青春100%   作:完結の陽炎

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第53話「先輩の見送りと友援会の思い出作り」

 パリへ向かうには直行便と乗り継ぎ便がある。

 直行便の空港につかさと龍一がいた。

 見送りをする面々と言葉を交わしている。

 正太郎はフランス語で歌うように話しかけた。

 サプライズを仕掛けられたつかさはビックリである。

 

「弟くん、いつの間にフランス語覚えたの?」

「つーさんを驚かせてやろうと思って、ネット使って独学した。英語に似てるから馴染みやすいぜ。似てても意味が異なる空似言葉という引っ掛け問題は面白かったな」

「しょーくん、何を話したの?」

「日本語に翻訳すると、フランスへ行っても元気に頑張れ。また会える日を楽しみにしている。そしてひーさんとお幸せに、という意味になるぜ」

「すごいね弟くん。マジであたしより発音が上手かったよ」

「楽しんでもらえて何より。さて、つーさんが遠くに行っちゃうから、ねーちゃんがビービー泣くんじゃないかな――っておっと、足を踏もうとすんなカントクが見てるぞ」

「んもぉー!! いっつも余計なことばっかり言って!!」

「ひーさんバリア。ねーちゃんの友達つーさんをよろしくひーさん」

「あはは、東城がいると賑やかになって楽しいな。つかさのことは任せてくれ」

 

 お調子者を振る舞って場を和ませてみた。

 湿っぽくなって別れを悲しむのは性に合わない。

 だから喜んでもらって気持ち良くバイバイがしたい。

 

「あ、ヒロシ兄さん。寄せ書きは?」

「ここにあるよ。ほら」

「さっちゃん、花束は?」

「ちゃんと持ってるよ」

「つーさん、二人の前に立って受け取って」

「うん!!」

 

 ヒロシから寄せ書きの固い紙を、さつきからは花束が渡される。

 皆で拍手をして、つかさが満面の笑顔でお礼を言ってくれた。

 そして一人ずつ声を掛けていき、最後は綾と淳平の二人に伝える。

 

「綾、真中くんと一緒に最高の映画を作りなよ!! 今度は一位目指して頑張れ!!」

「うん!! つかさもお菓子作りの修行頑張ってね!!」

「ありがとう西野!! 青都大学で一位目指して映画作るって約束するよ!!」

 

 二人の返事に満足をして、つかさは龍一と共に去っていく。

 見えなくなった瞬間、唯をはじめ、綾が涙を流す。

 こずえ、さつき、美鈴も我慢をしていたようでもらい泣きだ。

 

「オレも人のことは言えないけど、ちなみも泣かないな」

「そんなことないよ。わたしだって泣いたりすることあるんだから」

「……クラス分けで別になった時か?」

「そうだよ」

「つまりオレに関連した悲劇でないと泣かないと?」

「演技の時は泣けるよ。そういう切り替えはできるから」

 

 明日は天地とさつきが京都へ引っ越してしまう。

 駅前で見送りに行くことになっている。

 その天地に向けて正太郎が話しかけた。

 

「明日も泣く人が出てくるかな?」

「泣かれるほど寂しく思ってもらえるのは、それはそれで嬉しくなってしまうのだから困ったものだ」

「来年はオレたちも京都に行くんで、その時はよろしく」

「ああ、こちらこそよろしく」

 

 実家から離れて寮暮らしをするのはヒロシと淳平。

 どちらも他の住民との人脈作りをするようである。

 次に正太郎が声を掛けるのはこの二人だ。

 

「芸能プロダクションのヒロシ兄さんと映画作りのカントクを融合させれば、女優を主演とした映画が生まれるかもしれない。そんな夢と夢が重なる時があれば楽しそうに思う」

「ふふふ、それは面白い夢だね。真中もそう思わないかい?」

「外村がタレントを育成して、オレが作る映画に出演か。確かにワクワクするよな」

「ヒロシ兄さんのプロダクションが盤石なら、ちなみと妄想使い、さらにオレとコミさんが加わるから、レベルアップしたカントクがそんなオレたちをどう使いこなすか、夢が広がるぜ」

 

 こうして男たちで夢を語り合う。

 こんな時が一番楽しいのかもしれない。

 若さゆえの輝きがそこにあった。

 

