青春100%   作:完結の陽炎

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第2話「正太郎の修行と唯の転校」

 無から有を生み出せない。

 正太郎の創作にオリジナルは皆無。

 綾の小説または内場の漫画による二次創作だ。

 影響を受け、執筆の意欲を高め、改造することを楽しむ。

 

 修行をして強くなる主人公の小説・漫画・アニメ。

 単純にカッコいい男のロマンに溢れている。

 目標、夢、野望、未来。

 言い方は様々あるが、正太郎の中で野望が生まれた。

 姉を超える小説を書きたい。

 交換日記のノートを通じて実際に姉の小説を読んできた。

 ある意味、綾が正太郎の師匠である。

 もし姉がいなければ物語を書くこともなかった。

 姉の陰キャな見た目とは裏腹に小説という中身は本物。

 正太郎は騙されない。

 外見で目立たないことは自衛の手段だ。

 つかさが友人なら、正体を隠す必要はないのかもしれない。

 そこは綾の問題であり、弟の正太郎が口出しをすることではない。

 地味な恰好をしなくていいと言ったこともない。

 自分はわかっているから他のヤツは知らなくていい。

 姉の秘密を知っている優越感はあった。

 

「アンタ、なにしにきたのよ?」

 

 休日の外村家。

 玄関先で美鈴が応じてくれる。

 その片手には内場の新作漫画が握られていた。

 時間をかけて読む必要がある。

 それだけ内場の漫画レベルは上がっていた。

 

「かくかくしかじか」

「イミふめいね。マンガのみすぎよ」

「うちばのマンガをよむサンボウがそれをいう? いちどいってみたかったんだ」

「で、なによ? ようじがあるからきたんでしょ?」

「あたりまえだ。サンボウのにーちゃんにたのみがあってきたぜ」

「……」

「なぜだまる?」

「アンタ、なにかんがえるの?」

 

 正太郎の行動や思考が読めない。

 たまに突拍子もないことをしでかす。

 思いつきで動く時があるのは否定できない。

 

「サンボウのにーちゃんに、シュギョーつけてもらいたい。そうさくのシュギョー」

「バッカじゃないの。ホントにマンガのみすぎよ」

「しょうせつとアニメもわすれるな。えっへん」

「いばるんじゃない。だいたい、そんなのひきうけるワケ――」

「やあしょうたろうくん、いらっしゃい」

「ちょ、ちょっとまたとったでしょ!?」

「もちろん。ボクがカワイイみすずをとらないとおもうかい?」

「へ、ヘンタイ!!」

 

 話は聞かせてもらった。

 そんなノリで顔を出しつつ写真を撮るヒロシ。

 全くもって抜け目がない。

 そして写真を飾るヒロシの部屋まで招待された。

 

「みすずはね、キミのしょうせつがイチバンのたのしみなんだよ」

「いってない。そんなこと」

「ウソはついてないさ。そうじゃないなら、しょうたろうくんにかかせたりしないでしょ?」

「……ふんっ」

 

 内場の漫画を二次創作したノートは美鈴に渡している。

 それは大切に保管されており、時折懐かしんで読み返すほどだ。

 兄が声を掛けても反応しない。

 それぐらい夢中になってしまうらしい。

 

「うちばのマンガがイチバンだとおもってたぞ」

「だれがいったの、そんなこと」

「だってサンボウ、さきにうちばのマンガよむじゃん。で、こっちになおさせるじゃん」

「それができるから、みすずにとってはイチバンなのさ」

「うっさい。よけいなコトいうなバカにい」

「それはそうと、モジだけのしょうせつ、ホントよくよめるよな。それでこそサンボウだけどさ」

「なれてるのよ。むかし、としょかんでよんでた」

「としょかんか。シュギョーにつかえるホンがあればいいな」

 

 ここで修行の話題に戻す。

 展示をしている正太郎と美鈴の写真。

 あの帰り際の写真をヒロシが抜き取る。

 それを正太郎へ渡してから言った。

 

「これがシュギョーだよ」

 

 与えられる課題はシンプル。

 渡した写真を題材にして小説を書くこと。

 期限は一週間まで、外村家の兄ヒロシへ渡すこと。

 

「なにそれ!? そんなのムチャクチャじゃない!!」

 

 いつにもまして美鈴が怒鳴った。

 写真一枚だけで書け? しかも一週間で?

