青春100% 作:完結の陽炎
泉坂高校の部活は多数にあって競争が激しい。
限りがある部室の奪い合いが起きやすい。
文芸部の評価は芳しくない。
ここ何年かは作品の受賞もない。
創作部と名を改めてすぐに実績が生まれる訳がない。
図書室はお喋り禁止のため、調べ物をするか静かに執筆するかで用途の制限がある。
こぢんまりとした部室は他方の部から狙われていた。
正太郎は様々な部活を調べ回って対処を試みていく。
――ヤバいな。この部室を映制も狙ってやがる。
映像制作部の受賞に比べると創作部は実績のない弱小だ。
いつ部室を奪われても不思議ではない。
創作部の部長として、向こうの要求を断らなければならない。
正太郎は相手方の美鈴へ交渉を行なった。
「受け継ぐ後輩たちの為に、校内の部室を確保したい美鈴の気持ちは分かる。オレもそっちの部員としては賛成だ。しかし今のオレは創作部部長であり、そちらの要求は呑めない立場にある。根無し草になって追いやられる訳にはいかない。オレには部員の居場所を守る責務がある」
映像制作部は天地家が提供している館の部室がある。
さつきが卒業するまでの間は使えることは間違いない。
だから今すぐ奪う必要はなく期限を伸ばして欲しい。
それまでの間に実績を上げて創作部を守る算段だ。
「分かった。北大路先輩が卒業するまでは手を出さないと約束しましょう。でも狙ってるのは他の部も一緒よ。早めに手を打つことね」
「部員確保の次は部室防衛か。次から次へと問題が降って来やがる」
「ボヤかないの。自分で選んだことでしょ。ところでちなみはどうしたの?」
「創作部のパンフレット作りだ。合併した漫画同好会の男子にも手伝ってもらっている」
映像制作部が敵でなくて心から良かったと思う正太郎。
話し合いを終えて創作部の小さな部室へ戻った。
メンバーは全員で5人。
1年生の正太郎とちなみ、漫画同好会の男子はちなみと同じクラスメイト、文芸部の2年生で女子の真紀と男子の前部長だ。
今は真紀と前部長が修学旅行中のため3人だけである。
ここで部室防衛作戦を練るための会議を開く。
「ちなみ、顧問の先生からは次のコンクールで結果を出せなかったらアウトってマジか?」
「うん。次でダメだったら部室の明け渡しをするようにって」
漫画同好会の男子が真っ青になる。
せっかく部室で落ち着いて漫画が描けるようになったのに。
また路頭に迷う活動に逆戻りは嫌だと嘆く。
それを落ち着かせてから正太郎は解決策を模索する。
「オレは写真新聞部と同盟を組もうかと考える。調べてみると、あそこは写真部と新聞部が合併して出来た部活だ。校内新聞の記事に漫画やイラスト、詩や小説などを設けて、そこへ協力すれば向こうにメリットを与えられる。オレたち創作部にとっては、部室を奪われた時の避難場所になるし、創作のアイデア作りにもなるだろう。お互いにとって悪い話にはならない」
漫画の男子は同盟に賛成。
新聞の漫画コーナーがあるなら協力をすると言ってくれる。
ちなみもOKで、あとは修学旅行中の真紀と前部長だ。
連絡メールを送ってどちらも了解を得たので動く。
「写真新聞部の都合を配慮して、同盟に関する企画書を作って渡しておこう。上手く話し合いに持っていけたらいいが……」
「やろうよしょーくん。この一台あるパソコンで作ったらいいんだよね?」
「ああ、文書は言い出しっぺのオレが作るよ。ただこれは最悪を想定しての次善策だ。最善策はコンクール入賞で結果を出すことにある。という訳で皆で戦うぞ」
コンクールへ応募して賞を狙う人海戦術。
漫画同好会の男子には漫画。
ちなみはイラスト。
真紀は得意とする詩。
正太郎と前部長は小説。
それぞれの部門に応じたコンクールへ作品を出す作戦だ。
「この部室を死守する!! マイペースに創作を楽しめるようにしてみせるぜ!!」
その熱い思いで結束を固める。
パソコンで企画書を作成しての印刷。
それを持って写真新聞部の部室へ向かう正太郎。
だが……。
「えー!! そっちも部室を狙われて万事休すかよ!!」
ちなみたちのクラスにいる女子。
顔にそばかすのあるメガネで綾の変装に似た三つ編みをしている。
写真新聞部は実質一人だけで活動をして残りは幽霊部員だ。
「ダメじゃん!! そっち校内新聞で安定してるかと思ったのに!!」
この話は無かったことにしよう。
ガッカリをして立ち去ろうとする。
しかし相手の女子から懇願をされて涙目で助けを求められた。
泣かれても迷惑だから創作部の部室へ来てもらう。
ちなみはその女子と親しい。
