青春100% 作:完結の陽炎
休憩室で二人っきりとなった正太郎とちなみ。
座布団に腰掛けて肩を寄せあっての雑談。
リラックスをした雰囲気が周りを包んでいた。
「ちなみが誕生日で毎年におねだりする日記小説。書けば書くほどちなみの成長物語になってきている。ちなみの気持ちになりきっての心理描写にも馴染んできたぜ」
「えへへ、しょーくんの書いた小説を読むと、しょーくんとちなみの心が溶け合っているみたいで嬉しい」
「それはどうしても作者の心が混ざるからな。言ってみればオレとちなみの子どもみたいなものだ」
臆面もなく口にする正太郎。
ちなみの顔は火が出る勢いで照れが生じてしまう。
そういう夢を描いてみたくなる。
「今年のちなみは演技力の向上、オレの健康管理による観察力と癒しの先読み、天さんをライバルにしての自分磨き等で盛り沢山だ。あと唯の恋愛相談に乗った友達思いな一面も追加で」
正太郎は畳の上でゴロンと仰向けになる。
勝敗の取り決めは精神的に疲れた。
ちなみに気を許しての無防備である。
「映研で脚本をしたねーちゃんと映制で脚本をしたオレ。果たしてどっちが上か。映像コンクールの結果が楽しみだ」
「しょーくん、お姉様を超えるため今まで頑張ってきたからね」
「おうよ。幼い頃から最強ねーちゃんを超えるため、数々の修行を乗り越えてここまで来たぜ。野望を抱く男の生き様をとくとご覧あれさ」
「……この映画で勝てたら、しょーくんの野望は果たせる?」
「そうだな。脚本という畑違いだったり、映像や音楽などで他の要因もあったり、純粋な小説勝負ではないがコレはコレで楽しめる。なあちなみ」
「なにしょーくん?」
「映像が文学を越えられないって話を聞いたことがある。実際に脚本を書いて映像化をした立場として、ああなるほどって思ったよ。映画には時間や場所、人など色々な制約が掛かって表現されるから。小説はあくまでも読み手が無限に想像を描いていくから。きっと原作小説で漫画化や実写化をされても、原作超えがされないのはこの辺りのハンデが原因だ。読者の想像力は凄まじいってことだな」
「小説のほうが漫画や映画よりもいいってこと?」
「漫画には漫画の、映画には映画の良さがある。そうでなければとっくの昔に滅んでるぜ。個人的には文字だけで見るよりも、絵や映像があったほうが単純で分かりやすい。想像の維持って大変だから、漫画や映画がそれを補ってくれる。自分が想像したのと違っても、それはそれで味がある」
文化として存在する以上は比べても意味がない。
内場の漫画を二次創作をした過去がある正太郎。
限られた漫画の絵と台詞から小説にするのに苦労をした。
それは創作家の醍醐味でもあるから楽しくもあった。
「オレは創作家だからIFを想像してしまう。この映画勝負に勝った場合と負けた場合を考えてしまう」
「勝ったらどうするの?」
「映研を傘下に加える訳だから、来年の映画をどうするかで美鈴が考えるだろう。オレはねーちゃんを超えることを理由に今回映制に協力したから。ここで役目は終わりだ」
「美鈴が手伝えと言ってもダメ?」
「脚本はねーちゃんにやらせる。来年でねーちゃんは最後になるからな。演技も卒業する3年生にやらせたほうが思い出になるだろう。上級生が満足して卒業できる動画部を祈るぜ」
「まるでしょーくんが辞めちゃうような言い方だよ」
「うーん、天さんの秘書とか、弟子である中間の指導とか、資格の勉強とか他にも色々とやりたい修行はあるんだよ。動画部だけに時間を割くというのは厳しい。ねーちゃん超えを果たした後は、心置きなく自分の進路へ向かっていくと思うぜ」
「そっか……寂しくなるね」
ちなみがそう言ってしまう気持ちは分かる。
去っていく側の気持ちを考えれば嫌でも分かってしまう。
でも旅立ちの門出みたいなものとして祝ってほしい。
「卒業する時には引退する訳だからいつか終わりは来る。それが早いか遅いかだけだ」
「もし負けた場合は逆になるってこと?」
「カントクの実力を認めざるを得ない美鈴は、映研の傘下に入って映研を支えるだろう。でも負けたのは映制メンバーの連帯責任である。オレはねーちゃん超えの野望を抱いて、次のチャンスを伺いながら協力するだろうさ。ちなみは勝ったほうと負けたほうのどっちを望む?」
「どっちでも受け止めるよ。でもしょーくんが望む結果をわたしも望みたい」
「なら勝つほうを望むに決まってるぜ」
「そうだと思ったよ」
ちなみが正太郎に覆いかぶさってきた。
猫が獲物を狙うような目付き。
明らかに愛情の補給を求めている。
「あー、ちなみの部屋まで我慢できないか?」
「うんお預けは限界」
「少しだけつまんで残りはちなみの部屋は?」
「前向きに検討する」
「そっか。次からもう少し補給タイミングを改善するよ。我慢させて悪かったな」
正太郎はちなみをひっくり返して押し倒す。
ちなみが驚いても手加減はしない。