 そんなのは無理難題で現実的ではない。

 どう考えても不可能だ。

 兄が意地悪をしているとしか思えない。

 

「どうだい、しょうたろうくん。やってみるかい?」

「ちょっとムシす――」

「サンボウおちつけ。このチョウセン、うけてたつぜ!!」

 

 その場の勢いで正太郎は引き受けた。

 難題をやり遂げたときのレベルアップを期待して。

 そのためにどんな無茶なことでもやってみせよう。

 正太郎の勇ましさに美鈴が逆に冷静を取り戻した。

 

「アンタ、ホンキなの?」

「あたりまえだ!! やってやんよ!!」

「むふふっ。たのしみにしてるよ、しょうたろうくん」

 

 その場で解散となり、正太郎は美鈴を連れて帰宅。

 部屋に誘われた美鈴が机の上に注目をした。

 

「やるわねアンタ」

 

 卓上パーティションの有効性は美鈴も理解をしている。

 内場の部屋と違って散らかってもいない。

 むしろ殺風景で広々とした内装である。

 

「うちばみたいにモノがあると、かくときに気がちるんだよ」

「それであんたのコトだから、なにかあるんでしょ?」

「とーぜんだ。ちゃんとサクセンはあるぜ」

「だったらきかせてちょうだい。そのサクセンとやらを」

「まーま、あわてんなよ。いま、うちばとニンジャをよぶから」

 

 自宅の固定電話を使って部屋まで来てもらう。

 そこから作戦会議を開く。

 事情を話すと内場が大いに反応した。

 

「なんやそりゃ? えらいムチャクチャなハナシやで」

「というワケでうちば、マンガかいてくれコレで」

「アホか!! しゃしんイチマイでなにかけちゅうねん!?」

「ちょっとまちなさい。アンタまさか……」

 

 当たってほしくない。

 悪い予感が美鈴の中で駆け巡った。

 しかし現実は……。

 

「うちばがコレでマンガをかく。それをオレがしょうせつにする。カンペキなサクセンだぜ」

「しょーたろ。それひどすぎない? うちばにたよりきってるじゃん」

 

 唯がドン引きをしている。

 だが正太郎はお構いなしに続けた。

 

「たのむぜうちば!! オマエのマンガがひつようなんだ!!」

「こぉんのドアホ!! ムリなもんはムリいうとるやろうが!!」

 

 内場が完全に拒否。

 正太郎は絶体絶命のピンチに陥る。

 さっきまでの威勢はどこへ行ってしまったのか?

 顔色が真っ青に染まってしまう。

 

「やべえよやべえよ。うちばのマンガがないと」

「アンタね……」

「しょーたろ……」

 

 美鈴と唯から冷ややかな視線。

 呆れてモノも言えない。

 正太郎は頭を抱えて困り果ててしまう。

 

「あんなとうじょう、かけたとしてもジカンがたりんのやで」

「なんでだよ!? いっしゅうかんあればヨユーだろヨユー!!」

「アホ。そのあと、とうじょうのかくジカンがいるやろうが」

「あ……し、しまった!!」

 

 内場の漫画を二次創作する時間を失念していた。

 どんなに頑張っても期限までに間に合わなくなる。

 なんでそのことに気付かなかったのか?

 正太郎、一世一代の不覚である。

 

「ぬけとるなホンマ。せやけどそとむらのにいちゃん、エグイことしよるで」

「だからいったのよ。あんなのムチャクチャだって。それなのにこのバカは――」

「まぁおちつきや。いまゴチャゴチャいうてもしゃーないで」

 

 さすがに可哀想だと思ったのだろう。

 内場が間に入り込んで庇った。

 挑戦状を受けて立つという心意気は決して悪くない。

 正太郎の創作力を高める応援もしてあげたい。

 

「とりあえずキャラはふたり。これはゼッタイやろ?」

「そうね。じぶんがモデルというのはムカつくけど」

「でもみすずはかしこいから、きっとカツヤクするよ」

「ほらアンタ、ボサッとするんじゃないよ。あとメモもわすれない」

「お、おう」

 

