青春100%   作:完結の陽炎

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第3話「転校生である端本ちなみの演技スキル」

 正太郎たちのクラスに転校生が現れる。

 まるで唯と入れ替わるかのようなタイミングだ。

 フルネームは端本ちなみ。

 八重歯と内巻きのボブカットが特徴である。

 座席は空いてしまった美鈴の後ろだ。

 

「はしもと、ちなみ。どっちでよんだらいい?」

 

 最低限知っておきたいことを問う。

 どこか淡々としているのが美鈴らしい。

 唯がいなくなってから少し機嫌が悪かった。

 

「ど、どちらでも……」

「わかった。とりあえずみょうじでよぶから」

「そとむら、そないにツンツンせんでも――」

「してない。あたしはそとむら」

「そ、そうか? あ、ボクはうちばや。よろしくな、はしもと」

「あ、うん……よろしく」

「ほらアンタも。なまえぐらいはいいなさい」

「とうじょう。こっちもサンボウとおなじ、みょうじでいいぜ」

 

 席が近いので声を掛けたに過ぎない。

 他の生徒からの質問攻めで困っていたら助けておく。

 まだ初日もあって、転校生の性格が掴めない。

 明るく振る舞うのか? おとなしくするのか?

 今のところは後者で様子見をしているようだ。

 

 まずは自分たちを知ってもらったほうがいい。

 それで合わなければ他を当たってもらえばいい。

 漫画を読むかと問われたら、少しは読むと答えた。

 よって内場の描いた漫画を見せることにする。

 

「す、すごい!! うちばくんの絵、おもしろい!!」

「そ、そういわれるとテレてまうわ」

「ちょーしにのらない。まだまだレベルがたりないわ」

「キツイな。とうじょうみたいなこといいよって」

「まだやさしいほうだぜ。てかげんナシのサンボウはマジでヤバいぞ」

「……さんぼう?」

「かしこいヤツといういみだ。せいせきトップのじつりょくしゃ」

「ほへえー、そとむらさんってすっごいんだ」

 

 割と打ち解けるのが早い。

 転校前に何かあったのかは知らない。

 気にならないといえば嘘になるだろう。

 だがそんなことよりも今を大切にする。

 

「ほらアンタ、マンガなおして」

「いつもどおりか、わるいトコロは?」

「ぜんぶメモにまとめた」

「わかった。うちばのマンガレベル、あがってきたからジカンかかるぞ」

「アンタだってそうでしょ。きたいしてるから」

「まかせろ。ねーちゃんをこえるなら、これぐらいできないとな」

 

 このやり取りにちなみが不思議そうにする。

 自然と正太郎の二次創作へ興味が生じた。

 

「なに、アイツのしょうせつをみたいの?」

「ダメ?」

「よめるの? モジだらけのせかいを」

「せやな。とうじょうのしょうせつ、よめるのはそとむらだけやで」

「とうじょうくん、よんでみたい」

「こういってるけどアンタ、どうなの?」

「べつにいいけど、サンボウにわたしてるから、そっちでかりてくれ」

 

 美鈴から小説ノートを受け取るが、開いた瞬間に眩暈を覚えた。

 正太郎が本気で書いた文字の羅列。

 それが容赦なく視覚に襲い掛かって拒否反応を起こす。

 僅か数秒の出来事でノートは閉じられた。

 

「はしもともいっしょやな。そのハンノーはよぉわかるで。ホンマにクラクラしよるしな」

「わるかったな。字がきたなくて」

「いやいや、字そのものはええねん」

「じゃあなんだよ?」

「リョウがキツイんや。あとむずかしいタンゴもおおいで」

「サンボウ、もうすこしよみやすいヤツあるだろ?」

「イヤよ。アンタのホンキ、うけとめられないヒトによませる気はない」

「あいてがわるかったとおもってあきらめろ、ってコトか?」

「そういうコトよ」

 

 ちなみが悔しさに打ち震えた。

 そんな顔もするのか?

 美鈴は少しばかり感心をすると同時に優越感も味わった。

 

「ちなみは……ううん、あたしガンバる!! こんなコトであきらめない!!」

「はしもとにはムリよ。ゼッタイにムリだからあきらめなさい」

「ムリじゃない!! よめるようになる!!」

「オレのしょうせつはノロイのアイテムかよ。それよりさ、はしもとはスキルないのか?」

「す、スキルって?」

「とくいなコトだよ。しゅみやとくぎはないのか?」

「えっと……へんしん? モノマネ? えんぎ?」

「へぇー、おもしろいスキルだ。ちょっとためしてみようぜ」

「アンタ、なにするつもりよ?」

 

 内場の漫画を開いてペラペラとページをめくる。

 そこから使えそうなシーンを確認をした。

 

「アクションのシーンは?」

「い、いたいのはイヤ」

「こっちだってイタイのはイヤだぜ……あ、これならたぶんいける」

 

