青春100%   作:完結の陽炎

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第42話「唯と勇の告白と進路探し」

 双方の部にとって山積みの宿題地獄が待っている。

 映画作りを完了させてから残りの時間を宿題に割り当てた。

 映研では勉強が苦手な淳平・力也・さつきから苦悶の声が広がる。

 綾・こずえ・天地がそれぞれサポートをして助けてくれた。

 映制では宿題の量こそ大変だったものの割とこなしていく。

 多少分からない所があっても正太郎と助手のちなみが教えて対処。

 協力をしていけば大抵のことは乗り越えられるものだ。

 

 部外者である茶髪勇者こと勇は自宅で電子ピアノの練習。

 時間外では夏休みの宿題を少しずつ片付けていった。

 携帯のメールには唯の合宿話がメインとしてある。

 正太郎から映画の撮影完了での報告もあった。

 映制の勝利を祈っててくれという簡略的なものだ。

 

 ――明日には唯が帰って来るのか。騒がしくなるんだよな。

 

 静かな時間も今日までという事だ。

 家に押しかける唯で賑やかになるのは避けられない。

 居留守をしようものなら面倒になるので却下だ。

 

 ――付き合ってる訳でもないのに。男を甘く見過ぎだ。

 

 メールで気になったのはヒロシからの唯への撮影アプローチ。

 ヒロシが作っているホームページで青春を謳歌する美少女。

 気になった勇はパソコンのネットで確認をしてみる。

 内容は健全でまともだが、唯ファンの読者から激しく更新の要望が増えている。

 それに応えようとヒロシが動いているようだ。

 

 ――あんな口うるさいチビのどこがいいんだよ。ってかヤバくないか?

 

 ファンと言ってるが本当にそうだろうか?

 ネットというのはどこに悪意が潜んでいてもおかしくはない。

 人懐っこい性格をする唯は男に対しての警戒心がなさすぎる。

 

 ――メールで注意してもあまり効果なさそうだし、ちょっと思い知らせてやるか。

 

 人の家に気安く来てメシを作りに来るほどのお人よし。

 何があってからでは遅いという勇から親切心のつもり。

 自分が男として見られていないのも地味に悔しい。

 そして合宿から帰って来て早々、唯がお土産と夕飯の食材を片手に勇の家へ押しかける。

 

「ただいまゆーくん!!」

 

 ノースリーブの純白なワンピースに麦わら帽子。

 帽子を玄関のフックにかけて入ってもらった。

 

「ここは唯の家じゃない。ただいまは無いだろ」

「ちゃんとご飯食べてないでしょ?」

「聞けよ。あ、土産はどうも」

 

 饅頭の詰め合わせは後で頂くことにする。

 イチゴ柄のエプロンを着けて夕飯のカレーライスを作ってくれる。

 カレーの匂いで食欲が刺激されて空腹に響く。

 食事が面倒だったので朝から何も食べていないから。

 

「どうせ朝から何も食べてないよね。唯にはお見通しなんだから」

「うるさい。ちょっとぐらいメシ抜きでも死なないんだよ」

「もぉー、ほんと唯がいないとゆーくんの生活はダメダメだね」

「そのどうしようもないヤツ扱いはやめろ」

 

 食卓で対面をして一緒に少し早めの夕食をとる。

 勇の食べっぷりがいいからか見てて気持ちがいい。

 大盛りでおかわりをして満足そうな勇の姿があった。

 

「東城から映画は完成したって聞いたぞ。あと宿題も」

「うんそうだよ。ゆーくんは宿題終わった?」

「少しずつやってるよ。あんな量を一気にやろうとしたら心が折れる」

「むふふっ、そこで唯の出番だよ。唯がゆーくんの宿題を教える先生になってあげる」

「いらんいらん。宿題ぐらい一人でやる」

「えーいいじゃん別に。一人でやるより絶対に楽しいよぉー。ピアノだってそうでしょ?」

「ピアノは認めるが宿題は別だ」

「同じだって。宿題も皆で一緒にやったから一気に出来たんだし。早く終わらせて一緒にピアノ弾こうよ」

 

 そこを突かれると勇も弱い。

 ピアノを一人で弾くよりも連弾をするほうが好みだ。

 相手と呼吸を合わせて一体感を得るように演奏をすること。

 その難しさをやり遂げた時の達成感と喜びは大きい。

 

 ――さっさと宿題終わらせてピアノをやりたい。

 

 その本心を優先して唯の提案を呑んだ。

 夕食後に部屋へ連れていって宿題を見てもらう。

 偉そうに教える所にムカついてもピアノのために我慢をする。

 次の日以降も同様で朝から夕方まで一緒にいる時間が長かった。

 こうして夏休みの宿題を短期間で終わらせることに成功をする。

 

「お疲れゆーくん」

「よく飽きないな。毎日わざわざメシと宿題の面倒を見るなんて」

「唯は唯のやりたいことをやっているだけだよ」

「……なあ、ホームページのインタビューで一緒にピアノを弾きたい人が出来たって誰のことだ?」

「ヒロシさんのホームページ、ゆーくんも見たんだね。そんなのゆーくんに決まってるじゃん」

「読者メッセージで、男か女かと問い合わせには秘密を貫いているんだな」

「ゆーくんのこと詳しく語ったほうが良かった?」

「やめろ冗談じゃない。というかネットはヤバいヤツもいるから気を付けろよマジで」

「心配してくれるゆーくんって優しいね」

「男に対してもっと警戒しろ。今だってホイホイ男の部屋に入って無防備だし。何かあってからでは遅いんだぞ」

「ゆーくんだから平気だもん」

「甘く見るな」

 

 薄着のワンピースで肩を露出している。

 この日は水色のシンプルなデザイン。

 ほのかに柑橘類の香りがしている。

 

 ――やっぱコイツ、こっちを男として見ていない。

 

 口で言っても分からないなら体で教えてやる。

 だが具体的にどうすればいいのか?

