青春100%   作:完結の陽炎

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第54話「正太郎たちのダイジェストな高校三年」

 桜の舞う季節の暖かな春。

 綾は現役の大学生でありプロデビューの小説家だ。

 書籍化をするため出版社との打ち合わせ。

 やり直しの繰り返しは辛くても決して挫けない。

 淳平に書いてほしいというお願いで効果は絶大。

 その原動力があり、アルティメットの本領発揮となる。

 チェックをしてくれる担当の方からOKが出た。

 正式に販売されるのは8月の中旬ぐらいの予定。

 次回作を要求されてしまい大変だが、ある意味でプロの洗礼といえる。

 大学と小説の両立でバランスよく時間を組み立てていく。

 そのため、正太郎との交換日記はどうしても後回しになった。

 やっと区切りがつき、日記の締めくくりへ取り組む。

 内容は小説家らしく後書きだ。

 始まったきっかけを序盤とし、映画作りの思い出話を中盤とし、卒業式を終盤とする。

 本当はもっと色々と書きたくなるのだか、キリがない上に日々忙しいのでまとめていった。

 

「正太郎、これ」

「おう待ってたぜ。忙しいのに悪いな」

「そんなの気にしなくていいから。終わったらいつでも渡しに来て」

「ああ。ちょっと名残惜しいがオレも創作家の端くれだ。完結してこそ意義がある。どうせねーちゃんの事だからラストは後書きだろ?」

「なんで分かるの?」

「姉弟だから。後書きには後書きでやり返す。楽しみにして待ってろ」

 

 正太郎も忙しい日々を過ごしている。

 学校のテスト勉強会、大学受験の勉強会、資格の勉強で勉強三昧。

 特に資格では天地からの置き土産があった。

 正太郎が秘書の上級に挑戦することを知り、かつて正太郎を指導した現役の女性秘書を講師にした。

 ついでとばかりに英語の上級資格、表計算および文書などパソコンの扱いまで教えてくれた。

 それが成せたのは正太郎の潜在能力。

 呑み込みが早く、とても教え甲斐があったから。

 秘書にとっても有意義な時間だったようだ。

 おかげで希望通りの資格を得ることに成功。

 秘書に結果報告とお礼を伝え、天地には感謝の手紙を送った。

 

 ーーたまにトリプルデートや二人っきりデートで息抜きもするけどな。

 

 遊びとのバランスも大切。

 皆でカラオケやボーリング、ゲームセンターなどの娯楽を堪能した。

 二人の時はスイーツを一緒に食べたり、気晴らしに大きな公園を歩いてみたり、ショッピングに足を運んだ。

 たまに友達の家へ遊びに行く事もしている。

 今回は内場の部屋にお邪魔する正太郎がいた。

 

「例えば高校を舞台にしたラブコメを描いたとする。そこで内場に問題。ラストはどういうイベントで締めに入る?」

「それなら卒業式が王道やろ」

「ああ。オレが小説で書いたとしても同じ事をする。あとは時間を飛ばして、未来の後日談として完結にするだろう」

「なんで急にそないな質問をしたんや?」

「ふと思ったんだよ。もしオレたちの現実が漫画または小説になった場合、どのようなラストで完結するんだろうって。唯から聞いたパラレルワールドだと、カントクたちが卒業して、後日談は同窓会で終わったらしいからな」

 

 創作家としての性だろうか。

 ノンフィクションでの物語を想像してしまう。

 交換日記でクライマックスを意識しているからかもしれない。

 

「それは遠回しにノンフィクションの漫画をリクエストしとるんか?」

「さてどうだろう? もしそうだとしたら、内場は美鈴を主人公に漫画を描くか?」

「おいおい、主人公なら目の前におるやろ」

「オレはサブキャラ希望で」

「アホ。東城をサブにしたらメインがガッツリ食われてまうわ」

「ちゃんとメインを引き立てただろ? 映画でも卒業式でも」

「いやいや、映画は使用人の弟が主人公だろうと突っ込まれとったで。卒業式は東城の送辞でメッチャ目立ってたし。これで主人公ちゃうなんて冗談にしか聞こえんわ」

 

