青春100%   作:完結の陽炎

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第5話「中学生は激動なお年頃」

 中学生になると様々な変化がある。

 男女別でのブレザー制服。

 成長期を考慮して手足の袖が少し長め。

 これから大きくなると親が言っていた。

 その成長期により正太郎の背が伸びて声変わりとなる。

 

 中学に入ってから言葉遣いの変化もあった。

 小学生ではタメ口をしても問題はなかったのに。

 中学生ぐらいになるとダメというケースがあるようだ。

 特に運動部では先輩と後輩の上下関係が厳しい。

 口の利き方が悪いと生意気に見られるようで嫌われやすい。

 普通に喋れないことが精神的に苦痛となる。

 自分を偽っているようで嫌な気持ちになる。

 正直でありたいのに堅苦しく言葉を飾らないといけない。

 これでは何も喋れない。

 そんな極端な思考に陥ったのが正太郎だ。

 先輩となるヒロシや淳平、つかさに相談をすると、いずれも無理せずにタメ口でいいと言ってくれた。

 しかし身内の綾からは弟の為を思って厳しく忠告をしてくる。

 敬語は今の内に慣れないと、大人になって社会に出る時に困るからと。

 

「じゃあ、ねーちゃんにも敬語で喋らないといけないのか?」

「私は家族だから別と考えて」

「それ差別だ」

「区別よ」

 

 困った時に助けとなったのが内場の描いたスポーツ漫画。

 後輩キャラの喋り方を模倣することにした。

 朝に迎えに来てくれるつかさで試す。

 

「押忍つーさん。今日もねーちゃんをよろしくッス」

「あ、うん。弟くん、別に普通に話してくれていいんだよ」

「ねーちゃんが今の内に慣れないとダメだって、将来苦労するからって説教があったッス」

「その喋り方、なんか漫画っぽいね」

「ウッス。内場の漫画に登場する後輩口調を模倣してるッス」

「いいんじゃないかな。相手によって区別するという意味は果たせているし」

「さすがつーさん、理解してくれてありがたいッス」

 

 でも姉の綾からは後輩口調が不評だった。

 つかさがいいと言っていたので大目に見ている。

 正太郎の言い分も分からなくはないから。

 ヒロシと淳平にもこの喋り方で了解を取った。

 だが、これとは別に些か戸惑うことが起きてしまう。

 不思議と異性から声を掛けられることが増えたことだ。

 

「モテモテやな東城」

 

 教室の席で茶化す内場も身体的な成長を遂げている。

 トレードマークのメガネは変わっていない。

 正太郎は腑に落ちないようで尋ねる。

 

「内場が女子から声を掛けられないのは何故だ? メガネが原因か?」

「メガネは関係ないやろ。顔やで顔」

「そんなに変わったか?」

「男前になってきたで。自分じゃあ気付かんやろうけどな」

「内場の漫画にあった二枚目キャラかよ。内場みたいに優しい顔をした男ってウケが悪いのか?」

「いい人止まりがオチやな。なんや自分で言うてて悲しくなってきたわ」

「そんなものか? ま、ねーちゃんが変装する理由がよくわかったぜ」

 

 三つ編みメガネで地味なスタイルとしている姉。

 おしゃれをすれば男子からモテるのは明白。

 そうならないように対策をしているのだから侮れない。

 

「そういえば、つーさんの噂をよく耳にするぜ。カッコよさと可愛さを兼ね備えた学園の人気アイドルとしてな」

「ああ、それは僕も聞いたわ。なんでも西野ファンクラブか結成しとるらしいで」

「まるで親衛隊だ。敵に回せば面倒になるから気を付けよう。あ、人気ならちーちゃんも話に上がってるよな?」

「そら当然やろ。端本ほど可愛い女の子やったら普通にモテるわ」

「なんかラブレターもらったり、告白されたり、色々と大変らしい」

「ひとごとみたいに言うとるけど、東城はそうなっとらんのか?」

「単純に声を掛けられているだけだぜ」

「今はそうやろうけど、いずれ東城もそうなるで。時間の問題やな」

「かんべんしてくれよ。ただでさえ勉強ついていけなくてヤバいのに」

 

 中学の授業レベルが高すぎる。

 問われる内容の質と量が半端ではない。

 授業を受けただけで理解をするのが困難だ。

 分からないときはどうするのか?