 とにかく触りまくって嫌がるようにしてみよう。

 それで少しは男の怖さを思い知るがいいと。

 

 ――どこ触るんだよ? 胸はぺったんこだし頭か?

 

「ゆーくん、どこ見てるの?」

「ここだ」

 

 唯の頭を手を乗せて反応を見る。

 

「グシャグシャしたら怒るよ」

「自分がされてイヤなことは人にしない」

 

 自分も頭をグシャグシャされたら怒るのでする訳がない。

 だからそっと撫でるようにするだけだ。

 

 ――これって効果ないんじゃないか?

 

 男の怖さを教えるつもりが優しさを伝えてどうするのか。

 唯の表情がリラックスして気持ち良さそうだ。

 これは違うと思って手を離す。

 

「あ、もう終わり?」

「ちょっと間違えた。唯は男がいかに危ないかを知らないんだよ」

 

 急所となる胸を触れば嫌がってくれるのか。

 そこに心臓があるから鼓動が伝わってくるかもしれない。

 胸への視線を感じた唯が両腕で隠す仕草を見せた。

 

「ゆーくんのエッチ」

「これで分かったか? たとえ唯が嫌がっても無理矢理する男の危険性を思い知りやがれ」

「別にイヤじゃないよ。ちょっと照れくさいだけ」

「嘘つけ」

「嘘じゃないもん。ほら、見たいなら見てもいいよ」

 

 両手を広げて誘うかのように見せつける。

 望み通りにガン見しての我慢比べ。

 唯の顔色を伺うと照れ笑いを浮かべていた。

 

「唯、男が見るだけで満足する生き物だと思ってるのか?」

「ゆーくん、唯の胸を触りたいの?」

 

 これには返答に困ってしまう。

 男を思い知らせやるつもりが、なぜか触りたいか否かの話になる。

 そうじゃないっと言いたいが、変な雰囲気に呑まれて上手く返せない。

 

 ――ええいペースに呑まれるな!! 男は黙って行動だ!!

 

 にじり寄るようにして手を伸ばしていく。

 唯が両手を広げたまま動かない。

 来るなら来いって誘っているようだ。

 男は度胸だと勢いのままに勇も引き下がらない。

 唯の気持ちを知りたい。

 心臓の位置を探るために胸の中央に右手を当てた。

 

 ――鼓動が早いか遅いかよく分からん。

 

 唯が両手で包んで少し左寄りに導く。

 ここが心臓だと教えているのだろう。

 先ほどよりも脈が速くなったように感じる。

 唯に握られているせいで手を動かせない。

 つまり離れることができない。

 

「ゆーくん、唯のドキドキ伝わってるかな?」

「い、生きてるんだから普通だろ」

「そうかなぁ。ゆーくんの手、大きくて温かい」

 

 どこか酔いしれているような唯。

 とても恐れているようには見えない。

 まるで望んでこうなっているかのようだ。

 

 ――ヤバい。何か変な気分になってきた。

 

 唯のドキドキが感染したようで勇もドキドキと鼓動が高鳴る。

 のぼせ上がったように顔が熱くなってしまう。

 甘酸っぱいようなムードが漂っている気がしてならない。

 

 ――お子様のくせに。チビのくせに。女っぽい顔しやがって。

 

 こうなったら意地である。

 何も知らないくせに男を誘惑してくる唯が悪い。

 うっとりした顔で幸せそうな能天気さが憎らしい。

 勇は伸ばした右腕の肘を曲げて近寄り、左腕で唯の体を抱き締めた。

 

「ゆ、ゆーくん……」

 

 大胆な行動に少し戸惑ったような声。

 勇は少しだけ気分が晴れた。

 このままビビって逃げ出せばいいのに。

 

 ――なんで抱き返してくるんだよ!?

 

 えへへと嬉しそうに勇の背中に腕を回している。

 それにつられて右手を唯の胸から後頭部へ移した。

 お互いの接触で鼓動が激しくなっている。

 

「なんで抱き着くんだよ?」

「先にゆーくんがしたからだよ」

「無防備すぎ。少しは警戒しやがれ」

「ゆーくんだからいいの」

「どうしてだよ? 男として見てないからか?」

「なんでそうなるの? 鈍感すぎだよゆーくん」

「鈍感って何だよ? こっちは唯が他の男に危ない目に遭わないか心配してんだぞ」

「なんで他の男にこんな事するって思ってるの? それこそ唯をバカにしないでよ」

 

 ギュッと強くして唯が抗議をしてくる。

 それにより唯を強く意識してしまう。

 女の子としての感触と匂いで逆に思い知らされる。

 それが悔しくてたまらない。

 