 ある日の休み時間。

 正太郎のクラスに弟子の中間が来た。

 上級生の教室へ新入生が来る。

 その度胸を買った正太郎が廊下に出て用件を尋ねる。

 

「なに? 映制部長から脚本を頼まれた?」

「はい。僕の書いた小説を読んで気に入ったみたいで」

「ほぉー、それで弟子は脚本にチャレンジか。向上心があるのはいい事だぜ」

「いえ、最初は脚本書いたことがないから断ろうとしたけど」

「したけど?」

「あの部長の熱意につられたというか、根負けというか」

「黒髪つーさんにカントクの熱意をコラボしたようなものか。美鈴を引き継ぐだけの事はある。それで脚本を書いたことがあるオレに相談という訳か?」

「はい。成り行きとはいえ、引き受けた以上は真剣に書きたいので」

「ふむ……他の部員は脚本のことを知ってるのか?」

「いえ、まだ」

「中間よ。部長の決断は部の総意とみなされる。部員には知らせておけ。嵐泉祭にも影響してくるからな。あと先に言っておくが、オレは引退した身だから直接の手助けはしないぞ。間接にアドバイスぐらいはするが、どうしていくかはお前たち次第だ」

 

 一方、美鈴のほうも映制部長から話を聞いた。

 対等同盟の創作部と合同で合宿という計画もあるようだ。

 双方ともに正太郎たちが残した受賞の実績で、部費の確保も難しくはないだろう。

 

「美鈴。夏休みのアイツらがやる合宿、友援会メンバーで陣中見舞いに行かないか?」

「今の部が歓迎するか分からないわよ」

「言うだけ言って断られたら引き下がればいいじゃないか。無理に押し付けるつもりはない。あとヒロシ兄さんにも伝えたらどうだ?」

「なんでよ?」

「カメラのアドバイスしてくれたり、東大の実体験談とか部にとってはありがたい存在だろ? 顧問の黒川先生に会う口実となるから、ヒロシ兄さんにとっても利はあるはずだぜ」

「……正直あまり気は進まないけど、言うだけ言ってあげる」

 

 あとで確認した所、ヒロシは即答でOKだ。

 黒川先生に会えるとテンションが爆上がりである。

 正太郎はヒロシが作っているホームページをチェック。

 東西南北で苗字が付く女子高生の紹介。

 でも卒業した今は追加がされている。

 春夏秋冬で苗字のつく女子大生の紹介で増えていた。

 

 陣中見舞いについて部は歓迎である。

 むしろ自分たちの映画作りを見てもらいたいようだ。

 映像制作部のやる気は満々で、創作部はのんびりムード。

 二つの部が組み合わさって共通するのは楽しんだもの勝ち。

 賞にこだわらず皆で楽しくやろうという和やかな雰囲気だ。

 

「美鈴、映制と創作部って相性がいいのかもしれないな」

「そのようね。ああいう部活動もありだと思うわ」

「あれが後輩たちのやり方か。友援会に通じるものがある」

 

 ゴールデンウィークの連休。

 時間確保の狙い目としては充分。

 鼻歌混じりにサラサラと日記を書き進める正太郎。

 そして遂に交換日記の完結を迎えていく。

 

 ーー色々あったけど、この日記が全ての始まりと言っても過言じゃないよな。

 

 終わってしまったことで感傷的になる。

 しばらく日記の思い出に浸ってから姉の部屋へ向かった。

 そして最後だから卒業証書のごとく丁寧な手渡しをする。

 

「交換日記の卒業おめでとう。そして今までありがとう」

「……うん……うん……っ」

 

 受け取った日記ノートを抱きしめて涙する姉。

 これは無理もない。

 10年以上続いた日記が終わりを告げたのだから。

 事前に知らせていても、いざその日が来るとお互いに寂しくなるものである。

 

 ………………。

 …………。

 ……。

 

 炎天下の暑い夏に季節が変わっていく。

 学生にとっては夏休みの時期。

 映像制作部と創作部の合同合宿は旅館亀屋。

 やや古びた和風の内装だが赴きがあり、不思議と落ち着ける空間。

 あくまで寝泊まりする場所で娯楽の施設はない。

 徒歩圏内に海があり、遊びたいならそこへ行けと言わんばかりの潔さであった。

 陣中見舞いに行く友援メンバーとヒロシ、さらに淳平・綾・力也・こずえまで加わる。

 泉坂高校の映画作りを懐かしんでいるようだ。

 なお、参加できないつかさ・さつき・天地には、ヒロシが撮影をしてそれを送ることにした。

 