 先生に質問をするにしても授業中は無理。

 中断させてしまって授業が進まなくなるから。

 職員室へ質問をするのも厳しい。

 休み時間は限られているし、放課後にしても先生は忙しい身だ。

 たとえ時間が取れたとしても、そこで理解できる保証がない。

 質問をしたけど結局分からなかったというオチもあり得る。

 時間の無駄というデメリットが発生しやすい。

 

「こういうとき、サンボウがいてくれたら」

「おいおい東城、外村からあだ名は卒業するよう言われんかったか?」

 

 小学生気分を抜け出すため、中学に入ってからは美鈴のあだ名は禁止となった。

 本人がそう言ってきた以上は黙って従うしかない。

 

「まだクセが抜けてないな。でもちーちゃんとか、つーさんはOKなんだよな」

「ちゃん付け・さん付けやからな。参謀という中二病な呼び方される外村の気持ちを考えてやりや」

「まだ中一だぞ」

「そういう意味ちゃうわアホ」

 

 小学の時は同じクラスだったが中学で別々となった。

 その時のあーちゃん又はちーちゃんは露骨に落ち込んだ。

 一方、美鈴はチラリと正太郎と内場を見つめてからそっぽを向くだけ。

 まるで感情を見せまいという振る舞いであった。

 

「いないものは仕方ない。頼りすぎるのもダメだ。これは試練だぜ」

「なんやねん。お得意の漫画ノリで攻略か?」

「それで出来たら苦労しないぜ。でも倒す相手が勉強という事実は認める」

 

 強敵のボスたちを連想する。

 容赦ない一斉の攻撃に手も足も出ずの満身創痍。

 どこにも突破口が見えずに敗北は必至のイメージ。

 もはや藁にも縋る思いで内場に問う。

 

「そういう内場は勉強どうなんだ?」

「アカンに決まっとるやろ」

「胸張って言うことか。あまり成績が酷いと親から漫画の取り上げ――」

「やめい。それは考えんようにしとるんや」

「……逃げても無駄だ。現実は待ってくれない」

「ぐふっ!! そ、それハズイから言うのやめてくれん?」

「なんでだよ? 内場が描いた漫画のカッコいい名台詞じゃないか」

「せやからハズイ言うとるんや!!」

 

 黒歴史を掘り起こしてしまったらしい。

 これ以上は深入りしないほうがいい。

 そっとしておくのも時には必要である。

 

 ………………。

 …………。

 ……。

 

 放課後、正太郎は小説のネタ探しをする。

 自由に校内を探検して回っていく。

 そこで閃いた。

 漫画やアニメなどでよく出現する学校の屋上。

 果たして現実に出入りができるのか?

 少なくとも正太郎が卒業した小学校では不可能だった。

 扉に鍵がかけられて立ち入り禁止となっていた。

 現在通っている中学校ではどうだろうか?

 ダメ元で確かめてみたい。

 立ち入り禁止のチェーンをくぐり抜けて、その先に屋上へ通じる階段をあがる。

 扉にロックがかかっていない。

 施錠が老朽化して、まともに鍵がかけられない状態だ。

 修理または交換がされて然るべきだが、大人の事情でもあるのか?

 そんなことは正太郎の知った事ではない。

 そのまま押し開けてみると、フェンス越しから綺麗な夕焼けが広がっていた。

 

「これはなかなか……いいな」

 

 ここで正太郎は思う。

 他にも屋上に来る生徒がいるのではないかと。

 怪しいのは塔屋にある梯子。

 上がった先に誰かいるのかもしれない。

 好奇心が抑えきれずに実際にのぼって確認をしてみた。

 

「っ!? だ、誰!?」

 

 そこで激しく動揺をする女子生徒を発見。

 その正体を誰よりも一番よく知っている。

 

「なんでねーちゃんが覚醒モードでここにいるんだ?」

 

 三つ編みを解いてのストレートヘアー。

 メガネを外して綺麗な瞳を晒していた。

 もはや美人の一言に尽きる。

 そんな状態を正太郎は覚醒モードと呼んでいる。

 

「しょ、正太郎なの!? もぉービックリさせないで!!」

「ビックリしたのはこっちだ」

「ああもう!! 心臓のドキドキが止まらなくなっちゃうじゃない!!」

「立ち入り禁止の屋上にいるんだ。悪い事をしてる自覚がある証拠だぜ」

「正太郎だって来てるじゃない。あと学校で保護者ぶらないで」

「梯子から足を踏み外して命を落とさないでくれよ」

「いちいち言われなくても気を付けてるから」

 

 姉の手元に何の変哲もないノート。

 そこに覚醒モードで書かれた本気の小説があるのだろう。

 とても敵う気がしない。

 才能の差を感じて劣等感を抱く。

 それでも正太郎は諦めない。

 姉を超えるという純然たる野望を果たすその時まで。

  

「ねえ正太郎。勉強、ちゃんとついていけてる?」

 

 嫌な話題を振ってきた。

 苦虫を潰したような正太郎の顔。

 実に分かりやすい反応である。

 

「絶望的。難しすぎてフルボッコ状態だぜ」

「んもー、なんで素直に助けを求めないの?」

「先生は忙しいし、質問して分かるまで、ゆっくり時間かけて教えてくれると思うか? あと質問しようにも何を質問していいか分からないレベルだぜ」

 

 わからないことがわからない状態。

 専門用語や公式など、必要な前提知識が足りていない。

 点と点の要素が関連付いていることも把握ができていない。

 もはや全体像すらも掴みきれていない。

 

