ出来ないのかという原因を探り、改善をしようとしている。

 内場の漫画依頼もその一つだ。

 

「内場、しょーたろのために英語の漫画を描いてあげよーよ」

「せやけど描くのに時間が掛かり過ぎるし、受験までに漫画で覚えられるかの保証はできんで」

「しょーくんの英語、どうにかできないかな?」

 

 唯、内場、ちなみがいずれも何とかしてやりたいと思っている。

 英語嫌いに英語の勉強は難題だ。

 やり方を間違えれば余計に悪化してしまい、無理やりにしても効果は上がらない。

 この件について、あえて美鈴は静観をしてきた。

 説教をするのは英語の先生がやっていること。

 そこへ美鈴まで叱りつけようものなら、正太郎の英語嫌いはより悪化をするだけである。

 今に始まったことではないのだから、改善の見込みがなければ迂闊な事はできない。

 だが捨て置けない問題であることも事実。

 英語を学ぶにしても手段が重要だ。

 実をいえば方法は……ある。

 

「潜在能力ね……」

「どないした美鈴? もしかして何や名案でもあるんか?」

 

 メンバーの全員が美鈴へ視線を注ぐ。

 美鈴なら何とかしてくれそうな期待の眼差し。

 それを一身に受けて美鈴は試してみることにした。

 

「今からアンタにこの映画を見てもらうから」

 

 日本語の字幕がついた海外映画を正太郎に見せる。

 内容は分かりやすいハリウッドのアクション映画。

 正太郎と唯が子どものように目を輝かせて夢中になった。

 次に字幕なしで同じ映画を見せる。

 なにを言っているのか分からないとギブアップをする唯。

 一方、正太郎は真剣な顔で俳優の動きや表情、その場の雰囲気を観察し、聞き逃しがないように意識を映画のみに集中をした。

 見終わった感想としては……。

 

「唯、字幕なしは全然ダメだったよぉー」

「僕も字幕なしはキツイわ」

「わたしもちょっとしか分からなかった」

 

 それが普通の反応である。

 字幕なしの英語のみは難易度が高い。

 すぐに分かるはずがないのだ。

 ここで美鈴が正太郎にテストをしてみる。

 

「今からアンタに英語で話すから日本語で答えて」

 

 映画の台詞を英語で伝える美鈴。

 綺麗な発音で誰もが聞き惚れてしまうほどに上手い。

 正太郎は映画の情景を浮かべつつ日本語で答えた。

 右脳のイメージが活発化して左脳の論理も活用をしている。

 

「うん、合ってるわ」

 

 これには他のメンバーも驚愕である。

 こんなに覚えが早いとは思わなかった。

 ふと正太郎がやり返したくなったのだろう。

 美鈴の英語をマネしてきた。

 それに乗って美鈴も英語で応戦をする。

 

「ちぇっ、美鈴みたいに綺麗な発音ができない」

「そう簡単にコピーできると思わないことね」

 

 拗ねた子どもみたいな態度をする正太郎。

 美鈴の劣化版とはいえ英語を使ってみせた。

 映画の台詞を抜粋したに過ぎないが取っ掛かりは充分である。

 

「もう時間よ。明日また別の映画で試すから」

「面白い。やってやんよ」

 

 正太郎は自宅へ帰ってから猛特訓を始める。

 姉に発音の練習に付き合ってもらった。

 美鈴の綺麗な発音を模映できなかった。

 それが何よりも悔しくて敗北感を噛み締める。

 負けず嫌いが本気になった。

 美鈴に英語で勝負をして打ち負かしてやる。

 激しい闘争心を燃やして次の日に備えた。

 

 次の日、心待ちにしていた正太郎。

 戦場という名の美鈴の部屋へ突撃。

 美鈴は戦士のような目つきの正太郎を見て不敵に笑う。

 

「昨日の特訓だけで私に敵うと思ってるの?」

 

 何も言ってないのに正太郎の特訓を見抜いている。

 挑発的な美鈴に正太郎を啖呵を切った。

 

「勝負はやってみないと分からないぜ。さあ、今日の映画を見せてもらおうか」

 