授業で同じ班を組んでいる仲だから。
漫画の男子とは同じ小学と中学出身らしく世間は狭い。
「しょーくん、このまま見捨てたら可哀想だよ」
「校内新聞で貢献してるってことで、学校側からの温情はないのか?」
「ダメみたいだよ。新聞の需要がないみたいで」
「まあ、新聞も堅苦しいイメージがあって読む生徒がいないのだろうな」
写真コンテストに応募しても結果は出せていない。
現実は厳しく、簡単に入賞できるほど甘くはない。
正太郎はどうしたものかと思案顔になって唸る。
「しょーくん、創作部に引き入れちゃおうよ。広報活動とかやってもらうといいかも」
「写真や新聞は畑違いにならないか?」
「それも創作みたいなものだよ。細かいことは言いっこなし」
「ちなみはこう言ってるけど、本人の意思はどうなんだよ?」
地味スタイルな女子は創作部へ入る意向を示す。
一人で頑張ってきたけど限界が来ているようだ。
孤立無援というのは辛いものである。
漫画の男子も気持ちが痛いほどに分かるようで引き入れに賛同をした。
「あいわかった。創作部の部員として歓迎しよう。写真コンテストで結果を出してくれたらオレたちも助かるし。広報活動もあったら手伝ってもらうからよろしく」
正太郎としても見捨てるのは後味が悪い。
避難場所の確保には失敗したが、新しい部員が入ったので良しとする。
この事は修学旅行中の先輩たちに報告メールを送って知らせておく。
部活も弱肉強食。
生き残るためには結果を出さなければならない。
――もっとのんびりした雰囲気で創作できるイメージだったのにな。
戦場で必死に生きようとバトルロワイアルをしている気分だ。
天地の部室提供がどれだけありがたい存在だったかを思い知る。
それが無いだけでこれほど厄介になるとは思わなかった。
――これも試練。ねーちゃん超えをしたオレに課せられる新たな試練か。
部室防衛で追い詰められた正太郎。
内場に頭を下げて入部と漫画コンクールの応募を依頼。
クオリティが高いから大いに期待を寄せる。
「えらい大変やな東城」
「ピンチはチャンス。これを乗り切れば更なるレベルアップだぜ」
「こういう時もバトル漫画みたいなノリは変わらんな」
部室と部員を守るためならプライドを捨てる。
最強の創作才能を持つ姉への勧誘をしたい。
でも修学旅行中だから今すぐは無理。
手書きの手紙を姉の部屋であるドアへ貼り付けておいた。
情に訴えた内容で創作部を守るために手を貸してほしいと綴っている。
正太郎自身も頑張るが、少しでも可能性を高めるためだ。
修学旅行から帰ってきた綾。
ドアの手紙を読んでから正太郎の所へ訪問をする。
弟の部屋に入って綾が下した返事は……。
「映像制作部の活動を優先するけどいい?」
「ああ。てっきり断られるかと思ったぜ」
「断ってほしいの?」
「土下座してでも頼み込む覚悟はしていた」
「やめて。正太郎はいつもやり過ぎなの。無茶しすぎってちなみちゃんに怒られるよ」
「今は創作部の居場所を守るために必死で緊急処置とってるんだよ。皆で伸び伸びと創作を楽しむ活動にしたいから、今あるピンチを攻略しなければならないんだ」
「……大きくなったね」
「どっちの意味で?」
「両方」
引き受けてくれて勝てる可能性が高くなった。
きっと綾の小説ならコンクールで受賞できる。
そう思わせるだけ才能を正太郎は誰よりも感じてきたから。
――ま、やるだけの事をやるさ。
綾が夏に歌う者を小説として応募する意向を示す。
それなら正太郎も冬に馳せる者で出してみよう。
これで純粋な小説勝負という形になった。
――タイマンの小説勝負にワクワクしたいけど、部室防衛が優先だな。
掛け持ちのため映制のほうにも顔を出す。
美鈴に聞いた所、淳平は悩んだ末に美鈴が監督でやることを了承。
自分がやるよりも美鈴のほうが上手くやってくれる。
それを認めて美鈴の指示に従う覚悟を決めた。
模範として見習っていくから夢を諦めるつもりはない。
「カントクにとっては苦渋の決断だっただろうな」
「やると決めたのなら容赦しないわ」
「美鈴なら何も問題なく、あの映画のやり直しが作れるだろう」
「他人事みたいに言ってるけどアンタにも協力してもらうわよ」
「するけど時期の配慮はしてくれ」
「随分と大変な事になってるのね」
「知っての通り、部室明け渡しの危機まっしぐらだ。コンクール受賞を目指して部員一丸で奮闘中」
「無理して体を壊すんじゃないわよ」
「そこはちなみが見てくれるから安心だ」
「自分で管理することを覚えなさい」