 三人の話し合いで設定作りが始まる。

 片っ端からメモにしてネタを集めた。

 そこから物語に繋げていけたらいいのだが現実は甘くない。

 

「アカン。もうこれいじょう、なんもでんわ」

「ゆいも、もうアタマがへとへとだよぉ」

「アンタこれでかける……ワケないわね」

 

 ほとんどが正太郎と美鈴の自己紹介。

 それがネタになるかは微妙である。

 写真の背景も自宅の前で情報が少なすぎる。

 ストーリーに上手く結び付けられない。

 もはや万策は尽きた。

 そんな絶望的な状況の中、姉の綾が帰って来る。

 

「あ、ねーちゃんだ。ちょっとアイサツしてくる」

 

 驚く三人を他所に玄関まで駆けつけていく。

 おかえりと挨拶をして出迎えた。

 姉は笑顔でただいまと返してくれる。

 

「あ、トモダチがきてるの?」

「うん、ちょっとやばいコトがあって」

「……なにやらかしたの? おねえちゃんにいえないコト?」

「べつにわるいコトはしてない」

「だったらいえるよね?」

「も、もちろん。トモダチまたせてるから、あとでへやにきて」

 

 逃げるようにその場を離れる正太郎。

 姉を怒らせて敵に回すつもりはない。

 いざとなれば内場たちを盾にして逃げよう。

 そんな保身を考えながら戻った。

 間もなく綾が来て、三人に優しく言葉を交わす。

 そこから正太郎への追求が始まり美鈴が説明をした。

 

「ごめんね。しょうたろうがバカなことしちゃって」

「こっちこそ、うちの兄がムチャなことおしつけちゃって」

「とうじょうのねえちゃんって、えらいハキハキしとるな。おとなしそうやのに」

「ゆい、ビックリだよ。しょーたろ、ずっとおねえちゃんをさけてたのに」

 

 綾が題材となる写真を手にとって観察。

 日記を通じて三人のことはよく知っている。

 特に小説が読める美鈴の存在は大きい。

 おかげで弟の二次創作がより良くなっているから。

 

「みすずちゃん。そのおにいさんはコレでかいてほしい、っていったの?」

「あ、はい」

「きげんはいっしゅうかん。それいがいは?」

「な、ないです」

 

 弟のことになると綾は強く出る傾向にある。

 美鈴が緊張をして丁寧な口調になってしまうほどだ。

 ここから綾は物語の骨組みを作って弟の手助けをする。

 別に完結させる必要はない。むしろ逆。

 続きが気になるような所まで進めたらいい。

 これにより概要となるサンプルが仕上がった。

 

「おぉー、スゴイ」

 

 正太郎はそう呟きながら姉が作ったあらすじを見る。

 耳の痛い忠言で、誰も相手にしてくれない孤独な参謀。

 素直に問題点を受け入れて、改善を惜しまない王様。

 その二人の出会いが国を発展させる。

 

 姉の絵本もどきが懐かしくなった。

 あの書き方で、今の正太郎ならできるかもしれない。

 内場が漫画で支援イラストを描く気になってくれた。

 挿絵に役立ってくれたらという気持ちからだ。

 唯は元気になるクッキーを焼くと言ってくれる。

 

「みすずちゃん。しょうたろうがかいたら、よんであげてね」

「あ、はい。でもわたしキビシイから」

「だいじょうぶ。それでへこたれたりなんてしないから」

「ねーちゃん、もうすこしエンリョをーー」

「しょうたろう、なにかいった?」

 

 有無を言わせずに遮られる。

 家族に遠慮は無用。

 それを望んでいるなら正太郎もやり返すだけ。

 

「ゼッタイにこえてやるっていったんだよ。ねーちゃんを」

「それじゃあ、しっかりとかこうね」

「サンボウ、てかげんはいらん。わるいトコロあったらいってくれよ」

 

 今までと違ってほぼオリジナルな展開だ。

 美鈴の容赦ない批評を参考にして改訂を繰り広げる。

 新たな問題点の指摘にも対処する。

 内場の支援イラストから創作意欲とイメージが向上した。

 唯のクッキーで休憩時の回復として役立つ。

 たまの息抜きに淳平のところで映画鑑賞もした。

 ちょうどネタになる映画だったのでモチーフにする。

 そんなこんなで約束の1週間を迎えた。

 

「サンボウのにいちゃん、しょうせつかいたぞ」

 

 美鈴の兄ヒロシの部屋へ作品を提出。

 そこには美鈴、内場、唯も集まっている。

 ヒロシがその場で読み始めた。

 内場の挿絵を付けて、美鈴が指摘した所は全て直してある。

 綾のあらすじも正太郎が上手く整えた。

 あとは肝心のストーリーがどう評価されるか?

