青春100% 作:完結の陽炎
月日が流れて大学受験の時期。
これまで積み重ねてきた勉強を発揮する進学組。
それぞれの志望する大学へ試験を受けていく。
終えた時の反応は各自それぞれであった。
「お、俺ヤバい。英語が難しすぎてヤバい」
「大丈夫です!! 力也さんは必死で勉強したからきっと受かってます!!」
苦手な英語で精神的にボロボロ状態になった力也。
全ての回答は埋めたが正解の自信がない。
他の科目もギリギリの手応えで不安になる。
一方、こずえは全科目とも平均的にこなした。
ヒロシの教わったことが実を結んだようである。
それでも本当に合っているのかは彼女も自信が持てない。
「兄貴お疲れ」
「おや、わざわざ心配して来てくれたのかい?」
「たまたまヒマだったからね。で、どうなのよ?」
「さすがに僕も疲れたよ。念のために見直しをしたから余計にね」
「問題なさそうね」
「少しは労わってほしいな」
「ほら、これでも飲めば?」
「……美鈴、缶コーヒーが冷たい。今は寒い冬だよ」
「いらないなら返しな」
「んぐんぐっんぐっ……もう飲んだから返せないよ」
いつも通りの外村兄妹。
引っ掛け問題で少し手間取ったが、全体的に回答を済ませている。
決して満点と自惚れるつもりはない。
それでも問題を理解して正確に埋めることはできた。
「もしもしさつきさん」
「あいよ。受験終わった?」
「はい。一問も残さず念入りに見直しもしてやり遂げました」
「受かりそう?」
「自信はあります。さつきさんの方は親戚の料亭で就職でしたね?」
「ああ。後継者がいなくて困ってたみたいだから、あたしが女将になるために立候補した」
「きっと素敵な女将になれますよ」
「ありがとうよ………なあ天地」
「なんでしょう?」
「愛してる」
「っ!!」
「あはは、これ一度言ってみたかったけど、実際にやったら恥ずかしいな」
「僕も!! さつきさんを愛しています!!」
「ああもう叫ぶな!!」
電話越しに愛を告げる二人。
天地もヒロシに負けず劣らずの学力、
受験の問題に躓くことなく答えを出し切った。
精神的に疲れても、さつきの声を聞くだけで元気になれる。
「……淳平くん」
「……」
「あ、あのぉ淳平くん……」
「……」
「げ、元気出して。ね?」
「……ごめん」
「えっ?」
「綾が親身になって教えてくれたのに。オレの頭が悪いせいで」
「落ち着いて淳平くん、答えは全部書いたの?」
「一応。でも正直半分も当たってるか自信がない。解くのに時間かけすぎて、見直しがほとんどできなかったんだ。どうしよう、落ちたらどうしよう」
とにかく淳平は本番のテストに必死だった。
目の前の問題を順番にひとつずつ睨めっこして、頭の中を捻り出すようにペンを走らせた。
おかげで回答は何とか埋まったが、見直しの時間がなくなってしまう。
これについては、あえて見直しをしないのもアリだと綾は思う。
余裕のない時の見直しは疑心暗鬼になり、修正した答えが間違う可能性があるからだ。
しかし今の淳平にそんなことを伝えても効果は見込めないだろう。
とにかく好きな人を元気付けてあげたい。
綾は積極的に淳平の手を引っ張っていく。
そして人目のない物陰で背伸びをして唇を重ねた。
「っ!?」
驚きの余り淳平の目が見開いて固まっている。
数秒ほどしてゆっくりと綾が離れた。
「大丈夫だよ淳平くん。これまで頑張ってきた自分を信じて」
「綾……」
淳平の目頭が熱くなって強く抱きしめる。
少しでも彼の不安を取り除きたい。
そんな想いを込めて綾はそっと抱き返した。
進学組がこのように動いている中。
洋菓子店パティスリー鶴屋でバイトをするつかさ。
龍一はフランスへ行っているため日本にいない。
店長から今朝に国際電話があったと聞く。
「つかさちゃん、留学先のお店と住む所が決まりそうだよ」
「待ってましたパリ留学」
「フフッ、近い内に帰国するから、詳しいことはその時にと言うておったぞ」
「それは楽しみ。でも意外ですね。一度フランスへ行ったら長く帰って来ないのに。今回は早めですね?」
「つかさちゃんに早く会いたいんじゃよ」
「焦ってケガしないように気を付けてほしいですね。あたしは気長に自分磨きをして待ってますから」
店長の報告通り、数日後には帰国をして来た。
バイト先で龍一と再会。
職場ということでそれ相応の対応になる。
「日暮さん、おかえりなさいとお疲れさまです」
「……バイトは終わったよな?」
「タイムカードを押すまでがお仕事です……はい終わりっと」
「やれやれ。ほら、フランスの菓子詰め合わせ。友達と一緒に食べるといい」
「わーいありがとう。それで留学先の店と住所は決まった?」
「ああ、ちゃんと手配済みだ」
「夜に勉強したフランス語が発揮する日が楽しみ。たまに龍一さんに付き合ってもらってるけど、実際に通用するか心配だな」
「日常会話ぐらいなら大丈夫だ。現地慣れしている俺が保証する」
「それは良かった。あ、卒業式は龍一さん来れる? 無理なら別にいいけど」