「美鈴ちゃんに教えてもらおうと思わないの?」

「交換日記で書いてるから知ってるだろ。クラスが別々になって接点がなくなった。あと頼りすぎるのは、アイツの迷惑になるって」

「迷惑かどうかは美鈴ちゃんが決めるの。正太郎が勝手に決めていい事じゃないから」

「ねーちゃんのほうが保護者ぶってるじゃないか」

 

 説教をされてしまうと感情で反抗したくなる。

 中学という急激な変化に慣れていない。

 そこは綾も一年前に通った道。

 だから姉として、先輩として、正太郎を見捨てたりしないのだろう。

 

 ふと屋上の扉が開いて姉弟が息を潜める。

 塔屋からそっと下を覗くと、美鈴が仁王立ちをしていた。

 実に堂々とした立ち居振る舞いである。

 

「いるのは分かってるから出て来なさい」

 

 正太郎の背中が突っつかれている。

 早く行きなさいよという姉からの合図だ。

 隠れてやり過ごすことは不可能。

 美鈴なら確実に見つけ出す。

 こうなっては仕方ないとその場で口を開く。

 

「誰を探してるんだ? 名乗りもしない女子生徒さんよ」

「あら、クラス違ってから、あたしのことなんて忘れた? ずいぶんと冷たいのね」

「冗談だよ。そんな切れ味の鋭い刃物みたいな目で睨むな」

 

 潔く梯子から下りて美鈴の目の前に立つ。

 お互いに大きくなったが、正太郎のほうが身長が高い。

 小学生の時は同じぐらいだったのに変わってしまった。

 

「どうせ内場からオレの行き先を知り、ここへ来たんだろ?」

「だったら何よ?」

「別に。ちーちゃんと一緒に帰らなかったのか?」

「今日は西野先輩の所よ。お互い、人気者の辛さで気が合うからね」

「確かに。つーさんが作るおやつに釣られたかと思ったりもするが」

「それはアンタでしょ?」

「ニンジャだよ」

「もう中学生なんだから、小学生のあだ名はやめなさいって言ったでしょ」

「へいへい」

 

 ご無沙汰をしているからか。

 お互いに憎まれ口を叩き合って適当なタイミングで切り上げる。

 立ち入り禁止の屋上でいつまでも長居をする訳にはいかない。

 

「帰るか」

「そうね」

 

 とっておきの場所であろう屋上は姉へ譲る。

 美鈴の歩調に正太郎は合わせていく。

 身長差によって進むペースが変わったから。

 

「帰ったらアンタの勉強みてあげる」

「なに? 突然なにを言い出す?」

「アンタのお姉ちゃんに頼まれてるのよ」

「いつ頼まれた?」

「休み時間に。わざわざあたしのクラスへ来たのよ」

「マジか。変装して目立たないようにしているねーちゃんが?」

「そんだけアンタのことを心配してるってことよバーカ」

「うっせえな。頭のいいヤツにオレの苦しみが分かってたまるか」

 

 中学生らしい反抗期。

 やる気はあっても実力が伴わない。

 そこから滲み出る悔しさを隠しきれない。

 美鈴の部屋で勉強タイム。

 基礎中の基礎から叩き込まれていく。

 

「鬼だ、目の前に鬼がいる」

「口はいらないから手を動かしなさい」

「チッ……ここ分からん」

「ここ見て、あとここも」

 

 テキストの内容を適切に指をさす。

 勉強用ノートに鉛筆を走らせる正太郎。

 躓くことがあれば美鈴に教えてもらった。

 回答に至るまでには必ず原因が存在する。

 前提となる条件も忘れてはいけない。

 

「今日はここまでよ。やり過ぎても効率が落ちるだけだから」

「その言い方だと、明日もやるように聞こえるぜ」

「当たり前でしょ。アンタ、いま自分がどれだけヤバい状況か分かってんの?」

「分かってるからこそだ。それだけお前の時間を奪うことになるぜ」

「あたしの時間をどう使おうとあたしの勝手よ」

「言ったな。途中でやめたってのは無しだぜ」

「それはこっちのセリフよ。徹底的にやるから覚悟しなさい」

「上等だ。オレはこんな所で立ち止まれない。ねーちゃんを超える野望が待っているんだ」

 

 そのためならなりふり構わってられない。

 どのような厳しい試練にも耐えてみせよう。

 勉強という難敵を倒す意気込みがあった。

 

 帰宅した正太郎は交換日記ノートを受け取った。

 勉強の息抜きに最適である。

 日記を通じてたまに姉が小説を書く。

 今回のタイトルは幼馴染の落とし穴。

 主人公のモデルが美鈴と似ていた。

 

「相手のモデルは内場? いやオレか」

 

 クラスが離れたときの心理描写が生々しい。

 妙にリアリティを感じさせる。

 美鈴がそう思ってきたかのように見えてしまう。

 

「これ、相手がイヤなヤツに見えるな」

 

 さんざん世話を焼かれているのに感謝の一言もない。

 しかし男の気持ちはわかる。

 口うるさい主人公に反抗をしたくなるから。

 姉からの挑戦状は確かに受けた。

 相方の男視点で二次創作を開始。

 思わず徹夜をしてしまい、翌日の勉強会で美鈴に怒られた。

 

 ………………。

 …………。

 ……。

 

 勉強の理想形は、予習をして授業を受け復習をすること。

 これが出来る生徒が果たして何人いるだろうか?

