青春100%   作:完結の陽炎

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第29話「夏休みの合宿」

 迎えの車がいる駅まで電車の移動。

 そこに天地と執事の爺が待機していた。

 さつきを見た途端、天地は前に出て空手の礼儀に習い。

 

「押忍!!」

 

 気合いのこもった挨拶をしての一礼。

 それにつられて正太郎も。

 

「押忍!!」

 

 マネをして空手の姿勢でやり返した。

 さつきは二人の挨拶を受けて。

 

「押忍!!」

 

 気迫の眼力に鋭い姿勢で応じた。

 まるで師範の格を見せつけるかのように。

 これには周りも圧倒されたようである。

 気は済んだようで天地から何もなかったように話しかける。

 

「やあ皆さん、ごきげんよう」

「誰かさんが重役出勤したせいで、不機嫌よう皆さんになって――おっとそう簡単に踏まれてやらんぞねーちゃん」

「いいからちょっと黙ってなさい」

 

 足の踏みつけを回避する正太郎。

 お構いなく姉として叱りつける綾。

 執事の爺が頭を下げながら、堅苦しくご利用感謝の意を述べた。

 

 ――おいおいカントク、代表なんだから執事の謝意にお礼を返せよ。何してんだよ?

 

 長距離の電車移動で疲れたのか?

 寝坊で慌てて走ったことが響いているのか?

 両方のダメージで早く休みたそうな顔をしている。

 とてもお礼を言えるような状態ではない。

 

 ――カントクのコンディション最悪じゃないか。映研の誰でもいいからフォロー入れろよ。

 

 黙ってろと言われたから正太郎は言わない。

 そもそも見学者だから出しゃばる訳にはいかない。

 そんな思いあるいは空気が伝わったのか

 つかさが前に出て丁寧なお辞儀でお礼を伝えた。

 

「こちらこそありがとうございます。しばらくお世話になりますので、よろしくお願いします」

 

 これにホッと胸をなでおろすのが正太郎。

 淳平に向けて汚物を見るような目つきで睨む美鈴。

 それでも映研の代表者かと咎めているようだ。

 

 ――あれは相当キレてるな。オレと同じ立場を弁えて我慢をしているのが伝わるぜ。

 

「真中くん、大丈夫? 疲れてない?」

「ち、ちょっと疲れたかなってアハハッ」

 

 綾が気に掛けて優しく声を掛ける。

 ごまかすかのような笑みを浮かべる淳平。

 美鈴の不機嫌がさらに高まってしまう。

 そんな彼女の肩を掴んで優しくなだめる内場。

 ナイスフォローだと正太郎が親指を立ててのサムズアップ。

 それに気付いた内場もサムズアップで返す。

 

 ――あ、唯が呆れた顔してる。カントクの態度がマズイって分かってるんだろうな。

 

 唯も場の空気を読んで自重しているようだ。

 状況が許されるのなら、唯が淳平を蹴って叱っているところだろう。

 そしてちなみも似たような反応である。

 

「しょーくん。今日の真中さん、いいトコなしだね」

「そういう日もある。と前向きに言えたら幸せなんだろうな」

 

 周りに聞こえない程度にコソコソの密談。

 こういう時は早めに休ませたほうがいい。

 時間を惜しんで前半組が車に乗っていく。

 

「天さん、次に来るのは何時間後?」

「爺」

「おおよそ3時間の猶予を頂ければ」

「あいわかった。3時間後にここへ戻ってくるよ。さすがに暑い炎天下に待ち続けるのは危険だからな」

「うむ。ではまた会おう」

 

 出て行く車を見送って後半組がその場に残る。

 メンバーは美鈴・内場・正太郎・ちなみ・力也・こずえだ。

 一同は木陰に避難してからヒマの潰し方を話し合う。

 

「見知らぬ土地を不用意に動き回るのはどうなの? 迷わない?」

「せやな。地図でもあればええけど、そう都合良くはないし」

「ねーねー、3時間もあるならお腹が空くから何か食べない?」

「ちなみの言う通り、軽く何か食べたほうがいいだろうな。コミさんと妄想使いはどうッスか?」

「俺はこずえちゃんさえ良ければ何でもいいぜ」

「はう……あ、あたしも力也さんが良ければ何でも」

「両方OKッスね。迷わない程度の近場でヒマ潰しが無難かな。あとは全員行動かカップルごとに分けての別行動か」

 

