青春100% 作:完結の陽炎
文芸部の主な活動として、嵐泉祭では作品を展示したり、部誌を発行しての配布だ。
各部員は詩・俳句・短歌・短編小説などの創作も行なっている。
創作家として新しいことへの探求心と好奇心が尽きない。
血が滾るとはこの事だろう。
展示されている作品や部誌の編集や改変を想像してしまう。
こうすればもっと良くなる。ああすれば面白くなる。
創作意欲が湧いて心の刺激となる。
自分だったらこう書くというアイデアにも繋がる。
――お宝の山だ!! ひゃっほー!!
童心に帰るような無邪気な眼差し。
活き活きした読書タイムで有意義なひと時。
これで紅茶の一つでもあれば言うことなしだ。
――さすがにそれは贅沢。それにしても真紀の名前がある人の作品はノスタルジックな作風だな
姉と趣味が合うのかもしれない。
幻想的な描写がお好みのようである。
手帳で速記してのメモ書き。
スマートに情報を確保して記録に残しておく。
お宝を発掘するようで楽しんでしまう。
――ほうほう、部長の作品もいいな。詩や俳句・短歌とか創作に活かせるから今度やってみよう。ネットで色々調べられるし、図書室や図書館の本もあるし。
他の来客と比べて異端な雰囲気があったのだろう。
大抵は長居をしないが正太郎は別格だ。
そこで店番をしているショートカットの女子生徒。
ちなみが先回りをして作品の感想を伝える。
褒められると女子も喜んで応対をした。
理知的な印象のある男子生徒は上級生で文芸部の部長だ。
話し掛けられたので後輩口調で応じる。
正太郎から映像は文学を越えられないかで議題を提示。
自信をもって越えられないとハッキリ言ってくれる。
「やはりそうっスか」
「君はどう考える?」
「読者が無限に広げる想像力と固定化される映像ではギャップが生じて当たり前っス。原作小説で漫画やアニメ、ドラマにしても評判が悪くなりやすいのはそこだと考えるっスよ」
「同感だ。別に漫画や映像の文化を否定するつもりはない。だが比較するのであれば、文学を上回る映像はないと言わせてもらう」
「小説と脚本は勝手が違うから実際にやってみると物凄く大変っスよ。映像にするための脚本は、人や場所や時間などで制約があるし、演技する人の配慮もいるから気を遣うっス」
「君はどの部活に所属している?」
「今年新しく作られた動画部っス」
「なぜ文芸部ではなく動画部に入った?」
正太郎は今日に至るまでの経緯を語った。
才能のある姉を超えるためにどれだけの修行を積み上げてきたかを。
そして映像コンクールで決着をつけることを。
「幼い頃からの野望っス。姉を超える小説を書く。まさに下剋上の精神っスよ」
部長はもったいないの一言を返す。
本当に姉を超えるつもりならば文芸部で切磋琢磨をすればいい。
お互いに協力または競争をして技量を高め合えばいい。
脚本という制約のかかった状態で書いて満足ができるのか?
それで本当に姉を超えたと納得できるのか?