「善処する」
今の映制は取り急ぎの用はなく時間の融通がきく。
おかげで創作部をメインに頑張れる。
――美術部はどうだろう? 調べてみるか。
美術部に関心を向けてみる。
写真新聞部の女子に調査を依頼した。
その助手として漫画の男子を割り当てる。
携帯の番号も交換しているので連絡も可能だ。
「さすがに美術部は大丈夫だよな? 美術部が潰れるイメージなんてないし」
「わからないよー。もしかしたら廃部の危機になってたりして」
「やめろちなみ。フラグを立てるんじゃない」
真紀と前部長はコンクールに向けて創作活動に専念。
身の回りの雑務は正太郎とちなみがフォローをする。
そして戻ってきた調査員からの報告を聞くが……。
「3年が引退すると、1年女子3人だけが残って廃部のピンチか。実績は3年が受賞しているから、部員問題を解決すれば当面は安泰だな」
女子3人が新入部員を募集して頑張っている。
しかし時期が悪く大抵の生徒は既に他の部活に入っているから芳しくない。
すぐに潰されることはないが美術部存続の危機である。
「イラストができるちなみの出番だな」
「それならしょーくんも一緒に入ってよ」
「絵が描けないオレが入っても仕方ないって」
「幽霊部員でもいいじゃん」
「それは美術部が決めることだ」
「美術部がOKだったらいいんだね?」
「ああ。創作部の避難場所として安定するなら構わん」
正太郎とちなみは美術部の女子たちと話し合う。
お互いの利害一致により創作部と美術部の同盟は成立。
正太郎とちなみが掛け持ちで美術部へ入部をした。
ほぼ幽霊部員になることは向こうも承知の上である。
創作部が部室を奪われた場合、美術室を活動場所にすることにも了承をしてもらった。
なお、美術部の女子たちは1年2組で別のクラスであることを付け加えておく。
「よし、これで最悪の事態になっても部員を逃がせる場所を手に入れたぜ」
「やったねしょーくん。他の女の子がしょーくんに見惚れてる所はムッと来たけど我慢するよ」
「好みの見た目してるのかオレ?」
「イケメンの部長で部員思い、美術部の危機を救った王子様。これで惚れないと思うほうがあり得ないよ」
「実力主義のオレは外見気にしないけどな。別にモテてもちなみが守ってくれるんだろ?」
「もちろん。しょーくんに手出しはさせないから」
「とにかく、これで過度なプレッシャーを受けることなく、コンクールに集中できるぜ」
人は緊張しすぎると実力を発揮できない。
程々に保つぐらいがちょうどいい。
そのための処置ができたことで部長としての責任を果たす。
文芸部の前部長が正太郎に部長の座を譲ったのは、正太郎の問題解決能力を見込んでの事だろう。
それを真紀からちなみを通じて耳にした正太郎。
厄介事を押し付けた前部長は遠慮なくコキ使うことにする。
でも今は作品に専念してもらうしかない。
ある日、書道部からの同盟申し込みが発生。
天地と同じクラスにいる男子の部長だ。
美術部の危機を救った救世主として正太郎の噂を聞いている。
専用の書道室があり、書道担当の教師で顧問にも不自由がない。
そんな書道部でも結果を出せなければ他所の部に居場所を乗っ取られる恐れがある。
書道部の部長も正太郎と同じく最悪の事態に備えたい。
部員数は問題ないので、あとは実績を上げるだけだ。
もし書道室が奪われた場合は、創作部の部室を使わせて欲しい。
正太郎は創作部にメリットがないことを主張。
取引の基本はお互いに得があることだ。
正当な反論で話の主導権を握り、ここから正太郎が得意とする改善策を口に出す。
「創作部・美術部・書道部で三部同盟を提案」
下手な鉄砲も数を撃てば当たる。
受賞を狙う人数は多いに越したことはない。
誰か一人でも結果を出せば、そこが部活の場所として安定するから。
創作部の部室はコンパクトで、書道部を加えると入り切らない可能性か出て来る。
だから美術部の部室と上手く人数を分けて活動をすればいい。
現時点で実績のある美術部が書道部と同盟を結ぶメリットはない。
だが長い目で今後受賞がなければ部室を失うかもしれない。
あとを継ぐ後輩たちの為にも、避難場所の確保で三部同盟をしてほしいと説得をした。
そんな正太郎の熱い志に美術部の女子部長は惚れ込んで受け入れる。
ちなみの嫉妬でなだめることもあったが問題はない。
こうして創作部・美術部・書道部は良好な関係を築いていく。
後日、三部同盟を知った美鈴の機嫌は悪い。
部の内情は理解しているが不満だ。
なぜ映像制作部に同盟を結ばないのか?