「唯はどう思ってるんだよ? 好きなのか?」

「何を指して言ってるのか唯わかんない」

「……唯は勇のことが好きなのか? 答えろ」

「ずるーい。ゆーくんこそ唯のこと好きなの?」

「質問を質問で返すなバカ野郎」

「野郎じゃない!! 女の子!!」

「ち、ちょっと強いって。意外と力があるじゃないか」

「昔、空手習って鍛えてたんだよ。今も適度な運動はしてるんだ」

「わ、わかったから少し力を緩めろ。苦しいんだよ」

「だったら教えて。唯のこと好き?」

「それ脅迫――ぐっ、言うから力緩めてくれ!!」

 

 なんてヤツだと勇は睨みつけてやるが効果はなし。

 ジーと顔を見つめて嘘は許さないぞと目が訴える。

 逃げようにも抱き着かれたままだから不可能だ。

 

「嫌いじゃないよ」

 

 その曖昧な答えに唯は不満を爆発。

 腕に力を込めて締め上げた。

 もはやプロレス技のベアハッグである。 

 それに音を上げて勇が告白をぶちまけた。

 好きだと連発しまくって唯の顔が真っ赤に染まる。

 急に恥ずかしくなったようで勇から離れた。

 

「ゆ、唯そろそろ帰るね!!」

 

 乙女の恥じらいからか、逃げるように帰ってしまう。

 取り残された勇は何がなんだかサッパリだ。

 女の子ってよく分からないと思う。

 

 ――ああ、言っちまった。言わされた。

 

 どうにも気まずい。

 次からどんな顔をすればいいのか。

 そもそも次に会えるかどうか分からない。

 

 一方、唯は自宅に帰って部屋に引きこもる。

 布団の中で枕を抱きしめて恥じらうばかり。

 今も心臓がドキドキしてしまって止まらない。

 

 ――ゆーくんが唯を好きって言った。何度も言った。

 

 言わせたのだが細かいことは気にしない。

 勇の本心を知ったことが大事。

 この先どうやって接したらいいのだろう?

 唯も男の子と付き合った経験がない。

 初めてのことだから戸惑いがあって当然だ。

 そこでお付き合いの経験があるちなみへ電話をした。

 

「なになにどうしたの? 唯から電話って珍しい」

「あ、あのね……その……」

「男だね?」

「っ!? わ、わかる?」

「うん。それで告白したのどっち?」

「ゆ、ゆーくんから」

「唯は返事した?」

「ま、まだ……急に恥ずかしくなって、そのまま帰っちゃって」

「女も度胸だよ。逃げ続けても関係は進まない。唯はそれでいいの?」

「……よくない」

「そうだよね。待ってたらいつまでも現状のままで何も変わらない。むしろ遠ざかる一方になるから要注意」

 

 ちなみの経験談である。

 振り向かせるためにどれだけ積極的に進めていったことか。

 唯の気持ちも同じ女としてよく分かる。

 それで葛藤を繰り広げたのも散々と味わったから。

 

「唯にはピアノがあるでしょ。それで好きな人に気持ちを伝えてみたらどう?」

「ピアノ……そっか、唯にはそれがあるんだ」

「ありったけの想いをピアノに乗せて彼に届けって。いかにもロマンチックじゃない」

「うん……ありがとうちなみ」

「結果報告よろしく」

 

 ちなみのおかげで立ち上がれる。

 自室のピアノで何を弾くのかを考えてみた。

 やはり愛をテーマにした曲を選びたい。

 否、勇だけに聴かせる特別な曲を作りたい。

 クラシック曲をモチーフにして頑張ってみることにした。

 

 ………………。

 …………。

 ……。

 

 あれから唯が全く来なくなった。

 それを心配してしまう勇。

 どうしたらいいのか分からず正太郎へ電話の相談。

 すると――。

 

「ちなみを通じて知ったことだが、今はピアノでオリジナル曲を作っている最中だ」

「曲を?」

「勇に贈るための曲だ。出来上がったら知らせが届くから、それまで待つがいい」

 

 こう言われては大人しく待つしかない。

 ピアノで返事をするのなら信じて待つだけだ。

 

「……東城」

「なんだ?」

「今後も勇でいい。そのあだ名でいいから」

「どういう風の吹き回しだ?」

「別に。今更本名で呼ばれても違和感しかないからだよ」

「まあ、本名も下の呼び方は――いやあえて言うまい」

 

 自分自身の一人称を勇で呼んでいる。

 唯とお揃いであることを示していた。

 それを知りながらも正太郎はあえて触れない。

 

「唯と幸せにな」

「気が早いって。ったく、ホント強引で勝手なヤツだよ」

「そこが唯の持ち味だから慣れろ」

 

 唯からの呼び出しは夏休みの最終日。

 日中は両親ともに仕事に出て不在だ。

 その時間帯に唯が勇だけの特別な曲を演奏する。

 ご丁寧に楽譜まで作って唯の本気が伺えた。

 

 ――感動で涙が出るってこういう事なんだな。

 

 勇にとっては生まれて初めての嬉し泣きである。

 ピアノを通じて確かに想いは伝わったから。

 言葉に言い尽くせないほどの愛が演奏に込められていた。

 弾き終わった唯から楽譜をプレゼントされて受け取る。

 勇はそれを見ながら今度は自分で演奏をしてみた。

 まるで愛情のお返しをするかのように。

 