「言い分はごもっともっス。ねーちゃんが文芸部に入っていたら、オレもここでねーちゃんに創作の勝負を挑んでいたと思うっス」
「君がここに来たのは何故だ?」
「一人の創作家として文芸部に興味を持つのは変っスか?」
「そこまで興味があるのなら入部も検討するといい。部長として歓迎する」
「逆の立場ならオレも同じことを言うっスよ。オレは創作家として相手の視点をよく意識するんで。文芸部部長、映像の文化を否定しないのなら、一度動画部の上映を見てほしいっス。夏に歌う者と冬に馳せる者、映像コンクールに応募済みで、順位が上であったほうが勝ちのルールっスよ」
「ふむ……もし君が協力した側が勝てば、君は姉を超えたとして考えるんだね」
「オレだけの力ではないのは重々承知。でもそれはねーちゃんも一緒っス。同じ土俵で戦ったことに変わりないっスよ」
「なるほど。もし勝てたら君はどうするんだ? 動画部に協力する理由がなくなるだろう?」
正太郎は先行きのことを考え天地の忠義について語る。
秘書・英語・パソコンの資格を狙って勉強をすることも。
そして秘書の仕事をもっと幅広く学んでみようと思っていることを。
「素晴らしいビジョンだが、それは今でないと出来ないことか?」
「……なるほど。資格や仕事は後でも出来るけど、文芸部は学生の時しかないという意味っスね?」
「そうだ。君はまだ一年だろ? 進路に向けて行動するには些か焦りすぎじゃないか?」
「秘書の実務経験を積むチャンスは逃したくないんで。でもまあ長い目で見れば、仕事も今すぐってのは確かに焦りすぎっスね」
「よく考えるといい。ああ、映画は見に行かせてもらうよ」
正太郎は貴重なアドバイスとしてお礼を言う。
部長もいい話を聞かせてもらったと気難しい顔で答える。
お互いに話の区切りがついた。
ちなみも真紀という女子生徒との雑談が終わる。
こうして文芸部の展示会から離れていく。
「ちなみ、文芸部の部長から勧誘された」
「聞こえてたから知ってる。真紀先輩も歓迎するって」
「さすが文芸部を束ねる人だけあって頭がいい。本質をよく掴んでいる人だ」
「わたしイラストを趣味にしているけど、詩と相性良さそうだなって思った」
「確かに。前向きに検討するか」
「動画部との掛け持ちも考えてみたら?」
「そうだな。それも視野に入れて考えてみるか」
午後の上映で文芸部の部長と真紀が見に来た。
両方の映画で真紀が泣きまくり、部長は表情が固いままだ。
部長は脚本家の正太郎へ問う。
なぜ先生役のちなみが悪戯のような笑顔を浮かべていたのかを。
いくらコンクールに応募しても評価されないという報われない物語なのに。
「コンクールの審査員に悪戯か? わざと落ちるために手を抜いて創作したとは思えないし、そんな不合理な事をする理由がない」
「見る人の解釈は自由っスよ。あれを悪ふざけを見るか、別の思惑があるかで解釈するのもそちらの自由っス」
「ふむ……」
「笑顔って単語だけでは、どのような笑顔になるかは分からない。人それぞれで想像すると思うっス。それが映像になって意味ありげな笑顔で固定される。冬に馳せる者の小説だったら、評価されなくても純粋に創作を楽しんで人生を終えたという自己満足的な話になってもおかしくないっスね」
映像は文学を越えられない。
でも映像は文学の新しい解釈を見せてくれた。
文芸部とは異なる動画部の面白さは確かにある。
――この部長ヤバい。物語の審査員をターゲットにしてるのを気付けるだけで充分にスゴイから。
伏線は張ってある。
努力の狂気を過程として見せつけているから。
まともな精神ではないことを表しているから。
表のテーマは純粋に創作を楽しむ先生の自己満足。
裏のテーマは狂気な自分ルールを課した先生の自己満足。
逆張り、捻くれ者、発想の逆転、逆理論、天邪鬼などがキーワードになるだろうか。
――全力創作で審査員に認められないまま人生を終えるのがあの先生の望み。逆に評価されて入賞してしまったら負け。そんな自分ルールを課した裏設定なんて絶対に分かる訳がない。もしこれを見抜けてしまったら、先生と同じ狂気を持つ人ってことになるぜ。
だから見抜けなくて当然であるし、むしろ見抜かないほうが健全だ。
これを作ってしまう正太郎の精神は果たしてまともだろうか?
――個性と思っておこう。異常者扱いはご勘弁だ。
正太郎以上に先生の狂気を演じてくれたちなみ。
そこには感謝しかない。
交代をして良かったと改めて正太郎は思う。
ーーあれが演じられるちなみはオレと同じ個性の持ち主だな。
ちなみの狂気と正太郎の狂気。
似たもの同士で惹かれ合い対等に付き合っている。
後半の午後も着ぐるみの見回り隊として頑張っていく。
嵐泉祭の集客率で結果発表があった。
1位は軽音学部、2位はブラスバンド部、3位はテニス部、4位は動画部。
前半で口コミが広がり後半で視聴に来る人が増大。その追い上げが功を奏して逆転した形だ。
ラグビー部は5位で僅かな差による互角な勝負になっていたらしい。
賞金の5万円はどうするのか?
作戦を考えたヒロシと美鈴の功績として二人に半分ずつ渡すのか?
