青春100%   作:完結の陽炎

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第49話「美鈴に向けての贈り物」

 淳平が演ずる使用人の難易度が上昇。

 身分を越えての告白は極めて重いものだ。

 許されない恋に向けて正直になるのは命懸けといっても過言ではない。

 そういう時代背景だから生半可な演技ではNGとなってしまう。

 綾は待っているだけではダメだと悟る。

 少しでも淳平を支えていきたい。

 これから先もそうしなければと使命感のように燃え上がる。

 本番のスタート時に綾は初っ端からアドリブをかます。

 そして淳平が奇跡的な覚醒を果たしていく。

 

「私はあなたの気持ちが知りたいのです。使用人としてでなく、ひとりの男性として」

「お嬢様……」

「ここには誰もいません。私とあなただけの秘密です」

「……東京の学校へ行ってしまわれるお嬢様に、私の気持ちは伝えるべきではないとは思っていました」

「……」

「しかし遠くへ行かれてしまうお嬢様を思うと……苦しくて、悲しくて、傍にいられないことが情けなくて」

「……」

「許されないことだとわかっています。それでも私は、立場に縛られるだけの人形で終わりたくない。一人の男として……貴女のことが好きです!!」

 

 ヒロインが勢いよく主人公へ飛び込んだ。

 主人公は堂々と受け止めてギュッと強く抱きしめる。

 ヒロインも感極まって抱き返した。

 ちゃんと余韻を残した上で美鈴のOKカット宣言。

 唯がカチカチと音を鳴らして、カメラマンのヒロシも満足そうだ。

 

「これで撮影は終わりだね」

「ああ、ありがとう綾」

「私こそありがとう。この映画に出られて本当に良かった」

「オレも。この映画で何かが変われたような気がする」

 

 二人が監督がいる所へ向かう。

 美鈴は両手で顔を隠して静かに泣いていた。

 内場がそっと優しく背中を撫でている。

 一体なにがあったのか?

 

「先輩たちとの映画作り、それが終わったと思うと……あたし……っ」

「せやな。メッチャ寂しくなるわな。ホンマよぉ頑張ったで美鈴」

 

 3年生の淳平たちからは意外だったようで大いに驚く。

 美鈴をよく知る正太郎たちは理解をしている。

 仲間思いだからこそ涙脆い所もあるのだと。

 

「美鈴が泣くのは無理ないぜ。上級生たちの卒業別れもあるけど、オレたちだって自分の進路があって、それを理由に引退の退部別れがあるから二重の意味で泣けるわな」

「東城、今ここで言わんでもええやろ」

 

 内場に突っ込まれてしまうが聞き流す。

 それよりも美鈴に心からお礼を言うのが先だ。

 

「ありがとうな美鈴。お前のおかげでオレは更にレベルアップできたぜ。最高の修行ができたと思う」

「わたしもありがとう美鈴。映画の演技とっても楽しかった」

「唯もカチカチ楽しかったし、音楽も作ってゆーくんと楽しい思い出になって感謝だよ」

「勇は皆と比べて期間は短かったけど、参加できてよかった。サンキューな外村」

 

 そんな後輩たちの優しさに当てられたのだろう。

 つかさたちも泣いている美鈴に感謝を述べてくれる。

 兄のヒロシは心のフィルムに留めて温かく見守った。

 その日の夕方はバーベキューで撮影終了のお祝いをする。

 黒川先生も無礼講ということで思い切りはしゃいだ。

 お酒も入っていたから酔いに任せている。

 仕事のストレス発散も兼ねているのだろう。

 

「カントク、あとでちょっと二人だけで話できないッスか?」

「あ、うんいいけど、どこでする?」

「そうッスね。海でも眺めながら話せるといいッス」

「わかった」

 

 夜になって砂浜を散歩する正太郎と淳平。

 淳平が少し緊張した面持ちだ。

 対する正太郎はいつも通りである。

 

「気楽に聞いてくれていいッスよ。これからのことを話してみたいんで」

「これからか。綾から聞いてるけど京都の大学へ行くんだって?」

「ウイッス。京都にある天さんの屋敷で住み込みの秘書をやりながらッスよ」

「すげぇー。秘書ってもっと大人になってからするイメージがあるのに」

「おかげで進む道が分かりやすくなったッス。頑固で怒りっぽいねーちゃんに一応感謝するッス」

「弟にしか見せないお姉さんの顔。それもまた可愛いんだよな」

「他人事だと思って」

 

 再び石を拾って水切り二回目を放つ。

 一回目よりも海を弾く回数が多かった。

 

「カントク、今回で映画監督の夢を進むための参考になったッスか?」

「ああ。外村の妹が監督をしてくれて本当に良かったと思う」

「そいつは何より。最後に泣いてしまったのはご愛敬としてやってほしいッス」

「あれはマジでビックリした。いつも強気でプライドが高くて、とんでもなく厳しい女って思ってたのに」

「それは一面に過ぎないッス。美鈴は誰よりも責任感があって仲間を大切にする。そんな優しいヤツだから、オレはその下で忠誠を尽くして協力したッス」

「まさに映制の柱に相応しい働きだったよ。敵に回った時はマジでヤバいと思った」

「映画対決、楽しかったッス。映研を叩き潰すつもりで本気出せたんで」

 

