どうきゅうせいのおしごと! 作:ゆーき
「師匠からの呼び出しなんて珍しいですね」
月光聖市十七世名人。またの名を『盲目の天才棋士』。日本将棋協会会長であり、いまだバリバリのA級棋士。そんな伝説的な棋士が俺の師匠である。きっかけはありふれたもので師匠と同じ年だった清滝九段からの紹介だ。この事だけは本気でじじいに感謝している。それまでは楽しむ為だけに打っていた俺に本当の将棋を教えてくれた人だ。
「そろそろ弟子をとってもらいたいのです」
「いやですが?」
「長く将棋界に援助いただいている実業家の孫娘です。年齢は9歳。小学四年生」
最近ごく身近に同じような話があったな…
「先方からのご指名です。その子の名前は『夜叉神』天衣。ご理解頂けましたか?」
もうそんなに月日が経つのか…。断われん案件だわ。
「断れないの分かっているでしょう?でも、なんで俺なんですか?八一も資格はあったと思いますが?」
「私の弟子にも少しは将棋界に貢献してもらわなければと思ったのです。それに久々にやる気を出してもいい頃でしょう」
「いつもそれなりに本気ですよ。話を戻しますが、今回の件、承知しました。あとは男鹿ちゃんに確認すればよいですか?」
「男鹿です。詳しくはこちらで説明しますのでどうぞ」
……
「戦刃翔先生でいらっしゃいますか?」
「初めましてですね。戦刃翔です」
「先生のご到着だ!」
黒服サングラスの皆さんに陣太鼓など熱烈な歓迎を受け、庭内を進む。
「……」
「どうかされましたか?」
「いえ。これまで、いささかビビ…戸惑われる方が多かったので…」
「なら、やめたらどうです?」
「伝統と様式美です!」
俺の案内をしてくれる若くてスタイルのいい美人さんは『池田晶』さん。天衣のお付きであり、普段は夜叉神家が経営する会社で働いているらしい。お互い自己紹介をしながら邸内を進み、夜叉と天女の襖の前に案内されるとこの屋敷の主が待っていた。
「お久しぶりです。戦刃先生」
「昔のように『かける』でいいよ。弘天さん」
「そうはいきません。先生は立派にプロとして活躍されている。それに、かわいい孫娘の師匠となられる方だ。どうか先生と呼ばせて下さい。さて、これが孫娘の天衣です」
大きくなった。最後に会ったのは葬儀の時か…。天衣の前には既に将棋盤と駒が準備されている。
「早速指すか。先手後手どっちがいい?」
「平手?」
「不満か?なら落としてもいいが?」
「望むところよ。私から行くわ」
天衣が盤上で描く将棋は綺麗だ。言わば定跡どおり。9歳の女の子が誰も師匠に仰がずに此処まで辿り着いたのだ。十分合格点。序盤はこちらも定跡に沿って駒を進める。だが、お前が受け継いだ将棋はこれではないだろう?俺は天衣が気づかないレベルで徐々に天秤をこちらに傾けていく。そして、中盤。開戦を告げる一手を放つ。するとどうだ。盤上の景色は一変する。
「なっ!いつの間にっっ」
これからが本領発揮だろ?さぁ、俺を楽しませてくれ。
天衣はありったけの持ち駒を打ちつけ、こちらの攻めを受け続ける。悪手?指し間違え?そんなもの咎める気はない。天衣の今のぎりぎり。さらにその先。
「ま……だっ!まだ…私は戦えるっ!」
そうだ。もっと食らいついてこい。それを完璧に制して一手差で勝つからこそ将棋はおもしろい。これが俺の美学(悪癖)だ。対局のほぼ全てが接戦・乱戦となる為、ついた二つ名は『混沌』。俺の揮毫にもなっている。(清滝桂香命名の『ドS』では決してない)
「あ…ありません…」
「ここまでか。さて、お前はこれからいくつかの道を選ぶ事ができる。1つ目は将棋を趣味として楽しむ事。2つ目は女流棋士としてタイトルホルダーを目指す事。3つ目は女性棋士を目指して奨励会に入会する道だ。さぁ?どれを選ぶ?俺はどれでも構わんぞ」
「どれもお断わりよ」
「うん?どういうこった?」
「私は『戦刃翔』を倒す棋士になる。それ以外に選択肢はないわ」
「あ〜〜〜。そりゃ知ってるかぁ〜〜〜。よし、もう一局やろう。まずは身の程を知れ」