「行くよ。つかさのお母さんに誘われてるんだ」
「お母さん、龍一さんを将来の息子として気に入ってるみたい。お父さんはちょっと複雑そうだけど、嫌ってはいないから安心してね」
「そっか。歓迎してくれるのは嬉しいものだな」
つかさと龍一の関係は良好。
家族にも受け入れてもらっている。
つかさは今も恋愛の自覚はイマイチだ。
でも幸せは何となく感じている。
夫婦ってこういうものかもしれないと。
………………。
…………。
……。
放課後の泉坂高校。
黒川先生の呼び出しを受けた正太郎は会議室にいる。
用件は卒業式の送辞についてだ。
「黒川先生、卒業生代表として答辞するのは、東城綾ことオレのねーちゃんだよな?」
「そうだ」
「在校生代表の送辞は外村美鈴じゃないのか?」
「お前だ」
「なぜそうなった?」
中学時代で送辞と答辞の経験がある美鈴。
この上なく相応しいはずである。
その疑問の答えは渡されたプリントにあった。
「創作部・映像制作部・美術部・書道部から署名があった。送辞は東城正太郎にやってほしいとな。これまでお前がしてきた働きを評価してのことだ」
「同盟を結んだ部の全員が署名したのか?」
「外村兄妹を主導にクラスからの署名も入っているぞ。姉弟で送辞と答辞をやり合えば面白くなるぞってな」
「卒業式でウケ狙いなんてしないよ。あとオレが敬語ダメなの知ってるよな?」
「今後の為にちゃんと開発してあるだろ?」
黒川先生にはお見通しである。
ごまかすにも相手が悪いから手の内を見せる事にした。
おもむろに忍ばせているメガネケースを取り出して装着。
心のスイッチを切り替える。
姿勢を正し、秘書と執事をミックスさせての忠義モードを発動。
「僭越ながら申し上げます。片や作家として受賞されました我が姉上。片や映画として受賞されました外村美鈴様。双方ともに成績優秀で引けをとらない実力者です。ゆえに送辞と答辞の代表者としても相応しく、つり合いが取れるものとして愚考いたします」
「……ふむ、振る舞いも含めて見事なビジネススタイル。大人顔負けの変身だな。だからこそお前がやったほうがいい。外村の妹はお前にやってほしいと強く推薦しているぞ」
それを聞いた正太郎は伊達メガネを外して心のスイッチを解除する。
メガネケースにしまって少しばかり長考。
署名の紙には姉の名前も書かれていた。
「あいわかった。ねーちゃんたちの卒業祝いとして引き受けよう」
「フッ、今年の卒業式を見届けるのが楽しみだ」
それから時間が過ぎて夜を迎える。
正太郎は自室で考え事をしていた。
従姉の遥を卒業式に招待をしたほうがいい。
きっと姉は喜ぶに違いない。
だが正太郎の心境としては……。
――ねーちゃんは一人だけだ。他のねーちゃんはいらない。
兄または姉が二人以上いた場合。
呼び方が被ってしまい紛らわしくなる。
それが子ども心としては嫌なもので、今も気持ちとして理解できる。
綾ねーちゃん、遥ねーちゃん。
姉呼びに名前を追加すると、長くなって面倒だから呼びたくない。
正太郎の感性ではそうなってしまう。
――今のオレは姉離れの気持ちがあるし、ねーちゃんはカントクに任せてるし。
遥に対して嫌悪する理由がなくなっている。
だから嵐泉祭で着ぐるみ越しに観察をした。
きっと正体はバレているだろう。
それでも知らないフリをして楽しそうな笑顔で接してくれた。
――小さい頃のオレはどうしても許せなかった、今になってあの時はごめんなさいと謝るのは絶対に違う。それでは幼き自分を否定することになる。
嫌だった。ムカついた。いなくなってほしかった。
嘘偽りのない本心。
小さい頃から正太郎は良くも悪くも本気だった。
――昔の自分を受け入れつつも、今の自分は違うと認める。
だから遥に対して嫌ってるフリをするのはやめるべきだ。
淳平のようにウジウジ悩むのは性に合わない。
母のところへ行って遥のことを話に持ち出す。
「ねーちゃんが喜ぶから、ねーちゃんの従姉を卒業式に招待してほしい」
正太郎の従姉でもあると言いたい母。
でも思いとどまった。
長年に渡って見守ってきたから、息子の真剣な目を見ればわかる。
正太郎も母の言いたい事を察しているので。
「昔と今では違う。卒業式でケジメをつけるぜ」
息子の気持ちを汲み取って連絡を取ってくれる。
必ず出席をすると息巻いて返事をしたそうだ。
――さて、送辞を作るか。
インターネットで送辞の例文を参考にする。
調べてみると1分で読めるのは300文字程度。
送辞の目安は3分ぐらいが丁度いいようだ。
1000文字を少し過ぎるぐらいなら許容範囲といえる。
ノートパソコンのキーボードで打ち込み、送辞の下書きを作成。
文章作りが得意な正太郎にはお手の物だ。
瞬く間に自作の送辞をまとめてしまう。
コンビニのネットプリントで印刷済み。
あとは姉の部屋へ行って相談だ。
答辞として関わってくるため無視はできない。
「ねーちゃんも答辞の原稿は作ったようだな」
「うん。正太郎も出来ているね」