しかし映画の中身が良かった事も考慮しなければならない。
正太郎が挙手をして発言の許可を得る。
「映研と映制の功績として、お互いの部長に半分ずつ分けて渡す。そして使い道も部長の判断に委ねるのはどうだ?」
双方の部員に異議なし。
淳平が戸惑っていたが部長としての責務を果たしてもらう。
美鈴は部の還元に使わせてもらうことを宣言してから受け取った。
それから何日か経過した後、運命となる映像コンクールの結果発表が待っていた。
………………。
…………。
……。
校内放送で黒川先生から放課後の呼び出しが掛かる。
映研と映制の両メンバーが指定の教室へ集合。
教壇に立つ黒川先生からの発表。
先日応募した映像コンクールの結果が届く。
――ついに来たぜ!! この日を待っていた!!
逸る気持ちを懸命に抑えて待つ。
黒川先生の口からどっちの順位が上かを知りたい。
果たして正太郎の努力は姉の才能を超えているのか?
「おめでとう。映像研究部は努力賞、映画制作部は奨励賞だ」
シーンと沈黙をする部員の面々。
唯が首を傾げて質問をする。
「しょーれいって何?」
「今後に期待して励ますという意味よ。つまり次回も評価される作品を目指して頑張りなさいってこと」
「ほえーそうなんだ……あれ美鈴、じゃあ努力賞と何が違うの?」
「ほぼ同じよ。よく頑張りましたで評価するのは今後の期待への裏返しだから」
「んー、だったからどっちの賞が上なの?」
「肩並べになるから上下はないわ」
「互角ってことだね。どっちもスゴイ頑張ったんだから納得だよぉ」
唯が無邪気に喜びを見せるが淳平の表情は優れない。
どちらの順位が上かで勝負が決まる。
淳平にとっては夢が破れるか否かの瀬戸際だ。
「先生!! どっちの順位が上か教えて下さい!!」
「オレも早く聞きたい。映研と映制、どっちなんだ?」
淳平と正太郎が黒川先生に詰め寄る。
どちらも今後に関わるので真剣そのものだ。
ヒロシが淳平を、ちなみが正太郎で間に入って落ち着かせる。
「85作品中、映研は12位だ。そして映制は……」
今までにない重圧が一同にのしかかった。
誰もが固唾を呑んでしまう。
黒川先生の言葉を聞き逃すまいと見守る。
そして……その時がくる。
「……11位だ」
刹那、淳平が出口で走り去る。
続いて正太郎も駆け出してしまう。
「淳平くん!?」
「しょーくん!!」
綾とちなみが追いかけるために教室を出た。
残されたメンバーは何とも言えない顔である。
色々と複雑な思いが巡っているのだろう。
グラウンドの隅っこにある物置小屋。
ここから映研が始まった思い出の場所。
淳平は小屋の壁に拳の小指側で強く叩きつけ、おでこを付ける。
悔し涙が溢れて止まらない。
押し殺すような泣き声も止めようがない。
その淳平の後ろで固まって動けない綾。
自責の念で一杯に広がる。
ごめんなさいの涙が出てしまい、それが言葉にも出て何度も繰り返す。
顔を両手で押さえて淳平に謝り続けた。
それに気づいた淳平がゴシゴシと自分の顔を拭い、綾の両腕を掴んで強く否定する。
「綾は悪くない!! オレは綾のストーリーで絶対イケると思ったんだ!!」
「で、でも!!」
「努力賞だぞ!! コンクールで表彰されたのは綾のおかけだ!!」
「それでも!! 私たち……負けちゃって、もう……」
泣いた顔の綾をこれ以上見ていられない。
幸せに笑ってくれる綾であってほしい。
その譲れない想いが淳平を突き動かした。
「っ!?」
綾の涙が止まった。
目を見開いたまま瞬きを忘れてしまう。
押し付けられた唇のぬくもり。
紛れもなく好きな人からの口付け。
密かに望んでいた夢が現実となった瞬間である。
一方その頃。
屋上前の階段踊り場に正太郎が立っている。
その背中をちなみが静かに見守っていた。