 内場と美鈴も該当するシーンをチェック。

 剣術は危ないので、素手で飛び道具を放つ技のマネをする。

 回避、受け、流しがあって動きが些か激しい。

 

「どうよ。コレのマネできるか?」

「えっと……とうじょうくんがコウゲキするほう?」

「そうだ。で、そっちがうごきまわってハンゲキするほうだ」

「アンタ、やられるフリなんてできるの?」

「ヒザからくずれおちダウンならいけるだろ?」

「なーなーとうじょう、ふっとびのシーンは?」

「やるワケないだろ。ケガするだろうが」

「それで、いまからやるつもり?」

「いや、ほうかごにしよーぜ。さすがにめだつからな」

 

 放課後になって最寄りの小さな公園へ向かう。

 立会人は内場と美鈴。

 対峙するのは正太郎とちなみ。

 早速、演技を始めようとするが。

 

「セリフわすれた。うちば、マンガもういっかいみせて」

「おいおい、しっかりしいや」

「あ、これか……はしもとはセリフおぼえてるか?」

「うん、だいじょうぶ」

「……よしおぼえた。またせたな。いくぜ」

 

 漫画を内場に返しての仕切り直し。

 急にちなみの表情が険しくなった。

 そのノリにつられて正太郎も目を鋭くさせる。

 アクションシーンの幕開けだ。

 最初は正太郎から切り出す。

 

「きさま、おごるなよ。このおれさまに、かてるとおもってるのか?」

「ごたくはいい。さっさとかかってこい」

 

 ちなみはドスのきいた口調から武術の構えをみせる。

 内場が見比べてみると、マンガに描かれている構えと同じだ。

 表情も似せて雰囲気が盛り上がる。

 これには美鈴も驚いてしまう。

 ちなみの演技力が思った以上に高いからだ。

 

「くらえ!!」

 

 正太郎が手を突き出してから振り回す。

 飛び道具が放たれるシーンに見立てた。

 ちなみが俊敏に受け、流し、避けの動作をしてから前へ進む。

 手を振り続ける正太郎。

 その懐に入り込んでの掌打という寸止め。

 ここだけはちなみの戸惑いがあり、少しばかり動きが鈍かった。

 

「ぐふ……」

 

 正太郎は膝を崩してうつぶせに倒れる。

 ここで演技のシーンは終了。

 小学生のごっこ遊びにしては上等である。

 

「ええなええな!! エンギっておもろいやん!!」

「さいご、ちょっとおそかったけどね。まあ、わるくないんじゃない」

「と、とうじょうくん。だいじょうぶ?」

「ちょっとヒザすりむいたけどヘーキ。それより、そのスキルいいじゃん」

「そ、そう……?」

「キャラになりきるスキル。しょうせつでやくだつし」

「アンタ、わりとなりきってたね」

「つられたぜ。はしもとのせかいへ、ズルズルとひきずりこまれた」

 

 まだ時間があるので別の演技も試す。

 今度は内場とちなみでやってもらうことにした。

 

「ボクはエンギしたことないんやけど?」

「コレならいけるだろ。セイトのやく」

「じゃあ、ちなみがセンセイのやくだね」

「そうそう。うちばはセリフなし。すわってきくだけだぜ」

「イスないんやけど? あとつくえも?」

「あー、くうきイスとか?」

「アホ!! メッチャしんどいやんけ!!」

「せんせいのセリフがながいわね。アンタ、きおくりょくをみるつもり?」

「うん。ながいセリフをおぼえられるかをみてみたい」

「じゃあ、うちばにたいいくすわりでもさせたら?」

「そのアレンジでいくか。セリフじゅうしだぜ」

 

 内場の描いたファンタジー漫画。

 それに出てくる教師で魔法の講義をするシーンだ。

 属性から始まり、相性や弱点などの説明もある。

 割と長いセリフだ。

 先生役は指示棒が握られているので長めの定規で代用をした。

 体育座りの内場に向かい合って立つちなみ。

 定規を片手に黒板があるように見立てての説明口調。

 表情は時に厳しく、時に優しく。

 ちゃんと使い分けができている。

 たまに左右や前後に移動するところも抜かりがない。

 後ろ手に組んだり、定規でトントンと差す仕草も合っている。

 

「ちょっとぎこちないわね。こくばんつかうところ」

「じつぶつないからな。がっこうだったらよかったかも」

「でもセリフはあってる」

「それをおぼえてるサンボウもすげぇよ」

 

 美鈴と正太郎のやり取りをよそに演技は続く。

 やりきった後に内場は大いにはしゃいだ。

 まるで本物の先生みたいだったと。

 多少の違和感はあっても、台詞の間違いはなかった。

 演技の記憶力は突出しているのかもしれない。

 

「なーなー、つぎはそとむらが――」

「イヤよ。みるのはいいけど、やるのはキョーミないの」

「うちば、サンボウはやらないって。だってサンボウはサンボウだし」

「なによそれ、バカにしてるのアンタ?」

「バカならサンボウなんてあだ名をつけないぞ」

 