「ああ、お互いにチェックしていこうぜ」
「うーんと……あ、やっぱり序盤の季語抜いてるね。私もそうだけど」
「季語なんて祝辞で散々聞かされるだろ。校長・来賓・PTA会長の挨拶で」
「私もそう思って抜いてるんだよね。天気入れちゃうとその日によって変わるし」
「影響しない季語もあるけど、回りくどいのは好まん」
序盤の答辞から別に気になる点を発見する。
その部分を指摘してみた。
「ねーちゃん、在校生代表でオレの名前が抜けてるぜ」
「くん付けで呼ばれたいの?」
「ねーちゃんは呼びたいのか?」
「イヤよ。弟をくん付けで呼びたくない」
「同感。オレもねーちゃんにそんな呼ばれ方をされたくない」
気持ちを切り替えて原稿に視線を戻す。
今度は締めの挨拶に問題がないかを確認。
「最後の下りは似たようなものだな」
「正太郎のほうが丁寧でいいね」
「参考OKだぜ。締めの挨拶はどっちも問題なしだ」
あとは肝心となる中盤の内容だ。
目を通して表情が固くなる正太郎。
だが言うべき所はキッパリと言う。
「美鈴だったら容赦なく一刀両断だな。良かったなチェックする相手がオレで」
「な、なによ」
「卒業生の代表でありながら、自分語りが過ぎたかもしれません。なんて書いてあるけど、その自覚をあるなら直せよってツッコミが入るぜ。あとさ、自分がこうだったから皆もこうだと考えるのは危険だ。信じていますと一方的な押し付けにも問題がある。これは先生からチェックを入れてもボツにされる可能性が極めて高い」
「うぐぐっ……」
「ねーちゃんは幻想的な表現で、小説を書くことに関しては天才的だ。そこはオレでも足元に及ばない。だが小説と答辞は違う。小説は自分の世界を描くけど、答辞は卒業生一同の世界を描く。オレの送辞にある中盤を見てみろ。ねーちゃんの改善点は共感性にある」
そう言われて弟の送辞に目を向ける。
一例として嵐泉祭のエピソードが語られていた。
そこには……。
「店員と客どちらもできてお得な気分……そっか、確かにそうだね」
「単純だからこそ、ああ確かにって思えるだろ? ちょっとした事でいいんだよ。あるあるって思わせたら上出来だぜ」
綾のロマンチストと正太郎のリアリスト。
その違いが答辞と送辞の原稿でよく表れている。
自分の世界に入りやすい綾に答辞は相性が悪かった。
「ねーちゃんの持ち味を活かし、二次創作の原理で改善するとしたら……」
「添削じゃないの?」
「ちょっと修正入れる程度だったら添削でいいけど、中盤は全滅するからな。それなら中盤だけ二次創作みたいに書いたほうがいい」
ノートパソコンを持ち込んで手際よく答辞の改善サンプルを作る。
画面を見せつつ、綾の希望に寄り添って調整をした。
手書きでは時間が掛かるためパソコンならば修正が早い。
こうして送辞と答辞の内容を調整して作り直した。
「……ねえ正太郎」
「なんだ?」
「私より劣るなんて言わないで」
「小説でねーちゃんに負けたのは事実だぜ」
「あの作品、私より下だとは思わない。美鈴ちゃんも言ってた。他の出版社なら評価されてもおかしくないって」
「褒め言葉として受け取るよ。誤解のないように言っておくが、オレは全てにおいてねーちゃんより劣っているとは思ってないぜ」
「……成績、私より上でしょ」
「美鈴と互角、と言いたい所だが、問答でボロ負けしている」
「私より上だよね」
学校から渡される通知表でバレている。
全科目において正太郎のほうが点数は高い。
学年が違うから単純に比較できない。
正太郎はそう口にして姉を立てているが。
「黒川先生から聞いているよ。もう今の正太郎は高校レベルでは収まりきらないって」
「美鈴と問答で対決していたら自然とそうなるぜ。美鈴が凄すぎるんだよ」
その美鈴から聞いた事がある。
潜在能力を開花した正太郎は異様に呑み込みが早い。
いつ追い抜かれてしまうか分からない。
内心でヒヤヒヤするので違うクラスになって正直ホッとしたと。
「ところでねーちゃん、小説家という夢が叶って良かったな。改めておめでとう」
「……なんか正太郎に言われると素直に喜べない」
「なんでだよ?」
「私の書いた小説と正太郎が書いた小説、人によって評価が違うと思うから」
「元々オレはオリジナルよりも二次創作のほうが合ってるんだよ。編集に向いてるぜ」
「もうオリジナルは書かないってこと?」
「冬に馳せる者以上は書けない。あれも厳密には夏に歌う者を意識したリスペクト作品だ。純粋なオリジナルと呼んでいいか怪しいものだぜ」
「世界観は似ているけど内容は全然違うじゃない」
「そりゃそうだろう。狂ったように泥臭く努力を続けて、それで儚く散る物語なんだから」
「……」
「睨むなよ。今の内にファンを喜ばせるためのサインを練習したほうがいいぜ」
「さ、サインって。大げさだよ」
「そいつはどうかな」
翌日、黒川先生に送辞と答辞のチェックをしてもらう。
特に問題はないとお墨付きをもらった。
正太郎と綾は胸を撫で下ろす。
「私は数学の先生であって国語の先生ではないのだがな」
