青春100% 作:完結の陽炎
正太郎たちが泉坂高校を卒業して幾年か過ぎた。
映像制作部は今も健在。
創作部と書道部は融合して総合創作部と改名がされた。
美術部とは接点がなくなり同盟は自然消滅。
しかし映像制作部と総合創作部との協力関係は継続。
脚本の関係で必要となるからだろう。
映像制作部と総合創作部のメンバーが視聴覚室に集まった。
過去の卒業生が作った映画を参考とするために。
「この美人のお嬢様ヒロインって、小説家として有名な東城綾だってよ」
「マジかよ。この学校の出身だったんだな。その当時にいたら本物に会えたってことか」
「俺はこのひとつ前、夏の映画に出たヒロインがタイプだな。ショートの髪をした子の」
「アタシは断然、演技が上手いセミロング風な女の子がいい」
「凄まじいのは冬の映画だろ。あのラストシーンはガチでやってるぞ絶対」
「それ東城綾の弟だってよ」
「マジで!? 全然似てないな」
部員が気になった作品は冬に馳せる者。
他と比べてかなり異質な作品だ。
誰が作ったのか気になり、エンディングのスタッフロールで調べた。
「東城正太郎。これ弟が脚本した映画か」
「夏のほうが東城綾だね。先生に聞いた話だと、この夏と冬の映画で互いに勝負したみたい」
「脚本で姉弟対決なんて、盛り上がる展開じゃないか」
「ってことは、弟も小説を書いてたのかな?」
「あ、それは間違いない。総合創作部の前はただの創作部だったけど、その弟が部長となっていたって先生から聞いたよ。さらに前が文芸部だったけど、色々と改善していったみたい」
「卒業式で堂々と読み上げなしでやり切ったって噂も聞いたぜ」
「うん聞いた聞いた。弟の送辞と姉の答辞でやり合ったって。その場で見たかったな」
前例がないだけに武勇伝のように語り継がれている。
誰にでもできることではないので色濃く残ってしまう。
映像制作部の部室にある壁に飾られた賞状。
そこに美鈴たちと淳平たちが一同に揃った集合写真が添えられていた。
………………。
…………。
……。
京都の長い歴史がある料亭。
着物姿で女将をしているさつきが仕切っている。
そこへ一番乗りを果たしたのは天地。
否、現在は北大路として婿入りをしている。
「旦那様、おいでやす」
「ああ、さつきを一目見るだけで幸せ一杯だよ」
「お仕事はどないどす?」
「ああ、上手くスケジュール調整してここに来れたよ。外村さんがよく働いてくれるから助かっている」
京大を卒業後、天地家から出家をして遠い親戚の養子となり、ITコンサルタント会社を立ち上げた。
同志谷大学の卒業後、ITスキルを持つ美鈴をヘッドハンティングして、データサイエンティストとして雇っている。
ようやく軌道に乗り始めて今後の需要に目が離せないところだ。
「皆が来るまで、さつきのもてなしを独り占めするとしよう」
さつきは主人を丁重にもてなす。
少しの間だけ二人の時間を過ごす。
そして二番目にやって来たのは――。
「やあ天地、いや北大路と呼んだほうがいいかい?」
「天地でいいよ。今回は同窓会も兼ねているだろ? その呼び方を聞くと学生時代が懐かしくてな」
「同感だよ。ささ黒川先生、お席へどうぞ」
「ああ、遠慮なくあがらせてもらうぞ」
ヒロシと黒川先生である。
注文した酒とつまみの刺身を肴にヒロシがお酌をした。
教え子と酒を酌み交わせて嬉しそうな黒川先生。
間もなく次の来客が訪れていく。
「早いな外村、いや社長。こういう時って重役出勤じゃねえのか?」
「お疲れ小宮山。ちょっとした企画もあって早めに来ているのだよ」
「企画……ああ、そうだった忘れてた」
「あ、こずえちゃんもお疲れ様。いつもありがとうね」
「お疲れ様です社長さん。お仕事に一区切りつけてホッとしています」
東大を卒業したヒロシが立ち上げた芸能プロダクション。
私大を卒業したこずえをタレントに誘い、力也をマネージャーにつけて協力をしてもらっている。