 それなりの代償もあったが、勝つために全力を尽くして後悔はない。

 映研は手強い相手だと心から認めていたから。

 あの時の勝利で確固たる自信と更なる向上心を与えた。

 

「当時、カントクのことを調べてもイマイチでパッとしなかったッス。特別に頭がいい訳でもなく、運動に優れてるって訳でもなく、性格も事なかれ主義の平凡な感じで。美鈴が指摘するように、あんな男のどこがいいの状態だったッス」

「うっ……」

「カントクにとって失礼になるけど、ねーちゃんは自分よりも下回る男を好きになるタイプかと思ったッス。ダメ男を好きになるって恋愛小説でもあるんで。母性本能を刺激して放っておけないのかと」

「ま、マジで?」

「大丈夫ッス。今回の演技を通じてカントクがダメ男じゃないことが証明されたッスよ。最後のあの演技、オレから見ても素晴らしかった。ついに覚醒したかと感動に震えたッス」

「あれはとにかく無我夢中だったよ。同じことやれと言われてもきっとできない。まぐれ当たりだよ」

 

 淳平は石を拾って海へ投げてみた。

 水切りは失敗で一回も浮かぶことなく沈んでしまう。

 それをごまかすために正太郎へ話題を振った。

 

「東城……映制、辞めてしまうのか?」

「潜在能力は決して万能じゃないッス。受験勉強は必要だし油断するつもりは微塵もないッスよ」

「……」

「秘書・英語・パソコンの資格もあるし、オレはオレでやる事があるッス。今回の映画でやり尽くしたから心残りなく自分の道へ進めるッスよ」

「せめて、嵐泉祭まではいてやってくれないか?」

「元よりそのつもりッス。嵐泉祭が終わるまでは映制メンバーとして協力するんで」

「あ、そうなんだ。てっきりすぐ辞めるのかと思ってちょっと焦った」

「んなワケないッス。オレたち皆で作った映画を見届けるまでは辞めないッスよ」

 

 このような会話のやり取りをしている中。

 別の海岸で海を眺めるちなみと綾。

 ちなみも二人だけで話がしたいと綾を誘った。

 

「今回の映画でお姉様と真中さんが本当にやりたかった夢が果たせますね。おめでとうございます」

「淳平くんや私だけでは決してできなかった。美鈴ちゃんたちが一生懸命に協力してくれたから。本当にありがとう。この思い出は一生忘れないよ」

「青都大学へ進学しても頑張って下さい。真中さんとの素敵な映像作りを応援しています」

 

 ちなみの声援を嬉しく思う反面、申し訳なくも思ってしまう。

 進学に関して正太郎のことがある。

 間違いなくちなみに知られているはずだから。

 

「……ちなみちゃんは気にしてないの? 正太郎が学費を出してもらえないこと」

「不公平だとは思いましたけど、天地さんの支援でわたしも住み込みで自立できますからね。結果的に万々歳でよかったと思います」

「ごめんなさい」

「謝らないで下さい。しょーくんに負い目を感じて、貴重な大学生活を台無しにしないで下さいね。しょーくんやわたしはそんなことを望んでいませんから」

「ちなみちゃん……うんわかった」

「そしてしょーくんのことはわたしにお任せ下さい。ちゃんと幸せにしますから」

 

 胸を張って堂々としたちなみ。

 それに微笑ましくなってしまう綾。

 正太郎が成長していったのもちなみがいてこそである。

 

「お姉様の書いた小説を読んだ真中さん。褒めてくれて嬉しかったんですよね?」

「あ、うん……嬉しかった」

「わたしも似たようなものです。小学生のころ、転校してきたわたしを受け止めてくれて、ちゃんと考えてくれたしょーくんのことが嬉しかったんです」

 

 昔の特別があって今も繋がっている。

 内容は違っても好きになった原理は同じだ。

 自分の持つ世界を認めてくれて恋心に発展していった。

 

「夏に歌う者と冬に馳せる者。どちらも素敵な作品だと思います。もしかしたら姉弟そろって受賞しちゃうかもしれませんね」

「そ、それはどうだろう?」

「しょーくんは自分が書いたヤツは評価されないほうが価値上がるって皮肉ってますけど、わたしは認められてほしいなって思っちゃいます」

「……裏設定?」

「どのあたりでそれを感じました?」

「悪戯のような笑顔をする創作家の先生……かな?」

「わたしの口からは何も言えません。しょーくんから厳重に口止めされていますので」

「そっか……きっと私ではわからないかも。でもちなみちゃんはわかっているんだね?」

「知らないままでは演技できませんから」

 