「数学も国語も似たようなもの。そう教えてくれたのは黒川先生だ」
「お前がそう解釈したのだろう。私が押し付けた訳ではない」
「でもねーちゃんの答辞にOKが出てよかった。夢見がちだからボツされないか心配だったぜ」
「だ、誰が夢見がちよ。ちゃんと考えて作ったから」
「はいはい。黒川先生、卒業式のリハーサル込みで送辞をやる時、メガネ付けるんでよろしく」
「あれをしないと変身できないのか?」
「オレはちなみと違って、心の中だけで器用に切り替えできないんで。物理的なスイッチがないとダメなんだよ。ちなみと共演している時は別だけどな」
事前に行なわれる卒業式の練習。
卒業証の受け取り方、在校生および卒業生の移動、校歌の練習など。
正太郎と綾は代表者として読み上げも行われる。
こうして本番の日に向けて準備がされていった。
………………。
…………。
……。
天気は雲ひとつない快晴。
冬が過ぎて春の暖かさを感じさせる。
絶好の卒業式日和だ。
時間の流れと共に着々と式が進行していく。
そして……。
「送辞。在校生代表2年3組、東城正太郎」
「はい!!」
司会役からの呼び掛けに威勢よく返事をして起立。
既に腕時計を外し、伊達メガネを装着済みだ。
途中でコケないよう慎重に歩き進める。
――練習の時の正太郎と雰囲気が違う。一体なにをする気なの?
リハーサルの手加減モードと本番の本気モード。
弟の違いが一目で分かって心配になる綾。
内場の漫画で表現をされるなら、本気のオーラを全身に纏い、湯気のごとく溢れて放出しているような状態だ。
そこに伊達メガネの装着で忠義モードをブレンドしている。
――来たね来たね。正太郎くんの本気が見られる。これは絶対、面白いことが起きるよ。
ヒロシは前髪越しに鋭い目を光らせた。
口元で悪魔的な笑みが浮かぶほどの高揚感。
主導になって署名運動をした甲斐があった。
――アイツ、絶対何かやるわ。完全にマジモード入ってるじゃない。
正太郎の本気と手加減を見分けられる美鈴。
本気状態で何かしらに行動を起こす前触れを感じる。
でも特に心配はしない。
正太郎なら素晴らしい送辞をすると信用した。
各々で思う中。
校長先生がいる壇上へあがる正太郎。
ここからがサプライズの始まり。
事前に校長先生からの許可は貰っている。
他の教職員にも話を通してもらっている。
悔いのない卒業式にしたい。
そんな純粋な思いがあるから。
壇に乗っているスタンドからマイクを取り外す。
それを片手にちゃんと音が出るかをテストした。
「あーあー」
この段階で生徒たちの心がザワザワとする。
練習では背を向けたまま紙を広げて読み上げる。
その時のマイクはスタンドに付けたままであった。
それなのに本番で何故それを外して手に取るのか?
――東城、マイク握ったら紙が持てんやろ。ま、まさか……。
内心で無茶が過ぎるとハラハラする内場。
もし自分が逆の立場だったら絶対に無理だ。
あの場に立つだけでも手足が震えるに違いない。
――しょーたろ、なんか歌うみたいにノリノリだ。
カラオケで本気状態になって歌う正太郎。
それを見たことがある唯は目をキラキラと輝かせる。
普通じゃない何かをやってくれると楽しみに溢れていた。
――さすが東城。そんな君だから僕の秘書として傍に置きたくなるのだよ。
逸材として高く買っている天地。
正太郎が大学生になったら京都の住み込みで秘書をしてもらう。
ぜひとも支えてもらいたい。
そう思わせるほどの魅力が備わっている。
生徒一同の胸が躍っていく中。
目の前の校長先生が優しく見守ってくれている。
メガネ越しだが正太郎は無垢な笑顔を見せた。
とても大人嫌いとは思えないほどの無防備さ。
むしろ今からやりますと悪戯っ子のような愛嬌すらある。
校長がとても嬉しそうに笑って頷いてくれた。
――それでは始めます。全身全霊の演出、どうぞご覧あれ。
思考までしっかりと忠義モードでなりきっている。
校長先生にゆっくりとお辞儀をした後。
クルッと勢いよく反転しての仁王立ち。
卒業生、在校生、教員、保護者など全ての視線を一身に受けた。
――なんか立ってるだけでカッコいいぞ東城。
堂々として正太郎の男らしさを感じる力也。
自分もあれぐらいになってこずえを守りたい。
そう思わせるだけの憧れを感じさせた。
――さすが力也さんの弟分です。きっと力也さんもあれぐらいしちゃうんだろうな。
こずえは力也を過大評価しつつ正太郎を認めている。
思わず妄想が突っ走りそうになるも自重。
さすがに卒業式で変なことはできないので空気を読む。
――弟くんがやる気満々。気合いで緊張吹っ飛ばしてるみたい。
正太郎のワクワクを感じ取った。
つかさはある意味で共感を覚えている。
緊張する場でも楽しむことができれば乗り越えられるから。
今、この卒業式の場を支配しているのは正太郎だ。
間を置いてから執事のような一礼を皆の前で披露。
それからマイクを片手に口の近くへ添える。
――マジかよ。紙を読まずに送辞するのか?