 美鈴は演技をしない。

 素の自分を出して正直に生きている。

 正太郎たちがいるから自分を偽る必要がない。

 

「はしもと、モノマネもできるか?」

「た、たぶん」

「サンボウのモノマネさせたら、ゼッタイにサンボウおこるよな?」

「わかってるならやめて。たたくよ」

「はいはい」

「へんじはいっかい!!」

「はーい」

 

 ちなみは二人のやり取りから感じ取った。

 純粋に羨ましい。

 演じる必要がない人と仲良くしていることが。

 

「どんなスキルも、つかいすぎるとヘトヘトになるぜ」

「せやな。たまにグッスリとやすまんとアカンわな」

「そうだろ? はしもとのスキル、つかいすぎはヤバいとおもう」

「ま、まさかイノチがけずれてしまうってオチか――いたっ!!」

「うちば、えんぎでもないこといわない。アンタもいいかたかんがえて」

 

 美鈴に叩かれて涙目の内場。

 注意された正太郎はここぞと言う。

 

「やるときはとことんやる。でもカイフクはだいじだぜ」

「カイフクね。クッキーでもつくるつもり?」

「ニンジャはとおくにいっちまったし。つーさんだよりだな」

「アンタがつくれば?」

「サンボウがつくれば?」

「マネしないで。おこらせたいの?」

「おいおい、はしもとのえんぎほどじゃないだろ?」

「どっちでもムカつくのよ」

 

 二人の会話中は内場は割り込んで来ない。

 入り込む隙がないから。

 それはちなみも同じであった。

 

「とにかく、はしもとはゼッタイにムリすんなよ。つかれたトキは、つーさんのおやつでカイフクさせてやる」

「つーさんって?」

「そのうちおしえてやるよ。とりあえずムリはすんな」

「う、うんわかった」

「やけにシンパイするじゃない。はしもとのこと」

 

 美鈴にとっては少し面白くない。

 自分はそんな風に優しくされることがないから。

 正太郎は思ったことを素直に話す。

 

「スキルレベルのたかさをしったからな。そういうのってショウヒもはげしいんだ」

「マンガのみすぎよ。でもアンタがそこまでいうぐらい、ウマイことはみとめる」

 

 ここでちなみは一体なにを思ったのか。

 突然、三人に言ったのだ。

 悲劇のヒロインを演じたいと。

 周りに泣かせてる誤解を招くので却下をする美鈴。

 演技だとわかるのであればOKとする正太郎。

 意見が真っ二つに分かれた。

 

「アンタね、エンギかどうかなんてわからないでしょ?」

「カントクがいればいけるんじゃね? エイガつくるのがユメだっていってたし」

「バカね。それにはキザイがいるのよ。わかってるの?」

「がっこうのセンセイにエンギやらせて、というのはダメか?」

「ダメね。キョカがでるとはおもえない」

「なんで?」

「おとなってメンドウなことはイヤがるから。セキニンなんてとりたくないの」

「マジかよ。やる気あってもダメなのか?」

「ふんっ、こどものやることだからって、みくだしてるのよ」

「サンボウってものしりだな。おとなのじじょーまでしってるなんて」

「アンタがしらないだけよ。ま、しらないほうがしあわせね」

 

 ふとちなみから家の中を提案。

 ちなみの親は夜遅くまで帰らないらしい。

 周りの目が気にならない環境なら演技をしても問題はない。

 ここまでちなみがやりたがっているのだ。

 何か理由があるのかもしれない。

 

「はしもと、いえまでアンナイよろしく」

「うん」

「サンボウ、うちばもいくぞ。まだジカンあるだろ?」

「しかたないわね」

「ええよ。ほないこうや」

 

 ちなみの住む場所は、かつて唯が住んでいた所。

 家は新しく建て直されている。

 三人とも複雑な気持ちになったが何も言わなかった。

 ちなみの部屋にはぬいぐるみや人形に囲まれている。

 転校してしまった唯と趣味が合いそうだ。

 演じたい悲劇のヒロインとは何か?

 どういうキャラなのか?

 詳細を探るも答えない。まずは見てほしいと。

 だからやってもらうことにした。

 

 親の前でいい子を演じ続ける。

 手のかからない子ども。

 親の邪魔をしない子ども。

 本当は甘えたいのに遠慮する子ども。

 

「くっ……」

 

 正太郎は食卓で親との会話が苦痛だった頃を思い出す。

 無理をしていい子を演じようとした。

 姉のおかげで今はムリに会話をしなくて済んでいる。

 他人事に思えず感情移入をした。

 

「っ……」

 

 内場が苦々しい表情を浮かべる。

 父親が遊園地に連れて行くと約束をしてくれたのに。

 仕事の都合でダメになった頃を思い出す。

 大人は嘘つきだという心のシコリが残ってしまった。

 

「……」

 

 冷ややかな目で無表情な美鈴。

 ふつふつと怒りの炎を溜めているようだ。

 一体なにを考えているのか分からない。

 

 涙が演技とは思えない。

 ちなみが放つ心のSOSを感じさせる。

 あるいは素の自分を探し求めているのかもしれない。

 だからこんなセリフが出たのだろう。

 

「ちなみはちなみ、あたしはあたし」

 

 一人称でスイッチの切り替え。

 ちなみは演ずる自分、あたしは素の自分。

 そういう風に分けていこうとしているのか?