 時間や体調など様々な要因で続かないのではないか?

 過ぎ去った時間は戻らない。

 取り返すための苦行三昧は筆舌に尽くし難き。

 通常、途中で投げ出して諦めるだろうが正太郎はそうならない。

 

「おもしれぇ。どこからでもかかって来い」

 

 上達をするコツは楽しむこと。

 ちーちゃんの演技スキルを模倣してみる。

 勉強というボスとのタイマン勝負。

 そんな激戦の空想を浮かべて立ち向かう。

 ノリノリな正太郎に幾分呆れてしまう美鈴。

 それでもやる気があるならと見逃して指導を続けた。

 

「今日はここまでよ」

「……無念」

「ちょ、ちょっと!! 勝手に人のベッド使わないで!!」

「つれぇー、スキル使い過ぎた」

 

 うつ伏せのまま意地でも動かない。

 いくら美鈴が動かそうとしても拒否の一徹。

 なりきりのテンションを維持するのは辛かった。

 精神の消耗が激しく、終わった後の反動が計り知れない。

 

「ちーちゃん化け物だろ。こんなキツイ演技、よく何時間もやれるな」

「アンタね、言うに事欠いて端本を化け物扱いするんじゃないわよ」

「褒めてんだよ。ああ、だからあーちゃんでバランスとってるんだな」

「って、いつまで寝てるのよ。どきなさいってば!!」

 

 こうして騒いでいると兄のヒロシがやって来る。

 チャンスとばかりにカメラのシャッター音が鳴った。

 ノックなしの入室と撮影で無礼極まりない。

 美鈴が怒り、兄を蹴りつけてやめさせた。

 

「ヒロシ兄さん、もう限界ッス」

「美鈴のシゴきによく耐えたね。偉いぞ正太郎くん」

「いつからアンタの兄さんになったのよ」

「いや、本人がそう呼んでって言ってたから。ちょっと前に」

「なに勝手なことしてんの兄貴」

「いいじゃないか。僕としてはそう呼んでほしかったんだもん」

「気色悪い言い方すんな!!」

 

 中学生になってから怒りっぽくなったかもしれない。

 これも多感なお年頃ゆえであろうか。

 

「そういえば正太郎くん、美鈴を名前で呼ばないのはどうしてだい?」

「向こうがこっちの名前を呼ばないんで。名前嫌いかと思って呼んでないッス」

「ち、違うわよ!! 別に嫌ってないから勘違いしないでよね!!」

「だったら何で呼ばないんだよ?」

「……たまたま呼ぶ機会がなかっただけよ」

「ふむ、それなら正太郎くんから美鈴を呼んであげたら――いたっ!!」

 

 ヒロシの言葉を遮るために美鈴が無言で蹴って黙らせる。

 顔を真っ赤にして照れ隠しにも見える。

 正太郎としては名前を呼ぶことに異は唱えない。

 サンボウのあだ名を封じられて不便に感じていたから。

 

「呼んでいいの? 嫌なら――」

「か、勝手にすれば!!」

「なにキレてんだよ」

「キレてない!!」

「まあいいや。次も勉強よろしく頼むぜ美鈴」

 

 正太郎に呼び捨てをされて武者震い。

 彼女の中で何かが揺さぶられたのか?

 きっかけは受け取った。

 ここで呼ばなければ一生言えない気がする。

 そう思った瞬間、美鈴の口が無意識に開いた。

 

「しょうーちゃ――っ!!」

 

 緊張をしたのか舌が上手く回らなかった。

 わざとではないが、ちゃん付けになりかけている。

 名前の呼び捨てをしようとしたのに。

 両手で顔を隠して今にも泣きそうな美鈴。

 正太郎は迅速に動く。

 女を泣かせる男になりたくない。

 強引に笑わせようと美鈴の脇腹や腋をくすぐった。

 

「なにするんのよスケベ!!」

「あぶねえな!! 顔にビンタしようとすんな!!」

「手つきがいやらしいのよバカ!! 兄貴の見てる前ですんな!!」

「見てなかったらいいのかよ!!」

「そういう問題じゃない!!」

 

 怒涛の掛け合いにヒロシは抜け目なく撮影。

 こうしてうやむやになってしまう。

 以後、正太郎は名前で美鈴を呼ぶようになったが逆はなかった。

 

 ………………。

 …………。

 ……。

 

 正太郎と唯の文通は今も続いている。

 近況の報告でやり取りをして、たまに電話をすることもあった。

 そして今、お互いに通話をしている最中である。

 