「……長かった」
天を見上げて目を閉じる。
脳裏に浮かぶのは小さい頃の交換日記。
他愛のない創作もどきで姉に仕返しをしたあの頃。
「ねーちゃんの才能……ずっと憧れてた」
どこまで追いかけても追いつけない。
創作レベルの差を痛いほどに思い知る日々。
それでも姉を超える野望を胸に抱いて来た。
「……ちなみ」
正太郎は振り返る。
夢を見ているかとまだ信じきれない。
もし夢ならずっと醒めないでほしい。
「勝ったな? あの最強ねーちゃんに、創作の才能に満ち溢れるねーちゃんに……オレは勝ったんだよな?」
「そうだよ。おめでとうしょーくん」
ちなみが優しく微笑んでくれる。
もう我慢しなくていい。
素直に喜びを見せてくれていいと。
「やったんだ。オレはついに、ついに……ねーちゃんを超えたんだ!!」
両手を握って大きくガッツポーズ。
そして手を開いてちなみの手を包む。
「ありがとう!! オレの野望を叶えさせてくれてありがとう!!」
ちなみの素晴らしい演技があればこそ成り立った。
それをなくして勝利はあり得ない。
「しょーくんがこれまで頑張ってきたこと。わたしが誰よりも応援してきたよ。しょーくんの望みはわたしの望みでもあるから」
努力賞と奨励賞で互角に渡り合った映研と映制。
どちらが勝ってもおかしくはなかった。
黒川先生から結果を聞くまでは不安だった。
人は嬉しい時にも涙を流す。
それを初体験する正太郎であった。
黒川先生が発表を終えて立ち去った後に残された面々。
片や落ち込みモードの映研。
片や素直に喜んでいいのか戸惑っている映制。
しかし美鈴は違った。
教壇に立ち皆の前で胸を張って言い切る。
「あたしたち映制は先輩方の映研に真剣勝負で挑みました。その事に対して何も後ろめたい事はありません。あたしたち映制が苦楽を共にして得た結果です。誇りをもって正々堂々と、この場で勝利宣言をいたします!!」
映制部長の覇気に当てられて唯と内場が歓声を上げる。
その直後、つかさを始めとして次々と拍手が沸き起こった。
これは敵わない。
負けても悔いはない。
心の底から納得のできる素晴らしい名勝負であった。
「あたし、あの二人の演技を見た時点で負けを認めてたんだ。絶対あたしよりも上手いって思ったからね」
ちなみと正太郎の演技は本物だと認めるつかさ。
ベストを尽くしても圧倒的な実力差を痛感した。
上には上がいるのだとよく分かったのだ。
「お手伝いを沢山したのに負けたのは悔しい。でも相手のほうがもっと頑張っていたんですね」
こずえは裏方として力也と一緒に映研を支えた。
たまに妄想で皆から呆れられたこともある。
でも慣れればムードメーカーみたいで場を和ませてくれた。
「こずえちゃんに励まされて、力仕事モリモリやったけどな。でもしょーがないか」
撮影現場および上映会場の設営で活躍をしてくれた力也。
つかさの指揮でコキ使われながらも充分に働いてくれた。
全てはこずえに好かれるための男心だが、結果的に映研へ貢献をしている。
「いい勝負だった」
清々しい一言で片づけるさつき。
歯を見せるような元気な笑顔。
映研はさつきの活気でどれだけ救われた事だろう。
「ああ、僕の可愛い妹があんな立派に。お兄ちゃんは嬉しいよ美鈴」
感動の涙を流す兄がここにあり。
映研の頭脳として中心部を担ってきた重要人物。
そんなヒロシなくして映研の存続はあり得なかった。
「えへへ。やっぱり映制について来て良かったよ。唯とっても楽しかった」
「えらい対決やったでホンマに。先生から結果を聞くまでは、もうメッチャ不安でたまらんかったで」
唯と内場の喜色満面。
これまでの苦労が報われたのだ。
映制の勝利を心から嬉しく思っている。
そして頃合いを見計らうようにヒロシが言った。