腕時計を外して全力で手で愛でるように撫でまくった。
触り方が優しすぎるとくすぐったくなり、強すぎると痛がってしまう。
さじ力加減も経験を積んで恋愛レベルを上げる。
――触りながら可愛いとか好きとかで囁くと効果が高い。
囁いてしまうのは言うほうも照れくさいから。
周りに聞こえない程度に抑えた声が逆にムードを甘くする。
空手と同じで攻めまくる先手必勝のスタイルだ。
ちなみが降参するまでは容赦しないのだが。
「ちなみストップ。変な声出さないでくれ」
「はぁはぁはぁ……だ、だして……んっ……ないもん」
「なんか妄想使いが妄想術を発動しているみたいだった」
「むぅー」
「あ、なんか急に機嫌悪くなったな。他の女を口にするなってことか?」
「そうだよ」
「男は?」
「男でもダメ。今はわたしだけを考えて、わたしだけを見て」
「続きはちなみの部屋で。お姫様抱っこで運んでやろうか?」
「さすがに恥ずかしいよぉ!!」
「じゃあ大人しくついて来い」
「なんか意地悪だよしょーくん」
「今までキスで主導権を奪われて可愛がってくれたちなみへのお礼さ」
「ね、根に持ってる!?」
部活はあがりという事でちなみを連れて行く。
ちなみに甘えるのもいいが、ちなみを甘やかすのもいい。
そのためにも先手で一方的に愛情をぶつけまくる。
受けに回ると自分がなすがままになるのが目に見えているから。
こうしてちなみが満足できるように愛情補給を行なった。
………………。
…………。
……。
嵐泉祭の準備期間。
作り上げることが面白く、本番当日への期待が高まり、祭りの雰囲気で盛り上がる。
本番よりも準備が楽しいと感じるのはそのためだ。
ヒロシが大型パネルで主演のつかさだけでなく、対決する映制のちなみまで用意した。
どちらの美少女パネルも作りたかったようだ。
勝負は外部の映像コンクールでするため、校内の準備は動画部として活動をする。
上映をするための部屋は一つしか借りられなかった。
一つの部に複数の部屋を使わせたら他の部から不満が出てしまうので、必然的に映研と映制の共同作業となる。
「指揮はつーさんと美鈴でいいと思う。準備の指示をよろしく」
正太郎に言われてつかさと美鈴が仕切ってくれた。
それに従って装飾や設営などの準備を行なっていく。
「着ぐるみとプラカードで宣伝して回る役目、オレやりたい」
「あ、唯も可愛い着ぐるみで歩き回りたい!!」
「しょーくんがやるならわたしもするね」
正太郎・唯・ちなみが宣伝兼案内を名乗り出る。
着ぐるみは慣れないと歩くのに苦労をするから練習が必要だ。
そのため予行練習が欠かせない。
着ぐるみを提供できるのは顧問の黒川先生。
衣装担当として客寄せの作戦に乗り気だ。
参戦の理由は一番に客を集めて特権を得るため。
これは生徒だけではなく顧問の先生にも与えられる。
コンセプトは美女&美少女がもてなすドキドキ上映会。
これを聞いた一同の視線はヒロシへ集中砲火。
口笛を吹いてとぼけている。
美鈴が胸ぐらを掴んで自白を強要。
黒川先生には衣装の伝手があり、利害の一致で協力してもらっているとの事だ。
「カントク、天地財閥だけでなく、学校の教師まで動かすヒロシ兄さんって何者っスか? 悪魔が人間に化けてるんじゃないっスか?」
「普段は変なヤツだけど、こういう時になるとスゴイやる気出すんだ」
今のヒロシはある意味で無敵だ。
露出のあるパニーガールの衣装で許可が出るのかを確かめに行く。
風紀が乱れる事を理由に、教頭を筆頭とした先生方からの厳重注意で却下。
それならばと水着にフリフリのエプロンを仕掛ける。
黒川先生と手を組み、水着を否定するのならば水泳部の存在が否定されると反論。
その上にエプロンを装着するのだから、むしろ良心的な処置だとあれやこれやと言いくるめて許可を得た。
「やりましたよ!! 黒川先生のおかけです!!」
「外村ここまで手を貸してやったのだ。この勢いで特権をもぎ取って来い」
「はい!! お任せ下さい!!」
テンション爆上がりのヒロシ。
だが問題点があるとして異議を唱えたのが美鈴。
ヒロシのコンセプトでは、男性客を集められても女性客が集まらない。
それでは一番の集客は不可能だと反対意見を出したのだ。
確かにそうだと動画部の女子一同が同調。
盲点を突かれてしまったヒロシはタジタジとなった。
「ヒロシ兄さん、男子の衣装を改善しないと一番を目指せないよ。ここは女子の美鈴たちに、どんな衣装がいいかで意見を募ってみるのがいいと思う」
正太郎に促されて美鈴が積極的に意見を出した。
美鈴のコンセプトは安心と信頼のエリートなビジネスマン。
客寄せをするのだから、清潔かつ誠実さが伝わらなければ女性が警戒をして入店しない。
特徴を統一するために理知的な眼鏡を付けてもらってスーツ一式を身につける。
靴もビジネスマン仕様で妥協は一切しない。
仕事ができる男は女から見ても魅力的だから、ビジネスマナーを基本に接客はしっかりと行なってもらう。