ジャンルとしては制作系というべきか。
競争が激しく色々と紆余曲折があった。
しばらくして、今回企画の実行者となる唯と勇がやって来る。
「じゃーんお待たせ!! じゅんぺーはまだ来てないよね!?」
「ああ、唯ちゃん。まだ大丈夫だよ。あ、一段と可愛くなったね。是非ともウチのプロダクションに来てほしいな」
「あはは、ヒロシさんは相変わらずだ。前向きに善処するね。ほらゆーくん、準備しよ準備」
「ああ、わかってる。例の着ぐるみと着て、看板を持てばいいんだろ?」
「うん。それでじゅんぺーをここまで案内してね。ヒロシさん、映像用カメラは?」
「ここにあるよ。予備バッテリーもバッチリさ」
「嵐泉祭の見回りを思い出すぞ。懐かしいな唯」
「えへへ、そうだねゆーくん。調律師の仕事で忙しいのに時間とってくれてありがとう」
「そっちこそ。ネット動画の配信で有名になってからは忙しいだろうに」
同志谷大学を卒業してから動画配信で有名になり、ピアニストとして活動をする唯。
今も全国規模でストリートピアノを巡っての演奏。
実家を離れてピアノ環境を整えた住宅で作曲もしている。
そこで一緒に暮らすのは勇。
専門学校の卒業後、飛び込むようにピアノメーカーの現場で叩き上げられて多忙を極めている。
「あ、美鈴久しぶり。まだじゅんぺーは来てないよ」
「久しぶり唯。ほらカチカチ持って来たわよ」
「あ、懐かしい!! これ映制で使ったカチカチだぁ!!」
「綾先輩が道に迷っちゃって。今、ちなみが迎えに行ってるから少し遅れるって」
「美鈴、ぜひ僕のプロダクションに来てくれ!! お前なら絶対に売れる人気絶大だ!!」
妹が美人になってここぞとばかりの勧誘。
もはや見境なしである。
相変わらずの兄へ淡々と言葉を返した。
「なんだよ兄貴、前髪隠しが変わってないな。いい加減切ればいいのに。それと断る。こっちは仕事が山積みで忙しいんだ」
「うちの旦那様を支えてくれはって、おおきに美鈴はん」
「あ、あの、普通に喋ってくれていいです。なんか昔のさつき先輩を知ってる人から聞くと、かなり違和感ありますから」
「ところで美鈴、内場くんは?」
「いますよヒロシさん」
「おや、美鈴の後ろにいたのかい。気付かなかったよ」
「ヒロシさんが美鈴に夢中でスカウトしとるんで、空気読んで後ろで控えてました」
「内場くんの漫画が販売されていたね。おめでとう。ペンネームで呼んだほうがいいかい?」
「内場でいいですよ。そのほうが懐かしくなるんで」
大学時代から同棲をして卒業後は美鈴がメインで稼ぎ、内場はパートで食費を渡しつつ漫画を描き続け、ようやく受賞を得て実を結んできた。
ネットで同人活動もしているので、そこから人脈を広げてリスクヘッジも試みている。
「ごめんなさい遅くなって」
「お待たせ皆。お姉様を連れてきたよ」
今回は同窓会だけでなく、綾が新たに受賞した直林賞の祝賀会も兼ねている。
青都大学からずっと小説と脚本の両立で才能を発揮し続けてきた。
一方、ちなみは京大で住み込みメイドみたいに働いて幅広く知識を学び、卒業後もしばらくは続けて、外村プロダクションが安定した頃にタレントに転職をした。
「やっほー皆、久しぶり」
次に現れたのは日暮つかさ。
パリ留学で経験を積んでから帰国して龍一と結婚。
オーナーパティシエとしてパティスリー鶴屋の後継者となった。
「つかさ久しぶり。今度お店に行くからね」
「ありがとう綾。そして受賞おめでとう」
「つかさも日暮さんとの結婚と店の後継ぎおめでとう」
これで残るのは淳平と正太郎だけだ。
その二人がどこにいるのかと言うと……空港である。
「海外からおかえりカントク。迎えに来たぜ」
「わざわざありがとな。あ、髪切ったんだ」
「ああ、ビジネスのスタイルで短くスッキリさせた。カントクこそ筋肉ムキムキだな」
「ムキムキって……せめて大きくなったって言ってくれないか?」