 数々の書店で発売日を迎える。

 著者は東城綾、タイトルは夏に歌われる者。

 作者としては本当に売れるのか気になってしまう。

 新聞や雑誌に掲載をされて名高くなった綾。

 ベレー帽に久しぶりにおさげの髪型とメガネの変装モード。

 大学生になって更に綺麗になったせいか。

 地味になるはずが絶妙に似合ってしまい美しさを損なわない。

 知的な美人として周りに見られてしまう。

 

 ーーカントクに代わってオレがねーちゃんの付き添い。まあ、ねーちゃんだけだと心配になるのは同意だ。

 

 どうしても外せない用事があるからと淳平から頼まれた。

 夢を追うための人付き合いもあってかなり忙しそうだ。

 大学生はヒマという先入観は捨てる。

 それは人によるとしか言えない。

 少なくとも淳平や綾は時間との戦いを繰り広げている。

 

 ーー派手に飾られて目立つな。

 

 中路賞受賞作になるため、POPだけでなく本の帯にも宣伝がされている。

 しばらくすると見知った顔が現れて本を手に取ってくれた。

 そこに正太郎は堂々と話しかける。

 

「よぉ弟子。ねーちゃんの小説買ってくれるのか?」

「あ、師匠。はい。あの文化祭の映画、原作を見てみたいと思っていたので」

「中間はねーちゃんの小説と似た幻想タイプ。オレの弟子になるより、ねーちゃんの弟子になったほうがいいんじゃね?」

「そんなことないよ!!」

「はいストップ。ここ本屋だからあまり大声を出すなよ。周りの迷惑になる」

「す、すみません。でも師匠はあなただからいい。僕、冬に馳せる者が売られていたら買ってるから」

「残念ながら落とされている以上、販売はないぜ。夢幻のかなたへ静かに消えゆく定めなり。卒業したマッキーの詩みたいに上手く表現したいが難しいな」

「あ、あの……師匠の隣にいる女性は?」

 

 変装をしているせいで綾だと分からない。

 正太郎に悪戯心が芽生えた。

 

「推理小説の探偵みたいに当ててみろ」

「彼女じゃないの?」

「違う。それはちなみだ。学校で散々噂になっているぜ」

「親戚?」

「惜しい。もっと近い」

「あ、わかった。師匠の妹」

「くくくっ、年下に見られてよかったじゃないか。それだけ若いってことだ。女にとっては嬉しいことだろ?」

「あーそうだね。うれしいよお兄ちゃん」

「……呼んだ感想は? オレは寒気がしたぜ」

「私も。もう二度と言わない」

「そうしろ。ねーちゃんに妹はマジで似合わん」

 

 正太郎の言葉で中間は大いにビックリ。

 それは無理もない反応である。

 有名な作者が目の前にいるのだから。

 

「中間、その本を買ってねーちゃんにサインしてもらったらどうだ。いい記念になるだろ?」

「ち、ちょっと正太郎」

「ファンに応えるための訓練だと思え。有名になった以上、サインぐらいは出来るようになっておけ」

 

 大喜びで本を買って綾にサインをお願いする中間。

 綾は気恥ずかしそうにしながらも本の表紙にサインをした。

 

「師匠のサインもお願いしていい?」

「オレはねーちゃんみたいに有名じゃないぞ」

「僕の中では有名だからほしい」

「それなら本の裏面に速記でサインしてやるよ」

 

 表舞台に輝く綾と裏方のごとく影となる正太郎。

 その立ち位置を示すかのようなサイン。

 中間はこの本を生涯の宝物として大切にした。

 

 ………………。

 …………。

 ……。

 

 紅葉が広がっていく秋。

 泉坂高校の嵐泉祭が開催された。

 そこのOBとなる淳平たちが客として参加。

 わざわざ京都からさつきと天地も来てくれた。

 流石にパリにいるつかさは不可だが、ヒロシに頼んで撮影の映像を送ってもらう。

 