そこは天地レストランで接客経験のあるつかさたちが指導をしてくれる。
なお、男子の衣装はさつきの働きかけで天地に支援をしてもらった。
学級のクラスで出し物はやることはない。
クラスはお客として参加をするか、部活の手伝いをするかだ。
特権目当ての部活はクラスの客に来てもらうか、手伝いを頼んで集客率を高めようとするかで戦略を立てて動く。
勇は無所属だが、唯の熱烈な勧誘を受けた。
「バーデン喫茶でピアノ演奏を連弾って冗談だろ?」
「本当だよ。唯、動画部の宣伝が終わったらヒマだから。演奏する人がいなくて困ってるって聞いたから手伝いに行くの」
「無理だって。唯みたいに上手くないから」
「一緒に弾けば大丈夫だいじょーぶ」
断っても唯は食いついて諦めない。
子どもみたいなおねだりのしつこさに根負けをして引き受ける。
人目も気になったので早い所離れてほしかったからだ。
こうして準備は着々と進行していく。
………………。
…………。
……。
会場の設営が終わって上映に問題がないかの試写会を開く。
視聴者は映研メンバーと映制メンバー。
顧問の黒川先生は多忙により不参加だ。
「それじゃあ、まずは僕たち映研が仕上げた映画を上映だね」
ヒロシがそう言ってスクリーンを流していく。
綾が脚本した幻想的な描写をヒロシの撮影でロマンチックな演出に仕立て上げている。
おかげで主演女優の西野つかさが光り輝く。
主人公の真中淳平はヒロインを引き立てる役回りで落ち着いていた。
――つーさん、台詞の歌が上手いな。夏に歌う者のタイトル回収が見事だぜ。
出会い・葛藤・別れの王道なストーリー展開。
主人公の台詞がやや少なく、それを補うかのようにヒロインの台詞が増えていた。
帳尻合わせをして出来るだけのことをしている。
――主人公の告白シーンは、カントクの持ち味である熱意がよく出ているぜ。
これを引き出すのがどれだけ大変だったか。
さつきの蹴られまいと背水の陣で必死に演じた場面である。
淳平は生きた心地がしなかったとボソッと愚痴るほどだ。
――ねーちゃんってホント悲恋好きだな。身分差の恋とか、遠方の引っ越しで離れてしまう恋とか。唯が見たパラレルワールドでは、ねーちゃんがつーさんに敗北して失恋となり、悲劇のヒロインというオチになったようだし。
ラストシーンの列車が作り物にしてはよく出来ている。
これもヒロシのカメラ演出の賜物なのか。
主人公を見送るために走る列車に向かって駆け出すヒロインのつかさ。
その笑顔のフラッシュバック演出がインパクトを与えてくれる。
ここで締めとなって終了とするのが潔かった。
去年の映画とは次元が違う。
完成度のケタが違いすぎる。
美鈴も感服をして認めてしまうほどだ。
映制メンバーは絶賛の拍手で映研メンバーを称えた。
淳平は感極まり渾身の力を込めて拳を握りしめる。
夢を映画にして今まさに実現させたから。
その実感で胸が一杯に溢れている。
「それじゃあ、次は美鈴たち映制が仕上げた映画の上映だね」
「わー、なんかドキドキしちゃうよ!! 唯たちが作った映画、皆に見られるなんて!!」
「ヤバいで。僕、ヒロシさんみたいな上手いカメラ演出ちゃうし。なんか比べられるの恥ずかしいわ」
「しょーくん、いよいよ始まるね。なんかワクワクしてきちゃうよ」
「ちなみの演技力なら誰にも負けない。ちなみを主人公に変えて良かった」
「今から始まるから静かにしなさい」
美鈴に注意されて上映がスタートとなる。
映研との大きな違いは唯のピアノを入れていることだ。
ヒロシのカメラ演出に及ばない所を音楽のBGMでカバーをする作戦。
オープニングの夢を追う情熱テーマ、エンディングでは夢破れし現実のテーマ。
BGMはどれだけ作品を書いても評価されない現実の絶望感をメロディーにしている。
「っ!!」
綾が息を呑む。
正太郎の脚本を見ているから内容は知ってる。
それでも映画で具体的に見せつけられるとイメージと違う。
先生役のちなみが血反吐を吐くほどの執筆にこめる創作魂。
雨の日も風の日も四六時中書き続ける狂気に震えた。
他の映研メンバーも圧倒されて声も出ない。
――ちなみだからこそ出来る全力の演技だ。
外を舞台として映せるのは早朝と夜だけ。
原稿を送るシーン、筆記具を買いに行ったと思わせるシーン、弟子の食材買い出しシーン等。
日中は屋内で執筆シーンや弟子役の正太郎との会話が主だ。
努力・苦難・最期というストーリーでご都合主義は排除している。
夢と現実の狭間であがき続ける光景には、BGMも合わさって絶望的だ。
綾が恋愛の悲劇を表すなら、正太郎は夢の悲劇である。
――先生が評価されなくて悔しがる弟子。でも評価されないことを正しいと悪戯っ子のように笑う先生。上手くできているぜ。
弟子がなぜ笑っていられるのかと問うシーンも問題はない。
ただの強がり? 純粋に創作を楽しんでる? それとも他に何かあるのか?