そうすれば創作部の部室問題を解決できるのに。
正太郎の言い分はこうだ。
「創作部が実績を出した時に、同じく実績のある映像制作部と対等同盟を結びたい。弱小のまま貸しを作るのは、創作部の立場を弱くしてしまうからな」
「アンタなら貸しを作らない方法で手を組めたはずよ」
「……あ、映制の勝利に貢献したから貸しにならないのか。灯台下暗しだ」
「でも対等な関係を目指す部長としての気概は受け取った。その時を楽しみにしているわ」
正太郎なら結果を出せると信じている。
同じ部長として応援をする美鈴。
果たしてコンクールで見事に受賞を得ることができるのか?
今のところは未知数である。
………………。
…………。
……。
泉坂高校には過去の映像部が存在していた。
それなら映像部が作り上げた映像作品はないのか?
美鈴は参考資料として黒川先生へ問い合わせる。
「あるにはあるが……どうしても見たいのか?」
「先輩方が気持ち良く卒業できるよう最高の作品にしたいのです」
「8年前の古い作品だ。あまり期待するなよ」
そう言いながらも映像作品を渡してくれる。
製作者は角倉周。
その名前を美鈴は聞いたことがある。
若手監督として活躍する本物のプロだから。
放課後の部室で美鈴は視聴をする。
「……なるほど」
思う所が生じた。
正太郎・淳平・綾を呼び出して映像を見てもらう。
淳平は嫌われている自分に声が掛かるとは思わなかったらしい。
「カントク、美鈴は私情に流されるヤツじゃないっスよ」
「そっか……あ、東城もうオレは監督じゃ――」
「夢は諦めてないっスよね? だったらカントクっスよ」
「……ありがとう」
「どういたしまして」
「さてアンタ、この映像を見て何か思う所はなかったの?」
美鈴が何を求めているのか。
それを察した正太郎はハッキリと答える。
「春夏秋冬全ての時間軸を使って、主演女優の演技を最大限に引き出した。ねーちゃんの脚本をさらに引き立たせるなら、季節の力を使えばいい」
「綾さんはどうですか? あの脚本に季節感を組み合わせてみるというのは?」
「うん素敵だと思う。二人ならこの脚本もっと良くできるんじゃないかな?」
「以前までのオレなら手を加えられないと悔しがっていたな。でもねーちゃん超えを果たした今は違う。今までの修行が無駄ではなかったと自信をもって改善に勤しむぜ」
「やらせて頂きますよ。信頼にお応えするのも監督の役目ですから」
美鈴もやれるだけの事を精一杯にやる気だ。
それに呼応するように正太郎は真面目に問いかける。
「それで美鈴、春夏秋冬どれを使うんだ? まさか全部? だとしたら今の秋は早急に撮らないと冬になるぜ。来年の秋だと嵐泉祭に間に合わなくなる恐れがある」
「アンタはそれぞれの季節をどう表す?」
「春なら桜、夏なら向日葵、秋なら紅葉、冬なら椿といった所だな」
「決まりね。皆をあの食堂へ集めて」
「了解した。オレは一年集めるんで、ねーちゃんたちは二年をよろしく」
正太郎が動いて美鈴は映像作品の片付けをする。
ちゃんと掃除もして備品を清潔に保つ。
淳平は綾と一緒に移動しながら口にした。
「綾、オレようやく分かった。外村の妹に従うと何か安心する。この人についていけば間違いないって、そう思えるんだ」
「うん私も。美鈴ちゃんがリーダーなら、私たちが卒業しても大丈夫だね」
「オレらから始めた部活がこうして受け継がれていくっていいな」
受け入れるのに時間は掛かったが淳平は心から認める。
美鈴のリーダーシップから学び、それを大学のサークルで活かす。
そのためにも高校最後の映画作りに全力で協力をしたい。
両メンバーは食堂に集結をして美鈴が切り出す。
今から四季を通じて積立をするように撮影を計画して実行をする。
そこに込められた先輩方への感謝と心配り。
来年こそは一番を目指そうという熱意と希望。
その空気に当てられてメンバーの士気が上昇した。
各自の役割分担を決めていく。
監督は美鈴、助監督は内場、カメラマンはヒロシ、音楽は唯と勇。
脚本は綾が作成されたものを正太郎へ一任とする。
出演は使用人役の淳平にお嬢様役の綾は確定。
他の配役をどうするかで協議に入る。
こずえは裏方を希望して出演は辞退。
力也は設営や運搬などの力仕事を任せる。
「脚本の中で外せないサブキャスト、使用人の弟とお嬢様の妹。誰がやるんだ?」