 美鈴の部屋には昨日と同じ映制メンバーが集まっている。

 海外映画の視聴会がスタートした。

 今回はミステリーのジャンルで説明的な台詞が多い。

 一部専門用語が混ざっているので、分からない所は辞書を借りて調べた。

 そして昨日みたいに美鈴の発音をお手本に正太郎がマネをする。

 美鈴と英語で舌戦を繰り広げていく。

 

「ちっ、美鈴の発音が早い」

「もう少しゆっくり言ってあげてもいいのよ」

「手加減は無用!! 勝負はこれからだ!!」

 

 両者の白熱した掛け合い。

 周りのギャラリーは圧倒されながらも観戦をする。

 

「す、スゴイ。しょーたろ、昨日よりも発音が上手くなってるよぉー」

「せやけど美鈴に比べたら天と地の差があるで。ま、それが美鈴の狙いやろうけどな」

「……悔しい。あれは美鈴じゃないとできないよね」

「あの二人、ホンマに相性ええからな。ちょっと妬けてしまうわ」

 

 内場とちなみが複雑な気持ちを抱く。

 正太郎と美鈴がベストコンビだと思えてしまうから。

 しばらくしての一時休戦、こまめに水分補給をする。

 

「そういえばアンタ、最近メモで速記ができるように練習してるそうじゃない」

「ああ、スラスラ書けると便利だからな。時間を掛けても会得する価値はある」

「そう。だったら英語の筆記体がアンタには合うでしょうね」

「筆記体? なにか暗号みたいなイメージか?」

「そう受け取ってもらって構わないわよ」

 

 興味を持たれたので美鈴が筆記体を教える。

 ブロック体と違って一筆書きができて、集中を途切らせることがない。

 筆記体でスラスラ書けることに正太郎は面白さを感じた。

 

「この筆記体はまさに暗号だぜ。これの意味をどうやって解き明かすんだ」

 

 正太郎の問いかけに美鈴は筆記体とブロック体の変換を教える。

 発音もしてみせることで、読み方をマネするように仕向けた。

 日本語に訳したいというリクエストに応じて、辞典の使い方を存分に叩き込む。

 見る・聞く・話す・書く・調べるを組み合わせて、正太郎の潜在能力を引き出していく。

 

「美鈴、オレが筆記体で書くから読んでみろよ」

 

 ノートに一文を筆記体で書く。

 わざわざ発音をして日本語訳まで口にする美鈴。

 正太郎は次を差し出す。

 少し長めの文を見せるが、いとも簡単に読み解かれてしまう。

 

「これならどうだ!!」

 

 短文と長文の組み合わせで攻める。

 美鈴は歯牙にも掛けない。

 英語の発音と通訳をして実力の差を見せつけた。

 

「今度はあたしからお返しよ」

 

 筆記体で長文の倍返し。

 しかも一部は映画に出てきた専門用語を折り混ぜている。

 正太郎を時間を掛けながらもゆっくりと発音をする。

 日本語訳では専門用語を除き、それなりに合っていた。

 テストなら丸は貰えないかもしれないが、三角で少し加点されるだろう。

 

「今日はここまでよ。明日出直して来ることね」

「ムカつく!! これで勝ったと思うなよ!!」

 

 正太郎は捨て台詞を残して部屋を出て行った。

 ちなみも付いて行き、唯はヒロシの部屋へ遊びに行く。

 残った内場にゲンナリと疲れた顔を見せる美鈴。

 

「昨日まで英語できてなかったって冗談でしょ? まったく笑えない」

「お疲れさん美鈴。せやな、東城が見事にハマってくれとるけど、僕もここまでやるなんて思わんかったで」

「要は興味を持たせて楽しませればいいのよ。それでアイツは貪欲になって勝手に学んでいくから」

「せやったら、もっと早めにこうしたほうが良かったんとちゃう?」

「まだその時ではなかったのよ」

「ほぉー、今はその時やったと?」

「アイツが何で英語嫌いなのに何とかしようと動いたのか、貴方は分かる?」

 

 美鈴に言われて考え込む。

 正太郎は頑固な一面もある。

 やりたくない事はやらないタイプだ。

 それなのに打開しようと動いたのは何故だろうか?