「えへへ、久しぶりの電話だねしょーたろ」

「送られた写真を見たぞ。そっちはセーラー服だな」

「うん、しょーたろのブレザーの制服もいいね。似合ってたよ」

「おだてても何も出ないぜ。それはそうと中学の勉強どうよ?」

「すっごく大変だよぉ。色々、科目も変わったり増えたりして」

「習い事もやってんだろ? 両立できるのか?」

 

 唯の習い事はピアノとお菓子教室、そして空手である。

 手紙で知ったとき、空手は意外に思ったが唯はハマったらしい。

 その空手を通じ、一つ年上の女子で北大路さつきと仲良くなった。

 偶然にも同じ中学にいて、先輩と後輩という間柄でもある。

 

「うん。でも勉強ばっかりだとつまんないから。習い事は続けたい」

「ご苦労なことだぜ。オレにはとてもマネできん」

「えっへん。あ、そうだ。美鈴と最近どう?」

「手紙に書いた通りの鬼だぜ。中学になってから怒りっぽくなりやがって」

「そんなこと言ってるとまた怒られちゃうよ」

「ちくしょう。ニンジャがいたらバリアで防ぐのに」

「もうー、唯って呼ばないとダメ。美鈴に言いつけちゃうよ」

「やめろ。ただでさえ勉強で地獄を見てんのに」

「だったら名前で呼んで呼んで」

「わかったわかったよ唯」

「よろしい。あ、夏休みになったら、そっち遊びに行けるかもしれないんだ」

 

 唯からの朗報。

 久しぶりに元気な姿を見ることができる。

 一体どこに泊まるのか?

 正太郎は察しがついて、その予想を口にする。

 

「世話になるのは美鈴のとこか?」

「うん。テストとかの成績が良かったら、という条件で」

「ご褒美もらうためにも頑張るってか。応援はしてるぞ」

「ありがとう。唯は絶対に良い成績とって遊びに行く」

 

 こうして電話を済ませて自分の部屋へ戻る。

 教材を手にして、次に向かうのは姉の部屋だ。

 ドアをノックして許可を得てから入る。

 

「悪いねーちゃん、予習でこの辺り教えてくれ」

「どこ? あ、ここね」

 

 復習は美鈴のおかげで何とかしているが、予習までは確保できない。

 そのため夜の時間、姉に助けてもらっている。

 これで授業の対策が取れて、復習の負担を最小限にする作戦だ。

 

「大体こんな感じ。あとはちゃんと授業を聞いて、ノートとればいいから」

「それはいいんだけど、先生が誰かを指名して答えさせるのが嫌いだ。間違えたときに恥かくし」

「気持ちはわかるけど、そうしないとダラダラしちゃうからだと思う。間違えないように気を付けるしかないよ」

「……」

「どうしたのしょーたろ? 私の顔になにかついてる?」

「メガネ」

「え?」

「メガネつけたら、オレも目立たなくなるのかなって。内場がそうだし」

「め、メガネは関係ないと思う」

「内場もそう言ってた。目立つとモテるから大変。だからねーちゃん、変装してんだろ?」

「べ、別に変装なんて大げさだって」

 

 覚醒モードの綾なら、つかさに匹敵するほどの人気を集める。

 新たなファンクラブが誕生をするかもしれない。

 それで変な男が出てこないとも限らない。

 用心をする姉のやり方は正しいと思う。

 

「ちーちゃんがさ、ラブレターもらったり告白されたり、断るの大変だって聞いた」

「ちなみちゃん、とっても可愛いからモテるんだね」

「んで、内場がその内オレもそうなる、時間の問題だって言ってた。正直それは困る」

 

 弟からの相談に興味がそそられる姉。

 複雑な気持ちにもなるが応じない訳にもいかない。

 そんな選択肢は最初から存在しない。

 

「正太郎はそういうの興味なさそうだね」

「ねーちゃんで見慣れているから、状態異常にはならんぞ」

「それ、私に言われても困るから」

「今は女子に声を掛けられるだけで済んでる。ねーちゃんみたいに目立たなくすれば、声掛けすらもなくなると思う」

「言いたいことは分かったけど……ねえ正太郎」

「なんだ?」

「正太郎って、好きな女の子いないの?」

「ねーちゃん、美鈴、あーちゃん&ちーちゃん、唯、つーさん」

 

 これを聞いて綾は感じ取った。

 弟は異性愛をまだ理解していない。

 家族愛または友情ぐらいだろうか。

 中学一年という立場上、それ所ではないのかもしれない。

 

「私はお姉ちゃんだから別として。友達の中で一番仲良しな女の子って誰?」

「んー、仲良しかどうか知らねえけど、やっぱ美鈴だろ。アイツいないと勉強でジ・エンドだから」

 

 必要な存在が美鈴である。

 今の所、異性としての意識は皆無だが、その内わかる日が来るのかもしれない。

 姉としては温かく見守りたい。

 

「お姉ちゃんから少しだけアドバイスするね」

「おう、くれくれ」

「マジメに聞きなさい」

「うん」

「もし『好きな子いる?』って訊かれたら『いる』って答えるの」

「ふむふむ」

「それで『誰?』って訊かれたら、友達の中で一番仲良しな女の子の名前を答えたらいいよ」

「つまり美鈴と答えればいいのか。それでどうなるんだよ?」

「うーん、けん制になるかな」

「けん制?」

「ううん気にしないで。とにかく、これでお姉ちゃんからのアドバイスは終わり」

 