「さて、僕たち映研は負けた。皆、勝った映制の奴隷になる覚悟はできたかい?」
言い方が酷いヒロシに黒板消しが飛んできた。
学ランの制服にヒットしてチョークの粉がついてしまう。
投げたのは美鈴である。
「ひどいな美鈴。制服のクリーニングに手間とお金が掛かっちゃうよ」
「さて、これからの事についてですが」
「無視されてお兄ちゃん悲し――わわっ、チョーク投げようとしないで」
投げる仕草でヒロシを黙らせる。
気を取り直して美鈴は宣告をした。
「決着がつくまで新入部員の募集をしなかった映制ですが、今回の勝利をもって今後は募集をかけていく予定です。現時点で一人名乗り出ている男子生徒がいますので」
唯はニコニコと笑っている。
紛れもなく勇のことだ。
今後の活動が楽しみで仕方がない。
「映画対決の取り決めに従い、負けた映研は勝った映制の傘下に入る事となりますが、その前に先輩方の意思確認が必要です」
ヒロシたちは来年で高校3年生だ。
今からでも進学の受験や就職活動などに取り組んでも不思議ではない。
これを機に部活の引退を選ぶのも一つの道である。
「僕は来年の嵐泉祭までは付き合うつもりだよ。来年こそは集客ナンバーワンを目指したいね。あと映画でも一位を取るために、今度は映研と映制の合同でやってみたいものだよ」
「外村くんに意見に賛成だね。高校時代の部活って今しか出来ないのに、それを辞めてしまうなんてもったいない。絶対あとで後悔しちゃうよ」
「まったくだ。進路なんて後でどうにでも出来るさ。今やれることを精一杯やればいい」
「あたしも今度は皆で頑張っていい映画にしたいです。だから手伝わせて下さい」
「こずえちゃんが手伝うなら俺もやるぜ」
ヒロシ・つかさ・さつき・こずえ・力也が各々の意思を示す。
淳平と綾はこの場にいないが引退をすることはないだろう。
そう簡単に諦める程度の夢なら、ここまで映制とやりあえていない。
「先輩方の意思は分かりました。約二名ほどいませんが、それはまた後ほど確認します」
美鈴はヒロシたちへ更に問いかける。
今後も淳平に監督をやってほしいのか? それとも美鈴か?
傘下に入るつもりならばハッキリとさせておきたい。
そこに納得がいかなければ、結束に亀裂が生じて部活の支障となるからだ。
「僕は是非とも美鈴に監督をやってもらいたいね。それが真中のためでもあるんだよ。正太郎くんも同意していたけど、真中には美鈴という模範が必要だと思うね」
ヒロシは全面的に妹推しである。
美鈴を見習って必要なことを学ぶべきだ。
それを卒業した後で活かせば無駄にはならない。
「あたしは外村の妹が気に入ったよ。あの堂々とした勝利宣言には心が痺れたね。真中は決して悪いヤツじゃないけど、どうにも頼りにならないんだ。色々と詰めも甘い」
さつきは言いにくい事であっても正直に言う。
そのサバサバした性格で周りと打ち解けているのだろう。
美鈴と気が合いそうだとさつき自身は感じていた。
「あ、あたしも美鈴さんがやったほうがいいかなって。それで真中さんの為になるなら」
「俺はこずえちゃんが希望するほうについて行くぞ」
来年で最後となるなら悔いのない活動にしたい。
その気持ちもあって最高の結果を出せる可能性に賭けたい。
淳平にもメリットがあるならそのほうがいいと考える。
力也は言わずもがな。
「勝ったのは美鈴ちゃんたちだからね。美鈴ちゃんが上に立つことに異議を唱える人なんていないよ。あたしも含めてね。ただ真中くんと綾はどうだろうね?」
つかさは綾から耳ダコになって聞かされている。
淳平の映画監督を目指す夢のために映研を立ち上げたことを。
その夢を応援するために綾は脚本を書いていることを。
映制の下で美鈴が監督になる事を二人は受け入れられるのか?