 ――やっぱ本物のピアノだと色々勝手が違うから難しい。

 

 唯の演奏に比べたら拙い。

 楽譜を見ながらの演奏は思った以上に大変だ。

 でも気持ちは負けたくない。

 技術で及ばない所は心で補う。

 唯の幸せな顔をイメージして最後まで弾いてみせた。

 

「ゆーくん」

 

 その呼び方に応じて顔を振り返った瞬間。

 唯の顔が間近に迫って唇を重ねられた。

 不意打ちでそのまま固まってしまう勇。

 しばらくして顔が離れてにっこりと笑った。

 思考が停止して上手く言葉が出てこない。

 無意識に勇の手が唯の頭を乗せていた。

  

「もう彼女募集しないよね?」

「ああ」

 

 勇が彼女募集をすることはもうないだろう。

 応募した唯で受付が終了したから。

 このまま永久採用となるかどうかは分からない。

 それこそ今後の付き合い次第となる。

 

 ………………。

 …………。

 ……。

 

 毎朝のご飯と昼の弁当、そして一緒の登校。

 手を繋いで歩く時に手汗が気にならないかを問う勇。

 全然気にしないと返事をする唯。

 ラッシュ時間を避けて早めの電車へ乗った。

 その間も手を繋ぐ。

 離れるのは改札口を出る時ぐらいだ。

 

「ゆーくん、放課後遊びに行こう」

「部活は?」

「嵐泉祭の準備期間が来るまではフリーだよ」

「こずかい少ない貧乏人に遊びをたかるな。これはバイトしろって言ってるようなものだぞ」

「ゆーくんと一緒にバイトするのも楽しそうだね」

「唯はバイトしたことあるのか?」

「うん。部費を稼ぐために天地レストランで短期バイトしたよ」

「接客しんどそう」

「慣れたら簡単だよ」

「その慣れが大変だろうに。とにかく金の掛かる遊びはダメだ」

「お金が掛からない遊びならOKだね?」

「ああ」

 

 言質を取ったことで唯は機嫌がいい。

 公園に散歩をしたり、ウインドウショッピングをしたり。

 お金を掛けなくてもデートはできるから。

 

「あーあ、もう学校に着いちゃった。ゆーくんと同じクラスじゃないのが残念だよ」

「じゃあまた放課後――って服を掴むなって伸びる」

「休み時間、ゆーくんのクラスに行ってもいい?」

「ダメ」

「えーなんで!?」

「時間短いから」

「じゃあ長めの昼休みならいい?」

「昼休みは弁当食ってるぞ」

「ゆーくんと一緒にお昼食べたい」

 

 正直に思ったことを貫こうとする唯。

 その積極性を汲み取って勇は受けてやりたくなるが。

 

「……教室だと恥ずかしい」

「それなら唯にお任せ」

「なんとなく嫌な予感がする」

「昼休みになったら唯が案内するから教室で待ってて。じゃあまた」

 

 言うだけ言って去ってしまう唯。

 勇は教室へ入って自分の席へ座る。

 すると正太郎がやって来た。

 挨拶を交わして唯の話題を出す。

 振り回されて対応に戸惑ってしまうから。

 

「やられたらやり返せ。オレはちなみとそうしている」

「喧嘩じゃないんだけど?」

「争い以外でも応用ができるんだよ。好意には好意で返せばいい」

「そう言われてもイメージできないって」

「弁当を作ってくれたのなら逆もこっちも作る」

「ちゃんとした料理をしたことがないぞ」

「材料を切って焼くか炒めるか煮るかで味付けをするだけだぜ」

「……他には?」

「スキンシップで愛情の補給は欠かさない。好きって言葉を伝えることも大切だ」

「スキンシップ?」

「抱きしめたり、キスしたりで恋人同士がする愛情表現だ」

「……よくまあ、そんなことを堂々と言えたものだ」

「悪いことではないし、やましいことでもないから」

 

 正太郎が会話の合間に参考書を開く。

 それは秘書の資格を取るための検定対策の本だ。

 進路を見据えてスキルアップを狙う。

 

「すげぇな。勇はまだそんな進路のことなんて考えてないのに」

「天さんが支援して期待をかけてくれるからな。秘書・英語・パソコンの3つは資格を取っておきたい」

「東城は将来、秘書になるのか?」

「忠義を尽くせる仕事をする可能性はある。結構オレに向いてると自覚してるぜ」

「へえー、進学か就職どっちがいいんだろう?」

「とりあえず進学するなら興味のある学部をピックアップ。就職なら興味のある業界を調べておくといいだろう」

 

 まだ先の話だと思っている進路を意識する。

 早い内に準備をしたほうが直前になって慌てなくて済む。

 せめて進学か就職かは考えたほうがいい。

 唯に携帯でその辺りをメールで問いかけてみた。

 返信として音大で作曲をしたいと考えている。

 もっと色々な曲を作ってみたいと意欲的だ。

 

 ――音大に興味があるけど……不安だ。

 

 その道のプロを目指すなら競争に勝たなければならない。

 その末に頓挫させられてしまう可能性もあるだろう。

 勇はリスクヘッジを多少なりとも意識をしているようだ。

 

 ――もうちょっと真面目に考えよう。授業を受けて得意不得意を探そう。

 

 授業を通じて勇は自己分析を行なった。

 文系は苦手、理系は少し得意、体育はやや苦手である。

 芸術の選択科目で音楽を取っているが、その授業が一番楽しくて超得意。

 なお、正太郎は書道を選択科目としているので勇とは別である。

 他の映制メンバーは、内場とちなみが美術、唯は音楽、美鈴が書道だ。

 

 ――ピアノを弾くのか好きだから音大へ進学って安直じゃないか?