 正太郎の書いた脚本をちなみが演技で見事に表現してみせた。

 交換日記で正太郎が書いていたことを思い出す。

 ちなみはかけがえのない唯一の理解者であると。

 姉としてはちょっと悔しいのかもしれない。

 でも弟を分かってくれて喜ばしくもあった。

 

 ………………。

 …………。

 ……。

 

 合宿から帰った後の残った夏休み。

 モノトーンなシャツとスラックスに野球帽の正太郎。

 ノースリーブな花柄ワンピースに薄手のカーディガンに麦わら帽子のちなみ。

 二人は京都へ出かけていた。

 京大・天地の屋敷・さつきの親戚が営む料亭などを見て回り、周辺環境の雰囲気を存分に堪能する。

 

「京都も暑いな。公園のセミがミンミン鳴いてやかましいぜ」

「ねえしょーくん、どこかで涼まない?」

「それなら茶店に寄ろうぜ。京都の抹茶おやつで回復だ」

「いいよ。行こう行こう」

 

 和風なインテリアで内装された喫茶店。

 帽子を脱ぎ取って案内された席へ座る二人。

 正太郎は白玉入りの抹茶かき氷、ちなみはフルーツ入り抹茶パフェ。

 お互いに一口だけあーんで食べさせの交換もした。

 

「美鈴の志望する大学、しょーくんは知ってる?」

「京都の同志谷大学。データサイエンスを学ぶと言っていたぜ」

「それってたしか、統計学とプログラミングの知識がいる学問だったよね?」

「ああ。美鈴にデスクワークは相性が良かったんだろう。パソコンで覚醒したみたいだ」

「サークルに入らないのかな?」

「そのようだぜ。映画作りは高校で最後にするってさ。あのカントクみたいに映画監督を仕事とする訳じゃないし、データサイエンスを活かした仕事に就く可能性が高いな」

「そっか。美鈴が自分で決めた道なら応援したいね」

 

 今度は正太郎から内場の話を持ち出してみる。

 美鈴と同じ同志谷大学を志望しており、漫画サークルで漫画を描きたいようだ。

 念のため漫画サークルが自分に合うかを確認したほうがいい。

 そのように正太郎はアドバイスのメールを送り、あとで内場からお礼の返事があった。

 

「内場が漫画部の大学へ行かないのって美鈴と一緒じゃないからだと思うか?」

「もしそうなら美鈴が怒るかも。学びたい大学へ行ってほしいって願うだろうから」

「あえて選んでいない可能性がある」

「どうして?」

「漫画だけにこだわりすぎて、他は何もできないし分からない。そんな偏った状態が怖いのかもしれない。だから大学を通じて漫画以外の知識を学びたいって気持ちがあるんじゃないか?」

「なるほど。さすがしょーくん、きっとそんな感じだね」

 

 内場にメールでその辺りを突くと正解だった。

 漫画は絵だけでなくストーリーの構想もある。

 だから文学部を通じて、思想・歴史・行動など幅広く知識を深めたい。

 これには一理あると思い、正太郎は頑張れのエールを送っておいた。

 

 軽食を終えた二人は茶店を出て帰りの駅へ向かう。

 遠方のため帰りの計算を長く見積もらないといけない。

 アッという間の日帰りデートとなってしまう。

 ふとちなみの携帯に唯からのメールが届く。

 音大の見学に行ってパンフレットで学費の高さにビックリ仰天。

 親から国立ならともかく私立は厳しいと言われたようだ。

 

「音楽って金かかるイメージ強いけど、まさにその通りだったか」

「唯は作曲を独学でやるって決めたみたい。メールに書いてあるよ」

「ネットや本、通信講座など音大以外にも学ぶ手段はあるからな。そうなると唯は普通の大学に進学あるいは就職かな?」

 

 メールには続きがある。

 ピアノを弾いたり作曲をするのは唯の趣味。

 大学には行くようでピアノを演奏できるサークルを狙う予定。

 目指す仕事として、図書館で作曲の本を調べていく内に、そこで働く司書に憧れるようになったことを挙げている。

 人は何をきっかけに将来を意識するのか分からないものだ。

 

「なるほど。そうなると進学先の条件も必然的に絞れるぜ」

「うん。司書の資格が取れて、なおかつピアノサークルのある大学だね」

「唯も色々考えていることが分かったよ。唯の彼氏である勇は果たしてどうかな?」

 

 正太郎は勇にメールを送って進路を探る。

 しばらくして返信があったので確認をしてみた。

 

「へえー、その発想はなかったぜ」

「どうしたのしょーくん?」

「勇は生ピアノで感動したことをきっかけに、ピアノ調律師を本気で考えているようだ」

「ちょうりつし?」

「簡単にいえばピアノのお医者さんだ。ピアノのメンテンスをする人」

「そうなんだ。ピアニストになるのかなって思ってたからちょっと意外」

「勇のピアノ好きは本物だぜ。演奏だけなく修理や製造にまで目を向けているからな」

 