それは見てくれる人が自由に解釈をしてくれたらいい。
――あ、ラストシーンはキツイんだよ。精神的に。
視聴中にちなみが正太郎の手を強く握ってくれた。
握り返して覚悟を決める正太郎。
映制メンバーは最後のシーンが来るまでに心の準備を済ませる。
唯はハンカチを両手にスタンバイだ。
「先生!!」
先生が床に臥せて死に目に会う弟子。
手を握って叫ぶ沈痛な面持ち。
これは演技が上手いというレベルではない。
本気でそう感じているのだと映研メンバーの心に焼き付ける。
途切れ口調で楽しかったと口にするシーンがより切ない。
「な、なぜです!? 今も先生の作品は評価されないまま、どうして楽しいと言えるんですか!?」
先生は事切れて儚く夢を散らしてしまう。
現実を突きつけられた弟子が床に顔を伏せて声を押し殺す。
泣くまいとしているのに涙が止まらない。
あの時の正太郎は泣きマネではなく、本物の涙を流して演じた。
だからしゃっくりのような声も、呻くような声も全てが本当のことである。
もらい泣きをしたのは映制メンバーから唯・内場・ちなみ。
映研メンバーから淳平・綾・つかさ・さつき・こずえ・力也。
泣かなかったのは正太郎・美鈴・ヒロシぐらいである。
墓前で先生の遺志を継ぐシーンでエンディングテーマ曲が流れていく。
正太郎がトイレと言って離席し、ちなみも同じくお手洗いで退室をする。
このシーンは生々しくて美鈴でもキツイと感じてしまう。
事実、綾から美鈴に向けて問いかけてきた。
「美鈴ちゃん、あれ演技じゃないよね?」
「一発撮りの本物です。二度もやらせないし今後もないと思って下さい」
「……うんわかった」
綾は色々思う所があっても引き下がる。
本人が自分の意思で決めたこと。
交換日記を通じて知っているから。
「こ、これだがら……っ……かなじぃの……ひっくっ……イヤ……っですぅ……」
ハッピーエンド主義のこずえに精神的な大ダメージ。
力也の胸の中でひたすら泣きまくりである。
「あたし、結構こういうの平気かと思ったのに。死別は反則だ」
さつきがハンドタオルで目元を隠し続ける。
言葉が出せる分だけこずえよりはマシだ。
「南戸、泣きすぎやで」
内場はメガネを軽く上げてから目元を拭う。
少量の涙がどうしても流れてしまうから。
「だ、だってだって!! かなじすぎるよぉ!!」
顔をクチャクチャに泣く唯。
あのシーンは泣かずにいられない。
ピアノのエンディング曲でも気持ちが反映している。
「綾。弟くん、大丈夫かな?」
「きっと大丈夫。ちなみちゃんがいるから」
「なんかもう、全然レベルが違うって思い知ったよ」
「やり過ぎだよ。いつも無茶ばかりして心配かけさせて」
「お姉ちゃんしてるね綾。弟くん、帰った後が大変だ」
つかさは心の切り替えが上手くできている。
怒る綾をなだめてのフォローに回っていた。
「どうだい真中? 美鈴たちが作った映画は?」
「なんというか……本物を見せつけられた気分だ。とても演技に見えない」
「うん。僕も心に焼き付いちゃったよ。まさに美鈴が求める映画を見事に体現していたね」
「……夢は現実に勝てないのか?」
「さあどうだろうね。事実は小説より奇なりと言うし、夢が勝つ現実があってもいいんじゃないかい?」
「う、うん……そうだといいな」
冬に馳せる者という映画は淳平に影響を与えた。
闇雲に夢を追いかけること。
それで夢を叶えられる道へと果たして通じているのか?
その不安が駆け巡ったのは確かである。
しばらくして正太郎とちなみが戻って来た。
綾が怪しむように正太郎を見ている。
それを気にすることなくヒロシの所へ向かう。
「黒川先生がもう少ししたら顔を出せるって」
「わかった。それじゃあ、ここは僕に任せて皆は先にあがるといい。先生の対応もしておくよ」
ヒロシからすれば先生と二人っきりが望ましい。
それを知ってるからだろう。
皆は素直に応じて先に下校をすることにした。
「つーさん、ねーちゃんは怒ってたッスか?」
「そりゃもうカンカンだよ。一応あたしはフォローしたけど」
綾は淳平と一緒に帰ってしまっていない。
お怒りだと聞いて正太郎は困ってしまった。
「あえて反抗でもして喧嘩したほうがいいッスかね?」
「姉弟なんだから仲良くしなよ」
「姉離れで自立の道に突き進むッス。だからねーちゃんも弟離れをして、自分の夢に向かって頑張れって話ッスよ」
「おー偉いね弟くん。もう進路の事とか考えてたりするんだ」
「当然ッス。ねーちゃんを超える先に進路が待っている。実に楽しみッスよ」
「それはいいけど、後ろで彼女が待ってるよ」
「ご指摘どうもッス。じゃあお疲れッス」
「うん、バイバーイ弟くん」
つかさから離れてちなみの所へ行く。
耳元でボソッと一言。
「好き」
校内で好意を聞くとは思わなかったのだろう。
ちなみがポッと頬を赤らめた。
「唯は勇の所だろうな。内場は美鈴と帰るんだろ?」
「せやで。ほなお先に行くわ」
「明日の本番頑張ろうな。美鈴もまたな」
「……」
「なんだ? オレの顔に何かついてるか?」
「別に何でもないわ。貴方、帰るわよ」