 

「東城なら英語捨てて他で頑張る、って言いそうやけどな」

「自分のことはないがしろにするけど、それが原因で泉坂高校に落ちるかもしれない。そうなれば五人ギリギリの映制は、一人欠けてしまって部が成り立たなくなるのよ」

「なるほど。僕らのために英語嫌いを我慢して何とかしようと……どこまでも人がええな東城は」

「……バカなのよアイツ」

 

 誰かのために自分が嫌いなことでも目を背けずに向き合う。

 本気で相手を思いやれる人でなければ出来ないことだ。

 そんな正太郎だからこそ、美鈴は助けてやりたくなる。

 

「ちょっと疲れたわね。貴方、肩を貸してくれる?」

「ええで。僕はヒマやから遠慮なく休み」

 

 座っている内場の肩にもたれて目を閉じる。

 よほど疲れてしまったのだろう。

 そのまま寝息を立てるのにそれほど時間は掛からなかった。

 

 ………………。

 …………。

 ……。

 

 親からビデオカメラを買ってもらった。

 泉坂高校の合格と入学のお祝いである。

 これで夢の映画作りができる。

 淳平は大喜びでカメラを片手に外出をする。

 桜が舞う川辺までウォーキングと撮影のお試し。

 そこで出会ったのが……。

 

 ――外村を一瞬で倒したポニテの女!?

 

 デニムなベーシックスタイルで機動性を重視した軽装。

 履きなれたスニーカーは運動用も兼ねている。

 背丈があり健康的な体で姿勢が良い。

 淳平はその女子の詳細を知らないが、相手は知っている。

 だから目が合うと話し掛けられた。

 

「アンタ、唯に世話焼かれてる真中ってヤツ?」

「えっ? 唯の知り合いなのか?」

 

 驚きの余り、構えていたカメラを下げた。

 淳平のことをじっくりと見定めるような目つき。

 いつでも自衛ができるように間合いを保つ。

 

「写真でしか見たことないけど、実際に見るとあんまりパっとしないな」

「な、なにを!!」

「おっと気を悪くした? あたしは正直者だからね、下手な嘘はつけないのさ」

「……で、誰だよ? オレは何も知らないんだけど?」

「北大路さつきよ。唯から何も聞いてない?」

「あー、聞いたような気がするけど……忘れた」

「ふーん。ま、いっか別に。で、盗撮なんてして楽しい?」

「ち、違う!!」

「撮るときはちゃんと相手に許可をもらいな。逮捕されても知らないよ」

「たまたま映っただけで盗撮するつもりは――」

「はいはい、相手があたしで良かったと思っておきな。他の人だったら通報されてもおかしくないからね」

 

 背を向けてその場を立ち去ろうとする。

 ふと思い出したように振り返った。

 何か言い残したことがあるらしい。

 

「映制の柱って聞き覚えない?」

「それ、外村が名付けたヤツだけど何でそれを?」

「もし会うことがあるなら言っておきな。少しぐらいなら教えてやるって」

「なにを教えるんだ?」

「言えば分かるよ。それじゃあ」

 

 今度こそさつきは立ち去る。

 その伝言を受けた淳平は首をかしげながらも東城家へ向かう。

 だが途中で足が止まった。

 

 ――オレ、東城に告白したんだよな? 顔を合わせるのすげぇ恥ずかしいんだけど?

 

 告白した後は家まで送って帰っただけ。

 正直あまり実感が湧いていない。

 あの出来事が夢じゃないかと錯覚をする。

 

 ――これからは付き合うってことか? オレと東城が?

 

 お互いに好きという言葉を交わした。

 それだけで満足をしてしまった。

 だから付き合い云々は何も話し合っていない。

 

 ――これってどうなんだ? 好きって言って終わりじゃないか?

 

 淳平は後先を何も考えていなかった。

 その時だけで必死だったから。

 

 ――告白したのに付き合ってって言うのも変だよな?

 

 綾に確かめる勇気はない。

 そんなものは告白で使い切った。

 あとは自然の成り行きに任せよう。

 そう結論付けることにした。

 

 ――とりあえず入学式までは会わないでおこう。どんな顔していいか分からないし。

 

 好きなのに避けるという好き逃げの行動。

 唯がいたら尻を蹴られて一喝されそうな弱腰である。

 それでも本人にとっては時間を置きたいのだ。

 

 一方、綾はどうしているのか?