「どう見ても弟くんとちなみちゃんでしょ。これ以上にないハマり役じゃん」
正太郎の問いかけにつかさが当然とばかりに答える。
メンバー全員が同意をしたので引き受ける以外に選択肢はない。
創作部の都合に配慮があるなら別に構わない。
「カントクがにーちゃんか。もしカントクじゃなくなったら、にーちゃんって呼んでいいッスか?」
「な、なに言ってるんだよ東城!!」
「別に間違ってないですよね。お姉様とお付き合いしていますし、将来的に真中さんがしょーくんの義兄になってもおかしくないですよ」
ちなみの爆弾発言で淳平と綾が激しく動揺。
結婚というキーワードで思い浮かび、両者が花嫁のウエディングドレスを強くイメージされてしまう。
こずえも感化されて力也との結婚式を激しく妄想してしまった。
ドタバタとした状況を美鈴がピシャリと注意。
その後にヒロシが話を戻してくれた。
「美鈴、今から少しずつ撮影するのはいいけど、その度に合宿先に行くのは非効率だよ」
「この館や庭でもロケ地として使えるから合宿先に行く必要はない」
「なるほど。でも海はないよ」
「そのシーンは限定的だから後回しでいい」
撮影場所を決めて衣装について話し合う。
さつきが天地に伝えて頼んでおく。
そして正太郎がゲスト出演についての提案をした。
「脚本にお嬢様は親から見合いを強制されて、そのお相手の殿方が出てくる。これは脚本で曖昧にしてもいいが、誰か出演してくれたほうが視聴者の感情移入を高めやすい。そこで部に所属していないが、特別ゲストとして天さんがハマり役だから依頼したい。さっちゃんに一途な天さんは引き受けてくれないかもしれないが」
「あたしに任せな。演技ぐらい割り切ってやれるようシメておくよ」
「荒事は程々に」
「止めんのかい!!」
「これも最高の映画にして一位を取るために必要なこと。大事の前の小事だぜ」
見合い相手役を天地として、その付き人の役をさつきに依頼。
モブキャストでそれほど台詞がないので、さつきは引き受けてくれた。
なお、天地はシメられる事なく即決でOKをしたという。
「唯にはカチカチを任せたい」
「やったー!! 唯、あれ鳴らすの楽しくて好き!!」
「勇はコミさんたちと同じ裏方の雑務でいいか? 望むなら出演もーー」
「裏方にしてくれ!! 演技なんて無理無理!!」
「つーさんは仕切り上手だから現場の指揮官として頼みたいけど、出演希望があったりする?」
「ううん。もう演技は今回で充分にやったからね。次は綾たちを支えるサポートとしてあたしを使ってよ」
「美鈴、それで構わないか?」
「いいわよ」
あらかた決めて各自の役割に従って動く。
正太郎は脚本の調整に入り、適度に美鈴のチェックを受けて最終確認は著者である綾にしてもらう。
今まで姉の創作に触れてきた正太郎は、原作の敬意と感謝を持って最大限に引き出す。
その卓越した編集能力は綾でも感銘を受けるほどであった。
………………。
…………。
……。
さつきは身分差の恋を他人事に思えない。
天地財閥の息子と一般人のさつき。
釣り合うはずがなく付き合っても将来的には認められないだろう。
それならハナっから相手にしなければいいが、天地に諦めの文字はない。
「で、頭の悪いあたしはこう考えるのさ。この釣り合いが取れない関係はいつか終わりが来るだろうってな」
空手道場で天地との組手を終えた後の事。
互いに汗をタオルで拭きながらの会話だ。
なお、正太郎とちなみは創作部の活動でこの場にいない。
「ご心配はいりません。僕がさつきさんに釣り合う男となりますから」
「へえー、どうやってするつもりだい?」
「僕が家業の手伝いをしていることはご存知ですね?」
「ああ、随分忙しそうだ」
「それは僕自身の人脈作りと己の研鑽をするため。分かりやすく言えば、天地財閥の家柄を捨てて、さつきさんと同じ身分となって独立するためです」
「そんなこと天地の親は許すのかい?」
「天地財閥は優秀な人に跡を継がせる実力主義の家系です。息子だからといって無条件に継げる訳ではありません。そして息子の生き方は息子自身で決めろと言う両親ですから、許す許さないの問題はありませんよ」
今の天地は下積みの潜伏期間だ。
時がくれば天地家から独立し、別の遠い親戚の養子となって苗字を変える予定だ。
両親には既に伝えて承諾を得ている。