 天地とさつきが京都へ行ってしまう前。

 正太郎は天地との空手の組手をお願いした。

 審判をさつきにして本気モードで先手必勝狙い。

 だが今までの天地と違い、防御と回避が完璧だ。

 ここぞと天地が反撃をしての形勢逆転。

 今度は正太郎が防戦一方に持ち込まれてしまう。

 誘いに乗ってくれないのでカウンターが狙えない。

 長引けば本気状態で消耗の激しい正太郎が不利。

 だから勝負に出るしかない。

 正太郎が大きく踏み込み、そこを天地の鋭い下段蹴りが炸裂。

 姿勢を崩さないように我慢するが動きを止められてしまう。

 間髪入れず天地の拳が飛び、正太郎も拳を突き出す。

 互いの拳が顔面で寸止めとなった。

 

「そこまで!!」

 

 さつきが制止して両者が拳を引っ込める。

 定位置へ戻ってから静かに一礼。

 そして互いに健闘を称えて握手を交わした。

 

「君に勝つつもりで全力を尽くした。でも引き分けが精一杯だったよ」

「寸止めルールなしなら天さんの勝ちだよ。あのまま当たっていたら、勢いを乗せていないオレの拳は大してダメージを与えられず、天さんの拳でノックアウトだぜ」

「僕は強くなったかい?」

「間違いなく強くなった。さっちゃんに勝ったのも頷けてしまう」

「そっか。来年、君が京都へ来るのを待っている」

「秘書として社長と呼ぶ日が楽しみだ。忠義モードに磨きをかけるぜ」

 

 次の日に駅前で天地とさつきの見送りタイム。

 つかさと同様に寄せ書きと花束が贈られた。

 

「京都に行く機会があれば、僕の屋敷に遊びに来るといい」

「あたしが継ぐ料亭にも来なよ。女将としてもてなすからさ」

 

 宿泊先として天地の屋敷は有効だろう。

 祝いの宴会を開くなら、さつきの料亭がうってつけだ。

 そんな未来を楽しみに笑顔で離れていった。

 

 ………………。

 …………。

 ……。 

 

 正太郎たちが3年生となってのクラス分け。

 掲示板を確認すると正太郎たちは驚く。

 皆の予想を上回る結果になっていた。

 

「1組はオレ」

「あたしは2組よ」

「唯は3組」

「あーと勇は……4組」

「……わたしが5組」

「僕も5組で端本と同じクラスや」

 

 ちなみと内場を除く全員がはぐれ者となった。

 ほぼ完全にバラバラにした構成となっている。

 最後の学年で思い切りのある分け方をしていた。

 

「とりあえずオレが1組というのは分かる。卒業式の送辞をやったし成績もある。おそらくリーダーシップがとれる人間として見られているんだと思う。だから美鈴と別になるのも分かる」

「そうね。にしても本当によくバラけちゃってるわね」

「唯、納得できなーい!! 誰も一緒じゃないなんて最悪だよぉ!!」

「あーあ、東城も内場も両方いないのか。結構キツイぞ」

「端本、現実はこんなもんや。漫画みたいに都合のええようにならんで」

「だからって、この分け方はあんまりだよ。仲のいい生徒を引き裂く先生の悪意を感じちゃう」

 

 この時期になればイヤでも進路が意識される。

 どの教室も受験勉強と就職活動で雰囲気が重い。

 毎年恒例の新入生を歓迎しての部活勧誘。

 正太郎は弟子の中間を創作部へ引き入れた。

 そしてサラッと簡単にトップの座を譲ってしまう。

 

「入学おめでとう中間。お祝いに創作部部長をプレゼントだぜ」

「そ、そんな師匠!! 急すぎる!!」

「オレは受験や資格の勉強で忙しい。心配しなくても簡単にマニュアル作ったから引継ぎも抜かりなしだ。分からないことは顧問に相談しろ。困った時は部員を頼れ。以上」

「し、師匠ぉーーーーーー!!」

 

 1年生に部長を譲ってはいけない決まりはない。

 これで正太郎は己の進路活動に専念できるようになった。

 肩の荷がおりたとはまさにこの事である。

 中間が右も左も分からなくても心配はいらない。

 いざとなれば創作部の部員や同盟の部が支えてくれるだろう。

 