こうして他のメンバーも先々と帰っていく。
正太郎はいつも通りにちなみを家まで送る。
その最中の帰路でぼやいた。
「帰ったらねーちゃんのお怒りが待ってそうだ」
「それはしょーくん、仕方ないんじゃないかな?」
「ちなみがいるから大丈夫。ねーちゃんは弟離れしろって言って聞くかどうか」
「それはお姉様がちょっと可哀想だよ」
「自立は促したほうがいい。お互いに恋人もいる訳だしそっち優先で」
「それでもお姉様にとって、しょーくんは大切な弟なんだよ」
「……明日の本番、動画部としてベストを尽くすのみ。ヒマできたらちなみと嵐泉祭を楽しみたい」
「もちろんだよ。一緒に楽しもう」
一方、姉の綾は淳平に家へ送ってもらっている最中。
お互いに黙り込んだままだ。
その表情は物思いにふけっているように見える。
しばらくして淳平から重い口が開いた。
「夢を形にできて嬉しいのに。なんかスゲー悔しい」
「……淳平くん、弟の演技どうだった?」
「オレなんて足元にも及ばないって思ったよ。比べたら全然違うんだ。オレ頑張ったつもりなのに綾の弟はそれ以上だった。今も心に焼き付いて離れない」
「うん……淳平くん、私が今まで書いた小説で書かないようにしていることがあるの」
「書かないようにしていること? それって一体?」
「今回正太郎が書いた死別のお話。私は書かないの。もし書いたら心が壊れちゃうから」
「こ、壊れるって……」
「淳平くんは大切な人が亡くなって、置いていかれちゃう人の気持ちを想像できる? 耐えられる?」
綾は悲恋を好むが死別を好まない。
自分に置き換えたら精神を保てる自信がないから。
無論、死別の物語そのものを否定するつもりはない。
そういう物語を作る覚悟と割り切りができないだけだ。
「正太郎って物語のキャラになりきって書くから感情移入が激しいの。だから死に別れも本気でやって、心に傷を負うほどに無茶をしちゃって」
「だとしたら、あのラストシーン。やっぱ演技じゃないのか?」
「本気だよ。正太郎は本気で大切な人を失った気持ちでやったの。美鈴ちゃんは二度とやらせないって言ってたよ。美鈴ちゃんも辛かっただろうね」
「……オレでは敵わない訳だよ。そこまでの覚悟なんてオレにはとても無理だ」
「ううん、あれはやらないほうがいいよ」
「……勝てるかなオレたち?」
「わからない。決めるのは映像コンクールで審査する人だから」
淳平は負けるかもしれないと思っている。
自分たちの作品と比べると演技のクオリティが段違いだから。
夏に冬の演出という不利な状況で撮影をした映制。
その苦労は並大抵なことではなかっただろう。
帰った後、しばらくして綾の部屋前に交換日記とメモ用の付箋が貼られていた。
付箋にはお互いに悔いのない嵐泉祭にしようと書かれてある。
綾は自分の部屋で交換日記を開いてみた。
映研に勝ち、姉を超え、己を磨き、進路へ突き進む。
覚悟を決めて如何なる困難が待ち受けても立ち向かう。
自立の道を目指す弟の本気がメインで書かれている。
――この日記もいつか終わりが来るんだね。
幼い頃からずっと続けてきた日記。
心のどこかで分かっていたこと。
姉離れをする正太郎を寂しくもあり嬉しくもある。
弟の成長が早い。
時の流れはアッという間だ。
綾は日記に返事を書いて正太郎の部屋の前へ置いた。
昔にこうしてやり取りをしたのが懐かしみながら。
物音に反応をして正太郎がこっそりと受け取り中身を確認する。
――ねーちゃんが卒業したらこの日記を終わりにしようと来たか。それは妥当だ。
無茶をする正太郎に文句を言いたいのは山々。
でも自分からは何も言わない。
ちなみに正太郎を任せているから。
進路のことは姉として見守っていくようだ。
――よし説教は免れた。オレの書いたことの本気が伝わって何よりだぜ。
あれこれ口出しをされると反抗したくなるので先手を打った。
自分の事は自分でやる。
失敗をすることもあるが、それは次へ活かす材料にして改善をすればいい。
そうして今があるのだから見守ってくれるだけで充分だ。
――あ、カントクのことは余計なお世話って反抗的だな。
姉からもっと積極的に淳平へ甘えたほうがいい。
それこそ大胆に押し倒して襲うぐらいがちょうどいい。
そんな感じの意見を書いたがお怒りの文面で返されていた。
――反抗できるぐらい元気なら上等だぜ。
日記を終えるタイミングは正太郎も了承。
寂しくないといえば嘘になるが成長の証と思えばいい。
内場の二次創作を卒業したのもそうだったから。
………………。
…………。
……。
嵐泉祭の当日。
上映会で借りている教室の入り口付近。
そこで接客をするのが綾とつかさ。
水着にエプロンで男子たちを引き寄せて映画視聴へと導く。
その補佐をするように接客をするビジネススーツに伊達メガネを掛けた淳平。
よく似合っているようで女子から好評だ。
室内で受付をする水着エプロンの美鈴とスーツの内場。
あまり動かないので体力に自信のない内場でも接客が可能。
スーツ姿のヒロシは上映の操作担当。前髪に隠れても念の為にオシャレな眼鏡を付けている。