 あれ以来、告白を思い出すたびに自室ベッドの布団に潜って悶えた。

 どうしようもなく心が舞い上がってしまう。

 布団越しにキャーキャーと嬉しさの余りに声が漏れていた。

 

「ねーちゃん、楽しそうだな」

「し、正太郎!? なに勝手に入って来てるの!?」

「何度も呼んだぞ。英語の訓練を頼みたかったけど、これは出直したほうがいいかな?」

「わ、わかったからそんな呆れた顔はやめなさい」

「いやいや、ねーちゃんが幸せそうで何よりだなっと。弟としては何とも複雑だがな」

 

 英語の訓練を重ねてレベルアップをはかる。

 向上心に溢れる正太郎のやる気は本物だ。

 美鈴と英語で対抗をして打ち勝つためである。

 それが毛嫌いをしている英語の克服にも繋がっていく。

 

「ねーちゃんサンキュー。これで美鈴といい勝負ができそうだ」

「うん。あ、そういえば正太郎」

「んっ?」

「あの二次創作、後書きを入れてあるんだね。珍しいなって思ったよ」

「普段は作品だけで語るから後書き付けないんだけどな。今回はカントクとねーちゃんが付き合うから、祝福を込めて特別に後書きを添えた」

「……」

「どうしたねーちゃん?」

「付き合う……のかな? あれ?」

「おいおい好きって言われたんだろ? だったら付き合うのが自然の流れじゃないか?」

「そ、そうだよね?」

「まさか、好きって言われたけど、付き合ってがなかったパターンか?」

「……うん」

「あちゃー、どうせ好きって言うのが精一杯で、他に言う余裕がなかったんだろうよ。気持ち伝えて満足という典型的なヤツじゃないか」

 

 正太郎は天井を見上げて頭を掻く。

 淳平が告白をしたことで男を上げている、

 だが付き合おうと未来に向けての言葉がないのはいただけない。

 しっかりとケジメは付けておかないと後々で不安を招く。

 

「ねーちゃんから『今後は恋人としてお付き合いよろしくお願いします』と言えば済むけど?」

「な、なに言ってるの!! そんなこと言える訳ないじゃない!!」

「おいおい、女から言うのは恥ずかしいってか? 今時そうやって男ばかりに責任を押し付けるのは問題があるぜ。少なくともオレとちなみは、対等に付き合っているぞ。お互い様の精神でな」

「ううっ……だ、だって……」

「ねーちゃんはカントクの彼女になりたくないのか?」

「ま、真中くんの彼女……」

「カントクをねーちゃんの彼氏にしたいって思ってないのか?」

「わ、私の彼氏……」

「告白はゴールだと勘違いされがちだが、そこはあくまでもスタートラインに過ぎない」

「う、うん」

「お互いのためにも付き合うかどうかは明確にしたほうがいい。友達でいいなら正直にカントクにそう言ってやるべきだ。じゃないとカントクもどう接したらいいのか分からなくて困るだろう」

「……わかった」

「それじゃあ、オレからは最後にこれを言っておこう。ねーちゃん、お幸せに」

 

 正太郎が優しく笑って部屋を出て行く。

 なんとも出来すぎな弟である。

 おかげで今後のことをちゃんと考えるようにした。

 

 ………………。

 …………。

 ……。

 

 淳平は悪い夢を見た。

 イケメンな男に綾を奪われてしまう。

 自分がハッキリとしなかったことで綾に愛想を尽かされた。

 追いかけて手を伸ばしても届かない。

 突き放されて消えてしまい、孤独になってその場で泣き崩れる。

 目が覚めたらまだ深夜の時間だった。

 

 ――東城を取られてしまう。好きなのに。

 

 曖昧にしていると最悪の未来が待っている。

 そんな予知夢を思わせるものだった。

 

「東城……」

 

 そっと呟きながら窓のカーテンを開けて空を眺める。

 欠けた月が今の自分の心境を表していた。

 まだ満たされていない。

 これから先が必要である。

 さもなければ……。

 