負けたのだから勝ったほうに従うのは道理。
理屈はそうでも感情で納得をするかどうかは別だろう。
だから美鈴は先輩方に尋ねているのだ。
「先輩方のご期待にお応えして、あたしが監督を務めるつもりですが、西野先輩が仰るように確認できていない方がいますので、この件はしばらく預かります。まだ身の振り方を考える猶予はありますので、後悔しない決断をされることを祈ります」
リーダーシップが備わる美鈴を目の当たりにするヒロシたち。
上に立つ者としての責務を真っ当してくれる。
それゆえのカリスマ性。
この人なら安心してついていけると思わせる魅力がそこにあった。
「美鈴、唯たちのこれからはどんな活動をするの? 新入部員の募集?」
「そうしたいのは山々だけど、先ほど言ってるように現部員の猶予は必要よ。それに先輩方の修学旅行も控えているから当面は自由行動となるわね」
「そっかあ、修学旅行いいなぁー」
唯が修学旅行を羨ましがっている。
来年になれば唯たちが行くことになるからそれまでのお楽しみだ。
それはそれとして内場が挙手をして発言をする。
「僕ちょっと思ったんやけど、対決のために動画部で名目を置いとるやろ? せやけど今回で決着がついたんやし。動画部から映画制作部へ部活の名前を変えてもええんとちゃうか?」
「それじゃあ映像研究部が無かったことになってしまうでしょ。先に立ち上げてくれた先輩方への感謝と配慮がないわよ」
「確かにそうやな。せやけど映画制作部みたいな分かりやすい名前は思いつかんで」
内場が悩ましそうにすると美鈴から思いつくものがあると言う。
それに興味を持つヒロシたちが続きを促す。
美鈴はしっかりと答えてくれた。
「映像研究部の映像と映画制作部の制作を合わせて映像制作部。略したら映制になってしまうけど、そこは勝者のケジメとさせてもらいたいわ」
これにはヒロシたちも感心の声が上がる。
コンセプトもわかりやすい。
美鈴はこの場にいない淳平と綾のために、部活名も含めて先輩方に伝達をお願いしておく。
それらを踏まえて従うか退部をするかを選んでもらうためだ。
「あたしは後輩へ受け継がれる良き部にしたいと考えていますので、校内の部室確保は優先しておきたいです。今の部室は反則のようなもので、先輩方が卒業したら使えませんから」
「あー確かに。もうアレってどう見ても部室のレベルじゃないよね」
つかさが笑いながらツッコミを入れる。
元々さつきのために天地が用意したものだ。
そのさつきが卒業をしたら使えなくなると思ったほうがいい。
いつまでも天地の厚意に甘え続ける訳にはいかないから。
「その辺りは僕に任せてよ美鈴。努力賞と奨励賞の結果を出したことで、部室の優先権を得ているから上手くやる自信があるよ」
「……変なマネしたら、北大路先輩に頼んでお仕置きしてもらうから」
「お兄ちゃんを信じて!! 変なことなんてしないから!! 北大路はウォーミングアップやめて暴力反対!!」
そんな楽しげな場の雰囲気がある中。
ちなみが一人で戻ってきた。
そして美鈴に向かって報告をする。
「美鈴、しょーくんは今後の身の振り方を一人で考えたいから先に帰るって」
「……わかった」
「え? 身の振り方って……しょーたろ辞めちゃうの?」
「南戸、東城はお姉ちゃんを超えるために映制へ協力したんやで。今その目的を果たしたんや。先のことを考えるのは当然やろ」
唯がヤダヤダと駄々っ子になるのを落ち着かせる内場。
ちなみは正太郎の意思を尊重したい構え。
それは美鈴も同じで本人の問題だからと受け止めた。
ヒロシたちも口出しはせずに見守ってくれる。
「それじゃあ、このぐらいで解散としましょう」
美鈴の解散宣言で部員一同は教室をあとにする。
それと入れ違いで淳平と綾が戻ってきた。
誰もいない教室に二人は帰るしかない。
「淳平くんって携帯持ってないよね?」
「綾も持ってないよな?」
「うん。私、物を落としやすいから携帯持つの怖くて」
「オレは外村たちが持ってるから。あまり必要性を感じなくて」
いつも通りの帰路で綾を家まで送る。
綾のほうから積極的に手を繋いでいく。
お互いにファーストキスを交わしてからの変化だ。
淳平は照れながらも握り返して応じる。
今日は何も考えずにゆっくり休むで話し合い済み。
気持ちの整理をつけるためにも必要な時間だ。
こうして様々な思いを胸にその日が過ぎていく。
………………。
…………。
……。
東城家の食卓は静かだった。
正太郎と綾は何も喋らず口も開かない。
喧嘩でもしたのかと両親が心配をしてしまう。
綾はそんなことはないと言って否定をした。
正太郎は食事に専念しているため応じられない。
夕食を終えた姉弟はそれぞれ自分の部屋へ戻る。
「……」
正太郎はベッドで横になって天井を見つめながら考える。
映制に勝利を捧げたことの喜びは格別だった。
決して一人の力ではない。
皆の力を合わせて勝てたことが嬉しかった。
――純粋なタイマンでの小説勝負だったら結果は違っていただろうな。
文芸部の部長とのやり取りを思い出す。
脚本という畑違いの勝負で満足するのか?