 友援会メンバーは高校最後の思い出を作るためにライブをする。

 事前に軽音楽部とブラスバンド部の交流を深めて、練習と本番で演奏する時間を一部頂戴した。

 普段は練習場所で争う仲の悪い双方の部。

 そこに正太郎が間に入ることで今年は手を組むことになった。

 まるで幕末の薩長同盟のようだと、生徒の間で噂になるほどのビックニュースである。

 

「今に始まった事じゃないけど、アンタはとんでもない事するのね」

「お互いに音楽好きという共通点があるし、今回はオレを立ててくれての同盟らしいぞ」

「なにをどないしたら不仲の部を一緒にできるんや? ホンマ不思議でしゃーないわ」

「これぐらい出来なければ天さんの秘書は務まらんと思ってな」

「凄いよしょーくん。それは誰にでも出来ることじゃないよ」

「唯は皆で仲良くやるのが一番いい。せっかくのお祭りなんだから」

「まあ、そつだな。勇も今回はやるだけのことをやってみせるぞ」

 

 軽音学部とブラスバンド部のコラボ演奏。

 その前座として友援会のバンドで場を温めるのが役目だ。

 ボーカルの正太郎とちなみ、ギターの美鈴、ベースの内場、キーボードの勇、ドラムの唯で6人の結成。

 英語で発音する正太郎にメンバーは絶妙に合わせてくれる。

 特にちなみの演技力は歌とも相性が良く、正太郎をより引き立たせた。

 観客にはOBの淳平たち、休憩中の創作部と映像制作部、正太郎の従姉である遥も見に来ていた。

 本気モードの正太郎はその場を支配した。

 まるで卒業式の送辞を思わせるほど、大勢の前で堂々とやり遂げる。

 歌い終わりの正太郎がマイクを片手に伝える。

 

「今回のオレたちは前座だ!! 主役は間もなくやってくる軽音学部とブラスバンド部!! その夢溢れるセッションを存分に堪能してくれ!!」

 

 歓声が上がって大いに盛り上がっている。

 これで友援会メンバーの役目は果たした。

 それぞれの部長にバトンタッチである。

 二人からよくやったと褒めてくれてバッチリと演奏を決めてくれる。

 観客からアンコールにもしっかり応えていった。

 

 ーー客のアンコールで、前座のオレたちが再度出たのは予想外だったが。

 

 双方の部との記念写真まで撮って良き思い出となった。

 あとは創作部と映像制作部の共同映画を視聴。

 姉と弟が勉強でも運動でも競い合う。

 両親や周りから比べられるコンプレックス。

 仲が悪そうに見えて、実は仲良しというホームドラマのような内容であった。

 

「ねーちゃん、オレにコンプレックス抱いてたの?」

「知らない」

「これは気の毒に。若年性健忘症か」

「違うから」

「ふーん。まあいいや。それより変装が板についてきたな」

「仕方ないでしょ。こうしないと道行くたびに話しかけられたり、サインをおねだりされたりするんだから」

 

 メガネや髪型を変えて見た目を別人のようにする。

 イメチェンができる姉が羨ましい。

 ないものねだりをしても仕方がない。

 

「それより従姉が来てるのは何故だ? 今回、オレは招待してないぜ」

「私が連絡したの。ちなみちゃん・美鈴ちゃん・唯ちゃんからバンドの話を聞いていたから」

「あれまあ、友援会メンバー女子全員で密告かよ。まあ、ねーちゃんが喜ぶならオレは構わん」

「……どうしても仲良くできない?」

「無理。あの見送りの時、オレは偽りのない本心を余すことなく伝えた。それは今も変わらない」

「……」

「オレ受験生だから、見送りはねーちゃんとカントクで行ってくれ。あれ以上にオレから伝えることは何もない」

「別れの挨拶にねーさんを付けたら、遥お姉ちゃん喜んでくれるよ。今回で最後になるって分かってる?」

「それは違うな。まだオレの卒業式が残っている。その時にねーちゃんの事だから、従姉に連絡入れるのが容易に想像つくんだよ。だから見送りはしない」

「遥お姉ちゃんが卒業式に来るのはイヤ?」

「来る来ないは従姉が決めればいいさ。でもオレは来なくていいと思っているし、来られてもオレは別に喜ばんぞ。ねーちゃんが喜ぶことで折り合いをつけているから」

 