 ピアノ製造メーカーの養成学校で学ぶ覚悟をしている。

 定員が少ないので無理だった場合は専門学校を選ぶ。

 お金が掛かるため、1年長くても2年まで。

 それなら海外出張中の両親が肩代わりをしてくれる。

 

「ホント、皆それぞれ考えて偉いな」

 

 最寄り駅からちなみを家へ送り届ける帰り道。

 炎天下の暑い中でもちなみが正太郎の腕を組んでくる。

 あまり手汗を気にしなくて済むからだろうか。

 密着をして歩調が合わせやすい。

 

「頑張り屋のしょーくんに皆が影響されてるんだよ」

「そんなに影響力あるか?」

「あるある。疑うなら後で皆に聞いてみたらいいよ」

「ちなみもオレに影響を受けて今があると?」

「もちろん」

 

 ちなみの家へ到着。

 部屋に案内されて冷たいレモンティーを頂く。

 熱中症対策の水分補給は大切だ。

 

「しょーくん、なにをメモしてるの?」

「皆それぞれの進路。創作の参考になる」

 

 小説を書くという趣味は変わらない。

 編集のほうが性に合っているがそれはそれで、これはこれだ。

 なんだかんで手で書くことは日常的なクセである。

 

「キャラの人形は書けても、人間を書くのはマジで難しい。時に矛盾があったり、心変わりしたり、一貫することもあったり。だからこそ人間は奥深くて面白いぜ」

「完璧すぎてもダメなんだよね?」

「逆も然り。どんな人でも良し悪しはある、バランスが大事なんだろう。内場の漫画も、そんな感じで気を配ってるのは読んでてわかるぜ」

 

 正太郎は弟子の中間に激励メールを送る。

 受験生として頑張る大切な時期だ。

 わからない所があれば時間を作って協力してやりたいと思う。

 

「来年、弟子の中間が泉坂高校へ来る。それまで創作部が残っているといいがな」

「もうしょーくんらしくない。そんな弱気でどうするの?」

「ちなみの前だから、と言ったら?」

 

 ちなみがニコニコの笑顔で両手を広げる。

 抱き締めてというお誘いポーズだ。

 正太郎は少しためらってしまう。

 

「オレ、きっと汗臭いぞ」

「しょーくんの匂い好きだから全然へーき」

「恥ずかしいから露骨に嗅ぐなよ」

「善処しまーす」

 

 強めにギュッと腕を回すのがポイント。

 ちなみが愛情を実感できるように。

 恋人としての時間をゆっくりと過ごしていった。

 

 ………………。

 …………。

 ……。

 

 夏休みが終わっての2学期がスタート。

 校内の掲示板に無断で張り紙があった事件が発生。

 内容はカップル限定アトラクションのラブ・サンクチュアリ。

 詳細が不明で嵐泉祭まであと61日と明記がされている。

 毎日張り替えるつもりかもしれない。

 名前やクラス、部活名などが書かれていないのは悪印象。

 嵐泉祭は不特定多数の来客を歓迎する目玉イベントだ。

 カップル限定はそんな学校側の理念に反し、また外部からの評価にも影響を与える。

 学校の職員が剝がして警告の張り紙を付けた。

 これにより、その人物は迂闊に張り紙ができなくなる。

 また嵐泉祭で実際にやってしまえば学校側が容赦なく罰するだろう。

 

 昼休みの踊り場。

 いつも通りの集まって弁当を広げる正太郎たち。

 張り紙事件について、唯はパラレルワールドのラブ・サンクチュアリを話した。

 

「唯は知ってるよ。犯人は占星術研究部」

「向こうの世界か?」

「うん。相性占いで下駄箱に数字を書いたメモが入ってて、その番号が同じカップルのみがダーツに参加できて景品がもらえるんだ」

「だとしたらもったいないな。将来をテーマにした占星術をやればいいのに。それなら誰だって利用できるし需要も大いにある。特に学生は進路がある訳で、占いを通じてアドバイスを受けられたら最高じゃないか」

 

 正太郎からお馴染みの改善案だ。

 占星術研究部は恋愛に固執しすぎている。

 学校側が認めやすい方向へ転換すれば解決する可能性が高い。

 美鈴が鋭い目付きで吐き捨てるように言う。

 

「どうせ自信がないのよ。だから曖昧な方向へ逃げるんでしょう」

「貼り紙に名前がなかったし、美鈴の言うように不都合から逃げる気配はある」

「唯はちょっと気になるかな。もしこっちでラブ・サンクチュアリがあったらどうなるんだろうって?」

「カントクとねーちゃんは同じ番号になるだろうな。向こうはそうだったんだろ?」

「うん」

「わたしとしょーくんは同じ番号になるよね?」

「僕は美鈴と同じ番号になるやろうか? なんか嫌な予感がするで」

「唯はゆーくんと同じ番号になってほしいな」

「勇はオカルトを信じないほうだ」

 

 カップルと言っていたが男女だけだろうか?