 

「……」

 

 ヒロシは黙読をして無意識に頷く。

 美鈴が独りぼっちで友達がいなかった。

 その頃のリアリティを感じさせることから、明らかに実体験が含まれている。

 あの美鈴が過去のことを正太郎に打ち明けた?

 答えはイエス。

 厳しいチェックの末に出し惜しみを一切しなかった。

 

 正太郎と美鈴。

 お互いの出会いはそれぞれに衝撃があった。

 この人なら、この人だからこそ、という期待と信頼。

 その辺りを主従関係として物語に投影されている。

 

 チラリと横目で美鈴を様子見するヒロシ。

 熱を帯びたような赤面でそっぽ向いている。

 小説は心の鏡。

 駄々洩れになるので恥ずかしい事この上ない。

 小説の美鈴と現実の美鈴、どちらの感情も一致する。

 偽りが何一つ感じられない。

 内場の挿絵にある美鈴の感情も上手く表現されていた。

 

「すばらしい」

 

 ラストは今後もよろしくという締めくくり。

 二人の将来が気になるような終わり方をしていた。

 あえてストーリーは語らない。

 ヒロシは胸の内にひっそりとしまいこんだ。

 

「よっしゃあ、みんなのおかげでクリアしたぜ」

「やったでとうじょう。ボクもマンガでガンバったんやけどな」

「やったねしょーたろ。ゆい、クッキーつくるしかできなかったけど」

「サンボウがいちばんたいへんだったな」

「まったくよ。つぎはないからね」

 

 ヒロシは見てて思う。

 一番苦労したのは正太郎だろうと。

 美鈴の過酷な意見を取り込み、改善に活かして実践する。

 それは誰にでも出来ることではない。

 

「さて、ボクとしてはつづきをみたくなるものだけど」

「うん、そうおもえるようにかいたからね。サンボウのアドバイスこみで」

「つかみはたいせつよ。よんでもらうヒトが、どれだけたのしんでくれるか」

「サンボウ、いぜんよりレベルアップしてる気がする」

「ベンキョーはしてるけど、たいしたことはしてない」

 

 ヒロシは知っている。

 図書館で役に立つような資料を揃えて学んでいることを。

 期待を寄せるからこそ自分を高めるのだろう。

 

「しょうたろうくん、これからもみすずをよろしくたのむよ」

「うん。サンボウのちからはひつようだから、よろしくさせてもらう」

 

 後日、正太郎の希望で美鈴がおススメする図書館へ連れて行く。

 そこには無料で読み放題の本が一杯に広がっている。

 まさにネタの宝庫だ。

 小学校の小さな図書室とは比較にならない。

 マナーはしっかりと守る。本も丁寧に扱う。

 図書カードを発行して、本のレンタルができるようにした。

 

 ………………。

 …………。

 ……。

 

 背後から指先で突っつかれた正太郎。

 反射的に振り返ると唯の満面な笑顔。

 些細な悪戯が成功して実に嬉しそうである。

 

「やはりニンジャか。けはいをけしやがって」

「しょーたろ、あそぼ」

「いいぜ。かくれんぼでけっちゃくをつけてやる」

「ゼッタイゆいがかつよ」

「バカめ。この世にゼッタイはないんだぞ」

「おねえちゃんをゼッタイこえるっていったのもナシなの?」

「バカめ。なにごともレイガイはつきものだ」

 

 ああ言えばこう言う小学生の舌戦。

 勝負の火蓋を切ってのかくれんぼ。

 ただし、今は登校中により実行は放課後だ。

 