 ――イヤだ。東城を他の男に取られたくない。

 

 せっかく勇気を出して告白したのに。

 それが全て無駄になってしまう。

 淳平の中で綾を独占したい感情が湧き上がる。

 好きだからこそ自然に相手を求めてしまう。

 

 ――ちゃんと付き合わないとダメなんだ。

 

 経験がないから付き合い方なんて分からない。

 それでも他の男に取られたくない。

 男としてキッパリと決めておきたい所だ。

 

 ――朝イチに東城の家に行こう。そしてちゃんと伝えよう。

 

 恥ずかしいとか言ってられない。

 あとになって後悔をしたくない。

 淳平はそう決意して朝を迎える。

 既に準備はできているので東城家へ駆け出す。

 少しでも時間が惜しい。

 早く伝えて安心を得たい。

 息を切らせながらインターフォン前にたどり着いた。

 映画作りのために、もう少し体を鍛えたほうがいいのかもしれない。

 

「すぅー、はぁー、すぅー、はぁー」

 

 深呼吸を繰り返す。

 どうしても緊張が取り除けない。

 逃げ出そうとする気持ちを悪夢を思い出して抑えつける。

 

「……」

 

 インターフォンのボタンを押そうと手を伸ばす。

 寸前で手を止める。

 腕時計を見ると朝9時になろうとしている。

 少し早いかもしれないと躊躇したが。

 

「カントク、なに固まってるっスか?」

「どあっ!!」

「確かにそこにドアはあるッスけど、わざわざ大声で言わなくても」

「ち、違うって!! ああ、東城弟かよビックリした!!」

 

 家の中から出てきたのは正太郎。

 これから出かけるつもりのようだ。

 そこにインターフォン前にいる淳平と対面をする。

 

「人の家の前で突っ立てると、不審者扱いで通報されるッスよ」

「ひどい言い草だよそれ」

「それはそうとカントク、ねーちゃんに会いに来たッスね?」

「あ、うん」

「その様子だと、告白のケジメを付けてくれるッスね?」

「お見通しなんだ?」

「好きと言うだけで精一杯だったこと、心中お察しするッス」

「……ホント敵わないな」

「ねーちゃんは部屋にいるんで、あがって行くッスよ」

「いいのか?」

「このまま帰って曖昧にしていると、他の男にねーちゃんを取られる未来があるかもしれないッスよ」

「行く。今すぐ行く」

「オレは美鈴との勝負があるんで、これで失礼するッス」

 

 正太郎は出かけて行き、淳平は綾の部屋まで向かった。

 玄関先で声が聞こえていたのか。

 ノックをするまでもなく開けてくれた。

 ヒラヒラの羽織にシャツワンピース。

 ストレートセミロングにコンタクトレンズ。

 相変わらずの美人なスタイルに淳平は少しだけ後ずさり。

 刹那、腹に力を込めて踏みとどまった。

 

「は、話があるんだ」

「う、うん。どうぞ入って」

「お、お邪魔します」

 

 さすがに緊張は避けられない。

 告白した時にちゃんと付き合いも言っておけば良かったのだ。

 今ならまだ間に合う。

 

 ――恥じらってる東城が可愛すぎる、ってなに浮かれてるんだよオレ!!

 

 いじらしい綾の姿に魅力を感じつつも心の中で一喝をする。

 好きと伝えるだけではダメだ。

 気を引き締めて今後のことを話さないといけない。

 

「あのね真中くん、私からも話があるの」

「え?」

「話、というよりもコレを読んでほしいんだけど」

 

 そう言って差し出されたノートを受け取る。

 表の見出しにはあの日のノートをタイトルにした二次創作。

 その下には、皆の幸せを願ってという副題が付いている。

 淳平は腰を据えてノートを開いた。

 そこに広がる世界観は実に壮大である。

 綾が描いた世界観を尊重しつつ、人間関係が充実をしていた。

 特に目を見張るのが主人公の戦友、もう一人の主人公だ。

 同じ男として共感を覚え、戦闘描写は男の闘争本能を刺激するような臨場感に溢れている。

 

 ――すげぇ!! 敵を挟み撃ちにしたり、横っ腹ついたり、メッチャ燃える!!