 男同士や女同士はダメなのだろうか?

 どこまで占いの多様性があるかも未知である。

 

「お得意の占いがあるなら、オレの所へ相談に来るかもな。それまでは放置ってことで」

「ずいぶんと自信があるのねアンタ」

「自分を信じられないものは相手を信じることができない。内場漫画の受け売りだぜ」

「せやからキリッとした顔で、僕の描いた漫画の台詞言うのやめてや!! メッチャ恥ずかしいねん!!」

 

 放課後は創作部の部室で活動をする。

 扉がノックがされたので正太郎が開けた。

 そこにはメガネをした怪しげな男子生徒。

 ハロウィンの魔法使いみたいな恰好をしている。

 そっと部室の扉を閉じた。

 向こうがノックしながら話だけでも聞いてと懇願。

 名を尋ねると全く知らない生徒で、学年とクラスは3年5組。

 部活名は占星術研究部と自称しているが、一人だけで正式には認められていない。

 本来なら部でなく占星術研究同好会が正しい。

 タメ口OKと許可をもらったので廊下に出て話し合いをする。

 そうしないと創作活動の邪魔になるからだ。

 

「お得意の占いでオレに頼ればいいと出たのか?」

 

 なぜわかったと不思議そうにしている。

 パラレルワールドの話をすると興味深そうにしていた。

 肝試しの枯れた池の場所を教えておく。

 随分前の話だから痕跡はないかもしれない。

 調べても何も出ない可能性が高いことを付け加える。

 

「先に結論を言おう。ラブ・サンクチュアリを未来アドバイザーに変えろ。将来に不安を抱く人々を占星術で手助けをするんだよ。それは景品をもらうよりも遥かに価値のあることだ」

 

 だが占星術にもジャンルがある。

 彼は恋愛の相性占いを得意としている。

 未来における占星術は難易度が高いらしく専門外だ。

 

「だったら人間関係で悩んでいる相手のアドバイザーでもすればいいんじゃね? 恋愛に限らず友情でも何でもいいさ。そういう相性を調べて助言ができれば励みになるだろう」

 

 目から鱗である。

 相性をもっと幅広く応用すればいいのだ。

 これなら学校側も認めてくれるだろう。

 助言のお礼に相性占いをしてくれるようだ。

 

「それならオレと天さんの相性を占ってくれないか? 仕事関係で参考にしておきたい」

 

 付き合っている彼女との相性占いはしない。

 自分たちで作り上げているので必要性がないから。

 

「なるほど。オレという燃え上がる炎を寛大な天さんが包み込んで受け止めてくれるのか。やり過ぎて迷惑かけないように気を付けろって事だな。本気を出すのは程々にってことで」

 

 占星術の使い手にお礼と励ましの言葉を送った。

 胡散臭いと思わないでいてくれる優しさが身に染みる。

 男が男に惚れる瞬間だ。

 惚れ惚れするほどにカッコイイ男として魅力に感じてしまう。

 後でちなみから人たらしと言われてしまうほどであった。

 

 嵐泉祭の準備期間。

 創作部・映像制作部・美術部でそれぞれの準備を手伝う。

 三部同盟の関係で書道部にも差し入れという形で支援をした。

 

 ――この時期ってマジで忙しいよな。でも祭りの準備はテンション上がるぜ。

 

 弟子の中間は受験生だけど嵐泉祭に来るようだ。

 たまには息抜きも必要である。

 親戚の遥も海外から帰国をして映画を見にやって来るだろう。

 綾が手紙で嵐泉祭のことを伝えているから。

 一応、正太郎も複雑な気持ちで通知は出している。

 

 ――創作部と美術部の展示OK。あとのことは他の部員に任せてオレは映制メンバーとして頑張ろう。

 

 正太郎・ちなみ・唯・勇が着ぐるみでプラカードを持ち見回り宣伝と案内。

 さつき・天地・力也・こずえが屋外の映画制作部パネルの前で呼び込み。

 上映室の入口付近につかさ・綾・淳平の呼び込み。

 上映室内の受付では美鈴と内場。

 上映の操作はヒロシが務める。

 去年で実績を得られたので、今年は広々とした視聴覚室を確保できた。

 

「唯はクマさんがいい」

「ちなみはネコ、オレはイヌ、勇はカッパだ」

「なんで勇だけ架空の生物!?」

「他に用意できる着ぐるみがなかったんだってよ」

 

 去年は映研vs映制の映画対決だった。

 今年は一つに統合された映像制作部としての作品。

 外部の映画コンテストにも応募済みだ。

 淳平たちにとって最後となる嵐泉祭が幕を開ける。

 

 ………………。

 …………。

 ……。

 

 嵐泉祭の本番当日。

 原点回帰でオーソドックスなお祭り衣装の法被。

 制服の上から羽織るだけのシンプルなものだ。

 ゆえに法被のデザインは派手で目立つようにしている。

 それを用意したのは顧問の黒川先生で発案者はヒロシだ。

 