「まあ積もる話もあるだろうが車に乗れ。そこでいくらでも話せる」
「あ、東城は免許持ってるんだったな」
「仕事柄、運転を兼ねることが多いからな」
助手席に淳平を乗せて運転席に正太郎。
今から料亭へ向かうということでちなみへ連絡を入れた。
それから移動を始めていく。
「主役は最後にってよくある話だ。他は全員来てるってさ」
「それはオレじゃなくて東城じゃないか?」
「いやいや、オレは見ての通り主役をお迎えする脇役さ」
「東城みたいな脇役がいてたまるか」
軽口を叩き合う正太郎と淳平。
大人になっても学生時代と変わらない。
そんな雰囲気が互いにとって喜ばしかった。
「世界を見て回りたい願望。それはオレも通った道だ。つーさんとひーさんを通じてスイーツ大国のフランスを、天さん繋がりで投資大国のアメリカを、唯を通じて日本全国を。まあ、ストリートピアノがある所限定だけどな」
「東城も色々見て回ってるじゃないか」
「ヨーロッパやアフリカを見て回ったカントクがそれを言うか」
大学の空いた時間に未知の旅をして見識を広めた二人。
信頼できる通訳家やガイドがいれば海外でもどうにかなるものだ。
互いに道は違えども未来に向かって突き進んでいる。
「それで心の引き出しは広がったか? あるいは増えたか? ただ漠然と行っただけでは時間の浪費だぜ」
「手厳しいな。でも東城の言うように確実に視野は広がった。それが映画作りに役立てたと思っている」
「実際にそうして映画を作り上げ、小規模ながら受賞を得て、角倉周の事務所へ誘われていると?」
「よく知ってるな」
「弟子が脚本家として、そこで働いている。もし、そっちに行くなら弟子と会うことになるだろう」
中間は慶法大学に進学しても小説を書き続け、人脈を広げて脚本の手伝いをよくした。
それから脚本で才覚を伸ばすようになっていく。
卒業する頃には角倉周の目に留まるレベルになっていた。
「東城は外村プロダクションで働いているって聞いたよ」
「安定したようなので、ちなみがタレントに入り、オレもマネージャーとして乗った。副業でWEBライターおよび編集もやってるから忙しいけど充実している」
「小説は?」
「趣味でネット公開してる。仕事でない分だけ気楽だぜ」
「そっか。副業ってフリーランス的な?」
「ああ。会社依存のリスクを避けるため、ネットの副業は今後も幅広くやっておきたい。どこでも仕事ができるってのは大きいぜ。カントクのように世界を見たい時にも都合がいいからな」
「感心するよ。オレが作る映画の主人公に抜擢したいぐらいに」
「外村プロダクション、略して外プロを通すことだ。制作系をやってるから、カントクの望む映画作りもやりやすいはず。ヒロシ兄さんとカントクの夢が叶う時だぜ」
「いいな。部活をしたあの頃を思い出すよ」
「まあ、細かい話は料亭にいるヒロシ兄さんとやればいい」
会話をしながら運転を続ける正太郎。
とてもリラックスした感じで自然体だ。
高校時代のような溢れるばかりの気質がない。
大人の社会人になったことで落ち着いたようだ。
「カントク、ねーちゃんにプロポーズするんだろ? 成功したらにーちゃんって呼んでいいか?」
「あ、うん。まあ……」
「煮え切らない所は昔と変わってないな。指輪は持って来てるんだろ? 受賞というきっかけもあるんだし、このタイミングを逃していつするんだって話だ」
「いざとなると照れくさいっていうか、緊張するっていうか。そういう東城はどうなんだ?」
「お互いに仕事がものすごぉーく忙しいんだよ。タイミング的にねーちゃんとカントクが結婚したら踏み出すかな。まずはそっちが先でどうぞ」
「別に待たなくていいから」
「ねーちゃんが先だ。それを見届けるのが弟の使命だぜ」
長い道を車で飛ばして時間が経過する。
目的地となる料亭の近くまで到着。
淳平に下りてもらって一声かけた。
「カントクはそのまま先に行ってくれ。オレは駐車場に車を停めて行くから」