 もし制御できなければ二重人格に陥るかもしれない。

 原因は親の愛情不足だろう。

 仕事ばかりで放置されていること。

 ご飯も買ったものばかりで独りぼっち。

 お父さんは海外出張、お母さんは夜まで仕事。

 ハンカチで涙をぬぐいとって一呼吸。

 丁寧にお辞儀をして締めとした。

 重々しい空気の中で美鈴が切り出す。

 

「これってさ、ストレスのはけぐちにされたっておもっていい?」

「そとむら、そんなキツイいいかた――」

「なんでそれをやりたくなったの? フツーじゃないってコトぐらいわかるよね?」

「う、うん……」

「はしもと、なんでこっちをみる?」

 

 ちなみが助けを求めるような目をしている。

 それがより一層に美鈴の癪に障った。

 

「へえー、コイツならうけとめてくれると? わたしとうちばはオマケなワケ?」

「お、おちつきそとむら、ケンカはアカンって――」

「うるさい!! こんなあつかいされて、アタマにこないほうが――」

「サンボウ」

「なによ!! アンタもそいつのみかた――」

「オレたちぜんいんにみてほしかった。ちがうなら、ひとりだけよべばいいだろ」

「アンタだけだったらふしぜんよ!! それと、こないかもしれないとおもったんでしょ!!」

 

 美鈴の言い分は的を得ている。

 正太郎もそれはそうかもしれないと思う。

 怒っているのに冷静な指摘が恐ろしい。

 

「はしもと、さっきこっちみたけどさ。サンボウがブチギレてこわいからたすけて、とおもったか?」

「……」

「ずぼしか。そりゃサンボウおこるぞ。フツーじゃないけど、ぜんいんにしってほしかった。うけとめてほしかった。それをつたえてから、やったほうがよかったんじゃないか?」

「ご、ごめんなさい」

「サンボウは、すげぇアタマいいんだ。ちゃんとせつめいすればわかるんだよ」

「せやせや。ボクらのなかで、そとむらはイチバンかしこいんやで」

「でも、サンボウのことしらないのはしかたない。ニンジャみたいにつきあいがながくないし」

「そとむらがおこるとビビるよな。たすけてほしくなるのはムリないで」

「なにようちば、あたしのせいだっていいたいワケ?」

「そ、そういうつもりは……」

 

 内場がタジタジになって二の句が継げない。

 そんな様子に美鈴はため息をついた。

 

「もういいわ。わるいトコロはなおせばいい。コイツがいままでしてきたみたいに」

「えぇー、サンボウがたすけてやれよ。アタマいいんだからさ」

「なにふざけたコトいってんのよ。アンタがたよられてるんだから、アンタがやりなさい」

「いやまて。ここはダイサンのセンタクをしよう。たのんだぞうちば」

「なんでやねん!?」

「というよりさ、ぜんいんでやればいいんじゃね? そのほうがカクジツじゃん」

「だったらはじめっからそういえばいいでしょ」

 

 東城家、外村家、内場家。

 それぞれの親にちなみの家庭事情を話す。

 友達が悲しんでいるから助けてやりたいと。

 それから親同士での話し合いが入った。

 ちなみの母の多忙は避けられないらしい。

 経済的な理由もあるのだろう。

 迎えに来るまで、三家が交代で食事を出したり遊んだりすればいい。

 ちなみの母は申し訳ない気持ちだったが全面的に呑んだ。

 せめて休日は家族の時間を持つと約束をした。

 

 ………………。

 …………。

 ……。

 

 ちなみは触れ合いに飢えている。

 手を繋ぐ、頭を撫でる、髪を優しく流す、背中を撫でる、抱きつく等。

 今まで我慢していたことがある。

 ちゃんと説明をすればわかってくれる。

 正太郎に言われているので美鈴がターゲットとなった。

 

「……いつまでよ?」

「もうすこし……」

「さっきとおなじコトいってたじゃない」

「ダメ?」

「……あと1分だけよ」

「ありがとう、そとむらさん」

 

 美鈴の後ろから抱きついている。

 うっとおしいと感じても抵抗はしない。

 それが嬉しくてたまらない様子だ。

 なお、今は教室の休み時間中である。

 

「はしもと、あのふたりにはやっちゃダメよ」

「なんで?」

「オトコだからよ」

「おとこだとダメ?」

「あたりまえよ。オトコはスケベのヘンタイなの。あぶないならやめなさい」

「あぶない? なにがあぶないの?」

「ああもう……うちば、なにジロジロみてんの?」

「べ、べつに。ナカヨシやなぁーと」

「ったく、ミセモノじゃないのよ。で、アンタはなにしてんの?」

 

 正太郎はメモを書いている最中だ。

 その内容は演技に関することである。

 一人称の使い分けで心のスイッチが安全に入るか?