 クラス分けでバラバラになっても昼休みは一緒だ。

 屋上前の踊り場でレジャーシートを敷いての弁当タイム。

 そこで美鈴も引継ぎで部を引退をしたことを知った。

 

「映像制作部元部長、引退おめでとう」

「はいはい、そっちもおめでとう創作部元部長」

「そっちの引継ぎは2年でつーさんのそっくりさんか」

「髪は黒だけど仕切り上手な所は似ているわ。アンタのほうは例の弟子に?」

「いかにも。マニュアルは渡したし、何かあっても部員が支えるだろう」

「1年相手に容赦ないわね。入ったばかりで大変な時期なのに」

「僕も一応、創作部を引退したんやけど?」

「内場もお疲れ。たまにそっち遊びに行ってもいいか?」

「なんや。遠慮なんて東城のガラちゃうやろ」

「確かに。親友に遠慮は無用だな」

 

 正太郎と美鈴はクラスの人気者で頼られるリーダー的存在。

 唯と勇はピアノ演奏で知られて、音楽好みの生徒と仲良し。

 内場は穏やかな人柄もあって一部の生徒と打ち解けている。

 ちなみは持ち前の演技で誰とも適度な距離を保った。

 各自の近況を確認してから、正太郎がとある事を口にする。

 

「卒業したら各自それぞれの道を行く。そうなるとこうして皆と一緒にいられる事もなくなる。そこでオレからの提案。学校のテスト勉強会、大学受験の勉強会、息抜きのトリプルデートなど、皆といられる時間を今年はあえて作ってみないか?」

「唯は賛成!! しょーたろいい事言うじゃん!!」

「勇もいいと思う。授業のテスト勉強会はマジで助かる」

「大学受験の勉強会もええ考えやな。一人やとプレッシャーや不安に呑まれそうやし」

「しょーくん、トリプルデートもいいけど、二人だけのデートも考えてね」

「という訳でどうよリーダー」

「言い出しっぺはアンタなんだからリーダーもアンタがしなさい」

「サブリーダーならやってもいいぞ。まあ、内場がやりたいなら譲るけど?」

「別にええよ。形だけの肩書きやろ?」

「まあな。気持ちの問題ってヤツだ。だからそんな堅苦しく考えることはないぜ美鈴」

「分かった分かった。好きにしなさい」

 

 美鈴としても不思議とワクワクしてしまっている。

 部を引退してどこか寂しかったのかもしれない。

 監督ではないがリーダーとして引き受けてくれた。

 

「ねえしょーたろ、せっかくだからチームの名前作ろうよ。そのほうがワクワクするよ」

「んー、外村組? 美鈴組?」

「やめなさい。極道の任侠映画じゃないんだから」

「それなら友達を支援して会うと書いて、友援会ならどうだ? 会う時間を増やすというコンセプトと一致するぜ」

「なんや言葉だけ聞くと、宴会を開く楽しいイメージにもなって洒落とるわ」

「わたしは賛成。さすがしょーくんだよ」

「勇も別にいいと思う」

「唯もそれでいいよ。友援会で決まりっと」

「という訳でよろしく友援会会長」

「まったくアンタたちは……で、目先の予定は?」

「まず皆で進路の見つめ直し。本当にこの進路でいいのか? という迷いを断ち切るための洗い出しだ」

 

 言い出しっぺとして、正太郎が自分の進路を伝えた。

 家庭の経済事情も話して、天地の秘書という条件で学費の負担をしてくれる。

 住み込みになるため、京都へ引っ越して実家から離れて生活の予定だ。

 

「そないな事情やったら何も迷わんやろ。ちゅうか僕らがどうこう言えるレベルちゃうし」

「勇も東城がそれで決めたならそれでいいと思うぞ」

「天地さんにしょーくんを取られちゃうのは、ちょっとだけムッと来るけど仕方ないよね」

「頑張れしょーたろ。目指せ京大だよぉ」

「……アンタ、万が一のことは考えてる? 京大以外の可能性は想定してるの?」

「さすが美鈴。問題点を瞬時に見抜いてくれる。その通り、京大に落ちたら全てが台無しとなる。併願するのか? それとも就職か? という備えは必要だ」

 