屋外に立てた動画部の大型パネル前で呼びかけはさつき・力也・こずえがしてくれる。さらに無所属の天地もスーツとメガネで自主的にお手伝いだ。
着ぐるみの見回り宣伝隊は正太郎・唯・ちなみ。
イヌ・クマ・ネコの着ぐるみに動画部のプラカードを持つ。
着ぐるみ状態では喋らないルールを守る。
正体が隠れている事と祭りの雰囲気に当てられ、普段と違う事をしてみたい。
正太郎はヒーローがやりそうなポーズを取る。
唯もカッコいいと思われるポーズで対抗。
ちなみがマジメにやろうと二人にプラカードを見せつける。
ペコペコと頭を下げるイヌとクマの着ぐるみがいた。
そして決められたルートで手分けをして宣伝活動を行なっていく。
………………。
…………。
……。
海外から帰国をした東城遥。
白シャツに黒系カーディガンを羽織り、ボトムスは裾スリットが入った黒系ズボンのストリートスタイルだ。
嵐泉祭の大きなゲートを潜り、動画部の大型パネルで呼び込みをするさつき達に場所を尋ねる。
言われた通りに校内へ入っていくと、イヌの着ぐるみと鉢合わせをした。
「あ、動画部の映画を見たいのだけど?」
イヌの着ぐるみが周りをキョロキョロして落ち着きがない。
まるで助けを求めているかのような挙動不審。
そしてプラカードを片手にあっちを指した。
「ごめん。ここ来たの初めてだから。外で呼び込みしてた子に、分からなかったら着ぐるみの子に案内してもらってって言われてるんだよ」
イヌの着ぐるみは大きく頷いた。
歩き出すので後ろをついて行く。
「親戚が映画の脚本を書いたって聞いて、ずっと楽しみにしてたんだ」
「……」
「親戚は姉弟で二人いて、夏の映画を姉が、冬の映画を弟が書いて。どっちも見るつもりだよ」
「……」
「あ、ごめんね。聞き流してくれていいから」
廊下の人混みが激しく遥が男子生徒とぶつかった。
お互いに謝って男子が詫びにお茶を誘うと、イヌの着ぐるみがプラカードで遮る。
先約はこっちだとジェスチャーで主張。
遥もそれに乗って詫びは不要とあしらい案内を続けてもらう。
「今のはポイント高いよ。割り込みのタイミングもバッチリ。キミ、モテるでしょ?」
イヌの着ぐるみは横にブンブンと振った。
「照れなくてもいいよ。今時の高校生にしては純情だね」
遥は楽しそうに笑う。
イヌの着ぐるみが上映の入り口をプラカードで指し示した。
やや離れているが充分に見えるので問題はない。
「ありがとう。お仕事頑張ってね」
イヌの着ぐるみは大きく頷いてから去って行く。
スタスタと急ぎ足で忙しそうだ。
入り口付近に水着エプロンの綾がいる。
そこへ前触れもなくボディータッチの挨拶をかます。
「きゃっ!! あ、遥お姉ちゃん来てくれたんだ!!」
「久しぶり綾、そっちの君も久しぶりだね」
「あ、はい。お久しぶりです」
淳平の事も覚えている。
あの時よりも体の成長が見えた。
正太郎がいるか気になって綾に確かめる。
着ぐるみで見回りの宣伝かつ案内中だと伝えると。
「綾、プラカードを持った可愛いイヌの着ぐるみさんに礼を言っておいてよ」
「プラカードって私たち動画部の?」
「そーよ。その子に助けてもらったからね」
どの着ぐるみに誰か担当しているかを部員は把握している。
イヌは正太郎だが、嫌っている遥を助けることが想像できない。
何らかの心境の変化があったのかもしれない。
「両方見るつもりだけど、今の時間帯は綾が書いた映画?」
「うん。あ、遥お姉ちゃん。悲しいお話とか大丈夫?」
「全然平気。ホラーのグロテスクでもイケるクチよ」
「そういうのはないけど……正太郎の書いた映画、ラストがちょっと厳しいかもしれないから」
「それも含めて楽しみに見せて頂戴」
遥が上映する教室へ入っていく。
その直後にネコの着ぐるみに案内されたのはーー。
「あ、中間くん。久しぶりだね」
「はい。師匠のお姉さん。両方いい……ですか?」
「無理に敬語で言わなくても大丈夫よ」
「うん。どっちも楽しみで来た。すっごくワクワクしてる」
「悲しいお話は大丈夫? 泣いたりするかもしれないけど?」
「な、泣くのは恥ずかしい。でもハンカチ持ってるから」
中間の入場を見届けてネコの着ぐるみは持ち場へ戻る。
次はクマの着ぐるみが勇を連れて来た。
見周り宣伝を済ませた後にバーデン喫茶の演奏が予定されている唯。
その間の勇はフリータイムなので映画に誘ったようだ。
こうして午前中の客入りはかなり順調な滑り出しとなっていく。
………………。
…………。
……。
夏に歌う者の映画で感動的に泣き、冬に馳せる者の映画でトドメを刺す二段構え。
両方を合わせたら涙を流さずにいられない。
遥・中間・勇の心に焼き付ける。
遥は夏の映画の幻想と冬の映画の現実で両方ともにしてやられた。
中間は夏まで我慢したが、冬の過酷に夢を追うシーンで耐えきれず。
勇が一番よく耐えたが、冬のラストシーンとエンディング曲でトドメとなった。
投票においては夏に歌う者が数で有利。
ヒロインの魅力や幻想的な演出で好評。
台詞がやや少なめの主人公に物足りなく印象が薄いと批評もあった。