 混雑リスクも考慮して動きやすいカップルごとの別行動で決定。

 美鈴と内場は漫画喫茶、力也とこずえはカラオケ。

 そして正太郎とちなみは……。

 

「へえー、アイスとかき氷で唯と論じ合ったのか」

「しょーくんはどっち派?」

「ものすごく暑い時は身体を冷やす目的でかき氷、それ以外だったら甘くて美味しい濃厚なソフトクリームのアイス」

「わたしはアイス派だけど、唯のかき氷派も悪くないって思ったよ。実際に食べていい所があったから」

 

 ソフトクリームを買って食べながら会話をしている。

 食べ終わった後は駅前のショッピングモールへ足を運ぶ。

 ふと正太郎は気になった事を口にする。

 

「高校生になったら携帯を持つ予定だから、ちなみに教わっておこうかな。さっきヒロシ兄さんに渡された時に戸惑ったし」

「うん、いつでも言ってね。それで今からどこに行くしょーくん?」

「ちょっと文具に寄ってもらっていい? そろそろメモ用紙を使い切りそうなんだ」

「わかった」

 

 補充のためにメモ帳を探して購入をした。

 自分に適切なサイズ・重さ・紙質にこだわっている。

 特に書きやすさと値段のコスパの兼ね合いは重要だ。

 

「また今度、ちなみの日記小説書いてみようかな。服選びの時の心理描写とか使って」

「それならお返しにイラスト描いてみるね。受験勉強の息抜きにもなるし。なにかリクエストある?」

「ちょうど夏だから、それをテーマにしたものがいいな。例えば向日葵とか」

「いいよ。ひまわり畑の風景とか夢で見たことがあるから」

「あーちゃんとちーちゃんの頃の話だな。中々書き応えのある内容だったから覚えてるぞ」

「えへへ……あ、しょーくん。あっち見てもいい?」

「おういいぞ」

 

 紅茶専門のコーナーに立ち寄って種類の豊富な紅茶を見て回った。

 銘茶のダージリンやウバなどの香りや味の違い、食べ物との相性もあって奥が深い。

 ストレートティーだけでなく、レモンティーやアップルティー、ミルクティーなど飲み方も様々だ。

 

「ド素人のオレには日本茶は緑、コーヒーは黒、紅茶は赤ぐらいのカラーイメージしかない」

「わたしもハマるまではそんな感じだったよ」

「飲食ネタは切っても切れない関係だから参考になる。ハマるきっかけはつーさんのお菓子?」

「正解。ああいうお菓子に合う飲み物のことを考えちゃって調べたのが始まりだよ」

「なるほど。洋菓子と紅茶って相性が良い感じするよな」

 

 次に向かったのは雑貨店のファンシーグッズのコーナー。

 唯が来たら喜ぶであろう可愛い動物系のぬいぐるみが多い。

 掌から抱っこできるまでサイズの違いもある。

 

「内場の漫画に人形を操る魔法使いがあったけど、ぬいぐるみに変えてもそれはそれで面白そうだ。何なら人形vsぬいぐるみで互いの良さをアピールさせてもいいし」

 

 人形派とぬいぐるみ派で読者層を集められるかもしれない。

 それぞれの良い所を認め合える価値観を出すのも悪くはない。

 小説を考えている時の正太郎は生き生きとしている。

 

「しょーくんって昔っから小説を書くのが好きだね」

「ねーちゃんを超えるための手段だったはずだけどな。気付けばこうなってた理屈抜きで」

「きっかけはなかったの?」

「多分、美鈴に内場の漫画を直せと言った辺りだろう。修理屋になった気分で面白かったからな」

「しょーくんの二次創作、すべて読んだけど内場くんの漫画が懐かしくなったよ」

 