 去年は姉を喜ばせたかったから招待をしたのである。

 そこを勘違いしないでほしいと釘を刺す。

 多感なお年頃、複雑な男心がそこにあった。

 

 ………………。

 …………。

 ……。

 

 雪の舞う寒い冬。

 クリスマス、年末年始、バレンタイン、ホワイトデーなど。

 様々なイベントが過ぎていき、正太郎たちは受験生としての大詰めを迎える。

 友援会がこれまで積み重ねた勉強会の日々。

 それらの過程をもって全力で結果を出すために挑んだ。

 

 ――ふむふむ、ここがこうなって、あれがこうなって。パズルを解く気分で面白い。

 

 問題の流れを掴み一つに繋げる直感的な何かを感じる。

 美鈴のやり方を模倣し、試験の全体像を掴んでから細部を見る。

 効率的に問題が解けて、時間配分の計算もしやすかった。

 

 ――受験生のプレッシャーがすげぇな。当たり前といえば当たり前だけど。

 

 高校受験の過去を少し懐かしんだが、すぐに気持ちを切り替える。

 腕時計を外しての本気モードで滑らかに回答を描く。

 小説を書くかのようにテンポよく流れを掴み主導権を握った。

 

 ――思い込みミスがないかの見直し。小説の誤字脱字がないかのチェックみたいなものだな。

 

 どの科目でも本質的には同じ。

 全体像を掴み、流れを知り、細かく見る。

 試験だけに限ったことではない。

 日常生活でも仕事でも応用が可能な概念だ。

 こうして正太郎は楽しむ心をもって試験を制した。

 

「しょーくんどうだった?」

「さすがに高校受験のあの頃と比べるとレベルが違うな。実に楽しい時間だったぜ」

「本番でそうやって楽しめるのはしょーくんだけだよ」

「そう言うちなみは?」

「難しい問題もあったけど全部解けたよ。しょーくんに教えてもらったおかげだな」

「ちなみが苦戦する問題はおおよそ察してる。苦手な内容の克服にも役立って良かった」

 

 同志谷大学を受援した美鈴・唯・内場の三人はどうだったのか?

 各自の手応えを正太郎とちなみで確認したところ。

 

「やるだけの事はやったつもりよ」

「唯、ちょっと自信ないかも。すっごく緊張したから」

「あー、僕もそれは感じたで。あのピリピリした空気がキツくてな」

 

 美鈴は冷静沈着に取り組めた様子。

 プレッシャーに呑まれた感じがあるのは唯と内場。

 それでも全ての回答は埋めたとの事。

 最善は尽くしたようだから、あとは発表を待つばかりだ。

 

「ゆーくん、ダメだったの?」

「まあ、養成学校は定員が少ない狭き門だからダメ元だ。ここは素直に専門学校の2年で時間かけてやるさ」

「そっか。ピアノのお医者さん目指してファイトだよ」

「調律師な。まあ、元気でやれよ唯」

「ちゃんとご飯食べなよ。偏ったものばっかりで病気になったらダメだからね」

「わかってるって。夢を叶えるためにも道半ばでくたばってたまるか」

 

 勇の食生活が心配で口が出てしまう。

 栄養バランスを考えず適当に済ませるのではないか?

 料理が面倒だからとインスタント食品ばかりのイメージだ。

 

 後日の合格発表を確認。

 美鈴・内場・唯の受験番号が掲載されていて合格。

 三人ともに笑顔で喜びを分かち合った。

 一方、別の日の京大で正太郎とちなみも発表を確認。

 天地が結果を気にしてわざわざ来てくれた。

 

「まあ君なら問題ないとは思っているが念のためにね」

「ご覧の通り、番号あったよ」

「合格おめでとう。学部は違うが同じ大学に通う者としてもよろしく」

「ありがとう天さん。秘書として働く時には社長と呼ばせてもらうぜ」

「ところで彼女は受かっているのかい?」

「ちなみも大丈夫だ。ちゃんと合格しているぜ」

「おめでとう端本。東城と共にキャンパスライフを満喫するといい」

「そのつもりです。住み込み家政婦としても働きますのでよろしくお願いします」

「ああ、身の回りの世話ができるよう期待している」

 