その根回しの良さはヒロシも舌を巻くほどだ。
「……」
ここまで一途な想いを受けたのは初めてのさつき。
相手が全力が掛かってくるなら、自分も本気で相手をするのが流儀。
空手の精神は今もさつきの心へ深く刻まれて行動理念となっている。
「あたしは天地に期待してんだ。自分より強い男になってくれることを。そしたら天地の望み通りにするさ」
「本当ですか!! 嘘ではないですよね!?」
「天地が一生をかけてやってるんだ。あたしも一生をかけてやるさ。でも手加減はしないから覚悟しな」
「はい!! 必ずさつきさんよりも強くなります!!」
さつきもここだけは譲れない。
強くなってくれたら天地に一生を尽くそうと決意を固めている。
とっくの昔に惚れているが今ここで告げることはしない。
本気で試合をして負けたときに伝えたいから。
無論、わざと負けるような侮辱なマネは断じてしない。
「天地、この後ヒマか?」
「はい」
「あたしはテストが嫌いだ。その後の補習も嫌いだ。映制が一番を目指して頑張ってる所に、あたしが足を引っ張る訳にはいかない」
「僕はそんな仲間思いなさつきさんも好きです。僕が分かりやすく教えますので任せてください」
「言っておくがあたしは物覚えが悪いぞ」
「空手のように体と心で覚えて頂きます」
テストで赤点回避のため、さつきは天地の指導を受ける。
机に広げている紙を相手に鉛筆を握った。
敵は手強い。
次々と難問が襲いかかってまるで百人組手だ。
それでも後退の二文字はない。
この戦闘のノリでさつきは前のめりに立ち向かった。
………………。
…………。
……。
映制の映画のために作曲に励む唯。
隣の勇とピアノの連弾をしての試行錯誤。
テーマは恋。
次から次へとメロディのアイデアが浮かぶ。
今まさに唯は恋をしているから自然と指が動く。
「楽譜はこんな感じか?」
「あ、ゆーくん。途中のここ音符を追加で」
「ああ……」
「なにゆーくん? もしかして唯に見惚れちゃった?」
「うるさい。ニヤニヤする暇があるなら曲作れ。それがないと演奏できないだろうが」
口は悪くても指先は優しく繊細だ。
丁寧に扱う勇のピアノに対する愛が分かる。
生ピアノを弾けば弾くほど上達していく。
まさに習うより慣れろだ。
「なー唯、ちょっと訊いていいか?」
「いいけどなにかな?」
「パラレルワールドの世界を見たって東城から聞いてるけど、そこに勇はいなかったんだよな?」
「うん。全く出番なかった。でも内場も最後しか出なかったし。しょーたろもちょっとしか出なかったよ。じゅんぺーが中心でモテモテだった」
「結末まで見たなら、この世界の未来予想できるんじゃないか?」
「しょーたろには鵜呑みにするなって注意されてるんだよね。こっちと向こうでは全然違う所あるし。実際、今の状況は向こうの世界では起きてないから」
「完全に別物か。じゃあ、来年の映画コンクールの結果も向こうとこっちでは変わるって事か?」
「うん。きっとこっちなら一位取れるよ。唯はそう信じている」
「向こうでは一位になれなかったか」
「しょーがないよ。向こうはじゅんぺーが優しいフリして女の子泣かせてきたし、映画作りがオマケみたいな扱いだったもん。映制対決がないからあまり本気を感じられなかったし」
向こうの世界の唯が色々と不遇な扱いをされていたので同情はする。
それでも唯であることに変わりはない。
頑張れと心の中でエールを送る唯であった。
部活も大事だがテスト勉強もしなければならない。
勇の成績は軒並み唯よりも下回っている。
別の日、唯の押しかけで強引な勉強会を開く。
油断をすれば赤点もあり得るため頑張るしかない。
「これだけできたら大丈夫だよゆーくん」
「どうも。それより唯、なんでスカート短いんだよ。そういうファッションが流行ってるのか?」
「唯、こういう可愛いスタイルが好みだけどゆーくんは嫌い?」
「スカートの中、見えたら恥ずかしいだろ?」
「へーきだよ。中は見せパンだし」
「たくし上げんな。見せんでいいって」
唯の手を押さえてめくったスカートを押し戻す。
すると急に顔を寄せて唯から唇を重ね合わせた。
不意打ちで勇は目を開けたまま固まってしまう。
好きな人の唇を奪って照れながらゆっくりと離れる。
「そ、そろそろ帰らないと。また明日ねゆーくん」
キスの後が恥ずかしくて勇の部屋から出ていく。