 その後は帽子・靴・鞄で気になる所をチェックする。

 魔法使いが身に着けるイメージのトンガリ帽子はなかったが、漫画家が被ってそうなベレー帽はあった。

 内場に似合いそうなので、あとで美鈴に宣伝しておく。

 靴はスニーカーとビジネスシューズの違いを堪能。

 靴ひもは縛りが甘いと歩いている時に解けやすい。

 正太郎としては少し苦手意識があり、結ぶのが面倒だと感じていた。

 そこでちなみからの意見で伸びる靴紐という便利グッズを採用。

 自由に脱ぎ履きができるように今後の改善とした。

 鞄はリュック・ショルダーバッグ、ウエストポーチなどで色々と試す。

 メモを書くために両手は自由でありたいから手に持つ鞄の類は除外。

 何気に正太郎が興味を持ったのがショルダーバッグである。

 咄嗟に盾にしたり、振り回してけん制をかけたりで護身の用途を連想したからだ。

 男の接近を怖がるこずえに合うかもしれないが、大きいと扱いにくいため配慮が必要である。

 

「しょーくん、そろそろ時間だよ」

「早いな。もっと色々回りたかったが仕方ない」

「また次の楽しみにしよ」

 

 気持ちを切り替えて元の場所へ戻る。

 美鈴がいたのでベレー帽のことを教えた。

 内場を見て確かに似合うと同意をしてくれる。

 

「なんやねん。そこまで言うほど僕に合う帽子なんか?」

「似合いすぎるぐらいに似合うぜ。美鈴も同意したんだし、機会作って試してみろよ」

「まあ、そこまで言うなら今度試したるわ」

 

 後に美鈴からベレー帽をプレゼントされて、内場がそれを被って漫画を描くことを習慣づけたのは別の話。

 そうこうする内に力也とこずえが最後に戻ってきた。

 力也からはこずえの美声に関しての自慢話を繰り広げる。

 こずえは照れ笑いをしながらも満更でもなさそうだ。

 そうこうしている内に迎えの車がやって来るが、外へ出たのは執事だけである。

 正太郎の大人嫌いを知っているので美鈴が対応してお礼を言った。

 後半組を乗せた車が走り出して、何事もなくペンションの別荘へ到着。

 男女別に部屋を分けて荷物を置いてから広場の部屋へ集まった。

 今後の予定を話し合うためのミーティングである。

 しかし……。

 

 ――部員でない天さんがいるのは、さっちゃんがいるからだろうな。

 

 提供者としての責務で、撮影に使う場所や設備などを把握したい。

 そういう表向きの理由で参加をする。

 実際はさつきの傍にいたいが本音だろう。

 

 ――それしてもカントクはまだ疲れが取れてないんだろうな。あくびしてるし。

 

 少しマシになっているようだが眠たそうな顔をしている。

 寝坊をしたのにまだ寝足りないのか?

 周りからはそのように印象付けてしまっている。

 どうにも緊張感に欠けてしまうが、リラックスをしていると思えばいい。

 ある意味では大物だと。

 そう割り切らないとやってられない。

 

 ――美鈴がわざとカントクを見ないようにしてる。見たらキレるからだろうな。

 

 淳平が頼りないため、つかさが話を進めてくれた。

 昭和初期に適した和服が用意されているので試着の話で盛り上がる。

 さつきは和服が好みらしく乗り気だ。

 これには天地のテンションが爆上がりである。

 そして何故か見学者である美鈴とちなみもターゲットとなった。

 

「美鈴お前も着ろ!! そして百枚撮らせろ!!」

「とち狂ったようなことを言うなバカ兄貴!! 他を当たりな他を!!」

「内場くんが見たいと言ってもか? そうだよな内場くん?」

「えーヒロシさん、いきなり僕に水を向けないで下さいよ。確かに僕は見たいけど美鈴の嫌がることは――」

「あたしは見世物になるつもりないから!! バカ兄貴の撮影に付き合わされるなんて絶対にイヤ!!」

「ほぉー。じゃあ内場くんの前だけならOKだね。そうだろ美鈴?」

「う、うるさい!! 調子に乗るな!!」

 

 ヒロシを蹴っ飛ばして追い払う。

 内場は見慣れたようで穏やかな笑みを浮かべている。

 そして美鈴が内場に近付いて耳元でささやく。

 