 

 内場の歴史漫画に描かれた用兵術を盛り込んでいる。

 主人公と戦友の友情は連携という戦いを通じて表現がされた。

 お互いに生き残ろうと助け合うシーンが胸を熱くさせる。

 

 ――ぎゃあ!! 主人公のために囮役になって戦友が死にかけてる!?

 

 ピンチな展開もあって淳平はハラハラしてしまう。

 走馬灯が巡っていく局面はフラグだろうとツッコミを入れたくなる。

 回想として、窮屈な身分からお忍びで地味な変装をして一時的に外へ出る王女。

 それに付き合ってただの女として接する戦友の豪胆さ。

 戦友の夢は、戦争が起きない平和な政治を作ること。

 主人公とはた織りの少女が幸せになれるように応援もしている。

 皆の幸せを願って行動をする戦友に王女は惚れた。

 

 ――主人公が別動隊を連れて戦友を助けた!! これなかったら死んでるぞ!!

 

 主人公が戦友に叫ぶ所も燃える。

 立派な政治家になれ。こんな所で死ぬな。

 夢を果たせないままで朽ち果ててなるものか。

 そんな男心を揺さぶる描写が淳平の心に響く。

 まさに心に焼き付けるという美鈴の持論に通じる。

 

 ――戦いが終わって主人公の帰る場所ははた織り少女のところ。そして戦友は……え?。

 

 見識を広めるための旅へ出る。

 政治家になるためには学ぶことがまだまだ多い。

 他国のことも知らないと戦争の火種になりかねない。

 その傍でついて行くのが変装をした王女。

 

 ――えええええ!? 王女が国を抜け出してヤバいだろ!?

 

 淳平のツッコミはもっともなこと。

 作中でも戦友が似たようなツッコミを入れている。

 国を抜け出して大事にならないかと。

 王女は他に姉妹がいるから、そちらへ任せると丸投げだ。

 王女が一人だけしかいないという事はない。

 万が一、失った場合にどうするんだという問題が発生するから。

 よって王女に姉妹がいても何も不自然なことはない。

 この辺りも必要性のあるアレンジとして加えられている。

 

 ――原作に比べて随分とやんちゃな王女だ。原因は戦友と関わったからだな間違いなく。

 

 皆の幸せを願って夢に向かって頑張るのが戦友。

 夢の政治家に向けてこれからも続くというラストだ。

 なお、地味な変装は姉の変装を投影している。

 

「なんか主人公よりも戦友のほうが印象強い感じが……王女が原因かな?」

「そうだね。でも王女が幸せになれる展開があって良かった」

「幸せというか国を抜け出しちゃってるよ」

「それぐらい戦友のことが好きになっちゃったんだね。それだけの覚悟があるんだなって」

「戦友が身分の高い王女に対して平然と相手するってのもスゴイけどな」

「夢を追いかける男の人ってそれだけ心が強いんだね」

「まあ、がむしゃらに頑張るって感じがよく伝わってきたよ」

 

 ページの最後は後書きになっている。

 そこには淳平と綾に向けてのメッセージだ。

 この物語は原作が片方しかハッピーエンドを選べないため、両方のハッピーエンドとしている。

 もっと厳密に言えばハッピースタートだ。

 これからも続くというのは現実にも当てはまること。

 二人が付き合う場合はハッピースタートとなる。

 このラストのように未知の旅となるだろう。

 幸せな時もあれば辛い時もある。

 王女のように飛び出せる勇気があるか?

 戦友のように夢のための行動がとれるか?

 この二次創作が何かしらの教訓となり参考になれば幸いである。

 

「……スゴイ弟だね。ホント」

「うん。私には過ぎた弟だね」

「そんなことは……東城」

「うん?」

 

 淳平と綾が向き合って見つめ合う。

 二次創作を読み終えた淳平に迷いはない。

 充分すぎるほどに後押しをされたから。

 

「オレと……付き合ってくれ」

「……はい!!」

 

 間があったのは感動に打ち震えたから。

 でも返事はしっかりと声を張り上げた。

 それが唯一できる綾の本気だから。

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