 その後、天地の主催で盛大に合格祝いのパーティーが開かれた。

 わざわざ淳平たちが出席をしてくれている。

 パリで修行中のつかさからは祝いのメールを受けた。

 現役大学生の実体験で得られた話は色々と参考になる。

 インターネットだけではない生情報は貴重だから。

 

 ………………。

 …………。

 ……。

 

 暖かな春が再び訪れてくる。

 学年末となって、ついに唯が自分のクラスで成績トップとなる。

 学年では正太郎と美鈴がいるので無理だったが。

 

「えっへん。唯だってやればできるって証明したよ」

「とりあえず、まずはオレンジジュースのあの乾杯をやろうか?」

「おっー、懐かしい。唯としょーたろが義兄弟の盃をしたあの乾杯やりたい」

「では、目標を達成した唯に乾杯」

「かんぱーい」

「あとはちなみと一緒に演技を披露するか。昔、漫才やって唯を楽しませたように」

「懐かしい。やってやって」

「そうだな……ちなみが転校して日が浅かった頃、演技スキルがあることを知り、初めて演技を見せてもらったアレを再現するか」

「しょーくん、そんな昔の演技やるの? ちょっと恥ずかしいよ」

「黒歴史扱いか? でも唯はやってほしいと言ってるし、結果を出した唯へのご褒美はあっていいだろ」

「んー、わかった。一回だけだからね唯」

「うん、しっかり見てるよ」

 

 場所は思い出のある小さな公園でやることにした。

 そこには美鈴と内場も懐かしみながら見物をしている。

 あの頃と違うのは唯がここにいるということだ。

 なお、勇は別件の用事があってその場にいない。

 

「あの時、オレは内場のバトル漫画から演技できそうなシーンを探した。それでこの公園で実践しようとしたが、オレがうっかり台詞忘れて、内場に漫画をもう一回見せてもらった。そして仕切り直し……だったよな?」

「うんそうだよ。しょーくん、ちゃんと覚えてて偉い偉い」

「そりゃどうも。じゃあ今からやるぜ!!」

 

 正太郎の宣言で美鈴と内場、唯が注目する。

 急にちなみの表情が引き締まった。

 それにつられて正太郎も眼光を鋭くさせる。

 アクションシーンの幕開け。

 あの頃と同様に正太郎から切り出す。

 

「貴様、驕るなよ。この俺様に勝てると思ってるのか?」

「御託はいい。さっさとかかって来い」

 

 あの頃よりも洗練された構え。

 内場と美鈴の目には小学時代の二人と重なった。

 唯はその漫画を読んだことがあるようで懐かしんだ。

 

「食らえ!!」

 

 正太郎が手を突き出してから振り回す。

 飛び道具が放たれるシーンの見立て。

 ちなみが素早く受け、流し、避けの動作をしてから前へ踏み込む。

 手を振り続ける正太郎の懐に入り込んで掌打の寸止め。

 当時と違って動きは一切鈍ることなく迷いもなかった。

 

「ぐふ……」

 

 正太郎は膝を崩してうつぶせにダウン。

 小学生のごっこ遊びを高校生で再現してみせた。

 確かに気恥ずかしさはあるが、童心にかえっての懐かしさが上回る。

 

「という訳で、初めてちなみの演技スキルを試してもらった訳だ」

「おぉー、すごい。動きがとっても早くてビックリだよぉ」

「せやせや。マジあんな感じで演技見せてくれたんや。ホンマ懐かしいで」

「あの頃、最後の掌打で動き鈍かったのに、今は全く問題なくなったわね」

 

 ここから昔話に花を咲かせることになる。

 皆それぞれ思い出深いものがあって話題が尽きない。

 実に楽しい時間だったことは間違いない。

 

 泉坂高校の卒業式で答辞は誰がやるのか?