「み、見たいなら後で見せてあげるから」

「おおきに。二人だけの秘密やな」

「当たり前よ。バカ」

 

 照れると顔をそっぽ向けてしまうクセは直らない。

 実に分かりやすい態度である。

 どのような衣装だったのかは内場だけが知る事だ。

 一方、ちなみのほうは……。

 

「わたしだけが着るのは不公平だよ。だからしょーくんの衣装を見てみたい」

「それは無理だろう。オレは見学者で撮影に関わらないから」

「そんなことはないぞ東城。ちゃんと用意してある」

 

 天地が割り込み、抜かりがないと堂々と胸を張った。

 要望が叶うことでちなみは大喜び。

 すかさず正太郎はツッコミを入れる。

 

「なぜ用意した? というかサイズ教えてないぞ」

「天地財閥の力を舐めてもらっては困るよ。フッフッフッ」

 

 こうして試着会が開始される。

 綾は変に着飾るよりもシンプルなデザインのほうが逆に魅力が引き立つ。

 巫女が着るような無地の和装に袴、頭に大きめのリボンがマッチしていた。

 さつきは模様つきの和装に袴、紐結びのリボンで身体的なスタイルも合わさって美しく際立つ。

 つかさは椿の花柄をした祭りで着られる浴衣。

 格式にこだわず、ポジティブな明るさを純粋に表した。

 唯はツキを呼ぶ縁起のいい兎を付けた浴衣。

 可愛い動物グッズを集める唯に合わせたデザインである。

 こずえは撫子の柄をした浴衣。

 イメージは大和撫子で慈しみの愛をこずえに当てはめている。

 ちなみはポピュラーなバラの柄をした振袖で着物の帯にも柄がついている。

 愛情と美を込めたバラの強さがちなみを象徴するかのようだ。

 リボンは綾が付けているサイズと同等でデザインとしては色合いが少し異なる。

 

 ヒロシはあらゆる角度からの撮影で大忙し。

 力也は天高く飛ぶ勢いでのおおはしゃぎ。

 淳平は眠気が吹っ飛んでボーと見惚れるばかり。

 そして別室で試着を終えた正太郎が皆の前へ出てくる。

 

 ――これ、有名な推理小説に出てくる探偵じゃないか!!

 

 インバネスコートに鹿撃ち帽とパイプ。

 ペンション事件で推理ショーを始めてもおかしくない。

 それぐらい似合っていたようで皆からの評判が良かった。

 

 ………………。

 …………。

 ……。

 

 利用をする別荘で最大の目玉が温泉である。

 女性としてスタイルが良いのは、さつきを筆頭に綾・美鈴・こずえ。

 身体的なコンプレックスを抱くのは、唯を筆頭につかさとちなみ。

 特に胸に対しての劣等感が根強く残る。

 何をしたらそこまで育つのだろうかと不思議でならない。

 ぜひとも知りたいと唯からおねだりをされても困る。

 さつきは空手で鍛えただけ、綾とこずえは勝手に育っただけ、美鈴はバランスのいい食事と睡眠である。

 

「それよりも唯ちゃん、真中くんと小さい頃から仲がいいよね?」

 

 話題を変えてコンプレックスから逸らす作戦。

 綾としては唯の淳平に対する唯の気持ちが気になっていた。

 よく淳平の家に遊びに行くから尚更だろう。

 

「あー、じゅんぺーって色々だらしない所があるから、誰かがお世話しないと何にもできない感じなんだよねー」

「唯は甘やし過ぎよ。そんな事するから、あんな情けないままで成長しないのよ」

「うーん、綾さんはどう思う? じゅんぺーが好きだから付き合ってるんでしょ?」

「あ、えーと……うん」

「だったら唯の知らないじゅんぺーのいい所を知ってるんじゃないかな?」

 

 淳平の良さを分かってほしい。

 その一方で具体的に答えられない綾。

 唯の発言に反応をしたのがさつきだ。

 

