思いつきによる短編集   作:イエローケーキ兵器設計局

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2XXX年、世界は核の冬に包まれた。冬を迎えても続いた長い長い核戦争の下で人々は記憶を失い、すっかりこの都市はもう名前を忘れられて久しくなってしまった。これにはもう……哀しい、しか思い浮かばない。



核と、彼女と、キノコ雲と。(仮題)

 灰が降り積もり、放射線測定器(ガイガーカウンター)が喧しいと思うほどには鳴り響き続けている。隣を歩く彼女は自分に積もる灰を一切気にしていない、そう受け取れる。ボクも気にしない。彼女が気にしないのであれば。

 

 アスファルトはもうひび割れてしまって、植物はぺんぺん草一本生えてすらいない。かつてここに移動式の居住区がかつてあったなんて誰が信じるだろうか?今はもう倉庫があった瓦礫と、着底した残骸しか無い。

 彼女以外に生き残りは居ない。皆消えてしまった。炎に焼かれて、自決して、誰かに殺されて……ボクと彼女、2人だけ遺った。別に寂しくはない。彼女が居れば。

 

 武器は拾った。かつて拳銃と呼ばれていたらしい小さな銃と、機関銃と呼ばれていたらしい……大きな銃。持ち主はとうの昔にパートナーと天国に逝ってしまったのだろう。でもなければボクは壊れてしまう。

 

 相互確証……破壊だっけ?どちらかが攻撃をすれば必ず報復し、お互いを殺す、という概念があったのをボクは辛うじて覚えている。思い出すたびに彼女と笑った。私達の関係みたい、なんて。君もボクも裏切ることはなかったし、愛し合っている。今も手を繋いでいるのがその証拠。

 

 

 

 あ、キノコ雲。大きさは……うん、この距離なら大丈夫。焼かれることはない。出ておいで。

 またか、って?そう、まただよ。もう誰も残っていないというのに。自動報復装置(デッドハンド)が撃ち返し続ける限りいつまでも。

 

 さあ、愛しの君よ、そして故郷よ、どこへ行こうか?

 

 

 辛うじて読める錆びた標識には「5km 県庁」と書いてある。ここはボクが生まれ育った場所。彼女が流れ着いた場所。

 この身体になって暑いも寒いも分からなくなってしまった。

 この身体になって彼女をより近くに感じるようになった。

 彼女はボクの初恋だったし、ボクは彼女の初恋だった。意気投合したのは大学生だった頃。教室で隣同士で座ったのがファーストコンタクトだった。清い交際を経て、初夜を迎えて……核戦争が始まった。この世界が滅びるのもそう大して時間はかからなかった。唯一の被爆国なんて肩書も核戦争の前には無力で、総人口の半分以上が一瞬のうちに消えて、いつの間にかみんな消えてしまった。彼女とボクを置いて。

 

 せがまれて接吻をしてみれば甘い香りに灰の味。ファーストキスの味とどっこいどっこいだねと笑う彼女。確かにあの日、ボクは灰まみれだった。実験の片付けで灰を被ってしまったボクに彼女はキスを。驚いたボクに唇同士のキスをして顔を赤らめながら急ぎ足で帰った彼女をボクは覚えている。

 

 思い出話に浸りながら歩けば県庁。いや、県庁だった何か。原型すらない。敷地も炭と灰と、そしてコンクリート片。それでもボクは満足している。彼女がいるから。

 

 コンクリート片を退けて中を探ろうとする彼女は美しかった。いかにも「遺された希望(パンドラ)」が似合う。

 

 死の灰の降りしきるこの遺サレタ場所で、ボク達はまだ生きている。もう死んでいる。生き死んでいる。これまでも、これからも。

 




 遺稿
 これを発見した時、2人寄り添って死んでいるのを見つけた。私は2人を埋めてやった。安らかに眠れ、じゃあな。

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