 正太郎は他を当たってほしいと辞退。

 去年の送辞では姉のために引き受けたに過ぎない。

 今年の答辞はやりたい人にやらせたほうがいい。

 美鈴に余計な根回しをされないように釘は刺した。

 その代わり美鈴を推薦するようなマネはしない条件で。

 

 困ったのが先生方。

 生徒が美鈴を含めて誰も答辞をやりたがらないのである。

 問題はそれだけでない。

 在校生代表の送辞も引き受けてくれる生徒がいない。

 それもそのはず。

 去年の送辞と答辞で、正面の読み上げなしで堂々とした演出。

 あれをマネしようものなら、緊張の余りに失敗をするのが目に見えている。

 例年通りにすればいいのだが、それでは去年よりも劣ると思われそうで嫌だ。

 

「大変だね黒川先生」

「そう思うならお前がやれ」

「どうしてもと言うなら、オレを本気にさせる送辞の相手を要求する」

「誰だ?」

「中間、オレの弟子だ。そいつが送辞に出て来るなら、師匠として本気で答辞に応じよう」

「やれやれ難儀なことだ」

 

 在校生代表として中間が巻き込まれてしまう。

 二年生で誰もいないなら一年生もやむを得ない状況。

 クラス担任の先生から送辞の頼まれることに。

 本人は緊張で絶対無理と断るが、正太郎からの指名と聞いて悩む。

 卒業する師匠のために頑張りたくなる。

 それが中間にある人情だから。

 

「わ、わかりました。師匠のために精一杯引き受けます」




東城綾の後書き
 今まで交換日記に付き合ってくれてありがとう。あまり堅苦しく書くのも変に思ったから、いつも通りにするね。

 今までを思い返してみると、私のドジで転んで、正太郎が巻き込まれて痛い思いをさせてしまったことが始まりだった。本当にあの時はごめんね。それで正太郎に距離を置かれて心配した両親から日記を渡されたのを、今でも昨日のことみたいに思い出せる。あの時に書いた些細な物語に、正太郎が物語で返してくれた時はビックリしたよ。同時に嬉しかった。あの頃から正太郎には編集の才能があったように感じる。二次創作好きなのもきっとそうかなって。

 私たちは兄も妹もいないから、他の家族のことは分からないけど、姉弟として比べ合いはあったね。全然見た目が似てないとかよく言われたし。同じ小説の趣味でも違いはあるからね。コンプレックスについては秘密。お姉ちゃんにも色々あるんだよ。

 正太郎が私を超える小説を書くことを野望に頑張るようになったね。修行とか言って色々張り切っちゃて。お姉ちゃんは正太郎が無茶して怪我したり病気にならないか心配でした。男の子はそういうものだと思うようにしてるけどね。今でも時々心配することがあるんだよ。

 中学生になってから体も心も大きくなったね。正太郎に身長が追い抜かれて実はショックだったの。背が低いお姉ちゃんってどうなのって思うし、立場が逆転しそうな気持ちになるから。男の子のほうが大きくなるものだと受け入れるしかないけどね。そんな正太郎が思春期で女の子を意識するようになって、お姉ちゃんとしては少し複雑だったけど、ちゃんとアドバイスできたかなって少し偉くなった気分でした。

 後書きで特定の名前書くのはダメだけど、これは日記の後書きだし、正太郎以外に読まないから例外で書いちゃうね。私は正太郎が付き合う女の子は美鈴ちゃんだと思ってた。でもちなみちゃんも可愛くていい子だね。正太郎に一途な想いを寄せていたのはお姉ちゃん分かってました。お姉様と呼ばれるのは今でもちょっぴり照れくさいかな。

 私たちにとって絶対に欠かせないのは泉坂高校の映画対決。個人的に争いは好きじゃないけど、あれは本当に必要な勝負だったね。美鈴ちゃん、とっても活き活きして映画作りに取り組んで、映画制作部として独立したのは良かったと思う。私の夏に歌う者と正太郎の冬に馳せる者で脚本勝負をして、コンテストの順位で正太郎が勝った……訂正、ここは正太郎たち映画制作部が勝ったとするべきだね。正太郎は自分の力だけで勝てなかったと言ってたね。それは確かにそうかもしれないけど、正太郎の協力なしでは美鈴ちゃんは独立しなかったよ。それだけ正太郎の存在が大きいことは忘れないで。

 あの映画のリメイクはとても満足している。正太郎が改訂をしてくれたおかげで、私が書いた以上に良くなったと思う。淳平くんも喜んでいたよ。美鈴ちゃんが監督で良かったって感謝していた。私もそうだし、他の皆も同じ気持ちだよ。改めてこの場で礼を言わせて。ありがとう。