「あたしが聞いた話だと、優しくて夢を追う所が気に入ってるんだってさ」

「優しいのはしょーたろも内場も同じだよ。しょーたろはお姉ちゃん超え目指してずっと頑張ってるし。内場は漫画家を目指して今もいっぱい漫画を描いてるから」

「夢追いはいいけど、あたしは今朝の遅刻がアウトだと思ったね。しかも寝坊というふざけた理由だったのは頂けないよ」

「あたしも北大路さんに同意するわ。監督以前に人としての常識がないのかと疑ったから」

「失敗は誰にでもあるから、その後で挽回したらいいかなってわたしは思ったよ。でも西野先輩が執事さんに対応してて、あれ本当は真中さんがしないといけないよね?」

「あ、やっぱそこ気になったよね。真中くん、疲れ果てて何もできそうになかったから、あたしが空気読んでフォローに回ったよ。何気に弟くんの何とかしろ視線も痛かったし」

 

 まともにやってくれる映研の男子がいない。

 せめて監督の淳平がしっかりしてくれないと困る。

 綾は必死になって擁護をしようと声を上げた。

 

「あ、明日から真中くん頑張るから!!」

「なんか内場の漫画にそういうのあったよ。明日から本気出す宣言して結局ダメだったの。フラグって言うんだって」

「唯、そういう事は言わないの。ほら見なさい。綾先輩が困ってるでしょ」

 

 綾がシュンと落ち込み何も言えない状態になった。

 それを見かねたこずえが場の空気を変えようと話を切り出す。

 

「あのー、内場さんの漫画よく聞きますけど、そんなに色々描いているんですか?」

「うん!! ファンタジーとか歴史とか恋愛とか色々やってるよぉ!!」

「それじゃあ……え、エッチな漫画もーー」

「描いてないわよ!!」

 

 美鈴がムキになって否定をする。

 妄想癖のあるこずえらしい発言だが周りを動揺をさせた。

 性的な事に関しての興味は大なり小なりある。

 そしてちなみと唯が積極的に美鈴へ問いかけるが。

 

「そんなの教える訳ないでしょ!!」

 

 ケチと言われようとも回答拒否だ。

 次はこずえの矛先が向けられるが。

 

「あ、あたしはその……て、手を繋ぐまで……です」

 

 頭の中でエッチな妄想を繰り広げても、現実では手を繋ぐことが精一杯である。

 こずえが追求をかわすために綾のほうへ水を向けた。

 

「と、東城さんはどうなんですか?」

「わ、私は……い、一緒に歩くだけで満足だから」

 

 気恥ずかしさで俯き加減になってしまう。

 お付き合いをしていないのは、つかさとさつきの二人。

 さつきの場合は天地が告白しているので可能性がある。

 その辺りをつかさから問われていくと。

 

「強くなったら考えてもいい。それはそうと、あたしは決められたレールに乗るのは、どうにも性に合わなくてね」

「レール?」

 

 つかさが続きを促す。

 何か考えがあるなら聞いてみたい。

 今後の自分が進む道の参考になるかもしれないから。

 

「あたしは空手に通っていたけど、中学の卒業に合わせてやめた。別に空手がイヤになった訳じゃないよ。単純に他にやりたい事を探したくなった。この部活で少しはやりたい事が見つかればいいがね」

「さつきって行動力あるね。あたしは人に幸せを運ぶお菓子の魔法使いなんて甘い夢を考えているよ。甘いお菓子だけに」

「……そこ、笑ったほうがいい?」

「スルーして。天地レストランのバイトでお菓子作りを見れたから、少しは現実を知れたかもしれない」

「夢は叶いそうかい?」

「まだ何とも言えないよ。でも、この映画作りも含めて色々やってみたい。きっといい思い出になって、今後のあたしを強くしてくれる気がするから」

「頑張りな。応援しているよ」

「お互いに、ね」

 

 こうして女子の入浴が終わった頃。

 男湯のほうでも温泉タイムが満喫されている。

 裸の付き合いとして正太郎は力也へ言う。

 

「コミさんの髪を洗わせてほしいッス!!」

「おういいぜ。ついでに背中も流してくれよ」

「了解ッス!!」

 

 いつになく正太郎に気合いが入っている。

 力也のトゲトゲ頭の謎を解明するためだ。

 物理法則を無視した逆立ちのトゲトゲ。

 誰からもツッコミが入らない摩訶不思議な髪型。

 洗えばトゲトゲはどうなるのかを検証する。

 

 ーーありのまま起こったことだ。オレはコミさんの頭を洗ったのに、なぜかトゲトゲ頭が復活する。何故だ? 何故元に戻る?