 

 好きだから、楽しいから、もっとピアノを学びたい。

 でも仕事に直結するかと言われたら安易に答えられない。

 趣味と仕事は別という考えに当てはまるだろうか。

 そんな迷いを抱きながらも時間は過ぎて昼休みを迎える。

 

「ゆーくん、お弁当は持ったよね? それじゃあレッツゴー」

 

 教室へ乱入して有無を言わさずに勇を引っ張っていく。

 連れて行かれた場所は屋上に通じる階段の踊り場。

 そこには映制メンバーが揃って集まっていた。

 

「唯、部外者の勇がここに来ていいのか?」

「昼休みでご飯一緒しているだけだし全然OK」

「せやせや。部活は放課後からやし、今はプライベートやから遠慮せんでええで」

 

 ちゃんと二人のスペースを空けて待ってくれている。

 勇はそこへ座って弁当を開いて食べ始めた。

 そして話題を提供したのは正太郎からだ。

 

「勇は進学する場合に学費の負担を親に出してもらえるのか?」

「あーうん。行きたかったら行っていいって言われている」

「勇は音ピアノ好きだから音大に行くんじゃないかと、オレはそう推察してるが当たってるか?」

「まあそうだけど。ただ音大行って、そこからプロを目指して生活するか、と言われても自信がないんだ」

「そりゃそうだろう。オレは創作が趣味だが、それでプロを目指すかと言われたら悩むから気持ちは分かるぜ。その点内場は昔から漫画好きで、今も一途にプロの漫画家を目指して揺るがないから大した男だよ」

「僕は東城みたいに器用ちゃうし。それしか能のない不器用な男なんや」

 

 男三人で進路話の盛り上がり。

 勇は面識の浅い内場へ確認をとる。

 

「えっと……内場って呼んでいいのか?」

「ええで。ちょっと下の名前は訳ありで呼ばれとうないんでそれで頼むわ。そっちはどう呼んでほしい?」

「東城と同じ勇で頼む。呼び捨てでいいから」

「了解や。ほんで勇、僕に何か訊きたいことでもあるんか?」

「ああ、内場は漫画家以外での仕事を考えたことはないのか?」

「あるで。中間古書店でバイトしたことがあるんやけど。もし漫画家が無理やったらそういう本に囲まれた仕事に就きたいと思うとるで」

 

 勇は相槌を打って頷く。

 好きな分野に関連した仕事に就くという考え方だ。

 これは勇にとって仕事探しの大きなヒントになるかもしれない。

 

「せやけど勇は偉いで。まだ一年の一学期過ぎたぐらいやのに、もう進路を意識しとるんやからな。大抵の奴はまだ先の話やと思うて先延ばしにするで」

「東城が秘書の資格を取るために勉強してて、先行きを考えていることを知ったから」

「ねーちゃんを超える小説を書くため、幅広く修行をしてのレベル上げ。黒川先生の教えで潜在能力が目覚め、部活で美鈴に忠誠を尽くし、天さんに雇われて忠義を尽くし……今も色々やって自分を磨き続けているぜ」

「な、なんか言葉が出ないや」

「安心しなさい。コイツが異常なだけだからマネしようと思わない事よ。人それぞれのペースというものがあるから焦る必要はないわ」

「あ、はい」

 

 同い年のはずなのに美鈴が大人の先生みたいだ。

 映制をまとめ上げるリーダーシップは伊達ではない。

 あらゆる意味で敵わないと勇は感じた。

 

「唯は音楽が好きだけど、それで音大に行くのってアリかな?」

 

 その問いかけに正太郎が深掘りをする。

 音大に進学をして何をしたいのか?

 唯は曲を生み出すことへの関心度が高い。

 そして唯が作り出した曲を勇に演奏してもらうのが夢だと語る。

 

「なんでだよ? 唯が自分で弾いた方が上手いじゃないか?」

「上手い下手は関係ない。ゆーくんだから弾いてほしいんだよ」

「ねーちゃんが脚本を書き、カントクが映画にして映像化するのと原理は同じ。互いの夢を連携させていくのは凄いことだ」

「おいおい、まだ勇は自分の夢が見えてないのに。でも唯に負けないピアノの演奏は目標にしたい」

「なるほど。唯の演奏に憧れてそこを目指すといった所か。殊勝な心掛けだぜ」

 

 正太郎の言葉に勇と唯が照れてしまって黙り込む。

 なんとも微笑ましく生暖かい目で見守りたくなる。

 正太郎の袖がグイグイと引っ張られた先には膨れっ面のちなみ。

 構ってあげないと拗ねてしまうので分かりやすい。

 