 ちゃんと性格を制御できるのか?

 二重人格になって記憶が飛んでしまわないか?

 内場のマンガでは、記憶喪失で描かれた物語がある。

 その辺りも含めて懸念事項を書き殴っていった。

 

「きょう、ゴハンいっしょにしてあそぶ日だからな」

「なによ。はしもとに、へんなことさせるつもりじゃないでしょうね?」

「はしもとがさ、エンギするのがたのしかったって」

「うん。とうじょうくん、ノリノリでたのしかった」

「のせたヤツがそれいうか? ま、そうさくにつかえそうだからな」

「かいたらみせてくれる?」

「それはサンボウにいってくれ」

「な、なんで?」

「ぎゃくにしつもんするけど、うちばのマンガはどうよ? たのしめるだろ?」

「う、うん。よめばよむほどおもしろい」

「よかったなうちば。これでファンがふえたぞ」

「そ、そうか。いやーそういわれるとテレてまうわ」

 

 時間になったので離すように注意をする美鈴。

 ちなみは名残惜しそうに離れた。

 そして正太郎に視線を向けて話しかける。

 

「あたし、とうじょうくんのしょうせつ、よめるようになりたい」

「えっと……たしかなまえがえんぎモードで、いまはえんぎじゃないほうか?」

「あ、ちなみのほうがいいの? そっちがいいなら――」

「いまは素にしとけ。やりすぎるともどれなくなるぞ、たぶん」

「シンパイしてくれるんだ。やさしーねとうじょうくんって」

「だから素にもどっておけよ。バレバレだぞ」

「……す、すごい。とうじょうくん、わかっちゃうんだ」

「アンタ、なにげにスゴイことしてるってじかくある?」

「ないぜ」

「なーとうじょう、なんでわかるんや?」

「なれてるから。ねーちゃんとかで」

 

 姉もよそ行きの演技をしている。

 他人の前と家族の前では態度が全然違うから。

 小説はネタ探しが重要だから、自然と観察力が身に付く。

 それもあってか、ちなみの演技も見抜けてしまう。

 

 学校が終わり、正太郎がちなみを自宅まで連れていく。

 殺風景な部屋に姉から借りたクッションを渡した。

 それで適当にくつろいでもらってから向き合う。

 

「わかりやすくするため、ふたつのあだ名をつけようかとおもってる」

「と、とうじょうくんがつけてくれるの?」

「ほかにだれがいるんだよ? えんぎモードと素のモード、どっちもあだ名にハンタイなしか?」

「うん。ちなみとあたしで、くべつする?」

「つかいこなせたらベンリだとおもう。こころもつよくなってパワーアップするぜ」

「わかった」

「モンダイはどんなあだ名にするか。それぞれのアタマでわけるか」

「ちーちゃん、あーちゃん」

 

 正太郎は黙り込んでしまう。

 わかりやすいといえばわかりやすい。

 しかし友達をちゃん付けで呼ぶのは抵抗を覚えた。

 家族の両親と姉は例外である。

 

「マジでそれがいいの?」

「ダメ?」

「はしもと1ごう、2ごう――」

「やだ」

「そりゃそうだ。いまのはちー……ちゃんか」

「せいかぁーい。きゃは。とうじょうくんってばカワイイ」

「あー……ちゃん、もどってこい」

「う、うん……えへへ」

「たのしそうだな」

「うん。だって……こんなことできるの……とうじょうくんだけ、だから」

 

 正太郎は思考を巡らせる。

 適度に相手するぐらいで丁度よさそうだ。

 このまま主導権を握られるのは些か面白くない。

 

「サンボウはどうするよ? あーとちーのちゃん付けあだ名」

「そ、そとむらさんはいいよ。はしもとのままで」

「いいのか? くべつするの、オレだけになるぞ」

「うん。とうじょうくんだけでいい」

「わかった。スイッチのコントロールはしとけよ」

「えっと……よ、よんでくれたらだいじょうぶ」

「……ちー、ちゃん」

「あ、はーい」

「あー、ちゃん」

「は、はい」

 

 やり取りの中、お互いの性格がわかってくる。

 ちーが活発的でおちゃらける傾向がある。

 あーは消極的で言葉を詰まらせやすい。

 呼ぶのが少し恥ずかしくても慣れるしかないだろう。

 この場は開き直ることにして気持ちを切り替える。

 

「エンギはちーちゃんでいいのか?」

「そうだよー。ちなみのほうがむいてるもん」

「がっこうではどうする? あーちゃんがでるのか?」

「う、うん。あたしがでないとダメかなって……」

 

 正太郎は忘れないようにメモをしておく。

 それぞれの特徴も書き込んで記録する。

 

「ふだんは、あーちゃん。エンギするときだけ、ちーちゃんか」

「……」

「これさ、ちーちゃんはほとんどでてこれないんじゃね?」

「えぇー? そうなのぉ?」

「そうだよ。かたほうだけですませてしまいそうじゃん」

「そんなことないよぉ。ちなみがいないとダメなんだから」

「バランスのもんだいだぜ。あきらかにかたよってる」

「それじゃあとうじょうくん、おしえてよぉ。どうしたらいいとおもう?」

「いえとがっこう、あさとよる。スイッチのきりかえとして、わかりやすくないか?」

「さっすがとうじょうくん、あったまいいね」

「どっちでも、きおくはぜんぶおぼえてるよな? わすれたりしないよな?」

「うん、だいじょうぶだよぉ」

 

 どのようにして交互に出していくのか?