 

 ゴシゴシとシャンプーで洗ってもトゲトゲ。

 綺麗に洗い流してもトゲトゲ。

 別に金属みたいな硬さではない。

 それなのに平らとならないのである。

 

「コミさんの髪、生まれつきッスよね?」

「おうよ。こんな髪だぜ」

 

 本人は坊主になる気はないので、散髪をしない限りはトゲトゲ頭を維持するだろう。

 本当に切れるのかも怪しくなってきた。

 

「ヒロシさん、明日からの撮影で、色々勉強させてもらいますんでよろしくお願いします」

「ははっ、僕で良ければいくらでも学んでいくといいよ」

 

 温泉に浸かって談笑をする内場とヒロシ。

 カメラマン担当として見習う所は出て来るだろう。

 その近くにはマイペースに疲れを癒す淳平がいた。

 

「真中先輩、明日からの撮影頑張って下さい」

「あ、うん。頑張るよ」

「真中、明日は本当に頑張らないとね。内場くん、美鈴をなだめてくれて感謝しているよ」

「美鈴がああなるのは期待の裏返しですよ。どうでもええと思ってたら無関心になって切り捨ててますから」

「その通りだよ。さすが美鈴が選んだパートナーだね」

「ヒロシさんなら、もう少し上手く立ち回って真中先輩を導けるのでは?」

「それは買い被りだよ。僕より正太郎くんのほうが上手くやると思わないかい?」

「僕ら映制で対決する立場なんで、真中先輩の手助けはしませんよ。今みたいに個人的な応援はしますけど」

 

 そんなやり取りをしている最中。

 正太郎と力也の声が響いた。

 

「いくぜ東城弟!!」

「いいッスよ!!」

 

 力也が人並み外れた腕力で正太郎を持ち上げる。

 浸かってる淳平たちに向けて、大砲のごとく投げ飛ばした。

 軌道を描くようにして派手に落ちる。

 激しいお湯の飛び散りが淳平の顔面にヒットしての涙目。

 内場はメガネ、ヒロシは前髪。

 どちらもガードをしてポーカーフェイスを維持した。

 

「な、なにするんだよ小宮山!! 危ないだろ!!」

「俺のコントロールを疑うなよ真中。ちゃんと当たらないようにしただろ?」

「そういう問題じゃね!! つーか東城弟も何でそんなノリノリで応じてるんだよ!!」

「一度やってみたかった。実現できなかった幼き夢が今ここで叶って満足ッス」

「どんな夢だよ!!」

「今みたいに思い切りぶん投げられ、水に向かってドボーンすることっす。水はお湯でも可」

「東城が楽しそうで何よりや」

「そうだね。正太郎くんの夢が叶ったことをお祝いするよ。おめでとう」

「二人とも和みすぎだって!!」

 

 力也も温泉に入って男たちで雑談をする。

 ここで正太郎は前々から気になっていたことを話した。

 

「ヒロシ兄さんが前髪で目を隠している理由、それはすなわち目からビームが出るのを防ぐためッスか?」

「出ないよ」

「額にある第三の目を隠すためッスか?」

「そんな目はないよ」

「冗談ッスよ。ちょっと答え言ってみるんで、耳を貸してもらっていいッスか?」

「別に構わないけど、わざわざ小声で言うことかい?」

「そういう気分なんッスよ」

 

 正太郎はヒロシの耳元で答えを口にする。

 離れて様子を見ると。

 

「ふむ……なら確かめてみるかい?」

「いいの?」

「別に隠すようなことでもないからね」

「僕らはどないやろう? 後ろでも向いたほうがええんやろうか?」

「別に気を遣わなくてもいいよ。見られて困るものではないからね」

 

 ヒロシは前髪をどかして皆に見せる。

 しばらくしてから戻して感想を尋ねてみた。

 

「ヒロシさんと美鈴が似とる点があることがよくわかりました」

「あのキツイ感じがそっくりだ。そっか。それで前髪で隠してるのか」

「俺ほどじゃねえけど、いい面構えしてたぜ外村」

 

 内場・淳平・力也のコメントである。

 そして残った正太郎からの発言は――。

 

「正直羨ましいッスよ。オレとねーちゃんは見た目の共通点が皆無なんで」

 

 綾と正太郎は似ていない姉弟。

 もしかして血が繋がっていないのではないか?