 絶対に受かるという意気込みはいいが過信は禁物。

 最悪の事態を想定することも進路においては重要だ。

 滑り止め受験というのも立派な戦術の一つである。

 

「実はこれについて、天さんにリスクヘッジな意味合いで相談したところ」

 

 もし京大に落ちても、秘書として雇う意思は変わらない。

 その場合、完全に正太郎はフリータイムとなるため、天地の側近として重宝される。

 よって何も心配なく受験にベストを尽くせと励まされた。

 

「オレとしては絶対に受かるつもりだし、落ちても天さんに忠義を尽くす。どちらに転んでも大丈夫なようになっている」

「それならアンタはそのまま突き進めばいいじゃない。何も洗い出す必要がないわ」

「確かに。強いて言えば資格かな。秘書と英語は上級レベルまで取っておきたい。パソコンは基礎レベルで充分かな。あとは車の免許だな。身分証になって便利だし、仕事上で使うかもしれないから」

 

 免許に関して反応があったのは内場と勇。

 内場はバイク、勇は車の免許を取ろうと考えている。

 どちらも正太郎と同じような理由だ。

 特に内場はプライベートでもバイクが使えたらと思っているらしい。

 

「オレが在校中にやるべき事はこんな感じだ。さて昼休みも限られているし、続きは放課後か翌日の昼休みで」

「しょーくん、放課後にするならどこに集まる?」

「進路の洗い出しだから、ネット検索が可能で会話もできる場所が望ましい。だとしたらオレの部屋ぐらいしかないんじゃない? 天さんが卒業して京都へ行ったから、あの和館や洋館を使うのは気が引けるし」

「あたし、ノートパソコン持ってるわよ。兄貴から譲られたものだけどね」

「マジか。よしそれなら美鈴の部屋に決定。よろしく会長、お茶とお茶請けのおやつにご期待」

「アンタね、あたしの部屋はお茶屋じゃないのよ」

「まあ、これは強制じゃないから皆、都合が悪かったら遠慮せずに言ってくれ。あくまでボランティアの思い出作りが目的だから。気軽にやろうぜ気軽に」

 

 こうして友援会の自主的な活動が始まった。

 放課後に美鈴の部屋で集まって進路の洗い出し。

 ノートパソコンでネット検索ができるから便利だ。

 

「あたしの進路はしょーくんと同じ京大で学部も同じ。文理とも幅広く学びたいのはしょーくんと一緒。天地さんの所で住み込みするのも同じ。違うのは家政婦という職種。内場くんの漫画でいえばメイドみたいなイメージになるのかな?」

「戦闘もこなせるメイドだったらカッコイイな」

「しょーくん、いくらわたしでも清掃用具を武器に使いこなしたり、投擲ナイフの使い手になったり、スナイパーみたいに重火器使いこなせたりできないからね。演技でそれっぽく振る舞うぐらいならしてあげられるけど」

「おおっ、それはちょっと見てみたいかも。それで在校中に何か資格は取る?」

「履歴書で書ける程度にビジネスマナーのある検定ぐらいかな。あと車を持つ予定はないけど、免許で身分証になるのは便利だから取っておくかも」

 

 ちなみは資格や免許よりも家事全般をより磨きたいところ。

 特に料理が不可欠で正太郎に負けられないという対抗意識があるようだ。

 

「ちなみが大学を卒業したら、ヒロシ兄さんのプロダクションでタレント……これは本当にヒロシ兄さん次第だな。ダメだった場合も想定して動いたほうがいいとオレは思うぜ」

「天地さんに引き続き雇われるならそうする。でも天地さんもいずれは独立して北大路さんと添い遂げる訳だし」

「あ、天さんが状況によって、ちなみの仕事斡旋も考慮するから心配は無用だって。路頭に迷わせるような非情なマネをするつもりはないってさ」

「……天地さんには頭が上がらないね。ちょっぴり悔しいけど、これであたしの進路も迷いなしだよ」

 

 これで正太郎とちなみの進路はOK。

 今度は唯が名乗りをあげて将来を見つめ直す。

 以前は音大を考えていた時期はあった。

 でも学費が異常に高いこともあって断念。

 ない袖は振れない。

 好きな音楽は独学の趣味でやることにする。

 今は図書館の司書になりたい。

 その資格が取れるように大学に進学をして頑張りたい。

 