冬に馳せる者は投票の数がやや少ない。
ラストシーンが演技に見えなくてヤバいと大多数を占める。
投票率低下の要因は、軽音楽部やブラスバンド部などの催しと時間が重なり客が流れたからだ。
「美鈴、こないなるから投票を勝負に入れないようにしたんか?」
「もし入れていたら、仮に映像コンクールで勝っても、投票で負けて引き分けなんてふざけた結果になったでしょうね。そんな中途半端な結果、あたしもアイツも許さないわ」
「白黒ハッキリつける気満々やな」
客入りが悪くなったことで受付がヒマになる。
内場と美鈴が出入口を見つめたまま言葉を交わす。
ここで内場が思うことを口にした。
「僕らが勝ったら、東城は長年の野望やったお姉さん超えを果たせるんやな」
「そのために色々バカなことやって来たからねアイツ」
「ヒロシさんの写真一枚で、僕に漫画描いてくれって東城に無茶言われた時が懐かしいわ」
「あたしはとんだとばっちりよ。思い出すのも恥ずかしい」
「……こうやって漫画以外のことをやってみるのもええもんや。東城が言うとったで。創作以外をやることで、心の視野が広がってレベルアップするって。何となく分かるわ。小説と漫画で畑ちゃうけど似たようなもんやろ」
「付き合わせちゃって悪いわね」
「僕が選んだことやから気にせんでええよ。漫画はいつでも描けるけど、こうやって高校で部活やれる期間は限られとるやろ? せやから今しか出来ないことをやるんや」
確かに映制は今しか出来ないことである。
その言葉は美鈴にとってはかけがえのないもの。
だからこそ全力を尽くして最高の結果を出していきたい。
「むむむ、これはマズイ」
ヒロシが危機感を抱いて呟く。
集客率で1位を目指したいのに不安が拭えない。
現在のトップはどの部にあるのか?
それを偵察してもらうため、正太郎とちなみに連絡をして指令を下す。
着ぐるみでは目立つため、通常の状態でカップルの潜入調査を行なう。
「これでちなみと嵐泉祭を見て回る大義名分を得た。何かあってもヒロシ兄さんの指示だからと言える」
「えへへ、しょーくんとデートだ」
「唯はバーデン喫茶で勇と演奏だろ? 事前報告は済ませてるよな?」
「うん大丈夫だよ」
「唯、勇さんと待ち合わせしてる?」
「うん、バーテン喫茶の近くで待ってもらってるからもう行くね」
着ぐるみを脱いで通常状態の唯が元気に走り去っていく。
見回りの疲れなど微塵も感じさせない。
それだけ勇との連弾を楽しみにしているのだろう。
「集客率が高い部となると、軽音楽部とブラスバンド部で間違いない。この二強が激戦を繰り広げていることは既に把握している」
「なんで知ってるのしょーくん?」
「ヒロシ兄さんは客寄せで一番を目指している。それなら他所の部で集客率が気になるのは当たり前。でも上映の操作担当でヒロシ兄さんは動けない。ならばオレたちに偵察が回ってくるだろうと先読みし、着ぐるみの見回りついでに、遠巻きから下見をして回ったんだ」
「ずるい!! わたしも調査したかった!!」
「今から潜入調査になるだろ。そこで協力よろしくだぜ」
「わかった。じゃあ腕を組んでもいいよね?」
「むしろ組んでもらって牽制しよう。今回は外部の客もいるから尚更だ」
左腕を預けるとちなみがくっついて胸を押し付ける。
以前よりも少し大きくなったのかもしれない。
見回りの疲れを気に掛けつつ歩調を合わせた。
「そもそも回転率の悪い上映会で集約率のトップを狙うのは無謀だ」
「そうなの?」
「ほら上映の席は教室で限られてるだろ? それに比べてライブハウスの観客は教室の席よりも圧倒的に数が多い。上映中は席が埋まって缶詰状態だから新しい客は入れないし。その点、回転率のいい飲食の出店は有利だろうな。競争率も激しいけど」
「ドキドキ上映会は失敗するってこと?」
「オレには意味不明な作戦にしか思えないが、美鈴が女子の集客率を高めるビジネスマンの作戦を駆使してもトップは不可能だ。まだ3位以降を目指すほうが可能性は出てくる」
「3位になったら10万円の賞金が入るみたいだよ」
「それなら1位は?」
「20万円と特権」
「2位は?」
「15万円」
「4位は?」
「5万円。それ以降は賞金なし」
「5万円ずつの引き算か。じゃあ3位と4位の可能性がある部を見に行こうぜ」
「りょーかい」
屋外で客入りが良い飲食の出店はラグビー部の焼きそば。
定番の鉄板焼きは人気で安定感がある。
ひとつを注文をしてちなみと一緒に試食をしてみた。
「祭りの焼きそばって雰囲気も含めて美味く感じるから不思議だ」
「うんおいしー。これなら上位に入ってもおかしくないね」
「次はサッカー部の唐揚げに行こう。こっちも定番メニューとして人気が高い」
「わー、女性客が多いね。きっとサッカー部員に美形の男子が多いからだよ」
「こうなると男性客が行きにくくなるからラグビー部が有利かな? あ、でも唐揚げはいい味してる」
「どれどれ……うん、サクサクしてておいしー」
「あとはスイーツ系が上位に来るはずだ。テニス部のグレープが絶賛されているからそこへ行こう」