 真面目に細かく分析して話す。

 その優しさに包まれて、ちなみは心地よく感じてしまう。

 

「よるはグッスリとねてしまう。ばしょできりかえるほうがバランスいいだろう」

「う、うんそうだね」

「がっこうはどっちがでる?」

「と、とうじょうくんは、どっちがいいと、お、おもう?」

「がっこうはゲンキなちーちゃん、いえはリラックスのあーちゃん」

「う、うん……あたし、それがいい」

「いえのなかで、エンギをたのめなくなるけどな」

「そ、そんなこと……とうじょうくんがひつようなら、よんでくれればできるよ」

「それって、こっちがよんだら、いつでもスイッチきりかえるってこと?」

「う、うん。とうじょうくんだけ、とくべつ……」

「そっか。どっちもケンカせずナカヨクやれよ。つぶしあいなんてマジやめろよ」

「し、しないよそんなこと。そもそもできないから」

「あとさ、サンボウとうちばにせつめいしたほうがいいぞ。ビックリするから」

「わ、わかった」

 

 こうして使い分けの話し合いを済ませて夕食タイム。

 おとなしいあーちゃんに綾が優しく声掛けをする。

 両親は邪魔にならないように静かに見守るだけ。

 正太郎の件で二度と同じ失敗はしない。

 

「しょうたろう」

「なんだ、ねーちゃん?」

「ちなみちゃん。かよわいんだから、やさしくね」

「……よわくないよ」

「しょうたろう、きいてる?」

「はーいきいてるよ」

 

 あーちゃんが羨ましそうに見つめる。

 一人っ子だからこその憧れだろうか?

 もし兄弟姉妹がいたら、もう少し違っていたかもしれない。

 夕食後、再びあーちゃんと一緒に部屋へ戻る。

 

「す、すてきなおねえさん、だね」

「うるさくなったよ。むかしはあーちゃんみたいだったのに」

「そ、そうなんだ……あの……」

「なんだ?」

「あ、あたしも……とうじょうくんを、あ、あだ名で……」

「ことわる。とーちゃんになってしまうだろうが」

「ち、ちがうよ!! したのなまえのあだ名!!」

「しょうたろうで、どうやってあだ名をつけるつもりだよ?」

「えっと……し」

「し?」

「……しょーちゃん」

「おいまて!! オトコにちゃん付けなんてはずかしいぞ!!」

「そ、そうだね。じゃあ……しょーくん?」

「まあそれなら――って、なんであだ名でよびたくなったんだよ?」

「ダメ?」

「べつにいいよ。さきにあだ名をつけたのはオレだし」

 

 あだ名をつけてやり返されても筋は通る。

 くん付けの配慮もあるから反対する理由がない。

 

「よんでもいい?」

「いいぜ」

「ありがとう。よろしくねしょーくん」

「ちーちゃんはハンタイしないのか?」

「するワケないじゃなーい。しょーくん、カワいくてサイコーだよぉ」

「もどってこい、あーちゃん」

「……しょーくん。も、もしかしてちーちゃんのこと、き、キライ?」

「へんしんスキルはスゴイとおもうぜ。あのサンボウもみとめるレベルだしな」

「そう……しょーくん、そとむらさんの――ううん、なんでもない」

「サンボウはサンボウだ。テキにまわすつもりならおススメしないぞ」

「て、テキって、そんなコトしないよ!!」

 

 雑談で時間を潰して保護者が迎えに来た。

 家の外でちーちゃんに性格が変わる。

 それでも母に違和感を持たれないように演技をした。

 実家に帰った瞬間にはあーちゃんの性格。

 ここでは演技の必要がなく素でリラックスをするだけ。

 

「し、しょーくんのおかげだね」

 

 性格の切り替えが以前よりも楽になった。

 ちーちゃんはあーちゃんのマネができる。

 あーちゃんはちーちゃんのマネはできない。

 だからプライベートではあーちゃんが適任である。

 こうして端本ちなみの一日は過ぎていった。

 

 ………………。

 …………。

 ……。

 

 学校内の端本ちなみは演技モードのちーちゃん。

 美鈴にスキンシップをとっての仲良しアピールだ。

 