「お前にしては随分とおとなしいじゃないか?」

「黒川先生、僕たち今年で最後なんですよ。美鈴にいい思い出となるようにしたい兄心です」

「合宿の涙がよほど心に響いたと見える」

「完成した瞬間に美鈴が泣くとは僕でも予想外でした。美鈴は幸せ者ですよ」

「お前は不幸だと言いたいのか?」

「まさか。もしそうだとして慰めてくれますか?」

「たわけ。寝言をほざくヒマがあるならサボらず真面目にやれ」

「わかりました」

 

 泉坂高校の入口ゲートに嵐泉祭の装飾。

 それくぐって進めば周りは出店で賑わっている。

 例のごとく屋外パネルの前で映画の呼び込みをするさつきたち。

 校内へ入って見回りの着ぐるみが映像制作部のプラカートを持っている。

 カッパの着ぐるみに向かって遥が尋ねた。

 

「ねえ、今年もイヌの着ぐるみをした子っている? あ、返事は頷くか横に振るかだけでいいから」

 

 カッパの着ぐるみは大きく頷く。

 知り合いだと思ったようで案内をしてくれるようだ。

 そしてイヌの着ぐるみのところへ連れていく。

 

「こんにちは。今年も案内お願いできる?」

 

 イヌの着ぐるみはカッパの気ぐるみに案内をしてやれと合図を送った。

 だがカッパの着ぐるみは横に振って断る。

 遥がイヌの着ぐるみを指名しているからだ。

 忙しいのでカッパの着ぐるみはそのままいなくなってしまう。

 イヌの着ぐるみはしばらくジーと上機嫌な遥を見つめる。

 色々思う所を感じながらも視聴覚室まで案内をしていく。

 

「今年で最後の映画だって聞いたの。来年は卒業したり、引退したりで、もう親戚が作る映画はないって聞いてるから」

「……」

「去年は対決していたのに今年は一丸になって頑張って作ったって。きっと素敵な映画だろうって楽しみにして来たの」

「……」

 

 遥が人とぶつからないようにイヌの着ぐるみが盾となっている。

 守られている遥は優しい目をしていた。

 視聴覚室の近くで祭り衣装をした綾の所へ連れていく。

 なお、つかさは所用があって少しだけ席を外していた。

 

「遥お姉ちゃん!? 今年も来てくれてありがとう!!」

「久しぶり。今年の映画も楽しみにして来たよ」

「お久しぶりです遥さん」

「おう、また大きくなったね。さすが綾自慢の彼氏くんだ」

「も、もう茶化さないでよ!!」

 

 イヌの着ぐるみは綾のはしゃぐ姿を見届ける。

 複雑な気持ちになりながらも満足をしたのだろう。

 プラカードを振ってバイバイしながらその場を離れていく。

 

「ありがとう!! お仕事がんばりなよ!!」

 

 遥の声援を背中で受けてから立ち去った。

 それを見た綾は思わず尋ねてしまう。

 

「遥お姉ちゃん……あの着ぐるみ誰か知ってるよね?」

「中に詰まっているのは人じゃなくて夢。そうでしょ?」

「……うん」

「遥さんって大人ですね。あ、どうぞ中へ入って下さい」

「ありがとう。もし大人の階段にのぼりたいなら綾を襲っちゃいなよ」

「っ!!」

「な、なにを言ってるの遥お姉ちゃん!!」

 

 動揺するウブな二人を遥が笑いながら入場をする。

 所用を済ませてきたつかさが戻ってきた。

 次にネコの着ぐるみが案内した中間がやって来る。

 

「師匠のお姉さん、こんにちは」

「こんにちは。受験大変だと思うけど頑張ってね」

「ありがとう。僕、泉坂高校目指して頑張ります」

 

 中間がそう言って上映室へ入っていく。

 今度はクマの着ぐるみが龍一を連れてきた。

 婚約者であるつかさが対応をする。

 

「てっきり仕事で来れないと思ってましたよ」

「バアさんから今日は休めって追い出された」

「それならヒマつぶしの映画をどうぞ。と言っても今回の映画はあたし出てないですけどね」

「東城が出てるんだろ? あとそこの……すまない、名前を忘れてしまった」

「淳平です。真中淳平」

「真中が主人公として出ているらしいじゃないか。楽しみにしているぞ」

「そ、そんなに期待されるとプレッシャーが」

 

 今回の映画は身分差の叶わない恋物語。

 兄の使用人が主人公、姉の令嬢がヒロイン。

 弟の使用人と妹の令嬢はサブキャストの立ち位置。

 視聴者の反応は概ね同じだった。

 弟が苦労人で気の毒。兄はもっとしっかりとしろ。

 妹が健気すぎて可哀想。姉はもっと妹をフォローしろ。

 ラストシーンで主人公から告白したシーンは大好評。

 恋愛は二人でやるものであり、成長モノとしては成功だ。

 それゆえにサブキャストの二人が気になる意見も多かった。

 この主人公のように弟の使用人も告白したのか否かと。

 かなりのキャラ食いをしているのが見て取れてしまう。

 