淳平が驚きの余りに目を見開いている。
自分だったら絶対にそんなマネはできない。
頭が真っ白になって何も言えなくなるだろうから。
――きっとやり遂げるさ。そういう男だ。
さつきの思考は実にシンプル。
正太郎は見事に送辞をこなす。
そう信じて疑わない。
――勇は絶対に無理だけど、東城ならできるんだろうな。
付き合いは最も短いが正太郎の個性的な所は分かってきた。
自分にできない事を堂々とやってのけると。
そういう天才的な凄みがあるという認識だ。
このように式場で注目をしている人たちは驚く。
読み上げの紙を見ないままで喋る。
しかも全員が見ている緊張感マックスの卒業式で。
そんな難易度の高いことを正太郎は実行に移した。
「3年生の皆様、本日はご卒業おめでとうございます。在校生を代表し、心よりお祝い申し上げます」
冬に馳せる者の映画を見た人は分かるだろう。
あれは演技ではなくガチだと。
映画の撮影みたいにアドリブが自然と口に出る。
「卒業式の送辞は、校長先生の目の前で読み上げる事が通例となっています。私は卒業する皆様に背を向けたまま、見送りの言葉をする事を惜しみました。先輩方を忘れないためにも、真っ向から見つめて全力で伝えたい。そんな私のワガママを、校長先生をはじめ、教職員一同が寛大に受け入れて頂き、誠にありがとうございます」
教職員のいる方向へ丁寧に頭を下げた。
黒川先生が口元で笑っている。
普通なら緊張の余りにまともに喋れなくなったり震えてもおかしくない。
だが今の正太郎は本気モード。
ありったけな思いを伝える強靭な精神力がある。
卒業生と在校生を一望しながら、おもむろに言葉を発していく。
「卒業生と在校生で共通点があります。それは学生の本分となる勉強です。授業に出席し、与えられた宿題を提出し、テストを受ける。成績に直結するため、私たち生徒は科目に応じた勉強にも取り組んでいます。生徒たちで勉強会を開き、力を合わせて乗り越えることもありました」
勉強の義務があり、成績が悪いと補習を受け、部活に出られない。
最悪の場合、留年という処置を取られてしまう。
それでも自由な校風なので、やるべき事をやっておけば問題はない。
「また、先輩と後輩の接点におきましては、部活動が挙げられます。今は名前が変わっていますが、私が新入生だった頃は動画部へ入り、1年生のみで映画制作部というチームを作り、先輩方の映像研究部と映画作りで対決をしました。泉坂高校の目玉イベントとなる嵐泉祭で、両チームの映画を上映しましたので、ご覧になられた方もいらっしゃると思います」
在校生および卒業生が相槌を打って頷く。
一部の保護者や教員も視聴をしたようで反応があった。
夏に歌う者と冬に馳せる者の映画勝負。
冬に馳せる者の映画はラストシーンが衝撃となる作品。
正太郎のマジ泣きが凄まじかったと評判だった。
死別の疑似体験を味わってしまい二度はできない禁じ手。
そこまでしてでも映研の映画に勝ちたかった。
「嵐泉祭すなわち文化祭のことですが、外部のお客様を自由に招待できますので、生徒の中にはご家族がいらっしゃった方もいるようです。私のほうは従姉の……従姉のねーさんが映画を見るために足を運ばれ、迷わないよう見回りの案内役が上映室まで連れて行きました」
姉の呼び方での区別は単純にできる。
綾をねーちゃんと呼ぶなら遥はねーさんと呼べばいい。
今までのことがあるため、素直に呼ぶには躊躇いが生じた。
まして本人が出席しているから尚更である。
それでもケジメをつけると母に宣言しているため強行突破をした。
これで感極まりをしたのは三人。
母と綾、そして呼ばれた遥である。
今まで家族として認めなかった正太郎。
それを卒業式の送辞をもって家族として扱う。
時間の経過と共に心境の変化があったことは明らかだ。
三人とも声を押し殺して泣いている。
これまでの遥に対する正太郎の全否定を考えれば無理もなかった。
「お祭りは音楽ライブをはじめ、飲食やレジャーなど色々な出し物があって大いに賑わいました。卒業生と在校生が協力し、時には店員となり、時には客となり、両方を楽しめてお得な気分になりました」
それに共感をしてくれる生徒たち。
各自で嵐泉祭の思い出が蘇っていく。
場の空気を読み取って少しだけ間を置いた。
そしてタイミングを見計らって再び口を開く。
「新入生の頃は先輩方に対抗しましたが、私たち後輩が2年生になり、先輩方が3年生となり、両チームは映像制作部として一つになりました。先輩方に心残りがないよう最高の映画にしたい。その一心で先輩方と一緒に映画を作り上げた事は今も大切な思い出です」