「唯が志望大学は美鈴と同じ同志谷大学か?」

「うん。オープンキャンパスに参加してビビッと来たんだ。そこの文学部に入りたい」

「唯はあまり本を読まないイメージがあったから、何気に意外だったりするぜ」

「むぅー、唯だって本ぐらい読むよ。内場の漫画とか」

「他には?」

「音楽の本をちょっと。楽譜があれば割と見ちゃう」

「美鈴、その大学って司書を目指せるのか?」

 

 美鈴がネット検索をしてくれる。

 同志谷大学は司書を目指せる大学に含まれていた。

 講座やガイダンスでサポートする体制が整っている。

 

「なるほど。でも大学でサポート受けて、仮に図書館司書の資格取得をしたとして、絶対に司書になれるとは限らないよな? 具体的にどうやって司書まで到達するんだ?」

 

 美鈴がさらに調べてくれる。

 そもそも司書は採用人数が少ない。

 募集する時期も不規則である。

 絶妙なタイミングで受けられるとは限らない。

 正規雇用の求人となれば狭き門であることも間違いない。

 非正規として実務経験を積みながら正規雇用を目指す人も多いらしい。

 チャンスがなければパートのままで終わりそうだ。

 

「ねえ唯、公務員に興味はない?」

「え? 公務員ってお巡りさんだよね?」

「それだけが公務員じゃないわよ」

 

 可能性を広げるために美鈴からの意見。

 公立の図書館や学校で司書をする公務員というのがある。

 地方公務員の試験に合格して配属されれば雇用も待遇も安定するだらう。

 ただし必ずしも図書館に配属されるとは限らない事は念頭に入れておかねばならない。しかも倍率は数10倍にもなるという。

 国立国会図書館の職員でなれば国家公務員という立場を得るが、超難関試験で倍率100倍以上にも及ぶようだ。

 

「うわあー、そ、そんなに難しいのぉ? 唯、しょーたろや美鈴みたいに頭良くないのに」

「なあ美鈴、公務員にある司書教諭は?」

「こっちは教師だから試験先が変わるわよ。司書の資格を得てから教員の採用試験に合格し、校長から司書教諭に任命されないといけないの。

しかも何らかの科目を教えて司書の仕事と兼任になるから大変よ」

「唯が教師……悪いが全然イメージできない。意外性がありすぎ」

「なんだよ!! 唯が先生だと変だって言いたいの!?」

「悔しかったら今のクラスで成績トップになってみろ。それぐらい出来ないと司書の道には届かないと思うがいい」

「むぐぐっ……や、やってやるもん!! 今のクラスで唯が一番になる!!」

「おお言ったな。なれなかったらパティスリー鶴屋でケーキ奢れよ。いやー楽しみだ」

「ムキー!! ぜぇーたいに一番になってやる!!」

「おう、その時はお祝いをしてやるぜ」

「約束だよ!! 破ったら針千本飲んでもらうから!!」

 

 わざと怒らせて唯にやる気を引き出させる。

 小学時代のスキル探しも、こうしてピアノという音楽に目覚めた。

 単純だからこそ能力が伸びやすいことを正太郎は理解している。

 

「これで唯の目先の目標は成績トップになった。あと同志谷大学を専願して合格をしたら司書の資格を目指しての大学生となる。そこから先は公務員か教師か、あるいは全く別の道を行くかは唯次第でどうだ? 上手くまとめたつもりだぜ」

「唯、それでいくよ。絶対しょーたろにぎゃふんって言わせてやるんだから」

 

 これで唯の進路も固まった。

 時間が来たので今日はここまでと美鈴が会長として宣言。

 明日の昼休みに美鈴が自分の進路を語るとのこと。

 

「会長は最後にとっておきたかったが、そんなお約束は関係ないとするのが美鈴らしい」

「ええ。そんなのあたしの知ったことじゃないわ」

「会長の次は勇だ。最後は内場にしてくれ」

「僕にオチ回されてもな。ここはジャンケンで決めようや」

 

 ジャンケンをした結果。

 勇はパーで内場はチョキ。

 内場が勝ったので最後は勇に決定だ。

 