残された勇は座り込んだまま口元をそっと撫でる。
ドキドキと胸の鳴り響く中、その余韻を噛み締めていった。
………………。
…………。
……。
秋から冬にかけて忙しく過ぎる日々。
テストで赤点スレスレの淳平やさつき。
あと少し間違っていたらアウトになる所だった。
他のメンバーは安定した点数を取って補習を回避する。
おかげで部活動に支障がなく秋のシーンを撮っていった。
「カァートッ!!」
美鈴の発声でカチカチと音を鳴らす唯。
演技を終えた面々が着替えて私服へ戻る。
そこから冬休みの撮影で打ち合わせ。
さすがに年末年始は無しでクリスマスも同様だ。
宿題のことも考慮して日数は最小限で済ませる。
冬の花である椿を風情に魅せたい。
演じる人がいるとNGになるかもしれないので別々に撮ればいい。
そんなこんなで映制の活動は地道に行なわれていく。
「アンタ、創作部のほうは問題ないの?」
「出展さえすれば自由気ままだからな。ただオレは部長だから三部同盟の良好を維持するため、美術部と書道部によく顔を出すようにしている」
「しょーくん、書道部はまだ安全だからいいけど、美術部はしょーくんだけで行ったらダメだからね。パクッと食べられちゃうよ」
「カニバリズムは普通に犯罪だ。そして食われてやるつもりはない」
「あたしはツッコまないからね」
「僕もスルーしとくわ」
正太郎は自前のスケジュール帳を開く。
やりたい事で書き込んで無理がないように時間の配分もしている。
その確認中にひょっこりと顔を出したのが――。
「ちょっといいかい?」
「イヤよ」
「まだなにも言ってないよ美鈴!!」
「この状況で兄貴の言うことはロクな事じゃない。お帰りはあちらよ」
「内場くぅーん!! 妹がイジメるんだよぉー!!」
「気色悪いことすんなバカ兄貴!!」
「まぁまぁ美鈴、とりあえず話だけでも聞いてあげんと。このままやとヒロシさん引き下がらんで」
美鈴がとても嫌そうな顔をしている。
追い出したいのは山々だが、こういう時のヒロシがしつこいのは知っている。
面倒だから話を聞くだけ聞いてみた。
「変なことだったら吹っ飛ばすから」
「おー怖い怖い。実はとある知り合いにクリスマスのケーキ販売を頼まれちゃってね。人手が足りないのさ」
「ヒロシさん、売り場所はどこですか?」
「テアトル泉坂の前だよ」
内場の問い合わせにヒロシが答える。
それに反応をして美鈴が鋭い目付きで睨んだ。
「あの映画館の前でケーキ販売って何考えてるの? 西野先輩がバイトする店の近くじゃない。向こうに対する挑戦状のつもり? 営業妨害もいいところよ」
つかさの夢を邪魔するつもりか。
美鈴が咎めるも、ヒロシはケーキの販売競争はよくあることだとかわす。
コンビニがいい例である。
ちょっとした先に違うコンビニがあるというのもよくあることだ。
「おーい美鈴、ちょっといい?」
「今度はなに? 今取り込み中よ」
次は正太郎から声が掛かる。
正太郎はお構いなしで話を続けた。
「つーさんからバイト先でクリスマスケーキの大量販売があるから、そのための臨時バイトがあるんだって」
「へえー、それって何人必要なの?」
「あと5、6人は欲しいって言ってた」
さつきとこずえは家の事情で不参加。
力也はこずえがいなければ参加しない。
綾はドジ体質の懸念から辞退して淳平も遠慮をした。
よって美鈴たちに声掛けをしている。
「あたし、接客スマイルできないから力になってあげられないわ」
「そんな美鈴とオレには雪だるまの着ぐるみで客寄せがあるぜ」
着ぐるみなら真顔でも仕事ができる。
断る理由はなくなった。
つかさの夢を応援する者として協力をしたい。
「いいじゃない。そっちの話に乗るわ。だから兄貴は他を当たりな」
「そ、そんにゃぁー、見捨てないでくれよぉーみすずぅー」
美鈴が青筋を立ててヒロシを蹴っ飛ばす。
正太郎は事情が呑み込めず、内場から説明を受ける。
するとランプが点灯するかのごとく閃く。
「美鈴、ヒロシ兄さんをこっちに引き込もう。勇が末端冷え性で辛いから参加できないって拒否ってるから、その分をヒロシ兄さんにやってもらえばいい」
「えー? こんな変態で最低の兄貴なんていらないでしょ?」
「実力はあるんだから、その手腕を存分に振るってもらおう。だからヒロシ兄さん、その知り合いの依頼は断ってよ。無理なら他を当たって」