 映像制作部の休憩タイム。

 黒川先生が生徒のヒロシをダシにして仕事をサボる。

 職員室に戻ったら書類の処理に追われてしまうから。

 ヒロシとしては黒川先生とのデートになるので望む所であった。

 

「あの頭でっかちな教頭め。私のことを目の敵に仕事を振り過ぎだ」

「モテモテですね黒川先生」

「黙れ。それにしてもお前は本当に物好きだな」

「合宿ではしゃぎ回るほど黒川先生は若いですよ。自信もって下さい」

「あの映像は消したんだろうな? さもなくばその前髪を切り落とすぞ」

「体罰はんたーい」

 

 祭りだからこそ雰囲気も含めて味がある。

 パティシエのイベントとしても何かしらの参考になるかもしれない。

 つかさと龍一はスイーツ巡りをしていた。

 

「俺はいい映画だったと思うぜ」

「ありがとうございます」

「東城は本当に才能が豊かだな。ケーキ作りもそうだったが」

「そうなんですよ。弟くんには支えてくれる彼女や友達がいますから。あたしもそうですけど」

「これが終わったら本格的に修行に入るけど覚悟はいいかい?」

「よろしくお願いします。卒業後のフランス留学の件も含めて」

「わかった。期待しているよつかさ」

「はい龍一さん」

 

 着ぐるみで動き回ることは体力の消耗がある。

 宣伝隊の中で最もスタミナ切れが早く起きやすいのは勇だ。

 音楽室の喫茶店で唯と一緒に休んでいる。

 

「もうだらしないぞゆーくん、ちゃんとご飯食べてるの?」

「唯が作ってるメシは残さず食ってるだろ。何でそんな元気なんだよ?」

「えぇー、ゆーくんってば体力なさすぎ。しょーたろとちなみも元気一杯だったよ」

「唯たちが異常なんだよ。勇は一般人だ」

「なんだよ。まるで唯たちが化け物みたいじゃないか」

「おいおい顔が近いって。あ、そうだピアノで息抜きでもどうだ?」

「オーケー。でも疲れてるのにゆーくん、ちゃんと弾けるの?」

「なめるな。指が動くなら平気だつーの」

「じゃあ一緒に弾いて証明してみせてよ」

「上等だ」

 

 忘れられない運命となる日。

 場所は変わって空手の道場。

 さつきと天地が貸し切っての組手だ。

 用意周到な天地にさつきは全力で相手をする。

 腕が痺れるほどの怒涛の攻めに防戦一方の天地。

 でも諦めない。

 必ずさつきから一本を取ってみせると目が光る。

 反撃の正拳突きと同時に吐き出されたのは掛け声でなく好きだという愛の告白。

 決してわざと狙った訳ではない。

 無意識にたまっていた天地の想いが溢れただけだ。

 しかしさつきを動揺させてしまい、顔面の寸止めに成功する。

 

「あ、今のはその……」

「あたしの負けだよ」

「い、いいんですか? 今のって反則では?」

「掛け声が告白になっただけだろ。それに心を乱されたあたしの負けさ」

「……さつきさん、ありがとうございました」

「おう、こっちも強くなってくれてサンキュー天地。そしてあたしは今からアンタの女だからよろしく」

「……や、やったぁーーーー!!」

 

 祭りに人混みは必然である。

 いくら異性に慣れてきたとはいえ、こずえの人混みストレスは大きい。

 彼氏として護衛の役目に燃え上がる力也。

 敵が来ればちぎっては投げをするぐらいの闘争心だ。

 さすがに暴行は犯罪となるため実際にやることはないが。

 あまりこずえに我慢をさせてしまうと人酔いを起こすので注意が必要。

 こまめに休憩を取らせたり、人混みを避けるなどの気遣いが求められる。

 グラウンドの物置小屋は映研の懐かしい思い出の場所。

 小屋の中を掃除したいという善意で鍵を借りる。

 実際にその通りにやって換気を行なった。

 ここなら多少の衛生問題はあるが静かで人目がない。

 恋愛のシチュエーションとして盛り上がるところだ。

 

「こずえちゃん大丈夫?」

「はい。すみません力也さん」

「いいってことよ。俺、こずえちゃんが大好きだから」

「あ、あたしも……力也さんが大好きです」

「き、キスしても……いいか?」

「っ……ど、どうぞ」

 