 そんな風に言われたことも過去にはあった。

 ヒロシと美鈴のように、何か一つでも外見的に似ていたら。

 そのような言葉を聞くこともなかっただろう。

 

 ――本当に血が繋がってなくても構わん。オレにとってねーちゃんはねーちゃんだ。

 

 血の繋がりの有無は些細なことである。

 小説で姉を超えるという野望には何の支障もない。

 もし仮に親から実の子でないと言われたとしても、だから何だという話だ。

 

「あのさ東城弟、オレは知ってるからな。東城と東城弟は確かに姉弟だってことを」

「お気遣いどうもッスカントク。話は変わるけど、コミさんの彼女の妄想使いで、どんな妄想しているのか気になることがあるッス。参考になりそうな気が――」

「アカンで東城。それ知ったらダメなヤツや。そうですよね真中先輩?」

「うんそうだね。そっとしてあげるのが一番だよ。オレも似たような所があるから他人事に思えないし」

「そっか。二人がそこまで言うなら触れないでおこう」

 

 こずえの妄想で正太郎が真に受けたら問題である。

 内場と淳平が止めたことで、これ以上の探求は自重だ。

 こうして入浴の時間が過ぎていく。

 

 ………………。

 …………。

 ……。

 

 正太郎は内場と相部屋である。

 風呂からあがって一緒に受験勉強をしていた。

 しばらくすると正太郎に異変が起こる。

 

 ――恋煩い? いつもより何となく早い気がする。

 

 腕時計をつけて手加減モードで抑制はしている。

 ストレスを抜けという心の警告が発動中か?

 今のところ行動に支障はないが後の反動が怖い。

 

「どないしたんや東城? なんや表情が固いで」

「恋煩いが来た」

「例のアレやな。放っておいたらヤバいんやろ。行ってきいや」

「内場は大丈夫か?」

「僕は東城みたいな極端な体質ちゃうからな。明日会う楽しみで問題ないで」

「わかった。行ってくる」 

 

 ちなみは美鈴と唯の三人で相部屋だ。

 どこにいるのかまでは把握していない。

 適当に当たってみるしかなさそうだ。

 入口の扉をノックしてみる。

 

「はーい……あれ弟くんじゃない、どうしたの?」

「え、正太郎?」

 

 開けてくれたのはつかさ。

 部屋の奥には綾。

 ちなみの部屋は別にあるようだ。

 

「ちなみに用があるんだけど部屋が分からないッス。それで虱潰しに尋ね回るを実行中ッスよ」

「ちなみちゃんなら、あっちの通路を抜けて右手沿いの扉だよ」

「どうもッス。明日の撮影、頑張って」

「うん頑張るね」

 

 その場を離れて言われた通りに進む。

 扉をノックしてから声を掛けてみた。

 

「ちなみはいるか?」

「し、しょーくん!? ちょ、ちょっと待ってて」

 

 扉越しに慌てているちなみの様子が目に浮かぶ。

 応対するのに準備が必要らしい。

 正太郎は壁に背もたれをして待つことにした。

 

「お、お待たせしょーくん」

 

 開けられた扉の先にちなみがいた。

 ツインテールの髪型に向日葵柄のワンピースを着ている。

 おしゃれを楽しんでいるのが見てとれた。

 腕を解き壁の背もたれをやめて、ちなみの目の前へ立つ。

 

「似合っている」

「ホント?」

「ちなみならオレの真偽が分かるはずだ」

「うんわかる。しょーくんがここに来た用事も含めて」

「まだ何も言ってないが?」

「例のアレだよね」

「ああ」

「美鈴」

「皆まで言わなくていいわよ。唯の所へ行ってくるからごゆっくり」

 