「そとむらさんのおはだスベスベだぁ」

「ちょ、ちょっとくっつきすぎよ。はなれなさい」

「えぇーちなみ、もっとそとむらさんとなかよくしたいのぉー」

「だからってだきつかないの!! うでとかうごかしにくいでしょ!!」

 

 転校生は瞬く間に打ち解けている。

 ちなみのグループは美鈴を中心に正太郎と内場。

 男子2名と女子2名でバランスもとれている。

 

「ちょっとアンタ、なにかしたでしょ?」

「なぜそうおもう?」

「いまのはしもと、べつじんのようにかんじるのよ」

「せつめいしたほうがいい?」

「あたりまえよ。へんなことしてたら、しょーちしないんだから」

 

 東城家であった出来事をそのまま話す。

 家の中と外で性格のスイッチを切り替えさせる。

 それで偏らせることなく精神も安定する。

 区別をつけられるようにあだ名もつけた。

 そしてお返しのあだ名を付けられたことも伝えた。

 

「アンタにあだ名って……かってなコトを」

「とうじょうヤバいで。そとむら、なんやメッチャおこっとる」

 

 正太郎とちなみのあだ名付け合いが気に入らないのか。

 どうにも不機嫌になってしまう美鈴。

 正太郎は気にすることなく疑問点を口にした。

 

「みょうじでよんだら、どっちがでてくるんだろう?」

「アンタ、なにするつもりよ?」

「じっけんタイム。おーい」

「はいはーい。よんだしょーくん?」

「っ!!」

「こわっ!! そとむらからドス黒いオーラーがみえるで!!」

 

 漫画を描く内場らしい言い回しである。

 そんな負の感情に正太郎は意にも介さずに続けた。

 分からない事を早く解明したいから。

 

「しつもんがある。いまここで、みょうじをよんだら、どっちがでてくる?」

「……やっ」

「え?」

「ちーちゃんってよばなきゃイーヤ。へんじしなーい」

「はしもと」

「……」

 

 ちーちゃんとあーちゃん。

 どちらの性格からも拒否反応。

 正太郎が苗字で呼んだことへの怒りの雰囲気。

 スイッチの切り替えが不安定になり、ちなみの顔色が悪くなった。

 

「ちーちゃん」

「なーに、しょーくん」

「みょうじでよぶのはやめとく。なんかヤバいケハイがした」

「うんうん。なんかすっごぉく、きぶんわるくなったよぉ」

「ぐあいがわるくなるほどかよ!! そういうコトはちゃんといってくれ!!」

「はーい。あ、そとむらさーん」

「……なに?」

「うちばくん、すっごくおびえてるよ」

「き、きにせんでええで。ちょっとこわいユメをみとるだけや。きっとそうなんや」

 

 正太郎は禁止事項をメモしておく。

 少なくとも自分が苗字で呼ぶのはアウトだ。

 下手をすれば取り返しがつかなくなる。

 軽はずみな実験は自重しなければならない。

 

「もしサンボウがあだ名でよんだら、ぐあいわるくなるんじゃないか?」

「おことわりよ。よぶつもりはサラサラないから」

「うちばも、あだ名はやめといたほうがいいぞ。さっきのでヤバいとおもったからな」

「お、おう。はしもと、でええよな?」

「はーい、うちばくんはそれでよんでね」

「アンタ、とんでもないことしちゃったんじゃないの?」

「ぎゃくだぎゃく。あだ名でくべつしなかったら、きっとランダムでぐあいわるくなってたぞ」

「ま、いまここでグタグタいってもしかたないわね」

 

 チャイムが鳴って授業が始まる。

 休み時間のたびにちなみが美鈴にくっついて甘えた。

 まるで猫がすり寄っているかのように。

 

「はしもと」

「なーにそとむらさーん」

「アイツのこと……どうおもってるのよ?」

「う―んとね、ちなみたちをたいせつにしてくれるやさしいヒト」

「それだけ?」

「あとねあとね。エンギがすごいってほめてくれるの」

「ほかには?」

「へんしんスキルがうらやましいって。そうさくにやくだちそうだからって」

「ふーん」

「ねー、そとむらさんこそ、しょーくんをどうおもってるの?」

「……おさななじみのくされえんよ」

「いいなぁー。しょーくんとのつきあいながいんでしょ?」

「べつに」

 

 美鈴の機嫌が悪くなってきている。

 八つ当たりが怖くて内場は近寄らない。

 正太郎は次の授業を用意している最中だ。

 

「しっかりかんりしなさいよ。よけいなシンパイさせないで」

「はいはーい。そとむらさんはやさしーね。てんこうするマエは、こんなにやさしくしてもらえなかったのに」

「きいてほしいならきくけど、カコはかえられないわ」

「しってるよぉ。だからイマがいいの」

 

 美鈴の中でモヤモヤした感情。

 言いたいことはハッキリと言ってしまおう。

 その決断は早かった。

 

