博麗霊夢のヰ世界紀行   作:お否さま

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1話目 引く手一つ

この本を開いてくれたあなたへこんにちは、初めまして。そして混じり気のない感謝を。

 

さて、突然だけれど、皆さんは異世界、もしくは違世界というものを信じるだろうか。

どちらも自分たちが住んでいる世界とは違って異なる世界のことだ。小説や映画、絵画のように自分たちと似たような法則でありながら全く違うルールが横行する、もしくは全く同じルールなのに内容だけが全く異なる。例えば剣と魔法の世界で冒険したいとか、この漫画の中に入りたいとか、もしくは自分のことを全く知らない人たちがいる、そんな世界を夢見たことは誰しもあるだろう。

 

もしくは、出来るかどうかは置いて、『こんな自分になりたい』と将来の自分を夢みた事が。

 

これは、そんな風にあきれるほど夢を取りこぼしたくない少年がひょんなことから夢から浮いた少女に出会い、イセカイに身を投げ出していく話である。

取りこぼしたくないあまりに手を伸ばして、それを掴んだが故に数多の夢を旅する、そんな話である。

 

 

__________________

 

ことりの謳い声が青い空を駈ける。

木々がざわめき、陽の光と『妖精』の影が朗らかにダンスをする。

現実味が薄れる光景が日常のようにただそこにある。

ここは幻想郷。

どこにもないが存在はしている______そんなモノたちを受け入れ、尚且つ自分自身さえもそう定義されている……そんな場所。

 

さて。

幻の地と空の下、あるのは独つの神社。

 

1人の少女がいた。

 

博麗霊夢。

そう呼ばれる少女がいる。

紅白を基調とした小袖と袴をメインパーツとした通称巫女装束を纏ったいわゆる巫女である。

主な役職は神社の巫女……ではなくもっぱら妖怪退治が一番の役目となっている。

何故かと言うと基本的には、境内の掃除をしているか茶とせんべいでのんびりしているのが普段の姿だからだ。

今日もまた人っ子一人見えない神社で1人、精神を統一しているともぼーっとしてるとも取れるような表情で箒をはき続けているのであった。

 

 

さて、彼女が呼ばれる方なのであれば、呼ぶ方も存在する。

それは人里の民たちでもあり、彼女を目の敵にしている(本人は気にも留めていないが)妖怪たちであり、専ら宴会で酒を酌み交わす大妖怪や神仏であったりする。

が、最も博麗霊夢を呼ぶことが多いものと限定するのであればそれはまさに彼女を置いて他に居ないと思われる。

 

「おーい、霊夢いるか〜?」

 

そんな声とともに空からひらりと境内へ降り立つのは、西洋の魔女のような、召使(一般ではクラシカルメイドと呼ばれたりなかったり)のような格好をしたなんともトンチキな人物である。

ご丁寧に節くれ立って年季の入った木のほうきを持って、黒いとんがりボウシを脱いでいるから魔女で間違いないのではあるが、如何せん服装が白と黒を基調としたゴスロリ1歩手前の装いにエプロンドレス付きときているものだから、コスプレ感も否めない。

 

「お、いるじゃないか。なんで返事をしないんだよ」

 

 

勝気そうな瞳に、元気の象徴のような金髪。

少女らしさとある種の少年らしさが見え隠れする顔は今は不満げに頬をふくらませている。

 

さて、そんな彼女の名は霧雨魔理沙。

霧の森に住処を構える、立派な魔女……と言うと幻想郷では語弊が生じるので、魔法使いと紹介しておこう。

本人曰く【普通の魔法使い】らしい。

彼女自身は年齢が近いこともあってか、よく霊夢に絡み、素直になれない性格から友達にはならずにライバルと自称している。実に実に……。

 

「返事をするしないは私の勝手でしょ。

ウチの客になるのなら考えなくもないわ」

 

魔理沙をあしらいながらも掃除は怠らない勤勉にて怠け癖のあるそんな巫女だが、実は彼女にも博麗霊夢以外の色々な呼び名が存在する。博麗神社の巫女やら、ただ巫女とだけ呼ばれたり、博麗だったり。

例えば【楽園の素敵な巫女】であったり。

本人は言うはずもなく、この幻想郷に住まうものがわざわざここを楽園と謳うはずもなく。

果たしてこの呼び名はどこの誰に呼ばれたものなのだろうか。

関係の無いことだろうとそう一蹴していただいて構わない。

ただ今日ここに限っては少しばかり関係があるのだ。

その呼び名に。

 

「そもそも、今日は何しにしたのよ。

ここんとこ暇なあんたやら、他の奴らやらよく来るから煎餅もそろそろ残りが少なくなってきたんだけど」

 

あと、茶っぱ……はこの前貰ったから大丈夫か、などと独りごちながら神社にひっこもうとする彼女。

しかし、それにまったをかける白黒の魔法使い。

彼女の言葉は紅白の巫女を振り向かせるには十分であった。

 

「今日は新しいスペルカードを試したくてな?」

「……ふーーん?」

 

ゆるりと振り返った彼女は傍目には、気のない様子に見える。

が魔理沙には、その目が興味深そうにこちらを眺めているように見えていた。

 