 部屋を出るように促して弟が出ていく。

 綾はそのまま小説の執筆に取り組む。

 書きたいことが山のように溢れたようだ。

 

 ………………。

 …………。

 ……。

 

 端本ちなみは不満を溜め込んでいた。

 別のクラスになって正太郎と内場の交流がない。

 内場の描くマンガが面白かったのに。

 正太郎と演技をしたり、お話をしたり、書いてくれる日記小説を読むのが楽しかったのに。

 

「外村さん、突撃しよ突撃」

 

 同じ教室で近くの席にいる美鈴。

 いつも読書しているため、話しかけない限りは応じてくれない。

 目つきが怖い、威圧的、愛想がない。

 そんな周りの評価にも意に介さない一匹狼。

 とても心が強いとちーちゃんは感心をしている。

 美鈴のような孤高の生き様はマネできない。

 ちーちゃんの演技も決して万能ではないのだ。

 

「いきなりなによ?」

「だから突撃だよと・つ・げ・ぎ」

「どこに?」

「隣のクラス」

「何をしに?」

「しょーくんと内場くんに会いに行くの」

「迷惑になるからダメよ」

「がーん!! なんでメーワクなのぉ!?」

 

 ちーちゃんは男子に人気が高い。

 隣のクラスに行けば大騒ぎは必至。

 ファンクラブの男子たちも黙っていない。

 二人をトラブルに巻き込むのは、ちーちゃんとしても本意ではないはずだ。

 美鈴もそんなことは望まない。

 

「端本、そんなに二人と会いたい?」

「うん、会いたい会いたい」

「なんでよ? 別に彼氏にしたいとか、そんなんじゃないんでしょ?」

「えー? 友達に会いたいって気持ちに理由いるかなぁ?」

「友達ね……二人がそう思ってるか分からないのに?」

「わかるよぉ。他の男子みたいにいやらしくないもん」

「どうだか。男なんて皆スケベよ」

「偏見だぁ。それじゃあ、ホントかどうか確かめてみよーよ」

  

 これは止めても無駄だ。

 美鈴としても別に二人と会いたくない訳ではない。

 むしろ会えるなら会いたいのが本音だ。

 だから提案をしてみるのも自然な成り行きである。

 

「昼休みに待ち合わせをすれば?」

「え?」

「突撃なんてしたら目立つでしょ? 待ち合わせ場所で合流すれば会えるんじゃない?」

「あっ、いいね。それでいこう」

 

 ここで問題となるのは待ち合わせの場所だ。

 果たして都合のいいところがあるのか?

 今日は我慢してもらい、決行は明日を予定とする。

 

 美鈴の部屋で正太郎に勉強を教える。

 区切りがついた頃合いに今回の件を話した。

 立ち入り禁止の屋上が候補に挙がる。

 他にファンクラブの目を回避できそうな場所はない。

 

「立ち入り禁止だからお勧めしないぞ」

「同意するけど、端本にこれ以上ガマンさせるのは無理よ」

「ファンクラブの連中を敵に回したくない。絶対に面倒な事になるぜ」

「ある意味、別のクラスでよかったんじゃない? 同じだったら敵になってたかもよ」

「そうだな。あ、週末のあーちゃんは元気してる?」

「まあ、元気は元気よ。あたしとはソリが合わないでしょうけど」

 

 母の多忙が緩和されて平日は早めに帰れるようになった。

 週末だけはどうしても遅くなるため、外村家でお世話になる日としている。

 中学生に成長をしたことで、東城家と内場家はお役御免となった。

 

「あーちゃんはおとなしいくせに頑固だぜ。相変わらずオレの小説読みたがるし」

「日記小説、渡してあるんでしょ? 続きでも書いてあげたら?」

「今は勉強でそれ所じゃない。せめて定期テストを乗り切らないと」

 

 翌日の朝を迎えて、外の天気は大雨。

 予報によると今日一日は止まない。

 これでは待ち合わせの屋上が使えない。

 

「ううっ……雨が憎い、憎いよぉ」

「仕方ないでしょ。また今度に延期――」

「やだ。今日のちなみ、絶対に会うって決めてるもん」

「子どもの駄々みたいなことしないの。みっともない」

「むむむ……あ、そうだ!!」

「今度は何?」

「屋上の入る前の階段とか、立ち入り禁止の付いた踊り場とかなら大丈夫だよね?」

「そうね……踊り場ならいいんじゃない?」

「やったー!! それで決まりね決まり変更はみとめません!!」

「はいはい。あとで二人に言っておくから」

 

 この後、美鈴が二人に話を通して了解を得た。

 時間が経過しての昼休み。

 ファンクラブの監視が緩和される。

 いくら彼らでも昼食を犠牲にはできない。

 そこを突くようにして合流場所へ向かった。

 