「美鈴、部活はしばらく自由行動でいいんだよな?」

「ええ。嵐泉祭の準備期間に入るまでは好きにしてもらって構わないわ」

「ちなみ、資格の勉強で根を詰めるのは能率が悪い。息抜きが必要だとオレは思うんだが、ちなみの意見を聞きたい」

「しょーくんに同意だよ。だから放課後、わたしと一緒に息抜きしよ」

「行き先で三つ要望があるんだけどいいか?」

「いいよ。どこか行きたい所があったら遠慮なく言って」

「一つ、授業で使ってる大学ノートの補充。二つ、映制の勝利祈願をするための神社。三つ、回復するためちなみがオススメするおやつの店」

「店内で食べるか、食べ歩きするかで変わるけど?」

「食べ歩きのテイクアウトで頼む」

「分かった。わたしに任せて」

 

 下校デートの約束をすれば、ちなみは楽しみで上機嫌になる。

 扱い慣れている正太郎に感心をする美鈴。

 それは内場も同じで聞こえない程度の小声で話す。

 

「よぉやるな東城。ヤキモチの端本を瞬く間に笑顔に変えたで」

「貴方はああいうのが好みなの?」

「僕はあるがままの美鈴が好みやで」

 

 口説かれて顔を真っ赤に染める美鈴。

 水筒のお茶を飲んでその場をごまかす。

 こうして勇という新参者を混ぜての昼休みを過ごしていった。

 

 ………………。

 …………。

 ……。

 

 つかさは進路を向けての自分探しを続けている。

 天地レストランの接客バイトをしてデザートを観察する機会はあった。

 もう少し視野を広げて他店の洋菓子店を見て回る。

 そこで立ち寄ったのがパティスリー鶴屋。

 店主が年配のお婆ちゃんで孫の龍一が菓子作りをしている。

 実際にケーキを食べてみて、そのクオリティの高さに感銘を受けた。

 店主がとても気さくで話しやすい。

 そのためか、つかさは昔から今、そして未来のビジョンも含めて語った。

 人々に幸せをもたらすお菓子の魔法使い。

 メルヘンチックな表現をした夢。

 それに続けて現実も口にする。

 

「あたしは部活動の映画作りで、その現場を仕切って分かったことがあるんです」

 

 どれだけ個人が優れていても。団結をしなければ素晴らしい作品はできない。

 一人の力では限界があっても、皆で力を合わせれば可能性は無限。

 これをパティシエに置き換えることも可能。

 もし素晴らしい菓子職人がいるのなら、その人が安心して働けるための環境を整えなければならない。

 つかさはお菓子を作ることだけを考えず、経営の重要性を意識した。

 夢を語る高校生は数多くあれど、現実も含めて話せる高校生は少ない。

 部活という実体験を通じてのことだから根拠もあった。

 これが面接であれば採用に値する。

 

 店主に気に入られてバイトの勧誘をされる。

 高校生の間は部活に協力をしたい。

 シフトの融通がきくことが外せない条件。

 部活と両立しながら天地レストランのシフト制でバイトをしている。

 乗り換えるなら引き継ぎも不可欠だ。

 でも迷いはない。

 つかさの直感はここだと告げているから。

 双方が一致して後日に正式な手続きを済ませていった。

 

 接客の経験は洋菓子店でも存分に活かされる。

 さらに時間の合間に龍一から洋菓子の基礎を学ばせてくれた。

 コックのスタイルでつかさは知識と技術を吸収していく。

 分からない所は素直に尋ねて理解を深める。

 仕事が終わった後に龍一から海外のパリについて教えてもらう。

 つかさは国外の文化や価値観の違いにも関心がある。

 酪農国フランスの乳製品における種類の豊富さには興味津々。

 

 ーーフランスのパリ留学は決定。どういう形で行くかは後で考えよう。

 

 パティスリー鶴屋だけが洋菓子店を開いている訳ではない。

 映研と映制のようにライバル店があり、生き残るために競争は免れない。

 つかさは部活のパソコンを通じて他店の洋菓子を調べてリストアップをする。

 美鈴からはやるべき事をやってくれたら、あとは自由にどうぞで後押しをしてくれている。

 

「あたしたち映像制作部一同、西野先輩の夢を応援しています。頑張って下さい」

 

 代表者である美鈴の言葉は心強くて嬉しかった。

 つかさは全体的に視野が広く、比較検討を大切にしている。

 それぞれの特徴に違いがあり、そこから学べる所があれば学んでいく。

 固定概念がないから心の受け皿が広く、それが学習能力を高めている。

 

 ーー体重計なんてこの世からなくなればいいのに。

 

 黒い感情のつかさは体重計に屈する。

 夢を追う事は現実との戦いでもある。

 女の子にとって残酷な数値を見せつけた。

 ダイエットすなわち運動が欠かせない。

 己を鼓舞しての早朝ジョギングをスタートだ。

 それを知ったさつきが走り込みに付き合う。

 一人よりも二人で走ったほうが楽しいだろうと。

 

「ありがとうさつき、おかげで長続きしそうだよ」

「いいってことよ。あたしもつかさの夢を応援したいのさ」

 

 つかさは嬉し涙を浮かべてしまう。

 仲間に恵まれての応援が支えとなった。

 こうしてつかさはやりたい事へ向けて前進していく。

 

 ………………。

 …………。

 ……。

 

 洋館と和館の渡り廊下にある個室。

 お互いの映画でどのように勝負をするのか?