「わかった。ここまで送ってくれてありがとう東城。また後でな」
こうして淳平が先に料亭へ向かう。
中に入ると河童の着ぐるみをしたプラカード持ちが歓迎をしてくれる。
札には同窓会&祝賀会へようこそと書かれていた。
「ああ、懐かしい。それ見ると嵐泉祭を思い出すよ」
河童の着ぐるみが部屋まで案内をしてくれる。
部屋を開けてもらって淳平が足を踏み入れた。
「よぉみんな久し振り!!」
遅れてやって来る主役の登場。
ヒロシは映像カメラを回し、美鈴と内場は注意深く観察。
力也・こずえ・さつき・つかさ・旧姓の天地は淳平の成長した見た目に驚く。
黒川先生・綾・ちなみは平常心で静かに見ているだけだ。
「悪い悪い遅くなって……あれ、皆いるって聞いたけど、唯がいな――」
「わ!!」
淳平の言葉を遮り、その背後から体当たりと同時に唯の掛け声。
不意打ちを食らった淳平は悲鳴を上げてその場で転んでしまう。
その刹那。
「はいカッーーート!!」
美鈴の凛々しい声を合図に、唯が持っているカチカチを二回鳴らした。
腰を抜かしたまま目をパチパチさせてしまう淳平。
河童の着ぐるみが別に用意されたプラカードを見せる。
そこにはドッキリ大成功と書かれていた。
「だ、誰だよ!? こんなドッキリ考えたのは!?」
「唯だよ!! ヒロシ兄さんや美鈴も協力してくれたんだ!!」
「ふふふ、プロの監督になった真中にドッキリを仕掛けるのは面白いと思ったからね」
「偉くなった天狗の鼻をへし折るのにいい機会よ。そう思ってあたしも乗ったわ」
河童の着ぐるみから脱いで大人の勇が姿を見せる。
自分も企画に乗ったことを忘れないでくれとアピールだ。
しばらくして正太郎がさり気なく入ってちなみの隣へ座る。
「待て東城。何事もなかったように座ってるけど、東城もグルだろ?」
「話には聞いていたが、オレは送迎の役目があるから、直接は関わっていない」
「黙ってるなんて人が悪いぞ」
「ドッキリでネタバレなんてする訳ないだろ。唯、ニンジャの隠密スキル、見事だったぜ」
「えへへ。昔もこうやってじゅんぺーを驚かせたことがあったね」
「ああ、覚えてる。オレが囮になって唯が後ろからカントクを驚かせたな。あ、さっちゃんオレはアルコールなしのソフトドリンクで。車の運転があるし」
「そもそもしょーくんはお酒がダメなんだよね」
「数少ないオレの弱点だ。体質的に無理なものは仕方がない」
その弱点を補う意味も込めて積極的に運転をしている。
そうすれば酒を断る理由として成立するからだ。
飲酒運転は違法行為であり厳しく罰せられる。
「ねーちゃん、カントクから大事な話があるから聞いてやってくれ」
「え? うんわかった」
「ほらカントク、いつまでも腰抜かしてる場合か。しっかりと男を見せてくれよ」
「そう思うならドッキリ企画を止めてくれよな」
「それはそれ、これはこれだ」
淳平は気を取り直して綾の傍へ寄る。
お互いに向き合って正座をした。
「あー、またデカイ賞獲ってさすがだよ綾は」
「淳平くんこそ受賞おめでとう」
「いや、オレのは綾に比べたら全然知名度ないから」
「……それで大事な話って?」
綾はそう言っているか心のどこかで分かっているのだろう。
今も淳平と長く付き合っているから。
それでも本人の口から聞かない限りは信じられない。
「色々と気の利いた言葉を考えたけど、さっきのドッキリで全部吹き飛んでしまった。だからもうシンプルに伝えるよ。オレと……」
淳平が取り出したのは指輪ケース。
それを差し出してから告げた。
「結婚してください」
「……はい!!」
クラッカーが鳴り響く。
使用者は正太郎とちなみの二人だ。
ヒロシは抜け目なく淳平のプロポーズも撮影している。
祝福の歓声が響き渡って盛大な拍手もあった。
「やれやれ、最後まで世話焼かせやがって」
「お疲れしょーくん。真中さんがお兄様になるんだね。とっても感慨深い」