 卒業式ではやってくれたね。絶対なにかすると思ったけど、まさか正面から読み上げの紙なしで送辞なんて誰も想像できないよ。仮にできたとしてもマネしようなんて思わないから。私はお姉ちゃんだから例外です。二度とあんな無茶なことなんてしないから。でも正太郎の本気は確かに受け取ったよ。心から卒業を祝ってくれてありがとう。

 他にも色々と書きたくなって来るけど、私は小説家だからちゃんと締めるね。最後にここまで日記を続けてくれて本当にありがとう。お互いに未来に向かって頑張ろう。でも無茶して体を壊すような事はしないように。お姉ちゃんとの約束だよ。


東城正太郎の後書き
 長年続いた交換日記の完結おめでとう。そしてお疲れさん。日記に決まり事なんてあって無いようなものだ。自分の書きたいように書けばいいぜ。オレもそうするつもりでこれを書いている。さて、ねーちゃんは過去をテーマに後書きをしたから、オレは未来をテーマに書いてみるぜ。

 ねーちゃんは物語のラストをどうやって書く? 例えば学生の恋愛小説のクライマックスとして、卒業式だったり、同窓会だったり、結婚式だったりで締め括らないか? まあ、爺さん婆さんになって寿命を終えるエンドもあるが 死亡ネタは心に来るものがあるから読み手を選ぶ。読者の想像にお任せみたいな終わり方が多いはずだ。

 ねーちゃんを超えたオレはちなみとの未来創作が次の野望となる。結婚を連想するけど、それはまだまだ先だろう。婚約者のつーさんから話を聞くと一緒にいてドキドキしないけど落ち着けるのが良いってさ。これはオレもちなみに対して気を許す無防備な所で理解できるし、特にちなみの部屋は自分の部屋よりもリラックスできるのだから共感している。なかなか参考になるよ。経験者は語るというヤツさ。

 創作でも現実でも、進路というテーマは絶対に外せないよな? ねーちゃんに大学行ってもらいたくて、学費のこと黙ってたことは仕方ないんだよ。ねーちゃんが怒るのは分かっていたけどな。もしバレたら天さんという切り札を使って、それをきっかけに天さんに忠義を尽くそうと事前に考えていた。結果的にバレて良かったんじゃないかと思う。

 果たしてカントクが映画監督になれるのか? 青都大学で映像の研究だけでなく人脈作りも頑張っていることは聞いている。ねーちゃんが小説で忙しいのに、時間の合間に脚本と両立という神業なことをしていることも知ってる。恋する女ってマジで半端ないな。ちなみもそうだけど、ねーちゃんも凄いことしてるぜ。カントクの夢は昔も今もそしてこれからも応援しているぜ。

 大学を卒業したら大学院か就職、つーさんみたいな海外留学も選択肢としてはアリなのか? 現時点では大学生になってないから、そこまで考えていくのは難しい。とりあえず、天さんの秘書と大学との両立は確定だ。ヒロシ兄さんのプロダクションでちなみがタレントとなり、オレがマネージャーとして転職するかはヒロシ兄さんの頑張り次第。起業して成功するのは一握り、もしかしたらひとつまみもないかもしれない。それを直感的に感じているから慎重に様子見さ。

 自立先を京都に選んだのは、やはり日本の歴史を感じやすいからかな? 大学見学だけでなく、修学旅行でも京都に行ったが、不思議と肌に合う感じがして、京都に住みたいと勘が働くんだよ。京都の和風スイーツ最高だぜ。実家を離れて大変な事もあるだろうけどきっと慣れるさ。住めば都って言うだろ?

 他にも色々書けそうだけど、ねーちゃんと同じでオレも創作家の一人だ。しっかりと締めるのが流儀というものだろう。カントクとの結婚式には必ず出席するから招待状を送れよ。子どもを持つか否かは、ちゃんと生活できる環境を整えてからよくよく考えたほうがいいぜ。これを読んで激しく動揺するねーちゃんが目に浮かぶ。でも現実に大切な事だから書かせてもらった。弟に言われたくないだろうけど、そこは一人の人間として受け止めてくれ。改めてねーちゃんとカントクの幸せを祈っているぜ。
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