 その話し合いを繰り広げているのがーー。

 

「校内でやることなんだ!! 見てくれた客から投票して良いほうを選んでもらってもいいじゃないか!!」

「投票を強制するのはナンセンスよ。自主的に投票したとしても、そこに公平性があるとは思えないわね」

 

 握り拳で力説するように啖呵を切る淳平。

 腕組みをしたまま冷静に返す美鈴。

 今回は勝敗を決定付ける重大な取り決めをするため、映研と映制の部長が対席をしている。

 淳平は校内の投票も勝負に入れるべき。

 美鈴は外部の映像コンクールだけで勝負すればいい。

 部の存続に関わるため、双方は全く譲らない。

 

「コンクールだけで決めるな!! 嵐泉祭で見てくれる人はどうでもいいのかよ!!」

「はぁー、あの討論から全く成長していないのね。映研が作った映画の中身はそんなに自信がないの?」

「自信はある!! 皆で協力して最高の映画にしたさ!!」

「それは映制にも言える事よ。そちらが特別頑張ったみたいに言わないでくれる?」

 

 真っ向から対立をする両者。

 熱意を込めてしまうが故に感情的になりやすい淳平。

 冷静に物事を判断する美鈴とは相変わらずソリが合わない。

 この二人だけで話し合うと拗れてしまうので、付き添いとして正太郎とヒロシが同席をしている。

 ではその二人は何をしているのかと言えば……。

 

「あ、茶柱が立ってるよヒロシ兄さん」

「本当だ。今日はいい日になりそうだね」

 

 緑茶と和菓子の羊羹を美味しく味わっていた。

 ほんわかと和やかな雰囲気である。

 せっかくの部長同士で顔合わせをしたまたとない機会。

 言いたい事を全て吐き出してもらいたい。

 それまでは余計な口を挟むことなくお茶を楽しめばいい。

 しかし淳平と美鈴から見れば、呑気なティータイムをする二人に矛先を向けたくなる。

 真面目に参加しろと文句の一つでも出てくるものだ。

 そこだけは意見が一致して仲良しだとヒロシが笑っている。

 

「真中、美鈴。とりあえずお茶でも飲んで一息つくといい。特に真中はさっきから声を張り上げて喉がカラカラじゃないかい?」

「うっ……」

「そのまま喉が潰れてしまえば静かになるのに」

「なんだと」

「どーどーどー」

「外村!! オレは馬じゃない!!」

「馬に失礼だから馬に謝りなさい」

「ぐぎぎ……外村!! この女マジでムカつくんだけど!!」

「慣れてくれば可愛いんだよ」

「慣れたく――って、東城?」

「お茶どうぞっス。カントクが喉を痛めるとねーちゃんが悲しむっスよ」

 

 正太郎に差し出されたお茶を受け取る。

 そのまま一気に飲もうとしたが。

 

「あ、カントク。まだそれ熱――」

「あちぃーー!!」

「言おうとしたのに慌て過ぎっスよ。あーあ、お茶こぼしちゃって」

「無様ね。いい気味よ」

 

 美鈴の気が晴れたようだ。

 備え付けの布巾で拭き取る正太郎。

 大半をこぼしたのでお茶をいれなおしての仕切り直しだ。

 

「美鈴は手加減モードか? 本気を出せばカントクを論破して再起不能にまで追い詰めることも容易いだろうに」

「あんなヤツの心を壊してどうするつもり? ここには勝敗を取り決めるために来ているのよ」

「あんなヤツって何だよ!! 一年のくせに先輩に対して口のきき方が悪すぎだろ!!」

 

 それが聞き捨てならなかったのか。

 正太郎の眉間にシワが寄った。

 珍しく少々怒りが見え隠れしている。

 

「オレ、年齢で差別されるの嫌いなのに。売り言葉に買い言葉か」

「先輩後輩の上下関係は未だに根強く残っているのよ。アンタも知ってるでしょ?」

「そりゃもう。オレは弟子の中間が年下でいるけど、タメ口OKで歓迎してるぞ。オレみたいな年上でも、敬語を使わなくてもいい人間がいるって事を教えられて良かったと思う」

「アンタはアンタのままでいいのよ。心無い戯言なんて軽くあしらっておきなさい」

「問題ない。カントクに悪気がないことは分かっているし。つい勢いで、というのも別に珍しくないからな。なのでカントク、今のは聞き流して忘れるっスよ」

「あ、えっと……ごめん言い過ぎた」

「いいっスよ。それよりも本題へ戻るっス」

 

 このまま引きずられても双方の益にならない。

 気持ちを切り替えるために話を戻す。

 

「美鈴、オレが交渉しようか?」

「訊くまでないでしょう。やりなさい」

「了解した」

 

 正太郎は腕時計を外してポケットにしまう。

 軽く呼吸を整えてから背筋を伸ばして居住まいを正した。

 不思議とプレッシャーを感じて体が固くなる淳平。

 ヒロシに至っては楽しそうに悪魔のような笑みを浮かべる。

 

「カントク、多少口が悪くなるけど今だけタメ口でやらせてほしい」

「別に今だけでなくてもいいけど」

「いや今だけでいい。後輩口調もそんなに嫌いじゃないんで」

「わかった」

「まず先に結論を言う。オレたち映制は、外部の映像コンクールで映研との勝負を申し込む」

「東城、それは校内の投票は無視するってことか?」

「そもそもオレたちが独立して映制を立ち上げたのは何故か? それは対決を通じて映研が作る映画の実力を見るため。オレたち映制が作った映画よりも評価されるかどうかを知るためだ。そのための評価に不公平があってはならない」

 

 正太郎の主張を誰もが静かに聞いてくれる。

 さらに続けていく。

 

「黒川先生に確認した所、嵐泉祭の部活ランキングは、一番多くの客を集めた部に特権が与えられる。そして最下位には問答無用で廃部。勝者の奴隷という言い方は変だったけど、それは勝ったほうの部の傘下に入れって意味で解釈をする」

 

 ここで正太郎は疑問が拭えない。

 どうやって客の集計を正確に行なえるのか?