 美鈴が部屋を出て行った後、ちなみに導かれて部屋へ入る。

 ベッドが二つ、デスク、窓、テレビ等の家具は同じ。

 狭すぎず広すぎずで丁度いいスペースだ。

 正太郎がベッドの側に座る。

 ちなみも隣に座って肩をくっつけてきた。

 やや照れくさそうにしながらも上機嫌である。

 

「部屋で休んでいたのに急で悪いな」

「ううん、しょーくんが来てくれてうれしい」

「……参ったな」

「どうしたの?」

「甘えたい気持ちと甘えるのが恥ずかしい気持ちが混ざってる」

「ここまで来て今更だよ」

「ごもっとも。こういう時、あれこれ考えても頭の中がグチャグチャ。まともに思考できないや」

「しょーくんは考えすぎ。今したいことを素直に出せばいいんだよ」

「今したいことか……膝枕してもらったら、安心してそのまま寝ちゃうかもしれない」

「いいよ。わたし膝枕するの好きだし、しょーくんの寝顔が見られて幸せだから」

 

 ベッドの奥は足を投げ出すちなみ。

 ヒザをぽんぽんと軽く叩いて誘ってきた。

 それに甘えて仰向けで頭を乗せる。

 ジーと見られるのが恥ずかしいから目をつむった。

 頭を撫でられて夢心地に浸っていく。

 そして寝息を立てて眠りにつく正太郎であった。

 

 一方、美鈴は唯が寝泊まりをする部屋へ行く。

 さつきとこずえで三人用だ。

 事情を伝えると三人ともに理解を示して歓迎をする。

 

「美鈴、ここに泊まっていきなよ。唯と同じベッドになるけど、どうせ戻れないでしょ?」

「唯が良くても先輩方に迷惑でしょ?」

「あたしは構わないよ」

「あたしも大丈夫です」

「ほら、さつき先輩も向井先輩もこう言ってるよ。遠慮なんてしなくていいから」

 

 ここまで言われて断るのは野暮である。

 三人の言葉に甘えて一晩お世話になることにした。

 

「ねえ美鈴、そのしょーたろの発作みたいなの、明日もあるかな?」

「さあー、ストレスが原因だからね。慣れない環境の今なら発生するかもしれないわ」

「しょーたろとちなみで一緒の部屋にしちゃえばいいのに」

「ダメに決まってるでしょ。年頃の男女を一緒になんて」

「えー、でも付き合ってるならいいじゃん」

「風紀の問題よ。集団生活で規律を乱すことなんてしてはいけないの」

 

 美鈴なら風紀委員をやっても似合うかもしれない。

 唯がそのようなことを考えながら揚げ足を取ろうとする。

 

「年頃の男子が年頃の女子の部屋に行くのはOKなの?」

「アイツの件は治療の一環だから例外よ。それともアイツに我慢させて、後で暴走させるほうがいい?」

「さつき先輩なら空手でしょーたろを抑え込めそうだよ。必殺の一撃で気絶みたいな?」

「気絶させてどうするの!? 彼の漫画に影響されてない!?」

「あたしの空手で仕留めろか。骨の数本ぐらいで済めばいいがな」

「さつき先輩!! 唯の戯言ですから本気にしないでください!!」

「フッ、冗談だ。恋の病にあたしの空手なんて使えないさ」

「恋の病……素敵な言葉です」

「そういえば向井はあのトゲトゲと付き合っていたな。恋ってそんなにいいものか?」

「はい。それはもう。幸せのときめきをくれる素敵な贈り物です」

「いいなー。唯もそういう恋してみたーい。ねーねー、さつき先輩は天地さんに告白されてるんでしょ? 何で付き合わないの?」

「弱い男に興味がないからだ。あたしより強くなったら考えるさ」

「わー天地さん、すっごく頑張らないとね」

 

 色恋沙汰の花を咲かせて盛り上がる。

 健全な女子として心が刺激されて楽しめるのだろう。

 美鈴が部屋へ戻るのは翌朝になってからであった。

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