「……やれやれ、正太郎くんに出し抜かれることが増えてきたね」
「ヒロシ兄さんだってつーさんの夢を応援している。だったらつーさんに協力するのが道理ってものだよ。わざわざ敵の悪役なんてやる必要ないって」
ヒロシがそんなことをしなくても競争の他店はいくらでもある。
だから敵に回るよりも味方につくべきだ。
他店に負けないように手を取り合っていくのが望ましい。
「負けたよ正太郎くん。知り合いは断って西野側につくよ」
「やったぜ。これで売れ残りのケーキ食べ放題」
「アンタ、それが目当てってどうなのよ?」
「なにを言う!! ケーキは値段が高いんだぞ!! オレにとっては貴重なんだよ!!」
正太郎にとってケーキは高級の回復アイテムである。
要するに大好物。
パティスリー鶴屋のケーキに心酔している。
実際にちなみと一緒に食べに行って見事にハマった。
こうしてクリスマスの臨時バイトが決まったのである。
………………。
…………。
……。
気温の変わり目を迎える。
とある日、淳平が風邪で寝込んでしまった。
その日の部活で撮影する予定のシーンを変更。
こうなることを想定していた美鈴と正太郎。
既に対策済みで見舞い代表者として綾に行ってもらった。
「まったく弛んでるわね。ろくに体調管理もできないなんて」
「風邪が長引くようなら体格が似てるオレが代役だな。顔を撮らなければどうとも出来る」
変更後のスケジュール調整に抜かりはない。
他の部員へ情報の共有をして安心を与えた。
もし復帰をしても病み上がりの配慮は忘れないようにする。
「ねえ弟くん、綾を行かせたことたけどさ。ひとつ気になることがあるんだよね」
「何か問題があるッスか?」
「綾のことだから真中くんの看病をしちゃうと思う。で、綾がおかゆとか作るんじゃないかな?」
「カントクのかーちゃんが作るッスよ。あ、でもいなかったらねーちゃんがトドメを刺すことに」
これはマズイと正太郎は内心で焦る。
病人を悪化させてしまっては本末転倒だ。
「つーさん、ねーちゃんを行かせる前に言ってほしかったッスよ」
「ごめんごめん。その時は気にしなかった。お菓子作り考えてたし。という訳であたしも様子を見に行っていい?」
「美鈴、いいか?」
「問題ないわ。あらかた撮影も終わって、あとは片付けるぐらいだから」
「了解。つーさんゴー!!」
「ワオーン!! ってなにさせるんだよ!?」
「気にすんなッス!! その場の勢いッスよ!!」
恥じらいマックスのつかさは膨れっ面でプンスカ怒る。
でも早く行く必要があるので淳平の家へ向かった。
そして後ほどつかさから連絡が入る。
「手遅れだったよ」
この一言があってからの補足説明。
淳平の母は不在。
綾が来たことで淳平が出てすぐにベッドへ寝かせた。
その後、看病のためにおかゆ作りをして淳平に食べさせた。
茶碗によそった分は食べ切り、残りは後に頂くと言って寝込む。
つかさが来て、その鍋にあるおかゆを味見。
咄嗟にお茶で口直しをして綾に味見させてからの説教。
二人で謝ると、淳平は彼女から生まれて初めての料理で嬉しかったと褒める。
申し訳なさで胸が一杯になって涙する綾。
もう二度と失敗をしたくない。
後日に母から教えてもらうのは余談である。
復帰した日に正太郎は姉を一人で行かせたことを謝罪。
不味い料理を味わせてしまい弟として申し訳ない限り。
今後は母から習って改善していくからとフォローをしておく。
「こうして元気になったから気にしないでくれ。それにオレ、綾の手料理を食べることができて、逆に感謝してるんだ」
「同じ男として理解できるっス。でも我慢して腹でも壊されたら目もあてられないっスよ。ま、とにかく復活して良かったっス」
だが事はそう単純な話で終わらない。
綾はドジ体質で今でもたまに転倒や物の落下が発生する。
包丁を持たせることが危険極まりない。
手からスポッと抜けてしまい、母の腕に掠り傷を負わせたのだから笑えない。
下手をすれば命の危険があるため刃物の使用は厳禁となる。
挫折をする綾に正太郎は刃物を使わない料理術を伝授した。
レシピの幅を広げるため、母にも加勢してもらって改善に成功。
淳平を招待して試食をしてもらい、笑顔で美味しいと喜んでくれた。
この時の綾がどれほど幸せな気持ちであったことか。
創作も料理も似たようなもの。
綾の数少ない趣味となっていった。