 こじんまりとしたテントに占星術研究部の男子がいる。

 ノートパソコンをデスクに置いて魔法使いのスタイル。

 看板は未来の相性お悩み占いというやや曖昧な表現。

 ほぼ恋愛と受け取れてしまうが、未来をつけることで進路の仕事相性にも受け取れる。

 かなりのギリギリラインを攻めて学校側から営業の認可を獲得した。

 実際に淳平と綾で将来も含めての相性を占ってみる。

 占いの男子が驚きを示す。

 ラブ・サンクチュアリのやり方で調べても同じ番号になる。

 確率的に極めて低く宝くじに当たったも同然の価値だ。

 だからこそ未来に向けてのアドバイスに熱がこもる。

 この奇跡は占星術の使い手として粗末に扱ってほしくない。

 それだけの誇りをもって占っているようであった。

 

「オレと綾ってそんなに相性が良かったんだ」

「び、ビックリだね。宝くじで大当たりするぐらいの確率だなんて」

「なんか近い内に綾に何か起きるらしいから、それによって未来が変わるんだってな。二人だけで解決できない時は、信頼できる家族や友人に相談するよう言ってたな」

「うん……淳平くんも受験のアドバイスをされてたね。私も今のままではちょっと厳しいかもって思ってたから。嵐泉祭が終わったら勉強一緒にがんばろ」

「ど、努力するよ」

 

 展示物を自由に見ることができる創作部の部室。

 美鈴と内場が読書タイムでまったりと過ごしていた。

 満足感を得てから、次は音楽室の喫茶でくつろぐ。

 室内のピアノで唯と勇の連弾でクラシック曲を奏でていた。

 

「展示の作品、悪くなかったわよ」

「部長の東城がチェックしとるからやろうな」

「でしょうね。アイツの実力なら当然か」

「……僕、漫画のコンテストに落てもうた。ちょっと悔しいで」

「次に活かせそう? それとも諦める?」

「僕がこういう時に諦めのええ男やと思うか?」

「思わない。貴方の漫画に向けて情熱は誰にも負けないから」

「おおきに。次はもっとええ漫画描いてみせるわ」

 

 巡回デートを楽しむヒロシに呆れ顔の黒川先生。

 音楽室の喫茶でピアノの連弾をする唯と勇、その中でくつろぐ内場と美鈴。

 屋台でスイーツの食べ歩きをする龍一とつかさ。

 道場から出て幸せそうに歩く天地とさつき。

 グラウンド隅っこの物置小屋で口付けを交わす力也とこずえ。 

 占星術研究部のテントから離れて手を繋ぎながら出店巡りをする淳平と綾。

 それらを遠巻きに見届けたのが正太郎とちなみだ。

 

「皆が幸せそうで何よりだ。こういうのを幸せのおすそ分けって言うんだろうな」

「わたしたちも負けてられないね」

「ちなみがメラメラと燃えてる。ところで話変わるけど、例のアレ用意できてる?」

「うん。ちゃんとできてるよ。きっと感動してくれるから」

「皆、すげぇ乗り気だったな。じゃあ手筈通りによろしく」

「はーい。だからご褒美ちょうだい」

「……コミさんと妄想使いのラブシーンに当てられたか?」

「それはしょーくんだよ。さっきから唇ジロジロ見てるのバレバレだから」

「見世物じゃないから人目がない所じゃないとやらないぜ」

「屋上前の踊り場階段で。あっちは何もないし、人も通らないから問題なし」

「……やり過ぎるなよ」

「前向きに善処します」

 

 その後は本当に善処だけだった。

 大胆なちなみに正太郎は身を委ねるしかない。

 あとで覚えてろと仕返しを誓うのであった。

 

 ………………。

 …………。

 ……。

 

 どんなお祭りもいつかは終わりが来る。

 後片付けをするまでが嵐泉祭だ。

 その時の寂しさはどうしても拭えない。

 これで映制は完全に終わってしまうのだろうか?

 

「あたしが来年にもっと盛り上げてみせますから。先輩方は安心して卒業して下さい」

 

 後始末が終わってから気丈に振る舞う美鈴。

 淳平たちに心配をかけさせまいと笑顔を見せつけて。

 映制メンバーが揃っている中、正太郎がそっと割り込んだ。

 

「美鈴ちょっといいか?」

「なによ」

「オレが代表ってことで美鈴を表彰するぜ」

「えっ……」

 

 美鈴が戸惑ってしまっている。

 正太郎が取り出したのは感謝状。

 裏面には連名として映制メンバーのフルネームが記されている。

 そして美鈴の目の前で読み上げていく。

 

「感謝状 映像制作部部長 外村美鈴殿

 あなたは映画制作の監督として部員を導き作品の完成に欠かせない多大な尽力をいたしました

 その貢献に部員の代表として深く感謝をし記念品を贈呈します」

 

 今日の生年月日と映像制作部代表の肩書き。

 正太郎のフルネームで締めくくって手渡す。

 続けて相方のちなみが花束を贈った。

 映制メンバーの全員が拍手で心から称える。

 美鈴は顔をクシャクシャにして涙を流した。

 贈り物があるので両手で顔を隠せない。

 内場がハンカチで優しく拭ってフォローをしていた。

 こうして映像制作部で一生忘れられない思い出が刻まれたのである。

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