「な、なぜだ? 最初はグーが出る確率が高いのに」

「勇はピアニストだから拳を作るよりも、掌を広げる傾向があると読んだで。あと最初にチョキ出す人は少ないだろうという心理も逆手に取ったんや」

 

 それを聞いて正太郎が反応をする。

 内場とジャンケンをした時によく負けていたから。

 

「あれ? じゃあオレが内場とジャンケンした時、オレが負けることが多かったのは……」

「東城はペンを握りしめる創作家で、しかもバトル好きやから拳のグーがメッチャ多いんや」

 

 正太郎と勇が顔を見合わせた。

 考えていることは同じ。

 見た目の優男で人の良い内場が恐ろしい。

 ヒロシの影響を受けているようである。

 

 翌日の昼休み。

 予定通りに昼食をとりつつ美鈴の進路話だ。

 まずは自己分析から入る。

 

「あたしは昔から映画を見るのが好きで、それで問題点を見つけて不満が溜まっていく内に自分で映画を作りたいと思った。それを映制で叶えられたことで今は満足している」

「卒業したカントクみたいに仕事の夢ではなく、仲間内の部活で満たされる夢だったと?」

「ええ。アンタが冬に馳せる者以上は書けないと言う気持ちと同じ、あたしもあれ以上はない。だからその先の映画作りは後輩に託したわ」

 

 美鈴の表情がそれを伝えている。

 目付きも以前に比べてどことなく穏やかだ。

 笑顔も見せるようになってきている。

 

「部活をしながらも進路の事は意識していた。愛想笑いできないから接客のバイトは無理、という所に兄貴からデスクワークの話を聞いて、そこからパソコンにハマったのよね」

「確かにオレよりも遥かにパソコンを使いこなしている。知識面ではコンピュータの国家資格を取得したんだよな?」

「ええ。それから同志谷大学にある総合情報学部のデータサイエンスに興味を持ったの。京都暮らしをしたい気持ちが前々からあったから、大学も京都に絞って調べたわ」

「なるほど。美鈴は専願? それとも併願?」

「併願よ。第三志望までは決めてるから」

「オレとちなみは京大の一発勝負。落ちたら天さんの所へ就職になるからできる事だな。それがなかったら美鈴みたいに併願でリスク分散したと思う」

 

 進学後はデータサイエンティストになる方向性で進める。

 もしかしたらプログラマやシステムエンジニアのようなソフト開発に向かうかもしれない。

 実際に大学生になってからゆっくりと考えていけばいい。

 美鈴の迷いは特にないので見つめ直しは完了だ。

 

「次は勇の番になるが、今日の放課後か明日の昼休み、どっちがいい?」

「放課後でいいぞ」

「了解した」

 

 副会長の正太郎が仕切り、会長の美鈴から締めの言葉で解散となる。

 そして放課後に美鈴の部屋で友援会メンバーが集まる。

 

「勇はピアニストじゃなくてピアノの医者すなわち調律師を目指すんだったな?」

「ああ。勇はピアノそのものに心惹かれている」

「ピアノメーカーの養成施設が第一志望で、調律師を目指せる専門学校が第二志望で間違いないか?」

「間違いない」

「どんな過酷な道になっても覚悟はしていると?」

 

 勇は言葉ではなく真剣な目で応じる。

 それにときめいてしまうのが唯。

 夢を追う男の本気がハッキリと伝わってきた。

 

「冬に馳せる者の映画は、まさに茨の道で、血反吐を吐き、泥水をすするような並々ならない努力を演出した。もし辛くなったら、その映画のことを思い出せば少しは気が紛れるかもしれない」

「東城……」

「同い年の同じ男だからこそ、勇の本気が骨の髄まで染み込んで来る。オレもそういう所があって血がたぎるんだよ。まさに勇者。これは勇気のある選択としてオレは受け止めるぜ」

 

 それで唯と遠距離恋愛になっても貫き通そうとする意思。

 実際どちらになっても県外の遠方になることは避けられない。

 それでも唯は心から応援をしている。

 寂しくなっても勇の夢が叶ってほしいから。

 

「勇に対しては何も言う事はない。そのまま突き進んでいけばいいとオレは思うぜ。皆はどうよ?」

「好きにすればいいじゃない。成功失敗は本人の頑張り次第、悔いのないようベストを尽くせばいいわ」

「しょーくんに同意」

「唯も。夢に向かってファイトだよゆーくん」

「僕も応援しとるで。体ぃ気をつけて頑張りや勇」

 