「あそびのさそいは、ほうかごにしろよ。サボりたくなるだろ」

「サボりはダメだよ。でも、ゆいとあそぶのひさしぶりだよね?」

「シュギョーがふえたし。ニンジャのスキルさがしもあるし。いそがしいんだぞ」

「あ、ゆいのこと、ちゃんとわすれてないんだね」

「トーゼンだ。パワーアップスキルでねーちゃんをこえる」

「こえられるの?」

「こえてみせるさ。ロマンだぜロマン」

 

 教室で美鈴で見かけない。

 内場に尋ねてもまだ来ていないと言う。

 先生から風邪でお休みであることを聞いた。

 季節の変わり目だから皆も気を付けるようにと。

 

「ニンジャ。うちばがテンションさがりまくりだ」

「うちば、ゲンキだして。みすず、あしたきてくれるよ」

「……」

「ダンマリかよ。メガネのくせに」

「メガネはかんけいないやろ!!」

「だったらへんじしろよ。ムシはダメだぞ」

「す、すまん。なんや、そとむらがおらんとチョーシがでんのや」

「ニンジャもそうか?」

「うんそうだね。みすずがいないとさびしい。しょーたろはさびしくないの?」

「へっちゃらだぜ。サンボウはふっかつする。ゼッタイに」

「アサにしょーたろがいってたレイガイ?」

「レイガイだぜ」

「つえぇなとうじょう。ホンマかなわんわ」

 

 放課後の先約をどうするのか?

 美鈴を放って遊ぶことで後味が悪くならないか?

 友達に優劣をつけることに罪悪感が生じないか?

 正太郎がとった行動は……。

 

「ニンジャ、ほうかごはショウブのやくそくだよな?」

「う、うん」

「サンボウのみまいしてからショウブするか、うちばにぜーんぶまかせるか、どっちにする?」

「な、なんやと!! 二人ともこないつもりか!?」

「うーんと……うちばにまかせたい」

「というワケでうちば、まかせたぞ」

「ちょいまちちょいまち!! ひとりだけなんてそんな――」

「はげましのてがみをかいてやる。それをわたせばゲンキになるぜ」

「それならゆいもかく!!」

 

 内場に激励の手紙を渡して、美鈴のところへ見舞いをさせる。

 役目を果たすため、内場は一人で美鈴の家まで行った。

 兄ヒロシが一目散に帰り、妹の傍から離れようとしない。

 

「うちばくんだね。いもうとのためにきてくれてありがとう」

「ど、どうも。そとむら、だいじょうぶか?」

「……うん」

 

 美鈴の弱々しい姿に内場も見てて辛くなる。

 早く元気になってほしいと心から願う。

 

「ふたりのてがみあるんや。よめるか?」

「ボクがよんであげようか?」

「いらない。じぶんでよむ」

 

 熱はあるけどメモぐらいの少ない量なら読める。

 まずは唯からの手紙。

 

 ――はやくなおしてね。うちばがおちこんでいた。しょーたろはいつもどおり。

 

 次に正太郎からの手紙。

 

 ――しんじてるぜ。サンボウがふっかつする日を。

   

 いつも通りという唯の文面を裏付けた。

 信じて疑わない正太郎。

 だからこそ美鈴は安心をしてしまう。

 

「どこのマンガのセリフよ。バーカ」

「そとむら、どんなコトかかれとったん? メッチャ気になるんやけど?」

「べつに。もうねるからでてって」

「うちばくん、でようか。はやくなおさないといけないし」

「あ、うん」

 

 空気を読んだヒロシが内場を連れて去る。

 布団で顔を隠した美鈴が少しだけズラす。

 顔が赤いのは風邪のせいなのか、それとも……。

 なお、かくれんぼ勝負は、正太郎の惨敗であったことを付け加えておく。

 

 ………………。

 …………。

 ……。

 

 南戸家では父の転勤が決まっていた。

 母もそれに付き従うので、唯の転校が避けられない。

 早めに伝えるべきか? 直前にするべきか?