「イエーイしょーくん」

「イエーイちーちゃん」

 

 お互いに楽しそうなハイタッチ。

 実にノリノリなワンシーンである。

 

「なんなのよ今のは」

 

 美鈴からの突っ込み発言。

 心なしか眉間にシワが寄った。

 

「オレはちーちゃんの演技に乗っただけだ」

「端本、久しぶりやな。元気しとる?」

「うん元気だよぉ。内場くんも元気そうだね」

「もちろんや。ほな、メシにしようやメシ。時間がもったいないで」

 

 美鈴がシートを広げて準備をする。

 それで囲むようにして弁当を広げた。

 

「準備いいな美鈴」

「朝から雨降ってたからね。こうなるって予想はしてたのよ」

「さっすが外村さん、やっぱ賢い人は違うね」

「東城、そこのからあげと交換してや」

「そっちのハンバーグで応じてやるぞ」

 

 久しぶりに四人で集まって賑やかに過ごす。

 小学生の頃と変わらない雰囲気がそこにあった。

 たとえ大きくなっていても本質は変わらない。

 

「久しぶりに内場くんのマンガ読みたいなぁー」

「ええで。今度持って来たるわ」

「ちーちゃんが漫画派で、もう一人が小説派。好みの違いで互いの人格が独立しそうだな」

「なによそれ。小説のネタ探し?」

「まあな。日記小説の参考にする」

「やったー、またしょーくんが書いてくれるんだぁ」

「定期テストを攻略してからだ。まだ先の話な」

 

 ふと正太郎は気に掛けた。

 自分は美鈴に勉強を見てもらっている。

 だが内場はどうだろうか?

 少なくとも独学でどうにか出来るとは思えない。

 

「勉強、ヤバくないか内場」

「だ、大丈夫やて多分」

「外村さん、内場くんにも教えて――」

「コイツの面倒だけで手一杯よ、端本が教えてやればいいじゃない」

「でもちなみ、人に教えられるほど偉くないよぉ」

「ちーちゃんはそうでも、もう一人はどうかな? ちょっと交代してもらっていい?」

「うんうん、いいよぉ」

「あーちゃん、内場に勉強を教えるコトできる?」

 

 正太郎の呼びかけでスイッチが切り替わる。

 先ほどまでの軽い雰囲気がない。

 物静かで綾に近い空気がそこにあった。

 

「う、うん。内場くんがイヤじゃなければ……」

「イヤな訳あるかいな。感謝するで端本」

「やっぱり、端本のそれだけは慣れないわよ」

「オレは楽しいけどな。あーちゃんありがとう、またいずれ会おうな」

「あ、会ってくれるの?」

「日記小説を渡す時に会えるだろ。楽しみにしておけ」

「う、うん!! 待ってるから!!」

 

 あまり家の外であーちゃんを表に出すのは負担になるだろう。

 そう判断してちーちゃんに変えさせる。

 先ほどの無邪気な態度に逆戻りとなった。

 

「時々思うわよ。端本って実は二重人格じゃないかって」

「スイッチの切り替えできてるから違うだろう。記憶も残るって言ってるし」

「覚えてるよぉ。ちゃんと内場くんの勉強は教えるって」

「せやけど東城と違って、どっちも端本呼びやから、多少違和感あるで」

「そう? でもダメだからね、呼び分けはしょーくんだけだもん」

「まあ、やり始めたのがオレだからな。それでバランスが保てて結果オーライと」

 

 これで内場の勉強対策が取れる。

 持つべきものは頼れる友達だ。

 こうして昼休みを堪能していく。

 

 ………………。

 …………。

 ……。

 

 端本ちなみをモデルにした日記小説。

 夢の中であーちゃんとちーちゃんが出会うストーリー。

 実体験を元に会話も上手く再現されていた。

 

「やっほー、アーちゃん」

「チーちゃん、こんばんわ」

 

 自分を見つめ直すために必要な儀式というのが正太郎の解釈。

 そういう素敵な考え方があるのかと受け入れる二人。

 事実、今も夢の中で出会う。

 もし正太郎の小説がなければ、ドッペルゲンガーの恐怖で気に病んでいたかもしれない。

 共通点は呼び分けを唯一認めた正太郎。

 二人にとっては大きな存在である。

 自分たちをあるがまま受け止めて楽しんでくれる。

 日記小説を通じて心が通じ合う。

 そんな幸せを嚙み締めていた。

 

「チーちゃんはいいな。演技でしょーくんと楽しくできて」

「アーちゃんはどうなのぉ? しょーくん、お姉さんを超えるためにガンバしてるよ。手伝ってあげないのぉ?」

「で、でもわたしはチーちゃんみたいな特技ないから……」

 

 役に立って必要とされたい。

 相手の心に残ってほしい。

 しかしアーちゃんの出る幕はない。

 そもそも何か手伝えることが――。

 

「内場くんの漫画……支援イラスト……挿絵……絵を描く」

 