対決で負けた時の悔しさもあった映研。
でも映制にまとまっての活動は楽しかった。
そこから学ぶことも多く、特に淳平は監督を目指す者として得るものがあった。
淳平の表情が語っている。
一緒に映画作りが出来て本当によかったと。
「共同の映画が完成した時、先輩方との別れを実感して泣く後輩がいました。先輩方から温かく優しい言葉で慰めて頂き、後輩は笑顔で映像制作部を引き継ぎました。先輩方が安心して卒業できるよう、志を高く持っています」
正太郎は在校生の席へ顔を向ける。
恥ずかしくなって目を逸らしている美鈴。
内場と唯、勇が優しく微笑みを浮かべる。
ちなみに至っては正太郎に見惚れて釘付けだ。
「今、先輩方は新たな未来へ飛び立とうとしています。夢と希望を胸に、泉坂高校で学んだことを基盤としてご活躍ください。私たち2年生も、来年には先輩方と同じ卒業生の立場になります。先輩方を見習い、進路に向かって日々精進いたします」
終盤の流れへ持っていく。
名残惜しくなってきた。
しかし主役はあくまでも卒業生である。
在校生は引き立て役。
映画で演じるのと同じサブキャストだ。
だから正太郎はハッキリと締める。
「最後になりましたが、卒業生一同のご活躍とご健康を心よりお祈りし、送辞といたします」
今日の生年月日、在校生代表の肩書き、クラス名、正太郎のフルネーム。
それを口にしてからお辞儀をする。
式場から盛大な拍手が沸き起こった。
振り返ってマイクをスタンドへ差し戻す。
笑顔の校長先生が拍手をしている。
正太郎は照れ笑いを浮かべて一礼をし、自分の席へ戻った。
――あとは終わりの移動だけだからメガネを外して、腕時計の装着で手加減モード……うわあ、精神消耗が激しすぎ。8割以上削れてる感じだ。
本気状態でないと緊張に支配されていた。
仕方のない代償である。
反動となる精神疲労は覚悟の上だった。
「答辞。卒業生代表3年4組、東城綾」
「はい」
司会役に呼ばれて綾が返事をして起立。
ちゃんと涙は拭き取って切り替えができている。
いつになく芯の強さを感じさせた。
常時覚醒モードの姉は、究極のアルティメットに進化したのかもしれない。
――ねーちゃんがカッコイイ!! 行け行けゴー!! でもコケるなよ絶対だぞ!!
ゆっくりと壇上まであがっていく。
校長先生にお辞儀をして答辞用の紙を広げて目を通す。
それから紙を折り畳んで壇へ置いてしまう。
――ねーちゃん、なぜ紙を置く?
さらにマイクをスタンドから取り外す。
ちゃんと音が出るかのテストを行なった。
「あーあー」
この時点で全ての参加者が察する。
同時に思う。
紛れもなく綾と正太郎は繋がりのある姉弟だ。
これにはさすがに正太郎も驚きを隠せない。
――ねーちゃんがやり返すなんて初めて見た。
綾にもおねえちゃんとしての意地がある。
弟が真心を込めてくれた勇気のある送辞。
それに応えられないようでは姉としての面目が立たない。
クルッと反転をして綾が正面を向く。
清々しい笑顔で胸を張り、マイクを口元へ近付けた。
「本日は、私たちのために盛大な卒業式を挙げて頂きありがとうございます。また、校長先生をはじめ、ご来賓の皆様方、そして先ほど送辞を述べられました在校生代表からも、正面から、心温まるお言葉を頂き、卒業生を代表して厚くお礼申し上げます」
わざと区切って正面を強調。
正太郎の勇敢な行動を遠回しに褒めた。
でも在校生の名前は代表で濁す。
伝わる人には伝わるのだろう。
微笑ましく感じている人たちが多かった。
「3年前の今頃、私はある夢を抱いて泉坂高校へ受験しました。それは入学したら中学時代の同級生たちと一緒に映画を作ることです。その夢を叶える部が存在していないのは承知の上で、私たちで部を立ち上げていくことを心に決めて取り組みました」
何もかもが手探りで最初はまとまりがなかった映研。
それでも試行錯誤の末、無理なく徐々に形になっていった。
各自の都合や事情を配慮すること。
一方的な押し付けでは続かないことが教訓になった。
「数々の失敗を経験し、そのたびに原因を調べ、次へ活かして改善をする。それを実行するお手本が私の身近な人にいます。失敗することを恐れて、先延ばしをしてしまいがちな私にとって、海のように広く深い存在です。心より敬意を抱いています」
知っている人は知っている。
嵐泉祭の映画を見た人は海の一言で誰のことか分かる。
こっち見んなと気恥ずかしくなる正太郎がいた。