 皆の温かい励ましで勇は笑って頷いた。

 そしてラストは内場である。

 

「プロの漫画家になる夢は昔も今も変わらず。大学で幅広く知識を学び漫画の糧とする。ネタというかアイデアを広げていこうとする意気込みを感じるぜ」

「東城には見透かされとるようで恐ろしいわ」

「第一志望が同志谷大学として、他にも受ける大学はあるのか?」

「あるで。第三志望までは併願で狙うつもりや」

 

 内場も美鈴と同じリスク分散で既に志望校は決めてある。

 避けては通れないことだから早いに越した事はない。

 

「漫画のサークルは合わんようやけど、大学の雰囲気やカリキュラムは気に入っとる。美鈴が厳しくチェックしてくれるおかげで助かっとるで」

「大学を卒業してもプロになってなかったらどうする? 生活のために働かないといけない。美鈴に養ってもらうか?」

「さすがに穀潰しはアカンやろ。そん時は本屋とかでバイトしながら漫画を描いていくつもりや」

 

 内場の言葉に正太郎が心配になってしまう。

 だから美鈴に向けて調べてもらうことにした。

 

「美鈴、本屋のバイトを検索してくれ」

「……出したわよ」

「次は一人暮らしの生活費を検索してくれ」

「……生活が厳しくなるわ。たとえ貯金しても臨時の出費で吹き飛んでしまうでしょうね」

「掛け持ちやフルタイムで稼ごうとすれば、当然その分は漫画を描けないよな?」

「仕事疲れで漫画を描く余力があるか不安ね」

「確かに。内場は体力のなさが弱点だから、あまり働き過ぎると身がもたないぞ」

 

 生活が成り立たないと夢は叶えられない。

 その現実を見せる事で内場は苦悩をする。

 どうやって乗り越えればいいのか?

 

「オレからの意見は二つ。一つ目は実家暮らしでプロの漫画家を目指す。内場の親次第だが、食費だけで済ませてくれる事例が多いらしいから、余力を残した働き方ができるはずだ。二つ目は美鈴と同棲し、稼ぎのメインを美鈴にしてサブを内場にすればいい。プロになって美鈴以上に稼げるようになれば大成功となるが、そこは博打になるぜ」

「構わないわよ。誰よりも彼の才能を買っているのはあたしだから」

「という訳で、内場は美鈴の期待に応えられるだけの漫画家になればいい。美鈴に見限られないよう頑張れ」

 

 正太郎が内場の肩に片手を乗せて励ます。

 誰よりも内場の漫画に影響された者として、親友が成功することを祈る。

 内場がメガネ越しに意思の強い目を見せて頷く。

 それに満足をして正太郎は手を離した。

 

「これにて進路の見つめ直しは終了。というか皆、割と自分の進路を考えて動いてるじゃないか。友援会メンバー6人中5人が京都行きで、勇は静岡または名古屋行き。お土産よろしく勇」

「いやいや、遊びに行く訳じゃないし!! サラッと土産の催促すんな!!」

 

 その後は雑談に花を咲かせて盛り上がる。

 他は受験勉強や学校のテスト勉強を一緒にやっていく。

 特に唯が成績トップを目指すため美鈴から厳しく教わった。

 

 別の日の放課後。

 正太郎が創作部へ顔を出してみる。

 弟子の様子が気になったからだ。

 

「よお創作部部長、調子はどうだ?」

「あ、師匠!! マニュアルが分かりやすくて助かりました!!」

「そいつは良かったぜ」

 

 他の部員に弟子が部長として問題がないかを確認。

 頼りないから自分たちで支えると言ってくれる。

 優秀な部員がいて何よりだ。

 夏に歌う者の小説で受賞した姉の話を求めて来る部員たち。

 それを武勇伝のごとく広めてやり、弟として誇らしいと胸を張った。

 中には冬に馳せる者のラストが凄かったと褒めてくれる。

 あれは諸刃の剣だが、美鈴の言う心に焼き付くシーンになったようだ。

 こうして3年生の高校生活が瞬く間に過ぎていく。

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