 正太郎の自由発想法を真似して連想をする。

 そこからの閃き、別の言葉を借りるなら天啓。

 不思議とアーちゃんの中でピタリとハマり、直感的に試してみたくなった。

 理屈抜きでやってみたい。

 何かが掴めそうな感覚を得てから夢が醒める。

 起きてからも記憶は残っていた。

 

 お絵かきで夢の中の二人を描く。

 背景は真っ白。

 まだ何もイメージはできない。

 何も飾らず、気取らず、自然な姿を示すのみ。

 内場に勉強を教える合間もマスコットの落書き。

 家の中限定でイラスト用の白紙ノートを使う。

 外のちーちゃんは演技、内のあーちゃんはお絵描き。

 自分はこれがある、むしろこれでいい。

 コンプレックスが緩和されて、より心の安定に繋がっていく。

 

 正太郎は美鈴で、内場はちなみことあーちゃん。

 それぞれのサポートを受けて定期テストの対策をした。

 正太郎は国語だけ別格の成績となるが、それ以外は可もなく不可もなく。

 赤点と評するほど酷くはないので、最悪の事態を回避。

 しかし安心するのはまだ早い。

 夏休みに地獄メニューの山積み宿題。

 こういうのは早い内に取り組んだほうがいい。

 外村家へ集まったのは正太郎、内場、あーちゃん。

 勉強に関して頭脳明晰な美鈴の独断場となった。

 

「問題集、自由研究、作文、読書感想文など選り取り見取りかよ。ちくしょう」

「ぼやいてるヒマがあるなら手を動かしなさい」

「メッチャきついわ。なんでこないに宿題がギョーサンあるねん」

「な、夏休みだから仕方ないよ」

 

 一気に全てをやるには流石に無理がある。

 頃合いを見計らって宿題に区切りをつけた。

 そこから正太郎たちの雑談となる。

 

「そういえば、美鈴の家に唯が泊まりに来るのは来週からか?」

「そうよ。ご両親の車で家まで連れて来るって聞いたわ」

「成績の条件、ちゃんとクリアしたんだな」

「おっ、南戸が来るんか? 懐かしいな。今もよぉ覚えとるで」

「あーちゃん、唯は人懐っこい小動物みたいなヤツだからよろしくな」

「わ、わかった」

 

 ここから夏休みの予定も話題になる。

 もし遊びに行くとしたらどこへ行くのか?

 カラオケ、ゲームセンター、公園、スポーツができる施設、映画館、ショッピングなど。

 色々ある中で各自が選んでみた。

 

「僕は漫画のある所が外せん」

「本屋とか漫画喫茶とか?」

「こずかいキッツイから、たまにしか使えんけどな」

「あーちゃんは? 正直インドアっぽい感じするけど?」

「あ、家の外だったら……」

「おっと悪い。ちーちゃんがよく遊びに出かける所ってある?」

「カラオケ!! あとね、ゲームセンターやショッピングもいい!!」

「ちーちゃんらしいな。公園でアクションごっこした小学の頃が懐かしくなるぜ」

「あ、覚えてるよぉ。しょーくんとの演技、すっごく楽しかった。また今度やろーよ」

「長いセリフは覚えられん。戦闘メインでバシバシやり合う感じがいい」

「痛くないならいいよ。しょーくんとの共演、たのしみだなぁ」

 

 面々の中で最も活動的なちーちゃん。

 遊ぶとなれば大いに振り回していくタイプだろう。

 そういう点では唯と似ているのかもしれない。

 

「美鈴は図書館だろ? 連れて行ってくれたあの図書館、かなり品揃え良かったし」

「映画館よ。そっちがメインの趣味だから」

「ふーん、そうなんだ」

「なに、その冷めた反応。文句でもある?」

「ないない。人それぞれだからな」

「し、しょーくんは映画みないの?」

「少しだけあるけど、実はちょっと苦手なんだよな」

 

 一度見ても内容を理解できないことが多い。

 小説や漫画と違って読み返しができない。

 映画館という独特な空間と周りが気になる等で集中しにくい。

 長時間で終わった後の疲労感も半端ではない。

 

 昔、真中淳平の部屋でアニメ映画を唯と一緒に見たことはある。

 それは割と楽しめたので、映画そのものが嫌いという訳ではない。

 要するに内容が難しくなければいい。わかりやすさ重視だ。

 

「美鈴は映画館で見る派? それとも自宅で見る派?」

「どっちでもいけるクチよ。映画館が苦手なら、ここでみたらいい」

「そういえばモニターが置いてあるな。最近のヤツだろコレ?」

「そうよ。成績が良かったご褒美で買ってもらったの」

「ええな。僕もそういったご褒美があればやる気出るのに」

「罰だけでなく結果を出せたら褒美。四字熟語で何かそういうのがあったな?」

「信賞必罰ね」

「ああそれだ。メリハリは大事だぜ」

 

 夏休みの宿題を唯が来るまでに完了させる。

 朝から夕方までフルタイムで頑張った。

 まさに一気呵成である。

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