「本来なら先輩である私たちが模範となり、後輩を導くものかもしれません。しかし私たちは後輩の皆様から、多くのことを学ばせて頂きました。私たちの映像研究部が少しずつ改善されて2年生となった時、新入生が映画制作部のチームで独立し、動画部の下で映画作りを競い、その後輩の勢いと団結力に私たちは圧倒されました」
これには映研メンバーの総意と言っても過言ではない。
ヒロシに至っては悪魔的な笑みを浮かべるほどだ。
淳平も強く頷いている。
映制の柱である正太郎が敵に回ったときの脅威は計り知れなかった。
「勝負の結果を顧問の先生から聞き、私たち映像研究部はコンテストの順位で負けました。後輩たちの映画制作部が作り上げた映画は、私たち以上にベストを尽くしたのです。一昨年の嵐泉祭で上映されましたので、その時にご覧になられた皆様なら伝わっているかもしれません」
美鈴はその時に正太郎が見せた覚悟を今もハッキリと覚えている。
一度限りで二度はしない条件で、監督である自分が決断を下したことも。
――あの時はホント無茶したわね。アイツがお姉さんを超えたいという真っ直ぐな目が心に焼き付いて離れないわ。
共演したちなみもその時を思い出す。
最初、精神崩壊を懸念して反対だった。
ちなみの演技と違い、正太郎の演技は感情移入が激しすぎる。
そのキャラになりきってしまうから上手く割り切れず、心に深い傷を負うリスクがあった。
しかし姉超えを果たそうとする正太郎の意思は固い。
誰よりも傍にいて理解しているからこそ、ちなみには止められなかった。
――美鈴も言ってたけど、あの演技は一回っきりだよ。しょーくんが本気で悲しむ姿は二度と見たくないから。
どちらが勝ってもおかしくはなかった。
競い合う以上、勝ち負けの結果で喜び悲しむのは当然のこと。
そこに至るまでのプロセスが明暗を分けた。
「両チームに分けて作られた映画も、ひとつの部にまとまって作られた映画も、私たちにとってかけがえのない宝となりました。そして後輩の皆様が寂しく感じるのと同じぐらい、本校から旅立つ私たちも寂しいです。もっと多くの映画を、今の映像制作部で一緒に作りたいと思ってしまいます。それでもいつか訪れる出会いと別れがあり、人の成長はそうやって積み重ねていくものだと今の私は感じています」
美鈴と唯は涙が溢れて止まらない。
ちなみは泣きこそしないが寂しそうな表情だ。
内場と勇も同じ気持ちで、もっと先輩たちと一緒に活動がしたかった。
正太郎は真剣な顔つきで真っ直ぐに見つめる。
姉の晴れ舞台を一瞬たりとも逃さないために。
「こうして私たちが未来へ向かって羽ばたけるのは、先生方とご家族の支えがあってのことだと思います。この場をお借りして、感謝の言葉をお伝えしたいです。今までありがとうございました」
綾は気持ちを込めて頭を下げる。
黒川先生がハンカチで目元を押さえている。
保護者の母と親戚の遥は泣きっぱなしだ。
「来年には在校生の皆様が卒業をする番です。その時まで泉坂高校の生活を心残りのないようお過ごしください。進路で大変な時期もありますが大丈夫です。困った時は一人で抱え込まず、先生方、ご家族、ご友人などに相談してみてください。もし私たちが泉坂高校を訪れた時は、気軽に話しかけてみてください」
綾はその場をじっくりと見納める。
この機会は二度とないと思って名残惜しくなってきた。
それでも卒業の代表者として締めなければならない。
「最後になりますが、皆様のご健康と泉坂高校のさらなる発展をお祈りし、答辞とさせていただきます」
今日の生年月日、卒業生代表の肩書き、クラス名、綾のフルネーム。
最後まで言い切ってから深々と頭を下げる。
送辞に匹敵するほどの拍手が巻き起こった。
振り返ってマイクを差し戻し、壇に置いた答辞の紙を回収。
心温まる拍手をする校長にお辞儀をして、ゆっくりとした足取りで壇を下りていく。
決して油断をすることなく、無事に自分の席へ戻っていった。
送辞
3年生の皆様、本日はご卒業おめでとうございます。在校生を代表し、心よりお祝い申し上げます。
卒業式の送辞は、校長先生の目の前で読み上げる事が通例となっています。私は卒業する皆様に背を向けたまま、見送りの言葉をする事を惜しみました。先輩方を忘れないためにも、真っ向から見つめて全力で伝えたい。そんな私のワガママを、校長先生をはじめ、教職員一同が寛大に受け入れて頂き、誠にありがとうございます。
卒業生と在校生で共通点があります。それは学生の本分となる勉強です。授業に出席し、与えられた宿題を提出し、テストを受ける。成績に直結するため、私たち生徒は科目に応じた勉強にも取り組んでいます。生徒たちで勉強会を開き、力を合わせて乗り越えることもありました。