「しょーくん、見回りの時にそこまで調べたの?」
「ヒロシ兄さんの先読みは建前で、本音はちなみと一緒に出店巡りを楽しみたかったから」
「さも当たり前のように言っちゃうしょーくんがズルい」
「慣れろ。それじゃあスイーツの偵察へゴーだ」
テニス部は男子部と女子部が協力しあっている。
男子の職人芸のようなトッピングと女子の売り子による客捌きの良さ。
お互いの持ち味を引き出して、男女問わずに人気を高めて回転率もいい。
「グレープめちゃうま!! 投票できるならテニス部に一票だぜ」
「作ってる所を見られるのって安心するよね。トッピングがすごく手際良い」
「ここが一位でも納得できるレベルだ。あとで美鈴や内場にもおススメしておこう」
「そうだね。これで飲食の上位は全部回った?」
「ああ。オレが観察する限り、軽音楽部とブラスバンド部で1位か2位の争い。3位はテニス部、4位はラグビー部になると予測するぜ」
「わたしたち動画部はランキング外だね」
「ご覧の通り、テニス部やラグビー部のほうが集客率が良い。ハッキリ言ってテニス部の連携プレイには敵わない。ラグビー部に勝負を挑むにも定番の鉄板焼きでは分が悪いぜ」
「集客じゃなくて、中身で評価しての投票だったらいいのに」
「仕方ないさ。とりあえずヒロシ兄さんには現実を伝えに行こう」
上映中のヒロシは手が空く。
その時を狙って一時的な退室を促す。
万が一に備えて淳平をヒロシの代わりに置く。
階段の踊り場で理路整然と話す正太郎に補足で相方をするちなみ。
「回転率の悪さを補うには数を増やすしかない」
「だったらしょーくん、体育館で上映会するのは?」
「無理だよちなみ。あそこは実績のある他所の部に優先権があるから。オレたち動画部が割り込む余地はない」
「そっかあ。まだ何にも実績ないもんね。去年は散々だったようだし」
「それは言ってやるな。誰だって黒歴史のような失敗はある。あえて触れてやらないのが優しさってヤツだ」
「キミたち容赦ないね、アハハ」
「ヒロシ兄さんは悪くないよ。去年はねーちゃんがケガをした事情があるとはいえ、内容を捻じ曲げたのは間違い。あと変更を認めたカントクの責任だ。ヒロシ兄さんは忠実に自分の役目を果たしたと思う。実際、カメラワークにおける演出面は良かったし」
今年は潔く負けを認め、来年に向けて頑張ってとエールを送る。
それでもヒロシは諦めたくないのだろう。
いっそのこともっと脱がせればと危うい事を口走っている。
さつきに電話をしてこの場に召喚。
空手の寸止め一撃でヒロシを瞬時に黙らせた。
さらにちなみの女王様口調で、ヒロシの耳元に冷たく脅しをかけて鎮圧。
まるで尻尾を振る奴隷の犬みたいな変態となる。
「何をしたちなみ?」
「べーつーに」
「あ、手間をかけてさせてごめんなさっちゃん」
「気にしてないよ。気晴らし程度に思っておくさ」
「どうしよう? ヒロシ兄さんこのまま捨て置く?」
「放っておこうよ。楽しい妄想に浸ってるみたいだし」
「という訳でオレたちは去るんで、さっちゃんも適当にどうぞ」
「あいよ」
上映会で留守を預かる淳平の所へ向かう。
ヒロシのことを説明すると迷惑をかけて申し訳ないと謝ってきた。
映研の部長として責任を感じたのならば成長をしている。
「いいっスよ。美鈴曰く病気みたいなものらしいんで」
「病気扱いされてる外村って……」
「とりあえず報告は以上なんで、また何かあったら連絡どうぞッス」
「わかった。わざわざありがとう」
今度は受付の美鈴へ兄の無理難題を報告。
あんな変態の言うことは聞かなくていいと切り捨て返答。
これには内場も苦笑い。
「上映で集客トップは確かに厳しいわね。それこそ体育館を借りるぐらいじゃないと」
「オレも美鈴に同意見。体育館には演劇部や空手部など実績のある部が占領しているぜ」
「実績もない動画部では話にならないわね」
「そういうことだ。今回は映画勝負に専念すればいいんだよ。そこに集客まで欲張ってやろうとするからこうなる。二兎を追う者は一兎をも得ずだ」
「美鈴、お兄さんにちゃんと現実教えてあげなよ。今回はしょーくんと出店巡りができたら良かったけど、もし楽しんでいる所にお兄さんの身勝手なワガママで邪魔をしてきたら……」
「わ、わかったからちょっと抑えて」
「ビビってまうから東城なんとかしてや」
美鈴と内場の顔色が真っ青である。
正太郎はそっとちなみの頭を撫でた。
瞬く間にすり寄って甘えてくる。
祭りの雰囲気で気分が盛り上がっているのだろう。
念のために美鈴へ確認を取った。
「お昼は上映なしで休憩タイムだったな?」
「そうよ」
「着ぐるみの見回りに戻ろうか?」
「時間的に中途半端だからそのまま休憩入っていいわ。迷惑をかけたお詫びよ」
「わかった。お言葉に甘えるよ。ちなみ、ちょっと行きたい所があるけどいい?」
「いいよ。一緒に行こう」
「それじゃあ二人とも、残り時間頑張ってくれ」
正太郎が行きたいところは図書室の文芸部だ。
創作家としては見過ごせないところである。
ちなみは正太郎らしいと納得をしたようだ。