 どちらにしても唯にショックを与えるだろう。

 大人の都合で、仲良くしている正太郎たちを遠ざけてしまうのだ。

 

 夫婦話し合いの末、早めに伝えることにした。

 唯からは涙を流しての猛反対。

 当然である。

 まだ唯は小学生だから我慢させるほうが酷である。

 娘の悲痛な叫びが親心に突き刺さった。

 そして唯が家を飛び出してしまう。

 

「まちなさい唯!!」

「い、いかん!! 夜中の外は危険だ!!」

 

 母と父がすぐに追いかける。

 だが子どもの体は小さく、狭い隙間もスイスイと走り抜ける。

 視界の悪い暗闇もあって不覚にも見失ってしまった。

 

「あなた、ど、どうしよう」

「落ち着け!! まだ近くにいるはずだ!!」

 

 しばらく探してみたが見つからない。

 他の家に行っている可能性も考えて連絡をする。

 東城家、内場家、外村家、真中家、西野家など全ての家に確認。

 いずれも唯は来ていない。

 事情を聞いて一同が捜索に協力をしてくれる。

 行先に心当たりがあるかもしれないので正太郎たちも手伝ってもらう。

 ただし、夜が遅いため必ず保護者同伴とする。

 

 公園、学校、お菓子屋、ぬいぐるみショップなど。

 行きそうなところを手当たり次第に探したが見つからない。

 そして声掛けをしても返事は来ない。

 

「あや、みつかった?」

「ダメ、つかさは?」

「こっちもダメ」

「そとむらくん、どうだった?」

「みつからないね。そのようすだと、まなかくんもだね」

「うん」

「アカン。ホンマどこにおるんや?」

「ねえ、アンタなら、ゆいのいるトコロわかるんじゃない?」

「きっとかくれてる。ニンジャだからな」

「だったらこうえんでしょ」

「……サンボウ」

「なによ? じかんないんだから、さっさといいなさい」

「かくれんぼのばしょかえたんだ。もっとおおきなこうえんに」

「マジ?」

 

 以前、探検ごっこで唯と一緒に大きな公園を発見した。

 森林、噴水、トンネル、大きな池、球技場、バーベキューなど。

 非常に開放的でとっておきの遊び場である。

 しかし今の状況では最悪。

 電灯があっても死角で見えにくい。

 隠れられる場所も豊富にある。

 たとえ手分けをしても見つけるには骨が折れるだろう。

 もっと細かく探さないと見落とすこともあり得る。

 さらに危機感が増してしまう。

 気温が下がって寒くなり雪まで降る始末。

 大人の親たちの疑心暗鬼も拭えない。

 本当に大きな公園の中にいるのか?

 逆にいないと断言をすることもできない。

 

「アンタ、ゆいにまけつづけたよね?」

「うん」

「まけたとき、ゆいはどこにいたの?」

「こうさんしたときは……きのうえ、くさのなか、やねのうえ、いけのちかく」

「じゃあ、そこに――」

「それはない」

「なんで?」

「ニンジャはおなじばしょにかくれない。そういうルールでやってきた」

 

 回数を増やせば隠れる場所に制限をかけられる。

 勝率が上がるから遊びのモチベーションも維持できる。

 ちゃんとルールを守るからこそ遊びは面白い。

 それを破るような唯ではない。

 

「わかった。アンタをしんじる」

「オヤはうたがってるのに?」

「かんけいない。で、こころあたりはないの?」

「ゆきがふってるから、それがあたらないトコロ」

「やねのした、ベンチのした、木のした。そんなかんじ?」

「そんなかんじ。てんきのいい日はうえがおおかったぜ」

 

 鬼役をやり続けた正太郎の証言だ。

 理由付けの行動パターンもあるから信憑性が高い。

 ふとした瞬間、正太郎が閃く。

 

「あっ!! もしかして!!」

「なにアンタ!? なにかおもいだしたの!?」

「アレかもしれないぞ。さかずきのヤツ」

「さかずき?」

 

 淳平の映画で見た義兄弟の盃を交わすシーン。

 カッコよかったので真似をしてみたくなり、唯とオレンジジュースを交わした。

 ジュースがより美味しく感じて楽しかったのを覚えている。

 場所は……。

 

「さがしたぜニンジャ」

 

 遊具のトンネルの中で泣きじゃくる唯。

 近くにいた美鈴が他の人たちを呼んできてくれる。

 唯の隣に正太郎は座った。

 