本当は純粋に小説で綾と勝負したいのではないか?
――確かに。ねーちゃんを超える小説を書くのはオレの野望。
美鈴から映制を通じて勝負をするチャンスをくれた。
たとえ脚本という違った形であろうとも姉を超えたかった。
だから映制メンバーとして今まで協力をした。
――楽しかったな映制……文芸部でこんな楽しい思いをするだろうか?
文芸部は個人で作品を生み出す。
映制のように各自で協力をして一つの作品にする訳ではない。
個人創作と集団制作の違いだ。
――でも文芸部には文芸部の良さがある。どっちも今しか出来ない部活だ。
文芸部の部長から勧誘を受けて説得力もあった。
進路や資格の焦り過ぎは全く持ってその通りである。
興味のある事に即時に反応をして食いついてしまいがちだ。
――映画制作部と文芸部、どっちを選ぶ?
未知の文芸部に興味が傾く。
既に経験をして姉超えを果たせた映制を退部するのか?
映研メンバーが加わるのだから、正太郎がいなくても活動は成り立つだろう。
――待てよ。これって両方選べないのか? 文芸部は掛け持ち不可か?
文芸部に確認をする事項が出来た。
映制も今後の活動日を把握しておきたい。
そうすれば退部を選ばなくてもいい。
美鈴に忠誠を尽くしての活動も楽しめる。
――あの時と考えが変わってる。文芸部部長の勧誘が大きかったな。
文芸部のことがなかったら映制を退部して進路を優先した。
今は進路よりも学生の間しかできない部活を選びたい。
だからといって進路をないがしろにするつもりもないが。
――数学の応用でスケジュール管理を上手くやって資格も取ろう。
もう正太郎の中で答えは出ている。
あとは相手との都合を確認して照らし合わせるだけだ。
そこが交わるならOK、そうでなければNOとする。
正太郎は携帯を取り出してちなみの番号にかけた。
「こんばんわしょーくん、考えはまとまった?」
「おかげさんで既に答えはオレの中にある。それでまず映制の活動を知りたい」
淳平と綾を除いた映研メンバーが美鈴を監督に従う姿勢。
淳平と綾の確認は取れていない。
将来のためにヒロシが校内の部室確保に動く。
先輩たちの配慮で映像制作部の改名となる可能性が高い。
忘れないようにメモの記録を済ませた。
「なるほど。天さんの用意した館は、さっちゃんが卒業したら終わりと思ったほうがいいな」
「うん。ずっと甘えっぱなしはダメだね」
「ちゃっかり映制を維持するところは美鈴らしい」
「映像制作部も分かりやすくていいよね」
「美鈴と文芸部に掛け持ちOKか否かを明日確認するぜ」
「あ、しょーくんも同じこと考えたんだね」
「ってことはちなみも掛け持ち作戦か?」
「うん。文芸部と映像制作部で両方できないかなって思うの」
「じゃあ一緒に問い合わせるか? 面と向かったほうが気持ちが伝わるし」
「そうしよ。明日になったら両方の部に確認だね」
翌日に確認した所、どちらも掛け持ち可として認めている。
やるべき事をやってくれたらそれでいいと。
融通をきかせるから文芸部を優先するよう美鈴が言ってくれた。
そんな気遣いができるからこそ手を貸したくなる。
だから先輩たちの心も一つにまとめられるのだろう。
「美鈴、嬉しそうだったね」
「あれはオレが退部すると思っていたな。文芸部の勧誘を受ける前はそうだったから間違っていない」
「資格の勉強もするの?」
「スケジュール管理で時間配分を計算してみた。割といけるぜ」
「無茶はしないようにね」
「ちなみがオレの体調を鋭く観察できるから安心して修行ができるんだ」
「もぉー、しょーがないな」
「あ、そろそろ本気出してのストレス発散をしたいから、また今度空手でもどうだ?」
「いいよ。空手をしている時のしょーくんってカッコイイんだよね」
「空手は男の闘争本能を刺激するぜ。内場の漫画でも戦闘系が好みだ」
姉超えをしたからといって慢心をしない。
更なる高みを目指そうとするハングリー精神。
ちなみがいなかったら燃え尽き症候群になっていたかもしれない。
こうして正太郎はちなみと一緒に研鑽を怠らなかった。
………………。
…………。
……。
美鈴は来年の映画で何をするのかを決めている。