また、先輩と後輩の接点におきましては、部活動が挙げられます。今は名前が変わっていますが、私が新入生だった頃は動画部へ入り、1年生のみで映画制作部というチームを作り、先輩方の映像研究部と映画作りで対決をしました。泉坂高校の目玉イベントとなる嵐泉祭で、両チームの映画を上映しましたので、ご覧になられた方もいらっしゃると思います。
嵐泉祭すなわち文化祭のことですが、外部のお客様を自由に招待できますので、生徒の中にはご家族がいらっしゃった方もいるようです。私のほうは従姉の……従姉のねーさんが映画を見るために足を運ばれ、迷わないよう見回りの案内役が上映室まで連れて行きました。
お祭りは音楽ライブをはじめ、飲食やレジャーなど色々な出し物があって大いに賑わいました。卒業生と在校生が協力し、時には店員となり、時には客となり、両方を楽しめてお得な気分になりました。
新入生の頃は先輩方に対抗しましたが、私たち後輩が2年生になり、先輩方が3年生となり、両チームは映像制作部として一つになりました。先輩方に心残りがないよう最高の映画にしたい。その一心で先輩方と一緒に映画を作り上げた事は今も大切な思い出です。共同の映画が完成した時、先輩方との別れを実感して泣く後輩がいました。先輩方から温かく優しい言葉で慰めて頂き、後輩は笑顔で映像制作部を引き継ぎました。先輩方が安心して卒業できるよう、志を高く持っています。
今、先輩方は新たな未来へ飛び立とうとしています。夢と希望を胸に、泉坂高校で学んだことを基盤としてご活躍ください。私たち2年生も、来年には先輩方と同じ卒業生の立場になります。先輩方を見習い、進路に向かって日々精進いたします。
最後になりましたが、卒業生一同のご活躍とご健康を心よりお祈りし、送辞といたします。
△△〇〇年〇月〇日
在校生代表2年3組 東城正太郎
答辞
本日は、私たちのために盛大な卒業式を挙げて頂きありがとうございます。また、校長先生をはじめ、ご来賓の皆様方、そして先ほど送辞を述べられました在校生代表からも、正面から、心温まるお言葉を頂き、卒業生を代表して厚くお礼申し上げます。
3年前の今頃、私はある夢を抱いて泉坂高校へ受験しました。それは入学したら中学時代の同級生たちと一緒に映画を作ることです。その夢を叶える部が存在していないのは承知の上で、私たちで部を立ち上げていくことを心に決めて取り組みました。
数々の失敗を経験し、そのたびに原因を調べ、次へ活かして改善をする。それを実行するお手本が私の身近な人にいます。失敗することを恐れて、先延ばしをしてしまいがちな私にとって、海のように広く深い存在です。心より敬意を抱いています。
本来なら先輩である私たちが模範となり、後輩を導くものかもしれません。しかし私たちは後輩の皆様から、多くのことを学ばせて頂きました。私たちの映像研究部が少しずつ改善されて2年生となった時、新入生が映画制作部のチームで独立し、動画部の下で映画作りを競い、その後輩の勢いと団結力に私たちは圧倒されました。勝負の結果を顧問の先生から聞き、私たち映像研究部はコンテストの順位で負けました。後輩たちの映画制作部が作り上げた映画は、私たち以上にベストを尽くしたのです。一昨年の嵐泉祭で上映されましたので、その時にご覧になられた皆様なら伝わっているかもしれません。
両チームに分けて作られた映画も、ひとつの部にまとまって作られた映画も、私たちにとってかけがえのない宝となりました。そして後輩の皆様が寂しく感じるのと同じぐらい、本校から旅立つ私たちも寂しいです。もっと多くの映画を、今の映像制作部で一緒に作りたいと思ってしまいます。それでもいつか訪れる出会いと別れがあり、人の成長はそうやって積み重ねていくものだと今の私は感じています。
こうして私たちが未来へ向かって羽ばたけるのは、先生方とご家族の支えがあってのことだと思います。この場をお借りして、感謝の言葉をお伝えしたいです。今までありがとうございました。
来年には在校生の皆様が卒業をする番です。その時まで泉坂高校の生活を心残りのないようお過ごしください。進路で大変な時期もありますが大丈夫です。困った時は一人で抱え込まず、先生方、ご家族、ご友人などに相談してみてください。もし私たちが泉坂高校を訪れた時は、気軽に話しかけてみてください。
最後になりますが、皆様のご健康と泉坂高校のさらなる発展をお祈りし、答辞とさせていただきます。
△△〇〇年〇月〇日
卒業生代表3年4組 東城綾