「へんじはいらん。これはひとりごと。ムシしたいならかってにムシしろ」

 

 転校という理不尽な大人の事情。

 腹立たしい気持ちになりながらも正太郎は言わずにいられない。

 悲しみと怒りを小学生に溜め込ませるものではない。

 

「パワーアップスキルでヒントがみつかった」

 

 耳元で囁く正太郎の声に唯が反応する。

 返事はないが興味が先走って泣き顔を晒す。

 暗闇の中なので正太郎からは見えない。

 

「おんがくだ。ゲーム・アニメ・えいが、どれもおんがくでテンションがあがるぜ」

「おん……ひぐっ……がく……うぅっ……」

「オヤにならいごとのカネをださせる。それでおんがくスキルをマスターすればいい」

 

 ヒントというよりも方向性の確立というべきか。

 音楽も色々あるため選択するのは難しい。

 そもそも唯に音楽の適性や才能があるのかも分からない。

 涙を拭い取る唯が少し落ち着いてきた。

 そして返事を出す。

 

「わかった」

 

 それは決意でもあった。

 転校した先で習い事をして音楽のスキルを習得してみせる。

 そして何年先になろうとも必ず帰ってくる。

 

「とおくにいっても……てがみ、かいてくれる?」

「おいおい、よめなくてギブアップするのがオチじゃないか?」

「しないもん!! ちゃんとよむよ!!」

「だったらショウメイしてみろ。てがみでかかってこい」

「ゼッタイにへんじかいてよ!! ヤクソクやぶったらハリセンボン!!」

「かくのはチョーとくいだぜオレ。それだけはゼッタイにまけねえ」

 

 皆が探し回って迷惑をかけたことは事実。

 唯のごめんなさいもあって事なきを得る。

 時間が過ぎ去って引っ越しの日。

 休日の朝で正太郎たちが見送りに来ていた。

 

「はいコレ。ひっこしてもガンバれるように」

「つーさん、ありがとうございます」

 

 つかさからの手作りクッキーを受けとる。

 

「ゆいちゃん、むこうにいってもゲンキでね」

「あ、はい。ゲンキでがんばります」

 

 綾からは可愛い招き猫のキーホルダー。

 

「じゅんぺー、カントクなるならナキムシなおさないとダメだよ」

「な、なきむしじゃない!! あ、なにももってきてない」

「つぎあったとき、ナキムシじゃないじゅんぺーがみたい」

「わかったよ。つよくなってゆいにみせてやる」

「うん、たのしみにしてる」

 

 手ぶらの淳平だが今はそれでいい。

 再会したときに元気でいてくれたら充分だ。

 

「ボクからは、このマエのシャシンをおくるよ」

「わーいありがとう。たいせつにします」

 

 大きな公園の前で唯たちの集合写真。

 ヒロシが撮り、花のような笑顔が広がっている。

 

「みなみとがわらえるよう、ギャグマンガかいたで。そとむらのチェックずみや」

「ありがとう。ひっこしたらよませてもらうから」

 

 最近はショートマンガも描けるレベルになった。

 まだまだ粗削りなところはあるだろう。

 それでも読者を引き込ませるだけの魅力は備わっている。

 

「てがみかくんでしょ? だったらコレつかいなさい」

「みすず、フウトウありがとう。ちゃんとつかうね」

 

 真っ白な手紙用の封筒が束になって渡される。

 切手はあとで親に出してもらえばいい。

 それぐらいは許されて然るべきである。

 

「ほらアンタ、ボサッとするんじゃないよ」

「もうラストかよ。はやいな」

 

 美鈴に背中を突き飛ばされて唯の前に出るのは正太郎。

 差し出したのはオレンジジュースの缶。

 一回目の盃は義兄弟の誓いをマネしたもの。

 今回は再会の誓いを立てるものである。

 そして乾杯を交わして二人で缶ジュースを飲んだ。

 

「しょーたろ、おいしかった」

「つぎあったときは、おかえりのさかずきだぜ」

「わかった。それをたのしみにかえってくるね」

「おんがくスキルもわすれんなよ」

「もちろんだよ。またね」

 

 また会えるからバイバイは言わない。

 お互いに笑顔で別れることができた。

 あとでこっそりと泣いたのは秘密である。

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