「しょうじきにいわせてもらうけど、あたし、アンタのことあまりスキじゃないわ」

「そっか、きらわ――」

「あ・ま・り、スキじゃないわ」

「……ちょっとはスキなのかな? かな?」

「そもそもスキキライでどうこうする気なんてない。けっかがダイジよ」

「それじゃあ、けっかをだしたら、そとむらさんともっとナカヨシになれちゃう?」

「なまえぐらいはよんであげてもいいわ」

「わかった。イマにみててよー」

 

 放課後から夜まで、ちなみは三家のお世話になる。

 東城家では正太郎との演技が楽しめる。

 外村家では美鈴との女の子同士の触れ合いで甘えられる。

 内場家では内場の漫画が読める。ただし部屋の散らかしだけは減点。

 日ごとの交代で仕事三昧の母親はかなり助けられた。

 

 ………………。

 …………。

 ……。

 

 唯の手紙を受け取っていた。

 ピアノ教室へ通って指慣らしの練習を欠かしていない。

 少しでも弾けるようになってくると楽しい。

 いつか必ず全部弾けるようになりたい。

 そんな目標を立てて奮闘しているようだ。

 

 正太郎は事前に両親へ頼み、手紙の用紙・封筒・切手を買ってもらっている。

 唯の文通で使うためという正当な理由に応えてくれた。

 お返事の手紙に現状報告が不可欠。

 内容としては転校生の端本ちなみを紹介する。

 個性的で演技スキルの持ち主だから書くことが多い。

 しかし文字だけでは唯が読みにくくなってしまう。

 そこで交換日記で培われた装飾作戦だ。

 

「かざりつけ、ペタペタ」

 

 簡単な図や落書き、折り紙の動物カットで貼り付け。

 唯の動物好きを知っているからこその工作である。

 頭の中で思い浮かぶは美鈴の名言。

 

 ――サクヒンはよむヒトのココロにどれだけヤキツケるかよ。

 

 転校で遠くに離れたからこそ心に染みる。

 絶対に忘れられないようにしてやる。

 遠距離なんかに負けてたまるか。

 そんな正太郎の闘争心が溢れるばかりである。

 

「シャシンがほしいな」

 

 端本ちなみがどんな人物かを見せるために欲しい。

 写真といえば美鈴の兄ヒロシの出番だろう。

 翌日の放課後、美鈴に事情を伝えて外村家へ向かった。

 ちょうど外村家でお世話になる日だからタイミングも良い。

 

「サンボウのにいちゃん、よろしくおねがいします」

「フフッ。いいねいいね。カワイイおんなのこのシャインがとれるなんてユメのようだよ」

「さ、サンボウ、なんかにいちゃんのようすが――」

「わすれて。あれはビョーキなの。だからわ・す・れ・て」

「わかったわかったから、ガチでせまるなよ」

 

 どんな変人であろうともカメラの腕は確かだ。

 そこは身内の贔屓なしで美鈴も認めている。

 

「あ、あのしょーくん」

「なんだ?」

「あ、あたしひとりだとちょっと……い、いっしょに――」

「はしもと、いっしょにとってあげる。それでモンクないでしょ?」

「サンボウ、わりこみはやいって。まるでニンジャみたいだぜ」

「なによアンタ。はしもとといっしょにとられたいワケ?」

「サンボウがやってくれるならまかせるぜ」

 

 今は家の中にいるため、素のあーちゃんが表に出ている。

 不安そうなあーちゃんの隣に美鈴が堂々と立った。

 学校にいるちーちゃんと異なり、物理的な距離が少し遠めである。

 おとなしいあーちゃんと強気な美鈴では、相性に問題があるのかもしれない。

 

「すばらしいツーショットだね。じつにサイコーだよ。ふふふっ」

「あ、サンボウのにいちゃん。あーちゃんのシャシンだけじゃなく、もうひとりのシャシンもほしいんだ」

「もうひとり? はて、ここにはホカにだれもいないけど?」

「おいサンボウ、いってなかったのかよ?」

「いってない。ひつようだとおもわなかったし。でも、アンタのやりたいコトはわかった」

「わかってるならてつだってくれよ」

「だったらよびだしなさいよ。アンタじゃないとできないんでしょ?」

「あーちゃん、かわってもらうけどいい?」

「うんいいよ」

「それじゃあ……おーいでてこいよ、ちーちゃん」

「はいはーい!! ちなみ、ただいまさんじょー!!」

 

 待ってましたとばかりに切り替わるちーちゃん。

 急激な態度と言動の変化。

 隣の美鈴に抱き着いて離れようとしない。

 あーちゃんの時は遠ざかっていたのに。

 

「うっとおしいから、さっさとすませてちょうだい」

「えへへ。おにいーさん、ちなみのことキレイにとってね」

「お、おおおおおおおおーーー!!」

「うっさい!! はやくとれバカにい!!」

 

 あーちゃんとちーちゃんの写真撮影に成功。

 違いも明確に出ているから分かりやすい。

 後日に写真を受け取り、お返事の手紙に添付することができた。

 そして郵便ポストに投函し、唯に端本ちなみの紹介を済ませたのである。

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