そのために欠かせないのが淳平と綾だ。
説得をするのなら綾だがタイミングが命。
気持ち良く修学旅行へ行けるように早めの行動が不可欠。
綾の親しい友人であるつかさを呼び出して真意を話した。
「なるほど。美鈴ちゃんが映制の部長である理由がよく分かるよ」
「いい映画を作るためです。あの失敗作のままで卒業されても迷惑ですから。しっかりとリメイクをして責任をとって頂きます」
「うん。あれって本来はもっと悲しくて切ない恋物語だったよね。いいよ、綾にはあたしから口添えをして考えてもらうようにするね」
「お願いします。勝者のあたしから言うのもどうかと思いますので」
「そこまで気を遣わなくてもいいのに。あ、映像制作部の改名はあたしたち賛成だから、ついでにその辺りも伝えておこうか?」
「助かります。西野先輩がいてくれて本当に良かったです」
つかさを通じて綾を説得する作戦を実行。
これにより綾は美鈴の心配りに感動をして協力の意思を固める。
あの捻じ曲げてしまった映画をやり直せるチャンスをくれたからだ。
「綾はOKでも真中くんはどうかな? 部長や監督の立場にこだわって協力しないんじゃない?」
「あっ……」
「綾、美鈴ちゃんの真意はさっき説明した通りだけど、その気持ちを真中くんは受け入れてちゃんと協力してくれるかな?」
「……わからない。でも」
「でも?」
「淳平くんはいい映画作りがしたいから、そのためなら協力してくれると思う」
「とりあえず綾から真中くんに言ってくれない? 返事は今すぐじゃなくていいから、ゆっくり考えてもらうってことで」
「うんわかった。そうするね」
綾から淳平へ話が行き渡っていく。
淳平は身分差の悲恋映画をやり直せることには大喜び。
映像制作部の改名にも気持ち良く賛同。
しかし監督の立場を美鈴に取られてしまうのには躊躇する。
頭で分かっても感情が納得をしてくれない。
考える時間はあると言われたので大いに悩んでいった。
昼休みの階段踊り場。
唯は正太郎が退部しない事と勇の入部で上機嫌だ。
内場が正太郎に向けて語り掛ける。
「東城、文芸部はどないや?」
「改造したい作品が盛り沢山で面白――というのは半分冗談でオレとしては大当たり」
「半分はマジかい!!」
「さすがに著作権は守るって」
「しょーくん、部長さんと部活名について議論していたね」
「そりゃあ部員が少ない原因として真っ先に浮かんだからな。3年生の引退で人数が減るし、部の存続条件である定員5名を下回って潰れてしまう」
文芸部の芸は芸術や芸能人のような敷居の高さを感じさせる。
お堅いイメージで入部する生徒が中々いないのではないか。
そこで創作部という部活名に変えること。
さらに漫画同好会がいるから、創作部へ引き込み、部員の存続条件を維持しやすくする。
漫画と小説のコラボ企画を立てられるし、漫画または小説で互いに二次創作でやり合ってみるのも楽しそうだ。
差別をしない自由な発想をする正太郎だから思いつく案である。
「話のわかる部長で良かったぜ。勧誘しておいて廃部オチは許さん」
「なあ東城、3年引退で残る部員は何人になるんや?」
「部長含めて4人」
「アカンやん!!」
「だから3年生が引退を引き延ばしてくれている。卒業するまでに残り1人を何とかしろって」
「切実やな。漫画同好会は興味あるし、僕も創作部になったら入ってもええか?」
「ああ。ただ……」
「どないした?」
「いや部長がな、創作部として改めるならお前が責任をもって部長やれって」
「それええやん。東城やったら創作部の部長やっても問題ないやろ?」
「オレに美鈴みたいなカリスマはないぜ」
「別にあたしのマネなんてしなくていいでしょ。アンタらしくやればいい」
「そうだよしょーくん。副部長としてわたしがサポートするから頑張ろうよ」
後ほど漫画同好会に話を持ち掛けると大いに喜ばれた。
正式な部として認められることが嬉しいようだ。
正太郎が漫画に対して理解があるのも要因である。
小さい頃から内場の漫画愛好家をしているのは伊達ではない。
後日、文芸部は創作部に改名して、部長を正太郎、副部長をちなみが務めることになった。