 先生たちが調べてくれるのか? 生徒会が調べてくれるのか?

 どちらにしても厳密に客の数を把握するのは困難。

 自己申告では不正が発生するのが目に見えている。

 詳細を問い合わせても禁則事項のトップシークレットだ。

 

「チケット制で集計するのかと思えばそんな事もなく、投票が最も可能性はあるけど任意ならその時点で公平さを失う。だから後腐れのない外部の映像コンクールのみで勝負するのが望ましい」

「でも東城――」

「もしこれが受け入れられない場合、仮にそれで映研が勝利をしたとしても、オレたち映制は廃部かつ退部をして身を引くことになるだろう。純粋な映画勝負をしてくれなかった映研には協力できないとなるからだ」

「それはあんまりだよ!! ここまで来てそりゃないって!!」

「カントク、部活の勝負では外部の映像コンクールでやってほしい。カントクが提案した投票については、来年の映画作りの参考として活かせばいい。任意で映画の感想でも書いてもらえれば尚良いだろう」

「投票はしてもいいってこと?」

「別にオレたち映制は投票そのものを否定していない。それを部活の映画勝負に持ち込まないでほしいだけだ」

 

 勝負に関係がないなら投票でも何でも好きにすればいい。

 淳平の意見を取り入れて来年に活かせる可能性を提示した。

 だから映制の言い分を呑んでほしい。

 そんな落とし所へ持っていくのが正太郎である。

 

「真中、ここは美鈴たちの主張を呑むべきだよ。恨みっこなしの映画勝負をするならね」

「……そうだな。東城、それでオレたち映研が勝ったら協力してくれるか?」

「カントク、オレが協力する条件を覚えてる?」

「えっと……あっ……」

「思い出したのなら何より。それはオレじゃなくて美鈴に言うべき事だよ」

 

 美鈴が協力をするのなら正太郎も参加するのが条件だ。

 淳平が美鈴に視線を向けると――。

 

「そういう事は勝ってから言いなさい」

 

 冷たい目で見下すような素っ気ない態度。

 どこまでも淳平のことがお気に召さないようだ。

 ヒロシが不気味に笑っている。

 

「外村、なにがおかしいんだよ?」

「真中、今でもこの二人に協力してほしいと思ってるかい?」

「そ、それはまあ……」

「だよね。これだけ有能な逸材は滅多にいないよ。真中は人を見る目があるね」

「そ、そうか?」

「正太郎くんもそう思わないかい?」

「有能云々はさておき。カントクに人を見る目があるのは、映研メンバーが証明しているよ。そこはオレも個人的に認めている。若さ故の熱意も嫌いじゃないよ」

 

 ヒロシと正太郎から長所を褒められて淳平が照れてしまう。

 少なくとも人望はある。

 そうでなければ映研は成立していない。

 

「これで話は終わりね。お先に失礼するわよ」

「カントクと相性悪いのによくまあ冷静に対応できるな」

「部活に私情に挟むつもりはない。やるべき事をやるだけよ」

 

 その割には淳平に対しての言動は悪いのだが黙っておく。

 美鈴が媚びへつらうことはあり得ない。

 ある意味で平常運転だ。

 ヒロシの言うように慣れの問題だと割り切ってほしい。

 

「アンタ、腕時計」

「おっと……んっ、大丈夫そうだな。少しは耐久がついたかも」

「調子に乗って無茶するんじゃないよ。ちなみが黙ってないから」

 

 腕時計を装着して心身の状態をチェック。

 気の高ぶりが鎮圧されて大人しくなった。

 手加減と本気のスイッチは問題なく切り替えができている。

 淳平とヒロシに挨拶を済ませて個室を出て行った。

 その先に内場とちなみが迎えに来ている。

 

「お疲れさん美鈴」

「お疲れしょーくん」

「待たせたわね貴方」

「出迎えありがとうちなみ」

 

 内場と会った時の美鈴はどことなく柔らかい表情だ。

 正太郎もちなみに対して目が何となく優しい。

 なお、唯はピアノのある和館の音楽室で自主練をしている。

 

「美鈴ってパソコンの資格取るのか?」

「ええ。スキルアップに分かりやすいから。アンタも取るんでしょ?」

「秘書・英語・パソコンの3つを取るよ」

「アンタにお似合いね」

 

 以前は英語嫌いだった正太郎も変わるものだ。

 そうさせたのが美鈴である。

 未だに英語の問答で勝てたことがないが。

 

「あたしはパソコンでちょっと調べ物があるから」

「邪魔はせんから、僕も一緒してええか?」

「好きにしなさい」

 

 美鈴と内場がデスクのある部屋へ去っていく。

 正太郎とちなみも移動をして和室の休憩室へ入っていった。

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