スペルカードとはなにかを説明するにはまず、幻想郷で流行っている遊びから説明せねばなるまい。

これ即ち『弾幕ごっこ』である。

平たく言えば怒首領蜂やらの弾幕シューティングを個人間で行うものと捉えれば正しい。

ただしそれはあくまで遊びなのでルール無用とは行かないし、もちろん殺害なんかは以ての外。

まぁ、詳しくは公式wikiやらを見てもらうかそもそもそんなこと疾っくの疾うに理解したやつらしかここを見ていないとも思うが。まぁ、それはそれとして。

弾幕ごっこの肝と言えば、何を隠そう「美しさ」である。

花火職人がごとく、空に弾幕による美しい『画』を展開し、そのうえで相手を撃墜するのがこの遊びの醍醐味である。

この「美しさ」というのは個人によって精緻さや芸術性といった個性があるのだが、その個性を濃縮し最大限解放した、いわゆる必殺技にあたるものがスペルカードとここではそう考えてくれれば良い。

 

新しいスペルカードともなれば娯楽の少ない幻想郷ではそこそこのグッドニュースであり、それを1番に見れるなどワクワクとドキドキが止まらない……というのがまぁ大体の参加者の感想だ。

ちなみに戦術の幅の探索にも繋がるので、幻想郷のルールに従わない無法者たちにとって凶報であったりもする。

 

 

そんなこんなで博麗霊夢は結構ワクワクしてるのであり、いそいそと準備を整え始めるのであった。

 

「お前ならそう言う反応だよなー」

 

後方訳知り顔で頷きつつ、忙しなく道具のチェックを行う白黒も大概ではあるが。

 

 

 

結果から言うと、勝負は非常に白熱したものとなった。

どちらも一級の戦場で競い続けたトッププレイヤーみたいなモノだ。どちらも新技だけではなく最終奥義まで引きずり出すほどの激闘だった。

決着はつかなかったがとにかく終わった。

 

……なに? 急展開すぎるし、戦闘シーンが見たかった?

いやいや、それでいい。お楽しみは後に取っておこうでは無いか。

何せ、まだこの物語は始まってすらいない。

チュートリアルにすらたどり着いていない導入の部分なのだから。

 

さて、この勝負、名勝負であったにもかかわらず決着がつかなかったのは相打ちだったからでは無い。

思わぬ邪魔が入ったからだ。

彼女ら自身どころか、この地をその手で管理するもの……いや、もしかしたら神でさえも。

 

 

勝負は白熱していた。

お互いの文字通りの「手札」を弱い順に切っていきいよいよ残すはお互い最強と信ずる1枚のみ。

先に切ったのは霧雨魔理沙。

焦りとワクワクを混ぜ合わせたような顔で、カードを切りその手を前に向ける。

その瞬間、霊夢の視界は隅から隅まで光で埋め尽くされる。

魔理沙のそれはまるで巨大な砲撃だった。レーザーと呼ぶことがはばかられるぐらい極大の、それでいて7色に煌めく極光。

これが彼女の最奥の手であり、最も信頼する切り札。

 

だが、それを見ても霊夢は清水のように冷静であった。

なぜなら彼女も手をひとつ残しており、それこそが彼女にとってどんな手であっても流すことができると信じるものだからだ。

 

博麗霊夢は空を飛ぶ程度の能力である。

字面だけ見ればなるほど常人が空を飛ぶスーパーマンのごとき能力であり、シンプルながらも強いものだという評価に落ち着くだろう。

だがしかし、それだけならこの幻想郷で幅を利かし続けるのは難しいだろう。

つまり真の能力(フレーバーテキスト)はもっと厄介なのだ。長くなるので、ざっとまとめると無敵状態が可能なのである。何やら別次元に浮くことで相手がいる次元の攻撃を全て透かす、みたいな理論らしいが。

 

つまるところそれこそが博麗霊夢の奥の手であり王手であり、

それこそが霧雨魔理沙の焦りの原因なのだ。

 

そしてついに、博麗霊夢はその手札を

 

切る。

 

 

 

 

 

 

 

そして消えた。

 

 

1人残された魔理沙は呟いた。

「……へ?」

 

 

その日、博麗の巫女は幻想郷のどこにもいなくなったのだった。

 

 

__________________

 

 

 

さて、混乱しているのは霧雨魔理沙、ひいては幻想郷の面々だけでは無い。博麗霊夢自身も混乱しているのだった。

混乱しているということは自意識があるということで、少なくとも素粒子レベルで分解してたり、頬をツネって「いったッ!!?」と反応できる正気と体は持ってるということだ。

 

だが、混乱していることからもわかるように実は彼女も今の状況が分かっていない。

いつものように全てから浮き上がり、さて相手の奥義を乗り越えようかと気合を入れた所で『何か』を感じたのだ。

全てから浮き上がる自分に干渉できるものなんて珍しい、とふと意識と手を向けてしまった瞬間、その『何か』にぐいっと引っ張られ景色がぐるりと裏返った。

気づけば、彼女はよく分からない見たことの無いものだらけ(強いて言えば知り合いの店に似たものがあるような……)の部屋で知らない少年と向かい合っていたのだった。

お互いピクリとも動かない。

どちらもまん丸と目を見開きあんぐりと口を開けている。

だが、いつまでもそうしていられない怪物の唸り声のような音と小鳥のミスマッチな声が響き、瞬きを1つ。

 

そうしてようやくとりあえず。

幻想郷の自由な巫女は呟いた。

 

「……へ?」

 

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