「にーちゃんか。ホント感慨深い。時の流れは早いものだな」
「もうしょーくん、まるでお爺ちゃんみたいだよ」
「ほおー、今度、爺さん役に挑戦するか。ばーさんや、メシはまだかいのう?」
「じーさんや、ご飯はさっき食べたでしょ」
「二人してなに漫才しとるねん」
内場からツッコミを入れられてしまう。
そんな親友に正太郎がお酌をした。
「内場のデビュー漫画、お前の許可を得て二次創作してみた。ネット公開してかなり高く評価されてな。多くの読者が楽しんでくれたぜ。趣味があると仕事の気分転換にもなって実にいい」
「東城の執筆力ならプロでも通用するやろ?」
「ちなみのマネージャーとWEBライター兼編集で手一杯だ。創作は趣味でやるぐらいで丁度いい」
「まあええわ。それで東城は自分の在り方を見つけたんか?」
「卒業式の答辞で言ったヤツか……今も探し続ける旅人気分だよ。一生そうやって己を高め続けてレベルアップをしていくと思う」
「まだカンストしとらんのか?」
「当然だ。これでも創作家の端くれ。競争社会で生き残るためにも日々精進して改善を怠らないぜ」
いずれにしてもプロポーズに成功をした淳平。
綾の幸せな笑顔が全てを物語る。
この後、全員で記念の集合写真を撮った。
………………。
…………。
……。
月日が流れていく。
淳平と綾の結婚式が執り行われた。
教会で誓い合ってのキスシーンはお約束。
ウエディングドレスの綾に両親は涙し、遥は喜び、正太郎は感慨深く見守った。
花のブーケを受け取ったのはちなみ。
次の花嫁はちなみかもしれない。
なお、ウエディングケーキはつかさと龍一の最高傑作だ。
新郎新婦の要望で正太郎がスピーチをすることになった。
正太郎がいなかったら今の二人は成立していないからと。
「淳平さん、ねーちゃん。結婚おめでとうございます。新婦の弟で正太郎と申します。幸せに満たされた今日この日に、たくさんの方々にご参列頂き、お祝いの言葉を頂いたこと、私も身内として誠に嬉しく思います」
長年の社会経験で培われてきたのだろう。
伊達メガネなしでも敬語を使えるようになった。
ちなみと同様に心の中でスイッチ切り替えが可能。
手加減と本気も腕時計の有無問わずにできる。
大人になったということで上手く割り切れた。
「淳平さんがねーちゃんに惚れたのは、中学時代の縁日デートです。ねーちゃんはよそ行きの顔と身内の顔で態度が異なり、そのギャップの魅力に淳平さんは虜になったとの事です。一方ねーちゃんは、中学時代に書いた小説を淳平さんが読んで褒め称えたことが好きになるきっかけとなりました。単純で些細な事と思われるかもしれませんが、小説家は承認欲求の塊みたいな所がありまして、私も物書きの端くれとして共感いたします」
正確には正太郎とちなみのダブルデートだったが祝辞用に改変。
あくまで主役は新郎新婦にあるため細かいところは割愛である。
「ねーちゃんと淳平さんが付き合うようになりましたのが中学の卒業式。私を含め、双方の友人からのお膳立てがあり、淳平さんが勇気を出して告白をしました。それからずっと続き、今日の結婚に至っていますので、いかにお二人が長く想い合っているかが伝わってきます」
これは何気にスゴイことである。
中学や高校で付き合っても長続きせずに別れてしまうケースが多いのに。
でも人は人、自分は自分である。
付き合うのは周りに比べることではなく、当人同士で決めることだから。
「ねーちゃんの凄い所は皆様もご存知の通り、受賞されるほど優れた小説が書けることです。淳平さんという支えがあればこそ、その才能を十二分に発揮されます。淳平さんも映画監督のお仕事で色々大変だと思いますが、どうかねーちゃんをよろしくお願いします」
忙しいことを言い訳に姉を蔑ろにするな。
そんな遠回しの注意を淳平は真剣な顔でしっかりと頷く。
これを見た正太郎は満足をしてフッと笑った。
「さて、ここで新郎の淳平さんに耳寄り情報です」
突然のサプライズに淳平と綾がやはりかと思った。
事前打ち合わせの内容だけで収まる正太郎ではない。
だが心配はしていない。
悪い話でないことは確かだから。
「ねーちゃんは大好きな淳平さんに手料理を振る舞うことで幸せを感じます。美味しく食べてくれることで愛情が満たされるのです。淳平さんとねーちゃんで、家庭料理の味を創作してみるのもいいでしょう。真心こもった料理は家庭円満の秘訣だと、新郎新婦のご両親から助言を頂いていますので、この場を借りてお伝えいたします」
ちょっかり両家の親まで持ち出しておく。
抜け目のない正太郎だと両家の親は感心をした。
「二人で幸せな家庭を築いていくのを、私も心より応援しています。誠におめでとう。そしてありがとうございました」
祝辞が終わって一礼をすると参列者たちの拍手が広がる。
新郎の淳平と新婦の綾から感謝を受けた。
「ありがとう東城――あ、正太郎と呼んだほうがいいのかな?」
「にーちゃんの好きに呼べばいいぜ」
「次は正太郎が主役になる番ね。ちなみちゃんと幸せになりなさいよ」
「その場合のスピーチは、間違いなくねーちゃんになるからそのつもりでいろよ」
淳平と綾の幸せは親族や友人、先生や仕事の関係者へ確かに伝わった。
これから先にどんな困難があっても、二人で支え合い乗り越える事だろう。
新郎新婦の晴れ舞台を正太郎はしっかりと目に焼き付けていった。
結婚式が終わっての帰り。
運転する正太郎に助手席にいるちなみ。
まだ式の余韻に浸っているようだ。
「素敵な結婚式だったね」
「ああ。ねーちゃんとにーちゃんが幸せになって良かった。これからも夫婦として上手くやっていくと思う」
「……」
「……」
「しょーくん、生活基盤はできて経済的に安定しているよ」
「住み込みから独立し、現在は京都のマンションで同棲中だな」
「価値観のトラブルも起きてないよ」
「金銭感覚は問題なし。生活習慣も支障なし。家事分担もお互いに上手くやっている」
「あたしの考えていること、しょーくんに読めるかな?」
「そういうちなみこそ、オレの考えは分かるかな?」
互いに意思疎通ができているのだろう。
口元が笑っている。
そしてどちらともなく告げた。
「「結婚して下さい」」
プロポーズがハモった。
これぐらいは造作もなくできてしまう。
だから返事も。
「「はい」」
同時の肯定である。
家庭と仕事ともに付き合いが長い。
それこそ互いに細かい癖まで知り尽くしている。
「オレたちの未来創作はこれからだ」
「それって打ち切りエンドじゃない?」
「それはともかく真面目な話、人気タレントのちなみはハッキリ言って多忙だ。それはマネージャーであるオレがスケジュール管理をしているから間違いない。結婚を進めていくための時間を取るのは困難だぜ」
「大丈夫だよ。わたしが社長さんにオハナシすれば簡単にお休み取れちゃうから」
「……稀にヒロシ兄さんこと社長が、ちなみを様付けで呼ぶのと何か関係があるのか?」
「気にしない気にしない。とにかく時間はちゃんと取れるから安心して」
仕事という最大の難関はクリアできるらしい。
それならば遠慮なく建設的な話し合いができる。
夫婦生活を円滑に進めるためにも必要なことだ。
「ちなみの休みに合わせて、オレのネット副業も休みを入れて時間を確保するぜ」
「うん、ありがとう」
「夫婦として協力するのは至極当然のことだ。忙しさを理由に結婚を先延ばしなんてしないよ」
「お休みになったら結婚について話し合える?」
「無論そのつもりだ」
住んでいるマンションの駐車場へ車を停める。
一緒に下りて腕を組んで借りている部屋へ移動。
鍵を解除してドアを開ける。
「お疲れ。先にどうぞ」
「ありがとう」
ちなみを先に入れて正太郎が続く。
部屋のドアを閉めて施錠をする。
こうして日常の幸せな生活は末永く続いていった。